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Full text of "Akutagawa Rynosuke zensh"

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お 



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1 




り 



4TO LIBRARY 



130 St. Ge ひ, 1 
3th FLOOR 

、つ DO ト JTO ^ 



rc 1 A K 



も, 

お 



Digitized by the Internet Archive 
in 2011 with funding from 
University of Toronto 



http://www.archive.org/details/akutagawarynosuk048800 



^IB 

神神の 微笑 



ト; n さー 一 

セ f 

幸 h5 口 

M 乂 1 セ 

庭 . …:. 二 七 

一 夕 話 一 一一 一 一 



六の 宮の姬 君 

魚河岸 

お 富の 負 操 • 



おぎん : 

,1! 合 …: 

三つの 寶 



猿 蟹合戰 

二人 小町 

おしの 

保吉の 手帳から 

Q 

子供の 病氣 :••• 



お 時 儀 …ニー 1 五一 

ぁばょ v^>^ 三 六 一 

一 塊の 土 三 七 七 

不思議な 島 三 九九 

糸 女 覺ぇ書 四 一 五 

三右衞 門の 罪 四 一一 一 一 

偉 吉の敵 打ち : 四 四 九 

金將軍 四 六 一 

$^^四の夫から 四 六 九 

或戀 愛小說 3^ 七 



文章 四 八 九 

塞 さ 五 〇 五 

S 1 セ 

文 放 古 五 五一 二 

ku 一、 

ぉォ良 • ハ三 

十圓札 五 七 五 



一 白櫸隊 

^111^§-ぺ^^^^?^の乾だった。 ^xixpml. a! 山の 補備應 

を S する i に、 ;<sti の 襲 を i いた。 

i は 纏に すて ゐ たから、 SM もゲ n まに、 & §t のきだった。 その 草 もない き阁 

の f 、 iMilfe ベた m あが、 S まかりお せながら、 まかに 靴を嗚 らし てれく s、 ^ 

15 な靈 あびなかった。 I! に& 養の なぞ は、 この 隊の 先頭に 立った 時から、 別人の や 

フーフ 、- みなお も まか へ ぃぜぃ げんき うしな . > 

うにお あヾ f だ をして ゐる のだった。 が、 f I ひの や 平生の i を 失 はな 力 

少 A- まと だまし ひ ちから ふた - さけ ち 力; I- 

つた。 それ は 一つに は 日本 魂の 力、 二つに は 酒の 力だった 

tit 仏き を ii けた i -、 、i は レ のが" い 山陰から、 風當 りの 强ぃ 河原へ 出た。 

5 しろ み 

「おい、 後 を 見ろ。」 ^ J 

2 きだった と iK ふ, 5 つ 霞 は、 i じ K から!! された、 これ は 大工だった と?、 f 一 



とうそつ はな . 

3 等卒に 話しかけた。 

. 「みんな こっちへ 敬禮 して ゐる ぜ。」 

堀 :!^ 一等卒 は 振り返った。 成 くう ik はれて ^ ると、 Jfi ときり B つた tii のおに は、" お 

はじ なんにん しゃう かう あか そ、 うしろ ーナ, -'^ J '7 L 

始め 何人 かの 將校 たちが、 やや 赤らんだ 法 を 後に、 この 死地に 向 ふ 1 ぽの丄 ^へ、 i^ls^i を 

送って ゐた。 

「どう だ い? 大した もの ぢ やない か? になる の も 名譽. だ な 。」 

「何が 名譽 だ?」 

ほり を いっとうそつ にがに が かた うへ じゅう . ^す 5 

堀 尾 一 等卒は 苦苦し さう に、 肩の 上の 銃 を 被り 上げた。 

「こち とら は みんな 死に 行く の だぜ。 して 見れば あれ は X X XXXXXXXXXX X X さう つて 

J わす あ 力 二と 

一 ム-- の だ こんな 〈. ^上りな 事 はなから うぢ やねえ か?」 

ことい 

I それ はいけ ない。 そんな 事 を 云って は X X X すまない。」 

ゆ 「べらぼうめ! すむ もす まねえ も ある もの か! 酒保の 酒 を 一 合 買 ふので も、 窗 i だけ CJ,st 

^ り はしめ え。」 



- し <T や- 3 ひ こく こと なら ォ 7J て. 

-田 ぐんい 一つ! は, 口ち を!! んだ。 それ は 酒 % さへ 帶び てゐれ ば、 皮肉な 事ば かり 並べたがる、 相^の 

k まりを . 'つとう そつ しつ あう はな つづ 

i こ k れてゐ るから だった。 しかし 湿 尾 一等卒 は、 執拗に まだ 話し 績 けた 

, もったい 

「それ はぎ 『貝 ふと は 一, K はねえ。 やれ X XXX X とか、 やれ X X X X X だと か リ ろん な 勿 Is 

こと うそ ばち き や 5 だい ^ 

をつ け やが る だら う。 だが そんな 事 は 嘘っ八 だ。 な あ、 兄弟.」 さう ちべ ねえ 力?」 

観^い ilflf にかう fk はれた の は、 これ も^じ にゐ た、 小學 校の 敎師 だった と 云 ふ、 おとな 

しいえ 江!^! qiif おだった。 が、 その おとなしい ド ぉぞ この 時 だけ はどう 云ふ訣 か、 与 ふに 嚼 みつ 

きさぅな観1を^^せた。 さう して 酒臭い 相手の 額へ、 惡辣な 返答 を拋 りつけ た。 

^ , や .ノ つ し やくめ 

「^4^11 野郎! おれたち は 死ぬ のが 役目 ぢ やない 力?」 

その 断もう S 辦, ば、 ^^の^う へお つて ゐた。 おきに は^を^ り^めた、 支那 人の 民家が 七 

- ,ク, f やね うへ せキゅ いろ ひだ さ ひ 

ひっそり l^liadl かへ てゐ る、 11 その £^ の 屋根の 上に は. 石油 色に 襞 を なぞった、 t レ 

が fe-i§」 ぞ Si の嶽に つて & える のだった。 i はこの 村 を 離れる と. S 列 側面の 隊形 を 

ぎいた。 のみなら す いづれ も^ た& 幾條 かの 交通路に 腹 這 ひながら、 じりじり リぉ m へ ふ 

こと 

4 事に なった。 • 



も n ろん え ぎじ やうとう へい なか よ ば つづ い I- ゆ ま ^} 、ちが ふか ナ - 1 - 

5 勿論 江 木 上等兵 も、 その 中に g: つ 這 ひ を 綾け て 行った。 「酒保の Ig を 一 合賈 ふので も、 ^醜 だけ 

う い ほ を いっとうそつ ことば どうじ また かれ はら そこ くち かす 

では 资り はしめ え。」 11 さう 云 ふ 堀 尾 一等卒の 言葉 は、 同時に 又 彼の 腹の 底だった" しかし: 3 数 

すくな かれ かんが も いつそう せんいう ことば ちゃう どきす あと 

の 少ぃ彼 は、 ぢっ とその 考へを 持ち こたへ てゐ た。 そわ だけに、 一 戰 友の 言葉 は、 丁度 徽. 奴に 

ふ はら だ かな あた かれ こつ) かう つうろ ナ もの 

でも 觸れ られ たやうな、 腹立たしい 悲しみ を與 へたの だった。 彼 は ゆえついた 交通路 を、 Si の や 

は つづ せんざう い こと かんが し い こと かんが > かし パハ 

うに 這ひ續 けながら、 戰爭と 云 ふ 事を考 へたり、 死と 云 ふ 事を考 へたり した。 が、 さう 云 ふ考へ 

ん がう くわう みやう え し しょせん のろ くわ、. いつ 

から は、 寸毫の 光明 も 得られなかった。 死 は XX XXX にしても、 所^は 呪 ふべき 怪物だった C 

せん さう かれ ほとんど せん さう ざ いあく い き ざ いあく せん さう ノ-ら こ ヒん じ T 

戰爭は —— 彼 は 殆 戰爭 は、 罪惡と 云ふ氣 さへ しなかった。 罪惡 は戰& に比べる と、 倘 人の 情 

ねつれ でき てん 

熱に 根ざして ゐる だけ、 X X X X X X X 出 來る點 があった。 しかし X XXXXXXXXXXXX 

ほ, か かれ かれ かくし だん ん ばつ に せんにん あ J 

外なら なかった。 しかも 彼 は、 11 いや、 彼ば かりで もない。 各師 国から 選拔 された、 二 千人餘 

しろ だすきたい だい いや し 

りの. ca 權隊 は、 その 犬なる XX X にも、 厭で も 死ななければ ならない のだった。 …… 

& & まへ どこ れんたい 

r 來た。 來た。 お前 は 佝處の 聯隊 だ?」 

え ぎじ やうとう へい み たい い つ しょうじ: S ざん ふもと しふが ふち つ そ 1- 

# 江 木 上等兵 は あたり を 見た。 隊は 何時か 松樹 山の 麓の、 第合地 へ^15ぃ てゐるのだった。 其虚に 

S. ふく ふる たす き かぐし だん へい あつ かハ- こふ 

n はもう カァ キイ 服に 古めかしい 櫸を あやどった、 各 師團の 兵が 猿 まって ゐる、 —— 彼に 藤 を か 



けたの も、 さう Tk ふ聽 中の 一人だった。 その 兵 は I ^に 腰 を かけながら、 うつす り 流れ出した 朝 = 

ひかり .4 た ほ ま にきび > 

の 光に、 片頰の 面皰 をつ ぶして ゐた。 

rtL ボ >: 聯隊 だ。」 

r パ ン 聯隊 だな。」 

お! qip! は g い i をした, f と 急の 翻 へなかった。 

ilii かの 零 この 1- か隨 I の^に は、 もう 彼我の 砲 が、 凄まじい 松り を 飛ばせて ゐた。 = 

の に" I えた ぺ §」 ん のお ま、 にも、 ifik おの iiSl は、 |-た びか 黄色い 土煙 を 揚げた。 その 土惮 

の isB る に、 礼 の も、 K だけに、 Y^lfe だった。 しかし ゴゼ M^cfc に 

、 4、 fm- - M * .At ま へ- ダ J > デ/? き ラ しな キた きょう,.; ひし 

は、 かう t ムふ^ 氧 の^に 鮮を 待ちながら、 ゃはり!^^^の元氣を失はなかった。 又 恐怖に. 拽 がれな 

ヒっ で み,, J!U っキ- - いるま まか し やう 二と じ )i つ 

い ハ:! に は、 出來る だけ 陽 氣に脸 舞 ふル、 仕樣の ない 事 も事實 だった 

「べらぼうに 擊 ちゃが るな。」 

« ぎ Yis^ は liS を^ ゼ げた。 その 掀 に^い f び が、 もう L 一 度頭ムのぎ^1-を^ いた。 彼 は m.^ 

< ぶ なまこり ヒ VI- V- め ハンカチ よな お i た ぐちい つとう そつ 二幺 

6 ます 首を縮めながら、 l^iK の 立つ の を 避ける 爲か、 手 巾に 鼻を掩 つて ゐた、 W 口 一等卒に 聲をか 



5iq が 



7 



けた。 

いえ にじ ふはつ サン チ 

「今の は 一 一十 八珊だ ぜ。」 

,c ぐ4^;-っと_っそゾ わら み あ ひて & ハン カゴ 

田 口 一等卒 は 笑って 見せた。 さう して 相手が 氣 のっかない やうに、 そっと. ホケットへ 乎 巾 を を 

かれ しゅっせい とき な ヒみ げいしゃ もら Av ふち ぬひ ハンカチ 

さめた。 それ は 彼が 出征す る 時、 馴染の 藝 者に 貰って 來た、 緣に 纏の ある 手 巾だった。 

おと ちが にじ ふはつ サン チ 

「昔が 遠 ふな、 - 一十 八 綱 は。 11 」 

だ ぐち: つとう そつ ノ らうば い し せい ただ どうじ ^ほぜい へい 二 ゑ だ i.,"; 

田 口 一等卒 はかう 云 ふと、 狼狠 したやう に 姿勢 を 正した。 時に 大勢の 兵た ち も、 驚の ない 號 

xl 1 つぎ つぎ た なほ はじ とき かれに あ ひだ ぐんしれ いくわん 

八 ルじも かかった やうに、 次から 次へ と 立ち直り 始めた。 それ はこの 時 彼等の 間へ、 軍司令官のお 

しゃう ぐん なんにん ば, おう したが げんぜん ある き 

將 軍が、 何人 かの 幕僚 を從 へながら、 嚴 然と 歩いて 來 たからだった。 

「こら、 騷 いで はいかん。 騷ぐ ではない。」 

しゃう ぐん ぢんち み わた V」 び こ ,>5 つた 

將軍は 陣地 を 見渡しながら、 やや 鍺の ある 聲を 傅へ た。 

「かう ふ 狹^ な 所 だから、 敬 M も 何もせ なくと も 好い。 お前 達 は 何 聯隊の 白櫸隊 ちゃ?」 

だ ぐち、, つとう そつ, し. C. うぐん め かれ かほ そそ かん め ほとんど しょお よ > 

田 口 一 等 卒は將 軍の 眼が、 彼の 顏へぢ つと 注がれる の を 感じた。 その 眼 は 殆 處 女の やうに、 

を はに 力ませる のに 足る ものだった。 



「はい。 步 Vif (第 X 聯、 I であります。」 

お ほげんき 

「さう か。 大元氣 にやって くれ。」 

^?^^のぞ を 観った。 それから 獬麼 Tifil- へ、 じろ りと その 服を轉 すると、 やはり 右 乎 を さ 

つ メちど おな こと くり かへ 

し 仲べ ながら、 もう 一度 同じ 事 を 繰返した 

まへ お ほげんき _ 2 , 

「お前 も 大元氣 にやって くれ」 

かう ils れた^ は、 お射の 跪 断が i ぬした やうに、 哲^?^ まの 姿勢に なった。 幅の 廣 

い 11、 II きな で 蠅!^ の 敲ぃ繼 ら範。 11 さう せ ふ «の1 お ii、 ^ひと もこの 老將 軍に は、 布阈 

んの ぎぎん らしい、 へた^ だった。 soni そ 其き. に f ち. がまった ぎ 熱心に なほ 話し 

つ > つ 

繽 けた。 , 

「お つて ゐる Ml す あるな。 1% ぉ撤 たち は あの &敷 を、 こっちの 物にして しま ふの ぢゃ。 さ 

うする とぎぎ, は、 お またち の^った から、 あの 界隈の 砲臺を みんな 手に^れ てし まふの ぢゃ 

1 でも にあの ぎ * へ、 飛びつ く 心に ならなければ いかん。 II 」 

8 さう Jk ふ m に^ ilfe に は、 ^1 か 崎 ii な、 感激の 調子が は ひって 來た。 



よ けつ とちうた ど しゃげき ごしゃく か。 だ はう だん おも 

9 「好い か? 決して 途中に 立ち止まって、 射擊 なぞ をす るぢ やない ぞ。 五 尺の 體を砲 it だと 忍つ 

て、 いきなり あれへ 飛び こむ のぢ や、 頓ん だぞ。 どうか、 しっかり やってくれ。」 

しゃう ぐん い み つた ほり を いっとうそつ て に; そ とほ す 

將軍は 「しっかり」 の 意味 を傳 へる やうに、 堀 尾 一等卒の 乎 を 握った。 さう して 共處を 通り過ぎ 

た. レ 

「嬉しく もね えな。 —— 」 

ほり を いっとうそつ かう くわつ しゃう ぐん あと み おく た ぐちい つとう そつ め くば 

堀 尾 一等卒 は狡搰 さう に、 將 軍の 跡 を 見送りながら、 £ 口 一等卒へ 目 交せ をした。 

ぢぃ て にぎ 

「え、 おい。 あんな 爺さんに 手 を 握られた のぢ や。」 

た ぐちい つとう そつ く せう み い わけ ほり を いっとうそつ こころ うち なに す 

田 口 一 等卒は 苦笑した。 それ を 見る とどう 云ふ訣 か、 鍋 尾 一 等卒の 心の中に は、 何 かに 濟 まな 

今 おこ どうじ あ ひて /、 せう つ. f にく こころ そ こ え ぎ L やうとう へい 

ぃ氣が 起った。 と 同時に 相手の 苦笑が、 面憎い やうな 心 もちに もな つた C 其 處へ江 木 上等 五; が、 

とつぜんよ こ あ こ-^ 

突然 横 合 ひから 聲を かけた。 

あくしゅ • 

「どうだい、 握 乎で X XXX の は?」 

ひとま ね 

. 「いけね え。 いけね え。 人眞似 をし ちゃ c」 

IHL こんど ほり を いっとうそつ く せ-つ 

耳 今度 は 堀 尾 一 等卒 が、 苦笑せ すに は ゐられ なかった。 



10 



rx X れ ると 思 ふから 腹が立つ の だ。 おれ は 捨てて やる と E 心って ゐ る. し」 

え , ぎ, ^やうとう へい い た ぐちい つとう そつ くち だ 

江 木 上等兵が かう 云 ふと、 田 口 一 等卒も 口を出した。 

「さう だ.」 みんな 御 國の爲 に 捨てる^ だ。」 

「おれ は 何の 爲 だか 知らないが、 唯 捨てて やる つもりな の だ。 X X X X X X X でも {!: けられて 见 

ろ。 何でも 持って行 けと ふ氣 になる だら う。」 

え ぎじ やうとう へい ま ゆ あ ひだ 5 すぐら 二う ふん うつ) 

江 木 上等兵の 眉の ii に は、 簿 暗い 興奮が 動いて ゐた。 

ナ, やう ど --こ 一つ だ, - う た う ぶ〃 ね -I あ い 

「丁度 あんな 心 もちだ。 强盜は 金 さへ 卷き 上げれば、 X X X X X X X 云 ひ はしまい。 が、 おれた 

みちし し 

ち は どっち 道 死ぬ の だ。 XXXXXXXXXXXXXXXXXXXX X たの だ。 ど-つせ 死なす 

き れい はう い 

にす まない のなら、 綺麗に X X X やった 方が 好 いぢ やない か?」 

い ことば ュ:: 6^. し はき き ほり を いっとうそつ め なか をん 

かう 云 ふ 葉 を 問いて ゐる, 2: に、 まだ 酒氣が 消えて ゐ ない、 堀 尾 一等卒 の^の 中には、 この 溫 

こう せんいう たい ぶ べつ ひかり く は き なん い ちす . ,... らゐ .. ^れ ないしん おも 

厚な 戰 友に 對寸 る、 侮蔑の 光が 加 はって 來た。 「何 だ、 命 を 捨てる 位?」 —— 彼 は .2: 心さう 忍 ひな 

そら め こんや じんご お しゃう ぐん あくしゅ む/、 ため にくだん 

がら、 うっとり .:^; へ 服 を あげた。 さう して 今夜 は 人後に 落ちす、 將 軍の 握 乎に 報いる 爲ノ 肉彈に 

けっしん 

ならう と 決、. :3 した C …… 



よ .H ちじ なく リん す しゅて きだん あた え ざ じ やうとう へい ぜんしん くろこげ ま A< しょうじ 、い ざ,;: ん ぶ,、 

1 その夜の^^時何分か過ぎ、 手 擲彈に 巾った 江 木 上等兵 は、 全身 黑焦 になった 儘、 松樹 山の 山リぱ 

た, や そ こ しろ だすき へい ひとり なに き ぎ さけ てつで うまう なか はし ふ) 

に 倒れて ゐた。 其處へ 白櫸の 兵が 一 人、 何 か 切れ切れに 叫びながら、 鐵條 網の 屮を 走って 來た。 

せし、 う しが 一 み むね かたあし はや とつぜんお ほごる; わら だ お ほご ム 

彼は戰^^の屍骸を見ると、 その 胸に 片足 かける が 早い か、 突然 大 is- に 笑 ひ 出した。 大餘 に、 11 

b J 1 うせう こ ゑ ま げ てきみ かた じゅうく わ なか き み わる はんき やう よ おこ 

» おその 哄笑の 聲は、 Si しい 敵 味方の 銃火の 中に、 氣 味の 惡ぃ 反響 を 喚び 起した。 

ん マ- につ £ん まぐ? い あくま かう ふ,、 をん てきたいさん だい れんたいばん- !.」 い ばん い ぱんぱん"! 

「^s^ 威! 日本 萬歲! 惡魔 降伏。 怨敵 退散。 第 X 聯隊 萬 歳! 萬 歳! 萬 萬 歳!」 

^,1 かっし 1 ゆう ふん かれめ まへ ^i. やぶ し はてき だん ばくはつ とん ぢ やく つ-つ 

彼は片 乎に 鋭 を报り 振り、 彼の 目の前に 闇 を 破った、 乎擲彈 の爆發 にも 頓着せ す、 絞け ざまに 

ど- ダ. J ひかり す み とうぶ じゅうざう ため とつげき V,- いちう はつ キ」 やう 

か-つ して ゐた。 その 光に 透かして 見れば、 これ は 頭部 銃創 のん: に、 突 擊のは 取 屮發; ^したら し 

ほり を いっとうそつ ひと 

い、 一 等卒 その 人だった。 

め,, お V,. ん L ふよち ねん んぐ わつ いっか ご ぜん たう じ ぜんしょう しふ ちう とん き へいりよ だん V. ん. う すズら I れん 

明治 三十 八 年 三月 五日の 午前、 當時 全勝 築に 駐屯して ゐた、 A 騎兵 旅 團の參 謀 は -鴻ー 1^ い 司ん リ 

ぶ いっしつ ふたり し な し, < i しら ん かれら かんて ふ けんぎ ため りんじ りょだん く は ) 

部の 一室に、 二人の 支那 人 を 取り調べて 居た。 彼等 は 間牒の 嫌疑の 爲、 臨時 この 放 鬧に加 はって 

だ,.. れス たい ほ せう ひとり い. a がた とら き > 

^ ゐた、 第 X 聯隊の 歩哨の 一人に、 今し方 捉 へられて 來 たのだった。 



むね しないへ なか もちろんけ ふ かん くわ き こころよ あたたか ただよ もの 

この 楝の 低い 支那 家の 中には、 勿論 今日 も坎の 火つ 氣が、 快い 溫 み を 漂 はせ てゐ た。 が、 物 

* かな せん-., う くう キ 1 しきが はら ふ はくしゃ おと たく うへ ぬ ぐ わいた う いろ いた ところ . ^"つか 

悲しい 戰宰の 签氣 は、 敷 瓦に 觸れる 拍車の 音に も、 卓の 上に 脫 いだ 外^の 色に も、 至る所に 窺 は 

こと べにた うし れん は まこり く しらかべ うへ そくはつ ゆ げいしゃ しゃしん 

れ るので あった。 殊に 紅 唐紙の 聯を 貼った、 埃 臭い 白壁の 上に、 is- 髮に 紡った 藝 者の 寫 質が、 ち 

び やう と こっけい ひ ざん 

やん と鎮で 止めて あるの は、 滑稽 でも あれば 悲慘 でも あ つ た。 

そ こ りょだん さん^う ほか ふくく わん ひとり つうやく ひ A- り ふたり しな じんか こ しな じん 

其 處には 旅團參 謀の 外に も、 副官が 一 人、 通譯が 一 人、 一 一人の 支那 人 を 園んで ゐた。 支那 人 は 

つうやく しつもん ど ほ なん めい,?^ う へんじ としか^ かほ みじか ひげ をと: 

通譯の 質問 通り、 何でも 明^に 返事 をした。 のみなら す やや 年嵩ら しい、 額に 短い 平? の ある sf- は、 

つ. T やく たづ こと すす せつめい ふう た ふべん さんま 5 こ-: ろ めいわう 

通譯 がま だ 尋ねない 事 さへ、 - 進んで 說明 する 風が あった。 が、 その 答 辯は參 謀の 心に、 明瞭なら 

めいれう いっそう かれら かんて ふ はんかん に あた 

ば 明瞭な だけ、 一服 彼等 を間牒 にしたい、 反感に 似た もの を與 へる らしかった" 

「おい 歩兵!」 

りょだん さんばう はな ご么 し な じん とら き と ぐち ほ せう よ ほへい 

旅 » 參謀 は鼻聲 に、 この 支那 人を捉 へて 來た、 戶 口に ゐる 歩- 咐を 喚び かけた。 步兵、 11 それ 

し,;: だ- U-WJ くよ た ぐ チ-" いっとうそつ まか へ- れ と tr/: じ がう し つし. <- げいしゃ 

は 白 櫸隊に 加 はって ゐた、 田 口 一等卒に 外なら なかった.〕 ——— 彼 は戶の Fbl 字 格子 を 後に、 藝 おの 

しゃしん め さん ほう こ么 おどろ おも & お ほ 二た へ 

寫眞へ e: を やって ゐ たが、 參 謀の 聲に 驚かされ ると、 思 ひ 切り 大きい 答 をした" 

「はい。」 



車將 



13 



.J へ つか • つ か とき 

「お前 だな, こいつら を摑 まへ たの は? 摑ま へた 時 どんなだった か?」 

ひと い た ぐちい つとう そつ らう どくて き だ 

人の 好い 田 口 一 等卒 は、 朗讀 的に しゃべり 出した。 

わたくし ま せう た むら ど ベい ほくたん ほうてん つう か、 だう し な 

r 私 が 步哨に 立って ゐ たの は、 この 村の 土 街の 北端、 奉 天に 通す る 街道で ありま 寸。 その 支那 

じん ふたり ほうてん はう かう ある き き うへ ちう /- いちや-つ 

人 は 二人とも、 奉 天の 方向から 步 いて 來 ました" すると 木の 上の 中隊長が、 11 」 

な こ 々- うへ ちう た い. i つやう 

「何、 木の 上の 中隊長?」 ♦ 

さんぽう ま ぶた あ 

參謀 はちよ い と 目 莕を舉 げた。 

+r うたいち やう てんばう ため き うへ のぼ ちろ たい やう き うへ 

「はい。 中隊長 は 展望の 爲、 木の 上に 登って ゐられ たのであります。 11 その 中隊長が 木の 上 か 

ら、 摑 まへ ろと 私に 命令され ました。」 

ところ わたくし とら をと こ ひげ をと こ をと こ 

「所が 私 が捉 へようと すると、 そちらの 男が、 —— はい。 その 髯 のない 男であります。 その 

が < に 逃げようと しました。 」 

「それだけ か?」 

「はい。 それだけであります。」 

「よし。」 



りょだん V, ん ぼう ち ぶと かほ た せ-つ し ンぽ- つ うか つうやく しつ も メ:" . つつ や,、 た ゾリ ら.: : よ 

旅 團參謀 は 血 肥りの 額に、 多少の 失望 を 浮べた 儘、 通譯に 質問の 意 を 傅へ た。 通譯は 退: S を 露 

さない 爲、 わざと 聲に 力を入れた。 

「間 牒 でなければ 何故 逃げた か?」 

に たう. ぜん なに にほんへ い や r ど 

「それ は 逃げる のが 當然 です。 何しろい きなり 日本 兵が、 躍り かかって きたので すから。」 

ひとり しな じん あへん ちう どく かか な. Th りい ろ ひ ふ をヒニ Jl- ひ. 

もう 一人の 支那 人、 —— ^片の 中毒に 罹って ゐる らしい、 鉈 色の 皮膚 をした Ef- は、 少しも 怯ま 

すに 返答した。 

まへ と-は き いま せん ぢ やう かいだう りゃうなん よつ 

「しかしお 前た ちが 通って 來 たの は、 今にも 戰 場になる 街道 ぢゃ たいか? 良:^ ならば 川 もたい 

の に、 一 

し な ご で き ふくく わん けっしょく わる し な じん かほ -ぢ わる 6 お,. 

支那 語の 出來る 副官 は、 血色の 惡ぃ 支那 人の 額へ、 ちらりと 意地の 惡ぃ眼 を 送った" • 

よう いま i を あ とほ わたくし しんみん とん しへ. - と か で 

「いや、 用 は あるので す。 今 も 申し上げた 通り、 私たち は 新 尺 屯へ、 紙 を 取り 換 へに 屮 Z かけて 

來 たのです。 御覽 下さい。 此處に 紙幣 もあります。」 • 

ひば をと こ へいぜん しゃ, つかう かほ な:,^ まよ i-- ん tfr- よな な .A れ ,•: ノ, ん 

髯の ある 男 は 平然と、 將校 たちの 戴 を 眺め 廻した。 參謀 はちよ いと 鼻 を 鳴らした。 彼 は gi 官 Q 

ないしんい き み おも 

たじろい だのが、 內心 好い 氣 味に 思 はれた の だ。 …… 



5 「紙幣 を 取り 換 へる? ハ叩 がけで か?」 

ふくく わん まけ を し .S いせ づ ' : D , 

副官 は負惜 みの 冷笑 を 洩らした 

と かくは だか み フ 

「鬼に 角 裸に して 見よう」 . 

r zyj う 一二 SH つ I つ Ji- ノ、 ハ 丄1 ら わる 》* つ ュス、 え., つ ひだ 力 ス 

參 謙の 言 が通譯 される と、 彼等 はや はり 惡 びれ すに、 早速 赤裸に なって 見せた- 

「まだ 腹卷 をして ゐるぢ やない か? それ を こっち へ とって 見せろ。」 

K ,が i,i」 を? 又け とる 時、 その 白木 锦に 體溫の あるの が、 柯 だか 不潔に 感じられた。 股お =1 の 巾 

y ) と より りょだんさん!^^ぅ ま ど あか なんど はり 丄、 r 

に は 一 Vj ボ ばかりの、 4< い 針が は ひって ゐた。 旅 團參謀 は 窓明りに、 何度も その 針 を 檢ぺて 兄た 

ら あ. 二. *i V-.- ノ、」 も や I つ ほ なに 力 は と ニダ 

が、 それ もぞ たい 頭に、 椒 花の 模様が ついて ゐる 外、 何も 變 つた 所はなかった。 

「何 か、 これ は?」 

r 私 は滅醫 です。」 

-^げ をと こ いう ザ- ん V. ん ぼう とひ こた 

^の ある 男 はためら はすに、 悠然と 參 謀の 問に 答へ た。 

ゆ 「次 手に 靴も脫 いで 見ろ。」 

軍 は ほお ど き^に、 べき 爬 i^i さう とせす、 ^おのま^ を^め てゐ た」 が、 ズボン やに 



ぎ も i- ろん くつ くっした しら み しょうこ しな み あた ,つ、 くつ こ丄 み 

着 は,〃 論 靴 や 靴下 を檢 ベて 見ても、 證據 になる 品 は 見當ら なかった。 この 上 は 靴 を- i して::^ る 

ほか おも ふくく わん さんぼう むね はな 

より 外 はない。 —— さう つた 副官 は、 參 謀に その 皆 を 話さう とした。 

ときと つ ザん つぎ へ や ぐんしれ いくわん せんとう ぐんし れ、. ぶ ばく. e う りよ だぐ もやう .Jh 

その 時 突然 次の 部屋から、 軍司令官 を 先頭に、 軍司令部の 幕僚 や、 旅團 長な どが は ひって 來たリ 

しゃう ぐん くくわん ぐんさん 一 う ちゃう どなに う あは た; P りょだん +i 'や,. リ たづ キ, 

將軍は 副官 ゃ軍參 謀と、 丁度 何 かの 打ち合せの 爲、 旅 圑長を 尋ねて 來てゐ たのだった-り 

ろ たん 

「露 探 か?」 

^ 力つ L - -It ほ、 化, P じん If- へ あし と かれら はだかす がた る ど め そそ 

將軍 はかう 尋ねた^、 支那 人の 前に 足 を 止めた。 さう して 彼等の 裸 姿へ、 ぢ つと 鋭 い^を 注い 

J す;; あ,^ ァ-パ >リ 力 じん いうめ い しゃう ぐん め と-, ろ ぶ ゑんり よ 

だ" 後に 或亞米 qi.- 加 人が、 この 有名な 將 軍の 服に は、 Monomania じみた 所が あると、 無遠慮な 

ひひ やう くだ こと め 。ろ 二と 、ぱぁ ひ V, \ わる 

批許を 下した 事が ある。 —— その モノ メニ アツ クな 眼の 色が、 殊に かう 云 ふ 場合に は、 (湫 味の惡 

かがや く は 

い 輝き を 加へ るの だった。 

りょだんさん:.? つ しゃう ぐん ヒ けん てんまつ はな しゃう ぐん おも だ と.? どず ot- つ V 

旅團參 謀は將 軍に、 ざっと 事件の 顚末を 話した レ が、 將軍は 思 ひ 出した やうに、 晚晚 額いて::: ん 

せる ばかりだった。 - 

う、 : ゝ .H くじ やう まか 

「この 上 はもう ぶん 擲 つてで も、 白狀 させる 外 はない のです が、 —— 」 • 

さん^う い と キー しゃう ぐん ち • つ も て ゆか うへ しなぐ つ ゆび、 

參謀 がかう 云 ひかけ た 時、 將軍は 地圖を 持った 手に、 床の 上に ある 支那 靴 を 指した レ 



7 「あの 靴 を 壊して 見 給 



ハ L 



ぬ 



靴 は兑る 見る 底 を まくられた。 すると 其 處に終 ひこ まれた、 rali-^ の ill と^ SHi^ 難が、 

ばらばらと 床の 上に 落ちた。 一一 人の 支那 人 は それ を 見る と、 さすがに 鍵の, g を;^ ザて しまった。 

お たま ま がう じ やう しキ が. H ら み 

か、 やはり 押し 默 つた 儘、 剛情に 敷 瓦 を 見つめて ゐた。 

「そんな 事 だら うと 思って ゐ た。」 

し. やう ぐん りょだんす-やう かへ り とくい び せう もら 

將軍は 旅 團長を ® みながら. 得意 さう に 微笑 を;^ した。 

「しかし 靴と は乂考 へた ものです ね。 ! おい、 もぅその^^5には|^|を|5せてゃれ。 11, しん 

な 問^ は 始めて です。」 , 

「軍司令官 閣下の, 眼に は 驚きました。」 

旅 a 一 rw- せ は旅團 長へ、 間 牒の證 據品を 渡しながら、 lii の, い!! を^せ た。 ,1 gifc こ? 2 

I しゃう ぐん かれ じ しん ざき こと つ 十 

をつ: C たの は 將 革よりも 彼 自身が、 先だった 事 も 忘れた やうに。 

「だが 裸に しても ない とすれば、 靴より 外に i. せな いぢ やない か?」 

しゃう ぐん じ やう 今 デん 

將軍 はま だ 上機嫌だった。 



「わし はすぐ に 靴と 睨んだ。」 . 

「どうも こ あ 3§i いけません。 きが へまた f も、 in の 丸の 旗 を S したです が、 その 

の^を 概べ て^れば、 お^^ 西 の 旗 を 持って ゐ るので す。」 . 

りょだん ちゃう なに う- 5 ノ r - : 

旅 團長も 何 か泞き 浮きして ゐた 

かんね いじ やち 、 - 、o , 

「つまり 奸 佞邪智 なのち やね 」 

「さう です C 煮ても 燒 いても 食へ ない のです。」 

こんな 髮が i いて ゐる m、 isi はま だ 襲と、 一 1;< の 支那 人を檢 ベて ゐた。 それが き 

一つ If おへ、 嫌まん の. き を^け る. と、 きき 1! す やうに かう 命じた。 

「ぉぃ«^! この 1 はお まがき まへ てぎ の だから、 まに お前が 殺して 來 い。」 

tA- ぎ g、 mQiiQi ばた に は、 この 一 1:< の 从が、 お ビ辮髮 を 結ばれた 俊、 枯柳の 根 

がた に 坐って ゐた。 , ぶう I としし,, も-にろ 

&^rfif 誕"っけると、 ま づ觀を i き I した。 それから il へた 俊、 年下の. -の後 

^ にぎた。 が、 gl? 霞す まに、 ,と fK ふまけ は吿 げたいと 思った。 



彼 はさう tk つ て 見た が、 「殺す」 と 〔ム ふ 支那 語 を 知らな か つ た。 

r 储、 殺す ぞ!」 

二人の 支那 人 は 云 ひ 合せた やうに、 じろ りと 彼 を;.^ り 返った。 しかし 驚いた け は ひも 兑せ す、 

べつべつ はう がく なんど ニづ とう つ-つ だ こき やう わか つ 人- ぐち、 つとう 

それぎ り 训训の 方角へ、 何度も 叩頭 を繽け 出した 。「故 鄕へ 別れ を 告げて ゐ るの だ。」 11 出口 J 等 

♦V つ みか i I 一う 七1 つ かいしゃく 

卒は身 構へ ながら、 かう その 叩頭 を解釋 した。 

-ー うとう ひとと ほ す かれら . かくご れいぜん くび C ば た ぐす-いつ. てう 

叩頭が 一 通り 濟ん でし まふと、 彼等 は覺悟 をき めた やうに、 冷然と 首 を さし 仲した。 ma 一 等 

卒は銃 を かざし.; r が、 神妙な 彼等 を 見る と、 どうしても 敍劍, が 突き刺せなかった。 

ニイ 二ろ 

「髒、 殺す ぞ!」 

彼 はやむ を 得す 繰返した。 すると そこへ 村の 方から、 馬 に 跨った 騎兵が 一人、 蹄に 砂 、を卷 き 

揚げて 來た。 

「歩兵!」 

騎兵 は 11 近づいた の を 見れば 曹長だった。 それが 二人の 支那 人 を 見る と、 の ルみを 緩めな 



がう ぜん かれ こ. 

がら、 傲然と 彼に 聲を かけた C 

ろたん ろたん ひとり き 

「露 探 か? m 探 だら う。 おれに も、 一人 斬らせて くれ。」 

た ぐ 4« 'いっとうそつ く せう 

田 口 一 等卒は 苦笑した。 

「何 * 一 一人と も 上げます。」 

きまへ い 

「さう か? それ は氣 前が 好い な。」 

き へい , み る 5i お し な じん うしろ こし に ほんた う ぬ はな とき 

騎兵 は 身 輕に馬 を 下りた。 さう して 支那 人の 後に ま はると、 腰の 日本刀 を 抜き放した。 その 時 

ま.,: むら はう いざ ま ばてい ひびき とも さんにん しゃう かう +£• か き きへい とんち や,、 

叉 村の 方から. f% しい 馬蹄の 響と 共に、 三人の 將 校が 近づいて 來た。 騎兵 は それに 頓着せ す、 ま 

かう ,こ ラ ふ あ たう おろ うち さんにん しゃう かう いうい う かれら そば とほ 

つ 向に 刀 を 振り上げた。 が、 まだ その 刀 を 下さない 內に、 三人の 將校は 悠悠と、 彼等の 側へ 通り 

ぐんしれ いくわん き へい た ぐちい つとう そつ いつ にじ やう しゃう ぐん み あ ただ キ; よし ゆ 

かかった" 軍司令官! 騎兵 は 田 口 一 等卒と 一 しょに、 馬上の 將軍を 見上げながら、 正しい 擧乎 

の禮 をした。 

「露 探 だな。」 

しゃう ぐん め いっしゅんかん ひかり かがや > 

將 軍の 眼に は 一瞬 問、 モノ メ ユアの 光が 輝いた。 

2 「斬れ! 斬れ!」 



き へい ごん か たう ひとうち わか しな じん き しな ヒん あたま を ど .f れ やな (さ ね 

1 騎兵 は 言下に 刀 を かざす と、 一打に 若い 支那 人 を 斬った。 支那 人の 頭 は 躍る やうに、 粘 柳の 根 

2 

ころ お ナ.' み み き つち- お ま はんてん ひろ だ 

もとに 轉げ 落ちた。 血 は 見る見る 黄ばんだ 土に、 大きい 斑點 を擴げ 出した。 

み ごと 

「よし。 兑事 だ。」 

しゃ. T ぐん ゆく わい うたづ うま あゆ い 

將軍は 愉快 さう に 額きながら、 それなり 馬 を 歩ませて 行った。 

き へい しゃう ぐん み おく ち そ たう ひつ さ ilH ひ > ;リ し な ヒス うしろ た た、 ど 

騎兵 は 將軍を 見送る と、 血に 染んだ 刀 を 提げた 儘、 もう 一人の 支那 人の 後に 立った。 その 態度 

しゃう ぐんい じ やう さつりく "i; ろ こ け しき ころ た ぐち 1 つと-つ i-J, 

は將軍 以上に、 殺戮 を 喜ぶ 氣色 があった。 「この XXX らば おれに も 殺せる。」 — 田 口 一 g ト 「卒 はさ 

おも かれ やな. W ね こし おろ きへい またたう ふ あ ひげ し な しん 

う 思 ひながら、 枯柳の 根 もとに 腰 を 下した。 騎兵 は 又 刀 を^り 上げた。 が、 平 はの ある 支那 人 は、 

もくねん くび の まつげ ひと うご 

默 然と 首 を 仲ば したぎり、 随毛 一 つ 動かさなかった。 …… 

しゃう ぐん したが ぐんさん ぼう ひとり ほ * つみち うさ く、 に うへ しゅんかん くわう や なが 、 とま 

將 軍に 從 つた 軍參 謀の 一 人、 11 德 積 中佐 は 鞍の 上に、 春寒の 曠野 を 眺めて:;;: つた。 が、 逢い 

かれ 二 だ (- みち ん-ふ せきかん たう す-' うさ め うつ "お あた i いす-じ あいどく 

枯木 立 や、 路ば たに 倒れた 石敢當 も、 屮 佐の 眼に は 映らなかった。 それ は 彼の 頭に は、 一時 愛讀 

二とば た ただよ < 

した スク ンダァ ル の 言葉が、 絶えす 漂って 來 るから だった。 

ォたし くんし やう うづ ま にんげん み ,、ん しゃう て い くら ゐ こと 

^ 「私 は勳 章に 埋 つた 人間 を 見る と、 あれ だけの 勳章を 手に入れ るに は、 どの位 X X な jET ばかりし 

將 

.J たか、 それが 氣 になって 仕方がない。 …… 」 



n ふと &が つけば の £f は、 すっとに、 ^ 、に; i れてゐ た。 中佐 は 輕ぃ身 震 をす ると、 すぐに- 

を i がせ f た。 P 鍵り r たき £Ir 鍵の ぎきら めかせながら。 

三 陣中の 芝居 , 

せ SJS^J^mi^sI の^ &、 に^ ザて ゐた、 lIXKJ^lt では、 yi に 招魂 祭 をれ 

つた, ^辦の ili 龢ビ艇 になった。 Islli^ 蒙の に" おい、 野天の 戲臺 を應^ した, ^ 

-.1 への i» の 徹に、 k ま を i り li,- たに』 ^ ぎなかった。 が、 その 席 敷の 會 場に は、 もう 一時の 定 

- -- . ラ-ぎ f じ i ラナん さ へいそつ むれ ほとんどかん 

si に、 1<ほ^の^^が|^ってゐた。 この 薄 K ぃカァ キイ 服に、 銑き を T げた 兵卒の 群 は、 ひん ^ 

と 1- ぶの さへ も、 ぎ E^lt を li させる |-、 みじめな 看 あに 違 ひなかった。 が、 それだけ 乂彼 

%- の § ビ、 I? れ 晴れした 微笑が 漂って ゐ るの は、 1 潛 可憐な 氣 がする のだった。 

: ヽ, ■ : ノ. -,. ;ぅ、 う ぐ わ- - 二く じゅうぐ ぐぶ くわん うしろ こ だか と ち 

Si ビ 11 め ia&^ii や、 のず^た ち は、 外^の 從軍武 宵た ちと、 その後の 小高い 土地 

- ら こ I- さん^う けんしゃう ふくく わん ん しけ.\: ; み., 、*-」-- 9 tY "ひ 

に、 すらりと 椅!^ を 並べて ゐ た。 此處に は參謀 肩章 だの、 副官の 櫸 だの 力 見える たけても 一般 

- :u l-A- >厶- 1 こく じ < ^う ぶく わん ぐ 二つ な たか ひとり 、 

^ お^の ffillll より、 11 かにお, が 1$ やかだった。 殊に 外 酔の 從軍 武官 は、 愚物の 名の 髙ぃ 一 人で 



づ さへ も、 この 花やか さを扶 ける 爲に は、 軍司令官 以上の 效果 があった。 

し;^ぅぐん ナ ふ じ やうき げん なに ふくく わん ひとり はな ときどきばん- け ぽ み J ゝ 

將軍は 今日 も 上機嫌だった .レ 何 か 副官の 一 人と 話しながら 時時 番付 を 開いて 兑てゐ る 11 

! P しじゅう につく わう ひとな つ び 卄-ぅ うか 

その 服に も 始終 日 光の やうに、 人懷 こ い 微笑が 浮んで ゐた e 

うち ていこく ちじ さくら はな ひ で あは て- ぎ、 は い, t:、、 う、 し,. 力 ,、 ^^.^ - -,, 

その 內に 定刻の 一 時に なった。 櫻の 花や 日の出 をと り 合せた、 ザ 際の 奵 い?:^ の 後で は , ^度 力 

な わる ひやう しぎ ひび おも まく はきょうが、 かり せう-^ r - I つ -, 、 ril 、 - 

鳴りの 悪い 拍子木が 響いた。 と 思 ふと その 幕 は、 餘興 摘の 少尉の 手に するすると 一力へ rb 力れ 

て 行った。 

ぶ た- こ ほん しつ. M" こめや みせ い こと いちぐう つ こめ だはら. - .f. つ- t=〕 ん.^ ゝ 

舞 真 I は 本の 窒內 だった。 それが 米屋の 店 だと 云 ふ 事 は、 一隅に 積まれた 米 依が、 力に!^ 矛 

あ,: そ こ まへ だれが こめや しゅじん なべ なべ て. づ ;、 ts じ しビん 

を ま 〈へて ゐた。 其處へ 前垂 掛けの 来屋の 主人が、 「お 鍋 や、 お 鍋 や」 と 手 を 打ちながら 彼 自身よ 

せ に-か いて ふ が: げぢよ „^ だ き すぢ はな た, 、、いち. ぢ f:.,r 

り も赞の 高い、 銀杏 返しの 下女 を 呼び出して 來た。 それから、 11 筋 は 話す にも 足りない 一 

の 俄が 始まった。 

i ふ ヒ" ,r- る く +* たび むしろ じき うへ かんかく なんど せう せい た. の は . 

舞 ま 乱の 惡 ふざけが 加 はる 度に、 蓆 敷の 上の 看客から は、 何度も 笑聲が 立ち つた。 いや その 

う I ろ しゃう かう だいぶ ぶん わら ひ .f- か に はか わら ひ きそ キす 1 す こつ ザい ^-. - , IT 

後の 将; IK たち も、 大部へ 刀 は 笑 を 浮べて ゐた。 が、 俄 は その 笑と 競 ふやう に、 〔ま 稽を ねて 行 

ぽ 

frlT ゑつち う ふんどし ひと しゅじん あか ゆ ひと けぢょ す i ふ 

つた。 さう してとう とうし まひに は、 越屮襌 一 つの 主人が、 赤い 湯 もじ 一 つの 下女と 相撲 をと 



は 

m 更& 
そ に 

の か 



端: 
ft 
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つ 
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兵:: 

站 J 

突き 監 S 
m, 部ぶ 

烈! よ f の 
し 或 f 
い 大ひ 
叱 尉' I' 
II 它た な 
の ぞ 

聲益 は 
は 、 



湧ォ) の 
き 滑き 
返 ま: 稽 (て 



Z 始める 所に なった。 



を迎 へ る爲、 殆 拍乎さ へ しょうと 



つて ゐる 笑の 上 へ 



むち く は 

、 鞭 を 加へ る やう 



ひび わた 

に 響き渡った。 

なん, しうたい 

「问 だ、 その 醜態 は 



まく -U .3 く 

幕 を 引け! 幕 を!」 

こる i ムし しゃう ぐん しゃう ぐん ふと ぐんた う つ.; 5! 

聲の 主は將 軍だった。 將軍は 人い 軍刀の 櫬に 



てぶくろ りゃうて かざ げんぜん ぶ たい にら ゐ 

手袋の 兩. f を 重ねた 儘、 厳然と 舞臺を 脱んで 



f 、- 



J!, きのが ノっ li は 命 $ ^通り、 呆氣に とられた 役者た ちの 前へ、 倉皇と さっきの 幕 を 引いた。 時 



さう くわう 



どラじ 



に!^ ^ が も、 かすかな どよめきの 驚の 外 は、 ひっそりと 靜 まり 返って しまった。 

^ST の iitm だち と、 ひ 一とつ II にゐた It き" は、 この沈||を氣の^^まに£ちた。 俄 は 勿論 彼の 



しづ 



かへ 



かほ び せ 5 うか i 

顏に は、 微笑 さへ も 浮ばせな かつた- 



^ X し.'," J ハく ,ようみ どうじ やう も よ はう 

- かし 彼 は 看客の 興味に、 同情 を 持つ だけの 餘裕 はあった „ 



ぐ わい こくぶく わん はだ. へ.' すま ふ, み, - パ 、 > 

では 外國 武官た ちに、 裸の 相換を 見せても 訂レか 

りうが; ^^n. あま ぐ わい 二く じん 、レ す 

に留學 した 彼 は、 餘 りに 外 國人を 知り 過ぎて ゐた 



. たいめん おもん なん^ん - I 

-さう 云 ふ 體面を する に は、 何年 力 外 



フ 「どうしたので すか?」 

Z フラン ス しゃ-つ う おどち : ; : 、 、、つ :o 

佛蘭 西の 將校は 驚いた やうに 糖 積 中^ を.. -り 力へ ぐん . 

しゃう ぐん ちう し めい 5 - 

r 將 軍が 中止 を 命じた のです」 

「なぜ?」. , 

f -ij ん しゃう ぐん げ ひん こと きら 

「下 ですから、 —— 將軍 は 下品な 事 は 嫌 ひなので す」 

さう il- ふ m にもう Tir Idsi の^ f_ がが り i めた。 リ^って ゐた 兵卒た ち は、 この 背に 

羅 をず g したの か、 £f から S を 1、 り r た。 ilf ほっとしながら、 &の i 同 

を^め £j た。 にゐ f んだ 紙」 2 だち は、 いづれ も 幾分 かハ i ぶ」 うに、 舞攀ゲ たり なかつ 

t > 一-り な、/?、 VJ ま i ちゃ-つど ま: ぶ が- 、二 f >1 

. こりし C ゐる、 . I その ¥に たった 一人、 やはり 軍刀へ をのせ た 61、 厂,: ^よ:^ の^き 屮: :! た 舞 盛 

め そそ ン 

へ、 ぢ つと 服 を 注いで ゐ た" 

i の i は? i と に、 M ま かった 観劇〕 だった。 舞 臺には 唯: S 風の 外に、 "火のと もった リ说が 

I- いてあった。 S に輕ぁぃ^^ずが?〃、 1 の f お」 i を r でゐ た。 S は is 謹 

軍 こ、 rlj^s 酽 一と 械 f の sw^i: んだ。 さう して、 —— ii が !i は Mi を^す に、 彼 もがの 記惊に 



り 屮:: した c 柳 盛 座の 二階の 手すりに は、 十二 三の 少年が 倚り かかって ゐる。 舞裹に は樱の 釣り 枝 

-ょ かげ お ほ まち かきわり な に せん だんしう よ わく ゎラ ふ は ばん ざ ゑ もん 

が ある。 火影の 多い 町の 書 割が ある。 その 中に ニ錢の 團洲と 呼ばれた、 和 光の 不破 作左衞 門が、 

あみがさ かたつ- み え せう ねん ぶ たい み い 4^ ax ほとんどい き 

編 笠を片 乎に 見得 をして ゐる。 少年 は 舞臺に 見入った 儘、 殆 まさへ もっかう としない。 彼に も 

そんな 時代が あった。 …… 

よきょう まく ひま,、 ま,、 

「餘興 やめ! 幕 を 引かん か? 幕! 幕!」 

しゃう ぐん こ ゑ ぱ くだん ちう さ っゐ おく う くだ ちう-さ ぶたい め かへ ぶたい すで 

將 軍の 聲 は爆彈 の やうに、 中佐の 追憶 を 打ち 碎 いた。 中佐 は舞臺 へ^ を 返した。 舞 察に は旣に 

*r うば、 .tj ぅゐ まく とも はし あ ひだ び やう ふ うへ だん ぢょ おび か 

狼狠 した 少尉が、 幕と 共に 走って ゐた。 その 間に ちらりと 屏風の 上へ、 ^女の 帶 3 懸かって ゐる 

のが 見えた。 

ナノつ さ おも く せう よきよ ラ がかり き き だん ぢょ すま ふ 今ん うぐん ぬ 

中佐 は 思 はす 苦笑した。 「餘與 掛も氣 が 利かな すぎる。 女の 相撲 さ へ 禁じて ゐる將 軍が、 孺れ 

ば i に. i み はす こと かんが しっせい おこ せき み し^;、ぅぐん 

場を默 つて 見て ゐる 害がない。」 —— そんな 事を考 へながら、 叱聲の 起った 席を见 ると、 將軍 はま 

^ き げん よきょうが かリ いっとう しゅけい なに もんだ ふ かさ 

だ 不機嫌 さう に、 餘輿掛 の 一等 主計と、 何 か 問答 を 重ねて ゐた。 . 

とき ちう さ みみ くち わる アメリカ ふくわん となり すわ フランス ぶく わん はな 

その 時 ふと 中佐の 耳 は、 口の 惡ぃ亞 米 利 加の 武官が、 隣に 坐った 佛蘭 西の 武官へ、 かう 話し か 

6 こ ゑ とち 

2 ける 聲を捉 へた。 



-ゃぅ i 、し らく 、ん しれいく わん けんけ スぇ つく. tr ん , 

/ r 將軍 K も樂ぢ やない。 軍司令官 兼 檢閲官 だから i 」 

. やっと^ i 、^が II まった の は、 それから f つお の i ノだ つた。 ゲ度は 木が は ひっても、 兵卒た ち は 

&手 を途ら なかった。 

, ) , み ほ - つみち うさ あはれ ほと は 

rfk さう に。 £^ まされながら、 お居 を 見て ゐる やう だピ 11 德積 中佐 は憐む やうに、 殆 大き 

■ な 話聲も 立てない、 カァ キイ 服の 群 を 見渡した。 • 

f 二 i£fe2li のまに、 お r 一 てて あった。 それ はきから ぎて 來 たか、 生 

い lii の歡辦 だった。 ,11 に, ぎら しい II だらけ の^や のおい 巡 あ を いぢめ てゐ た。 

、 - , J ,p ヒ £ んづグ がうた うし みづさ だきち お ほか はばた 

ま « ^の:^ へ、 さう に^ を^した。 すると^ £ に は 「ピストル 强盜 淸水定 士"、 大 川端 

とりもの ばか 5 

捕物の 場」 と 書いて あった。 , 

* : S t F i J 二 ノ ^ ^ ち. ^なか ,ハ うたん どく はく G なん 

^の^い は 1^^ がお ると、 i に if<^« ぎながら、 長長と 浩 歎の 獨 G を 述べた。 化で も そ 

の! ^すは^い if ピストル をつ け 職して ゐ るが、 * 嫩 m 來 ない とか ふの だった。 それから 

レ- ひ C み ため ひと お ほか は み-つ なか 、す、 ^ た ゅ,: い 』,iv し、 人 ノこ. 

. お g でも M めた のか、 ^はき に n.- つからない 爲、 一 まづ大 川の 水の 巾へ 姿 を 12 さう と 认.. ^しん- 

つ, 一.. - 」、 かっかう ひいき め み お ほか:: i 

軍 さりして 辦 biS の^へ、 1| がら さきに?^ ひこんで しまった。 その 恰好 は 鼓 W 限に 兌ても、 た 川 



み * つ ぼつ かや て 今」 たう 

の 水へ 沒す るより は、 蚊帳へ は ひるのに 適當 して ゐた。 

. くうきょ ぶ たい しばらく あ ひだ なみ おと おも お ほだい こ おと たち 

空虚の 舞 薹には 少時の 間、 波の音 を 思 はせ るら しい、 大太鼓の 音が する だけだった。 と、 忽ち 

いつば う まう じん ひとり ある き まう じん つ ゑ た ままむ か 

1 方から、 盲人が 一 人步 いて 來た。 盲人 は 杖 をつ き 立てながら、 その 儘 向う へ は ひらう とする、 

と たん くろまく そと じゅん ざ とだ t が うたう し みづ V: だきち ご よう 

. I その 途端に 黑 幕の 外から、 さっきの 巡査が 飛び出して 來た。 「ピ ストル强盜、淸水定.^:1、御^ 

かれ さけ はや まう じん を ど 王う じん とっさ み がえ 

だ ー」 11 彼 はさう 叫ぶ が 早い か、 いきなり 言 人へ 躍り かかった。 育 人 は 咄^に 身 構へ をし た- 

と 思 ふと 眼が ばっちり あいた。 r 憾 むらく は 眼が 小さ 過ぎる。」 —— 中! _ ^は 微笑 を 浮べながら、 .sf 

しんお とな げ ひひ やう くだ 

心 大人 氣 ない 批評 を 下した。 

ぶ たい た *K は はじ がうた う あだな ど ほ ようい 

舞臺 では 立ち 廻りが 始まって ゐた C ピストル 强盜は 揮 名 通り、 ちゃんと ピストル を 用^して ゐ 

に はつ ざん ばつ つづ ひ は じゅん V- ゆうかん に. t- め 

た。 ニ發、 三發、 . I ピストル は 緩け さまに 火 を 吐いた。 しかし 巡!^ は 勇敢に、 とうとう 惯: ::: く 

な は へいそつ かれら あ ひ «^ こ ゑ ひと 

らに繩 を かけた。 兵卒た ち はさす がに どよめいた。 が、 彼等の 間から は、 やはり 聲ー つかから た 

ゝ r> こ C 

力 \ 一え 

ちう さ しゃう ぐん め しゃう ぐん こんど ね >ノ しん ぶ たい な,. i か は い 

屮 佐は將 軍へ 眼 を やった。 將軍は 今度 も 熱心に、 ぢ つと 舞臺を 眺めて ゐた" しかし その 額は以 

00 ぜん はる やさ たた 

2 前よりも、 遙 かに 柔 しみ を 堪 へて ゐた。 



そ こ ぶ ,こ 1 つ *< う しょ 4r やう ぶ かか き にせめ かくと. T ちう 

9 其 處へ舞 臺には 一方から、 署長と その 部下と が^け つけて 來た。 が、 僞目 くらと 格闘 中、 ビス 

ち 1 あた じ. 9- んさ 二ん こん た ふ しょす, や-つ くわつ い あ ひだ ぶ \ 'か 

トルの 彈 丸に 中, つた 巡査 は、 もう 昏昏と 倒れて ゐた。 署長 はすぐ に活を 人れ た。 その 問に 部下 は 

.H や がうた う なよ ヒり とら と しょち やう じゅんさ きう! b> しう たんば 

. いち^く、 ピストル 强 をの 繩 尻を捉 へた。 その後 は 署長と 巡査との、 舊劇 めいた 愁歎 場に なった „ 

しょち やう 卜-かし め 1 ぶぎ やう なに い のこ こと い じゅんさ -ぶ やう はは t I 

署長 は 昔の^ 奉行の やうに、 何 か 云 ひ 遣す 事 はない かと 云 ふ。 巡 杏, は 故鄕に fi: が ある、 とー!^..^ 

しょ ち やう また i よ こと しんば い なに ほか まつご ヒぃ こころの こ い • 、 じゅ 力.; 力」 

署長 は 又^の 事 は 心配す るな。 何 かその 外に も 末期の 際に、 心 遺り はない かと 一, ムュ 巡 1<ぶ は^も 

. こと がうた う とら うへ ま ス そ: A 

云 ふ 事 はない、 ピストル 强盜 を捉 へたの は、 この 上 もない ま 足 だと. ムふ 

とき ぢ やうな ひ さんど しゃう ぐん こ ゑ ひび こんど しっせい か は ふ 力 カソ ザ々: J 

11 その 時 ひっそりした 場內 に、 三度 將 軍の 聲が 響いた。 が、 今度 は 叱聲の 代りに、 深い 感激 

の嘆聲 だった。 

「偉い 奴ぢ や。 それでこそ 日本 男兒ぢ や。」 

$ づみ 十-う さ ど しゃう ぐん め そそ ひ や しゃう ぐん ほほ なみお あと ひか 

^積屮 佐 はもう 一度、 そっと 將 軍へ 服 を 注いだ。 すると 日に 燒 けた 將 軍の 顿に は、 淚の痕 が 光 

し.^ぅぐん ぜんにん す.' う V- かる ぶ ベ つ うち あか かう い かん だ , _ 

つて ゐた。 r 將軍は 善人 だ。」 11 中: は輕ぃ 侮蔑の 中に、 明るい 好意 を も 感じ 出した 

と. *it く いう、, う さか かつ ざ... あ ぶたい まへ ひ い 2 せ、. つ, みに-つ 5 , +r 

その 時 幕 は 悠悠と、 盛んな 喝采 を 浴びながら、 舞薹の 前に 引かれて 1;;- つた ; i 枝 中 :!^ は その 機 

將 

5ji くわい いす だ ぶが くわ いぢ やう そと あ ざ I- 

^ 會に、 ひとり 椅子から 立ち上る と、 會 場の 外へ 歩み 去った。 



ヨ^お の^、 は^ を輒 へながら、 やはり iil の s^lsi と、 ^は づれの 接地 を やいて 

ゐた。 

r i X i K の il は ガぃ紀 だね。 N 閣下 は 非常に 喜んで ゐられ た。」 

^^s;^ はかう fk ふ^ 1^、 カイゼル II の 端 を ひねって ゐた。 . 

i-J い しだん よ き よう , 力,. T つ > 1 

「第 X 師 團の餘 興? ああ、 あの ピストル^ 盜 力?」 

「ピストル ばかり ぢ やない。 ^では あれから 艇 ビ^んで、 もう liiis にやれ と 云 はれ 

た C おぎ は iss だった がね。 ぎんと ふの かな、 あれ は? 德 利の 別れ か?」 

I 心 丄は y 夭う したに に、 m い ife を& がめ ま はした。 もう i 粱の 靑んだ 土に は、 かすかに =』 炎 

が 動いて ゐた。 

また だいせいこう 

「それ も 亦 大成功 さ。 11 」 

な. A む せう さ はュ つづ 

中 村 少佐 は 話し 絞け た。 

「ま r;l;% も? I から、 l-xigQgiilr in 舻 t な, やらせる さう だ ぜ。」 

9 よせ てき らくつ J > - X/ > I - 

3 「寄席 的? 落語で もやら せる のかね?」 



なに か-つ だん み とく わう も /- によに レ、 - 

1 「,w,、 談 ださう だ。 水戶黄 門諸國 めぐり 11- 」 

う 

ま づ み"? づさ く せう あ ひて わ とんち や,、 げ:; i.--, く つ- づ-, - ^ ) : 

徳積中^^は苦笑した。 が、 牝手は 無頓着に、 元氣 のよ い 口 謂を敏 けて 行った 

. , uy .t A' b . 卞 じんしん み と,、 わう もん か とう ケょ *i さ もっと けい 

rip は %戶10: 門が 好きな の ださう だ。 わし は 人臣と して は、 水戶黄 門と 加 f;^ 正と に. は 取 も 敬 

意を拂 つて ゐる。 —— そんな 事 を 云 つ て ゐられ た。」 

霞, は P を I に、 ぎ i を^げ た。 f i い Isi がが かれ 

4C うさ いきつ 

てゐ た。 屮佐は ほっと 息 を 吐いた。 

rlT だね、 いくら 滿^ でも。」 

「5: 地 はもう 袷 を 着て ゐる だ ら う。」 

お^ は KIrsI つた。 ^is のお な fc^LI つた。 はお へ^って ゐる 1^1^ を つた e さ 

うして —— かすかに 變 變 になった。 

「1 うに 杏が いて ゐ る。」 

しさう に、 ?f い 土 % に簇 つた、 赤い 花の 塊り を 指した。 Ecoute-moi し Lldelirl?. 

取 ::: il ; ^i.- の は 1: 時の 問に か、 ユウ ゴォの 歌が 浮んで ゐた。 



四 父と 子と 

.t し to^ うしち ねんじ ふぐ わつ あるよ なか むらせう しゃう おうじ ぐんさん ぼうな か むらせう さ せいやう ぶう おうせつしつ 

ガ! ^ J^l! 十 < つ のま 夜、 ^村l^將、 ! 當 時の 軍 參謀屮 村 少佐 は、 西洋風の 應接窒 に、 火の つい 

くま あんら,、 い す ン 

た ハヴァ ナを啣 へながら、 ぼんやり 安樂 椅子に よりかかって ゐた 

: .、> 仁 1* んぉま , ^-? じつげつ せう し う あ. - らう じん こと 二 n: や わ. ?: く は ^ A 

T 一七 ザ餘 りの 隐 n 月 は、 少將を 愛すべき 老人に して ゐた。 殊に 八/夜 は 和服の せゐ か、 ^げ 上つ 

ひた ひ にく くち いっそう か,!.' じんぶつ けしき -I せ、 うし キぅ や 了. -.. - 

た 額の あたりや、 肉の たるんだ 口の ま はりに は、 一層 好人物 じみた^ 色が あった 小 將は松 子の 

せ もヒ $i しう ゐ なが ま は きふ いき も, , -r- 

背に 靠れた 俊、 ゆっくり 周 園 を 眺め 廻した。 それから、 —— 急に ため .2:、:? を^ら した。 

.リ ど こ み せいやう ゑ ふくせい しゃしんばん がく か あ KJ もの まど 

至の 壁に は 何處を 見ても、 西洋の 畫の 複製ら しい、 寫眞 版の 額が 懸けて あった その 或 物 は 窓 

よ ざび せ うぢよ せう ざう えた ある もの いとすぎ あ ひだ たいやう み ふうけい _ 

に 倚った、 寂しい 少女の 肖像だった。 又 或 物 は 糸杉の 間に、 太陽の 兄え る 風::; 京だった それら は 

み で,; - とう ひ. A り ;る おうせつしつ なに めう ,つす さむ げんしゅく くうき あま, 3 : - 

1! 電燈の 光に、 この 古めかしい 應接 室へ、 何 か 妙に 薄ら寒い、 嚴肅な 空 11- を與 へて ゐた。 が、 そ 

くうき い わ:^ せう しゃう ゆく わい „ t -「 

の空氣 はどう 云ふ訣 か、 少將に は 偸 快で ない らしかった 

む ごん なんぷん す ざ のち とつぜんせ うし. やう しつ 乂 わい > . ^一と ヽ :o 

無言の 何分 かが 過ぎ去った 後、 突然 少將は 室外に かすかな ノックの 音 を 照いた 

3 「おは ひり。」 



どうじ し 二 な. A だ", がく せいふく き せいねん ひとり せ たか すがた あら は せいれん せ-つ ー やう 

3 その 聲と 同時に 室の 中へ は、 大學の 制服 を 着た 靑 年が 一人、 脊の 高い 姿 を 現した。 靑年 は少將 

の 前に 立つ と、 其處 にあつ た^子に 手 を やりながら、 ぶっきらぼう にかう 云った。 

「何 か 御用です か? お父さん。」 

「うん。 まあ、 其處 にお かけ。」 

せ ハ ねん す なま 二し おろ 

靑年は 素直に 腰 を 下した。 

「, 可です? 一 

せう しゃう へんじ ため せいねん むね キ ん ボタン ふしん め ,3 

少將は返_?^-をする爲に、 靑 年の 胸の 金鈕 へ、 不. 1^ らしい 眼 を やった 

「ケ n は?」 

t ふ ん t ひ とう ご ぞ Z じ ぼく おな ぶんく がソ 、せか , - 3 . ^は ひ, I っ丄 

r.^r' 日 は: € 合の —— お父さん は 御存知ないで せう。 —— 僕と 同じ 文科の 學 生です —— 河 八:: の 追 

たうく わ 、. いま か へ 

悼會 があった ものです から、 今歸 つたば かりなの です」 

せ-つ - i3i つ _ri-t つ つち こ けむり は たいぎ 力 

少將 はちよ いと 額いた 後、 濃い ハヴ アナの 煙 を 吐いた。 それから やっと 大儀 さう に、 肝 のハ 

む はな はじ 

將 ,N きを 話し 始めた。 

^ 「この 壁に ある 畫 だね、 これはぉ.^まが懸け換へたのかぃ?」 



*H を あ けさ ぼく か か 

「ええ、 まだ 申し上げませんで したが、 今朝 僕が 懸け 換 へたので す。 いけません か?」 

「いけなく はない。 いけなく はない がね、 N 閣下の 額 だけ は 懸けて §sl きたい、 と 思 ふ。」 

なか 

「この 中へ です か?」 

せいねん おも び せう 

青年 は 思 はす 微笑した。 - 

なか か 

「こ の 中へ 懸けて はいけ ないかね?」 

いこと を か 

「いけない と 云 ふ 事 もありません が、 —— しかし それ は 可笑しいで せう。」 

「肖像 畫は あすこに も ある や うぢ やない か?」 

せう しゃう ろ うへ かべ £ び さ かべ がくぶち なへ" ご じふなん V- い いうい う せう 

少將 は爐の 上の 壁 を 指した。 その 壁に は 額緣の 中に、 五十 何歳 かの レム ブラン 卜が、 悠悠と 少 

"將を 見下して ゐた。 • 

ベ つ しゃう ぐん い つ 

「あれ は 別です。 N 將 軍と 一 しょに はなり ません。」 

し かた 

「さう か? ぢゃ 仕方がない。」 

せう しゃう よう、. v^/ ねん さや, Mi まき け. C り よ しづ はなし つづ 

少將は 容易に 斷 念した。 が、 叉 葉 卷の堙 を 吐きながら、 靜か にかう 話 を 緩け た。 

4 ユゾへ い まへ ねんば い い,、 か おも 

3 「お前 は、 —— と 云 ふよ リも お前の 年輩の もの は、 閣下 を どう 思って ゐ るね?」 



I 



5 「別に どうも m 心って はゐ ません。 まあ、 偉い 軍人で せう。」 

3 

せいねん お ちち め ばんしゃく ゑ ひ かん 

靑年は 老いた 父の 服に、 晩酌の 醉を 感じて ゐた。 

えら ぐんじん . ^く か また じつ ちゃう じ や ひとな つ せいかく も 

「それ は 偉い 軍人 だが ね、 閣下 は 又實に 長者ら しい、 人懷 こい 性格 も 持って ゐられ た。 …… 」 

せう しゃう ほとんど かんしゃうて き しゃう ぐん , つ わ はな だ にちろ せ/え ご せう,.: やう た す の べつ 、つ 

少將は 殆、 感傷的に、 將 軍の 逸話 を 話し 屮 Z した。 それ は n 露戰役 後、 少將 が那. S 野の 训莊 に、 

しゃう ぐ C お とづ とき こと そ ひ べつ さう い み しゃう ぐん ふさい いま おた うらや. tH > -乂ぼ で 

將軍を 訪れた 時の 事だった。 共の P 別莊へ ハ:;: つて 兑る と、 將軍 夫妻 は 八/し 方、 ^^^山へ散牛〉にぉ出 

, べつ さ う f ん はなし せう —やう あんない し ク. つ そく-?:: やま で 

かけに なった、 11 さう 云 ふ 训莊桥 の is だった。 少將は 案內を 知って ゐ たから、 n レ速, 山へ 出か 

こと にさんち やうい ところ めんぷく まと しゃう ぐん ふ じん いつ たたす せう 

ける 事に した。 すると 一 一三 町 行った 所に、 綿 服 を 纏った 將 軍が、 夫人と 一 しょに-むんで ゐた。 少 

しゃう .d- う ふ さい しばらく あ ひだた ばな し しゃろ? ん いつ そこた さ 

將 はこの 老 夫妻と、 少時の 問 立ち話 をした。 が、 將軍は 何時まで たっても、 其虚を 立ち. 、らうと 

しなかった。 「何 か 此處に 用で もお ありです か?」 ——- かう 少將が lit ねる と、 將 5^ は < !,^ に 笑 ひ 出し 

じつ いま さい はばか ゆい き がくせい ば しょ 

た。 「實 はね、 今 妻が 憚りへ 行きたい と 云 ふ もの だから、 わした ちに ついて 來た學 生た ちが、 所 

を 探しに 行って くれた 所ぢ や。」 丁度 今! g,、. I もう 路ば たに trm などが、 轉 がって ゐる 時分 だつ 

、 I C 

ヌ 

^ せう しゃう め ほそ まま うれ ひと ぴ せう そ こ いん はやし なか いや ほひ い 

少將は 眼 を 細く した 儘、 嬉し さう に獨り 微笑した。 11 其處 へ色づ いた 林の 屮か ら、 勢の 好い 



36 



,.- つが,. せ,, し ご に Z どん じ と だ き かれら せう! やう ヒス; T やく しゃ >T ぐん ふ V. い かこ * くちぐち 

中學 生が、 四 五 人 同時に 飛び出して 來た。 彼等 は 少將に 頓着せ す、 將軍 夫妻 をと り 園む と ロロ 

に 仏ぎ がお 人の 爲に、 兄つ けて 來た 場所 を 報告した。 その上 それぞれ 自分の 場所へ、 お 人に 來て 

もら む じゃき 今 > やう さう はじ がた くじ ひ f ら つ- しぺ1!^」\~ 

赏 ふやう に、 無 邪 ( 湫 た競爭 さへ 始める のだった.) r ぢゃ あなた 方に 籤 を 引いて 貰 はう」 i 將軍 

い いちど せう しゃう ろ ( が ほ み 

はかう 云って から、 もう 一度 少將に 笑顏を 見せた。 …… 

つみ はなし せいやう じん さ 

「それ は S 非の ない 話です ね" だが 西洋人に は 聞かされな いな。」 . 

青年 も I 夭 はすに は ゐられ なかった。 

てうし じふに さん ちう がくせい かく か い , をぢ 、 チノい 

「まあ そんな 調子で ね、 十二 三の 中學 生で も、 N 閣下と 云 ひさへ すれば、 叔父さんの やうに レ 

.^c^ まへ おも けつ いっかい i べん . . 

てゐ たもの だ。 閣下 はお 前が たの 思 ふやう に、 決して 一介の 武弁 ぢ やない。」 

せう しゃう たの はな を は またろ うへ な 力 

少 將は樂 しさう に 話し 終る と、 又爐の 上の レ ム ブラ ン トを 眺めた。 

じんかくしゃ 

「あれ もや はり 人格者 かい?」 

「ええ、 偉い 畫 描きです。」 

1 つ、 力 » 

「N 閣7 などと はどう だら う?」 

せいねん かほ たう わく ぐつ うか 

靑 年の 顔に は當 惑の 色が 浮んだ。 



, I 一 ま ,やう ぐん ぼくら ちか き ひと 

7 「どうと 云っても ります が、 —— まあ、 X 將軍 などよりも、 僕 等に 近い^も ちの ある 人です。」 

.3 

. かくお まへ とほ い • 

「閣下 の お前が たに 遠 いと 云 ふの は?」 

なし r てん け ふ っゐ たうく れい か は ひ い 

「何と 云へば 好いです か?, —— まあ、 こんな 點で すね、 たと へば 今 W 追悼 會 のあった、 河 カロと 一 K 

をと こ じさつ じさつ まへ 

ふ 男な ど は、 やはり 自殺して ゐ るので す- が、 自殺す る 前に —— 」 . 

せいねん まじめ ちち かほみ 

靑 年は眞 面目に 父の 額 を 見た。 

しゃしん よ ゆう * 

r 寫眞 をと る餘裕 はなかった やうです。」 、 . 

こんど き げん い せう しゃう め たう わく いろ つか 

今度 は 機嫌の 好い 少將の 服に、 ちらりと 當 惑の 色が びんだ。 

しゃしん い V ス ご きねん い いみ 

「寫眞 を とっても 好 いぢ やない か ? 最後 の 記念と 云 ふ 意味 も あ る し、 —— 」 

たれ ため 

「誰の 爲 にです か?」 

だれ , こと われわれ はじ く か さい- *1 かほみ J . 

「誰と 云 ふ 事 もない が、 11 我我 始め N 閣下の 最後の 額 は 見た いぢ やない か?」 

す,. な しゃう ぐん かんが こと おも ぼく しゃ-つぐん じ さつ き、 

「それ は少 くと も N 將軍 は、 考 ふべき 事で はない と. 思 ふので す。 僕は將 軍の 自殺した ぐ才 もち は 

/. ジ. :1 き しゃしん し ご しゃしん 

幾分 かわかる やうな 氣 がします。 しかし 寫眞 をと つたの はわ かりません" まさか 死後 その. ま a; が 

將 

ffL ど こ てんとう かざ こと 

^ 何處の 店頭に も 飾られる 事 を、 —— 」 + 



せう しゃう ほとんど ふんぜん せいれん ことば さへ ぎ 

少將は 殆、 憤然と、 靑 年の 言葉 を 遮った。 

「それ は 酷 だ。 閣下 はそんな 俗人 ぢ やない。 徹頭徹尾 至誠の 人 だ。」 

せいねん あ ひか はらす かほい ろ こ- *! おちつ 

しかし 青年 は不 相變、 顔色 も聲も 落着いて ゐた。 

も ろ ズ そく;:」 ん しせい ひと こと さう ざう でき ただ しせい hi くら 

「無論 俗人 ぢゃ なかった でせ う。 至誠の 人だった 事 も 想像 出來 ます。 唯 その 至誠が 僕 等に は、 ど 

ぼくら のち にんげん なほ さらつ う おも 

う も はっきりの みこめない のです。 僕 等より 後の 人間に は、 猶更 通じる と は 思 はれません。 …… 」 

ちち こ しばらく あ ひだ き ちんもく つづ 

父と 子と は 少時の 間、 氣まづ い 沈 默を續 けて ゐた。 

「時代の 違 ひだね。」 

:tJ うし やう く. H 

少將 はやつ とつけ 加へ た。 - 

「ええ、 まあ、 」 

せいねん い まど そと みみ かたむ め 

靑年 はかう 云 ひかけ たなり、 ちょいと 窓の 外の け は ひに、 环を 傾ける やうな 股つ きに たった.' 

あめ とう 

「雨です ね。 お父さん。」 

あめ . 

「雨?」 

せう しゃう あし 〇 まま うれ わ とう てんく わん 

少將は 足 を 仲ば した 儘、 嬉し さう に 話頭 を轉換 した。 



(た マルメ 口 お 



9 「又 榲桴が 落ちなければ 好い が、 …… 」 

1 . f : . ^ : i . , (大, 正 十 年. hii^. 



軍 



40 



I 



I 



ある はる ゆ ふべ ひとりな が ほふえ , ^そ ひ たん^ん ひ 

或 春の 夕、 Padre ogantino はたった 一人、 長い アビ ト (法衣) の据を 引きながら、 南 變 寺の 

に は ある 

庭 を 歩いて ゐた。 

に は まつ ひのき あ ひだ ば ら かんらん げっけい せいやう しょくぶつ う こと さ 

庭に は 松 や 檜の 間に、 薔薇 だの、 橄攬 だの、 月桂 だの、 西洋の 植物が 植ゑ てあつた。 殊に. 吹き 

はじ ?.^ ら はな き ぎ かす ゆ ふ あか なか うす あま に ほひ ただよ に は 

始めた 寄 薇の 花 は、 木木 を 幽かに する 夕明りの 中に、 薄 甘い 勻を漂 はせ てゐた C それ はこの 庭の 

せいじゃく なに に ほん おも ふかし : さ みりょく そ 

靜 寂に、 何 か 日本と は m 心 はれない、 不可思議な 魅力 を 添へ る やうだった。 

さび すな あか こみち ある っゐ おく ふ:: U ォ : 

オルガンティノ は 寂し さう に、 砂の 赤い 小 徑を步 きながら、 ぼんやり 追憶に 耽って ゐ た。 羅馬 

だいほんざん みなと ラベ イカ ね はたんき やう あち おん あるじ れいこん かがみ ろん.: 

の 大本山、 リス ボアの 港、 羅面 琴の 音、 巴旦杏の 味、 「御主、 わが ァニ マ (靈 魂) の 鏡」 の 歌 -—— さ 

い おも で いつ ま こうまう しゃもん こころ くわいき やう かな はこ き かれ かな 

う 云 ふ 思 ひ 出 は 何時の 問 にか、 この 紅毛の 沙門の 心へ、 懷鄕の 悲しみ を 運んで 來た。 彼 は その 悲 

• はらた め デウス かみ みな とな かな き ?へ 

しみ を 拂ふ爲 に、 そっと 泥烏須 (神) の 御名 を唱 へた。 が、 悲しみ は 消えない ばかり か、 前より は 

ゥ1 いっそう かれ むね おもく る くうき ひろ だ 

4 1 屠 彼の 胸へ、 重苦しい 空氣 を擴げ 出した。 



笑!: の 神神 



43 



くに ふうけい うつく 

「この 國の 風景 は 美しい。 ! 」 . 

はんせい 

オルガ ンテ イノ は 反省した。 

くに ふうけい うつく き こう をん わ ど じん くわう めん こ びと 

「この 國の 風景 は 美しい。 氣候 もま づ溫 和で ある。 土人 は、 —— あの 黄 面の 小人よりも、 まだし 

くろ ばう し だいたい きしつ した や..,, ところ しん 

も 黑ん坊 がまし かも 知れない。 しかし これ も大體 の氣質 は、 親しみ 易い 處が ある-」 のみなら す 

と か/ -) ろ なん ん かそ ほど げん しゅふ なか い じゐん そび 

徒 も 近頃で は、 何 萬 かを數 へる 程に なった。 現に この 首府の まん 屮 にも、 かう 云 ふ 寺院が 錄 えて 

み こ こ す ゆく わい ふく わい はす 

ゐる。 して 見れば 此處に 住んで ゐ るの は、 たと ひ 愉快で はない にしても、 不快に はなら ないや :! で 

じ ぶん いうう つ そこ しづ こと まち かへ 

はない か? が、 自分 はどう かする と、 憂 ii の 底に 沈む 事が ある" リス ボアの 市へ 歸 りたい、 こ 

くに V.- おも こと -, わい き やう かな じ ぶん 

の國を 去りたい と 思 ふ 事が ある。 これ は 懷鄕の 悲しみ だけで あらう か? いや、 自分 は リス ボア 

くにさ ことで き と ナ.' ゆ おも し な 

でな くと も、 この 國を 去る 事が 出來 さへ すれば、 どんな 土地へ でも 行きたい と 思 ふ。 支那で も、 

シャム インド くわい t:- やう かな じ ぶん いう-つつ ぜん ふ じ ぶん ただ くに 

沙窒 でも、 印度で も、 —— つまり 懷鄕の 悲しみ は、 自分の 憂 |¥ の 全部で はない。 自分 は 唯 この 國 

いちにち はやの が き くに ふうけい うつく きこう をん わ 

から、 一 日 も 早く 逃れたい 氣 がする。 しかし 11 しかし この 國の風 I 京 は 美しい。 氣候 もま づ溫和 

である。 …… 」 

と いき とき ぐうぜん かれ め てんてん こ こけ お はの I ろ V- くに 

オルガンティノ は 吐息 をした。 この 時 偶然 彼の 眼 は、 點點と 木 かげの t 台 に^ちた、 仄白い 楼の 



ii とら ざく, つ おどろ うすぐら こ だ あ ひだ み > そ- Z し 

『化 を捉 へた。 櫻.,. オルガンティノ は 驚いた やうに、 薄暗い 木立ちの 問 を 見つめた 其處 には^ 

/-) まん しゅろ な, ハ えど た いご ざ くら いつぼん ゆめ はな け、 A - ^ 

五本の 粽橺の 中に、 枝 を 塞ら した 糸樱 がー 木、 夢の やうに 花 を 煙らせて ゐた 

おん あるじ * へ も たま 

「御主 守らせ 給へ!」 

"つ しゅんかん がう ま じふ じ き じっさい しゅんかん f. れ め- —ゆふ^ 

オルガンティノ は 一 瞬間、 降魔の い 字 を 切らう とした-〕 實際 その 瞬間 彼の 眼に は この 夕 ぼに 

さ し... これ ざ くら まどぶ き みみ ぷ きみ I, ナし さ)、 f., 、 

ゆ、 いた 枝垂稷 が、 それ 程無氣 味に 見えた のだった。 無氣 味に、 ! と _-ム ふよりも 寧ろ この 榲か 

ぎ おか 銜を £1? にす る、 R 本 そのものの やうに 見えた のだった。 が、 彼 は 刹那の 後、 それが 不 

ぎ &ん ただ さくら はっけん は-つか く せう * つ また き、 -- 

議 でも 何でもない、 唯の 樱 だった 事を發 見す ると、 恥し さう に 苦笑しながら 靜 かに 又もと 來ん 

こ みち ちから あゆ かへ い . 

小徑 へ、 力の ない 歩み を 返して 行った G 

X 

さん じっぷん つち かれ , ?; 5- んじ な、 ぢん デウス き たう ささ そ こ ぷ i るてん じ. や, つ 

tit おの It ^ は南蠻 寺の 內陣 に、 泥 烏須へ 祈禱を 捧げて ゐた 共 處には 唯 § 天井から W る さ 

ひかり なか な いぢ/ かこ ノべ 

れた ランプが ある だけだった。 その ランプの 光の 中に、 ^陣を 園んだ フ レスコの 壁に は サン - 

4 ミグ H ルが 地獄の 惡 魔と、 モォゼ の 屍 £を爭 つて ゐた C が、 勇ましい 大 天使 は. % 論、 吼り 立った 



あくま こんや おぼろ ひかり か げん めう い-つび み , / また こ;; J 

5 悪魔 さへ も、 今夜 は 朧げな 光の 加減 か、 妙に ふだんより は 優美に 見えた それ は 又 事によると 

4 

さ-だし まへ V.- さ みづ み-つ び ら えに し だ. に ほ し かれ 

祭壇の 前に 捧げられた、 水 水し い 蓄薇ゃ 金 雀 花が、 勻 つて ゐ るせ ゐ かも 知れなかった。 彼 は その 

さ, だん うしろ あたま た まま ねっしん い き たう こ 

祭 境の 後に、 ぢ つと 頭 を 垂れた 儘、 熱心に かう 云 ふ 祈禱を 凝らした。 

な リ だいじ だい ひ デ ゥ ス にょらい わたくし ふなで とき いちめい たてまつ を 

「^無 大慈大悲の 泥烏須 如來! 私 は リス ボア を 船出した 時から、 一 命 は あなたに 奉って 居り ま 

なんぎ あ ヒ ふじ か つ- ゐ くわう かがや ため いつぼ ひる f 

す。 ですから、 どんな 難儀に 遇っても、 十字架の 御 威光 を 輝かせる 爲に は、 ー步も 怯ます に 進ん 

まゐ もちろん わたくし ひとり よ V- ころ みな てんち おん あるじ 

で參 りました。 これ は 勿論 私 一人の、 能くす る 所では ございません。 ij::, 大地の 御主、 あなたの 

おしめぐ.^ に ほん す うち わたくし わたくし し めい く. CTJ 力た 

御惠 でございます。 が、 この 日本に 住んで ゐる內 に、 私 はお ひお ひ 私の 使命が、 どの位 難い か を 

し .H じ くに やま もリ あるひ いへいへ なら まち なに ふ し ぎ ちか-.^ ひそ 

知り めました。 この 國には 山に も 森に も、 或は 家家の 並んだ 町に も、 何 か 不思議な 力が 潜んで 

居ります。 さう して それが ー且へ 冥の 中に、 私の 使命 を 妨げて 居ります。 さもなければ 私 はこの! の 

やうに、 何の 理, £ もない 憂 管の 底へ、 沈んで しま ふ は ございますまい。 では その 力と は 化で あ 

わた >、 し と かく ナ.' から ち やう どち か い-つみ くに ぜんたい 

神 るか、 それ は 私に はわ かりません。 が、 鬼に 灼 その 力 は、 r 度 地トの 泉の やうに、 この 國全體 へ 

の 行き 笑って居ります。 まづ この 力 を 破らなければ、 おお、 南無 大慈大悲の 泥 ilTS.^ 來! 邪宗に 

J お 

.hy わくでき に ほぐ じ/? はら いそ ん がい しゃう でん はい こと えいきう ぞん わたくし ため 

惑溺した 口 本人 は 波 c„it 靠增 (天 界) の莊 嚴を拜 する 事 も、 永久にな いかも^ じません。 私 は その 爲 



なんにち はんもん はんもん かさ まゐ しもべ ゆうき 

にこの 何日 か、 短悶に 烦悶を 重ねて 參 りました。 どうか あなたの 下部、 オルガンティノに、 氣 

にんたい お さ-つ くだ 

と 忍耐と を 御 授け 下さい。 」 

とき に はとり な ご ゑ き おも ちう い 

その 時 ふと オルガンティノ は、 鶴の 鳴き 聲を 聞いた やうに 思った。 が、 それに は 注^も せす 

さら き たう ことば つづ 

更に かう 祈禱の 言葉 を績 けた。 

わたくし し めい はた ため くに やま か は ひそ ちから た ぶん にんげん み れ 、 

「 私 は 使命 を 果す爲 に は、 この 國の 山川に 潜んで ゐる 力と、 —— 多分 は 人間に 見えない 靈と 

たたか むかし こうかい そこ T; ヂプト r, ハぜぃ お しづ くに 

戰 はなければ なりません。 あなた は 昔 紅海の 底に、 埃 及の 軍勢 を 御 沈めに なりました。 この 國の 

れい ちから-つよ こと チプト ぐんぜい おと いにしへ よ げんし や * わたくし れい た 1^.^ ひ 

靈の 力強い 事 は、 埃 及の 軍勢に 劣りますまい。 どうか 古の 豫言 者の やうに 私 もこの 靈 との 戰に 

J 一 

き たう こと >i いつ ま かれ くちびる き こんど とつぜん さいだん 

祈禱の 言葉 は 何時の 問に か、 彼の 臂 から 消えて しまった。 今度 は 突然 祭壇の あたりに けたた 

け、, めい きこ ふ しん かれ しう ゐ なが 

ましい 鶴 鳴が 聞え たのだった。 オルガンティノ は 不.! ^さう に、 彼の 周圍を 眺め ま はした。 すると 

かれ まうしろ しろ ヒろ を た に り いも は さいだん うへ .CJ? は i いちど ぶ-ゆ , 

彼の ぼ; 後に は、 白白と 尾 を 垂れた 鶴が 一 羽、 祭壇の 上に 胸 を 張った 俊、 もう 一度、 夜ても 明けた 

と- 

やうに 鬨を つくって ゐる ではない か? 

5 と あが はや りゃうら で ひろ V 一う くわう と 3 ム だ 

^ オルガンティノ は 飛び 上る が 早い か、 アビ トの兩 腕 を擴げ ながら、 倉皇と この ,::1| を逐ひ 出さう 



笑 it の 神神 



47 



ふた あしみ あし ふ だ おも お/あるじ キ- ぎ さ は う ぜん そこ た 

とした。 が、 二足 三 足踏み 出した と 思 ふと、 「御主」 と 、切れ切れに 叫んだ なり、 茫然と 其處へ 立ち 

* つす ぐら な いぢん なか いつ どこ き む t に は 々り ヒゅ ぅ*^ ん 

すくんで しまった e この 薄暗い 內陣 の屮に は、 何時 何處 から は ひって 來 たか、 無 救の 戴が 充滿し 

あるひ そら と . ^る ひ そ こ こ こ か ほと/、 八が め ん ,1- ぎ 

てゐ る、 —— それが 或は 空 を 飛んだり、 或は 其 處此處 を 駅け ま はったり、 始ど 彼の^に 见 える 限 

り は、 鶴 冠の 海に して ゐる のだった。 

おん あるじ .*H も たま 

「御主、 守らせ 給へ!」 

かれ また じふ じ き かれ て ふし ぎ まんりき なに は さ いっすん 

彼 は 又 十字 を 切らう とした。 が、 彼の 乎 は 不思議に も、 萬 力 か 何 かに 挾まれた やうに、 一寸と 

は 自由に 動かなかった。 その 內 にだん だん 內陣の 中には、 枬 火の 明りに 似た 赤 光が、 何: からと 

も 知れす 流れ 屮 I した。 オルガンティノ は ぎ 喘ぎ、 この 光が さし 始める と 同時に、 -膝 膜と あたり 

5 か き ひとかげ はっけん 

へ 浮んで 來た、 人影が あるの を發 見した。 

人影 は晃る ii に鮮 かにな つた。 それ は いづれ も 見 恨れ ない、 素朴な 女の 一 群だった〕 彼等 は 

I: 頸の ま はりに、 緒に ぬいた 玉 を 飾りながら、 偸 快 さう に 笑 ひ 興じて ゐた。 に 群がった 無數 

に はとり かれら すがた いま いっそう たか なんば とき あ どう 

の 難 は、 彼等の 姿が はっきり すると、 今までより はー曆 高らかに、 何 羽も鬨 をつ くり 合った。 一:i: 

時に 内陣の 壁 は、 11 サ ゾ • ミグ H ル の畫を 描いた 壁 は、 霧の やうに 夜へ 吞 まれて しまった。 そ 



の 跡に は、 I . 

に: Z せの Bacchanalia は、 あ n か氣に とられた オルガンティノの 前へ、 餐氣樓 の やうに 漂って 來た。 

, ^ こ. t ご,? .,5,1;^ さナ く .f-H くるまざ 

« は II い^が だ^に、 ^1? の K 飼 をした^ #M たちが、 五 ひに 嘏を 酌み^ しながら、 si をつ く 

ってゐるのをュ^^^;^ その まん^に は ひ ーと^ 11 ^本で はま だ たぎの ない、 堂堂とした!^ 格 

のお!, ひ 5?<" きな « を i せた おに、 , とり & るって ゐ るの を 見た。 桶の 後ろに は 卜 山の やうに、 こ 

, もまた い^ 气 f だ.、 & こぎに したら しい 榊の 枝に、 玉 だの 鏡 だのが F つたの を、 悠然と 打 

し 一て てゐ るの を, た。 ^のま はりに は數 百の 鶴が、 尾羽 根 や 鶴 冠 をす り 合せながら、 絶えす 

L J > いまさら 力れ 

g しさう に % いて ゐ るの を 見た。 その また 向う に は、 —— オルガンティノ は、 今; 史の やうに ^ 

J ^ V! y-- り な. -パ 、はや と いちまい いは 

の を よ. すに は ゐられ なかった。 , 1 . そ のまた 向う に は 夜霧の 中に、 お 屋の戶 らしい 一お 岩 力 

ど つし りと 聲ぇ てゐ るの だった。 

酷ハヽ 4 に: :} つたお ひ > 何 でも ICJ- やめなかった。 彼女の 髮を卷 いた は、 ひらひらと (分に 

"雛 へった。 «ぉの^にまれた|^は、 ^^も 艇^ やうに 鶴き^つ た。 の f にと つた^ t の 枝 は、 

化 織 illfe を^ち ま はった。 しかも そ の^はに した^! ^_|ぃ1ぉのぉがぉに、 ,徙と^び出たニ 



笑 it の神祌 



49 



ち ふさ とん め じ やうよ く おも かれ デウス 

つの 乳房 は、 殆ど オルガンティノの 服に は、 情愁 そのもの としか 思 はれなかった。 彼 は 泥 iiT:^ を 

念じながら、 ,.一 心に 顏を そむけよ うとした。 が、 やはり 彼の 體は、 どう パ K ふ 神祕な 呪の 力 か、 身 

動き さへ 樂に は出來 なかった。 . 

つち A- つ ぜんちん もく まぼろし だんぢ よ うへ くだ や は うへ G をん な いちど しゃう キ- かへ 

その内に 突然 沈默 が、 幻の 女た ちの 上へ 降った。 桶の 上に 乘 つた 女 も、 もう 一度 氣に 返つ 

たやう に、 やっと 狂 はしい 踊 を やめた。 いや、 き 競って ゐた 魏 さへ、 この 瞬 ii は 頸 を 仲ば した 

俊、 一度に ひっそり となって しまった。 すると その 沈 默の屮 に、 永久に 美しい 女の 聲が、 佝 か 

お そ つた キ- 

らか嚴 かに 傳 はって 來た。 

「g が此處 にぎって ゐれ ば、 世界 は 閱 になった^ ではない か? それ を 神神 は樂 しさつに、 笑 

ひ 興じて ゐ ると 兄え る。」 

I ー么 よ ぞ に- き とき をけ うへ をん な い.^ > どう み わた • いぐ わい ほど 

その 餘が夜 〈仝に 消えた 時、 辆 の 上に のった 女 は、 ちらりと j 同 を 渡しながら、 窓外な 程し と 

やかに 返 $ をした。 

「それ は あなたに も 立ち勝った、 新しい 神が をら れ ますから、 喜び 合って をる ので ございます c」 

その新しぃ神と,1^ふのは、 泥 £3 鎖 を 指して ゐ るの かも 知れない。 . I オルガンティノ はちよ い 



ち少 V こ - き i デ あや ま- 1 ろし へんく わ き 45,^ め モ、 、• ; 

との i 、さう 一 ズふ氣 もちに ま, まされながら、 この 怪しい 幻の 變 化に、 やや 興味の ある ほ を 注いだ。 

ちんもく し ^ らく やぶ たち ま に はとり むれ いっせい とき — : お f , > ^ - - y^c0 . 

沈默は 少時 破れなかった。 が、 忽ち 鶴の 群が、 一 齊に鬨 をつ くった と と 向う に 夜霧 を 取 

と <-ま や と ひち まいい は おもむ さ いう ひら だ そ P こ」 め/ 1 - 」 ゝ 

き 止めて ゐた、 岩屋の 戶 らしい 一枚岩が、 徐ろに 左右へ 開き 出した。 さう して 其 一け 目 力ら は 

へ」 んく ぜっ ぽ ん だう かく わ う こ ぅ卡 ゐ み な き だ -,^ 

言 句に 絶した 萬 道の 霞 光が、 洪水の やうに 漲り 出した。 

オルガンティノ は f ばう とした。 が、 舌 は 動かなかった。 オルガンティノ は 逃げよう とした。 

あ.' うへ -J かれ ただ だ/、 わう みやう ため はげ め まひ おこ かん ^^f- 

が、 足 も 動かなかった。 彼 は唯大 光 明 の爲 に、 烈しく 眩暈が 起る の を 感じた さう して その 光 

なか お ほぜい だん: もよ くわん き こ, CM はう はい てん のぼ き -.. - 

の 中に、 大勢の 男女の 歡喜 する 聲が、 懲湃と 天に # るの を 聞いた 

お ほひる めむ ち お ほひる め わち お ほひる めむ ち 

「大日 霧 貴! 大日 霍貴! 大日靈 貴!」 

あたら かみ あたら かみ J ノ - 

「新しい 神 なぞ は をり ません。 新しい 神 なぞ は をり ません」 

「あなたに 逆 ふ もの は 亡びます。」 . 

「御 覽 なさい。 闇が 消え失せ るの を。」 . 

rsi-i す i り、 あなたの S に あなたの i、 あなたの 川、 あなたの 町、 あなたの 海です。」 

5 「新しい 神 なぞ は をり ません。 誰も 皆 あなたの 召使です。」 



笑 微の祌 神 51 



お ほひる めむ ち お ほひる めむ ち お ほひる め.;?. 

「大日 霍贵! 大曰雹 貴! 大日 霎 贵!」 



い --ゑ わ あが なか ひやあせ なに :.。 さ, け 

さう 云 ふ チ緊 の 湧き上る 中に、 冷汗に なった オルガンティノ は, 何 か 苦し さう に 叫んだ きりとう 

とう 其ぎ へ 倒れて しまった。 

よ さんかう + つか 二ろ しっしん そこ い しき くわい ふく かれ みみ 

その 夜 も 三更に 近づいた 頃、 オルガンティノ は 失心の 底から、 やっと 意識 を 恢復した。 彼の 耳 

かみがみ こ. 05 いま な ひ. ひ み ま は ひとお と きこ ない 

に は 神神の 聲が、 未だに 鳴り響いて ゐる やうだった。 が、 あたり を 見廻す と、 人 昔 も 聞えない. s: 

リん まる てんじゃう ひかり とほ ,0- つろう へき。 わ て 

陣に は、 圓 天井の ランプの 光が、 さっきの 通り 膝 職と 壁畫を 照らして ゐる ばかりだった。 オルガ 

ろめ うめ さいだん うしろ はな まぼろし い み かれ 

ンテ イノ は 呻き 吨 き、 そろそろ 祭壇の 後 を 離れた。 あの 幻に どんな 意味が あるか、 それ は 彼に は 

まぼろし み デ ゥ ス こレ」 へし 

のみこめなかった。 しかし あの 幻を兑 せた ものが、 泥 烏 IS でない 事 だけ は 確かだった。 

「この 國の &と戰 ふの は、 ::: 」 - 

ある おも ひと ,と も 

オルガン ティ ノは步 きながら、 思はすそっと獨り語を:!^らした." 

くに れい たたか f こんなん か また ま 

「この 闕の 靈と戰 ふの は、 思った よりもつ と 困難ら しい。 勝つ か、 それとも 乂负 ける か、 —— 」 

とや かれ みみ い き-で お,、 

すると その 時 彼の 耳に、 かう 云ふ懾 きを. 送る ものが あった。 . 

ま 

「ねけ です よ!」 



52 



オルガンティノ は 艰味惡 さう に、 ー聲 のした 方 を 透かして 見た。 が、 北 や 21 に は 不和 變、 仄. おい-齧 

ら えに しだ ほか ひとかげ み, -,, } Ir- , . 

斑 や 金^花の 外に、 人影ら しい もの も昆 えなかった。 

X 

よくじつ ゆ ふべ なん んじ に は ある かれ S" がん, , ど に:, ' 5^ . 

オルガンティノ は 翌日の 夕 も、 南蠻 寺の 庭を步 いて ゐた。 しかし 彼の^ 服に は 何 虎 か-お 1 しさ 

うな^が あった。 それ は 今日, 一日の 內に、 日本の 侍が 三 M 人、 奉敎 人の 列に は ひった からだった _ 

こ- K .f んらし 于 っナ- ゆ ふやみ そび ただ ちんもく みだ. ユら は- 1: 一-/ - tl. き / 

^^の歡^ゃ月街は、 ひっそりと 夕闇に 錄 えて ゐた。 唯 その 沈 默が擾 される の は、 寺の, 处か 軒へ 

か、 なか, ヒら i おと ほか ば " に ほひ すな しめ いっさい つばさ てんし : 

歸る らしい、 中空の, 昔より 外はなかった。 齊 薇の 勻、 砂の 濕り、 11 一 切 は 翼の ある 天使ん ち 

ひと をみ なつ J うつく み つま もと くだ き こ だい ひ くホ へいわ 

が、 「人の 女子の 美しき を 見て、」 妻 を 求めに 降って 來た、 古代の H の 幕の やうに 平和た つた 

「やはり 十字架の 御 威光の 前に は、 檢ら はしい ir 本の 靈のカ も、 勝利 を- :! める^ はむ づ かしい と 

み ウ ラバ み キぽ ろし まぼろし す あくま しゃり 1^ ん 

見える。 しかし 昨夜 見た 幻 は? いや、 あれ は 幻に 過ぎない。 .惡 魔 は アン トニ オト-人 にも あ 

, ままろ し み しょうこ け ふ いちど なんにん しんと- 、で 

あ ii4 ふ 幻 を 見せた ではない か? その 證據に は 今 n になる と、 一度に 何人 かの 信徒 さへ 出 た 

やがて はこの!; も 至る所に、 天主の 御寺が 逮 てられる で あ らう。」 



笑微の 神神 



53 



おも すな あか こ みち ある い たれ -っ しろ 

オルガンティノ はさう 思 ひながら、 砂の 赤い 小 徑を步 いて 行った。 すると 誰か 後から、 そっと 

,A た う かれ ふ かへ うしろ S ふ あ 力 みす- はさ f お 力け *T 力 f 

肩 を 打つ ものが あった、 り 彼 はすぐ に 振り返った。 しかし 後に は 夕 りが、 徑を 挾んだ 據懸の i おがぶ 

に、 うつす りと 漂って ゐる だけだった。 

おん あるじ まも たま 

「御主。 守らせ 給へ ー」 

つぶ わ、 おもむ かしら かへ 力れ 力た けら I つ . -- ,て こ しの よ 

g はかう 眩いて から、 徐ろに 頭 を もとへ 返した。 と、 彼の 傍に は、 何時のilに共處へ忍び^s.3っ 

ゆ-つべ まぼろし み とほ くび た i ま ら-; 'じん ひとり すがた けぶ - キヤ.. おんれ あゆ 

たか、 昨夜の 幻に 見えた 通り、 頸に 玉を卷 いた 老人が 一人、 ぼんやり 姿 を 煙らせた ai、 徐ろに 歩 

み を 運んで ゐた。 

「誰 だ、 お前 は?」 

意 を 打 たれた ォ ルガ ンテ イノ は、 思 はす 共處 へ 立ち止まつ た。 

「私 は、 . 1 . 誰でも かま ひません。 この 國の靈 の 一 人です。」 

らう じん び せう うか しんせつ へんじ . 

老人 は 微笑 を 浮べながら、 親切 さう に 返 _ ^をした。 

「まあ、 k 一 縛に 歩き ませう。 私 は あなたと 少時の IT 御 話しす る爲に 出て 來 たのです。」 

じふ じ キ- らう じん しるし す こ キ- ようふ しめ 

オルガンティノ は 卜 字 を 切った" が、 老人 は その 印に、 少しも 恐怖 を 示さなかった。 



54 



わたし 4 ウ ニニ y らん た, けん ち /• フ、 の ほ や も Q 

「私 は惡 魔で はない のです. - 御覽 なさい、 この 玉 や この 劍を。 地獄の 炎に 燒 かれた 物なら、 こん 

せいじゃ-つ けケ じ ^2 もん レに な 

なに 淸淨 では ゐ ない 箸です。 さあ、 もう^ 文な ぞを唱 へる の はお やめなさい。」 

え ふ ゆく わい うでぐみ キ i V: うじん いつ ある だ 

オルガンティノ はやむ を 得す、 不愉快 さう に 腕 組 をした 儘、 老人と 一し よに 步き 出した。 

「あなた は; 大主 敎を弘 めに 來てゐ ますね、 11 」 

た 〔うじん しづ はな だ 

老人 は靜 かに 話し 出した。 . 

わる こと し デゥ ス くに キ- さ い _、■ 一 ま 

「それ も惡ぃ 事で はない かも 知れません。 しかし 泥 烏 娘 もこの 國へ來 て は、 きっと 最後に はねけ 

てし まひます よ。」 

デ ゥ ス ぜん のう おんお る じ デ ゥ ス 

「泥 烏須は 全能の 御主 だから、 泥烏須 に、 —— 」 

い おも いつ くにしん と たい 

オルガンティノ はかう 云 ひかけ てから、 ふと 思 ひついた やうに、 何時も この 國の 信徒に 對 する 

ていねい く てう つか だ 

叮嚀な 口調 を 使 ひ 出した。 

デ ゥ ス はす 

「泥 烏 娘に 勝つ もの はない 害です。」 

ところ じっさい お キ- くに わた キ-- デゥ ス 

「所が 實際は あるので す。 まあ、 御 聞きなさい。 はるばる この 園へ 渡って 來 たの は、 泥^::;?^ばか 

こ,? J うし V- うし ほかし な てつじん なんにん くに わた 

りではありません。 孔子、 孟子、 莊子、 11 その外 支那から は 人た ちが、 M 人 もこの 國へ 渡つ 



笑 微の祌 神 



55 



て % ました。 しかも 當時 はこの 國が、 まだ 生まれた ばかりだった のです。 支那の 哲人た ち は 道の 

ほ. A y くに キム しん くに たま も もき い た 力ら 

外に も、 吳の 固の 親 だの 秦の國 の 玉 だの、 いろいろな 物 を 持って 來 ました。 いや、 さぅ云ふ!^ょ 

た.: iA- れ-, めう もじ もき しな ため われわれ せいふくで き ■ 

り も 尊い、 靈 妙な 文字 さへ 持って 來 たのです。 が、 支那 は その 爲に、 我我 を 征服 出來 たでせ う 

か? たと へば 文字 を 御 t ハな さい。 文字 は 我我 を 征服す る 代りに、 我我の 爲に 征服され ました。 

わたし む. A しし ど じん . ^き もと ひとま ろ い しじん をと こ つく たなばた ;., 

私が 昔 知って ゐた 土人に、 抑の 本の 人 麻 呂と云 ふ 詩人が あります。 その * 男の 作った 七夕の iif は 

、ま くこ つ こ よ ご らん けんぎう しょく r ンょ なか みいだ こと で 々- 

ゲで もこの 國に殘 つて ゐ ますが、 あれ を讀ん で御覽 なさい。 ^^牛織女はぁの中に!:^出す^は出來 

うた 二 ひびと どうし あ ひこぼし たなばたつ め かれら まノ、 ら でで 

ません。 あそこに 歌 はれた 戀人 同士 は 飽くまで も彥 星と 棚機津 女と です。 彼等の 枕に 線 3 いたの は • 

+tj:u うど くに か +* キ-よ あま が は せ おと し な くわう が やうす かう に ぎん 力 なみおと 

丁度 この 國 の^の やうに、 淸ぃ 天の川の^ 音でした。 支那の 黄河 や 揚子江に 似た、 銀河の 浪 〈せで 

わん-し うた こと も じ こと はな ひとま ろ 

はなかった のです。 しかし 私 は 歌の 事より、 文字の 事 を 話さなければ なりません。 人 麻: C は あの 

う.,: しる ため しな もじつ か いみ ため はつおん たど も,.^ - . 、 

歌 を 記す 爲に、 支那の 文字 を 使 ひました。 が、 それ は 意味の 爲 より、 發 昔の 爲の文 字だった ので 

しう いも じ のち つお ォ.; ^TV.»T 二と は- 

す。 舟と 云 ふ 文字が は ひった 後 も T ふね」 は 常に 「ふね」 だった のです。 さもなければ 我我の 一;"" 葉 

し な ご し もす.' ろん ひとま ろ ひと. -H ろ こころ も 

は、 支那 語に なって ゐた かも 知れません。 これ は 勿論 人 麻 H: よりも、 人 麻 呂の心 を I::..' つて ゐた、 

われわれ くに かみ ちから しなて つじん しょ だう くに つた _ くつ かい * 

我我 この 阈の 神の 力です。 のみなら す 支那の §:: 人た ち は、 書道 を もこの 國に傳 へました 络海 



55 



道 風、 佐 理:、 行成 11 私 は 彼等の ゐる 所に、 I: 時 も 人知れ す it つて ゐ ました。 彼等が 乎 木に して 

みなし な じん ほくせ き かれら ふでさき し だい ちたら び うま かれ" 

ゐ たの は、 皆 支那 人の 墨 踏です。 しかし 彼等の 筆先から は、 次第に 新しい 美が 生れました。 彼等 

もじ いつ ま わう.. V 一 し ちょす:;' りゃう に まんじん もじ だ 

の 文字 は 何時の 1^ にか、 王義 之で もなければ 絡遂 良で もない、 口 本人の 文 * になり 出した のです。 

われ ネ ュパ- う もじ われわれ い ぶ しほ か V- うじ ゆ みち 

しかし 我我が 勝った の は、 文字ば かりではありません。 我我の, 吹き は 潮風の やうに、 老^の ゆ m 

さへ も 和げ ました。 この 國の 土人に 尋ねて 御覽 なさい。 彼等 は 皆 孟子の 著書 は、 我 1^ の i に觸れ 

やす ため つ ふわ かなら すくつ がへ しん しなと かみ いちど 

易い 爲に、 それ を 積んだ 船が あれば、 必 歡 ると 信じて ゐ ます。 科 戶の祌 はま だ 一 度 も、 そんな 

惡戲 はして ゐ ません。 が、 さう IK ふ 信仰の 屮 にも、 この 國に 住んで ゐる g 我の 力 は、 ぎげ ながら 

感じられる 害です。 あなた はさう 思 ひません か?」 

ばう ぜん らう じん かほ なが かへ くに れきし うと かれ せっかく ち ひ 匸 

オルガンティノ は 茫然と、 老人の 顔 を 眺め 返した。 この 國の 歷史に 棘い 彼に は、 折角の 相 乎の 

雄 辯 も、 半分 はわから すに しまった のだった。 

しな てつじん G ち ィ ン -ト わう じ した あるた 

「支那の 哲人た ちの 後に 來 たの は、 印度の 王子 悉達 多です。 11 」 

老人 は 言葉 を續 けながら、 徑 ばた の藉 薇の 花 をむ しると、 嬉し さう に その 勺 を g< いだ。 が、 戴 S 

ち あと はな C こ ただら うじん て はな いろ かたち おな み 

薇 はむ しられた 跡に も、 ちゃんと その 花が 殘 つて ゐた。 唯 老人の 手に ある 花 は ft や 形 は 同じに: 



-笑徵 の 神神 



57 



えても、 :h: 虚か 霧の やうに 煙って ゐた。 

「佛陀 の 述命も 同様です。 が、 こんな 車 を,. 一 一 御 ,話 しする の は、 御; aw を IF すだけ かも 知れ ませ 

ただ.^. ひた だ ほんち すゐ じゃく をし へ こと をし へ くに ど びん お ほひる めれ AT 

ん。 唯氣 をつ けて 頂きた いのは、 本地乘 跡の 敎の です。 あの 敎 はこの 國 のに 人に、 人::!!! I;. 中ば は 

だいに 4 りに よ-.: い おな おも お ほひる め. t だ., にナ" にょ^ _> うれ 

大日 如來と 同じ もの だと はせ ました" これ は 大口 靈&; の 勝で せう か? それとも 大 I:: 如 來の勝 

か げんざい くに ど じん お ほひる めむ ち し だぃにちにょ^:ぃ し 

でせ うか? 假 りに 現在 この 國の 土人に、 大 nt 。ま::; は 知らない にしても、 大: = 如來は 知って ゐる 

ものが、 大勢 あると して 御 なさい。 それでも 彼等の 夢に 见 える、 大:: : 如 來の姿 の 中には、 印 成 

ぶつ おもかげ お ほひる めむ ち うかが わたし しん、 いん にちれん いつ さ ら V. うレ W 

佛の 面影よりも、 i< 日霸贵 が 窺 はれ はしない でせ うか? 私 は 親 §1 や::! 蓮と 一し よに、 沙 It 雙! g 

ナ かデ ある かれら ャゐき かつ パハぅ まとけ ゑんく わう こく;: J ん や 7" 

の 花の 陰 も 歩いて ゐ ます。 彼等が 隨喜渴 仰した 佛は、 岡 光の ある 黑 人ではありません。 しい 成 

嚴に 充ち滿 ちた 上.: 呂 太子な どの 兄弟です。 —— が、 そんなず を. と 御: iti しする の は、 御 束の 

とま わたし ま をし あ デウス くに ふ: 力 

通り やめに しませう.」 つまり 私が 巾 上げた いのは、 泥 の やうに この 國に來 て も、 きつ もの は 

ない と Tk ふ 事な のです。」 

お ま お ま へ い 

「まあ、 御 待ちさない。 御前さん はさう 云 はれる が、 —— J 

オルガン テ ィ ノはロ を 挾んだ。 . 



け ふ V,- むら ひ に さんにん いちど おん をし へ き え 

「今日な ど は 侍が 二三 人、 一度に 御 敎に歸 依し ましたよ。」 

まんにん き え ただき え い こと くに ど じん だい. ふ ぶんした ある 

「それ は 何人で も歸 依す るで せう" 唯歸 依した と 云 ふ 事 だけなら ば、 この II の 土人 は 火 部分 悉達 

た をし き え われわれ ちから い はくわい ちから - 3 つ,!,、 ゆ,. 、 

多の 敎 へに 歸 依して ゐ ます。 しかし 我我の 力と 云 ふの は、 破壊す る 力ではありません。 造り へ 

ちから 

る 力なので す。」 

らう じん f ら はな な はな て はな おも たち ま ゆ ふ あか き 

老人 は 薔薇の 花 を 投げた。 花 は 手 を 離れた と 思 ふと、 忽ち 夕明りに 消えて しまった。 

る まどつ く か ちから まへ か. さ こと どこ 

「成程 造り 變 へる 力です か? しかし それ はお 前さん たちに、 限った ではないで せう。 何 まの 

國 でも、 —— たと へば 希臘の 神神と 「K はれた、 あの 國に ゐる惡 魔で も、 —— 」 

お ほ し いつ 1 にた がへ し ォ れオれ 

「犬い なる。 ハン は 死にました。 いや、 パン も 何時か は 又よ み 返る かも 知れません。 しかし 我我 は 

とほ いまい - 

この 通り、 未だに 生きて ゐ るので す-"」 

め-つら らう じん かほ よこめ つか 

オルガンティノ は 珍し さう に、 老人の 顔へ 橫眼を 使った。 

「お前さん はパ ンを 知って ゐ るので すか?」 

なに さいこく だいみ やう こ せいやう も かへ い よこ も じ • はん -.->、- n 

「何、 西國の 大名の 子た ちが、 西洋から 持って 歸 つたと 云 ふ、 横文字の 本に あつたの てす ——| 

8 いま はなし つく か +-> から われわれ かざ » > ^11^^ - , 、 

5, それ も 今の 話です が、 たと ひこの 造り 變 へる 力が、 我我 だけに 限らないでも やはり 油^ はなり 



笑微 の祌祌 



59 



わし お き に ォれォ .s^ CI る 力み 

ません よ e いや、 寧ろ、 それだけに、 御 I 浙を つけな さいと 云 ひたいの です。 我我 は 古い 神です か 

ギリシャ かみがみ せ かい よ あ み かみ 

らね。 あの X 布獵の 神神の やうに、 世界の 夜明け を 見た 神です からね。」 

「しかし 泥 烏-娘 はぎつ 箸です。」 

が-つ ヒゃぅ い.^ ど おな こと い はな らう じん きこ 

オルガンティノ は 剛情に、 もう 一度 同じ 事 を 云 ひ 放った。 が、 老人 は それが 聞えない やうに、 

かう ゆっくり 話し 緩け た。 

わ 人-し し 一,. 一 にす, まへ さいこく うみべ じ やうり く ギリシャ ふなの あ を. V こ かみ 

「私 はつい §: 五日 前、 西 國の海 逢に 上陸した、 希 職の 船乘 りに 遇 ひました。 その 男 は 神で はあり 

ただ にんげん 寸 わたし ふな のり つきよ いは うへ すわ 

ません。 唯の 人間に 過ぎない のです。 私 は その 船乘 と、 月夜のお の 上に 坐りながら、 いろいろの 

t なし き き め ひと かみ はなし ひと の-一 め がみ はなし 二 ゑ うつく 

薪 を 聞いて 來 ました。 目 一 つの 神に つかまった 話 だの、 人を豕 にす る 女神の 話 だの、 聲の 美しい 

にんぎょ はなし をと こ な し をと 二 わたし あ き 

人魚の 話 だの、 11. あなた は その 男の 名 を 知って ゐま すか? その af- は 私に 遇つ た^から、 この 

くに ど じん か は いま ゆ り わか な の お & 

圃の 土人に 變 りました。 今では fn 合 若と 名乘 つて ゐる さう です。 ですから あなた も 御 I 艰を つけな 

デ ゥ ス かな.:: すか い てんし: S けう ひろ かなら すか い 

さい。 泥 烏 鎖 も 必勝つ と は 云 はれません。 天主 敎 はいくら 弘 まっても、 必 勝つ と は 云 はれませ 

ん。」 

老人 はだんだ ん小聲 になった。 



「; _ ^によるとぎ r^sE^ も、 t の 隨のゼ おに i るで せう。 支那 ゃ& 度も變 つたので す。 两 汗も變 

-C 1 わ.;^ > ぎ な. > あさ みづな 力 コ.: X,:} メノ - ゾ ひ- 

ら なけ 丄 どなりません。 私 我 は^ 木の 屮 にも ゐ ます。 環い 水の 流れに もゐ ます ^い 微の "化 を^る 

K にも ゐ ます。 ?ー? の g 一に る InI りに もゐ ます。 何處 にで も、 乂 何時でも ゐ ます。 ¥m をつ けな 

さい。 御氣 をつ けなさい。 」 - 

その i がとうと ぅ& えたと ふと、 老人の 姿もタ 闇の 巾へ、 影が 消える やうに 「がえ てし まった。 

と 1 時に ザの If らは、 1れ を ひそめた オルガンティノの 上へ、 ァヴェ * マリアの 鐘が s¥ 始めた" 

X 

か ぎ こと I, -っ L う 

Mi? 寸 のパァ ドレ • オルガンティノ は、 . 1 ■ いや、 オルガンティノに 限った^ ではない。 悠悠 

と アビ ト のま を!; いた、 1 あい は、 襲 あ S ゲた、 £ のポ 1 や!! ぎ 吋から、 Y 

i ゐ の殿默 へまつ つた。 南蠻船 入津の 圖を 描いた、 三 f 紀 以前の 古:^ 展 へ." 

きみ いまきみ なかま に ほん う, みバ- あ;^ 、 

さやうなら。 パァ ドレ. オルガンティノ ー II?- は 今^の 仲 と、: n 本の 海 邊を步 きな 力ら 金 

^ K の |S ひ^をず げた、 ; 11 きい を嶋 めて ゐる。 が 勝つ か、 4-£mM が 勝つ か 11 それ 



笑微 の祌祌 



61 



ォん ザ,." ケ- つ, ; --ん て、 でき し われわれ じ げふ だんてい あた 

はま だ 現在-でも- 容 1^ に斷 おは 出來 ないか も 知れない。 が、 やがて は 我我の 事業が、 斷せ を與ふ 

ん/; くわ こ うみべ ,し-つ れ. C れ み たま ま おな び やう <? 

べき 問題 > ある。 1^ は その 過去の 海邊 から、 II かに,;^ 我 を 見て ゐ 給へ。 たと ひお は:: its 風の 

、ぬ J た クン ひ if さ くろ にう こ ども ばう キ- やく お.^ り し-つ r.l ^ L, 

^を いた 甲 比 丹 や、 n<f を さしかけた 黑ん坊 の 子供と、 忘却の 眠に 沈んで ゐて も、 新たに 水平 

r ,- ちら. H われ いれ くろふね いしび ぐ おと かなら す ふる きみら ゆめ とき ^'^ ) 

マへ 瑜 がた、 我我の 黑 船の 石火矢の ま::: は、 必 古めかしい^ 等の 夢 を 破る 時が あるに 逾 ひない。 そ 

れま では、 —— さやうなら。 パァ ドレ • オルガンティノ! さやうなら。 南蠻 寺の ウルガ ン作 .火 

レ ン 

連! 

(大正 十 年 十二お) 



62 



I 



64 



を ピこ よら あたみ t け V ぺん てつだう ふ せつ こうじ はじ リ f っハぃ やつ とし りゃう.: い i なにち すら 

小 m 一が 熱 海 il に、 輕便鐵 道 敷設の 工事が 始まった の は、 良 平の 八つの 年だった ^:^平は:川::!:^ 

ャ づ こうじ けん W いつ い こうじ ところ ただ つち うんばん 

外れへ、 その 工事 を ns- 物に 行った。 工事 を —I といった 所が、 唯ト ッコで 土 を述搬 する 11— そ 

おもしろ み い 

れが 面白さに 見に 行った ので ある。 

,つへ ど こう ふたり つち つ うしろ たたす . やま くだ - ひと 

ト n ッコの 上に は 土工が 二人、 土 を 積んだ 後に 佇んで ゐる。 ト a ッコは 山 を 下る の だから 人 

で か t し /. あ ふ しゃだい うご ど こう .-1 ん てん すそ - せ:^ 

手を^り すに 走って 來る。 煽る やうに 車臺が 動いたり、 土工の 抨 纏の 裾が ひらつ いたり 糾ぃ線 

ち り. 0- う/ , なが ど こう おも こと 

路 がしな つたり —— 良 平 はそんな けしき を 眺めながら、 土工に なりたい と ふ 車が ある。 せめて 

、ち ど ど こう 、つ Q おも 一一と .cf はづ へ ('ち く 

は 一 度で も 土工と 一 しょに、 ト ッコ へ乘 りたい と 思 ふ 事 も ある。 ト a ッコ は 村 外れの 平地. へ 來 

し そ こ と どうじ - どこう み ふ.;, お: : は, 、 

ると、 自然と 其處に 止まって しま ふ。 と 冋 時に 土工た ち は、 身 輕 に トロッコ を 飛び降りる 力 nr い 

せぐ ろ しゅうてん くるま つち 二ん ど お , お - * "t -、 - ) 

か、 その 線路の 終點へ 車の 土 をぶ ちまけ る。 それから 今度 は ト „ -ソコ を 押し 押し もと 來た 山の 

± う つ;: K よじ り, つ、 ラ へい とふ- :0 お こと で き おも • 

方へ SOS り-^ める。 ^^平はその^^乘れなぃまでも、 押す 事 さへ 出來 たらと ので ある 



まる ゆ ふ 力た にぐ.? つ . ^よじ ゆん りゃうへ い ふた した おとうと おとうと おな とし とおり こ ども 

5 或 夕方 11 それ は 二月の 初旬だった。 良 平 は 二つ 下の 弟 や、 弟と 同じ年の 隣の 子供と、 トロ 

6 

お むら はづ い どろ まま うす あか なか なら 

ッ コ の 置いて ある 村 外れへ 行った。 ト ッ コは泥 だらけに なった 儘、 薄明る い 巾に 並んで ゐる。 

'> . • ほ, か ^ み,, * ど/」 う- すがた み さんにん こ ども おそ お そ -.. ちぶん まし 

が その外 は 何處を 見ても、 土工た ちの 姿 は 見えなかった。 三人の 子供 は 恐る恐る、 ー桥^ にあ. 

お さんにん ちから そろ とつぜん しゃ リん りい うへ 、 

る トロッコ を 押した。 ト:! ッコ は 三人の 力が 揃 ふと、 突然 ごろり と 車輪 を ま はした。 良 平ば こ の 

おと にどめ しゃりん おと かれ おどろ 

音に ひやりとした。 しかし 二度目の 車輪の 昔 は、 もう 彼 を 驚かさなかった。 ごろり、 ごろり、 —1 

い おと とも さんにん て お 、しんろ つ. ま , 

—卜 II ッコ はさう 云 ふ 昔と 共に、 三人の 手に 押されながら、 そろそろ 線路 を 登って 行った。 

うち- かれこれ じっけん ほどく せんろ こうばい きふ だ V ちか リ 

その^に 彼是 十 間程來 ると、 線路の 勾配が 急に なり 屮:: した。 トヲ ソコも 三^の 力で は、 いくら 

P うご づ るまい つ お もど こと リリ、 ?、 、 

^しても 動か なくなった。 どうか すれば 車と 一 しょに、 押し 房され さう にもなる 車が ある。 も 

い おも としした ふたり ぁひづ 

はもう 好い と 思った から、 年下の 二人に 合 II をした。 

の 

「さあ、 乘 らう?」 

かれら- いちど て うへ と さ" しょお もむ み 

彼等 は 一度に 手 を はなす と、 ト ッコの 上へ 飛び 乘 つた。 トロッコ は::: 取 初 徐ろに、 それから I: ん 

み ぃキ- ほひ ひといき せんろ くだ だ と たん あた ふうけい た ま りゃう ハュ b 

。 る 見る 勢よ く、 一,! In^ に 線路 を 下り 出した。 その 途端につ き當 りの 風景 は、 忽ち 兩侧へ 分かれる や 

コ め まへ てんかい く りゃうへ い かほ ふ ひ くれ かぜ Ji- ん ミ とん 

うに、 すん すん 目の前へ 展開して 來る。 - --— 良 平 は 顔に 吹きつける 曰の 暮の風 を 感じながら 3^ ど 



うち やう てん 

有顶 天に なって しまった。 

に V へんぷん C ち しゅうてん と 

しかし トロッコ は 一 一三 分の 後、 もう もとの 終點に 止まって ゐた。 

いちどお , 一 

「さあ、 もう 一度 狎すぢ や あ」 

g_ お, の 一 ^.^::<と4 しょに、 又ト。 ッコを 押し上げに かかった。 が、 まだ 束 輪 も 動かない.^ 

に、 ils 等 の^に は、 氣 かの 足音が 聞え 出した-" のみなら すそれ は § え 出した と と、 あに 

かう 云 ふ 怒鳴り 聲に變 つた。 

や らう たれ ことわ ざ は 

「この 野郞! 誰に 斷 つて ト P に觸 つた?」 

S に はおい 1 ま、 ず1 れの襲 を かぶった、 い S が, でゐ る。 —さ- 

1 - .-, 二 6 とき ,やう、 , としした ふたり 、ニリ ご ろ, 、けんに だ 

一. 14 ふ 料が に は ひった^、 良 平ば 年下の 二人と 一し よに、 もう 五六 il 逃げ出して ゐた。 —— それ 

ピノ ~ , > > , , ひと ナ こうじ み にどつ み おも こと 

ぎりぉ!^}^ぼ#の^りに、 1^^のなぃェ事場のトロッコを見ても、 二度と 乘 つて 兑 ようと 思った^ 

はなぃ。 ^その嚼のゼぉの!^ば、 ゲ でも 良 平の 頭の 何處 かに、 はっきりした 記憶 を殘 して ゐる。 

r . • 二 55 ち- S き * ろ むぎ わち ど-う き おく とし-,) と しきさい うす 

りの ¥に2 めいた、 . ^さい 黄^の 麥藁 精、 ! しかし その 記憶 さへ も、 年毎に 色彩 は 薄れる 

6 

6 らしい C 



コッロ 卜 



67 



C ちと を か あま りゃうへ い また 、レ- り ひる. こう.!.: / tji や 

その後 十日 餘り たつてから、 良 平 は 又た つた 一人、 午過ぎの ェ審 場に 佇みながら、 トロッコの 

/ひ, な 力 つち つ ほか まくらぎ つ い^りやう 

來 るの を 眺めて ゐた。 すると 土 を 積んだ ト ロッコ の 外に、 枕木 を 積んだ ト "ッコ がー _i、 これ は 

ほ乂 は. す ふと せんろ つぼ チ- お ふ 入, り わ J, をと こ 

本線になる:^ の、 太い 線路 を 登って 來た。 この トロッコ を 押して ゐ るの は、 二人とも^い 男 だつ 

, りゃうへ い かれら み とき なん した やす A- ひと しか 

た。 良 平 は 彼等 を 見た 時から、 何だか 親しみ 易い やうな 氣 がした。 「この 人 たちならば 叱られな 

力れ おも そボ V > 

い。」 —— 彼 はさう 思 ひながら、 トロッコの 側へ 跃けて 行った。 

「ぉぢ さん。 押して やらう か?」 

なか ひとり しま き をと こ うつむ お まま おも と 5 こ ろ U 

その 中の 一人、 . —— 縮の シ ャッを 着て ゐる男 は、 俯向きに ト ロッコ を 押した 儘、 思った! り 决 

い 返事 をした。 

「おお、 押してく よう。」 

りゃうへ い ふたり あ ひだ ちからい つばい お はじ 

^平 は 一 一人の 問に は ひると、 力 一 杯 押し 始めた。 • 

r r なかなか ちから . 

「われ は 中中 力が あるな。」 

た: ひとり みみ まきたばこ はさ をと こ りゃうへ 1, i 

他の 一 人、 11 耳に 卷 煙草 を 挾んだ 男 も、 かう 良 平を赛 めて くれた。 

うち せんろ、 こう. +5 い らく はじ お , りゃラ へ - 、ま 

その に 線路の 勾配 は、 だんだん 樂 になり 始めた。 「もう 押さな くと も 好い。」 —— ^チ ばケに 



い ないしんき わか , ふたり ど こう まへ こし おこ 

も 云 はれる かと 內心氣 がかり でなら なかった。 が、 若い 二人の 土工 は、 前よりも 腰 を 起した ぎり 

も/ ム,、 メ、 る ま .IP つづ りゃうへ い き お お こと た-つ み 

默默と 車 を 押し 續 けて ゐた。 良 平 はたう とうこら へ 切れす に、 怯づ つ こんな 事 を; ねて 見た" 

「:!: 時まで も 押して ゐ て.^ い?」 . 

「がいと も。」 . 

1 一人 は 同時に 返事 をした。 良 平 は 「優しい 人 たちだ」 と 思った。 

ごろ,、 ちゃう あま お つづ 小ん ろ い^ど きふこう ばい そ こ りゃうが は みかんば たは き にん 

五六 町餘り 押し 績 けたら、 線路 はもう 一度 急勾配に なった。 其處 には刚 側の 蜜批 畑に、 黄色い 

實が い く つも 日 を 受け て ゐる。 

つ ぼ U ^_ よう , ■ ひ つ お りゃうへ い こと かんが ぜんしん 

「登り 路の 方が 好い、 何時までも 押させて くれる から。」 —— 良 平 はそんな 事を考 へたがら、 < 上 身 

お . 

で トロッコ を 押す やうに した。 

み. W ばた は あ ひだ ぼ きふ せんろ くだ -— , しま をと こ 、り^,". V い. 1> 

蜜柑畑の 間 を 登りつ める と、 急に 線路 は 下りに たった。 縞の シャツ を 着て ゐる は 良 ザに 「や 

> り J2, うへ-. すぐと つ さんにん 5 つ どうじ みかんばたけ に ほ: S 

い、 乘れ」 と 云った。 良 平 は 直に 飛び 乘 つた。 ト II ッコは 二人が 乘り 移る と! :!: 時に、 蜜拼 畑の.::? 

あ ふ すべ せんろ はし だお はう い- リ や-う,.,.. ^ 

を 煽りながら、 ひた、、 U りに 線路 を 走り出した。 「押す よりも 乘る 方が すっと:^ い c」 —— ザ は 羽 

8 おり はら あた まへ こと かんが い お ところ お ほ かへ ェ たつ と ころ お ほ 

6 織に 風 を 孕ませながら、 當り 前の 事を考 へた。 「行きに 押す 所が 多ければ、 歸 りに 义乘る 所が 多 



コ ッ n 卜 



69 



また; デ /が 

い。」 —— さう も亦考 へたり した。 

竹 薇の ある 所へ 來 ると、 トロッコ は靜 かに 走る の を 止めた。 二人 は 叉 前の やうに、 m, ぃト a ッ 

し ± レ たナ やぶ い つ ざん キ-ば やし つま V キ」 あか ところどころ あか クび せんろ み ほど 

コを押 めた。 竹 < 藪 は 何時か 雜木 林に なった。 爪先 上りの 所所に は、 赤銪の 線路 も兑 えない 程、 

葉の たまって ゐる 場所 もあった。 その 路を やっと 登り 切ったら、 今度 は 高い-: ii^ の うに、 廣^ 

つす " " うみ ひら どうじ り やつへ い ぶた ま あま とほ き す 二と & > う 人 

と 薄ら 家い 海が 開けた。 と 问 時に 良 平の 頭に は、 餘り 遠く 來過 ぎた^が、 ^:.^ に はっきりと 感じら 

れた. レ 

やん- t.z. つ くるま うみ みぎ ざ ふき えだ した はし い りゃう 

三人 は乂 トロッコへ 乘 つた。 車 は 海 を 右に しながら、 雜 木の 枝の: 卜 を 走って In つた。 しかし^:^ 

. ^はさつ きの やうに、 面 CI い (湫 もちに はなれなかった。 「もう 歸 つて くれれば がい。」 —— 彼 はさ 

う も 八お じて 見た。 が、 行く 所まで 行きつ かなければ、 トロッコ も 彼等 も れ ない は、 勿:^ 1 彼, に 

も わかり つて ゐた。 

うき : る ま と キ. りく-つ やま 亡 お わらやね ちゃみ. 5,- ま: ふたり ど 

その 次に 車の 止まった の は、 切 崩した 山 を 背負って ゐる、 藁屋根の 茶店の 前だった。 二人の 土 

H は その? 5 へ は ひると、 ^?-吞兒をぉぶった上さんを相乎に、 ; S 蔽-と 茶な ど を 飲み 始めた) 良 ザ は 

獨り いらいらしながら、 トロッコ のま はり を ま はって::^ た。 トロッコに は须 丈な^ 臺の 板に、 跳 



どろ かわ 

ねかへ つた 泥が 乾いて ゐた。 

し f らく のちち やみせ で き まきたばこ みみ は さ をと こ とき Iji 、け 、 - :> / 

小 力 時の 後 茶店 を 出て 來 しなに、 卷 煙草 を-斗に 挾んだ 男 は、 (その 時 はもう 挟んで ゐ なかった か) 

そ, i りゃうへ.., しんぶん がみ つつ だ ぐ わし りゃうへ い れいたん あり 力た ュ 

トロッコ の 慨にゐ る 良 平に 新聞紙に 包んだ 駄菓子 を くれた。 良 平 は 冷淡に 「難 有う」 とーム つた 力 

すぐ れいたん あ ひて おも なほ かれ れいたん と、 つ. ブろ、 _ , つ? - 、で:^ し, 

直に 冷淡に して は、 相手に すまない と 思 ひ 直した。 彼 は その 冷淡 さ を 取り^ ふやう に .J?Jみ^^子 

ひと くち , くわし しんぶん がみ せきゆ に ほひ I 

の 一つ を 口 へ 入れた。 菜 子に は 新聞紙に あったら しい、 石油の 勻 がしみ ついて ゐた . 

さん こん お ゆる けいしゃ ^3ぼ い りゃうへ い くるま て .《 こ,; 一ろ ほ-か 

三:^ はト 口 ッ コを 押しながら 緩い 傾斜 を 登って 行った。 良 平 は 車に 乎 を かけて ゐても 、七 は 外 

こと , かんが 

の 事 を考へ てゐ た。 

さか むか お P またお」. 5 ちゃみせ ど こう なか , めと りゃう 

その 坂 を 向う へ 下り 切る と、 又 同じ やうな 茶店が あった" 土工た ちが その 中へ は ひった 後、 良 

へ , こし かへ こと き ちゃみせ まへ ts な - うか ^1 

if は トロッコに 腰 を かけながら、 歸る 事ば かり 氣 にして ゐた。 茶店 の^に は 花の さ:: > た 梅に、 四 

„ ^の It が 消え かかって ゐる。 「もう 日が 暮れる。」 11 彼 はさう 考へ ると、 ぼんやり 腰かけても ゐ 

し b 、りん ナ み ひとり うご しょうち 

られ なかった。 トロッコの 車輪 を 蹴って 見たり、 一人で は 動かない の を 承. ながら うん うん そ 

お み こと き ま. き , 

れを 押して 見たり、 —— そんな 事に 氣 もち を 親ら せて ゐた 

ところ ど 二う で /、 くるま うへ ま-く ビ て む ヤー,^ 力れ > ュ > 

7 听が 土工た ち は 出て 來 ると、 車の 上の 枕木に 乎 を かけながら、 無造作に 彼に かう ーム つた 



1 「われ はもう 歸ん な。 おれたち は 今日は 向う 泊り だから。」 

"ハ おそ 、 /• うち しんば い ゝ ゝ I 

「あんまり 歸 りが 退くなる とわれの 家で も 心配す るすら。」 

お 一つ ^^髮 I に とられた。 もう 彼是 暗くなる 事、 去年の 暮 母と 岩 村まで 來 たが、 今日の 途 

さんよ V- 、 こと いま ひレ: り ある かへ こ. J ^ 

は その 三 ある 事、 それ を 今から たった 一人、 步 いて 歸ら なければ ならない ず —— さう 一 F1 ヌ 

と , ち: 二 りゃうへ ひ ほ とん な な- しかた、.' お f I , : 

事が,. 一時に わかった ので ある。 良 平 は 殆ど 泣き さう になった。 が、 泣いて もれ 力がない と つた 

& いて ゐる場 1? ではな、 いと もずった。 彼 は 若い 二人の 土工に? 取って 附け たやうな 御 時,; をす る 

せんろ づ た はし だ 

と、 どんどん 線路 傳 ひに 走り 屮:: した。 

り. P う/ * i ボ らく ソ お b 4^ う せんろ. ^$ まし つづ "「ち ふところ くわし - つつ じ や- -;LJ & 

^1^1^はぁ時ぎ我夢中に線路の側を走り績けた。 その 內に懷 の 菓子 包みが、 邪魔に なる^に ハ姒が 

みち > ^た よ ふ だ ついで いた ざう り そこぬ す た 

ついた から、 それ を路 S へ 鍵り 出す 次 手に、 板 草履 も 其 處へ脫 ぎ 捨てて しまった すると^い:: 止 

/ 6^ こ "しく あし はる かる かれ ひだり う, i ガ * 

% の 裏へ じかに 小 が 食 ひこんだ が、 足 だけ は遙 かに 輕く なった。 彼 は 左に 海 を 感じながら 

な«^を&け|^った。 11 淚 I- こみ上げて 奢る と、 自然に 顏が 歪んで 來る。 11 それ は 無理に 我 

卜まん はなた な 

口 £1 乂し でも、 鼻 だけ は裙 えす くうくう 鳴った 

ソ 、 

I たナ. P ぶ そ, ± かぬ ほふ や ひ がね やま そら ほ, て ; タ.. . y ) , ' Jn<^^,L 

コ れ藪 の^を^: t 拔け ると、 夕燒 けの した 日 金山の 空 も、 もう 火照りが r かえ かかって ゐた 



はい よ ik が 鍵でなかった。 往 きと 返りと 變 るせ ゐか、 景色の 違 ふの も 不安だった。 すると 今度 は 

まきまで も、 it の || れ逾 つたの が (湫 になった から、 やはり 必死に 駄け t ねけ たなり、 羽織 を 路仙〈 

脫 いで 捨てた。 I 

I - ぶ: J ナ く ころ ぐら いつば う い C ち たす りゃうへ い V 

|g きまへ 來る 頃に は、 あたり は 暗くなる 一 方だった。 「命 さへ 助かれば —— 」 良 平 はさう 5.3 な 

がら、.、, U つても つま づ いても 走って 〔仃 つた。 

やっと i ぃ舛 g の おに、 ml^ れの pyf た お. EiT ^にぎた くな つた。 しかし. 

if な か つづ 

その 時 もべ そ はかいた が、 たう と う 泣かす に駄け 絞け た, 

f „ り. P うが, H 、へ、 へ でんとう ひ., -,. り あ り や/, へい 一. -ん 1,*^ 

の s\ は ひって iB- ると、 もう 兩側^ 家家に は、 電燈の 光が さし 合って ゐた 良: や は そ". 免 短 

の! がら の I, の if のが、 i が 射に も はっきり わかった。 井戶 端に 水 を 汲んで ゐる女 衆 

や、 跳 がら M つて k る W 衆 は、 良 平が 喘ぎ 1 ぬぎ 走る の を 見て は、 「おい どうしたね?」 などと 弊 を 力 

かれ - ごん まま ざつ ノ、 わ や 上: や あ,^ いへ > ほ」 ュ sv> レ ^ . :o 

けた。 が、 彼 は. 陆 言の 儘、 雜货屋 だの 床屋 だの、 明るい 家の, ま を 走り 過き た 

« の? I の £s 。へ& けこんだ i、 ^^5^ばたぅとぅし入整に、 わつ と 泣き m さすに は ゐられ なかった 一 

" をリず 一き 一 S ま^の Ki へ、 TI- に (ガ 。や を 無 まらせ た。 t に 母 は 何とか 一 is ながら、 A 平の 體を 



う 力 りゃう ( い て あし ス 14, あ な つ-つ こも; あま 

3 抱へ る やうに した。 が、 良 平 は 乎 足 を もがきながら、 啜り 上げ 吸り 上げ 泣き 核け た。 その 聲が餘 

1^げ きんじょ をん なし ゆ さんよ にん つす ぐら かどぐち あつま き ち .^ょ± もちろ し ひ 上 

り 激しかった せゐ か、 近所の 女 衆 も: 二 g; 人、 薄暗い 門口へ! ii- つて 來た。 父母 は 勿論 その 人た ちに、 

v、>r ぐち かれ な わけ たづ かれ なん > な た まか し かた 

n 口に 彼の 泣く 訣を 尋ねた。 しかし 彼 は 何と 云 はれても 泣き 立てる より 外に 仕方がなかった。 あ 

とほ みち か >- ほ さ いま こころゆ そ ケハ .r; ま-ご ゑ な つ-つ た 

の 遠い 路 を-駅け 通して 來た、 今までの 心細 さ を ふり 返る と、 いくら 大聲に 泣き 總 けても、 足りな 

ぃハ湫 もちに 迫られながら、 ;… 

りゃうへ い に じふろ く とし V- いし いつ とうき やう で き -ま ある ざっし しゃ 二 か * .^.ぅ1:-.- し *^、\ で 

良 平 は 一 一十 六の 年、 妻子と 一 しょに 東京へ 出て 來た。 今では.: 雜; ii 社の 「一 ^ に、 校お の 朱筆 を 

^さ * うれ せ Z せズ なんり いう とき かれ おも だ こヒ 

握って ゐる。 が 彼 はどう かする と、 全然 何の 理. E もない のに、 その 時の 彼 を 思 ひ 出す が ある y 

V- スビ乂 ゆん りい う ん らう つか れ まへ いま とき うすぐら いふ 

全然 何の 理由 もない のに? —— 塵勞に 疲れた 彼の 前に は 今でも やはり その 時の やうに、 蒲^い 

V か みち ほそば そ ひと だんさ-、 

や 坂の ある 路が、 細細と 一す ぢ斷 緩して ねる。 ::: 

, (火 1^ 十一 年 二 月> 



74 



76 



阿媽港 s:.^: の 詰 . 

じん. w- 、 め 5 じ や- けん . ま へ あ ま か はじんない い- 

わたし は 甚內と 云 ふ ものです。 苗字 は —— さあ、 ゆ ii ではす つと 前から 阿媽港 甚 .2: とーム つて 

、力 ま かよ じんない な し ど, V * イノ 

ゐる やうです。 阿媽港 甚內、 —— あなた もこの 名 は 知って ゐま すか? いや、 驚く に は 及び ませ 

し し-一 ま ひやう ばん たか ぬすびと こんや まん ダす 

ん。 わたし は あなたの 知って ゐる 通, り、 許 判の 高い 盗人です。 しかし 八 H 仪參 つたの は、 盜 みに は 

ひった のではありません。 どうか それだけ は 安心して 下さい。 

に えん ば て れん なか だ ラ とく た. A ひと 、.- 3 \ み 1 ノ、 だ,, ひ," な } 

あなた は 日本に ゐる 伴天連の 屮 でも、 道德の 高い 人 だと 聞いて ゐ ます して 兄れ は盜ス とネ" 

し だらく 、 つ ノ こと ふく わい し 

ついた ものと、 4; 時で も 一し よに ゐ ると 云 ふ _ -は、 偸 快で はない かも 知れません。 が わたし も 

忍 ひの 外、 盜 みば かりしても ゐ たいので す。 何時ぞや 聚樂の 御殿へ r:: された M 宋 助左衞 r の 乎 代 

ひ レーり たし ヒん J。 * .M つ またり きう 二 じ ちんちょう あへ,' ひに な 3-^ > 

の 一. 人 も、 確か t^l-s: と名乘 つて ゐ ました" 又 利 休 居 十の 珍重して ゐた 「赤が しら」 と稱へ る 水 さし 

おく . ?-ん がし 一- * んみ to- う ひんな * パ 々 L r / 4 V I \ 

も、 それ を 贈った 歌師の 本名 は、 ^=^.2: とか 云った と 聞いて ゐ ます。 さう 云へば つい 二; :1 年以 "が 



, lA^ お, と ーー4 ふお をき 曰いた、 あたりの 通辭 の^^も、 1^ 内と 云 ふので はなかった でせ う 

7 まかさんで うが .1 ら けんく わ * ピク ン すく こ 卜., う、 、ぃ;^ ひ I め、; J:v.21 じ: ぜ. 4 - - 、 ^^^^ 

か? その m 三ぎ 河. ぽの 喧嘩に、 甲 比 丹 「まる どな ど」 を 救った 虚無せ 5, 介の 妙國寺 門^に 南蠻 

の 對1ど&: つて ゐ た- i ギん …; さう ふ もの も 名前 を 明かせば、 何が しに たったのに 違 ひ ありま 

せん。 いや、 それよりも 大事な の は、 去年 この 「さん • ふらんし す こ」 の 御き へ、 おん 母 「まリ や」 

の ^ を, m めた、 黄金の 舍利 もを獻 じて ゐ るの も、 やはり 甚內 と^ふ 憎 徒だった です。 

こ/、 や てん ん ?。 く ノ ぎ やう じ やう はな ひま 3 お だ -は ^^^V'^-M^ 

しかし 八/夜 は殘八 「ふながら、 1 々さう 云 ふ 行狀を 話して ゐる 暇はありません 唯 どう 力,, 港 =^」 

ぼ は、 ^ii い 一つ 般の人 問と 餘り變 りの ない 事 を 信じて 下さい。 さう です か? では 出來る だけた. 

ようむ の こと ある をと こ たまし ひ ため い ro ph - 

かに、 わたしの 用 きをへ、 ル」 ベる 事に しませう。 わたし は 或 男の 魂の 爲に 、「みさ」 の 御ぎ り を. 慰 ひ 

ャ ナ? たん い また は がね ち 

に來 たのです。 いや、 わたしの ま緣の ものではありません。 と 云っても 亦 わたしの 义 金に を 

I い: つた もので もない のです。 名 霧です か? 名前 は、 —— さあ、 それ は 明かして 奵 いかどう か、 

わたしに も销 M はっきません。 あま の 魂の 爲に、 11 或は 「ぼうろ」 と f ムふ 日本人の 爲に、 H 福 を 

; なるほど あ ま か はじんない い こ y た % -,、 

報 m つて やりたい のです。 いけません か.. —— 成程 阿媽港 teft に、 かう ムふ 事を賴 まれた ので じ 

m li:,!^ に i ム^ ふ にも なれますまい。 では 鬼に!: 一通り、 事情 だけ は 話して 見る にし ませう。 し 



せいし と だ ごん やくそく ひつえう むね ヒ ふじ か か 

かし それに は 生死 を 問 はす、 他言し ない 約^が 必要です。 あなた は その 胸の 十字架に 懸けても、 

やくそく まも しつれい ゆる くだ び せう 《H て れん 5 たが 

き つ と 約束 を 守ります か? い や —I 、 失 禮は赦 し て 下さい。 (微笑) 伴天連の あなた を 疑 ふ の は、 

ぬすびと せんじゃう やくそく まも レー:^ ぜん ま じ め 

盗人の わたしに は 潜 上で せう。 しかし こ の 約束 を 守らなければ、 (突然 眞 面目に) 「いんへ るの,」 の 

まう くわ や げんぜ ばつ くだ はす 

猛火に 燒 かれす とも、 現世に 罰が 下る 害です。 

に U ん い ぜん はなし ちゃう ど ある こがらし まよなか うん 十ゐ ナがた か 

もう 二 年 あまり 以前の 話です が、 丁度 或 风 の眞 夜中です。 わたし は 雲水に 姿を變 へながら、 

き やう まちなか ケ やう まちなか よ はじ 

京の 中 を うろついて ゐ ました。 京の 町屮を うろつい たの は、 その 夜に 始まった ので はあり ませ 

かれこれい つか い つ しょかう す かなら す ひとめ た いへ 

ん。 もう 彼是 五日ば かり、 何時も 初更 を 過ぎさへ すれば、 必 人目に 立たない やうに、 そっと 家 

いへ うかが も ち ろんなん ため -^5 い およ 11 と ころ まりか 

象 を 窺った のです。 勿論 何の 爲 だつ たかは、 註 を 入れる にも 及びますまい。 殊に その 頃 は 摩 利 伽 

いちじ わた よ けい かね いりょう 

へで も、 一時 渡って ゐる つもりで したから、 餘 計に 金の 入用 もあった のです。 

まち もちろん むかし ひと ど ほ た ほし く, つちう ん- 

は 勿論とう の 昔に 人通り を 絶って ゐ ましたが、 星ば かりきら めいた i4.: 中には、 小 やみ もない 

かぜ おと くら つた を が は ど ほ くだ /、 つじ ひ. V ま V: 

風の 音が どよめいて ゐ ます。 わたし は 暗い 軒 通 ひに、 小川 通り を 下って 來 ると、 ふと 辻 を 一 つ 曲 

ところ お ほ .f どや しき み き やう な し ほうで うや や V う ゑ 

つた 所に、 大きい 角 屋敷の あるの を 見つけました.」 これ は 京で も 名 を 知られた、 北 條:^ 彌 一二.;^ 衛 

もん ほんたく おな と かい と せい ほう V,- うや たうて いかど くら かた なら こと で き 

門の 本宅です。 同じ 渡海 を 渡世に して ゐて も、 北 條屋は 到底 角 倉な どと 莉を 並べる 事 は出來 ます 



記 恩 報 



79 



まい。 しかし に 角沙窒 ゃ呂宋 へ、 船の 一 ニ艘. も 出して ゐ るので すから、 一 かどの 分限者に は 遠 

なに- ,つち めあて • ちゃう ど そ こ 

ひありません。 わたし は. n: もこの 家 を HE 當に、 うろついて ゐ たので はない のです が、 丁度 其處へ 

& "y さい. は ひと か、」 き おこ うへ まへ い とほ よ ふか かぜ で 

來合 はせ たの を 幸 ひ、 一稼ぎす る氣を 起しました" その上 前に も 云った 通り,、 夜 は 深いし 風も屮 M 

1,ゃぅ^^ぃ ばん ヒ も こ すん ば ふ みち 

てゐ る、 11 わたしの 商資に とりかか るのに は、 萬 事 持って 來 いの 寸法です。 わたし は路 ばた の 

てん すん をけ う— ろ あ ヒろ かさ つ ゑ かく うへ た V- ま たかべ い こ 

天水桶の 後に、 網 代の 笠 や 杖を隱 した 上、 忽ち 高 街 を乘り 越えました。 

i」 けん うは さ き -ご < :ん あ ま iV に "ん ない にん ド ゆつ つか たれ ヽ な い 

世間の 噂 を 聞いて 御覺 なさい。 阿媽港 甚內 は、 忍術 を 使 ふ、 . 1 . 誰でも 皆 さう 云って ゐ ます。 

ぞくじん こと ほんた う おも にん ド ゆつ つか 

しかし あなた は 俗人の やうに、 そんな 事 は 本 當と思 ひますまい。 わたし は 忍術 も 使 はなければ、 

あ, 、ま ,へ かた ただ あ まか は ヒ ぶん ポルト づル ふれ い しゃ ふうり がくもん を そ 

.惡 魔 も 味方に はして ゐな いのです。 喉 阿媽港に ゐた 時分、 葡萄牙の 船の 醫 者に、 究理の 學 問を敎 

;' つち やくだ お ほ ぢゃ うまへ ね キ おも くわん ぬき は-つ 

はりました。 それ を實 地に 役立てさへ すれば、 大きい 錠前 を报ぢ 切ったり 重い 閂 を 外したり 

する の は、 格 训むづ かしい 事ではありません。 (微笑) ケ までにない 盜 みの 仕方、 —— それ も 日本 

い みかいと ち ひふ じ か てつば う と らい どうやう せいやう を そ 

と 云 ふ 未 11 の 土地 は、 十字架 ゃ鐵 砲の 渡來と 同様、 やはり 西洋に 敎 はった のです。 

ひと うち ほうで うや うち なか くら にう か あた 

わたし は 一とき とたたない: s: に、 北 條屋の 家の 中には ひって ゐ ました。 が、 一 g い 廊下 をつ き 営 

おどろ こと よふ ほ かげ はな 一- r ぶ • こ ざ しき 

ると、 驚いた 事に はこの 夜更けに も、 まだ 火影の さして ゐる ばかり か、 話し 聲の する 小 座敷が あ 



ようす ちゃしつ ちが 二が らし ちゃ 

ります。 それが あたりの 容子 では、 どうしても 茶室に 違 ひありません。 「風の 茶 か」 11 わたし は 

く i う そ こ しつ よ じっさい とき ひと ごる; し ご; こ « 

さう 苦笑しながら、 そっと 其處へ 忍び寄りました。 實際 その 時 は人聲 のす るのに :;:M5iii- の S 魔 を 

おも r かこ なか や しゅじん きゃく き - なかま , _ * ノ ふうり, ノ 

思 ふよりも、 數寄を 凝らした 圍 ひの 中に、 この 家の 主人 や 客に 來た仲 問が どんな 風流 を樂 しん 

でゐ るか? そんな 事に 心が 惹 かれた のです。 

1 の" 外に 身 を 寄せる が 早い か、 わたしの •? ^に は m あった 通り、 釜の たぎり が は ひりました。 が、 

おと どうじ いぐ わい たれ はなし な こ ゑ , 5 ^.^ ^ * 

その 昔が すると 同時に、 意外に も 誰か 話 をして は、 泣いて ゐる 聲が閱 える のです きか —— と 

、 こ ど き をん な 、こと いたいけ ちわ ダ- しき ゝ 

まふよりも それ は 二度と 聞かす に、 女 だと 云 ふ 車 さへ わかりました。 かう 云 ふ 大家の 茶 鹿 敷に 

まよな、 んな な ^ ただごと いき まま さ 1- は 

眞 夜中 女の いて ゐ ると 云 ふの は、 どうせ 唯 事ではありません。 わたし は J を ひそめた 使 幸り 

あ ふすま すき ちゃしつ なか つ 一 て ' : D 

明いて ゐた 襖の 隙から、 茶室の 中を舰 きこみました 

あんど i" ひかり てら こ しきし とこ も Q か f な いれ んも く Iwi^,^ til > なか :、pg 

IHt の I? に 照され た、 古色 紙ら しい 床の 懸け 物、 懸け 花 入の 露 菊の花 —— 圍 ひの 中には 御 約 

、どま も さ おもつ き た ir- よ とこ まへ ちゃう ど まし やう めん す. 1 ん" 卜丄 ,、 

束?! り、 び^ 勢 か St つて ゐ ました。 その 床の 前、 11 丁度 わたしの 3 呉 正面に 坐った 老人 は、 

しゅ ヒん .P さう, R もん なに こま からくさ は おり りゃう, T で く- ほほ ほ 4^ んど • め-、 

も 人の 雾ニ右 , 門で せう、 何 か 細かい」 は 草の 羽織に、 ぢ つと 兩腕を 組んだ 儘、 殆 よそ 脱に 見た の 

1 まこ. T M き や ヒー う ゑ もん しもざ ひん い かう がい まげ らうち よ ひ. V9 

8 では、 、^まの ずえ 音で も 聞いて ゐる やうです。 彌三 右衛門の 下座に は、 品の 好い 笄^ の 老女が 一 人 



I 



記 恩 報 



81 



よ-一が ほ み まま と 孑 ど. * にな"" だ ぐ 

. これ は 横顔 を 見せた 儘、 時時 淚を 拭って ゐ ました。 

「いくら 不自由が ないやう でも、. やはり 苦勞 だけ は あると: 15;; える。」 わたし はさう 思 ひながら、 

自然と 微笑 を: らした ものです。 微笑 を、 —— かう !!ム つても それ は 北條屋 夫:^ に、 悪意が あった 

のではありません。 わたしの やうに 四十 年 問、 惡名 ばかり 负 つて ゐる ものに は、 他人の、 —— 殊 

J< . たにん ふかう しぜん び ゆ-う うか ざんこく へう ひやう とき ふつ ふ 

に 幸 ii らしい 他人の 不幸 は 自然と 微笑 を 浮ばせる のです。 (殘 酷な 表情) その 時 も わたし は 夫:;! 

の 孰き が、 歌舞伎 を 見る やうに 愉快だった のです。 (皮肉な 微笑) しかし これ はわた し 一人に、 

つた 辜で はありますまい。 誰に も 好まれる 草紙と へば、 悲しい 話に きまって ゐる やうです。 

彌三右 德門は 少時の 後、 吐息 をす る やうに かう 「ム ひました。 

「もうこの 羽 になった 上 は、 泣いても 喚いても 取 返し はっかない。 わたし は 明日に も の もの 

ひま こと けっしん 

に、 暇 を やる 事に 決心 をした。」 

とき またはせ かぜ ちゃしつ ゆ -,*5 ま. さ や V; う ろ; t 

その 時 又 烈しい風が、 どっと 茶 窒を搖 すぶりました。 それに 聲が 紛れた のでせ う。 彌 三右衞 n 

なレ. ぶ.,? V とば, なん い しゅじん うな-つ り r 、う VJ > ざ r つ、 ,、 

の內 傲の 言葉 は、 何と 云った の だか わかりません。 が、 主人 は 額きながら、 を膨の 上に 机み 

あは- 、あじろ てんじゃう め あ ふと まゆ とが ほ ま. hi ね こと き よバ め , り 

合せる と 網 代の 天井へ 股 を 上げました。 太い 尖った 概化、 殊に 切れの. eg い n 化、 11 これ 



たし み みほ どいつ いちど あ か始 ) 

は 確かに 見れば 見る 程、 何時か 一度 は會 つて ゐる顏 です 

ある ヒ ビま なに われわれ ふうふ こころ さほ .1^ から .=2Jf 八 、ベお 、 

「おん 主 、「えす • きりすと」 様。 何と ぞ 我我 夫婦の 心に、 あなた 様の 御 力 を 御 み 下さい。 …… 」 

や VJ 5 ゑ もんめ と まま おいの ことば つぶや はじ o-.r-is; よ 、 を-つ ソ— - -^^^v ) 

彌三 右衛門 は 服 を 閉ぢた 儘、 御 祈りの 言葉 を 眩き 始めました。 老女 もや はり 夫の やうに 天帝の 

^ ご >ー あ ひだまた た や さ う ゑ もん み: つ-つ、 ^ : - 

加護 を 乞うて ゐる やうです。 わたし は その 問 瞬き もせす、 彌 三右衞 門の 額 を見總 けました する 

また こがらし わた とき こころ ひらめ に じふ ねんい ぜん き おく - , は,..!^,、、 I . ^力 

と 又 風 の 渡った 時、 わたしの 心に 閃いた の は、 二十 年 以前の 記憶です わたし はこの 記 惊のリ 

や V」 う -么 もん すがた とら 

に、 はっきり 彌三 右衛門の 姿を捉 へました。 

その 二.^!. 以前の 記憶と 云 ふの は、 — いや、 それ は 話す に は 及びますまい。 唯 手 短に _5_H^ だ 

, あ ま か は わた とき あるに ほん せんどう あや ふ い C ち たす もら. - - ) 

け 云へば、 わたし は 阿媽港に 渡って ゐた 時、 或 日本の 船頭に 危ぃ命 を 助けてお ひました その 時 

は 互に 名乘り もせす、 それなり M れて しま ひました が、 んマ わたしの 見た 彌三右 4^ 門 は、 <ぉ 年の 船 

どう ちが ^-. ぐう おどろ らう じん かほ み まも ノニ 

頭に 違 ひない のです。 わたし は 奇遇に 驚きながら、 やはり この 老人の 額 を 見 i 寸 つて ゐ ました さ 

, ゐ かた ゆび ふし ふと て かっかう いまだ V- ん n せう しほ びゃ^J^んゃ!^^ 

う Tk へば 威 かつい 肩の あたりや、 指 節の 太い, 手の 恰好に は、 来に 珊琐 確の 潮け むり や Qe^c 

勻 ひがしみ てゐる やうです。 

2 や さ う ゑ もん なが お い を は 1.0 ふ。^ よ ' :D . 

8 一 S 三 右衛門 は 長い 御 祈り を 終る と、 靜 かに 老女へ かう 一 }4 ひました。 



記 恩 報 



83 



ぁ 上 ただな に n と てんしゅ ; よい し だい おも よ かま さ ひ は + つや 

「跡 は 唯 何事 も、 天主の 御意 次第と 思うた が 好い。 . I では 釜の たぎって ゐ るの を 幸 ひ、 茶で も 

ひと た もら 

一 つ 立てて 貰 はう か?」 

^うぢよ いまさら あ なみだ こら きい へんじ 

しかし 老女 は 今更の やうに、 こみ上げる 淚を堪 へる やうに, 消え 人り さうな 返事 をし ました。 

「はい。 —— それでも まだ 悔やし いのは、 . I 」 

ぐ ち , ほうで うまる I づ な ぎん みなた ぶ 

「さあ、 それが 愚痴と 云 ふ もの ぢゃ。 北條 丸の 沈んだ の も、 拋げ 銀の 皆 倒れた の も、 —— 」 

「いえ、 そんな 事で は ございません。 せめて は悴の 彌三郞 でも、 ゐて くれれば と 思 ふので ござい 

ま 力 」 

し キ- うち 、ち ど び せう うか き こんど は-つで うや ユ うん 

わたし はこの を 聞いて ゐる 内に、 もう 一度 微笑が 浮んで 來 ました。 が、 今度 は北條 屋の不 ;.^ 

ゆく わい ん むかし おん かへ と.^】 き おも こと . ^れ メ 

に、 偸 快 を 感じた のではありません。 「昔の 恩 を 返す 時が 來た」 —— さう ふ 事が 嬉しかった ので 

お たづ も G あま か はじんない りつば おんがへ で き ゆく わい 、 

す。 わたしに も、 御 尊ね 者の 阿媽港 甚 にも、 立派に 恩返しが 出 來る偸 快 さは、 . 1 'いや この 

偸;^ さ を;^ る もの は、 わたしの 外に はありますまい。 C 皮肉に) 世 問の 一 舎 人 は 可?^ さう です。 何 一 

あくじ はたら か は くら ゐビん かう ほどこ とき うれ こころ _ , 

つ 惡事を 働かない 代りに、 どの位 善行 を 施した 時には、 嬉しい 心 もちになる もの か —— そんな 

こと ろ,、 し 

事 も 碌に は 知らないの ですから。 



なに ひと を しあ は くら ゐ 

「何、 ああ 云 ふ 人で なし は、 居らぬ だけに まだし も 仕 合せな 位ぢ や。 …… 」 

やさう ゑ もん に*,^-にが あんどん め そ 

彌三右 衞門は 苦苦し さう に、 行 燈へ服 を 外ら せました。 

「あいつが 使 ひ をった 金で も あれば、 今度 も 急場 だけ は 凌げた かも 知れぬ。 それ を E 心へば 勘當し 

たの は、 」 

や V.- う ゑ もん い おどろ なが おどろ むり 

彌三 右衞鬥 はかう IK つたなり、 驚いた やうに わたし を 眺めました。 これ は 驚いた の も 無理 は あ 

ときこ ゑ さか ひ ふすま あ ク 

りません。 わたし は その 時聲も かけすに、 堺の襖 を 明けた のです から。 . I しかも わたしの 身な 

い うんす ゐ すがた うへ あじろ か さ ぬ か は なん, t んづ きん 

りと 云へば、 雲水に 姿 を やつした 上、 網 代の 笠を脫 いだ 代りに、 南蠻 頭巾 を かぶって ゐ たのです 

から。 

「誰 だ、 おぬし は?」 

やさう ゑ もんとし と つ さ ひ ざ おこ 

彌三 右衛門 は 年 はとって ゐて も、 咄 .g- に 膝 を 起しました。 , 

おお どろ およ あ ま か はじんない い 、 • > fc ^ \ 

「いや、 御 驚きになる に は 及びません。 わたし は 阿媽港 甚內と 云 ふ ものです。 —— まあ 御^力 

くだ あ ま J 、し i じんない ぬすびと こんや とつ ぜス さん やう » ^-- Z ほ, か ゎ/.^,> I -. 

になす つて 下さい。 阿媽港 j.^ 內は盜 人です が、 今夜 突然 參 上した の は 少し 外に も訣が あるの て 

8 す。 -—— 」 



記 恩 報 



85 



づ きん ぬ や V,- う ゑ もん ま : すわ 

わたし は 頭巾 を脫 ぎながら、 彌三 右衛門の 前に 绝り ました。 

その後の 事 は 話さす とも、 あなたに は 推察 出來 るで せう。 わたし は北條 屋の危 ハ.. -を救 ふ-おに、 

みっか い にちげん いちにち たが ろ,、 ゥん ぐわん かね て-つ だつ おんが: やくそく わす 

三日と 云 ふ 日限 を 一日 も 違へ す、 六 干 貫の 金 を 調達す る、 恩返しの 約束 を 結んだ のです。 .—— 

たれ と そと あしおと や」 二 こんや ご めんく だ あ す 

おや、 識 か I:; の 外に、 足 昔が 聞え るではありません か? では 今夜 は 御免下さい。 いづれ 明::: か 

あ v.- つ て よる い 1^ ど こ こ しの き お ほく ろ す ほし ひかり あ ま か は そら かがや 

明後日の 夜、 もう 一度 此處へ 忍んで 來 ます。 あの 大 十字架の 星の f は 阿媽港の i や: に は 輝いて ゐて 

にっぽん そら み 4^- や う ど い につ ぼん すが た V .,0 

も、 日本の. 14- に は 見られません。 わたし も 丁度 ああ 云 ふやう に 日本で は 姿を晦 ませて ゐな いと、 

こんや ねが .-V- . たまし ひ ため 

今夜 「みさ」 を 願 ひに 來た、 「ぼうろ」 の 魂の 爲 にもす まない のです。 

なに に みち こと しんぽい およ たか てんまど お ほ 

何、 わたしの 逃げ 途で すか? そんな 事 は 心配に 及びません。 この 高い: 大 窓からで も、 あの 大 

だんろ ヒ いう じ ざい て ゆ つ くれ ぐれ おん ヒん たま— ひ ため 

きい 暖爐 からで も、 自. E 自在に 出て 行 かれます。 就いては どうか eKsK も、 恩人 「ぼうろ」 の 魂の 爲 

いっさいた n ん つつし くだ 

に、 一 切 他言 は 愼んで 下さい。 

北 條屋彌 三 右衛門の 話 

ぱ て れんさ ま ざんげ お ケ くだ ご しょうち -ご ざ ごろせ じ やう うは さ 

伴天連 樣。 どうか わたしの 徴悔を 御 聞き: 卜さい。 御 承知で も 御座いませ うが、 この 顷卟 上に^ 



たか あ ま 力 はじんない い ぬすびと P ごろ でら た ふ す 小. ノ J しゃ r/ 、わんび グ.、 た f 

の 高い、 阿媽港 甚 内と 云ふ盜 人が ございます。 根來 寺の 塔に 住んで ゐ たの も、 殺生 關. の 太刀 を 

. ぬす またと ほ うみ そと る そん たいしゅ おそ みな をヒこ き お 

盜ん だの も、 叉 遠い 海の 外で は、 呂宋の 太守 を 襲った の も、 皆 あの 男 だと か 聞き及びました。 そ 

うへ こんど いちで う もど ばし V ら くび い こと あるひ .: い 

れが たうとう 搦め とられた 上、 今度 一條 戾り 橋の ほとりに、 螺し 竹に なった と 云 ふ も、 或は 御 

みみ を あま か はじんない ひと かた だいおん かう. また だいおん 

耳に は ひって 居り ませう。 わたし は あの 阿媽港 甚: e: に 一方ならぬ 大恩 を 蒙りました。 が、 又 大恩 

かう む ただいま なん まや」 かなめ あ 

を 蒙った だけに、 唯今で は. 1W: とも 申し やうの ない、 悲しい 目に も 遇った ので ございます。 どうか 

し さい お き うへ つみ ほうで うや や V,- う ゑ もん てんてい ご ぶい れん お いの くだ 

その 仔細 を 御 聞きの 上、 E 非び と 北 條屋彌 三 右衛門に も、 天帝の 御 愛憐 を 御 祈り 下さい。 

ちゃ.. つ-どい ま に ねん い ぜん ふゆ こと r r つ-つ ため も ぶ, 4 

丁度 今から 二 年ば かり 以前の、 冬の 事で ございます。 すっとし けば かり 緩いた 爲に、 持ち船の 

ほうで うまる —づ な ぎん みなた ふ かさ あげく ほつ V.- つや いつか 

北 條丸は 沈みます し、 拋げ銀 は 皆 倒れます し、 11 それや これ やの 重なった 揚句、 北條屋 一家 は 

ぶん ざん ほか し かた よ め 一 ご しようち とほ ちゃう にん とり ひ V. 丄.. - 

分散の 外に、 仕方のない 羽目に なって しま ひました。 御 承知の 通り 町人に は 取引き 先 は ございま 

とも ま を われわれ か げふ しほ r, お ほ 

しても、 友 だち と 申す もの は ございません。 かう なれば もう 我我の 家業 は、 うづ 潮に 吸 はれた 大 

ぶね どうやう >_/l,v- ま な らく そこ お あるよ いま 

船 も 同樣、 まつ 逆様に 奈落の底へ、 落ち こむ ばかりな ので ございます。 すると 或 夜、 —— 今でも 

ぶ こと わす ある こがらし はげ よる ども ふうふ つ 一 ぞんじ かこ 

この 夜の 事 は 忘れません。 或 風 の 烈しい 夜で ございま したが、 わたし 共 夫婦 は 御存知の 園 ひに、 

vn よふ し はな を そ こ ヒリ ザん ま. ん つんす, すがた なんじん づ きん 

8 夜の 更ける の も 知らす 話して 居りました。 其處へ 突然 は ひって 參 つたの は、 、水の 姿に 南 s^.s 巾 



記 恩 報 



87 



を かぶった、 あの 阿媽港 甚內 でございます。 わたし は 勿論 驚き も すれば、 又 怒り も 致しました。 

が、 甚 の 話 を 聞いて 見ます と、 あの はや はり 盜みを 働きに、 わたしの 宅へ 忍び こみ ましたが、 

ち やしつ ノ. H だ ほ かげ ひと はな ご ゑ きこ ふすま ご e み ほ。 

茶室に は 未に 火影ば かり か、 人の 話し 聲が閱 えて ゐる、 そこで 換 越しに、 ^いて 見る と、 この 

で-つや や さ う る! もん じんない いのち たす 二と に じふ ねんい ぜん おん ヒん > い. 丄, まれ 

條屋彌 三 右衛門 は、 :;:^ 內の命 を 助けた 事の ある、 二十 年 以^の 恩人だった と カぅ云--T^t;-では 

ございません か? 

なる まど , み かれ 二れ に じふ ねん あ ま か は 力よ 

成程 さう 云 はれて 見れば、 彼是 二十 年に もな り ませう か、 まだ わたしが 阿媽港 通 ひの 一 ふす た」 

^の 船頭 を 致して ゐた 頃、 あそこへ 船が かり をして ゐる .2: に、 髭 さへ 碌にない 日本人 を 一人、 助 

こと なん とき はなし さけ うへ けんく わ たう じん ひ レ-り ころ 

けて やった 事が ございます。 何でも その 時の 話で は、 ふとした 酒の 上の 喧嘩から、 人 を 一人 殺 

した 爲に、 一 退 乎が かかった とか 申して 居りました。 して 見れば それが 八/日で は、 あの 阿媽港 高.!: 

. J4 . 力 す, 6 と と かく 卜ん ない ことば うそ 二と 

と T お ふ、 名代の 盜人 になった ので ございませう。 わたし は 鬼に 角?^ の 一一 一; :! 葉も噓 ではない $ がわ 

かりまし たから、 J 家の ものの 寢てゐ るの を 幸 ひ、 まづ その 用向き を 尊ね て ました。 

んなノ ま を をと こ ちから およ こと にじ ふねんい ぜん おんがへ- ほうで-うや- き 〈ふ 

すると 甚, 2: の 申します に は、 あの 男の 力に 及ぶ 事なら、 二十 年 以前の 恩返しに、 北條: tej の 危<^ 

を 救って やりたい、 差當り 入用の 金子の 高 は、 どの位 だと 尋ねる ので ございます。 わたし は は 



88 



く せう いた ぬすびと かね てう だつ もら - を > , 、 >, 、、- 、-ノ o II 

す 苦笑 致しました。 盜 人に 金 を 調達して 貰 ふ、 —— それが 可笑しい ぱ かりで は ございません か 

.1: に 阿媽港 甚內 でも、 さう 云 ふ 金が ある 位なら ば、 佝も わざわざ わたしの 宅へ、 盜 みに は ひるに 

あた きんだか ま を じんない 一一 くび かたむ V 二, ん や, U ' : ^ J i 

も當 りますまい。 しかし その 金高 を 申します と、 ^2: は 小 を 做け ながら 今 1 仪のト に はむ つ 力 

しいが、 三日 も 待てば 調達し ようと、 無造作に 引き受け たので ございます。 が、 佝 しろ 人れ なの 

ろく せんぐわん い たいきん てう だつ で キ- あ ,、 : . * 

は、 六 干 贯と云 ふ 大金で ございま すから、 きっと 調達 出來 るか どうか、 常て になる もので は ごさ 

いません。 いや、 わたしの 量 見で は、 まづ の ini をた のむ よりも、 覺 束ない と覺 1^ をき めて ゐま 

した。 

ひんない よ か ない いうい う ちゃ た うへ こがらし なか かへ ゆ ノ -r- ゝ 

甚: S は その 夜 わたしの 家 に、 悠悠と 茶 なぞ 立てさせた 上、 風の 中を歸 つて 1:;: きました 力 

よくじつ み やくそく かね とど ふっか め どうやう , み 5- 力 y 

その 翌日に なって 見ても、 約束の 金は屆 きません。 二日 目 も 同様で ござ; > ました 二日 n は i 

ひ ゆき よ い ち なに ひと たよ - - ^.^ > : 

—この 日 は 雪に なり ましたが、 やはり 夜に 人って しまった 後 も、 何 一 つ 便りはありません。 わた 

まへ じんない や,、 そく あて を ま & あ, - -) ' . みハ- ほ だ I -. 、 

し は. 前に 茶 內の約 は、 當 にして 居らぬ と 申し上げました が 店の ものに も 暇を屮 I さす .Iw, ィ 

まか ところ み いくぶん こころ ま ま ♦ - *s^, - ..^'^ 

きに 任せて ゐた所 を 見る と、 それでも 幾分 か 心待ちに は、 待って ゐ たので ございませう 乂. H 際 

みっか め よ > こ あんどん むか ゆきを おと たび-, に. - . あに . J : - . '^i 

三日 目の 夜に は、 圍 ひの 行燈に 向って ゐて も、 雪 ^ れの 昔の する 度;;^ に W き 斗 は 力り. ^上て て Rii 



9 りました。 

^^ヨ^も^ ぎた^ ギ ^lisk おの #i、 おの^み^ ふらしい が M える では ござ 

いません か? わたしの "心に 閃いた の は、 勿論 甚內の 身の上で ございます。 もしゃ 拙り チ でも か 

かった ので はない か? —— わたし は 咄嗟に かう ひました から、 庭に 向いた 障子 を 明ける が い 

か、 s^i のガを 蠍げ て ました。 11 の^い のまに は、 お i£ の 垂れ 伏した あたりに, 謙 か 二 

\ \ C 3 i や、 二よ々 I かけ 

!<« み^って ゐる 11 とず ふと その 一 人 は、 飛び かかる 相手 を 突き放し たなり、 庭木の 隐を くぐ 

る やうに、 M ザぎ の 方へ 逃げ出しました。 雪の はだれ る 昔、 群に 攀ぢ 登る 音、 —— それぎ りひつ 

そりして しまったの は、 もう 佝處か 街の 外へ、 無事に 落ち延び たので ございませう。 が、 突き 《 

された^ の ひ 一と: < は、 |g ま を? S うと もせす、 體の 雪を拂 ひながら、 ぎ かに わたしの" ヘルみ 

寄りました。 

「わたしです。 阿媽港 甚^です よ。」 

報 わたし は? i^k に とられた 赠、 K ほの りました。 茶 S は 今夜 も 南蠻敗 巾に、 を 

恩 , 

H 着て ゐ るので ござい ます。 



V」 わ たれ くみう おと め V.- ま し あは 

「いや、 とんだ 騷ぎ をし ました。 誰も あの 組 打ちの 昔に、 服を覺 さねば 仕 合せです が。」 

甚內 は圍ひ へ は ひると 同時に、 ちらりと 苦笑 を 洩らしました。 

なに し く ちゃう ど たれ ゆか した は 

「何、 わたしが 忍んで 來 ると、 丁度 誰か この 床の 下へ、 這 ひこ まう とする ものが あるので す。 そこ 

ひとて ど うへ かほ み おも に 

で 一 つ 手捕りに した 上、 額 を 見て やらう と 思った のです が、 たうとう 逃げられて しま ひました。」 

とほ 上 て しんば い やくにん た-つ み 

わたし はま ださつ きの 通り、 捕り手の 心配が ございま したから、 役人で はない かと; If ねて 见ま 

ヒん ない やて にん どころ ぬすびと ま を ぬすびと ぬすびと とら 

した。 が、 甚內は 役人 所 か、 盜人 だと 申す ので ございます。 盜 人が 盜 人を捉 へようと した、 11 

くら ゐ: Q づら こと こんど じんない かほ し ビん く ^/J 

この 位 珍しい 事 は ございますまい。 今度 は甚內 よりも わたしの 額に、 自然と 苦笑が 浮びました。 

と かく てう だつ せいひ き うち ニニろ やす じんない 

しかし それ は 鬼 も 角 も、 調達の 成否 を 聞かない 內は、 わたしの 心 も 安 まりません。 すると:;::^」. 2 は 

い さき こころ よ いうい う どう ま ろ まへ 

云 はない 先に、 わたしの 心 を讀ん だので ございませう、 悠悠と 胴卷 きを ほどきながら、 爐の へ 

かね づ つ なら 

金 包み を 並べました。 

ご あんしん ろく せんぐわん く めん じつ キ -G ふ ち たいていて うだつ 

「御 安心なさい、 六 干 貫の 工面 はっきました から。 11 實 はもう 昨日の, £ に、 大抵 調達した ので 

にひゃく わ / ほ ど ふ そ,、 こんや も き つつ う と 

すが、 まだ 二百 貫 程 不足で したから、 今夜 は それ を 持って 來 ました C どうか この 包み を 受け取つ 

P くだ またき つ ふ あつ かね がた-ご ふうふ し ,2 つ ちゃしつ かした かく 

9 て 下さい。 又 昨日までに 禁 めた 金 は、 あなた 方 御 夫婦 も 知らない 內に、 この茶窒の」^^:下 へ^して 



記 恩 報 



91 



は. お ほかた 二/や ぬすびと かつ- も, 

ijll きました。 大方 今夜の 盜 人の やつ も、 その 金 を g< ぎつ けて 來 たので せう。」 

ゆめみ い こと ゴ キ- ぬ f び 上 かね ほどこ 60 

わたし は 夢で も 見て ゐる やうに, さう 云 ふ 言葉 を 聞いて ゐ ました。 盗人に 金 を 施して 貫 ふ、 — 

ういが たし よ こと てう だつ で き 

1 それ は あなたに 伺 はないでも、 確かに 善い 事で は ございますまい。 しかし 調達が- m 來る かどう 

はんしん よんぎ さか ひ とき ぜん あ/、 かんが を またい ま み つ 

か、 半信ギ 疑の 境に ゐた時 は、 善 惡も考 へす に 居り ましたし、 又 今と なって 见れ ば、 むげに 受け 

と ま を か; i うと . いっか 

取らぬ とも 申されません。 しかも その 金 を 受け取らない となれば、 わたしば かり か 一象の もの も、 

ろ とう まよ こころ -ご れス びん お く は くだ い 

路頭に 迷 ふので ございます。 どうか この 心 もちに、 せめて は 御 憐偶を 御 加へ 下さい。 わたし は, 1: 

つ じぐよ" ま、 うやう や りゃうて まま なに ま を な を 

時か甚 内の 前に、 恭しく 兩乎 をつ いた 儘、 何も 申さす に 泣いて 居りました。 …… 

C ち に ねん あ ひだ じんない うは さ き を ぶんさん つえが 

その後 わたし は 二 年の 間、 甚內の 噂 を 聞かす に 居りました。 が、 たうとう 分散 もせす にせ 心ない 

ひ f みな じんない おかげ いつ をと こ し あは ため ひとし 

その 日 を 送られる の は、 皆 苗 内の 御藤で ございま すから、 何時でも あの 男の 仕 合せの 爲に、 人知 

よは VJ ま きぐわん ところ 

れす おん 母 「まりや」 樣へ も、 蕭願を こめて ゐ たので ございます。 所が どうで ございませう、 この 

ごろ わう らい はなし き あま か はじんない お めしと うへ もど ばし くび V, ら ま を 

頃 往來の 話 を 聞けば、 阿媽港^. 2: は 御 召 捕りの 上、 戻り 橋に 首 を 鳴して ゐ ると、 かう 中す では ご 

おどろ いた ひとし なみだ おと チヤ あく わくい おも 

ざいません か? わたくし は 驚き も 致しました。 人知れ す淚も 落しました。 しかし 積. ネ-の 報と m 心 

いた かた むし なかねん てんばつ う を 

へば、 これ も 致し方 は ございますまい。 いや、 寧ろ この 永年、 天罰 も 受けす に 居り ましたの は、 



Fik だった ございます。 が、 せめても の 恩返しに、 陰ながら: 1: 向 をして やりたい。 !. か 

.0 ナふ とも さっそくい ちで う もど ばし さら ノ、 び 

う i つた もので ございま すから、 わたし はや 日 伴 もつれす に、 早速 一條 炭り 梳へ. その 曙し >= を 

み まゐ 

見に 參 りました - 

;^し n- くび さら まへ おほ^い ひと を てい ややう 

戻り 樹の ほとりへ 49 ますと、 もう その 首を暢 した 前に は、 大勢 人が たかって 居ります 

を した: £ おのが のき y する s?^^^ I それ は! :| もと 穿り ません。 が、 三本 組み合せた、 

おのお にず t て ある 首 は、 —— ああ、 そのむ ごたら しい ま まみれの 首 は、 どうしたと 云 ふので 

さ-つ ざう ひと なか あ を くび み 、- はや 、、お t : < i 一 

ござ ハ ませう? わたし は騷騷 しい 人だかりの 中に、 蒼 ざめ た 首 を EB^ るが nt い 力 &-はす:ぶち1,^ 

くび をと こ あま か はじんない くび 、 -ノ 

くんで しま ひました。 この 首 は あの 男で は ございません。 阿媽港^ 内の 首で は ございません こ 

.?| ip つで ほ ま み けん かたなき す なに ひと じんない r- & ノコ 

の だい 1、 この k き 出た 観、 この 眉 問の 刀 創、 —I 何 一 つ 甚內に は 似て 居りません し 力し I 

rviu り ひと ヒ r うへ C .V ら くび みな ど こ とほ 

1 わたし はお 日の 15 も、 わたしの ま はりの ぶ だかり も、 れの 上に g せた 曝し 贺も、 皆 何 處か遠 

r ^ > J つも くら ゐ す おどろ "つ-そ くび ー /な..' 

い ft へ、 ^れ てし まった かと, 心 ふ 位、 い 驚きに 纏 はれました。 この 竹 は 茶 €: では ございま 

、< - _ .ュふ^-ん> f C ちゃう どヒん ない いのち たす こん 

せん。 わたしのお でございます。 二十 年 以前の わたし、 11 丁度 甚內の 命 を 助けた、 その の わ 

^ たしで ございます。 ry^li !」 i わたし は 舌 さへ 動かせたなら、 かう 叫んで ゐた かも. 5- れ ませ 



記 恩 報 



93 



ん。 が、 聲を 揚げる 所 かわた しの 體は疲 を 病んだ やうに、 . 鼓 へて ゐる ばかりで ございました." 

r さぶ う ただ ま ろし せがれ さら くび なが くび あ ふむ ままな か ひら 

彌 三郞! わたし は 唯 幻 の やうに、 俘の 曝し首 を 眺めました。 竹 はや や 仰向いた 儘 半ば? 1 い 

まぶた した み まも を .t- け せ. P ホ. t< に 

た陋の 下から、 ぢっ とわたし を 見守って 居ります。 これ はどうした; t;T^ で ございませう? 作 は 何 

かの 問 遠 ひから、 甚 ts: と 思 はれた ので ございませ うか? しかし 御 4, 味 も 受けた とすれば、 さう 

1 まちが ピー あま か はじんない 力 ホ 

云 ふ 問 違 ひ は 起り ますまい。 それとも 阿媽港^ 內と いふの は、 悴 だった ので ございませ うか? 

たく き に i- うんす ゐ たれ じんない なまへ か べつじん -、、 -,, > 

わたしの 宅へ 來た赞 雲水 は、 誰か 甚內の 名前 を假 りた、 別人だった ので ございませ うか? いや- 

そんな 害 は ございません。 三日と Tk ふ 日限 を I 一日 も 遠へ す、 六 千? A の 金 をェ而 する もの は、 この 

廣ぃ 日本の 國 にも、 甚內の 外に 誰が 居り ませう? して 见 ると、 —— その 時 わたしの 心の 屮には 

二 年 以前 雪の 降った 夜、 甚 内と 庭に (ザって ゐた、 誰と も 知らぬ 男の 姿が、 < !. わに はっきり 浮んで 參 

りました。 あの は 誰だった ので ございませう? もしゃ 作で は ございますまい か? さう 云へ 

ば あの 男の 姿 かたち は、 ちらりと 一目 見た だけで も、 どうやら 作の 彌三郞 に、 ^てゐ たやう でも 

ございます。 しかし これ はわた し 一人の、 心の 迷 ひで ございませ うか? もし 悴 だった とすれば 

—— わたし は 夢の めた やうに、 しけ じけ 首 を 眺めました。 すると その 紫ばん だ、 妙に 緊り のな 



94 



くちびる なに ほほ ゑみ ちか も Q つ-こ 

ぃ替に は、 何 か 微笑に 近い 物が、 ほんのり 殘 つて ゐ るので ございます。 

i くび . ほほ ゑみ のこ ことお き i 、一 , 

嗎し 宵に 微笑が 殘 つて ゐる、 11 あなた はそんな 事 を 御 聞きに なると、 難ソ £ ひになる かも:^, e 

ません。 わたし さへ それに 氣の ついた 時には、 服の せゐ かと も 一" ひました。 が、 M ぎ? しても、 

- ) ^ i ベち びる たし ほほ &み あかる ただよ ,J 

その 干 力ら びた 替に は、 確かに 微笑ら しい 明み が、 漂って ゐ るので ございます。 わたし はこの 

し、 ギ r ほほ ゑみ なが あ ひだみ い を . つ . ^ほ is 、ス ク, t J 

田え 議な 微笑に、 永い 間 見入って 居りました。 と、 何時か わたしの 蘇に も、 やはり 微 ii- が あんで 5_ お 

ほほ ゑみ うか どうじ め し ビん あつ なみ ど だ X 

りました しかし 微笑が 浮ぶ と 同時に、 眼に は 自然と 熱い 淚も、 にじみ 出して 來 たので ございま 

す。 

とう かんにん くだ 

「お父さん、 勘忍して 下さい。 —— 」 

ほほ- 么み む ごん うち ま を 

その 微笑 は 無言の 內に、 かう 申して ゐ たので ございます。 

「お父さん。 不孝の s-は 勘忍して 下さい。 わたし は 二 年 以前の 雪の 夜、 mlsl:!^ びが したいば 

うち しつ ゆ ひるま みせ み t- つ - 

力り に そっと 家へ 忍んで 行きました。. 晝問は 店の ものに 見られる のさへ、 恥じい なり をして ゐ 

よ? S ま うへ とう T* まとん」: V ) 

ましたから、 わざわざ 夜の 更ける の を 待った 上、 お父さんの 間の 戶を ゆいても、 I:, にか かる 

ところ かこ しゃう じ ほ . デ さ^ょ そ- - : : V, 

つもりで ゐ たのです。 所が ふと 圍 ひの 障子に、 火影. のさして ゐ るの を セ f ひ、 其^へ づぉづ P き 



記 恩 報 



95 



たれ うしろ ことば くみ 

かける と、 いきなり 誰か 後から、 言葉 も かけすに 組つ きました。 

A 一う さき し とま ちま ふ い 

「お父さん。 それから 先 はどうな つた か、 あなたの 知って ゐる 通りです。 わたし は 餘り不 怠 だつ 

ため とう すがた み はや あ ひ 匸 V ふ-も つ はな たかべ い そ 上 に 

た爲、 お父さんの 姿 を 見る が 早い か、 相手の 曲者 を 突き放し たなり、 高, の 外へ 逃げて しま ひま 

ゆき あか み あ ひて すがた ふし ぎ う/す ゐ たれ お も C 

した。 が、 雪明りに 見た 相手の 姿 は、 不思議に も 雲水の やうで したから、 誰も追ふ^<;のなぃのを 

たしか のち いちど ちゃしつ そと だいたん しの い かこ しゃう ドつ j 

確め た 後、 もう 一度 あの 茶室の 外へ、 大膽 にも 忍んで 行った のです。 わたし は 闹 ひの 障子 越しに、 

いっさい はなし た V 

一 切の 話 を 立ち聞きました。 , 

とう ほう, うや すく ヒん ない いっか おんじん ヒん ない み き 今-ふ 

「お父さん。 北 條屋を 救った 茶 :!: は、 わたしたち 一家の 恩人です。 わたし はず の 身に 危<. -がぁ 

いのち なげう おん むく けっしん また おん かへ こと v タ くだう ,つ 

れば、 たと へ 命は拋 つても、 恩に 報いたい と 決心し ました。 又 この 恩 を 返す 事 は、 勘當を 受けた 

汗 浪人の わたしで なければ 出來 ますまい。 わたし はこの 二 年 問、 さう 1;ム ふ 機會を 待って ゐ ました。 

さう して、 1 1 その 機 會が來 たのです。 どうか 不孝の S 非 は 勘忍して 下さい。 わたし は 極道に 生れ 

ましたが、 ,1 家の 大恩 だけ は 返しました。 それが せめても の 心 やりです。 …… 」 

た, -、 かへ と ちう どうじ な わら ト がれ ほ 

わたし は 宅へ 歸る 途屮 も、 同時に 泣いたり 笑ったり しながら、 俘の けなげ さ を 褒めて やり まし 

つ J ぞんじ せがれ や さぶ らう どうやう ごしゅう もん キ- え を 

た。 あなた は 御存知になります まいが、 悴の彌 三郞も わたしと 同様、 御宗 門 に歸 依して 居り まし 



い なまへ いただ を 

たから、 もとは 「ぼうろ」 と 云 ふ 名前 さへ も、 預 いて 居った もので ございます。 しかし、 しか 

し 俘 も 不運な やつで ご, ざいました。 いや、 俘ば かりで は ございません。 わたし も あの 阿媽港^.?: 

いっか £ つら く す く な げ い た みれん お も 

に 一家の 沒 落さへ 救 はれなければ、 こんな 嘆き は 致します まいに。 いくら 未練 だと 思 ひましても ■ 

つ ぶんさん はう よ せがれ ころ お はう よ 

こればかり は 切なう ございます。 分散せ すに ゐた 方が 好い か、 谇を 殺さす に: まいた 方が 好い か、 

とつぜん くる お すく くだ ままい だいお n: じ n; じん 

. 1 (突然 苦し さう に) どうか わたし を 御 救 ひ 下さい。 わたし はこの 條 生きて ゐれ ば、 大恩 人の^ 

ない にく し なが あ ひだ すすりな.. 

內を 憎む やうになる かも 知れません。 (永い 問の 戯歉 ) 

「ぼうろ」 彌三郞 の 話 

i は V- ま よ あ し だい くび う こと 

ああ、 おん, 母 「まりや」 樣! わたし は 夜が 明け 次第、 首 を 打 たれる 事に なって ゐ ます。 わたし 

くぴ ち お たまし ひ こ とり お そば と ゆ あく 

の 首 は 地に 落ちても、 わたしの 魂 は 小鳥の やうに、 あなたの 御 側へ 飛んで;;;: くで せう。 いや、 惡 

事ば かり 働いた わたし は、 「は ら い そ」 (天 國) の莊 嚴を拜 する 代りに、 恐し い 「いんへ るの」 (地獄) 

まう; わ そこ ざ かお 上 し まん そく こ 二ろ によ tj.;^ 义 

の 猛火の 底へ、 逆落しになる かも 知れません。 しかし わたし は滿 足です。 わたしの V に は 二 i« 年 

6 1:". くらん-つれ こ 二ろ ど こと 

9 來、 この 位 嬉しい 心 もち は、 宿った 事がない のです。 



青 ilEl 報 



97 



ほ う で うや や V -.VJ- う V. らノび あ ま か はヒ ん な よ 

わたし は 北條屋 彌三郞 です。 が、 わたしの 爆し 首 は、 阿媽港^ 內と 呼ばれる でせ う。 わたしが 

あ ま か はじんない -ほど£:、ゎぃ こと あま か はじんない , な 

あの 阿媽港 甚内、 —— これ 程 愉快な 事が あるで せう か? 阿媽港: 1.^:5:、 —— どうです? 好い 名 

まへ な まへ くち くら らう なか r-z レ や。 f. 

ぶ别 ではありません か? わたし は その 名前 を 口にする だけで も、 この 暗い 牢の屮 さへ、 . 太 上の 普 

薇 や 百合の 花に、 滿ち 渡る やうな 心 もちが します。 

わす に ねんぜん ふゆ ちゃう ど あるお ほ ゆき よる ばくち もとで ちち -x/^^rs 

忘れ もしない 二 年 前の 冬、 丁度 或 大雪の 夜です。 わたし は 博奕の 元手が * しさに、 父の^ 宅へ 

忍び こみました。 所が まだ 圍 ひの 障子に、 火 is がさして ゐ ましたから、 そっと 其 處を窺 はう とす 

ると、 いきなり 誰か 言葉 も かけす、 わたしの 襟 上を捉 へた ものが あります。 掘り 拂ふ、 义摘 みか 

V- ► あ, ひて. —し ら たくま 二と た-つて いただ おも 

かる, —— 相手 は 誰 だか 知らないので すが、 その 力の 逞しい 事 は、 到」 迸 唯 ものと は 思 はれません。 

のみなら す T 一三 度 揉み合 ふ內 に、 茶室の 障子が 明いた と 思 ふと、 庭へ 行燈を さし 出した の は、 紛 

ノ 、 ヽちー ftj さ, T ; *】 もん > いっしゃ 'けんめい つか わな ぐら ふ き たかべ い そと 

れ もない 父の 彌三 右衞鬥 です。 わたし は 一生懸命に、 摑 まれた 胸 含 を 掘り 切りながら、 古 问辨の 外 

へ 逃げ出しました。 

, はんち やう ほどに G ある きした かく わう らい ぜんご み ま. は わ 'にい 

しかし 半 町 程 逃け 延びる と、 わたし は 或 軒下に 隱れ ながら、 往來の 前後 を见 廻し ました。 柱夾. - 

よ め しろじろ ときどき ゆきけ む あが ほか どこ VT こ み h^r. 

に は 衣目に も 白白と、 時時 雪煙り が揚る 外に は、 何處 にも 動いて ゐる もの は兑 えません。 相, は 



あ? お 一一 をと 二 なに し-つい, 

諦めて しまった のか、 もう 追 ひか けても 來 ないやう です。 が、 あの 男 は 何もので せう? 咄^の 

あ ひだ み ところ たし そうぎゃう うで つよ み 二と へい は. - 

間に 兄た 所では、 確かに^ 形 をして ゐ ました。 が、 さっきの 腕の 强さを 兄れば、 ,—— 殊に 兵法に 

く は み よ つね ",うす だいいち い お ほ ゆき よ に は 、いき たれ どう 

も 精し いの を 見れば、 世の常の 坊主で はありますまい。 第一 かう 云 ふ 大雪の 夜に、 庭先へ 誰か 坊 

主が 來てゐ る、 —— それが 不思議ではありません か? わたし は 少時 思案した 後、 たと ひ 危ぃ藩 

たう と かく いちど ちゃしつ そと し Q よ こと けっしん 

當 にしても、 觅に 角もう 一度 茶室の 外へ、 忍び寄る 事に 決心し ました。 

いっとき ころ あや あんぎゃ ば-つす ちゃう ど ゆき や V,. いは や が は 

それから 一時ば かりたった 頃です。 あの 怪しい 行脚の 坊主 は、 丁度 雪の 止んだ の を 幸 ひ、 小川 

ど ほ , だ ゆ あ ま か はじんない さむら ひ れんが し もやう にん 二 む そう なん 

通り を 下って 行きました。 これが 阿媽港 甚內 なのです。 侍、 連歌師、 町人、 虚無^、 i 佝 にで 

すがた か い らくちう な だか ぬすびと あと み がく じんない おと 

も 姿を變 へる と 云 ふ、 洛中に 名高い 盜人 なのです。 わたし は 後から 見え隠れに 甚 -2: の 跡 をつ けて 

ゆ とキ- ほどめう うれ こと いちど ちが あ ま , い,!!!— ん ない 

行きました。 その 時 程 妙に 嬉しかった 事 は、 一度 もなかつ たのに 遠 ひありません。 阿媽港 i^.:^:! 

あ ま か. ほじん ない てら ゐ ゆめ うち をと こ すがた した せっしゃう くわん ばく た ち 

阿媽港 甚內! わたし は どの位 夢の 中に も、 あの 男の 姿 を 慕って ゐ たでせ う。 殺生 關 白の 太刀 を 

ぬす ヒん ない しゃむろ や さんご じゅ .f た じんない ぴ ぜんさい しゃう きわら き 力 

盗んだ の も甚內 です。 • 沙窒屋 の 珊瑚 樹を詐 つたの も甚. s: です。 偏 前 宰相の 伽羅 を 切った の も、 小 

ピタ ン と けい う "二 、ちゃ ハっ ど てう やぶ はち にん みへ" は ざ むら ひ .*: た ふ 

比 丹 「ぺ れいら」 の 時; ii;- を 奪った の も、 一夜に 五つの 土藏を 破った の も、 八 人の 參河侍 を 斬り 倒し 

00 ほか まつだい つた け う あくじ はたら いつ あま か はじんない 

9 たの も、 —— その外 末代に も傳 はる やうな、 稀 有の 惡事 を勵 いたの は、 何時でも 阿媽港^. S: です。 



記 恩 報 



99 



ヒ えない いま まへ あ じろ かさ かたむ ,つす あか ゆきみち ある - 

その 內は今 わたしの 前に、 網 代の 笠 を 傾けながら、 薄明る い 雪 路を步 いて ゐる。 11 かう ふ 

姿 を 眺められ るの は、 それだけ でも 仕 合せではありません か? が、 わたし はこの 上に も、 もつ 

し あは 

と 仕 合せ になり たかつ たのです。 

じ や ごん じ うら ,、 いつさん じんない お こ 二 ちゃう か ど ベ、 ごつ 

わたし は淨嚴 寺の 裏へ 來 ると、 一散に 甚內へ 追 ひっきました。 此處 はすつ と 町家の ない 土 

ひる ひとめ さ いちばんお あつら ばしょ r/ にな 

きになって ゐ ますから、 たと ひ晝 でも 人目 を 避ける に は、 一恭 御 跳への 場所な のです が、 :B?..f は 

み かくべ つお どろ け しき み しづ ぞ 二 あし と つも J 

わたし を 見ても、 格別 驚いた 氣色は 見せす、 靜 かに 其 處へ足 を 止めました。 しかも 杖 をつ いたな 

ことば ま ひとこと くち き じっさい おそ おそ じん まへ 

り、 わたしの 言葉 を 待つ やうに、 一 言 も 口 を 利かない のです。 あたし は W 際 恐る恐る、 :j:^rt の 前 

て おちつ かほ み おも こ ゑ で ャ- 

に 手 をつ きました。 しかし その 落着いた 薪 を 見る と、 忍 ふやう に聲 さへ 出て 來 ません。 

しつれい ご めんく だ ほうで うや や さ う ゑ もん せがれ や さぶ らう ま を 

「どうか 失禮は 御免下さい。 わたし は 北 條屋彌 三 右衛門の 体 彌三郞 と 中す ものです。 11」 

わたし は顏を 火照らせながら、 やっと かう 口 を 切りました。 

r 實は 少し 御 願 ひがあって、 あなたの 跡 を Si つて 來 たのです が、 …… 」 

じんない ただうな-つ き ひ くら ゐ ありがた き 

甚. M: は 唯 額き ました。 それだけ でも 氣の 小さい わたしに は、 どの位 難 有い ハ湫 がした でせ う。 わ 

ゆうき で キー ゆき なか て .vrr かズ だう う こと-ま 

たし は 勇氣も 出て 來 ましたから、 やはり 雪の 中に 手 をつ いたな り、 父の 勘當を 受けて ゐ る^、 ゲ 



なかま こと こんや 4f ち う も 穴」 1- ところ はか んなぃ 

は あぶれ ものの 仲 問に は ひって ゐる 事、 今夜 父の 家へ 盜 みに は ひった 所が、 計らす:!: „ ^內 にめ ぐり 

あ 二と またち ち じんない みつだん ひと C 二 & こと こと てみ じか はな 

合った 事、 なほ 叉 父と 甚內 との 密談 も 一 つ 殘らす 聞いた 事、 11 そんな 事 を 手 短に 話しました。 

じんない あ ひか は..: す もくねん くち つぐ まま ひや み よ なし 

が、 甚 內は不 相變、 默 然と 口 を 襟んだ 儘、 冷やかに わたし を 見て ゐ るので す。 わたし は その を 

いっそう ひざ すす じんない かほ C そ 

してし まふと、 一 曆膝を 進ませながら、 甚內の 顔 を^き こみました。 

ほうで, ついつ か かう む おん また おん わす 

「北條 一家の 蒙った 恩 は、 わたしに も 亦 かかって ゐ ます。 わたし は その 恩 を 忘れない しるしに、 

あなたの 手下になる 決心 をし ました。 どうか わたし を 使って 下さい。 わたし は 盜みも 知って ゐま 

ひ すべ し ほか ひとと ほ あくじ ひと おと し 

す。 火 をつ ける 術 も 知って ゐ ます。 その外 一通りの 惡事 だけ は、 人に 劣らす 知って ゐ ます。 —— 」 

じんない だま むね を ど いよいよね つ しん と た 

しかし 甚 內は默 つて ゐ ます。 わたし は 胸 を 躍らせながら、 愈 熱心に 說き 立てました。 

つか /、だ かなら す. ほたら き やう ふしみ r-v^ おほ^か し 

「どうか わたし を 使って 下さい。 わたし は 必 働きます。 京、 伏 見、 堺、 大阪、 11 わたしの 知 

と ち ぃ+^-にち ヒ ふご り ある ち. A ら し 上 ベう か たて す: か ひと 

ら ない 土地はありません。 わたし は 一 日に 十五 里步 きます。 力 も 四 斗 恢は片 乎に 擧 ります。 人 も 

に さんにん ころ み つか くだ ため し 

二三 人 は 殺して 見ました。 どうか わたし を 使って 下さい。 わたし は あなたの 爲 ならば、 どんな 化 

ごと み ふしみ. しろ ,しろく ヒ やく ムす い ぬ き 

事で もして 見せます。 伏 見の 城の 白 孔雀 も、 盜 めと 云へば 、盗んで 來 ます。 『さん. ふらんし す こ』 

てら しゅろう やい ゃキ- 6 だいじんけ ひめぎみ かどは.,^^ い へ" ど はか f ぶ 

の 寺の 鐘樓 も、 燒 けと 云へば 燒 いて 來 ます。 右大臣 家の 姬 Si; も、 拐せ と 云へば 拐して 來 ます。 奉 



記 恩 報 



101 



? やう くび と い 

行の 首 も 取れと 云へば、 —— 」 

い とき ゆき なか r たん 

わたし はかう 云 ひかけ た 時、 いきなり 雪の 屮へ 蹴倒されました。 

「莫迦め!」 

じんない ひとこ ゑし か まま もと とほ ある ゆ 1 ヒん どき ち!;, 二 ,つも 

甚內 はー聲 叱った 儘、 元の通り 步 いて 行き さう にします。 わたし は 殆 氣違 ひの やうに 法衣の 

据へ 縫り つきました。 

「どうか わたし を 使って 下さい。 わたし は どんな 場合に も、 きっと あなた を 離れません。 あなた 

の 爲には 水火に も P< ります。 あの 『えそ ぼ』 の 話の 獅ぞ王 さへ、 一:^ に 救 はれる では ぁリ ません か? 

わたし は その 鼠になります。 わたし は、 11 」 

だま じんない き V. ま おん う 

「默 れ。 甚^ は贵樣 なぞの 恩 は 受けぬ。」 

卜.. んなぃ ふ は な い ち ど そ 一一 けた. ノ 

^內 はわた し を 振り放す と、 もう 一 度其處 へ ^倒しました。 . 

「白 癞 めが! 親孝行で もしろ!」 

にどめ け た ふ とき きふ くや ち ャ- 

わたし は 一 一度 目に 蹴倒された 時、 急に 口惜し さが こみ上げて 來 ました。 

おつ 

「よし! きっと^^になるな! 一 



じん-二- み かへ ゆきみち 、. そ ゆ いつ はじつ き ひかり ,. ^ヒろ 

しかし 甚內は 見返り もせす、 さっさと 雪路を 急いで 行きます。 何時か さし 始めた 月の 光に^ 代 

--さ に ねん おひ だ じんない み とつ どん 

の 笠 を 仄めかせながら、 …… それぎ り わたし は 二 年の 間、 すっと 甚內を 見す にゐ るので す。 (突 妙-; 

わら じんな、 き さま おん う を レー こ い よ J あ t - 

笑 ふ) r 甚內 は貴樣 なぞの 恩 は 受けぬ」 :… あの 男 はかう 云 ひました。 しかし わたし は 夜の 明け 次 

だい じんない か は ころ 

第、 甚內の 代りに 殺される のです。 

. はは さま に ねんかん じんない おん か へ く ぷ )、, る , . 、 

ああ、 おん 母 「まりや」 樣! わたし はこの 二 年 問、 甚內の 恩 を 返した さに、 どの位?!^:しんたか 

し お/." か/ おん い むし うらみ かへ 卜ん 

知れません。 恩 を 返した さに? いや、 恩と 云 ふよりも、 寧ろ 恨 を 返した さに です。 しかし 

な, どこ じんな. - な 二 た hi だいいち じんない 

內は何 處にゐ るか? 甚內は 何 をして ゐ るか? 誰に それが わかり ませう? 第 一 甚. 2 は どん 

をと こ し あ !. -1. 一 うんす ゐ し じふ 卞-ん --- -ー. 、 

な 男 か —— それさへ 知って ゐる ものはありません。 わたしが 遇った 赞 雲水 は w 十 前後の.^ で 

す。 が、 柳 町の 廓に ゐ たの は、 まだ 三十 を 越えて ゐ ない、 赧ら顏 に 鬚の 生えた、 浪人 だと 云 ふで 

か ぶ き こ や さわ い こし まが こうまう じん めう こくじ ざい はう ふ. け 

はありません か? 歌舞伎の 小屋 を擾 がした と 一 K ふ、 腰の 曲った 紅毛人、 妙國 寺の 財费を 掠めた 

い ま..、 がみ た わか ざ むら ひ い みな じ/ない / をと こ し 力-つ, い み, - わ/ ト に.;^ / 

と 云 ふ、 前髮の 垂れた 若侍、 —— さう 云 ふの を 皆甚內 とすれ ぱ、 あの 男の 正體を 見分ける 事 さへ 

たうて ハ じ/? りょく およ はす そこ • や」 よねん すゑ と けつ やま ひ ぶ , 、 , ,-o 

到底 人力に は ばない 害です。 其處へ わたし は 去年の 末から、 吐血の 病に 極って しま ひました 

うら,;^ ヽ ひ ごと や ほそ こと が/ 

どうか み を してやりたい、 —— わたし は 日毎に. 痩せ細りながら、 その 事 はかり を考 へて ゐ 



記 恩 報 



103 



…るよ こころ とつぜん ひらめ いつさく さま V *ii 

ました。 すると 或 夜 わたしの 心に、 突然 閃いた 一 策が あります。 「まりや」 樣! 「まりや」 様! 

いっさく お をし くだ お めぐ .1 つが ただ か- C だ す と 

この 一策 を 御敎へ 下す つたの は、 あなたの 御惠 みに 違 ひありません。 唯 わたしの 體を 指て る、 吐 

けつ やま ひ おとろ は ほぬ か は か,: だ す か,、 ご 

血の 病に 衰へ 果てた、 骨と 皮ば かりの 體を 捨てる、 —— それだけの 覺悟 をし さへ すれば、 わたし 

ほん まう と よ つれ あま いつ ひと わら おな こと 

の 本望 は 遂げられる のです。 わたし は その 夜 嬉し さの 餘り、 何時までも 獨り笑 ひながら.' 同じ 一 百 

J くり かへ じんない み が は くび う じんない み が は くび う 

紫 を 繰返して ゐ ました。 11 r 甚內の 身代りに 首 を 打 たれる。 ^^內の身代りに首を打たれる。 … 

…… 」 

甚內の 身代りに 首 を 打 たれる —— 何とす ばらしい 事ではありません か? さう すれば 勿論 わた 

、つ じんない つみ ほろ ヒん ない ひろ にっぽん こく ぢぅ ど こ ぉほゐ ばり ある 

しと 一 しょに、 甚內の 罪 も 亡んで しま ふ。 —— 甚: S は廣ぃ 日本 國中、 何處 でも 大 威- ==i^ に 歩け るの 

か は ふたた わら か は いちや うち き だい たい ぞく ,0 そん 

です。 その代り (再び 笑 ふ) 11 その代り わたし は 一夜の 內に、 稀代の 大賊 になれ るので す。 呂宋 

すけ ざ ろ,】 もん で だい び ぜんさいし やう きゃら き り き-.:' こ ヒ とも しゃ 

助 左衞 門の 手代だった の も、 備前 宰相の 伽羅 を 切った の も、 利 休 居士の 友 だち になった の も、 沙 

むろ や fy. 一 じ ゆ かた ふしみ しろ かねぐら やぶ は+っ にん みか は ざ むら ひ き た ふ 

窒屋の 珊瑚 樹を詐 つたの も、 伏 見の 城の 金藏を 破った の も、 八 人の 參河侍 を 斬り 倒した の も、 1 

じんない めいよ ことごとく うば さんど わら い じんない たす 

—ありと あらゆる :|^1 內 の名譽 は、 悉 わたしに 奪 はれる の です。 (三度 笑 ふ) 云 はば :!.^.!: を 助ける と 

どうじ ヒん ない なまへ ころ いっか おん かへ どうじ うら か: 

同時に、 S 內の 名前 を 殺して しま ふ、 一家の 恩 を 返す と 同時に、 わたしの み も 返して しま ふ、 



くら ゐ ゆ: わい へんば う ようれ あま わら つ-つ たう ぜん 

1—— この 位 偸 快な 返報はありません。 わたしが その 夜 嬉し さの 餘り、 笑ひ續 けたの も當然 です。 

今でも、 —— この 牢の 中で も、 これが 笑 はすに ゐられ るで せう か? . . 

V ノ / おも のち だいり ぬす. よ ひやみ よ あさ , ^ち み 

わたし はこの 策 を 思 ひついた 後、 內 裏へ 盜 みに は ひりました。, ぉ閱の 夜の 淺ぃ. ですから、 御 

す _*ー ま かげ まつ なか はな ほ こと み お ぼ 

藤 越しに 火影が ちらついたり、 松の 屮に花 だけ 仄めいたり、 —— そんな 事 も 見た やうに 覺 えて ゐ 

ちか くわ 一ら う や ね ひとす に は と お たち ま し こ にん けいこ V,- むら ひ CJV 

ます。 が、 長い 廻廊の 屋根から、 人氣 のない 庭へ 飛び下り ると、 忽ち 五 人の 警護の 侍に、 み 

と i へソら レ-き く ふ ひげぐ 一れ らひ いっしゃう けんめい な は 

の 逾, り搦 めら れ ました。 その 時です。 わたし を 組み伏せた 鬚 侍 は、 一生懸命に 繩を かけながら、 

こんど じんな" て ど つぶや あま 力- icz な t 

「今度 こそ は 甚內を 手捕りに した ぞ」 と、 眩いて ゐ たではありません か? さう です。 阿媽港 ^內 

の 外に、 誰が 內裏 なぞへ ゆやび こみ ませう? わたし はこの 言葉 を 聞く と、 必死に もがいて ゐ るに 

でも、 思 はす 微笑 を 洩らした ものです。 . 

じ /;> な、 き さま おん をと こ い ぶ あ f だ I 

r 甚內 は貴樣 なぞの 恩に はならぬ。」 11 あの 男 はかう 云 ひました。 しかし わたし は 夜の 明け 次 

じんな、 . ^は ころ な, ん ノ き み よ つら あ くび さら まな * 

甚內の 代りに 殺される のです。 何と 云ふ氣 味の 好い 面當 てで せう。 わたし は 首を噪 された 條、 あ 

をと こく ま じんな 一 くび ニ么 こうせ う うん I 

の 男の 來 るの を 待つ て やります。 甚內 はきつ とわたし の 首に、 聲 のない 哄笑 を感 する でせ う 「ど 

h> や さぶ らう おんがへ こうせ う い ま,、 じんない な 「あ f*? か は 

1 うだ、 彌三郞 の 恩返し は?」 —— その 哄笑 はかう 云 ふので す。 「お前 はもう^ 內 では 無い 阿^港 



記 恩 報 



105 



じ/" ない くび てんか -Tt'...,. たか につ たいいち お ほぬ すび と わら ^:;、,.;ぃ 

^,2: はこの 首な の だ、 あの 天下 に^の 高い、 日本 第一 の 大盜人 は!」 (笑 ふ) ああ、 わたし は 偸 快 

くらみ ゆく わい おも こと いっしゃう ただい I" ど ちち や V,- う ゑ もん に 

です。 この 位 偸 快に 思った 事 は、 , 一 生に 唯一度です。 が、 もし 父の 彌三 右衛門に、 わたし の^し 

くび み とき くる ,= -ん にん くだ とう と けつ やま ひ かか 

:fu! を 見られた 時には、 —— (苦し さう に) 勘忍して T さい。 お父さん! 吐血の 病に 權 つたわた し 

くび う さんねん いのち つづ ふ かう かんにん くだ 

は、 たと ひ 首 を 打 たれす とも、 三年と は 命は續 かないの です。 どうか 不孝 は 勘忍して 下さい、 わ 

たし は ぎ 道に 生まれ ましたが、 15- に 角 一家の 恩 だけ は 返す が出來 たのです から、 

• • (大正 十一 年 三月) 



106 



1C8 



itw さん。 

わたし いまお ほ v.- か お ほ V- か はなし 

私 は今大 阪にゐ ます、 ですから 大阪の 話 をし ませう。 

力 か 化 わが ほ. さ ふ ii 、 ほうこう き をと こ な なん ,, ただ。 し fc*.,. 丈ラ 二う *- 

„1^日 大阪の 町へ 奉公に 來た 男が ありました。 名 は 何と 云った かわかり ません。 啡飯炊 公に 來 

をと こ - ごんす け つた 

た SR ですから、. 權助 とだけ 傳 はって ゐ ます。 

I ごんす け くちい や G れん 今せ る く は ばんとう くち せわ たの 

權助は 口入れ屋の 暖藤 をく ぐると、 煙管 を啣 へて ゐた I 頭に、 かう n の 世話 を賴 みました。 

ばんとう わたし せんにん い ところ J,- く. ヒ 

「番頭さん。 私 は 仙人に なりたい の だから、 さう 云 ふ 所へ 住み こませて 下さい。」 

ばんとう あっけ しばらく くち 

播頭は 呆氣に とられた やうに、 少時 は 口 も 利かす にゐ ました。 • 

?^んとぅ きこ わたし せんにん 、 ところ .-, くだ 

「番頭さん。 聞え ません か? 私 は 仙人に なりたい の だから、 さう 云 ふ 所へ 住み こませて 下さ 

い。」 

「まことに 御 氣の毒 様です が、 11 」 • • 



9 ^敗 はやつ と k 時 もの 通り、 煙草 をす ぱ すば 吸 ひ 始めました。 

「手前の 店で はま だ 一度 も、 仙人 なぞの 口人れ は 引き受けた 事はありません から、 どうか 外へ 御 

出で なすって 下さい。」 

すると 權助は 不服 さう に、 千草の 引の 膝 をす すめながら、 こんな 理窟 を, ひ屮 I しました。 

はなし ちが お まへ みせ C ん なん か お おも よろ づ 

「それ はちと 話が 違 ふでせ う。 御前さんの 店の 暖雕に は、 何と 書いて あると 御 m 心 ひな さる? ず I 

くち 1 どころ か よろ づ い なにごと くちい 

口入れ 所と 書いて ある ぢ やありません か? 萬と 云 ふから は 何 でも、 口入れ をす るの がほんた 

うです。 それとも お前さんの 店で は 暖簾の 上に、 噓を 書いて^ いたつ もりな のです か?」 

なるほど い み - ごんす け おこ もっと 

成程 かう 云 はれて 見る と、 權 助が 怒る の も 尤もです。 , 

「いえ、 暖雕に 嘘が ある 次^ではありません。 何でも 似 人に なれる やうな 奉公 1= を 探せと 仰 有る 

あした またお い くだ け ふ ぢぅ こころ あた fi; つ I、 5 - ゝ み, - - > 3 - 

のなら、 明日 又 御出で 下さい。 今日中に 心 當りを 尋ねて 置いて 見ます から。」 

ばんとう と かくいち じ のが ごんす け た ひ う ど こ i . ほ, f こう - せん 

恭頭は le^ に灼 一時逃れに、 權 助の 賴みを 引き受けて やりました。 が、 何 虎へ 奉公 させたら 仙 

こん しゅげ ふ で き こと はす ひと ごス す:: 

I 人になる 修業が 出來 るか、 もとより そんな 事 なぞ はわ かる 害が ありません。 ですから 一 ま づ橫助 

人 を 返す と、 早^^ 頭 は 近所に ある ii 者の 所へ 屮:: かけて 一 U きました。 さぅしてぎ助の15^-を話してか 



110 



ら, 

llu"^ 、 - せ- ん せか,^ せんにん しゅげ ふ ど こ ほうこう みち T- ん 

「如何で せう? 先生。 仙人になる 修業 をす るに は、 何處へ 奉公す るの が 近路で せう?」 と、 心 

ぼい たづ 

配 さう に 尋ねました。 

ノ i= しゃ こま しばらく 'でぐ によ まつ M か 

これに は 醫者も 困った のでせ う。 少時 は ぼんやり 腕組み をしながら、 ^の 松ば かり 眺めて ゐま 

\ - r- ; 4, んと。 ^なし き す よこ くち だ ふるぎつ 53 ? あだ. M か,?、,.:^ . し. 5. 

した が 番頭の 話を閱 くと、 直ぐに 横から 口を出し たの は、 古狐と 云 ふ 渾名の ある、 狡特な ii 者 

にょう う 

の 女房です, レ 

.1 ノ、 に 少 どん ねんう ち せんにん み 

I それ はう ちへ およこしよ。 うちに ゐれば 二三 年中に は、 きっと 仙人に して 見せる から。 II 

さ やう よ こと うかが なにぶ. V? ねが せ, お . "コ V ま 

「4^ 樣で すか? それ は 善い 事 を 伺 ひました。 では 何分 願 ひます。 どうも 仙: < と 御 Is^ 樣と は、 

ど Z えん ^か こころ いた を . 

何 處か緣 が 近い やうな 心 もちが 致して 居りました よ。」 

なに し ^^んとぅ しきり おじぎ かざ お ほ よろこ かヽ 

何も 知らない 番頭 は、 頻に御 時宜 を 重ねながら、 大喜びで 歸 りました。 

f„ 丄ゃ ャ, が まま あと み おく にょうば う むか 

醫者は 苦い^ をした 儘、 その後 を 見送って ゐ ましたが、 やがて 女房に 向 ひながら、 

まへ なん い ば J^, こと い ゐな A も なんねん 、つかう トーん, 一 A - てレ 

「お^は 何と 云ふ莫 な 事 を 云 ふの だ? もし その 田舍 者が 何年 ゐて も、 一 {!: 仙術 を敎へ て くれ 

ふへ L- いた き ま * ま 二 ごと 、 

ぬ なぞと、 不平で も 云 ひ 出したら、 どうす る氣 だ?」 と f&nlu しさう に 小言 を 云 ひました。 



しかし 女房 は あやまる 所 か、 鼻の 先で ふふんと 笑 ひながら、 

ピ』 ま ば かしゃ うぢき がら よ な, パ 

「まあ、 あなた は默 つてい らっしゃ、 い。 あなたの やうに 莫:! 正直で は、 このせ ち 辛い^の.^ に、 

•,) はんた ことで き いしゃ 

御飯 を 食べる 事 も出來 はしません。」 と、 あべ こ べに 醫者を やりこめる のです。 

あ ひ やくそく ど ほ ゐ なか も Q ごんす け マ- ん とう- いつ き ナふ 

さて 明くる日に なると 約束 通り、 田舍 者の 權助は 番頭と 一し よに やって 來 ました。 八, 日 はさす 

; f ー乂. t5 » 低つ お- め み J おも もんつ キ- は おり き み ところ ただ ひゃくし やう 

がに 權助も 初の 御 目見え だと 思った せゐ か、 紋附の 羽織 を 盖てゐ ますが、 見た所 は 唯の t 姓と 

す こ ちパぃ ようす かへ あんぐ わい - しゃ てん ir ;、 や- 

少しも 違った 容 子はありません〕 それが 返って 案外だった のでせ う。 Ss 者 はまる で 天竺から 來た 

ヒ やかう じう み とき かほ なが 

麝香 獸 でも 見る 時の やうに、 じろ じろ その 顏を 眺めながら、 

.tju にん いったい い ところ の そ おこ ふ 

1 あ ポは似 人に なりたい の ださう だが、 ー體 どう 云 ふ 所から、 そんな 望み を 起した の だ?」 と, 不 

しん たづ r 一ん すけ こた 

さう に 尋ねました。 すると 權 助が 答へ るに は、 

1^ - ノ い-、,, わ." - ただ おほさ か お しろ み たいか ふ V, ま えら ひと 

一 53- にこれ と ーム- -訣も ございま せんが 唯 あの 大阪の 御城 を兒 たら、 太閤 樣の やうに 偉い人で も、 

い つ い 戈-ど し み ニス げん , え え-つえ、? わ よ,;:' 

時 か 一度 は 死んで しま ふ。 して 見れば 人 問と 云 ふ もの は、 いくら 榮耀榮 華 をしても、 ない も 

おも 

の だと 思った のです。」 . 

^ズ にん し ごと 

「では 似. <に なれさへ すれば、 どんな 仕事で もす る だら うね? i 



「 



でつ,、 わつ い しゃ にょう- f う す くち , 

狡 搰な醫 者の 女房 は、 隙 かさす 口を入れました。 

せんにん し ごと -た 

「はい。 仙人に なれさへ すれば、 どんな 仕事で も 致します。」 . 

,1, ノ,, 、け, ふ,. わ ゆし .V ころ に じふ ねん あ ひだ ほうこう に じ ふねんめ さんに ノ) 

「それで は 今日 から^の 所に、 二十 年の 間 奉公お し。 さう すれば きっと 二十 年 n: に、 川 人になる 

術を敎 へて やる から。」 

さ やう なに ありがた 

「左様で ございま すか? それ は 何より 難 有う ございます。」 

I わか に じふ ねん あ ひだ いちもん お キー ふきん 

一 その代り 向う 一 一十 年. の 間 は、 一 文 も 御給 金 はやらない からね。」 

しょうちいた 

「はい。 はい。 承知 致しました。」 

, ごんす け に じふ ねんかん いしゃ いへ つか みづ く ま. や つし た 

それから 權助は 二十 年間、 その 醫 者の 家に 使 はれて ゐ ました。 水 を 汲む。 薪 を 割る。 飯 を く。 

ふ, うぶ 3 いしゃ そとで とき くすり. じこ せ お とも 5 へ. ,,, ふ.., ん 、ち 

拭き掃除 をす る。 おまけに 醫 者が 外へ 出る 時 は、 藥箱 を背负 つて 伴 をす る。 , —i- その上 給金 は.. 一 

もん い こと ん. ir ようはう ほうこうにん に ま んぢぅ V が 

文で も、 くれと 云った 事がない のです から、 この 位 重寶な 奉公人 は、 日木屮 探しても あります ま 

ヽ 

に じふ ねん ごんす::; まだき とぐ, - もんつ々. - は おり し はじん, ブン 

が、 とうとう 二十 年た つと、 權助は 又來た 時の やうに、 紋附の 羽微を ひっかけながら、 主人 夫 

ふ ま へ で い ん ぎ に じ ね ん ハ ん せ わ れ、, ひ 

婦の 前へ 出ました。 さう して 悠戀に 二十 年 問、 世話になった 禮を 述べました。 



人 仙 



113 



つ 力 力 お やくそく とほ け ふ ひと わたし ふ ら-? ふ し せんにん じゅ- リ をレ も リ. 

「就いては 兼ね兼ね 御 約 速の 通り、 今日は 一 つ 私に も、 不老不死になる 仙人の 術を敎 へて 赏 ひた 

いと 思 ひます が。」 

ご/. b け ,, い. へいこう しゅじん い しゃ なに いちもん キ ふきん に じふ a ん 

權助 にかう 云 はれる と、 閉口した の は 主人の 醫 者です。 何しろ 一文 も 給金 を やらす に、 二十 年 

かん つか あと いま さ. んじ! 5 つ し ぎ り 、 

問 も 使った 後です から、 今更 仙術 は 知らぬ なぞと は、 云へ た 義理ではありません。 醫ぎは そこで 

し かた 

tr ご」、 

VI -ブぇ — 1 

「"^に" f^-^w つ ル-- にょうば う は-つ にょうば う をし もら い そ 

一;^ 人になる 術 を 知って ゐ るの は、 おれの 女房の 方 だから、 女房に 敎 へて 貰 ふが 好い。」 と、 素つ 

け よこ む 

1湫 なく 檢を 向い てし まひました。 

にょうば う へいき 

しかし 女房 は 平氣な ものです。 

せん レ- ゆつ をし か は こと わたし い とま 

「では 仙術 を敎 へて やる から、 その代り どんなむ づ かしい 事で も、 私の 云 ふ 通りに する の だよ。 

せんにん / またむ か に じふ ねん あ ひだ お きふきん ほうこう :ti ち 

さもないと 仙人に なれない ばかり か、 又 向う 二十 年の 間、 御給 金な しに 奉公 しないと、 すぐに I 則 

あた し 

が當 つて 死んで しま ふから ね。」 . 

こと し と ごらん い 

一はい。 どんなむ づ かしい 事で も、 きっと 仕遂げて 御覧に 入れます。」 

ご /すけ よろこ にょうば う い ま 

權助は ほくほく 喜びながら、 女房の 云 ひつけ を 待つ てゐ ました。 



114 



に は まつ お のぼ 

「それで は あの 庭の 松に 御 登り。」 

-」 よう う - せんにん じゅつ し ガヤ、., - ' i 

^llls はかう 云 ひつけました。 もとより 仙人になる 術 なぞ は、 知って ゐ る^が ありません 力ら 

二ん ご "すす で き ことい で き とき またむ か 

ぎで も權ぼ 1 に出來 さう もない、 むづ かしい 事 を 云 ひつけて、 もし それが 出來 ない 時には、 又 向う 

に じふ ュん あ ひ ic にこ! つか おも - ごんす け ことば き に は まつ のば 

二十 年の^、 唯で 使 はう と 思った のでせ う。 しかし 權助は その 言葉 を 聞く とすぐ に 庭の 松へ 登り 

ました。 

た. A たか お のぼ 

「もっと. In 问く。 もっとす つと. |11问 く;^ 登り」 

ようばう えん v,.*; たたす まつ うへ ごんす け み あ ごんす け き もん P き 5 tei*? • ) 

^房 は緣 先に 佇みながら、 松の 上の 權助を 見上げました。 權助 の^た 紋附の 羽微は もう その 

お ほ によ まつ い.^ i ん たか こす. 05 

大きな 庭の 松で も、 一番 高い 梢に ひらめいて ゐ ます。 

こんど み ぎ て お はな 

「今度 は 右の 手 を 御 放し。」 、 

こ ん 十 7 ひ V」 りて まつ ふとえ だ みぎ て はな 

隨助 1 は 左. 手に しっかりと、 松の 太 枝 をお さへ ながら、 そろそろ 右の 手 を 放しました。 

ひだり て はな 

「それから 左の 手 も 放して おしま ひ。」 

ひ \ 一-り て .H な tC なか もつ お お, , した 7, し i. 

「おい。 おい。 左の 手 を^さう ものなら、 あの 田 舍者は 落ちて しま ふぜ。 落ちれば 下に は 石 力 あ 

1 つち 

るし、 とても 命 はあり やしない。」. 



^-. 丄ゃ えんさき しんば い かほ "こ 

5 醫者 もとうと ぅ緣 先へ、 心配 さうな 顔 を 屮:: しました。 

「あなたの 出る 幕ではありません よ。 まあ、 に 任せて 御:. S 一き なさい。 I ^さあ、 おりのお を K す 

の だよ。」 , 

観 i は その mi が I ら ない おに、 おひぎ て樊も I きした。 ぼしろ がの ぎ i つた g、g 

て t K う . 

乎と も 放して しまったの ですから、 落ちす に ゐる訣 はありません。 あっと 云 ふ 問に 植^の ば、 

n ズ すけ き もんつき は おり まつ こす k ± な ± な 4 つも お a メ 

權助 のせ S てゐた 紋附の 羽織 は、 松の 裕 から 離れました。 が、 ^れ たと m ぶと ぎち もせす に、 まわ 

ばお- - .^v^p ; なか ぞ、 ら : あやつ にんぎ やう . たちどま 

議 にも晝 の 中 1.41 へ まるで 操り人形の やうに、 ちゃんと 立 止った ではありません か? 

「 さま わたし いちにん まへ せんにん 

I どうも 難 有う ございます。 おかげ 樣で私 も 一 人前の 仙人に なれました。」 

で.,^ すけ て レ卞ぃ お じ ぎ しづ あ をぞら -A ヒか くもな i -, SK 、 

權^ は 叮嚀に 御 時宜 をす ると、 靜 かに 靑ぉ. ^を 踏みながら、 だんだん 高い 雲の^へ? S つて 〔仃 つて 

しま ひました。 

醫者 夫婦 はどうし たか、 それ は 誰も 知って ゐ ません。 唯 その 醫 者の 庭の 松 は、 すっと 慰まで も 

?-こ なん よど や たつ ご らう まつ に t- しき X が しこ 力. >1 J- 尸 J^*c > r, 、 

^ 殘 つて ゐ ました。 何でも 淀屋 辰五郞 は、 この 松の 雪景色 を 眺める 1 に、^^ へに も II る ガがを わ 

. ざ わざ 庭へ 「むかせた さう です C (大正 十一 年 三 s ン 



115 



上 

しゅく ほん ぢん あた なか むら い きう か に は 

それ はこの 宿の 本陣に 當る、 中 村と 云ふ舊 家の 庭だった 

に は ご ゐ しんご じふ ねん あ ひだ きうたい たも へ, たん いけす : > 

庭 は 御 維新 後 十 年ば かりの 間 は、 どうにか 舊態を 保って ゐた" 瓢 なりの 池 も 澄んで ゐれは 

つきやま まつ えだ い.^. くけん せんしん てい い あづま や のこ いは き は うら 

築山の 松の 枝 もし だれて ゐた。 栖鶴 軒、 冼 心亭、 11 さう 云 ふ 四阿 も 残って ゐた。 池の 窮まる 

やま がけ しろじろ たき お つ-つ かす みや V- まご げ かう とき な たま い. いし. とう 

山の 崖に は、 白白と 瀧 も 落ち 續 けて ゐた。 和の 宮樣御 下向の 時、 名 を 賜 はった と 云 ふ石燈 籠も 

ねんねん ひろ が やまぶき なかた ど こ くわう はい かん か レ、、 

やはり 年年に 擴 がり 勝ちな 山吹の 中に 立って ゐ た。, しかし その 何處 かに ある 荒 緩の 感じ は 1^ せな 

こと ,H る によ うちそと き ぎ 二す る S いちど わかめ も た ころ めいび じん 

かった。 殊に i! さき、 11 庭. の內 外の 木木の 梢に、 一度に 若芽の 萌え立つ 頃に は、 この 明媚な 人 

こう す しき ま、 n なに に Z げん ふ あん や ばん ちから せま き こと いっそうろ 一一つ かん , 

ェの^ 色の 北, B 後に、 何 か 人 ほ を 不安に する、 野蠻な 力の 迫って 來た 事が、 ー歷露 2> に 感ぜられる 

のだった。 

23 な./"」. -.11 ナ 、/? きょ でん ぼ ふ はだ らう じん に は めん おもや こ たつ づ さ う や らう さい つ 

I 中 村 f 豕の隱 居、 —— 傳法 肌の 老人 は、 その 庭に 面した 母屋の 缝に、 頭&" を!^ んだ 老^と、 井れ 



う はな 一 13 は くったく ひ くら とキ」 どキ. - た つづ ご ろくぶん らう 

9 を 打ったり 花 合せ をしたり、 屈託のない 日を暮 して ゐた。 それでも 時時 は 立て 綾け に、 五六^ 老 

I さいか こ ゝ、 おこ だ こと かとくつ 寸, や-つなん と こ どうじ に ひ 

妻に 勝ち越される, と、 むきになって 怒り 出す 事 もあった。 家督 を繼 いだ 長男 は、 從 兄妹 同志の 新 

- つま らうん つ-つ て ぜま はな す ちゃうなん へう とく ぶんしつ -, かんべ >.- つよ 

妻と、 廊下 綾き になって ゐる、 手狭い 離れに 住んで ゐた。 長男 は 表 德を文 i 至と 云 ふ、 癎 癖の 强ぃ 

を 上 こ び やう しん つま おとうと もちろん いんきょ かれ はば ただ ころ f ゆく こ 

男だった。 病身な 妻 や 弟た ち は 勿論、 隱 居さへ 彼に は 憚 かって ゐた。 唯 その 頃 この 宿に ゐた、 乞 

じ.? うし やう せいげつ たびたび かれ ところ あそ キ- ちゃうなん ふ し ぎ せいげつ ナ 

食 宗匠の 井月ば かり は、 度度 彼の 所へ 遊びに 來た。 長男 も 不思議に 井月に だけ は、 !S を飮 ませた 

じ か き げん い かほ み やま はな J い. ほととぎす ^ .'f ^ 

り 字 を 書かせたり、 機嫌の 好い 顏を 見せて ゐた。 「山 はま だ 花の香 も あり 時鳥、 井月。 ところ ど 

た.. さ ぶん I つ つけ あ ひ のこ ほか おとうと ふたり じ なん えん 

ころに 瀧の ほのめく、 文 室」 I そんな 附合も 残って ゐる。 その外に まだ 弟が 二人、 —— 次男 は 終 

か こく や やうし ゆ さんなん n ろくり はな まち お ほ つく ざ かや つと かれら ,"ヒリ 

家の 穀屋へ 養子に 行き、 三男 は 五六 里 離れた 町の、 大きい 造り酒屋に 勤めて ゐた。 彼等 は 二人と 

い あは めった ほんけ か さんなん ゐ とほ うへ たう 

も 云 ひ 合せた やうに、 滅多に 本家に は 近づかなかった。 三男 は 居 どころ が 遠い 上に、 もともと 當 

しゅ き あ じ なん はうた う み も く-つ けっく わ やう か ほとんど かへ 

主と は氣が 合はなかった から。 次男 は 放蕩に 身 を 持ち崩した 結果、 養 象に も 殆 歸ら なかった か 

ら 

に は に ねんさん ねん くわう はい く は い いは なんきん も うか はじ うみ 5 こ かれき 

庭 は 二 年 三年と、 だんだん 荒廢を 加へ て 行った。 池に は 南京 藻が 浮び 始め、 植込みに は 枯木が 

!ほ まじ うち いんきょ らう じん あるひで はげ なつ なう いっけつ ため とんし とんし 

k 交る やうに なった。 その 內に 隱 居の 老人 は、 或旱 りの 烈しい 夏、 腦 溢血の 爲に頃 死した。 頓死す 



し ご にち まへ かれ せう ちう の いけ むか せんしん てい しろ しゃう ぞく く げ ひとり 

る 四 五日 前, 彼が 燒酎を 飲んで ゐ ると、 池の 向う にある 洗心亭 へ、 白い 装束 をした 公卿が 一人, 

なんど - で すくな , かれ ひる ひ ま^ろし み よくと し 

何度も 出たり は ひったり して ゐた。 少く とも 彼に は晝 日な か、 そんな 幻が 见 えたの だった。 翌年 

じ なん はる すゑ やう か かね しゃくふ いつ .A けお まとぶ. ちいう >^ ん 

は 次男が 春の 末に、 養家の 金 を さらった なり、 酌婦と 一し よに 跃 落ち をした。 その 又 秋に は 長 

つま つきた をと 二の こ う おと 

の 妻が、 月 足らす の 男子 を產み 落した。 

ちゃうなん ちち し ち はは おもや す あと はな か とち せう が,、 かう 

長男 は 父の 死んだ 後、 母と 母屋に 住まって ゐた。 その 跡の 離れ を 借りた の は、 土地の 小學 校の 

かう ちゃう かう ちゃう ふくざ は ゆ きち をう じつり せつ ほう に は くわ じゅ う * つ 

校長だった。 校長 は 福 澤論吉 翁の 實 利の 說を 奉じて ゐ たから、 庭に も 果樹 を梳 ゑる やうに、 :!: 時 

ちゃうなん とふ じ らいに は はる み な まつ やなぎ あ ひだ もも あんす すもも 

か 長男 を說き 伏せて ゐた。 爾來庭 は 舂 になる と、 見慣れた 松 や 柳の 間に、 桃 だの 杏 だの 李 だの、 

ざっしょ,、 はな も かう ちゃう ときどきち やうなん あたら くわ じゅ ゑん ある とほ りつば 

雜 色の 花 を 盛る やうに なった。 校長 は 時時 長男と、 新しい 果樹園 を步 きながら 、「この 通り 立派に 

はなみ で き いっきょり やうと く ひひ やう つきやま い::: あづま や また. - 

花見 も出來 る。 一 擧兩 得です ね」 と 批評したり した。 しかし 築山 や 池 や 四阿 は、 それだけに 又以 

ぜん いっそう かげ f> す だ いし ぜん くわう, に い ほか じんこう くわう は. - くよ 

前より は、 一 暦 影が 薄れ 出した。 云 はば 自然の 荒廢の 外に、 人工の 荒 廢も加 はった のだった。 

あき また うら やま 今- ん ねん やまく わじ い らいい!:: お たき み 5 

その 秋 は 又 裏の 山に、 近年に ない 山火事が あった C それ 以來 池に 落ちて ゐた瀧 は、 ばったり 水 

た おも ゆき ふ ころ こんど たうし ゆ わ-つら だ いしゃみ た むかし 

が 絶えて しまった。 と 思 ふと 雪の 降る 頃から、 今度 は當 主が 煩 ひ 出した。 醫 *f の ns^ 立てで は 昔の 

• 

2 らう I やう いま はいび やう い こと かれ ね お かん たか..; * 

1 癆症、 今の 肺病と か 云 ふ 事だった。 彼は寢 たり 起きたり しながら、 だんだん 癎 ばかり 2 がらせて 汀 



ザん よくと し し to^ うぐ わつ ねんし き さんなん げきろん す幺 て あぶ な こで . さん 

1 つた。 現に 翌年の 正月に は、 年始に 來た 三男と 激論の 末、 手 炙り を 投げつ けた 事 さへ あった。 三 

1 なく とき か、 あにし め あ た-つし ゆ いちねん あま のち よ と. W 

男 は その 時歸 つたぎ り、 兄の 死に目に も會 はすに しまった。 當主は それから 一 年 餘り後 夜伽の 

つま まも や なか いき かへ るな せいげつ 

妻に 守られながら、 蚊帳の 中に 息 を ひきとった。 「蛙が 啼 いて ゐ るな 4^ 月 はどうし つら?」 —— 

さ, VJ ことば せいげつ むかし へ, ん ふうけい あ I ■ こ." 

これが 最期の 言葉だった。 が、 もう 井月 はとうの 昔、 この 邊の 風景に も 飽きた のか さつ はり/乙 

じ *0 こ 

食に も來 なくなって ゐた 

V- ん, W ん たうし ゆ いっしう き しゅじん す. 05 すめ けっこん 4-^ ノ か, せう i や.. f /い,〕 

三男 は當 主の 一週 忌 をす ますと、 主人の 末 娘と 結婚した。 さう して 離れ を 借りて ゐ た小學 校長 

てん-,/;" さ ひ. H こ ひ-つま そ こ うつ き はな くろぬり たんす き こうはく わた うざ ノ 

の轉^ を 幸 ひ、 新妻と 其處へ 移って 來た。 離れに は黑 塗の 軍 笥が來 たり、 紅白の 綿が 飾られたり 

おもや あ ひだ たうし ゆ つま ゎづら だ び やうめ い をつ と おな ちち わか ひと 

した。 しかし 母屋で は その 間に、 當 主の 妻が 煩 ひ 出した。 病名 は 夫と 同じだった。 父に 训れた 一 

つぶだ こ ども れ/" 1 ち ま はち は まいばん そ ぼ ね そ ぼ とこ、 . ^へ 

粒 種の 子供、 11 廉ーも 母が 血 を 吐いて から は、 I, 母晚 祖母と 寢 かせられた。 丽:? は」 へ は ひるぶ 5= 

. ^なら,^ ぁヒま てぬ ぐ ひ づ さう しう き よ ふけ ねす み ちかよ き もち 

に、 必 頭に f 拭 を かぶった。 それでも 頭瘡 の臭氣 をた よりに、 夜 更に は 2^ が 近寄って 來た。 勿 

ろん てぬ ぐ ひ わす ねす み あたま か こと おな とし くれ たうし S つ, 、 

論 手拭 を 忘れで も すれば、 CM に 頭を嚙 まれる^ もあった。 同じ年の に當 主の 妻 は 油 火の つかえ 

し またつ ベ おく よくじつ つきやま かげ せいかく けん お ほ ゆき ため 

る やうに 死んで つた。 その 又野邊 送りの 翌日に は、 築山の 陰の 栖鶴 軒が、 大雪の 爲 につぶ され 

^ てし まった。 



いちど はる き とき に は ただに ご いけ せんしんて、, かや や ね こ てふき f 

もう 一度 春が めぐって 來た 時、 庭 は 唯 濁った 池の ほとりに、 洗 心亭の 茅屋 根を殘 した、 雜 木ば 

の 木の芽に 變 つたので ある。 

ある ゆきぐも ひ くれがた かけお じふ ねんめ じなん 卞 ちいへ かへ き ちち 1, へ 

或 雪 曇りの 日の 暮方、 駅 落ち をして から 十 年 目に、 次男 は 父の 家へ 歸 つて 來た。 父の,: 豕 11 と 

い じじつ じ やう V ん なん いへ どうやう さんなん かくべつい や かほ また かくべつ. H;,c-- 

云っても それ は事實 上、 三男の 家と 同様だった。 三男 は 格別 嫌な 顏も せす、 しかし 又 格別甚 び も 

い なにごと だう らく も Q あに む.; い 

せす、 云 はば 何事 もなかった やうに、 道樂 者の 兄 を迎へ 入れた。 

じ らい じ なん おもや ぶつま あくしつ からだ よこ 二 たつ まも ぷ つま 

爾來 次男 は 母屋の 佛 間に、 惡疾の ある 體を橫 たへ たなり、 ぢ つと^ 缝を 守って ゐた。 佛 に は 

お ほ ぶっだん ちち あに ゐ はい なら かれ ゐ はいみ ぶっだん If じ 

大きい 佛 壇に、 父 や 兄の 位牌が 並んで ゐた。 彼 は その 位牌の 見えない やうに、 佛, M の^子 をし め 

& お はは おとうと ふう-ふ さんど しょくじ とも ほか ほとんど かほ あは ただ 

切って 置いた。 まして 母 や 弟 夫婦と は、 三度の 食事 を 共に する 外 は、 殆 顏も 合せなかった。 唯 

-ご れんい ち ときどき. A れ tC ま ネそ い かれ れんい ち かみせ きばん やま ふね か 

みなし 兒の康 一 だけ は、 時時 彼の 居間へ 遊びに 行った。 彼は廉 一 の 紙 石板へ、 山 や 船 を 描いて や 

むかう じ ま な ちゃや ねえ -\ わかし *^^た おは 

つた。 「向島 花 ざ かり、 お 茶屋の 姐さん ちょいと お出で。」 —— どうかす ると そんな 昔の g ノが、 覺 

つか ひっせき み 1 一と 

束ない 筆蹟 を 見せる 事 もあった。 



うち またはる に は お G くさき なか とぼ もも あんす はき み-つ ,6*^ 

3 その 內に又 春に なった。 庭に は 生 ひ 仲び た 草木の 中に、 乏しい 桃 や 杏が 花 き、 どんより 水 光 

2 # 

I いけ せんしん てい かげ うつお じなん あ ひか はらす ひとり ぶつま と 

り を させた 池に も、 洗 心亭の 影が 映り 屮 I した。 しかし 次男 は 相 不變、 たった 一 人 S 問に 閉ぢ こも 

ひる たいてい あるひ かれ みみ しゃみ せん ね つ., y 

つたぎ り、 晝 でも 大抵 はう とうとして ゐた。 すると 或 日 彼の 耳に は、 かすかな 三味線の 昔が は 

き どうじ うた こお きこ はじ たびす は たたか まつ もとみ うち なし 

つて 來 た。 と 同時に 唄の 聲も、 とぎれとぎれに 聞え 始めた。 「この度! t 訪の戰 ひに、 松 本 身. 2: の吉 

え さま お ほ-つつがた じ なん よ-一 まま こころ くび もた み うた しゃ 

江樣、 大砲 固めに おはします。 …… 」 次男 は 横にな つた 心 もち 首 を 擦げ て 見た。 と、 も 三 

み ん や ま ははち が ひいた はな い £ すす はたら あ 

味 線 も、 茶の間に ゐる 母に 違 ひなかった。 「その 日の出で 立ち 花やかに、 勇み 進みし 働き は、 天つ 

ぼれ ゆうし み はは ま n 々- お ほつ ゑ か うた うた つづ 

晴 勇士と 見えに ける。 …… 」 母 は 孫に でも 聞かせて ゐる のか、 大 総の 替へ唄 を哏ひ 紐け た。 し 

でんぽ ふ はだ 1. ん きょ ど こ おいらん なら い に さんじ ふねんい ぜん はやり うた てき 

かし それ は傳法 肌の 隱 居が、 何 處 かの 花魁に^つ たと 云 ふ、 一 一三 十 年 以前の 流行 喚だった。 「敵の 

お ほ だまみ 5 ぜひ を いのち とよ はし くさば つゆ き まっせ まつだいな のこ 

大玉 身に 受けて、 是非 もな や、 惜しき 命 を 週&: 橋に、 草葉の 露と 消えぬ とも、 末 f 末代 名は殘 る。 

じ なん ぶし やう. ひげ の かほ いつめう め かがや 

…… 」 次男 は 無精髭の 仲び た 顔に、 何時か 妙な 服 を 輝かせて ゐた。 

に さんに ち のち さんなん ふき お ほ つきやま げ つち ほ あに はっけん じ なん 

それから 二三 日た つた 後、 三男 は蒋の 多い 築山の 陰に、 土 を 掘って ゐ る:: 儿を發 見した。 次 は 

いき き ふじ いう く は ふる すがた どこ こっけい うち しんけん いきぐ 

息 を 切らせながら、 不自由 さう に 鍬 を 揮って ゐた。 その 姿 は 何處か 滑稽な 中に、 3 具劍 な意氣 組み 

1£ さま なに さんなん まきたばこ く は うしろ あに こ ゑ 

1 も ある ものだった。 「あに 樣、 何 をして ゐる だ?」 I 三男 は卷 煙草 を啣 へたな り、 後から 兄へ 聲 



を かけた。 「おれ か?」 11 次男 は 眩し さう に 弟 を 見上げた。 「こけへ 今 せんげ (小 流れ) を 造らう 

おも 、ゝ、 つく なに に は おも さんなん わら 

と 思 ふ。」 「せんげ を 造って 何し る だ?」 「庭 を もとの やうに しっと 思 ふだ。」 —— 三男 は にゃにゃ 笑 

なん さ ざ たづ 

つたぎ り、 何とも その 先 は 尋ねなかった。 - 

じ なん まいにち くよ. も ねっしん 、ゝ、 つく つづ やま ひ よわ かれ 

次男 は 毎日 鍬 を 持って は、 熱心に せんげ を 造り けた。 が、 病に 弱った 彼に は、 それだけ でも 

ようい し ごと かれ だいいち つか やす うへ な し ごと まめ こしら 

容易な 仕事ではなかった。 彼 は 第一 に 疲れ 易かった。 その上 惯れ ない 仕事 だけに、 豆を裕 へたり • 

なまづめ は なに ふじい うお こが . ;,' れ ときどき: は す し そ- - 

生爪 を剝 いだり、 何かと 不自由 も 起り 勝ちだった。 彼 は 時時 敏を 捨てる と、 死んだ やうに 其處へ 

よこ かれ いつ に は かげろ ふ なか はな わかば けむ 

橫 になった。 彼の ま はりに は 何時に なっても、 庭 を こめた 陽炎の 中に、 花や 若葉が 煙って ゐた。 

しづ なんぷん のち かれ またよ ろよ ろ た あが しつ あう て は つか だ 

しかし 靜 かな 何分 かの 後、 彼 は 又 蹌踉と 立ち上る と、 執拗に 鍬 を 使ひ屮 I すの だった。 

に は いくにち はかば か へんく わ しめ いけ あ ひか はらす くさ :げ う ゑ-一 

しかし 庭 は 幾日た つても、 涉涉 しい 變化を 示さなかった。 池に は 相不變 草が 茂り、 植込みに も 

ざ ふき えだ は こと くわ じゅ よな ち あと まへ あ おも くら ゐ 

雜 木が 枝 を 張って ゐた。 殊に 果樹の 花の 散った 後 は、 前よりも 荒れた かと 思 ふ 位だった。 のみな 

いっか らうに やく じ な/〕 し ごと どう ド やう やまぎ と ざ ん なん 二め さう ば かひ こ ぼっとう 

らす 一家の 老若 も、 次男の 仕事に は 同情がなかった。 山氣に 富んだ 三男 は、 米 相場 や に沒 頭し 

さんなん つま じ なん やま ひ をん な はん を かん はは はは かれ シらだ ため つち 

てゐ た。. 三男の 妻 は 次男の 病に、 女らしい 嫌惡を 感じて ゐた。 母 も、 —— 母 は 彼の 體の爲 に、 土 

す おそ じ ,.M ん • か うじ やう にんげ v> しぜん む す- - 

いぢり の 過ぎる のを悦 れてゐ た。 次男 は それでも 剛情に、 人 問と 自然と へ 背 を 向けながら、 少し 



5 づっ庭 を 造り 變 へて 行った。 

2 

1 らも ある あま あが あさ かれ に は で み ふき た 、、ゝ ふ いし なら 

その内に 或 雨上りの 朝、 彼 は 庭へ 出かけて 見る と、 蔣の 垂れ かかった せんげの 緣に、 石 を 並べ 

て ゐる廉 一 を 見つけた。 「叔父さん。」 11- 廉 一 は 嬉し さう に 彼 を 見上げた。 「おれに も 今日から 手 

つ だ てつだ じ なん とき ひさ はば び せう 

傳は せて おくり や。」 「うん、 手 傅つ て くりや。」 次男 もこの 時 は 久しぶりに、 晴れ^れした 微笑 を 

うか い らい れんい ち そと で をぢ てつだ だ じ なん また を ひ 

浮べて ゐた。 それ 以來廉 一は、 外へ も 出す にせつ せと 叔父の 手傳ひ をし 出した。 11 次男 は 又 甥 

なぐ V」 ため 二 いきい とき うみ とうき やう てつだう れんい ち し はなし 

を 慰める 爲に、 木 かげに 息 を 入れる 時には、 海と か 東京と か鐵 道と か、 遊 一 の 知らない 話 をして 

き れんい ち あ をう め か さいみんじゅつ はなし 

聞かせた。 廉 一は 青梅 を 噴 じりながら、 まるで 催眠術に でも かかった やうに、 ぢっ とその 話に 聞 

き 入って ゐた。 

とし つゆ か. S ジゅ かれら とし はいじん どうじ t げ につく わう くさ 

その 年の 梅雨 は签 梅雨だった。 彼等、 —1 年と つた 癡 人と 童子と は、 烈しい 日光 や 草い きれに 

いけ ほ き き し - ごと ひろ い ぐ わい かい しゃう がい 

もめげ す、 池 を 掘ったり 木 を 伐ったり、 だんだん 仕事 を 擴げて 行った。 が、 外界の 障害に はどう 

う か い ないめん しゃ, つがい し かた じ なん ほとんど まぼろし .C かし 

にか かう にか 打ち克って 行っても、 內 面の 障害 だけ は 仕方がなかった。 次男 は殆 幻の やうに 昔 

に は み こと で 々1 に はき くば あるひ みち かた こま ぶ ぶん キ- "つ、 

の 庭 を 見る 事が 出來 た。 しかし 庭木の 配りと か、 或は 徑の つけ 方と か、 細かい 部分の 記憶になる 

Ivy こ 上 がれ ときどきし ごと さいちう とつぜんく は つ ゑ まま 

r と、 はっきりした 事 はわから なかった。 彼 は 時時 仕事の 最中、 突然 銀 を 杖に した 儘、 ぼんやり あ 



時つ 
も 

獨さ 
り 

お. こ' 

RP と 



ま は こと なに れんい ち かな^す を ぢ かほ ふ あ C 力つ oC 

たり を 見廻す 事が あった。 「何した だい?」 —— 廉ー は 必 叔父の 額へ、 不安ら しい 目付き を m$ げ 

ここ. あせ をち - 

るの だった。 r 此處 はもと どうな つて ゐ つらな あ?」 —— 汗に なった 叔父 はう ろうろ しながら、 ;!: 

, ^ . ^、で こ こ おも れん メち ただ どろ 

しか 云はなかった。 「この 楓 は此處 にな かつらと 思 ふが な あ OJ 廉 一 は 唯 泥 まみれの 

手に、 蟻で も 殺す より 外はなかった。 

ない ie- ん 丄ャ; f- がい 、 し だい なつ ふか く じな.; -た ま くわら う 

內 面の 障害 は それ ぱか りではなかった。 次第に 夏 も 深まって 來 ると、 次男 は 絶え 問ない 過勞の 

ため あたま い つ こんらん き いちど ほ いは うづ まつ ぬ あと まつ う 

爲か頭 も 何時か 混亂 して 來た。 一度 掘った 池 を 埋めたり、 松を拔 いた 跡へ 松を植 ゑたり、 —— さ 

い こな たびたび こと れんい ち おこ いは /、ひ つく た みづ ぎ. H や. Mia き こと 

う 云 ふ 事 も 度度あった。 殊に 廉ーを 怒らせた の は、 池の 杭 を 造る 爲 めに、 水際の 柳 を 伐つ た^だ 

やなぎ あ ひだう れ V? ビり を ぢ にら 

つた。 一 この 柳 はこの 間植 ゑた ばつ か だに。」 !,-— 廉 一 は 叔父 を 睨みつ けた。 「さう だった かな あ。 

, なん をぢ _V つうつ め ひざ, 户ぃ; み 

おれに は 何だか わから なくなって しまった。」 —1 . 叔父 は憂聽 な 目 をしながら、 日盛りの: # を 見つ 

めて ゐた。 

ノ 、 ふせ: き, き くさ き むら なか おぼろ にに, 5 あが き もちろんむ かし くら 

それでも 秋が 來た 時には、 草 や 木の 簇 がった 中から、 朧げに 庭 も 浮き 上って 來た。 勿論 昔に 比 

ユー I. かくけん み たき ntv お なだか --i し つく 

ベれば 栖鶴軒 も 見えなかった し、 瀧の 水 も 落ちて はゐ なかった。 いや、 名高い 庭師の 造った、 

いうび むかし おもむき ほとんど ど こ み に. 1^ そこ 、ナ 、ち ど す 

優美な 昔の 趣 は、 殆 何處 にも 見えなかった。 しかし 「庭」 は 其せ!! にあ つ た。 池 はもう 一 澄んだ 



みづ まる つきやま うつ まつ い 二 一- てい まへ い-ついう えだ に. は 

7 水に、 圆ぃ 築山 を 映して ゐた。 松 ももうて 二? でむ: やの 前に、 悠悠と 枝 を さしのべて ゐた。 が、 庭 

2 

1 でき どうじ じ なん とこ き ねつ まいにち ざが からだ ふしぶし いた 

が出來 ると 同時に、 次男 は 床に つき 切りに なった。 熱 も 毎日 一.- ら なければ、 體の 節節 も 痛む の だ 

わ り まくら す b はは なんど おな ぐち : かへ 

つた。 「あんまり 無理ば つかしる せゐぢ や。」 —— 枕 もとに 坐った 母 は、 何度も 同じ 愚痴 を 繰り返 

じ なん ,f う^く に は もちろんなん か しょ なほ ところ Q 二 

した。 しかし 次男 は 幸 幅だった。 庭に は 勿論 何茵 所で も、 直したい 所が 殘 つて ゐた。 が、 それ は 

し かた と かくほね を ..^ ひ そこ かれまん ぞく ひふ ねんく- 1! う 

仕方がなかった。 鬼に 角 骨 を 折った 甲斐 だけ は ある。 11 其處に 彼は滿 足して ゐた。 十 年の 苦勞 

あきら をし あきら かれ すく 

は訟 めを敎 へ、 詮めは 彼 を 救った のだった。 

ぁォ」 すゑ じ なん たれ き うち いつ いき ひ み -; ^ん 

その 秋の 末、 次男 は 誰も 氣づ かない c: に、 何時か 息 を 引きと つて ゐた。 それ を兑 つけたの は跟 

いち かれ お ほご ゑ あ えんつ-つ は な はし い いっか すぐ し にん 

一だった。 彼 は大聲 を舉げ ながら、 緣絞 きの 離れへ 走って 行った。 一家 は 直に 死人の ま はりへ、 

おどろ かほ あつ み あに > いま わら なん はは かへ 

驚いた 顔 を 集めて ゐた。 「見 ましよ。 兄樣は 笑って ゐる やう だに。」 —— 三 sf^ は 母 を ふり 返った。 

け ふ ほとけ さま しやう レ あ -ん なん つま し にん み おは ぷっだ ん き 

「おや、 今日は 佛樣の 障子が 明いて ゐ る。」 11 三 の 妻 は 死人 を 見す に、 大きい 佛壞 をぐ 湫 にして ゐ 

た。 

じなん のべ おく のち れんい ち せんしん てい すわ こと お ほ い つ と 

. 次 の 野 邊途り をす ませた 後、 廉ー は ひとり 洗心亭 に、 坐って ゐる 事が 多くな つた。 何^も 途 

はう く ばんしう み-つ き み 

方 に^れた やうに、 晩秋の 水 や 木 を 見ながら、 



下 

レ f ほん ちん あた なか むら い きう か に は キ-" つ ち じふ 1* ん 

それ はこの 宿の 本陣に 當る、 中 村と 云ふ舊 家の 庭だった。 それが 舊に 役した 後、 まだ 十 年と た 

うち こ. <と いへ はくわい はくわい あと て > しゃふ た て 1 しゃ „y ま、 こ 1 う 

たない 内に 今度 は 家ぐ るみ 破 壌され た。 破壞 された 跡に は 停車場が 建ち、 停車場の 前に は 小 料 

理屋が 出来た。 

なか むら ほんに ころ たれ のこ はは もす-ろん む かし な ひと かす 

屮 村の 本家 はもう その 頃、 誰も 殘 つて ゐ なかった。 母 は 勿論とう の 昔、 亡い 人の 數には ひって 

さんなん じ げふ しつば い あ 》b く おほさ か い ノ こと 

ゐた。 三男 も 事業に 失敗した 揚句、 大阪へ 行った とか 云 ふ 事だった。 

き,. ^や まいにちて. いしゃ „.!_- き またて いしゃば さ い ていしゃば わか えきち やう ひヒり おな つく i5 

汽車 は 毎日 停車場へ 來て は、 又 停車場 を 去って 行った。 停車場に は 若い 驛 長が 一人、 大きい 机 

t か かれ かんさん じむ あ ま あ を やまやま なが と ち ぇ.^ん/? よ な 

に 向って ゐた。 彼 は 閑散な 事務の 合 ひ 問に、 青い 山山 を 眺め やったり、 土地 ものの 驛 M と した 

. ; - ^ . ±^ なし なか なか むらけ 「はさ のぼ いはん かれら ところ つきやま あづま や 

りした。 しかし その 話の 中に も、 中 村 家 の^は 上らなかった。 況ゃ 彼等の ゐる 所に、 築山 や 四阿 

こと たれ ひ とり . ^んが 

のあった 事 は、 誰 一 人考へ もしない のだった。 

あ ひだ れんい ち とうき やう あかさ か ある やうぐ わ げんきう じょ あぶら ゑ ぐ わか むか てんまど ひかり あぶら 么 

が、 その に廉ー は、 東京 赤 坂の 或洋畫 研究所に、 油 畫の畫 架に 向って ゐた。 犬 窓の 光、 油綺 

ぐ に ほひ ももわれ ゆ むすめ けんきう じょ くうき こき やう かてい なん れんらく 

の 具の 勻、 桃 割に 結った モデルの 娘、 11 研究所の 空氣は 故鄕の 家庭と、 何の 述絡 もない もの だ 



129 



, _no z \,, / ろ r^- ,, , ときどき. * れ こころ 5 か JtV ぴ ら うじ,? かほ . 

つん t 力し フラッシュ を 動力して ゐ ると、 時時 彼の 心に 浮ぶ、 寂しい 老人の 顔が あった。 その 

かほ またび せう. ふ だん せ 、さく つ. 4 かれ こも、 

顔 は 又 微笑しながら、 不斷の 制作に 疲れた 彼へ、 きっと かう 聲-を かける のだった。 「おぎ はま だ ザ . 

I >^ ■ ノ し ごと て つ だ こんど 一」 つ W 

^の 時に おれの 化 事 を 乎 傅って くれた。 今度 はおれに チ俾 はせ て くれ。」 

^^w-^--ot^vi-. 5*T z 、なか 、 ま,; -に 1〕 ふ f- る; か つ-つ さんなん うは さ た 4, 々. 

廉 1 は 今ても 貧しい 中に 每日 油畫を 描き 繽 けて ゐる。 三 の^は 誰も 聞かない。 

(大 li: 十一 尔六 R0 



130 



132 



「何し ろ この 顷 は油斷 がなら ない。 和 S さ へ 藝者を 知 つ て ゐ る ん だか ら 。」 

ふ ぢ ゐ ベ ん ご し ラオ. \K ュ ざ か-つ き ほ お ほぎ やう いちどう かほ み テ V.: プル 

藤 井と いふ 辯護士 は、 老酒の 盃を 千して から、 大仰に 一 同の 顏を見 ま はした。 圓ネ のま はり を 

, ^こ おな f かう きしゅくしゃ われわれ ろくにん ちう-ねん もの ば しょ ひび や たうた うてい に 

園んで ゐ るの は 同じ 學 校の 寄宿 舍にゐ た、 我我 六 人の 中年者で ある。 場所 は 日 比 谷の 陶陶 A ザの 二 

かい とき ろく わつ ある あめ よる もも ろん ふ \r ゐ わ れゎれ かほ す ゐ しょ,、 

階、 時 は 六月の 或 雨の 夜、 11 勿論 藤 井の かう いったの は、 もう そろそろ 我我の 翻に も、 醉色 レン 

みだ じぶん 

見え 出した 時分で ある。 

ぼく み とき じっさい こんじゃく かん た 

「僕 は そいつ を 見せつ けられた 時には、 實際 今昔の 感に堪 へなかった ね。 -11 」 

ふぢ ゐ おもしろ べん つづ 

藤 井 は 面白さう に 辯 じ 緩け た。 . 

い くわ わ だ ひ じう だう ん しゅ まかな ひせい „*w つ たいしゃう すうよ いか 

r 醫 科の 和 田と いった 曰に は、 柔道の 選手で、 賄 征伐の 大將 で、 リヴ イング ス トンの 崇拜 家で、 

かんちう ひとへ もの とほ をと こ いちごん ^_^ぅけっ 今-み げいしゃ し 

塞 中 一 重 物で 通した 男で、 11 一 言に い へば 豪傑だった ぢ やない か? それが 君、 藝者を 知って 

やなぎば し 二 

ゐ るんだ。 しかも 柳 橋の 小 ゑんと いふ、 11 」 



話 ター 



133 



「君 はこの 頃 河岸 を變 へたの かい?」 

とっ^ん よこやり い いひぬ ま ぎんかう してんち やう 

突然 横槍 を 入れた の は、 飯 沼と い ふ 銀行の 支店長 だ つ た。 

risll^ を變 へた? なぜ?」 

きみ い とき わお げいしゃ あ 

「君が つれて 行った 時なん だら う、 和 田が その 藝 者に 遇った とい ふの は?」 

「早まつ ちゃい けない。 誰が 和 田なん ぞを つれて 行く もんか。 11 」 

ふぢ ゐ ュ でつ ぜん まゆ あ 

藤 井 は 昂然 と 眉 を 舉げ た 。 

」 しんげつ いくにち なん げ つえう くわえう ひさ わ だ かほ あは 

「あれ は 先月の 幾日だった かな? 何でも 月曜 か 火曜だった がね。 久しぶりに 和 K と 額 を 合せる 

あさく さ > あ V" くさ しんあい きうい う こと 

と、 淺 草へ 行かう とい ふぢ やない か? 淺草は あんまり ぞっと しないが、 親愛なる 舊 友の いふ 事 

ぼく す なほ さんせ.; ま ぴるま ろつ く で 

だから、 !^も素直に赞成してさ。 眞っ晝 間 六 iHil へ 出かけ たんだ。 . I 」 

くわつ どうしゃ しん なか あは 

「すると 活動 寫眞の 中に でも ゐ 合せた のか?」 

こんど さき , 

今度 はわた しが 先く ぐり をした。 

くわつ どうしゃ しん い き ふたり もくば 

「活動, ぉ眞 ならば まだ 好い が、 メリ ィ • ゴォ. ラウンドと 來てゐ るんだ。 おまけに 二人とも 木馬 

うへ またが いまかん が ば かば か し だい f. ほつ 

の 上へ、 ちゃんと 跨って ゐ たんだ からな。 今考 へても 莫迦 莫翻 しい 次第 さ。 しかし それ も 僕の 發 



_ 議ぢ やない。 あんまり 和 田が 乘 りたがる から、 おつき 合 ひにちよ いと 乘 つて 見たん だ。 ——- だが 

らく ぐち ゐ じゃく G い 

あいつ は樂ぢ やない ぜ。 野 口の やうな 胃弱 は乘 らたいが 好い。」 

こ ども も,、 ば つ 

「子供 ぢゃ あるまい し。 木馬に なん ぞ乘る やつが ある もんか?」 

の ぐち だいがく けう じゅ あ をぐ ろ スン ホア ほほ メ ひノ げす > チマり、. f た S , -、 、 ひ :^: 

野 口と いふ 大學 敎授 は、 靑黑ぃ 松 花 を頰- おった なり、 蔑む やうな 笑 ひ 力 を しん か i^^... 

とん ぢ やく ときどき わ だ め とくと,、 はなし つづ い 

. 頓着に、 時時 和 £ へ 目をやって は、 得得と 話を續 けて 行った 

わ ど Q しろ もくば ぼく の あか もくば え,、 たい いつ だ, 

「和 田の 乘 つたの は 白い 木馬、 僕の 乘 つたの は 赤い 木馬なん だが、 樂隊と 一 しょに ま はり 出され 

とき こと おも しり を ど め ふお, と, , : み., I 

た に は、 どうなる 事 かと m 心った ね。 尻 は 躍る し、 目 はま はるし、 振り落されない だけが 兑 つけ 

/パ め らんかん そと けんぶつ あ ひだ げいしゃ をん な まじ 

ものなん だ。 が、 その 屮 ノビ も 目 についた の は、 攔 千の 外の 見物の 問に、 藝者 らしい 女が" 父って ゐ 

、, ろ あ を じろ め うる ど 二 めう いうう つ 

る。 色の K お 白い、 目の 沽ん だ、 何處か 妙に 憂 蒙な、 —— 」 

「それだけ わかって ゐれば 大丈夫 だ。 目が ま はった も 怪しい もんだ ぜ。」 

いひぬ ま いちど くち はさ 

飯 沼 はもう 一 度 口 を 挾んだ。 

なか かみ もちろんいて ふ がへ ?^.s+€^ しま 

「だから その 中で もといって ゐるぢ やない か? 髮は 勿論 銀杏 返し、 なり は 薄靑ぃ 耥のセ ルに 

^ X に V- らさ おび おも と かくく.;: りうせ-つ せつ さし 幺 そ そ を^<な た. 

1 问か 更紗の 帶 だった かと ふ。 见に角 花柳 小說の 插畫の やうな、 楚楚た る 女が 立って ゐ るん た 



をん な おも ぼく ん, ほ み ま さ え ス V. ん いっせ う 

5 すると その 女が、 —— どうしたと 思 ふ? 僕の 顏を ちらりと 見るな り、 正に 嫣 然と 一笑し たんだ" 

3 

1 おも / ま あ もくば! たち ま をん な まへ とほ 

おやと 思った が 問に 合 はない。 こっち は 木 liill に乘 つて ゐ るんだ から、 忽ち 女の,〕 1 は 通りす ぎて し 

たれ おも とや あか もくば まへ がくたい れんおう あら は 

まふ。 誰だった かなと 思 ふ 時には、 もう わが 赤い 木馬の 前へ、 樂隊の 連中が 現れて ゐる C 11」 

われわれ みな わら だ 

我我 は 告笑ひ 出した.」 

にどめ おな こと また をん な おも み あと ただ ぜんご V. ひう 

「ニ度目もゃはり同じ市^-さ。 乂 女が にっこり する。 と m 心 ふと 见ぇ なくなる。 跡 は 唯 前後 左お に、 

もく" 一 i ば しゃ おと しか らっぱ た、 , 二 

木馬が 跳ねたり、 馬車が 躍ったり、 然ら すん ば 喇叭が ぶかぶか いったり、 太鼓が どんどん 鳴って 

ぼく おも じんせい f やう よう わお われ みなおな 卜つ 

ゐる だけなん だ。 , I 僕 はつらつら さう 忍った ね。 これ は 人生の 象徴 だ。、 我我 はせ 问 じ やうに 實 

せいく わつ もくば の とき う ふく あ つへ ゾ うち ちが 

生活の 木 ml に乘 せられて ゐ るから、 時た ま 『幸福』 にめ ぐり 遇っても、 摘まへ ない 内に すれ 通って 

かう ふく つか き ひとお も も; ば とお よ 

しま ふ。 もし 『幸福』 を插 まへ る氣 ならば、 一 思 ひに 木馬 を 飛び下り るが 好い。 11 」 

「まさか ほんた うに 飛び下り はしまい な?」 

むら でん さ. ぐ わい しゃ ぎ T: ちゃう 

からか ふやう にかう いったの は、 木 村と いふ 電 (浙會 社 の 技師 長 だ つ た 。 

じ-亡つ だん てつがく てつがく じんせい じんせい ところ こと かんが f-' ち さん 

一 「冗談い つち やい けない つ 折:: 學は 哲學、 人生 は 人生 さ。 —— 所が そんな 事を考 へて ゐる. 2: に、 : 二 

/ジ 

ど め おも たま とき き み ほく おどろ - や/な 

"-" 度 nn になった と 思 ひ 給へ。 その 時 ふと (湫 がつ いて 見る と、 11 これに は 僕 も いたね。 あの 女が 



笑 額 を 見せて ゐ たの は、 殘 念ながら 僕に ぢ やない。 賄 征伐の 大將、 リヴ イング ス トンの 中! ポ拜 {冰、 

ETC. LTC. ……ドク タァ和 田 良: や. にだつ たんだ。」 

てつがく ど ほ と お し あよ 

「しかし まあ 折 n 學通 りに、 飛び下りなかった だけ 仕 An 、せだった よ。」 

む くち ぐち じょうだん ふぢ ゐ あ ひか はに す はなし つづ ねつち- ソ 

無口な 野 口 も 冗談 をい つた。 しかし 藤 井 は 相不變 話を續 ける のに 熱中して ゐた。 

わ だ をん な まへ く うれ おじ ぎ また およ つ r 

「私 田の やつ も 女の 前へ 來 ると、 きっと 嬉し さう に 御 時宜 をして ゐる。 それが 又 かう 及び腰に、. 

しろ もくば またが まま まへ 

白い 木馬に 跨った 儘、 ネクタイ だ け 前へ ぶらさげ てね。. 1 J 

うそ 

つ醎 をつ け。」 : 

わ だ 4 つん もノ、 やぶ ん: れ /、 せう 一, ォチュ 

和 田 もとうと う 沈默を 破った。 彼 はさつ きから 苦笑 をして は、 老酒ば かり ひっかけて ゐ たので 

ある。 

なに うそ とき 、. いよいよ V- 

「何、 嘘なん ぞ つくもん か。 ,—— が、 その 時 はま だ いんだ。, 愈 メリ ィ • ゴォ. ラウンド を 出た 

となると、 ^田 は 僕 も 忘れた やうに、 女とば かり しゃべって ゐるぢ やない か? 女 も 先生 先生と 

5 やく ぼくひと り 

いって ゐる。 埋まらない 役 ま はり は 僕 一 人 さ。 —— 」 

なるほど ノ ちんだん きみ こんや くれい ひ ウ, f も もら 

「成程、 これ は 珍談 だな。. I おい、 君、 かう なれば もう 八/夜の 會養 は、 そっくり 1?; に 持って |バ 



7 ふ ぜ。」 , 

3 

I いひぬ ま お ほ イワ ヅゥ はち ぎん さじ つ と, -/ リ わ だ * へ 

飯 沼 は 大きい 魚翅の 鉢へ、 銀の 匙 を 突き こみながら、 隣に ゐる 和^ を ふり 返った。 

ば か をん な とも かこ 

r 莫迴 な。 あの 女 は 友 だち の圍 ひものなん だ。」 

だ ひやう ひぢ — はな かれ .A ほ み わた ところ 、ニニ.」 たれ ひ 

和 田 は, 刚 をつ いた 俊、 ぶっきらぼうに いひ 放った。 彼の 顔は见 渡した 所、 一 鹿の; 1 よりも: Z 

5 め は f たた, はな は とく わい そのうへ ご ぶ が か あたま .M とん どがん 4.-、.- 

に燒 けて ゐる。 目鼻立ち も 甚だ 都會 じみて ゐ ない。 :H ハ上 五分刈りに 刈り こんだ 頭 は、 ,. 殆 £ せ.^ の 

3 ゲ, や,;^ ぶ かれ むかし あるたい かう じ あ ひ ひだり ひぢ くじ に <" て.? ,£ 二と 

やうに 丈夫 さう である。 彼 は 昔 或對校 試合に、 左の 臂を拽 きながら、 五 V まで も 敵 を 投げた 事が 

I 二, ン わ,!; 'ねん がう けつ くろ せ びろ しま た.,, 'ij 、り-;.' かう 

あった —— さう いふ 往年の 豪傑ぶ り は、 黑ぃ 背廣に 縞の ズボンと いふ、 當景 流行の なり はして 

ゐて も、 ^處 かに ありあり と殘 つて ゐる。 

いひぬ ま きみ かこ もの 

「飯 BE! 君の 園 ひ者ぢ やない か?」 

パちゐ 。たり-ご あ ひて み よ ; -,, - び トーう ら 

藤 井 はま 越しに 相手 を 見る と, にやり と醉 つた 人の 微笑 を:^ らした。 

「さう かも 知れない。」 

, いひぬ ま れいぜん う な-, J いちど わ だ ケハ 

^ 飯 沼 は 冷然と 受け流してから、 も 一度 和 田 を ふり 返った。 

,ク 

たれ とも 

「診 だい、 その 友 だち とい ふの は?」 



ゎハ つき じつ デ ふ.; J- なか たれ し いおう なに そつけ-" f 

「若槻 とい ふ 實業家 だが、 . 1 -こ の屮 でも 誰か 知って ゐ はしない か? 慶應か 何 か 卒業して から I 

:.. ま じ ぶん ぎんかう で ねんば い われわれ おな くら ゐ をと こ 3 いろ しろ * わ,, ざ X ■ め ' :» か、 WW 

今ぢゃ 自分の 銀行へ 出て ゐる、 年配 も 我我と 同じ 位の 男 だ。 色の 白い 優しい: :! をした 短い 髭 

± いち-ごん ふ-つりう あい かう だんし 

を 生やして ゐる、 —— さう さな、 まあ 二百に いへば、 風流 愛すべき 好 sf- 子 だら う。」 

わかつ ャみ ねだ らう はいがう ^いがい 

「若 槻峯 太郞、 俳號は 靑蓋ぢ やない か?」 

よこ あ くち はさ わかつ き じつげ ふか し つ). にち. - マハ. - I つ , 

わたし は橫合 ひから 口 を 挾んだ。 その 若槻 とい ふ實業 象と は、 わたし もつ い w 五 曰" 一 しょ 

しば ゐ み 

に 芝居 を 見て ゐ たからで ある。 

4.J:,A- くし ふ だ をと こ こ だんな ふたつき ほ ノ.^ へ 

「さう だ。 靑ー i 句集と いふの を 出して ゐる、 -1 1 あの 男が 小 ゑんの 植那 なんだ。 いや 二月 程" S 

だんな * いま ぜんぜんて き 

まで は擠那 だつ たんだ。 今ぢゃ 全然 手を切って ゐ るが、 . I 」 

「へええ、 ぢゃ あの 若槻 とい ふ 人 は、 —— 」 

ぼく ちう がくじ だい どうさう 

「僕の 中學 時代の 同窓なん だ。」 

いよいよお だ や 

「これ は 愈 IS かぢ やない。」 . 

ふぢん Iri たやう き こ ゑ だ 

藤 井 は 又 陽 氣な聲 を 出した。 

3 きみ われわれ し あ ひだ ちう «- くじ だい どうさう *i な -,^ 51 ^たさ ' » • 

1 「君 は 我我が 知らない間に、 その 屮學 時代の 同窓なる ものと、 花 を 折り 柳に 撃ち —— 」 



9 「莫迦 をい へ C 僕が あの 女に 會 つたの は、 大學 病院へ やって 來た 時に、 ?ぉ槻 にもち よいと 賴 まれ 

3 

1 べんぎ はか ちくのう しゃう なに しゅじゅつ 

てゐ たから、 便宜 を圖 つて やった だけなん だ。 蓄膿症 か 何 かの 手術だった が、 —— 」 

和 田 はぎ 酒 をぐ いと やつてから、 妙に 考へ 深い 目つ きになった。 

「しかし あの 女 は 面白い やつ だ。」 

「惚れた かね?」 

木 村は靜 かに ひやかした。 

あるひ ほ し あるひ また X し こと 

「それ は 或は 惚れた かも 知れない。 或は 又 ちっとも 惚れなかった かも 知れない。 が、 そんな 事よ 

り も 話した いのは、 あの 女と 若槻 との 關 係なん だ。 —— 」 

わ だ まへ お いつ ゆうべん ふる だ 

和 E はかう 前 i 嵌き をして から、 何時にない 雄 辯 を 振 ひ 出した。 

ぼく ふぢ ゐ はな とほ あ ひだ ぐうぜん 二 あ し」 こ ろ あ はな み 二 

「僕 は 藤 井の 話した 通り、 この 問 偶然 小 ゑんに 逢った。 所が 遇って 話して 見る と、 小 ゑん はもう 

ふたつき ほど まへ わかつ き わか わか き み へんじ へ スト 

二月 程 前に、 i 右概と 別れた とい ふぢ やない か? なぜ 別れた と 訊いて Is- て も、 返;^ らしい 返^ は 

. なに ただ V び わら ひと ん-; 'リウ じん 

一 何もし ない。 唯-おし さう に 笑 ひながら * もともと わたし は あの人の やうに、 風流 人ぢ やな いんで 

夕 

m すと いふんだ。 



140 



ぼく そのと きたち い き それ わか. ^ .^.」の; ひるす 

「僕 も 其 時 は 立 入っても 訊かす、 夫な り 別れて しまったん だが、 つい 昨日、 11 昨日 も 午過ぎ は 

あめ ュ あめ さいちう わかつ き めし く こ て がケ ちいう ど IT- く 

雨が & つて ゐ たらう。 あの 雨の 最中に 若槻 から、 飯 を 食 ひに 來 ないかと いふ 乎 紙なん だ。 r.J^ 銜 

ひま はや わかつ き うち い み せんせい き き ろくで しょさ 一 あ ひ, ハょら す., ういう 

も 暇だった し、 早めに 若槻の 家へ 行って 見る と、 先生 は氣の 利いた 六鲞 の書齋 に、 相; だ n 變 悠悠と 

どくしょ ぼく とほ や ばんじん ふ-つりう なん ダ』 んぜん し リ しょ 

讀書 をして ゐる。 僕 はこの 通り 野蠻人 だから、 風流の 何たる か は 全然 知らない。 しかし 若 輒の臀 

さい げいじゅつてき なん くら き とこ 

齋へは ひると、 藝術 的と か 何とかい ふの は、 かう いふ 暮 しだら うとい ふ がす るんだ。 ま \Vi£ の 

ま いつい ふる かけ も かか はな しじ :5 うた こと しょもつ わ しょ ラ^ゼ 二 

間に は 何時 行っても、 古い 懸 物が 懸 つて ゐる。 花 も 始終 絶やした 事 はない。 書物 も 和書の 木箱の 

ほか やうし よ しょだな なら きゃしゃ つ V 、ゑ そ^ しゃみ せん ときどき だ 

外に、 洋書の 書棚 も 並べて ある。 おまけに 華奢た 机の 側に は、 三味線 も 時時 は 出して あるんだ- レ 

ラ へそ こ わ, 4 つきじ しん ど こ たうせ い うきよ 幺 つうじん -. の..,.' 

その上 其 處にゐ る若槻 自身 も、 何 處か當 世の 浮 f 畫じ みた、 通人ら しいなり をして ゐ る. し 昨 口 も 

めう き ものき なん キ- み チャンパ もの 二た 

妙な 着物 を 着て ゐ るから、 それ は 何 だね と 訊いて 見る と、 占 城と いふ 物 だと 答へ るぢ やない か? 

ぽ く とも お ほ いへ ど チヤ ン パ き も つ キ J わ ^ つ き ぞ ひ 七 り 

僕の 友 だち 多し と雖 も、 占 城 なぞと いふ 着物 を 着て ゐる もの は、 t 右槻を 除いて は 一人 も あるまい 》- 

をと こ くら ばんじ VJ うし 

,11 まづ あの 男の 暮 しぶりと い へば, 萬 事 かう い つた 調子なん だ。 

ぼく ひ ぜん まへ わかつ き けんしう か さ Z f こ 

「僕 は その 日 勝 を 前に、 若槻と 獻酬を 重ねながら、 小 ゑんとの いきさつ を^ かさ わたんだ。 小 ゑ 

ほか をと こ かくべつ おどろ よ あ ひて なに . ;;. も なにに ぶ..;: > に 

んには 外に 男が ある C それ はま あ 格別 驚かす とも 好い。 が、 その 相 乎 は 何かと 思へば、 浪花節,^^1 



1 りの 下っ端なん ださう だ。 ^たち もこん な 話 を 間いたら、 小 ゑんの 愚 を ® はすに は ゐられ ないだ 

4 

らう。 俊 も實際 その 時には、 ^笑 さへ 出來 ない 位だった。 

きみ もちろんし 二 わかつ き V, ん ねん か た ャゐ ぶんつ く もら わかつ き -- 

「君た ち は 勿論 知らないが、 小 ゑん は 若槻に 三年 この 方、 隨分 斑して 貨 つて ゐる。 t.;^ 槻は小 ゑん 

ははおや いもうと めんだ う み また こ じしん よか r ^.--i 

の 1^ 親ば かり か、 妹の 面倒 も rw- て やって ゐた。 その 乂小 ゑん 自身に も、 讀み 書きと いはす 藝 事と 

なん す こと し こ こ を ど な と なが-つた やなぎば し § び 

いはす、 何でも 好きな 事 を 仕込ませて ゐた。 小 ゑん は 踊り も 名 を 取って ゐる。 si- も 柳 橋で は 指 

を ほか ほっく て さ ち か けりう か な ヒゃ, つす みな わかつ ャ. - 

折り ださう だ。 その外 發句 も出來 ると いふし、 千 藤 流と かの 假名 も 上 f だとい ふ。 それ も $1 若概 

せう そく し ぼく キ-み せう し おも ぃヒ やう あき かへ 

のお かげなん だ。 さう いふ 消 肖、: J を 知って ゐる僕 は、 !^^たちさ へ 笑ぉに2ゎふ以上、 :: 木れ 返らざる を 

得な いぢ やない か? 

わかつ ゥ ぼく なに をん な わか くらん べつ なん おも 

「若槻 は 僕に かう いふんだ。 何、 あの 女と 別れる 位 は、 に 何とも 出 心って はゐ ません。 が、 わた 

で キ- かき をん な !:: ういく つく き なにごと り かい とど しゅみ ひろ iK んな 

し は 出來る 限り、 あの 女の 敎育 に壶 して 來 ました。 どうか 何事に も 理解の:^ いた、 趣味の 廣ぃ女 

に 仕立てて やりたい、 —— さう いふ X 布 望 を 持って ゐ たのです。 それだけに 今度 はがつ かりし まし 

なに をと こ こしら なに は ぶし かた かぎ げいごと み い 

一 た。 何も iR を栋 へる のなら、 浪花節 語りに は 限らない もの を。 あんなに 藝 • に は 身 を 入れて ゐて 

/ク 

r も、 根性の 卑し さは 直らない かと 思 ふと、 貴 際 苦苦しい J!M がする のです。 



142 



ゎかっ.^ また をん な はんとし た i.- う 

「若 槻は又 かう もい ふんだ。 あの 女 はこの 半年ば かり、 多少 ヒステリック にもな つて ゐた のでせ 

ほとんどまい にち け ふ かさ しゃみ せん も こ ども な 

う。 一時 は 殆 毎日の やうに、 今日 限り 三味線 を 持たない とかいって は、 子供の やうに 泣いて ゐ 

また たづ み をん な す 、ラグ > なら 

ました。 それが 又 なぜ だと 訊ねて 見る と、 わたし は あの 女 を 好いて ゐ ない、 遊藝 をお はせ るの も 

ため めう りくつ だ とき なん みみ レノ 

その 爲だ なぞと、 妙な 理窟 をい ひ 出す のです。 そんな 時 はわた しが 何とい つても、 耳に かける 

しき ただ はく ヒ やう く や くり かへ もっと ほジ V- 

色 さへ ありません。 唯もう わたし は 薄情 だと、 それば かり 口惜し さう に 繰 返す のです。 尤も 發作 

いつわら なし I 

さへ すんで しまへば、 何時も 笑 ひ 話になる のです が、 

f, か .$15』 また なん あ ひて なに は ぶし かた しまつ を らん/ ノ っ0 ォ" 

「若 概は又 かう もい ふんだ。 何でも 相手の 浪花節 語り は、 始末に 終へ ない 亂 B^^i 者 ださう です。 お 

P じみ とりや ぢ よちう をと こ なに で き とき ぢ よちう ヒ ま. H す/) くわ う、 お,? ゥ.' 

に湖染 だった 鳥屋の 女中に、 男 か 何 か 出來た 時には、 その 女中と 立ち^りの iM:t- をした 上、 -l^si 

- ほか をと こ む り しん ぢぅ 二と 

我 を させた とい- - ちゃありません か? この 外に もま だ あの 男に は、 無理心中 をし かけた 事 だの、 

^^-A^ むけめ か^お, こと わる う. にさ き を-ー-ニ ひつ 4" 

, ば 匠の 娘と 断 落ち をした 事 だの、 いろいろ 惡ぃ噂 も 聞いて ゐ ます。 そんな に 引 懸かる とい ふの 

い つたい りゃう はん 

は、 ー體 どうい ふ i 見なので せう。 

, こ、 ふ あき かへ え わ か つ き はなし キ! O ち 

「僕 は 小 ゑんの 不 しだら に は、 呆れ返らざる を 得ない といった。 しかし 若 糊の 話 を 聞いて ゐる h 

ぼく うご き 二 たい どうじ やう なる まど b かっき だん, 二 たう 

に たんだん 僕 を 動かして 來 たの は、 小 ゑんに 對 する 同情なん だ。 成程 若 F| は is 那 として は、 



;]々 夕 



143 



世 稀に 見る 通人 かも 知れない。 が、 あの 女と 训れる 位 は、 何, でもありません といって ゐるぢ やな 

いか? たと ひそれ は辭 令に しても、 I 烈な^ 着 はない に 遠 ひない。 猛烈な、 . I . た とへば その 

浪花節; 諧り は、 女の 薄情 を 憎む 餘り、 大 怪我 を させた とい ふ^だらう。 僕 は 小 スんん の 身に なって 

見れば、 上 =i でも 冷淡な 概 よりも、 下品で も 猛烈な 浪花節; おりに、 打ち込む のが 自然 だと へ 

るんだ。 小 ゑん は 諸藝を 仕込ませ るの も、 若槻に 愛の ない 證 據 だとい つた。 僕 はこの 一 百 葉の 巾に 

も、 ヒス テ リイば かり を见 ようと はしない。 小 ゑん はや はり 若槻 との 問に、 ギャップの ある^ を 

知って ゐ たんだ。 

まく こ だめ なに は ぶし かた で き こと に ゆく ふ: おも .f- うん: 

「しかし 僕 も 小 ゑんの 爲に、 浪花節 語りと 出 來た事 を 祝 幅しょう と は 忍つ 二」 ゐ ない。 幸福になる 

か 不幸になる か、 それ は どちらと もい はれない だら う。 —— が、 もし 不幸になる とすれば、 ^は 

るべき もの は男ぢ やない。 小 ゑん を其處 に SS 土ら しめた、 通人 若 槻靑蓋 だと 思 ふ。 若 糊 は —— いや 

當 世の 通人 は いづれ も 個人と して 考 へれば、 愛すべき 人 問に 相違 あるまい。 彼等 は 色 を 理解し 

てゐ る。 レオ. トルストイ を 理解して ゐる。 ^大雅 を 理解して ゐる。 武者 小路 實篤 を现觚 して ゐ 

る。 力 アル. マルクス を 理解して ゐる。 しかし それが 何に な るんだ? 彼等 は 猛烈な 愛 を.^ ら 



144 



まう れつ さう ざう くわん き し まう れつ だう とくて きじ やうね つ し ま-つ,; ^つ お に ち 

ない。 猛烈な 創造の 歡喜を 知らない。 猛烈な 道徳的 情熱 を 知らない。 猛烈な、 —— ル そこの 地 1^ 

てう ごん まう れつ なにもの し そこ かれら ちめ、 しゃう . ^れ. ,:- パ いどく 

を壯嚴 にすべき、 猛烈な 何物 も 知らす にゐ るんだ。 其處に 彼等の 致命傷 も あれば、 彼等の-笛 毒 も 

,そ おも がい ど/、 ひと のうどうてき だ にん つうじん か は が > どく ノ-- よん どう 

潜んで ゐ ると 思 ふ。 害毒の 一 つ は 能動的に、 他人 を も 通人に 變,. らせ てし まふ。 害毒の 二つ は 1^ 動 

き いっそうた にん ぞく こと こ 一, MJ れい 4: かし のど かわ 

的に、 ー署 他人 を 俗にす る 事 だ、。 小 ゑんの 如き は その 例ぢ やない か? から 喉の 渴 いて ゐるも 

» ど <:$v- つ の Z わかつ > 一 かこ なに は ぶし かた で き 

の は 泥水で も飮 むと きまって ゐる。 小 ゑん も 若 槻に圍 はれて ゐ なければ、 浪花節 一忠り と は出來 

なかった かも 知れない。 , 

また かう ふく あるひ わかつ き か は なに は ぶし かた え こと かう 

「もし 又 幸福になる とすれば、 11 いや、 或は 若槻の 代りに、 浪花節 語り を i5 た 事 だけで も、 幸 

ふく たし.;" かう ふく ふぢ ゐ われわれ みなおな じつせ" く; J つ 

福 は 確に 幸福 だら う。 さっき 藤 井が いった ぢ やない か? 我我 は 皆 同じ やうに、 實 生活の 木馬に 

とき かう ふく 4 め つか うち ^ ^ 

乘 せられて ゐ るから、 時た ま 『幸福』 にめ ぐり 遇っても、 摑ま へない 內に すれ違つ てし まふ。 もし 

かう ふく つか き ひとお も もく ミ と お よ 二 ひとお も 

『幸福』 を摑 まへ る氣 ならば、 一 思 ひに 木馬 を 飛び下り るが 好い。 —— いはば 小 ゑん も 一 思 ひに、 

じっせい くわつ もくば と お まう れつ くわん き く つう わかつ きごと つうじん し A 三ろ く 

實 生活の 木馬 を 飛び下り たんだ。 この 猛烈な 歡 f おや 苦痛 は、 若槻 如き 通人の 知る 所ぢ やない。 俊 

ヒん せい か ち おも ひゃく わかつ き つば は いつ こ た ふと 

は 人生の 憤 値 を 思 ふと、 百の 若 槻には 唾 を 吐いても、 一の 小 ゑん を 尊びた いんだ。 

今-み おも 

「君た ち はさう 思 はない か?」 



話 夕 一 



145 



和 m は 醉服を 輝かせながら、 聲 のない 一 座 を见ま はした C が、 ぎ 井 は 何時の 問に か、 y?:? に^ 

を乖; らした なり、 叙樂さ うにぐ つ すり 眠 こんで ゐ た。 

(大正 十 一 年 六月) 



146 



六の 宫の姬 君. 一 



?-ぁの1まの!^は、 おいお I の れ だった。 が、 ゅ|^にも1れ勝ち な、 昔氣 S 人だった か 

ら、 纖 より^らなかった。 ^戰はさぅ耷ふ^^|.と1っしょに、 の宮 のほとりに ある、 

が? I ぃ&! まに^ まって ゐた。 ?ハくの?0^^の«載とーザふのは、 その ¥ 地の 名" S に據 つたの だった。 

お if は sfl を ffiii ひた。 しかし やはり 散 S や 海んで は^に もめ あはせ なかった。 ^かま ひ^ 

る "おが あれば と、 に 伊つ ばかりだった。 ま # "も 〔ム。 f の, S へ 通り、 つつまし い 朝夕 を 送って 

ゐた。 それ は!! しみ も # らな いと £ つ I に、 ?告び も 知らない 生涯だった。 が、 ゆ 問 兄す の 抓せ は、 

被 g ぉ艇も 41 じな か つ た。 rirl さ へ きつず やで ゐて くれれば 好い c」 11 姬君 はさう m 丄 つ てゐ た。 

? S い^に ぎれ た ii^、 に? S しい^ を^いた。 その m に讓 も^^の ii にか、 大人 寂び た 

^ i いさを, 15 した。 が、 まみに, た は、 si®^ ぎした 1 に、 突 鮮パ になって しまつ 



*- は Li はんとし うち かへ なァ かさ ちずく .^r ち ぶヒ .in , 

9. た。 のみなら す 母 も 半年 ほどの 內に、 返らない 歎き を 重ねた 揚句、 とうとう 父の 跡 を 追って £: つ 

めぎ ri- かな い と 一ナリ ノ、 じつ Ji1> ? >s^-v 

た。 姬君は 悲しい と 云 ふよりも、 途方に 暮れす に は ゐられ なかった。 實際ふところ子の姬^;;には 

たった 一人の 現 母の 外に、 たよる もの は佝 もない のだった。 

ぅ,-^^, ひめぎみ ため ほねみ をし はたら つづ いへ も つた ら 一../:" て f こ しろ 

お ET はけ なげに も姬 君の 爲に、 骨身 を惜 ます 働き 續 けた。 が、 家に 持ち 俾 へた 螺鈿の 手ず:; や, HI 

か-つろ い つ ひと うしな い ど うじ めしつか だんちよ た ひま ょヒ 

がね の 1^= 爐は、 何時か 一 つづつ 失 はれて 一.:;: つた。 と 同時に 召使 ひの 男女 も、 誰から か 暇 をと り 3i 

ひめぎみ /. つら こと 

めた。 姬 にも らしの 辛い 事 は、 だんだん はっきり わかる やうに なった。 しかし それ を どうす 

こ; M ひめ J^- み ちから およ ひめぎみ さび や かた たい む かし す 二 かよ 二と 

る 事 も 她 君の 力に は 及ばなかった。 姬君は 寂しい 屋 形の 對に、 やはり 昔と 少しも 幾らす、 琴 を 

ひ うた よ たぐて う あそ くり か、 

引いたり 歌 を 詠んだり、 §Hj. 調な 遊び を 繰返して ゐた。 

ある あャ S ふ 5 ?ふ ひめぎみ まへ で かんが かんが こと い 

すると 或 秋の 夕 ぐれ、 お 母 は姬^ の 前へ 出る と、 考へ考 へこん な 事 を 云った。 

1<レ ひ ほふし たつ, たスぱ だん ヒ と^3 まあ 、- ただ ま. 1 

「^の 法師の 賴 みます に は、 丹 波の 前 司な にがしの 殿が、 あなた 様に 會は せて 顶 きたいと か 巾し 

4 ハ ゐ ザ さ うつく う、 こころ よ V;,: 

の て 居る さう でございます。 前 司 はかた ち も 美しい 上、 心ば へ も 善い さう でございますし、 仏 l-H- の 

.,,,1 4„- ち すり やつ ま を かんだ ュ つめ こ あ - かが 

,£ 父 も 受領と は 中せ、 近い 上達部の 子で も ございま すから- ぉ會 ひに なって は 如何で ございませ 

^ う? かやう に 心細い 暮し をなさい ますよりも、 少し は 益し かと 存じます が。 …… 」 



ひめぎみ しつ ね な はじ をと こ はだみ まか ふ によ- くら た,! * め う 

姬君は 忍び音に 泣き 初めた。 その 男に 肌身 を 任せる の は、 不如意な 暮 しを扶 ける 爲に、 體を資 

どうやう もちろん よ なか お ほ い こと しょうち fol-,、 み 

るの も 同様だった。 勿論 それ も 世の中に は 多い と 云 ふ 事 は 承知して ゐた。 が、 現在 さうな つて 兌 

かな また か /、ベ つ ひめぎみ 5 ^ む 一め まま くす は ふ かへ かぜ なか ノ つ 

ると、 悲し さは 又 格別だった。 姬君 は^ 母と 向き合った 儘、 葛の 葉 を 吹き返す 風の 中に、 何時 ま 

そて かほ 

でも 袖 を 顔に して ゐた。 …… 

ひめ^み いつま よ ごと をと こ あ をと 二 う f こと „J どま こころ 

しかし 姬君は 何時の間にか、 夜毎に 男と 會 ふやう になった。 男 は i!?- 母の 言葉 通り やさしい 心の 

も ぬし かほ うへ ひめぎみ うつく なに か わす 

持ち主だった。 顔 かたち もさす がに みやびて ゐた。 その上 姬 君の 美し さに、 何も彼も 忘れて ゐる 

こレ. 一 ほとんど たれ め あき ひめぎみ もちろん をと こ わる こ 二ろ も とき たつ 

事 は、 殆 誰の 目に も 明らかだった。 姬君も 勿論 この 男に、 惡ぃ心 は 持たなかった。 時には 敏も 

おも こと て ふとり きち やう た へんり とうだい ひかり まぶ をと C ふたり 

しいと 思 ふ 事 もあった。 が、 蝶 鳥の 几帳 を 立てた 陰に、 燈臺の 光 を 眩しが りながら、 5:^こニ人む 

つび あ ふ 時に も、 嬉しい と は 一 夜 も 思はなかった。 

- つち や かた す こ はな くうさ く は はじ く- C だな すだれ あら めしつか かす 

その内に 屋形は 少しづつ、 花やかな 空 祭 を 加へ 初めた。 黑棚ゃ 旅 も 新たに なり、 刀:: 使 ひの 數も 

ふ う ば もちろんい ぜん い い くら と まへ-な ひめ ビみ . 

殖えた のだった。 ^母 は 勿論 以前よりも、 活き活 きと 暮しを 取り 賄った。 しかし 姬^ はさう 云 ふ 



君 姬の宫 の 六 151 



變化 も、 寂し さう に 見て ゐる ばかりだった。 

あるし ぐれ わた よ をと こ ひめぎみ さけ く たんば くに い & み わる けなし 

或 時雨の 渡った 夜、 男は姬 君と 酒 を 酌みながら、 丹 波の 國 にあった と 云 ふ、 I 湫 味の 惡ぃ話 をし 

い-つも ぢ くだ たびびと おほえ やま ふもと やど か やど つま ちゃう ど よ ぶ じ をん な こ う r. と 

た。 出 雲路へ 下る 旅人が 大 江山の 麓に 宿 を 借りた。 宿の 妻 は J 度 その 夜、 無事に 女の子 を 産み^ 

たびびと うぶや なか なん し お ほ をと 二 いそ あし そと で く み お ほ をと こ 

した。 すると 旅人 は 生家の 中から、 何とも 知れぬ 大男が、 急ぎ足に 外へ 出て 來 るの を 見た。 大 

ただ とし はっさい めい じ がい い す たち ま ど こ き たびび 上 く 

は 唯 「年 は 八歲、 命 は 自害」 と 云 ひ 捨てた なり、 忽ち 何處 かへ 消えて しまった。 旅人 は それから 九 

ねんめ こんど き やう の: H と ちう おな いへ やど み ところ じっさい をん な こ やつ とし へんし 

年 目に、 今度 は 京へ 上る 途中、 同じ 家に 宿って 見た。 所が 實際 女の子 は、 八つの 年に 變 死して ゐ 

き お ひやう し かま のど つ た はなし だいたい い ひめ 

た。 しかも 木から 落ちた 拍子に、 鎌 を 喉へ 突き立てて ゐた。 11 話 は大體 かう 云 ふの だった。 姬 

ぎみ き とき しゅくめい おびやか をん な こ くら を 上 こ たつ くら 

君 は それ を 聞いた 時に、 宿命の せんな さに 脅された。 その 女の子に 比べれば、 この 男を賴 みに 暮 

し あは ちが ま-. i ほか ひめぎみ 

して ゐ るの は、 まだし も 仕 合せに 違 ひなかった。 「なりゆきに 任せる 外 はない。」 —— 姬 はさう 

おも .f ほ ゑ 

思 ひながら、 額 だけ は あでやかに ほほ 笑んで ゐた。 

や かた のき あた まつ なんど ゆき えだ を ひめぎみ ひる むかし こと ひ すごろく 

屋 形の 軒に 當 つた 松 は、 何度も 雪に 枝 を 折られた。 姬君 は晝は 昔の やうに、 琴 を 引いたり 双六 

う よる をと こ ひと しとね みづ とり いけ お おと き かな すくな どつ I 

を 打ったり した。 夜 は 男と 一 つ! t に、 水鳥の 池に 下りる 音 を 聞いた。 それ は 悲しみ も少 いと 

よろこ すくな あ V- ゆ ふ ひめぎみ あ ひか はらす も G う やす なか まんぞく み いだ 

に、 喜び も少ぃ 朝夕だった。 が、 姬君は 相 不變、 この 懶ぃ 安らか さの 中に、 はかない 滿足 を:: ル出 



攀 



して ゐた。 

, ^ ^ やす i おも ほかき ふ つ とや:〕 き はる か へ .Icro よ をと- - ひ:^: さみ ふた 

し 力し その 安らか さも、 思 ひの 外 急に 盡 きる 時が 來た。 やっと 春の 返った 或 夜、 男 は姬^ と 二 

り、 1 あ こ よ ひ い に メ、 ち き をと-一 ちち こんど 

人になる と 1 そなたに 會 ふの も 今宵ぎ りち や」 と、 云ひ惡 くさう に 口 を 切った。 Ef- の 父 は 今度 の 

も もく む つ かみ にん をと こ ため ゆき ふか おく いつ くだ 

除 目に .陸奧 の 守に 任ぜられた。. 男 も その 爲に 雪の 深い 奥へ、 一し よに; P ら ねばならなかった。 

はノ > ,^に を-二 こ ふな ひめ: さみ つま 4 つち t 

勿 4 ゆ # 君と „ がれる の は 何よりも 男に は 悲しかった。 が、 姬君を 妻に したの は、 父に も I! して ゐ 

たの だから、 今更 打ち明ける 事 は 出來惡 かった。 男 はため 息をつきながら、 長 とさう 云 ふ^ 情 

は な 

を 話した。 

ご れん にズ はて とき た C ま . , 

「しかし 五 年た てば 任終ぢ や。 その 時を樂 しみに 待って たもれ。」 

: 她 はもう 泣き伏して ゐた。 たと ひぎし いと は 思 はぬ まで も、 賴み にした と^れる の は、 す 

ば つく かな をと 二 ひめぎみ せ な ,rc--_ t/ 

葉に は盡 せない 悲し さだった。 男 は姬. 君の 背 を 撫でて は、 いろいろ めたり 魔ました りした。 が、 

ふたことめ な 人 だ こ ゑ くも 

これ も 一 一言 目に は、 淚に聲 を 曇らせる のだった。 

そ, に,", , 1^ に し. う とし わか にょうば う て-つし たかつき . に: き ふる いす し だ 

? 1 ハ處へ 何も 知らない^ 母 は、 年の 若い 女房た ちと、 铫子ゃ 高坏 を 運んで 來た。 古い 池に i? ぜ^ 

2 

5 さくら つまみ も こと はな 

1 た樱 も、 管 を 持った 事 を 話しながら。 …… 



^ 三 

ろく ねんめ はる かへ き おく くだ をヒニ つ ひ みち、 こ V ヽ "ノ J ,コ 1 

六 年 目の 春 は 返って 來た。 が、 奥へ 下った は、 遂にき へ は 膨らなかった。 その||:?25!^^ひは 

一人 も殘ら す、 ちりぢりに^%かへ^^ち|ぃてしまふし、 鲰!^ の^んで ゐ た^が^も il^ の!^^ 

- - . I : 2 でめ"^; 一み ノぃ らいう J いつ さむら ひ ほそ ど G すま ひ そ こ ナ まひ 

に 倒れて しまつん。 她 1|_; は それ 以來^ 母と 一 しょに 侍 の 廊を 住居に して ゐた。 其 虎 は 住居と は 

云 ふ ものの、 手狹 でも あれば 住み 荒しても あり、 ^に 雨露の %げ る だけだった。 i:^ 母 はこの, 1^ ベ 

移った 當座、 いた はしい 姬界の 姿 を 見る と、 を 落さす に は ゐられ なかった。 が、 ; ^"おおよ If ぎ 

もない のに、 腹ば かり 立てて ゐる 事が あった。 

暮 しのつ らいの は 勿論だった。 棚の 廚子 はとうの!? 4" やま!^ に 鍵って ゐた。 おで は ^のつ i- 

や 袴 も 身に ついて ゐる外 は殘ら なかった。 孰 母 は 焚き物に 事」 を i けば、 おち II れ になった ij-^i^ ぐ、 

ュノ .j.;^ Mr- , -で ^ く、.^ ゐ ひめ. さみ むかし とほ こと うた き よ \:--| 

の 板 をお きに 屮_ 力け る 位だった〕 しかし 姬君は 昔の 通り、 琴 や 歌に^ を^ら しながら、 ぢっ とぎ. を 

/II ま つ-つ 

.S 待ち 緩け てゐ た。 • 

$^ - とし あき つきよ うば ひめぎみ まへ で かんが ,_;., ん; A こと , 

すると その 年の 秋の 月夜、 . ^母 は 姬 君の 前へ 出る と、 考へ考 へ こんな; 5^ を rl^ っヒ。 



154 



一 殿 はもう 御歸 りに はなり ますまい。 あなた 樣も 殿の 事 は、 お. 5 心れ になって は: §1: で ございませ 

つい ごろ ある てんやくの すけ V.- ま あ ま を せた ゐ 

う。 就て はこの 頃 或 典藥之 助が、 あなた 樣 にお 會 はせ 申せと、 責め立てて i5 るので ござ, いますが、 

…… 」 

ひめぎみ はなし き ろく ねん ま へ こと おも だ ろく ねん ま へ なな 

姬君は その 話 を 聞きながら、 六 年 以前の 事 を 思 ひ 出した。 六 年 以前に は、 いくら 泣いても * ::^ 

た ほどかな いま か、.: だ こころ あま つか こだ! づ く 

き 足りない 程 悲しかった. り が、 今 は體も 心も餘 りに それに は 疲れて ゐた。 「唯靜 かに 若い 朽ちた 

ほ.^ なに 力ん ゲ ひめぎみ はなし キ- を は しろ つき なが ^ J> 

い。」 …; その外 は 何も 考 へなかった。 姬君は 話 を 聞き 終る と、 白い 月 を 眺めた なり、 懒げ にやつ 

かほ ふ 

れた顏 を 振った。 

なにい い し ひとこと 

一 わたし はもう 何も 入らぬ。 生きよう とも 死なう とも 一 っ事ぢ や。 …… 」 

X X X X X X 

ちゃう ど おな じ こく をと こ .V ほ ひたち くに や かた あたら つま ; く つま ^ち め 

丁度 これと同じ 時刻、 男 は 遠、 い 常 陸の 國の屋 形に、 新しい 妻と 酒 を!^ んでゐ た。 妻 は 父の: S が 

L V. くに かみ むすめ 

ねに かなった、 この 國の 守の 娘だった。 

おと 产-ん 

1 あの 音 は向ぢ や?」 



をと こ おどろ しづ つきあ か のき み あ とォ ,; ことこ む; 2 ひ 6 

5 男 はふと 驚いた やうに、 靜 かな 月明りの 軒 を 見上げた。 その 時 なぜか 男の 胸に は、 はっきり 姬 

ぎみ すがた 5 か 

君の 姿が 浮んで ゐた。 

「栗の 實が 落ちた ので ございませう。」 

ひたち つま こた てうし ざけ 

常 陸の 妻 はさう 答へ ながら、 ふつつかに 跳 子の 酒 を さした。 



四 

をと こ き やう かへ ちゃう どく ねんめ ばんしう をと こ ひたち つま うから . ^ノれ ら >」 ひう 

男が 京へ 歸 つたの は、 了 度 九 年 目の 晩秋だった。 男と 常 陸の 妻の 族と、 , I - 彼等 は 京へ は ひる 

と ちう ひ わる さ ため V, 乂 よっか あは づ たいざい t-iu つ とき ,る ひヒ 

途中、 日が らの惡 いの を 避ける 爲に、 三 ran 粟津に 滯 在した。 それから 京へ は ひる 時 も、 喪の 人 

め-た.: > » ひくれ えら こと をと こ ひな あ ひだ に さんど き やう つ J 

冃に 立たない やうに わざと 日の 暮を 選ぶ isijf にした。 男 は 鄙に ゐる問 も、 二三 度 京の 妻の もとへ、 

ぷ i ご 1 うそべ 、 つかび かへ さい は かへ き おも ひめ:. さみ や 

懇ろな 消, J を ことづけて やった。 が、 使が 歸ら なかったり、 幸ひ歸 つて 來 たと 思へば、 姬:^;^の屋 

六 力た いちど へんじ て い き やう こ- S 

の 形が わからなかったり、 一度 も 返事 は 手に入らなかった。 それだけに 京へ は ひった となると、 戀 

,^1 . また ひと! -ほ をと こ つま .1" ち やかた ぶ t つまお く ± や たプじ たく と らく 

I しさ も 功 j きだった。 男 は 妻の 父の 屋 形へ 無事に 妻 を 送り こむ が 早い か、 旅 仕度 も 解かす に 六の 

君 宫へ 行った。 



156 



t;.、>f や 、J^ ゥ - み-. . 力 かし - _ よつ あ,^ もん ひ はだ ふ しんでん たい ことごとく いま 

1 ハの宮 へ 行って 見る と、 昔あった 四 足の 門 も、 檢 皮せ 耳き の寢 殿ゃ對 も、 悉 今 はなくな つて ゐ 

なか ただ G こ V 、づ のこ つ いぢ をと こ くさ なか たた. ヌ まま どうぜん -i 

た。 ^の 中に 唯殘 つて ゐ るの は、 崩れ 殘 りの 築 土 だけだった。 男 は 草の 屮に 佇んだ 儘. . 茫然と 廳 

なが そ こ なか うづ いけ な ぎ す こ つく な ぎ しん 

の 跡 を 眺め ま はした。 其 處には 半ば 種 もれた 池に、 水 葱が 少し 作って あった。 水 葱 はかす かな 新 

げっ ひか リ は むらが 

月の 光に、 ひっそりと 葉 を簇ら せて ゐた。 

を ひべ、 ころ お, 4 , 、 - , ふたむ いたや み いたや なか ちかよ み 

男 は 政所と 覺 しい あたりに、 傾いた 板屋の あるの を 見つけた。 板屋の 屮には 近寄って 見る と、 

、 ひ,; -ーか W , をと こ やみ ナ ひとかげ こお つ 

誰 力 人影 も あるら しかった。 男 は閱を 透かしながら、 そっと その 人影に 聲を かけた。 すると 月明 

りに よろ ぼひ 出た の は、 何處 か見覺 えの ある 老 尼だった。 

あ . , を ひこ-な , なに い な つ-つ ち と ぎ と ぎ ひめ- さ? み 

尼 は に 名のられ ると、 何も 云 はすに 泣き 緩け た。 その後 やっと 途切れ途切れに、 姬^ の 身の 

上 を 話し 出した。 

IP み,.. Pjr ノ てまへ みうちつ か & め は £ .-5 

「街 見忘れで も ございませ うが、 手前 は 御內に 仕へ て 居った、 はした 女の 母で ございます。 殿が 

ソだ \ 』 すすめ ご ねん つ 1 ほうこういた を うち をつ と ともども 

あ 下りに なつてから も、 娘 はま だ 五. 年ば かり、 御 奉公 致して 居りました。 が、 その に 夫と 共共、 

たいべ ま, 、 ) 、だ ;】, と て まへ せつむ, 11 め いつ おいと ま いただ と-一ろ 

但 馬へ 下る 事に なりました から、 手前 も その 節 娘と 一し よに、 御 暇を顶 いたので ございます。 所 

、、„ ) ) V. なに、 こころ ,, て まへ ひとり き やう のま み f 一 f- ん Ai" 

力 この頃 她 君の 事が. 何かと 心に かかり ますので、 手前 一人 京へ 上って 兑 ますと、 御覚 の^り, 



君姬 のおの 六 



157 



屋形も 何も なくなって 居る ので ございま せんか? 姬君も 何處へ いらっしゃった: ijJi! やら、 ^ 

は 手" m もさき 頃から、 途方に 暮れて 居る ので ございます。 殿 は 御存知 も ございま すまいが、 船が 

つ) ほうこう ま を を あ ひだ ひめぎみ くら ま を く。 J 

御 奉公 申して 居った 間 も、 姬!!^^のぉ暮しのぉぃたはしさは、 申し やう もない 位で ございました。 

…… 」 

をと こ いちぶ !. L ゆう ち こし まか あま した こ., も いちまいぬ わ.! J ^ ノっ 、, 

は 一部始終 を 聞いた 後、 この 腰の 曲った!:^ に、 下の 衣 を ー妆脫 いで 渡した。 それから 頭 ii^ 

まま もくねん く <」 なか あゆ さ 

れた 儘、 默 然と 草の 中 を步み 去った。 

をと こ よくじつ ひめぎみ さが らくちう はう ばう ある ど こ よう. - 

WR は 翌日から 姬針を 探しに、 洛中 を 方方 步 きま はった。 が、 何處 へどう したの か、 { 杯ル ^ に 行き 

方 はわから なかった。 

1^ ん にち , の ゆ ふ ノ をと こ ざめ ざ ため ナ ざく もん まへ こし .4. 一にく でん e:.*.- しヒ t 

すると 何日 か 後の 夕 ぐれ、 Ef- は むら 雨 を 避ける 爲に、 朱^ 門の 前に ある、 ぼの:^ 殿り itf. ト にが 

そ こ をと こ ほか もの-ご ほふし ひとり お ま .2> ま ぉ,> 

つた。 其處に はま だ 男の 外に も、 物 乞 ひらし い 法師が 一 人、 やはり 雨止み を 待ちわびて ゐた。 i 

に, ぬ もん そら ャび おと た つ. つ をと こ ほふし — り: S .-ら だ .u; し さ ダ,. 

は 丹塗りの 門の i 仝に、 寂しい 音を立て 績 けた。 男 は 法: 帥 を 尻目に しながら、 ザ 立た しい ひ を, 汾 



い f だた ある うち をと こ みみ うすぐら まど れんじ なか ひと 

らせ たさに、 あちこち 石疊 みを步 いて ゐた" その 內に ふと 男の 耳 は、 薄暗い 窓の 櫺 子の 中に、 人 

とら をと こ ほとんどなん き まど のぞ み 

のゐ るら しいけ は ひを捉 へた。 男 は 殆 何の 氣 なしに、 ちらりと 窓を观 いて 見た。 

まど なか あま ひとり やぶ むしろ ぴゃ, にん をん な かいはう をん な ゆ ふ 

窓の 中には 尼が 一 人、 破れた 筵 を まと ひながら、 病人ら しい 女 を 介抱して ゐた。 女 は 夕 ぐれの 

ぅナ あか ぶ 、ひ み ほど や ひめぎみ ちが こと ひとめ み 

薄明り にも、 無氣 味な 程瘦せ 枯れて ゐる らしかった。 しかし その 姬 君に 違 ひない 事 は、 一 EI 見た 

じふ ぶん をと ここ ゑ あさ ひめぎみ すがた み こ么 

だけで も 十分だった。 男 は聲を かけよう とした。 が、 淺 ましい 姬 君の 姿 を 見る と、 なぜか その 聲 

だ ひめぎみ をと こ し やぶ むしろ うへ ねがへ う くる 

が 出せなかった。 姬君は 男の ゐ るの も 知らす、 破れ 筵の 上に 寢 反り を 打つ と、 苦し さう にこん な 

うた よ 

歌 を 詠んだ。 

かぜ み 

「たま くらの すきまの 屌 もさむ かりき、 身 はなら はし の ものに ざり ける。」 

をと こ こ-!. i き とき おも ひめぎみ なまへ よ ひめぎみ まく. 1.7- おこ をと こ み 

男 はこの 聲を 聞いた 時、 思 はす 姬 君の 名前 を 呼んだ。 姬君 はさす がに 枕 を 起した。 が、 男 を 見 

はや なに さけ またむ しろ うへ うつぶ あま +, ぶ-' じつ う 

るが 早い か、 何 かかす かに 叫んだ きり、 又 筵の 上に 俯伏して しまった。 は、 -II あの 忠赏 な^ 

ば そこ と をと こ いつ あわ ひめぎみ だお 二 だお こ かほみ 

母 は、 其處へ 飛び こんだ 男と 一し よに、 慌てて 姬君を 抱き起した。 しかし 抱き起した 顔を兑 ると、 

う ぱ もちろん をと こ いっそうち わ 

^母 は 勿論 男 さへ も、 一 慌てす に は ゐられ なかった。 

う ば" & くる こ き ほふし よし よ りんじゅう ひめぎみ ため 

乳母 はまる で氣の 狂った やうに、 乞食 法師の もとへ 走り 寄った。 さう して、 臨終の 姬 君の 爲に、 



君 姬の宮 の 六 



159 



なん ふ う よ ? ほ, -1 し う r., っぞ ど ひめぎみ まくら ざ し 

何なりと も經を 讀んで くれと 云った〕 法師 は^ 母の 望み通り、 姬 IS?; の 枕 もとへ 座 を 卜 :! めた。 が、 

き やう もん どくじゅ か は ひめぎみ ことば 

經 文を讀 誦する 代りに、 姬i_^^へかぅ言葉をかけた。 

わう じ; 3、 う ひと e で き た-た-ご じ しんお こた あみだ ぶつ み な とな 

「往生 は 人手に 出來る もので は ござらぬ。 唯 御自身 怠らす に、 阿 彌陀佛 の 御名 をお 1? へな され。」 

ひやぎ み をと こ だ まま ほそ ぶつみ や ラ とな だ おも おそろ もん てんじゃう 

姬^ は 男に 抱かれた 儘、 細 ぼ そと 佛名 を唱へ 出した。 と 思 ふと 恐し さう に、 ぢ つと 門の 天井 を 

兄つ めた。 

ひ も くるま . 

「あれ、 あそこに 火の 燃える 車が。 …; 」 

「その やうな 物に お恐れな さるな。 鄉佛さ へ 念 すれば よろしう ござる。」 

まふし こる" if ひめぎみ —ばらく のち また!^ め つぶや だ 

法師 はや や 聲を勵 ました。 すると姬l;^;は少時の後、 又 夢うつつ の やうに 眩き 出した。 

「金色の 述 華が 見えます る。 天蓋の やうに 大きい 蓮華が。 …… 」 

法師 は 何 か 「K はう とした。 が、 今度 は それよりも さきに、 姬 君が:? -れ 切れに 口 を いた。 

「蓮華はもぅ13^ぇませぬ。 跡に は 唯 暗い 中に、 風ば かり 吹いて 居ります る。」 

「,y 心に 佛名 を御唱 へな され。 なぜ,! 心に 御唱 へな さらぬ?」 

まふし まとん しか ひめぎみ た い おな こと く . ^へ 

法師 は 殆ど 叱る やうに 云った。 が、 姬君は 絶え入り さう に、 同じ 事 を 繰り返す ばかりだった。 



160 



「何も、 —— 何も 見え ませぬ。 暗い 屮に 風ば かり、 —— 冷たい 風ば かり 吹いて 參 ります る。」 

をと こ う ば なみだ くち うち み だ ねん つづ ほふし もちろん がっし やう まま ひめぎみ ねんぶつ 

男 や 乳母 は 淚を吞 みながら、 口の 內に 彌陀を 念じ 續 けた。 法師 も 勿論 合掌した 俊、 姬 おの 念 佛 

たす 、 い こ- 0$ あめ まじ なか やぶ む I ろ し ひめき み し が ほ か は い 

を扶 けて ゐた。 さう 云 ふ IS の 雨に 交る 中に、 破れ 筵 を 敷いた 姬君 は、 だんだん 死に 額に 變 つて 行 

つた。 

六 

なんにち C ち つ よ ひめぎみ ねん i ふつ .1- す ほふし す ざく もん まへ きょく でん や 

それから 何日 か 後の 月夜、 姬 君に 念 怫を勸 めた 法, 1- は、 やはり 朱 雀 門の 前の 曲 殿に、 破れ 衣の 

ひざ かか そ こ むら ひ ひとり いうい う ,1:^ に うた つきあ,^ お ほぢ .V める や- 

膝 を 抱へ てゐ た。 すると 其處へ 侍が 一人、 悠悠と 何 か 歌 ひながら、 月明りの 大路 を 歩いて 來た。 

侍 は 法師の 姿 を 見る と、 草履の 足を步 めた なり、 さりげない やうに 整 を かけた。 

「この頃 この 朱 雀 門の ほとりに、 女の 泣き 聲 がする さう ではない か?」 - 

ほふし い,」 だた うづく まま ひとこと へんじ 

法師 は石疊 みに^ まった 儘、 たった 一 言 返事 をした。 

「お聞きな され。」 

さむら ひ みみ す むし ね ほか なに ひと 

侍 はちよ つと.; 耳を澄ませた。 が、 かすかな 蟲の 昔の 外 は、 何 一 っ阳 える もの もなかった。 あ 



君/:! なの 宫の六 



161 



ただ まつ に ほひ や き ただよ さむら ひ くち う なに 

たりに は 唯 松の 勻が、 夜氣に 漂って ゐる だけだった。 侍 は 口 を 動かさう とした。 しかし まだ 何も 

い . うち とつぜん ど こ をつな こ ゑ ほ なげ おく 

云 はない 內に、 突然 何處 からか 女の 聲が、 細 そぼ そと 歎き を 送って 來た。 

さむら ひ た ち て こ ゑ きょく でん そら ひと なが を ひ のち また ど こ 

侍 は 太刀に 手 を かけた。 が、 聲は曲 殿の签 に、 一 しきり 長い 尾を引いた 後、 だんだん 又何處 か 

へ 消えて 〔I;: つた。 

「御佛 を 念じて おやりな され。 —— 」 

ほふし げっ くわう んほ もた 

法師 は 月光に 顏を 擦げ た。 

ごく らく ぢ ごく し ふが ひ をん な たまし ひ みほと け ねん 

「あれ は 極樂も 地獄 も 知らぬ、 腑甲斐ない 女の 魂で ござる。 御佛を 念じて おやりな され。」 

しかし 侍 は 返事 もせす に、 法師の 顏を观 きこんだ。 と 思 ふと 驚いた やうに、 その 前へ いきなり 

りゃうて 

兩手 をつ いた。 

一 內 記の 上人で は ございません か? どうして 又 この やうな 所に —— 」 

ザ」 いぞく な よし I げ やすたね よ ないき しゃう にん い V 、うやし やう にん で し なか ごと かろ 

在俗の 名 は 慶滋の 保 胤、 世に. 2: 記の 上人と 云 ふの は、 (4.: 也 上人の 弟子の 中に も、 やん^ ない 高 

とく しゃもん 

德の 沙門だった。 

• (人 fi, 卜 一年 七 H0 



162 



きょねん にる よ い かぜ さむ つき さ よる く じ やすきち さんにん とも 

去年の 春の 夜、 , — こ 云っても まだ 風の- 恶ぃ、 月の 冴えた夜の 九 時 ごろ、 保丄 " は 三人の 友 だち 

,つ をが し わ. ろ らい ある さんにん とも はい ヒん ろ さい やうぐ わか ふうちう まタ- ゑ し .:: よた 尺 

と、 魚河岸の 往來を 歩いて ゐた。 三人の 友 だち と は、 俳人の 露柴、 洋畫 家の 風屮、 _t 畫師の 如 丹 

ヒ-ん にん ほんみ やう あか みち し うで こ * 一と ろ ぶい とし 

—— 三人と も 本名 は 明さない が、 その 道で は 知られた 腕つ 极き である。 殊にお 柴は年 かさで も あ 

しんけいかう よい ヒん つ, こ な よ をと こ 

り、 新 傾向の 俳人と して は、 夙に 名を馳 せた 男だった。 

われわれ みなよ もっと ふうちう やすきち げ こ ヒ よたん な だい しゅがう さんにん 

我我 は皆醉 つて ゐた。 尤も 風 中と 保 告とは 下戶、 如 丹 は 名代の 酒杂 だった か、 り、 :; 一人 はふ だん 

か は ただろ V.- い あし せう せう われわれ ろ くい なか 

と變ら なかった。 唯露柴 はどう かする と、 足 もと も 少少 あぶなかった。 我我 は^ 柴を屮 にしな が 

なまぐさ つきあ か ふ とほ に ほんばし はう ある い 

ら * 腥ぃ 月明りの 吹かれる 通り を、 日本 橋の 方へ 步 いて 行った。 . 

ろ さけ き すゐ えど こ そう そ ふ しょくさん ぶんて う かう いう あつ ひと いへ .; ^し 

露柴は 生つ 粹の江 戶っ兒 だった。 ^祖父 は 蜀山ゃ 文 I 兆と 交遊の 厚かった 人で ある。 {1 も 河-: ー讣の 

まる V- い い かいわいし ろ V- い まへ か げふ ほ. V ス ひとま. & 

丸淸と 云へば、 あの 界隈で は 知らぬ もの はない。 それ を露柴 はすつ と^から、 家業 は 殆ど 人任せ 

1 にした なり、 自分 は 山 谷の 露路の 奥に、 句と 書と 築 刻と を樂 しんで ゐた。 だから^ 此 かに は 我我に 



岸 河 魚 



165 



ど こ ュぅ かく した ま卞 かたぎ でん ぼ ふ り ま て もちろんえ) レ j** 、 

ない, 何處 かいな せな 風格が あった。 下町 氣 質より は 傅 法な、 山の 乎に は 勿論 緣の 遠い、 —— 一: 丄、 

し まぐろ 十し いちみ あ ひつう なにもの , 

はば 河岸の 節の 脂と、 一味 相 通す る 何物 かがあった。 

ろ さい じゃま ときどきぐ わいた う そで くわいく わつ われわれ はな つづ じょたん し-つ 

露柴 はさ も 邪魔 さう に、 時時 外套の 袖 を はねながら、 快活に 我我と 話し 緩け た。 如 丹は靜 かに 

笑 ひ 笑 ひ、 話の 相槌を打って ゐた。 その内に 我我 は 何時の 問に か、 河译の 取つ きへ 來て しまつへ^ 

まま か しでぬ めう も つた そこ や, T しょく や いっけん かた か C 

この 俊 河岸 を 屮:; 拔け るの は みんな 妙に 物足りなかった。 すると 其處に 洋食 屋が 一軒、 片側 を i 一ら 

つきあ か しろ .0 れん た みせ つ は 5 やすきち なんど き こと 

した 月明りに. n い 暖旅を 垂らして ゐた. - この 店の g マ は保吉 さへ も 何度か 聞かされた 事が あった。 

い ことい あう ち われわれ ふう^う さき 、vdi 

「は ひらう か?」 「は ひっても 好い な、」」 11 そんな 事 を 云 ひ 合ふ內 に、 我我 はもう 風 中 を 先に、 狹 

い 店の 屮へ なだれこんで ゐた。 

みや な.? > きゃく ふたり ほそなが たく むか きゃく ひとり かし わかしゅ ひ a: り どこ, 

店の 中には 客が 二人、 細長い 卓に 向って ゐた。 客の 一 人 は 河岸の 若い 衆、 もう 一 人 は何處 かの- 

しょく 二う われわれ ふたり むか あ おな たく わ もら た ひらが ひ 

職工ら しかった。 我我 は 二人 づっ向 ひ 合 ひに、 同じ 卓に 割り こませて 世 只った。 それから 平 只の フ 

マ かな まさむね な はヒ もちろんげ こ ふうちう やすきち ふた ちょく かさ 

ライ を 看に、 ちびちび 正宗 を 嘗め 始めた。 勿論 下 1:^ の 風 中 や 保吉は 二つと 猪口 は 重ねなかった" 

か は れ うり た ひら ふたり なかなか はんたん 

その代り 料理 を 平げ さすと、 一 一人と も 中中 健啖だった。 

この 店 は.;: 十 も 腰掛け も、 ニス を 塗らない 白木だった。 おまけに 店 を 11 ふ 物 は、 江戶傳 來の疲 



I 



I 



やうし よ,. - く 一にし J ん t し 、や おも ふうす > う 义 つ r 

だった。 だから 洋食 は 食って ゐて も、 殆ど 洋食 屋とは 思 はれなかった" 風 中 は 跳へ た ビフテキが 

來 ると、 これは切り味ぢゃなぃかと||^ったりした。 如 丹 は ナイフの 切れる のに、 大いに 敬意 を 表 

やすきち また でんとう あか い ば しょ ありがた ろ さい ろ さい と-ち,' 

して ゐた。 保 吉は又 電燈の 明るい のが かう 云 ふ 場所 だけに 難 有かった。 露柴 も、 —— 露柴は 土地 

こ なに めづ えりう. ばう あ み だ まま じょたん ばん リン かさ 

つ 子 だから、 何も 珍ら しく はない らしかった。 が、 鳥 打帽を 阿彌陀 にした 儘、 如 丹と 獻酬を nsli ね 

て は、 不相變 快活に しゃべって ゐた。 , 

い-一い ちう なか をれ. う きゃく ひとり れん キー 今やく ぐ. わい/ う け: 力 は 

すると その:: 取 中に、 中折帽 を かぶった 客が 一人、 ぬつ と 暖簾 をく ぐって 來た。 客 は 外せの 皮 

zn ふと ほほ うづ みい に.^ せま みせ なかめ ^ 

の 襟に 肥った 頰を 埋めながら、 见 ると 云 ふより は 睨む やうに、 狹ぃ 店の 屮へ眼 を やった。 それ 力 

いす >-..) ん あいさつ じょたん わか しゅ あ ひだ せき お ほ からだ わ ,5 や, ち , 

• らー 言の 挨拶 もせ や、 如 丹と 若. い 衆との 問の 席へ、 大きい 體を 割り こませた。 保吉は ライス カレ 

H を 抱 ひながら、 嫌な 奴 だな と 田 心って ゐた C これが- U 卞ノ鋭 花の 小說 だと、 任俠欣 ぶべき 藝 か 何 か 

たノぢ やつ おも またげ/だい に ほ ス.- ,し たうて いき やうく わ - ^うせつ * 

に、 ? 治られる 奴 だが と 思って ゐ た。 しかし 又 現代の 日本 橋 は、 到』 咬 鏡 花の 小說の やうに 動き 

つ こ はない とも 思って ゐた。 

-?, やく .?,, もん とま ci わう: い たばこ . ナン: た み み ほど かたきやく .1 りんば, ふ はは > 

客 は 註文 を 通, した 後、 橫 16 に 煙草 を ふかし 始めた。 その 姿 は 兑れば 見る 程、 敵役の 寸法に".^ つ 

<5 あぶら あか が ほ "もちろん おほし ま は ぉリ みと ゆびわ. -r, 一で とかた い、 - - :o やひ 

I てみ た。 脂ぎった 一 おら 額 は 勿論、 大 島の 羽織、 認めになる 指環、 ill 悉く 型を屮 I でなかった。 仄- 



t 一ち いよ ふ ノ きゃく そんざい わす とな リ ろ さい +: な ろ *■ . 

7 吉は 愈 中 てられた から、 この 客の 存在 を 忘れた さに、 隣に ゐる 露柴へ SSs しかけた。 が、 ^此" よ 

1 いか げん へんじ か,. -ぁ 

うんと か ええと か、 好い加減な 返事し かして くれなかった。 のみなら す 彼 も 巾 てられた のか、 

で n: とう ひかり そむ とりうち ばう ま ぶか 

電燈 の 光 に 背 き- ながら、 わざ と 鳥 打 帽も目 深 にして ゐた。 

やす.^ ニゥ え ふうちう じょたん くひ も ひ こと はな あ ±, 二し 

保吉 はやむ を ii;:; す 風 屮ゃ如 丹と、 食物の 事な ど を 話し合った。 しかし is ははす まなかった。 こ 

>T- み-や,、 しゅつげんい らい ► われわれ さんにん こころ めう くる で き こと し こ b 

の 肥った 1 各の 出現 以來、 我我 三人の 心 もちに、 妙な 狂 ひの 出 來た事 は、 どうに も仆龙 のない 褰 si- 

パこ つ 、」o 

々f -,、 .If うもん 二 まさむね びん と あ *r よく --.?.J1 

客 は;^、 又の フライが 來 ると、 正宗の 巉を 取り上げた。 さう して 猪口へ つがう とした。 その 

か 橫<1" ひから T 幸さん」 と はっきり 呼んだ ものが あった 。客 は 明らかに びっくりした 。しかも その 

ゆ どろ -ip こ & ぬし み おも たち ま たう わ,、 いろ か は だ ど,;.^ 

驚, > た^は、 聲の主 を 見た と ふと、 忽ち 當 惑の 色に 變り 出した。 「や あ、 こり や 那 でした か。」 

で やく なか ォゾ れ; _,5 う ^ なんど : & ぬし おじぎ こ. 05 なし ±> じん ろ v> ^ ^ 56. , 

. I 客 は屮折 帽を脫 ぎながら、 何度も 聲の 主に 御 時 俄 をした。 I 徵の主 は st.< の露此 か、 岸の 丸 

だんな 

のお Ff^ たつん 

,!. - rl ば" っノ し ろ さい すす かほ ちょく くち も ^ ちょく *ら 

I 「少時 だね c」 11 露柴は 涼しい! 恋をしながら、 猪口 を 口へ 持づて 5: つた。 その 猪口が?^ になる と、 

岸 tf- く す、 S- ろ r さい ちょく きゃく じしん びん や」 け ± た 6 を か まど r. r r . 

1 各 は^ 力 さす 露柴の 猪口へ 客 3: 身の の-酒 をつ いだ。 それから 側!: w に は 可笑しい》;、 露此ぶ ■ 船 



を 窺 ひ 出した。 

,やう,、 わ トパ. '.i つ し すくな - とうき やう う をが し いまだ とほ じけん お 二 

鏡 花の 小說は 死んで はゐ ない。 少く とも 東京の 魚河岸に は、、 未に あの 通りの 事們も 起る ので あ- 

る 

やうし よくや そと で とき やすきち こころ し-つ やすきち もちろん かう なん どうじ やう 6: 

しかし 洋食 屋の 外へ 出た 時、 保 吉の心 は 沈んで ゐた。 保吉は 勿論 「幸さん」 に は 何の: :i:iw も 持 

う、 ろ さ. - はなし き ゃメ、 じんかく -;: る かう に つ やう 

たなかった。 その上 露柴の 話に よると、 客 は 人格 も惡 いらし かった。 が、 それに も 關らす 妙に^ 

き やすきち しょさい つく ゑ うへ よ -メ /. ひ、 つ 

氣に はなれなかった。 保吉の 書齋の 机の 上に は、 讀 みかけた 口 シ ュ フゥ コォの 語錡が ある —— 

やすきち つきあ か ふ ^つ,. こと .f ん バー :.,- 

保吉は 月明り を 履みながら、 何時かそんな事を^!^へ てゐた 

(大正 十 一 年 七 H0 



めいち ぐわん ねんごぐ わつ じふよ つ. 5i ひるす くわん ぐん お す よ あ しだ-, とうえぶ- JV? し J0- ラ ぎ-, こ- こう:^ ャ- 

明治 元年 五月 十四日の 午過ぎだった。 「官軍 は 明日 夜の 明け 次^、 一 5^ 叙 山彭義 隊を攻 i. する。 

6 ^ か いわ-い ちゃう か そうそう ど こ た ,. たつ ひるす 

上野 界隈 の 町家 の もの は 匆., 刃何處 へで も 立 ち 退 い て し ま へ 。」——. さ う, 云 ふ 達し のあった 午過ぎ だ 

) ; 7,£ゃ t* ちにち やうめ こ ま ものみせ 二が や せいべ ゑ た C 一一 だいどころ すみ あ t びが ひ ま,、 

つた。 下 谷^ 二.: リ nw の 小 問 物 店、 古河 屋政 兵衞の 立ち退いた 跡に は、 臺 所の 隅の: iz^ の 前に 丈 さ 

1- しす み け ねこ いっぴ々 - に-つ かう ば 二 

い 牡の 三 猫が 一 匹靜 かに 香箱 をつ くって ゐた。 

レ- き いへ なか もちろん ひるす くら ひとお 上 ぜんぜん きこ ただ,:; み 

戶を しめ 切った 家の 中 は 勿論 午過ぎで もまつ 暗だった。 人 昔 も 全然 聞えなかった。 唯. 斗に は ひ 

れんじつ あめ おと あめ み やね ,つへ ときどき キ-ふ ふ そそ * つ ま AI 

る もの は 連日の 雨の 音ば かりだった。 雨 は 見えない 屋根の 上へ 時時 外ん に阵 り:.;: d いで は、 何時か 乂 

な.;' そら とほ い ねこ おと たか たび 二 は,、 いろ め まる かまど 

中签へ 遠の いて 行った。 猫 は その 音の 高まる 度に、 號珀 色の 眼 をまん^ にした。 節さへ わからな 

だいどころ とキ- ぶ き み りんく わう み い あまお といぐ わい なに へんくつ 

ぃ薹 所に も、 この 時 だけ は無氣 味な 燐光が 見えた。 が、 ざあっと 云 ふ 雨 昔 以外に 何も 變化 のない 

藥を 知る と、 猫 はや はり 身動き もせす もう 一 度 眼 を の やうに した C 



1 そんな 事が 何度か 繰り返される 內に、 猫 はとうとう 眠った のか、 眼を明ける_5^-もしなくなった" 

あめ あ ひか は. 1^ すき ふ しづ や や はん とき あまお と ない 

しかし 雨 は 相 不變^ になったり 靜 まったり した。 八つ、 八つ 半、 11 時 はこの 雨 昔の 屮 にだんだ 

ん 曰の 暮へ 移って 行った。 

なな せま とき ねこ なに おどろ とつぜんめ お ほ どうじ みみ た 

すると 七つに 迫った 時、 猫 は 何 かに 驚いた やうに 突然 眼 を 大きく した。 同時に. も 立てたら し 

おめ いま はる 二ぶ わう らい はす か 一 ご. 4 こ么 

かった。 が、 雨 は 今までよりも 遙 かに 小 降りに なって ゐた。 往來 を馳せ 過ぎる 駕籠 界 きの 聲、 1 

ほか なに キー 二 すうべ う ちんもく のち くら だ、 どころ 、 つ ま 

—その外に は 何も 聞えなかった。 しかし 數 秒の 沈 默の 後、 まつ 暗だった 臺所は 何時の 問に か ぼん 

あか はじ せま い. た ま ふさ かまど ふた み-つがめ ,たつび か くわう じん ま ひ まど つな 

やり 明るみ 始めた 。狭い 板の間 を 塞いだ 憲、 蓋の ない 水瓶の 水 光り、 荒神の 松、 引き窓の 綱、 — 

も C じゅんじゅん み ねこ いよ i よふ あん と あ み-つぐち にら 

—そんな 物 も 順順に 見える やうに なった。 猫 は 愈 不安 さう に、 戶の 明いた 水口 を 睨みながら、 

の そりと 大きい 體を 起した。 

この 時 この 水. 口の 戶を 開いた の は、 11 いや 戶を 11 いたば かりで はない、 腰 障子 もし まひに 

お けたの は、 濡れ鼠に なった 乞食だった。 彼 は 古い 手拭 を かぶった i だけ 前へ 仲ば したな り、 少時 

の は靜 かな f 豕 のけ は ひに ぢっ と-耳を澄ませて, ゐた。 が、 人 音の ない のを见 定める と、 これ だけ は 腐 

M あたら >.』 かむ しろ あざ や ぬ いろ み まま だいどころ 力が き ね-一 みみ ひら こあしみ 

も 新しい 酒 筵に 鮮 かな 濡れ色 を 見せた 俊、 そっと 臺 所へ 上って 來た。 猫 は 耳 を 平め ながら、 二足:: 



ill 



あし 4W と こ じき おどろ うしろで しゃう じ おもむ かほ てぬ ぐ ひ 

足跡す さり をした。 しかし 乞食 は 驚き もせす 後手に 障子 をし めてから、 徐ろに 顏の乎 拭 をと つた 

かほ ひげ ,つづ うへ かう やく に V んか しょ!: > Jc.f め はな だ 

顏は 髭に 埋まった 上、 膏藥も 二三 個所 貼って あった。 しかし 跪に は まみれて ゐて も、 眼 鼻 立ち は 

むし じんじゃう 

寧ろ 尋常だった。 

「三毛。 三毛。」 

こ じき かみ みづ き かほ しづく ぬぐ こ ごる i ねこな まへ よ ねこ rri 

乞食 は 髮の水 を 切ったり、 顔の 滴 を 拭ったり しながら、 小聲に 猫の 名前 を 呼んだ。 猫 は その 聲 

き お ぼ ひら みみ もど そ こ たたす ときどき 

に 聞き 覺 えが あるの か、 平め て ゐた耳 を もとに 戾 した。 が、 まだ 其處に 佇んだ なり、 時時 はじろ 

かれ かほ うたが ひぶ か め そそ あ ひだ さかむ しろ ぬ 二 じき すね いろ み どろあし まま 

じろ 彼の 顏へ疑 深い 服 を 注いで ゐた。 その 間に 酒 筵を脫 いだ 乞食 は 經の色 も 見えない 泥足の 儘、 

猫の 前へ どっかり あぐらをかいた。 . 

みけこう たれ ところみ き さま らお ざ く 

「三毛 公。 どうした 誰も ゐ ない 所 を 見る と、 贵樣 だけ 置き去り を 食 はされ たな。」 

こ じき ひと わら お ほ て ねこ あたま な ねこ に ごし 

乞食 は 獨り笑 ひながら、 大きい 乎に 猫の 頭 を 撫でた。 猫 はちよ いと 逃げ腰に なった。 が、 それ 

上 かへ そ こ ナゎ め ほそ だ こ ヒき ねこ な 

ぎり 飛び退き もせす、 反って 其處へ 坐った なり、 だんだん 眼 さへ 細め 出した。 乞食 は 猫 を 撫で や 

こんど ふるゆ か た ふところ .ft ぶら び, ハ たん ヒ ゆう だ お >5< つ. う.!, あ. A なか 

める と、 今度 は 古湯 帷子の 懷 から、 油 光りの する 短 銑 を 出した。 さう して 覺 is- ない 簿 明りの 屮に、 

ひ がね ぐ あ ひ しら だ くう.. ゴ ただよ ひとけ いへ だい ど- -ろ たんしゅう 

引き金の 具合 を檢べ 出した。 「いくさ」 の 空氣の 漂った、 人氣 のない 家の 臺 所に 短 鉄 を いぢって ね 



173 



r- A- り こ .l- き たし せう せつ も め-つ くわう けい ちが め 

. 一 人の 乞食, I それは確かに小^^じみた、 物 珍ら しい 光景に 遠 ひなかった。 しかし 弹眼 になつ 

れこ 、- なか まる まま いっさい ひみつ し れ、 ヂ-ん 4,, わ 

た 猫 はや はり 背中 を圆 くした 儘、 一切, の 祕密を 知って ゐる やうに、 冷然と ゆ: つて ゐる ばかり だつ 

ュこ。 

ズ 

あ す み け こう かいわい あめ てつば う たま ふ /、 あた 

「明日に なるとな、 三毛 公、 この 界隈へ も 雨の やうに 鐡 砲の 玉が 降って 來るぞ C そいつに 中る と 

し あ す やわ いちにちえん した かく 

死ん じ まふから、 明日 は どんな 騷 ぎがあって も、 一 日緣の 下に 隠れて ゐ ろよ。 ::: 」 

1 じき たん ヒ ゆう しら • ときどき ねこ はな 

乞 貧 は 短 銑を檢 ベながら、 時時 猫に 話しかけた。 

まへ ながお なじみ け ふ おわか あす まへ だいやくび あす T 

「お前と も 永い 御 馴染 だな。 が、 今日が 御 別れ だぞ。 明日 はお 前に も 大厄 日 だ。 おれ も 明日 は 死 

し 化よ たし ところ さきに ど まへ いつ は, だ 

ぬか も 知れない。 よし 又 死なす に すんだ 所が、 この 先 二度と お前と 一し よに 溜め あさり はしな 

まへ お ほ よろこ 

いつもり だ。 さう すれば お前 は 大喜び だら う。」 

うち あめ また ひと わ おと た はじ くも むねが はら けむ ほど ち-," ち. A やね お 

その:?: に 雨 は 又 一し きり、 騷 がしい 音を立て 始めた。 雲 も 楝瓦を 煙らせる 程、 近近に 屋根に 押 

チま だいどころ ただよ うす あか まへ いっそう 1ー じキ S ほ あ 

し 迫った ので あらう。 薹 所に 漂った 薄明り は、 前よりも ー曆 かすかに なった。 が、 乞食 は 顔も擧 

しら を は たんじゅう たんねん だんやく v.- つ こん • 

げす、 やっと 檢べ 終った 短 銑へ、 丹念に 彈藥を 装 一!? して ゐた。 

「それとも 名殘り だけ は 惜しんでくれ るか? いや、 猫と ふやつ は 三年の 恩 も 忘れる とづみ ふか 



174 



まへ あ こと. ノ ただ 

ら, お前 も當 てに はなら なさう だな。. —— が、 まあ、 そんな 事 はどうで も: i いや。 唯 おれ もゐな 

い とすると.' — 一 

じき きふ. くち つぐ と たん たれ みづ ぐち そと あゆ よ たん.: .-1--..' 

乞食 は 急に 口 を噤ん だ。 途端に 誰か 水口の 外へ 步み 寄ったら しいけ は ひがした。 似 鋭 をし まふ 

ふかへ ,こ じき どうじ ほか み-つぐち しゃう じ あ 

のと 振り返る のと、 乞食に は それが 同時だった。 いや、 その^に 水口の 障子が がらり と 明けられ 

どうじ こ じき 上つ さ み がま ちんに ふしゃ め あに 

たの も 同時だった。 乞 〈艮は 咄嗟に 身 構へ ながら、 まともに 闖入者と 眼 を, 化せた。 

しゃう t あ たれ こ じ 4v すがた み はや かへ ふ い うた 

すると 障子 を 明けた 誰か は 乞食の 姿 を 見る が 早い か、 反って 不意 を 打れ たやう に、 「あつ」 とか 

い-け ご ゑ も す はだし だい こ: V:;MJ v.- とし わか をん な ,,-c ぢょ ほ. V ん . 

すかな 叫び 聲を: ^らした。 それ は 素 裸足に 大黑傘 を 下げた、 まだ 年の 若い 女だった。 彼女 は 殆ど 

しょうどうてき き あめ なか と だ V- いしょ おどろ ゆ, J: , わい ふく 

衝動的に、 もと 來た 雨の 中へ, 飛び出さ うとした。 が、 最初の 驚きから、 やっと? 氣を 恢復す ると、 

だいどころ うす あか す 二 じき かほ のぞ 

臺所 の 薄明り に 透かしな がら、 ぢっ と 乞食 の 顏を观 き こんだ。 

-ー ドき あっけ ぶ$ か た かたひざ た まま あ ひて み まも 

乞食 は 呆氣に とられた のか、 古湯 惟子の 片膝 を 立てた 儘、 まじま じ 相 乎を兑 守って ゐた。 もう 

め ゆ だん け ,き み ふたり ち, ねん しばらく ぶ ひだ たが ひ め 

,ての 服に もさつ きの やうに、 油斷 のない 氣色は 見えなかった。 二人 は默 然と 少時の 問、 互に^と 

股 を 見合せ てね た。 、 

なん まへ しんこ ラ 

一— 何 だい、 お前 は 新公ぢ やない か?」 



燥!^ の W お 



175 



か c: ちょ す こ おつ 二 ヒき こ ゑ こ じャ わら *- ;. ん"" かつ 

彼女 は 少し 落ち着いた やうに、 かう 乞食へ 聲を かけた。 乞食 は にゃにゃ 笑 ひながら、 T 一: 二度 彼 

ぢょ あたま さ 

女へ 頭 を 下げた。 

あ ひす ふ つよ ふ る J, 

「どうも 相濟 みません。 あんまり 降りが 强 いもんだ から、 つい 御 留守へ は ひこみ ましたが ね —— 

なに & くべつ あ す ねら しゅうし か わけ 

何、 格训 明き 祖 ひに 宗 ih: を變 へた 訣 でもな いんです。」 

おどろ あ す れ入 い - つう-つ, T まど 

「驚かせる よ、 ほんた うに —— いくら 明き i^s^ 狙ひぢ やない と 云った つて、 圖 岡 しいに も li が ある 

ぢ やない か?」 

か C ぢょ t-J し-つく き キ- は .一; だ く は 

彼, は 傘の 滴 を 切り 切り、 腹立たし さう につけ 加へ た。 

「さあ、 こっちへ 屮:: ておくれよ。 わたし は 家へ は ひるんだ から。」 . 

「へ え、 屮 います。 出ろ と 仰 有らないでも 出ます がね。 姐さん はま だ 立ち退か なか つたんで すか 

い?」 

たのた の こと、 

「立ち退いた のさ。 立ち退い たんだ けれども、 —— そんな 事 はどうで も, 好 いぢ やない か?」 

なに -7 す もの そ こ あめ 

「すると 何 か 忘れ物で もしたん です ね。 —— まあ、 こっちへ おは ひんなさい。 其處 では 雨が かか 

ります ぜ。 一 . 



ュ 1-c ちょ ごふ はら こ じき ことば へんじ み. ぐち いた ま こし おろ ; ノ C な.^ 

彼女 はま だ 業腹 さう に、 乞食の 言葉に は 返事 もせす、 水口の 板の 問へ 腰 を 下した それから 流 

どろあし の みづ はじ へいぜん 二 , ^き ひげ f に 

しへ 泥足 を 仲ば すと、 ざあざあ 水 を かけ 始めた。 平然と あぐらをかいた 乞 〈0^ は 髭 だらけ の^を さ 

すがた なパ .f のぢょ いろ あ V.- ぐろ はな そばかす ゐなカ 

すりながら、 じろ じろ その 姿 を 眺めて ゐた〕 彼女 は 色の 淺黑 い、 鼻の あたりに 雀斑の ある、 W 含 

もr^ こ をん. M めしつか さう おう て おり も めん ひとへ もの こ くら おび 

^<^らしぃ小女だった。 なり も 召使 ひに 相 塵な 乎 織 木綿の 一 重 物に、 小 八お の帶 しかして ゐな 力った。 

-. い め はな だ かたぶと からだ ど こ あたら もも な 化, ^^J - う,, つ %ノ 1 

が、 活き活 きした 服 鼻 立ち や、 堅 肥りの 體 つきに は、 何處か 新しい 桃 や 梨 を 聯想させる 笑! -さカ 

あった。 

さわ なかと かへ なに だいじ もの わす ん ► わ,;,, ノ 

「この 騒ぎの 中を取りに 返る のぢ や、 何 か 大事の 物 を 忘れたん です ね 何です その 忘れ物 は? 

ねえ とみ 

え、 姐さん。 —— お 富さん。」 

しんこう また たづ つ-つ 

新 公 は 又 尋ね 續 けた" 

「何 だって 好 いぢ やない か? それより さっさと 出て 行って おくれよ。」 

とみ へんじ つつ けん どん なに おも - し _ん こう f;^ み; あ: , W*,.H1 め 

お 富の 返事 は突慳 貪だった。 が、 ふと 何 か 思 ひついた やうに、 新 公の 顏を 見ト; ける と ?似而 目 

こと たづ だ 

にこん な 事 を 尋ね 出した。 

6 

7 しんこう まへ 5 ち みけ し 

1 「新 公、 お前、 家の 三毛 を 知らない かい?」 



操貞の 富お 



177 



1 三毛? 三毛 は 今此處 に、 —— おや、 何處へ 行き やが つたら う?」 

こ ヒ み ま は ねこ いつ ま たな すり^ら てつ あひ^ * うぶ こ 

乞食 は あたり を 見廻した。 すると 猫 は 何時の 問に か、 棚の 擂鉢 ゃ鐵 鍋の に、 ちゃんと を 

ナ がた しんこう どうじ たち ま とみ み か C ぢょ ひしゃ,、 ぶ- 

つくって ゐた。 その 姿 は 新 公と 同時に、 忽ちお 富に も 見つかつ たので あらう。 彼女 は 柄 构を抬 て 

や こ じき そんざい わす いたまう へた お-; ハ i f / きう 

るか 1^ い 力、 乞食の 存在 も 忘れた やうに、 板の間の 上に 立ち 卜: つた。 さう して れ^ Jel と 夭し 

た な う へ ね こ よ 

ながら、 棚の 上の 猫 を 呼ぶ やうに した" 

I;/ こう すぐら たな うへ ねこ ふ し レー』 とみ 6 ,r つ 

新 公 は 薄暗い 棚の 上の 猫から、 不思議 さう にお 富へ 眼 を 移した。 

ねこ ねえ わす も い 

です かい、 姐さん、 忘れ物と 云 ふの は?」 

I si ぢゃ惡 いの かい? 三毛、 三毛、 さあ、 下りて御出で"」 

-^. ^. L ^-^ ^ ' :o ;」, f :„€ まお と な わた なか ほとんど きみ 4.: る はん タ やう おこ . --み ■ 

^公 は 突が i 笑 ひ 出した。 その 聲は雨 音の 鳴り渡る 中に 殆 氣 味の 惡ぃ 反響 を 起した。 と、 お 1^ 

いちど はら だ ほほ ほ て \ ; こう ど -釭 

はもう 一度、 腹立たし さに 頰を 火照らせながら、 いきなり 新 公に 怒 # りつけ た。 

「.^s , て 二、 うけ かみ み け わす き き ちが JI- う 

一 佧カ 可笑しん だい? X 豕の お上さん は 一二 毛 を 忘れて 來 たって、 氣違 ひの 様になって ゐ るん ぢゃ 

み け ころ な どま t 

な V 力? 三毛が 殺されたら どうしょうって、 泣き通しに 泣いて ゐ るん ぢ やない か? わたし も 

か i い あ ^ X 、へ J 

それが 可哀 さう だから、 雨の 中 を わざわざ 歸 つて 來 たん ぢ やない か,. II I 



178 



「よう ござんす よ。 もう 笑 ひ はしません よご 

しんこう わら わら とみ こと.!: 一 さへ き 

新 公 は それでも 笑 ひ 笑 ひ、 お 富の 言葉 を 遮った。 

わら かんが I ご らん あ す にし . い,, - • 

「もう 笑 ひ はしません がね。 まあ、 考 へて 御覽 なさい。 明日に も 『いくさ』 が 始まらう と 云 ふのに- 

たか ねこ いっぴき に ひな かんが & か ちが - > ほへ/.'. V へ 

高が 猫の 一 匹 や 二 匹 —— これ はどう 考 へたって、 可笑しい のに 違 ひありません や。 あぶ 1 さんの ぶ m 

だけれ ども、 一 體此處 のお" さん 位、 わからす やの しみつ たれはありません ぜ。^ 一 あの 一二 ^公 

を 探しに、 …… 」 

だま かみ ざんそ な 

「ぉ默 りよ! お上さん の龜訴 なぞ は閱 きたくな いよ!」 

とみ _* 广-. 一ん ふ こ じき おも ほか. A のぢょ けんまく おどろ 

ぉ富は,^^どぢだんだを踏んだ。 が、 乞食 は 思 ひの 外 彼女の 權 幕に は 驚かなかった のみたら す 

か GV つよ すがた ぶ ゑんり よ し せん そそ ;, -っ V い とき かつぢよ すがた や," ぶん 5 つく, ) 

しげ しげ 彼女 の 姿 に 無 遠 慮な 視線 を 注 いで ゐた。 實際 その 時の 彼女 の 姿 は 野蠻 な 美し さその もの 

あめ ぬ きも > ゆ ま々 どこな が は だ * 

だった。 雨に 濡れた 着物 や ni! 卷、. ——- それら は 何處を 眺めても、 ぴったり 肌に ついて ゐる だけ 

あら I, ズ、 たい かた ひとめ しょ. ちょ かん わか わか にくたい かた , し r ん こう - ^の^. よ 

露 はに 肉體を 語って ゐた。 しかも 一 目に 處女 を感 する、 若若しい 肉體を 語って ゐた 公 は 彼女 

め す わら ご ゑ はな つづ 

に 目を据 ゑた なり、 やはり 笑 ひ聲に 話し 續け た。 

だいいち み け こう さが まへ 

「第一 あの 三毛 公 を 探しに、 お前さん をよ こすので も わかって ゐま さあ ねえ さう ちゃ ありま 



操!: i の^お 



179 



い. £ - つへ C かいわい た の うち み ややう か なら 

せんか? 今ぢ やもう 上野 界隈、 立ち退かない 家はありません や。 して 見れば 町家 は 並んで ゐて 

ひ-., 一 まち ばら おな こと お ほかみ で あぶな め あ し 

も、 人の ゐ ない 町 原と 同じ 事 だ。 まさか 狼 も 出まい けれども、 どんな 危ぃ 目に 遇 ふか も 知れない- 

—— と、 まづ まった もの ぢ やありません か?」 

「そんな 餘: iti な 心配 をす るより、 さっさと 猫 をと つてお くれよ。 —— これが 『いくさ』 でも まり 

やしまい し、 何が 危ぃ 事が ある もの かね。」 . 

じょう だぐ ノ わか をん な ひとり ある い とき あぶな あぶな い こと 

「冗談 云つ ちゃい けません。 若い 女の 一 人 歩きが、 かう 云 ふ 時に 危く なけり や 危 いと 云 ふ 事 は 

はや はなし ここ ま: ふたり まんいち めう 

ありま せんや。 早い話が 此 處にゐ るの は、 お前さんと わたしと 二人つ きりだ。 萬 一 わたしが 妙な 

き だ ねえ まへ 

I 湫 でも 出したら、 姐さん、 お前さん はどうし なさる ね?」 

しんこう じょうだん まじめ く てう す とみ め 

新 公 はだん だん 冗談 だか、 眞 面目 だか、 わからない 口調に なった。 しかし 澄んだ お 富の 目に は 

きょうふ かげ み 

恐怖ら しい 影 さへ 見えなかった。 

A 一 >i いっそうち いろ 

唯 その 頻に は、 さっきよりも、 ー歷 血の el がさしたら しかった。 

「何 だい、 新 公、 11 お前 はわた しを嚇 かさう つて 云 ふの かい?」 

とみ かのちよ じ しんお ど ひとあし しんこう そば よ 

お 富 は 彼女 自身 嚇 かす やうに、 一 足新公の側へ^^-った。 



「きかす え? 嚇か すだけ ならばが いぢゃありません か? 肩に 金 切れなん ぞくつ けて ゐ たつ て 

ふ う わる お ほ よ なか こじき r と か y; 

風の 惡 いやつ らも 多い *1 の 中 だ。 まして わたし は 乞食です ぜ。 嚇 かすば かりと は 限りません や。 

めう き だ 

もし ほんた うに 妙な 氣を 出したら、 …… 」 

. ん こう つ こ い うち あだま う とみ い つ かれ まへ だいこくが さ 

新 公 は 殘らす 云 はない 内に、 したた か 頭 を 打ちのめされた.〕 お 富 は 何時か 彼のへ g に、 大黑傘 を 

ふり 上げて ゐ たのだった。 , 

なまい き こと い 

「生 意 氣な事 を お 云 ひ で ない。」 . 

とみ また しんこう あたま ちからい つ かさ う おろ しんこう とっさ み か は か V. 

お 富 は义新 公の 頭へ、 カー ばい 傘 を 打ち 下した。 新 公 は 咄嗟に 身を躲 さう とした。 が、 傘 は そ 

と たん ふるゆ かた かたう す ?ゎ おどろ ねこ てつな ベ ひと け おと 

の 途端に、 古 口 惟子の 肩 を 打ち 据 ゑて ゐた。 この 騷 ぎに 驚いた 猫 は、 鐵鍋を 一 つ 蹴落しながら、 

くわう じん たな 上 うつ どうじ くわう じん まつ ぶふら びか とう 大 やう ざ-.: しんこう うへ ころ お しん 

荒神の 棚へ 飛び移った。 と 同時に 荒神の 松 や 油 光りの する 燈明皿 も、 新 公の 上へ 轉げサ t ちた。 新 

こう とお まへ なんど とみ かさ う 

公 はやつ と 飛び起きる 前に、 まだ 何度もお 富の 傘に、 打ちのめされ すに はす まなが つた。 

ち くし わ. 5 ち くし や う 

「こん 畜生! こん 畜生!」 

. とみ かさ ふる つ-つ しんこう う かさ ひ 

お 富 は 伞を揮 ひ 練け た。 が、 新 公 は 打 たれなが らも、 とうとう 傘 を 引った くった。 のみなら す 



8 かさ な だ はや まう ぜん とみ と ふたり -, ま いた ま うへ しばら,、 ぁひだっ,?^ あ 

1 傘 を 投げ出す が 早い か 猛然と お 富に 飛び かかった. - 二人 は 狭い 板の間の 上に、 少時の 問搁み 合つ 



操]^ ミ の?; Y お 



181 



y た, ま は さい う あめ また だい どこ-: :- や ね す さ おと あつ だ ひかり あまお と たか 

た。 この 立ち 廻りの 最中に 雨 は又薹 所の 屋根へ、 凄まじい 音 を湊め 出した。 光 も 雨 昔の 高まる 

のと 一 しょに、 見る見る 薄暗 さ を 加へ て^った。 新 公 は 打 たれても、 引つ 接 かれても、 遮 一 一 無 一 一 

お 富 を报ぢ 伏せよう とした。 しかし 何度か 让 損じた 後、 やっと 彼女に 組み付い たと E わ ふと、 突 |ー 

また はじ み-つぐち はう と 

又彈 かれた やうに、 水口の 方へ 飛びす さった。 

「この 阿 魔 あ T 」 . 

新 公 は 障子 を 後ろに したな り、 ぢっ とお 富 を 睨みつ けた。 何時か 髮 も壞れ たお 富 は、 べったり 

いた ま すわ おび あ ひだ はさ き かみそり ざ かて にぎ. さっき お 

板の 問に 坐りながら、 帶の 間に 挾んで 來 たらしい 剃刀 を 逆手に 握って ゐ た.〕 それ は 殺 氣を帶 びて 

どうじ まため う なよ い くわう じ/;" たな うへ たか ねこ に 

もゐれ ば、 M 時に 义 妙に 艷 めかし い、 云 はば 荒神の 棚の 上に、 脊を 高めた 猫と 似た もの だったり 

ふたり む ごん まま あ ひて め 5 ち うかが あ しんこう いつ-' ひん のち れ、 チ う 

二人 はちよ いと 無言の 儘、 相手の目の 中 を 窺 ひ 合った し が、 新 公 は 一瞬の 後、 わざとら しい 冷笑 

み ふところ たんじ ゆうだ 

を 見せる と、 懷 からさつ きの 短銃 を 出した。 . . 

「さあ、 いくらでも ぢ たばた して 見ろ。」 

たんじゅう V.- き おもむ とみ むね むか かの ぢ -.5 く や しんこう かほ み 

短 鈇の先 は 徐ろに、 お 富の 胸の あたりへ 向った。 それでも 彼女 は 口惜し さう に、 新 公の 額 を 

つめたき り、 佝 とも 口 を 開かなかった。 新 公 は 彼女が 騷 がない の を 見る と、 今度 は 何 か ひつい 



.,こ/>じ ゆう さき う、 む V- き うすぐら なか こ はくいろ ねこ 

たやう に、 短銃の 先 を 上に 向けた。 その 先に は 薄暗い 屮に、 號^ 色の 猫の □! が 仄めいて ゐ. k 

「好い かい? お 富さん。 11 」 

しんこう あ ひて わら ふく こ ゑ だ 

新 公 は 相 乎 を じらす やうに、 笑 ひ を 含んだ 聲を 出した 

んじ a う ゝ ゝ 、 ねこ さか さま ころ お まノ . > な ,乂 ひ-、 :、- 二 : 

「この 短 銑が どんと 云 ふと、 あの 猫が 逆様に 轉げ 落ち るんだ。 ぉ^さんにしても同じ1511^だせ る 

ら好 いかい?」 

引き金 はすんで に 落ちよう とした。 

しんこう 

「新. ヶ!」 

上つ ぜノ? とみ こ ゑ た 

突然お 富 は聲を 立てた。 , 

「いけない よ。 打つ ちゃい けない。」 

靴 公 はお Si を 移した。 しかし まだ 短 鉄の 先 は、 三毛猫に 狙 ひ を 定めて ゐた。 

,レニと 

「いけな いのは 知れた 事 だ"」 

「打つ ちゃ 可哀 さう だよ。 三毛 だけ は 助けてお くれ。」 

い」 み う かよ 1 ん よい め こ-一ろ ふる /ちび る あ ひだ 、 .k^ > 

お 富はゲ までと は 打って 變 つた、 心配 さうな: ni つき をしながら、 心 もち 震へ る 1^ の 問に 細 力 



お! クバ; (お 



】83 



は な C そ しんこう なか あざ は またな か いぶか か cv よ かほ なが 

ぃ齒 並み を^ かせて ゐた。 新 公 は 半ば 嘲る やうに、 乂 半ば: 就る やうに、 彼女の 顏を 眺めた なり、 

たんじゅう V, き さ どうじ とみ かほ いろ うか き 

やっと 短 銑の 先 を 下げた。 と 同時にお 富の 額に は、 ほっとした 色が 浮んで 來た。 

「ぢゃ 猫 は 助けて やらう。 その代り。 —— 」 

新 公 は 橫枘に 云 ひ 放った。 

■ 「その代りお ュ 1 さんの 體を惜 りる ぜ。」 

とみ め そ いっし はんかん か C ぢょ こころ うち にく いか けん を ひ あい ほか 

お {-£ はちよ いと 3! を 外ら せた。 一瞬 彼女の 心の 巾に は、 憎しみ、 怒り、 嫌惡、 悲哀、 その外 

いろいろの 感情が ごったに 燃え つて 來 たらしかった。 新 公 はさう lf4 ふま 女の 變 化に 注意深い:: 2 

く^ よこ ある かの ぢょ うし ..-H は ちゃ ま しゃう じ あ はな ちゃ ま だいどころ くら 

を 配りながら、 橫步 きに 彼女の 後ろへ 廻る と 茶の 11 の 障子 を 明け 放った。 茶の 問は臺 所に 比べれ 

もちろんい つそう,.,' すぐら た つ . ^と い でう と のこ ちゃだんす なが ひ ばち なか 

ば、 勿論 一層 簿暗 かった。 が、 立ち退いた 跡と 云 ふ條、 取り 殘 した 茶 1:4.^ や 長火鉢 は、 その 屮に 

み * 一と で き しんこう そ 二 たたす まま あせ とみ えり 

も はっきり 見る • が 出來 た。 新 公 は 其處に 佇んだ 俊、 かすかに 汗ばんで ゐる らしい、 お 富の 襟 も 

とへ Hz を 落した C すると それ を 感じた のか、 お 富 は體を 給る やうに、 後ろに ゐる新 公の 顔を见 上 

げた。 彼女の 顏に はもう 何 時の 問に か、 さっきと 少しも 變ら ない、 r 活き 5s きした 色が 返って ゐた。 

しかし 新 公 は狼狠 したやう に、 妙な 瞬き を 一 つしながら、 いきなり 又 猫へ 短銃 を {!: けた。 



「いけない よ。 いけない つてば。 . I .」 

とみ かれ と どうじ て なか かみそり いた ま おと 

お 富 は 彼 を 止める と 同時に、 手の 中の 剃刀 を 板の間へ 落した。 

「いけなけ り や あすこへ ぉぜ きなさい な。」 

しんこう うす わら うか 

新 公 は 薄 笑 ひ を 浮べて ゐた。 . 

「いけ 好かない!」 

とみ いまいま つぶや とつぜんた あが くさ をん な ちい 

お 富 は 忌忌し さう に 1^1 いた。 が、 突然 立ち上る と、 ふて腐れた 女の する やうに、 さっさと 茶 

ま い しんこう か G ぢょ あや. 1 ら い た や-うお どろ ようす ちめ 七ャ- 

間へ は ひって 行った。 新 公 は 彼女の 諦めの 好い のに、 多少 驚いた 容 子だった。 雨 はもう その 時に 

お, M くも あ ひだ はふ ひ ひかり だ うすぐら 

は、 すっと 音 を かすめて ゐた。 おまけに 雲の 間に は、 夕日の 光で もさし 出した のか、 簿ー Hi" かった 

だいどころ あか く は い しんこう なか か 一た す ちゃ ま き い 

薹所 も、 だんだん 明るさ を 加へ て 行った。 新 公 は その 中に 佇みながら、 茶の間の け は ひに 聞き 人 

こ くら おび 上 おと たたみ うへ ね おと ちゃ ま 

つて ゐた。 小 倉の 帶の 解かれる 昔、 疊の 上へ 寢 たらしい 昔。 11 それぎ り 茶の 問 はしん としてし 

まった。 

しんこう G ち うす あか ちゃ 5 あし い ちゃ ま なか とみ ひとり 

新 公 はちよ いと ためらった 後、 薄明る い 茶の 問へ 足 を 人れ た。 茶の間の まん 中にはお 富が 一 人- 

4 

8 そで かほ お ほ まま 文 ふむ よこ しんこう すべ;: た み はや に 

1 袖に 顏を蔽 つた 傣、 ぢ つと 仰向けに 橫 たはって ゐた。 新 公 は その 姿 を 見る が いか、 逃げる やつ 



操^の 富お 



185 



だいどころ ひ か: かれ かほ けいよう で き めう へ 5 じ やう みなぎ けん を 

に臺 所へ 引き返した。 彼の 額に は 形容の 出來 ない、 妙な 表情が 涨 つて ゐた。 それ は嫌惡 の やうに 

み, -,、 は、 - み いろ かれ いたまで おも ちゃ. H せ h り 

も 見えれ ぱ 恥ぢ たやう にも 見える 色だった。 彼 は 板の間へ 出た と 思 ふと、 まだ 茶の 問 へ^ を 向 

とつぜん,、 る わら だ 

けたな り、 突然 苦し さう に 笑 ひ 出した。 

じょうだん とみ じょうだん で き 

「冗談 だ。 お 富さん。 冗談 だよ。 もうこつ ちへ 出て 來て おくん なさい。 …… 」 

なんぶん のち ふところ ねこ い とみ かさ かたて SL ぶ むしろ し しんこう 

11 何分 かの 後、 懷に猫 を 入れた お 富 は、 もう 傘 を 片手に しながら、 破れ 筵 を 敷いた 新 公と、 

き がる なに はな 

氣輕に 何 か 話して ゐた。 

ねえ す こ まへ き こと 

「姐さん。 わたし は 少しお 前さん に、 訊きたい 事が あるんで すがね。 ——— 」 

新 公 はま だ 間が 惡さ うに、 お 富の 顏を 見ない やうに して ゐた。 

なに 

I を さ!」 

なに こと はだみ まか い をん な いっしゃう たいへん こ」 J 

「何 をって 事 もな いんです がね。 —— まあ 肌身 を 任せる と 云へば、 女の 一生 ぢゃ 大變な 15?- だ。 そ 

. とみ » まへ ねこ いのち か がへ まへ • ".) 

れ をお.: おさん お前さん は その 猫の 命と 懸け 替に、 , 1 'こいつ はどう もお 前さん にしち や、 ? 

ドクつ 

暴す ぎ るぢ やありません か?」 

しんこう くち つぐ とみ ほほ ふと-一ろ ねこ * たよ 

新 公 はちよ いと 口 を 襟んだ。 がお 富は頰 笑んだ ぎり、 懷の 猫を劬 つて ゐた。 



「そんなに その 猫が 可!^ いんです かい?」 . 

「そり や 三毛 も 可愛い しね。 11 」 

お 富 は ぎ え 切らない 返事 をした。 . 

また まへ きんじょ ひやう ばん しゅじん おも みけ-一ろ ひ うち 

「それとも 又お 前さん は、 近所で も 評判の 主人 思 ひだ。 三毛が 殺された となった 日に や、 この 家 

t ま を わけ いしん ぱい 

の 上さん に 申し 訣 がない。 —— と 云 ふ 心配で も あつ た ん です か い ? 」 

「ああ、 三毛 も 可愛い しね。 ぉゼ さん も 大事に や 違 ひな いんだよ。 けれども ただ わたし はね。 I 

— 一 

し 

とみ こ くび かたむ とほと ころみ め 

お 富 は 小首 を 傾けながら、 遠い 所で も兑る やうな 目 をした。 

なんい い ただ とき なん キ-- 

「何と 云へば 好 いんだら う? 唯 あの 時 は ああしな いと、 何だかす まない I 拟 がした のさ c」 

さら また なんぷん のち ひとり しんこう ふるゆ か た ひ ざ だ まま だいどころ すわ 

11 更に 又 何分 かの 後、 一人に なった 新 公 は、 古湯 惟子の 膝 を 抱いた 儘、 ぼんやり 臺 所に 坐つ 

ぼしょく まぶ あめ おと なか こ こ ま き ひ まど つな なが もと み-つが:^ 

てゐ た。 暮色 は 棘ら な 雨の 音の 中に、 だんだん 此處へ も 迫って 來た。 引き窓の 綱、 流し元の 水^- 

も ひと み おも うへ かひ いっしょ あまぐも 

—— そんな 物 も 一 つづつ 見え なくなった。 と m 心 ふと 上野の 鐘が、 一 杵づっ 雨雲に こもりながら 

おもく る おと ひろ はじ しんこう おと おどろ み ま は 

重苦しい 音 を擴げ 始めた。 新 公 は その 昔に 驚いた やうに、 ひっそりした あたり を兑 廻した" それ 



掠! の^お 



187 



から 手 さぐりに 流し元へ 下りる と、 柄杓に なみなみと 水 を 酌んだ。 

むら かみ しん ざぶ らう みなもと しげみつ け ふ いつぼん 

「村 上 新三郞 源の 繁光、 今日 だけ は 一 本 やられた な。」 

彼 はさう きざま、 うま さう に 黄昏の 水 を 飲んだ。 

、 

X X X X X X 

め いぢ に じふさん ん さんぐ わつ にじ ふろくに ち とみ をつ と さんにん こ ども うへの ひろこ うぢ ある 

明治 二十 三年 三月 二十 六日、 お 富 は 夫 や 三人の 子供と、 上野の 廣 小路 を 歩いて ゐた。 

ひ ちゃ-つど たけ だい だいさんく つ-いない こくはくらん くわい .^1ぃくゎぃしき もよ ほ たう じつ V, 、ら くろ もん 

その 日 は 丁度 竹の 臺に、 第三!:. £國 博覽會 の開會 式が 催される 當 日だった。 おまけに S$ も黑 £: 

たいてい ひら ひろ こ- っぢ ひと ど ほ ほ とん お かへ 

の あたり は、 もう 大抵 開いて ゐた。 だから 廣 小路の 人通り は、 殆ど 押し返さない ばかりだった レ 

其處へ 上野の 方から は、 開會 あの 歸り らしい 馬車 や 人力車の 行列が、 しっきり なしに 流れて 來た。 

まへ だ ま さな た ぐ. VC う きち しぶ さはえ いいち つじ しんじ を かくら かくざう しもで う まさを "1 しゃ ヒん りきし や ケ- やく 

仏? 田 正 名、 m 口 卯吉、 澤榮 一、 辻 新 次、 岡倉覺 三、 下 條正雄 i その lil 車 や 人力^の 客に は、 

い ひとびと まじ 

さう 云 ふ 人人 も 交って ゐた。 

いつ じ なん だ をつ と だ もと ちゃ,^ なん すが まま め ^,-6^^ ひと ど ほ 

五つになる 次 Ei- を 抱いた 夫 は、 狭に 長^ を鎚ら せた 儘、 目まぐるしい 往來の 人通り をよ けよ け、 

ときどき しんば い うし とみ ふ かへ とみ ちゃ うぢよ て たび は 

時時ち よいと 心配 さう に、 後ろのお 富 を 振り返った。 お 富 は 長女の 手 を ひきながら、 その 度に^ 



ほほ- <4 み み もちろんに じふ はん さいげつ かのちよ お,, もた C め r't, V 

れ やかな 微笑 を 見せた。 勿論 二十 年の 歳月 は、 彼女に も 老を潇 して ゐた. し しかし 目の 中に 冴えた 

ひかり むかし あま か は かの ぢょ め いぢ し ご ねんごろ こ が やせいべ ゑ を ひ あた , ま をつ と ナっ こ,) 

光 は 昔と 餘り 變ら なかった。 彼女 は 明治 四 五 年頃に、 古河 屋政 兵衞の 甥に 當る、 今の 夫と! i 婚し 

をつ と ころ よこ はま いま ぎんざ なんち やうめ ち ひ とけ、. や み 小- だ 

た。 夫 は その 頃 は橫濱 に、 今 は 銀座の 何 丁目 かに、 小さい 時計屋の 店 を 出して ゐた。 

とみ め あ と ちゃう ど に とうだ ば しゃ なか し,? こつ * う、 う すわ 

お 富 はふと EI を 擧 げた。 その 時 了 度 さしかかった、 二 頭 立ちの 馬車の 中には、 新 公が 悠悠と 坐 

しんこう もっと いま しんこう .vf いだ だ てう は ね まへ だて ?か きん かてり 一 

つて ゐた。 新 公が、 11 尤も 今の 新 公の 體は、 駝 ,:::! の 羽根の 前 立 だの、 嚴 めしい 金モ オルの 飾 緒 

だいせ ういく くんし やう めいよ へう しゃう うづ 

だの、 大小 幾つかの 勳章 だの、 いろいろの 名 譽の標 S- に 埋まって ゐる やうな ものだった。 しかし 

はんばく ひげ あ ひだ み 、か が ほ わう ねん こ じみ づ ちが とみ おも あし る 

半白の 髯の 間に、 こちら を 見て ゐる 赭ら顏 は、 往年の 乞食に 違 ひなかった。 お 富 は 思 はす 足を綏 

ふ し 一一 おどろ しんこう ただこ じき こと 

めた。 が、 不思議に も 驚かなかった。 新 公 は 唯の 乞食で はない。 11 そんな 事 は なぜか わかって 

かほ ことば も たんじゅう と かく 

ゐた。 顏 のせ ゐか、 言葉の せゐ か、 それとも 持って ゐた 短銃の せゐ か、 兎に.?: わかって はゐ たの 

とみ まゆ うご しんこう かほ なが しんこう こ い ぐうぜん か C ぢょ か- J< み 

だった。 お 富 は 眉 も 動かさす に、 ぢ つと 新 公の 顏を 眺めた。 新 公 も 故意 か 偶然 か、 彼女の 颜を兑 

まも に じふ ねんい ぜん あめ ひ き おく しゅんかん とみ 二-一ろ せつ ほど か <a 

守って ゐた。 二十 年 以前の 雨の 日の 記憶 は、 この 瞬間お 富の 心に、 切ない 程 はっきり 浮んで 來た。 

-^€ぢょ ひ む ふんべつ いつ ーゾき ねこ すく ため しんこう からだ まか どうき なん 

彼女 は あの 日 無分別に も、 一匹の 猫 を 救ふ爲 に、 新 公に 體を 任さう とした。 その 動機 は 何だった 

00 

8 か Q ぢょ し しん 二う また いはめ か C ぢ. よ な だ からだ ゆび 

1 か、 —— 彼女 は それ を 知らなかった。 新 公 は 亦 さう 云 ふ 目に も、 彼女が 投げ出した 體に は、 指 



ミ^^贞の宫ぉ 



189 



J , こと 力 へん どうき MA Inil-t レ 

さへ 觸れる 事を肯 じなかった。 その 動機 は 何だった か、 11 それ も 1 女 は 知らなかった。 が、 

力 力 は みな とみ たう ぜく 》* ど., こうぜん ,? h ぶ f - V ,: 

らな いのに も關ら す、 それら は 皆お 富に は、 當然 すぎる 稷當然 だった。 J 仏 女 は とすれ!! ひな 

がら、 何 か 心の 仲び る やうな 氣 がした C 

し こう ば しゃ とほ す とき をつ と ひと あ ひだ また ,ケ ^ 、つ. ー -、 . t 

き 公の BS. の 通り過ぎた 時、 夫 は 人 ごみの 問から、 又お 富 を り. » つた。 辯, はや はり その I】 

み なにごと まほ ゑ , , L 

を 兄る と、 何事 もない やうに 頻 笑んで 見せた。 活き活 きと、 :!^ しさう に。 

CKK 十 一年 八") 



190 



げんな くわん えい と かくと ほ むかし 

元 和 か、 寬永 か、 鬼に 角 遠い昔で ある。 

てんしゅ をし へ ほう ころ rv しだい ひ あぶ はりつに あ 

天主のお ん敎を 奉す る もの は、 その 頃で ももう 見つかり 次第、 火炙り や 礎に 遇 はされ てゐ た。 

はくがい は/ ばんじ たま あるじ ころ いっそう Z に しゅうと 

しかし 迫害が 烈しいだ けに T 萬 事に かな ひ 給 ふおん 主」 も、 その 頃 は 一層 この 國の 宗徒に、 あら 

おん. f ご く は ながて-き むら むら と. *v どき ひ くれ ひかり いつ てんし 

たかな 御 加護 を 加 へられた らしい。 長 崎 あたりの 村 村に は、 時時 日の 慕の 光と 一し よに、 天使 や 

*J いと み ま こと げん いちど 5 らかみ しゅうと 

聖徒の 見舞 ふ 事が あった。 現に あのさん. じょ あん • ば ちす たさへ、 一度な ど は.;^ 上の 宗徒み け 

1 へろ 5 十ゐ しゃ r) や すがた ちら は つた どうじ あくま またし ゆうと しゃ, じん また ため 

ろ 彌兵衞 の 水車小屋に、 姿 を 現した と傳 へられて ゐる。 と 同時に 惡魔も 亦 宗徒の 精進 を 妨げる 爲 

. ^る ひ み な こくじん あるひ はくらい くさばな あるひ あ じ-. C り も C しばしばお な o>^p^ しゅつ まつ 

或は 見慣れぬ 黑 人となり、 或は 舶來の 草花と なり、 或は 網 代の 乘物 となり、 li® M じ 村 村に 出沒 

よるひる わか つち らう や へ ゑ くる ねす み ,しつ あくま へんげ 

した。 夜晝 さへ 分たぬ 土の 牢に、 みげ る 彌兵衞 を 苦しめた i も、 實は惡 魔の 變 化だった さうて あ 

. つ、 へ -03 げんな はち ねん あき じふい ち にん しゅうと ひ あぶ げんな くわん えい ケ /、 

る。 彌兵衞 は 元 和 八 年の 秋、 十 一 人の 宗徒と 火炙りに なった。 11 その 冗 和 か、 宽. 水 か、 兎に角 

とほ わかし 

遠い昔で ある。 

-っ. C かみ やまざと むら い ど うぢよ す ちちはは おほさ か 

やはり 浦 上の 山里 村に、 おぎん と 云 ふ 童女が 住んで ゐ た.' おぎん の 父母 は大阪 から、 はるばる 



^ 長 崎へ 流浪して 來 た。 が、 何もし 出さない 內" に、 おぎん t;< を 11 した 11、 n 尸と も ^ はこな つて 

もちろん かれら た こく てんしゅ をし ゝ し ± す 、13 し;, 

しまった。 勿論 彼等 他國 もの は、 天主のお ん敎を 知る はない。 ? 5串 の 1^ じたの は術銜 である。 

禪か、 法 華 か、 それとも;^ i おか、 t にもせ よきの gr る。 ぼき ジ H ス ウイット によ 

れば、 天性 奸智に 富んだ 釋迴 は、 ;{擎 ^きを II ビ ながら、 ^^1? と gi,, る鯽 がず〕 をず いた。 そ 

こ .tH たに ほん Z 、に 4^^ -ニ 、ち A」 し 、ャ, ' > 

の 後 又 日本の 國へ も、 やはり 同じ 道 を 敎に來 た。 釋 翻の いた^に よれば, ^lli^ll の!^^ は、 

その 罪の 輕重深 淺に從 ひ、 i^^i となり、 1^5^ となり、 おとなる さう である。 のみ 

なら I 翻 はぎれる i、 g の f あしたと f 。 i ぎの 2 も 1 

明白で ある。 c ジ アン • クラッセ) しかしお ぎんの^ 銜は、 ^にもち よいと き, いた I り、 さう ふ 

眞實 を-る 害 はない。 彼等 は^を, きとつ た^も、 P の じて ゐる。 ^,3 い の^の か 

げに、 末 は 「いんへ るの」 に墮 ちる の も 知らす、 はかない i、i を fl^ てゐ る。 

, さい は りゃう しん むち fij ^ • " 3 

: しかしお ぎん は 幸 ひに も、 雨 親の 無知に 染まって ゐ ない。 これ はや 昉" つきの li だ、 £ お^の 

、 力 ま ご しち ど うぢよ > 

£ 深い じょ あん 孫 七 は、 とうに この 童女の 額へ、 力の おんお を B いだ ギ -ま a と が 

ん を與 へて ゐた。 おぎん は瞵 || が^ まれた i い i?^ ときと を^さしながら、 一と^ 



チ がした ly- ど は u じて ゐ ない。 その!? りに 、「|| く 御 柔軟、 深く 御 哀憐、 勝れて せく まします i 

し, >、 るす ケ A し たま いし ぎ X く, -ん 

;?^ 3!^^^ 鎖」 が、 と^ご もった 1_ ^を^ じて ゐる。 「十字架に り 死し 給 ひ、 石の 

に辦 めら れ li ひ、」 だいち 地の^に ま つめられた が、 一一^の つきよみ 返った- 1* を 信じて ゐる。 御钆叽 

のまぎ さへ i き i れば 「おん F^il いなる ぎ雞、 II いなる ぎ 蘇 をず ずり ぎひ、 土埃に な 

つ: : へ こま ^ん:し てぐ ヒ やう け らく う また あくにん てん 

りたる ひん, M の 3 射 を、 もとの li^ にぎ 1 せて よみ: ぎ し^ひ、 善 允 は 天上の, 快樂を 受け、 又惡 人は大 

ぎと 1^ に、 ぎ 慰に &ち」 る 1_ ^を _H じて ゐる。 街に 「y^ の ぎ& により、 ばんと 酒の 色 形 は變ら 

すと 蒙: p、 その^^|&ぉん51が鍵ま断となり1る」尊ぃ3^^^を信じてゐる。 おぎん の.. - 

は, i 毅んの やうに、 I 威に 1; かれた Ife ではない。 IkS な 野薔薇の 花 を 交へ た、 赏 りの 璺 かな 麥氳 

である。 おぎん はり i 親ん をお ザた 寧 じ—^,, ん gs, の Is^ よに なった。 孫 七の 赛、 I じょ あんお おすみ 

. も、 やはり: お b 館し いお る。 おぎん はこのお 1 と 一し よに、 牛 を 追ったり 麥を A つたり、 幸 

il に そ の^を つて ゐた。 ま11さぅ^^ふ^|しの¥にも、 批 おの 目に 立たない 限り は、 斷食ゃ 祈, 

■ -> ま み "づ ゃ- ふ しばしばね しん 

も ST つた IJ^ はない。 おぎん は^ のき i& じあの かげに、 おきい 三日月 を 仰ぎながら、 厘 熱心に 

^ ys を まらした。 この 1^ れ 1^ の 童女の 祈禱 は、 かう ョふ 簡單な ものな ので ある。 



.-^^u^ はは み , ^い たてまつ るにん こ ども. み さナ 

^ r 憐 みのおん 母、 おん 身に おん 禮を なし 奉る。 流人と なれる え わの 子供、 おん 身に 叫び をな し 

る。 あはれ この 淚の 谷に、 柔軟の おん 服 を めぐらさせ 給へ。 お ^い。」 

すると 或 年の (降誕 祭) の 夜、 悪魔 は 何人 かの 役人と; しょに、 突然 孫 七の 家へ は ひって 

さ, :3 ま、 5:1 ち いへ お ほ ゐ ろり とぎた もつ ひも す f た-、 

來た。 ^七の 家に は 大きな 阔爐裡 に 「お 伽の 焚き物」 の 火が 燃えさ かって ゐる。 それから 煤び た 壁 

うへ こんや くるす まつ さいご うし う— ご r\ ^ ヒま うぶゆ ヒリ 

の 上に も、 今夜 だけ は 十字架が 祭って ある。 !; 取 後に 後ろの 牛小屋へ 行けば、 W ^様の 產 の爲 

に、 飼 桶に 水が 湛 へられて ゐる。 役人 は 互に 頷き 合 ひながら > 孫 七 夫:^ に繩を かけた。 おぎん も 

同時に 括り 上げられた。 しかし 役 等 は 三人と も、 全然 惡 びれ るハ浙 色はなかった。 靈 魂の ^か りの 

、いか ふ-め〉、 か くご あるじ かな" すわ;;: ら ため おんか ご たま ち 

i;! ならば .^何 なる 责苦 も覺 悟で ある。 おん 主 は 必 我等の 爲に、 御 加 #1 を 賜 はるのに まひない。 

第 一 な ^ の 夜に 捕 はれた と 「ム ふの は、 天 寵 の 厚い 證據 ではない か? 彼等 は 皆 云 ひ 合せた やう 

に、 かう 施 信して ゐ たので ある。 役人 は 彼等 を^め た 後、 代官の 屋敷へ 引き立てて 行った。 が、 

かれら と ちう やみよ かぜ ふ r- かうた/) /J, つ ヒゅ 

彼等 は その 途中 も、 暗夜の 風に 吹かれながら、 御降^^の祈禱を誦しっづけた。 

J I ^ — くに う わかぎみ さま いま ま 」- ま 

^ 「ベ れんの 國に お生まれ なされた おんお^ 樣、 今 は いづこに まします か? おん li 、め 八 かめ 給へ。」 

, 悪魔 は 彼等の 捕 はれた の を 見る と、 手 を拍 つて カー" び 笑った レ しかし 彼等の. 1 ノなげ なさ まこよ、 



196 



すくな . てら た あくま ひとり つち いまいま つば ± や たに 1; 丄 お ほ 

少 からす 腹 を 立てたら しい。 惡魔は 一人に なった 後、 忌忌し さう に 唾 をす るが n 十い か、 忽ち 大き 

!- しう す 二ろ やみ-, 二 かきう 

い 石 白に なった。 さう して ごろごろ 轉 がりながら 闇の 中に 消え失せて しまった。 

n I まこし ち 1 さんにん つち らう な うへ てんしゅ 

じょ あん 孫 七、 じょ あんなお すみ、 まりやお ぎんの 三人 は、 土の 牢に 投げ こまれた 上、 天主の 

を丄へ け せめく あ み-つ ゼめ ひぜめ あ かれら けつ 

おん 敎を 捨てる やうに、 いろいろの 責 苦に 遇 はされ た。 しかし 水 貴 や 火责に 遇っても、 彼等の 決 

しん うご ひ にく V」 だ —_ てん ご,、 もん ひとい 4.J 

心 は 動かなかった。 たと ひ 皮肉 は 爛れる にしても、 はらい そ (天 國) の 門へ は ひるの は、 もう 一息 

しんば う てんしゅ だいおん おも くら つち らう まま V. ラー ごん か は 

の 辛抱で ある。 いや、 天主の 大恩 を 思へば、 この 暗い 土の 牢 さへ、 その 儘 「はらい そ」 の莊 厳と 變 

た ふと てんし せいと ゆめ なへ, しばしば かれら なぐ さ ャ 

り はない。 のみなら す 尊い 天使 や 聖徒 は、 夢と もうつつ ともつ かない 巾に、 歷 彼等 を 慰めに 米 

た。 殊に さう いふ 幸福 は、 1 番 おぎん に惠 まれたら しい。 おぎん は I さん • じょぁん1^ゅ^^^^が_ 

お ほ りゃうて て いなご たくさんす く あ くい ところ み こと また だい てんに , .1 

大きい 兩 手の 手のひらに、 蝗を澤 山 掬 ひ 上げながら、 食へ と 云 ふ 所 を 見た 事が ある。 又大 天使が 

しろ つばさ たた まま うつく こんじき さか づき み-つ とこ <- み - 一と 

ぶりえ るが、 白い 翼 を 疊んだ 儘、 美しい 金色の 杯に、 水 を くれる 所 を 見た 事 も ある。 

だいくわん てんしゅ をし へ もちろん しゃか をし へ し いれら • が うじ やう .*i 

代官 は 天主のお ん敎は 勿論、 釋迴 の敎も 知らなかった から、 なぜ 彼等が 剛情 を 張る のか さつば 

りかい でき とき V- ん にん さんにん きちが おも こと き 

り 理解が 出來 なかった。 時には 三人が 三人と も、 氣違 ひで はない かと 思 ふ 事 もあった。 しかし^ 

ちが こと こんど だいじゃ いっかく、 にう と くじん りん えん どラ ふつ 

遠 ひで もない 事が わかる と、 今度 は 大蛇と か 一角 獸 とか、 鬼に 角 人倫に は緣 のない 動物の やうな 



w 氣 がし 屮" した。 さう ik ふ 動物 を 生かして 置いて は、 今日の a.i つに ばかり か、 い 一つ 隱 の!^ ぎ」 も 

力 力 は わけ だいく わし ひとつき つ. -n ,ノラ * れ,' , 6 

關る訣 である。 そこで 代官 は 一月ば かり、 土の 牢に g きを;^ れて いた^、 とうとう^ 尸ん ともぎ 

き 殺す^ にした。 ^をせ へば この!^ 釕 i.、 がき 1 の: の やうに、 い 一つ 断の に かどう か、 

そんな 事 は 殆ど 考 へなかった。 これ は!^. T に IS が あり、 一に の 避|| が あり、 わざわ^!! 

み かくべ つ ふじい う 

へて 見ないでも、 格別 不自由 はしなかった からで ある。) 

^^^孫 七 を 始め 一一 f が S は、 , づれの れる ¥?も、 f&^i 

け いぢ やう ちゃう ど はかまら とな .t し ま > L 

つた。 刑場 は- 7 度 墓 原に 隣った、 s£ ろの 4< い 空き地で ある。 ポ C 等 は^ ii へき!^ f ると、 TTf 个 

ぶ ゆ-う よ . き のち ふと かくば しら くく チ 

^を讀 み 聞かされた 後、 太い 角柱に 括りつ けられた。 それから 1^ に, JTS:^ おすみ、 :^s? に 

孫 七、 左に おぎん と 云 ふ 順に、 ff- ゆまん おへ!; し られ た。 おすみ はず f 日つ の!^. 

苦の 爲、 急に 年 をと つた やうに 見える。 孫:? も i の!: びた f に は、 1^^ 一,^ の I- が I よって ゐ ない。 

, や ノ ふたり くら 二よ > t 

あきん も II おぎん は 二人に 比べる と、 まだし も ふだんと 衝ら なかった。 が、 § ザ はーづ 一: とも、 

、t, う- ク はか ふ まま おな し-つ かま 

^ .>|, 栽 を 踏まへ た 儘、 同じ やうに 靜 かな 親 をして ゐる。 

のま はりに はすつ と 前から、 |<#ぃ のおき ダ^り^い てゐ る。 その;^ i^l の g うの Ij! こよ,、 



± か. H ら まつ 3 ろつ ぼん てんがい - ;^^ み、 > - ) 

丄 原の 松が 五六 本、 天蓋の やうに 枝 を 張って ゐる 

い 一つ 郷の^ 艇 の^った i、 ^^の T.:< は^^しげ に、 コ f おのまへ 艇 みよる と、 天主の おん 敎を松 

てるか5^てぬか、 窗 をき ハへ るから、 もう 一度よ く考 へて 見ろ、 もしおん 敎を 拾て ると 云へ 

, ,1 I , こた 1^:5-^と*-.* そら み まも H. く. r 

ば、 « にも ま" ssi^ て やる と rl- つた。 しかし 銜等は 答へ ない。 皆 遠い 空 を 見守った 依、 もと 

に は 微笑 さへ^へ てゐ る。 

IT 人ん は, ili^ 艇 すら、 この & うおの つ そりと なった ためし はない。 無數の 限はぢ つと 瞬き 

もせす、 ヨ^ ~ の 織に^ がれて ねる。 が、 これ はま ひさの まより、 誰も 息 を おんだの ではない。 U 物 

は 1< い て#< のか かるの を、 おか^かと!: つて ゐ たので ある。 Ik は义處 刑の 乎 問 どるのに、 すつ か 

こ、、 3- き 上な し ゆ-つき で 、 

りず; Soi し 切って ゐ たから、 話 をす る: ifs も 出なかった ので ある 

すると -sll い 一 同の. 耳 は、 はっきりと 意外な 言葉 を捉へ た。 

をし へす こといた . 

「わたし はおん 敎を 捨てる 事に 致しました 」 

一 S の Ifi はお ぎんで ある。 l^fc は TSEil ぎ」^ つた。 が、 11- どよめいた 後、 忽ち 父 S かにな つ 

^ てし まつ, ヒ。 それ. Hs?3^ ダぎ しさう に、 おぎん の 方 を 振り向きながら、 力の ない を 出した から 



ん ぎお 199 



である。 

まへ あくま ひとしん ば, T ある ヒ お かほ をが 

「おぎん! お前 は惡 魔に たぶらかされた のか? もう 一 辛抱し さへ すれば、 おん 主の 御 額も祥 

める の だ ぞ。」 

その 言葉が 終らない 內に、 おすみ も遙 かにお ぎんの 方へ、 一生懸命 i-l 降 を かけた。 

まへ あく. a い Q 」, C 

「おぎん! おぎん! お前に は惡 魔が ついた の だよ。 祈って おくれ。 祈って おくれ。」 

へんじ ただめ お ほぜい けんぶつ むか てんがい えだ は はか はら 

しかしお ぎん は 返事 をし ない。 唯 服 は 大勢の 見物の 向う の、 天蓋の やうに 枝 を つた、 せ ,:5§ の 

松 を 眺めて ゐる。 その内に もう 役人の 一人 は、 おぎん の繩目 を赦す やうに 命じた。 

じょ あ,^ 孫 七 は それ を 見るな り、 あきらめた やうに 眼 をつ ぶった。 

ばんじ たま あるじ はか まか たてまつ 

.「 萬 事に かな ひ 給 ふおん 主、 おん 計ら ひに 任せ 奉る。」 

な ははな ^5 ビ ん し ばらく たたす まごし ち み 今」 ふ へ 

やっと 繩を 離れた おぎん は、 茫然と 少時 佇んで ゐた。 が、 孫 七 やおす みを兑 ると、 ^に その 前 

へ 跪きながら、 何も (K はすに 淚を 流した。 孫 七 はや はり^ を閉 ぢてゐ る。 おすみ も颜を そむけた 

まま はう み 

0. おぎん の 方 は E ようと もしない。 - 

「お 父樣、 お母様、 どうか 勘忍して 下さい まし。」 . 



2C0 




おぎん はやつ と 口 を 開いた。 

「わたし はおん 敎を 捨てました。 その 訣 はふと 向う に 見える、 天 の やうな 松の ぎに、 まの つい 

たせ ゐ でございます。 あの 墓 原の 松の かげに、 眠って いらっしゃる 御兩親 は、 ii^ あの おん 御 

ぞんじ いまごろ お 、ま-一 

存. 5^ なし、 きっと 今頃 はいん へる のに、 ぉ墮 ちに なって いらっしゃいませう。 それ をゲ わたし 一 

人、 はらい そ 1 の 門に は ひった ので は、 どうしても 申し 訣 がありません。 わたし はや はり 地獄の 51 

ゝ、 ) お, I - - とう V- ま か あざま さま さま お そ.., 

へ 御兩 親の 跡 を 追って 參り ませう。 どうかお 父樣 やお 母樣 は、 ぜ すす 樣 やまり ゃ康の 御^へ お 

出で なすって 下さい まし。 その代り おん 敎を 捨てた 上 は、 わたし も 生きて は 居られません。 …… 

…し 

ぉぎんは切,れ切れにさぅ1}^ つ てから、 後 は 1 ぶり 泣きに 沈んで しまった。 すると 今度 はじ, 

— あし ふ たきぎ うへ なみだ .r- 二 だ 

なおす み も、 足に 踏んだ 薪の 上へ、 ほろほろ 淚を 落し 出した。 これから^:^,;^. へ は ひらう とす 

- 、 ュぅ なげ ふけ もちろん しゅうと 二と i ご-ち 

るのに 用 もない 歎きに 取って ゐ るの は、 勿論 宗徒の すべき 事で はない。 じ— よ あん 孫 七 は、 

上な り つま ふ か,、 かんだか こも J しか 

しさう に 隣の 妻 を娠り 返りながら、 癎 高い 聲に 叱りつ けた。 

まへ あくま み い てんしゅ をし、 す か.' て ま、 J , 

「お前 も惡 魔に 見入られた のか? 天主のお ん敎を 捨てた ければ、 膨 乎に ぉュ i だけ 松て るが^い 



ん ぎお 201 



おれ は 一 人で も燒け 死んで 見せる ぞ。」 

「いえ、 わたし もお 供 を^し ます。 けれども それ は —— それ は —— 」 

なみだ の なか さけ こと i な . 

おすみ は 淚を吞 みこんでから、 半ば 叫ぶ やうに 言葉 を 投げた。 

「けれども それ は い Ifvi へ參 りたい からで は ございません。 唯 あなたの、 —— あなたの お供 を 

致す ので ございます。」 

ま \p しち なが あ ひだ だま . ^ほ あ を またち いろ みなぎ どう: 

孫 七 は 長い 問默 つて ゐた。 しかし その 額 は 蒼 ざめ たり、 又 血の 色 を 漲らせた りした。 と 同 に 

あ. せ たま かほ だ まごし ち いまこ ころ め かれ アニマみ .f-L 

汗の 玉 も つぶつぶ 顏に たまり 出した。 孫 七 は 今 心の 眼に、 彼の 靈魂を 見て ゐ るので ある。 g の 

ァ 二 マ う, で あ てんし あくま み とき あし な ふ >5 

靈魂を 奪 ひ 合 ふ 天使と 惡 魔と を 見て ゐ るので ある。 もし その 時 足 もとのお ぎんが 泣き伏した 額 を 

舉 げすに ゐ たら、 —— いや、 もうお ぎん は 顏を擧 げた。 しかも 淚に 溢れた 腿に は、 j^m 心き なお P 

ゆ" \ 、 ; 、、ク み.,.^, も め おく ひに-め む じゃき ど 5 ぢょ こ-一ろ 

宿しな 力ら ちっと 彼 を 見守って ゐる。 この 服の 奥に 問いて ゐ るの は、 無 邪:; M な 童女の 心ば かり 

ではない。 一 流ス となれ る ^ の 子供」、 あらゆる 人間の 心で ある。 

とうざ ま . 1— まゐ か あぶ ま とラ さま >^^'J 

「お 父 樣! いんへ るのへ 參り ませう。 お母様 も、 わたし も、 あちらのお 父樣ゃ お母様 も、 —— 

みんな 惡魔 にさら はれませ う。 I 



孫 七 はとうと ぅ墮 落し た 。 . 

はなし わがくに お ほ ほうけ うにん ヒゅ なん つ ち もっと は つま づ こうだい つた 

この 話 は 我國に 多かった 奉敎 人の 受難の 屮 でも、 最も 恥づ べき 躜き として、 後代に 他 へられた 

ものがたり なん かれら さんにん をし へ す とき てんしゅ なん 

物語で ある。 何でも 彼等が 三人ながら、 おん 敎を 捨てる となった 時には、 天 主の 何たる か を わき 

けんぶつ らラ にやくなん によ こと ご 上く かおら にく い せっかく ひ あぶ なに み 

まへ ない 見物の 老若男女 さへ も、 悉 彼等 を 憎んだ と 云 ふ。 これ は 折角の 火炙り も 何も、 兑 そこ 

ゐ こ/〕 し V. ら またった ところ. あくま とや だいく わんき 

なった 遣 恨だった かも 知れない。 更に 又 傅 ふる 所に よれば、 惡魔は その 時大歡 喜の あまり、 火き 

しょもつ ば よ ぢ うけ いぢ. V う と い むしゃう よろこ ほど あくま ^ノ こう 

い 書物に 化けながら、 夜屮 刑場に 飛んで ゐ たと 云 ふ。 これ もさう 無性に 喜ぶ 程、 惡 魔の 成功 だつ 

さくしゃ はな は くわいぎ てき 

たか どうか、 作^^は甚だ懷疑的でぁる。 

( 大正 十一 年 八月〕 



りゃう 一へ い ある ざっし しゃ かう せい しゅふで C ぎ 

良 平 は 或雜誌 社に 校正の 朱筆 を 握って ゐる。 しかし それ は^ I 口 さはない。 やすれ は^しの^ さ/あ 

れば、 羅の マルクス を 鍵して ゐる。 醇 I- い i のおに r おの バット を II しみながら、 i い 

. シァを 夢み てゐ る。 百が" の 話 もさう fK ふ i に ふと きれの: 仏 14 付めた、 * きれ ザれ なま ひ I- の Y おこ 

過ぎない。 . 

こ としし ちさい りゃうへ い う , 、 さ、 どころ ,H や > 、 レ ^ 

今年 七 才の良 平 は 生まれた 1 豕の臺 所に やい 午酽 を^き こんで ゐた。 すると If のが が; ねばんだ 

か ぼ ひか な こさ. • じすん おこ 

顏を 光らせながら、 何 か 大事 でも 起った やうに いきなり g し 1 兀 とへ ぎひ こんで^ ヒ。 

J^i , 、ゝ り^う い £ に まんめ ゆり み き 

「今お 良ち やん。 今ね、 二 本 芽の 百合 を 見つけて 来た ぜ。」 

4 金 一一 T は 5^ 一 を i はす i に、 铲& いた f のおへ 興のお さし t を 鎖へ て F た。 

^ に ほんめ 

2 「二 本 芽の ね?」 



り や-つへ.., おも め み は ひとね めに ほんで に まんめ ^ 9 1 よう、 

5 良 平 は 思 はす 目 を 見張った。 一つの 根から 芽の 二 本 出た、 その 二 本 芽の 百 合と Tk ふやつ は容ぉ 

に 見つからない 物だった ので ある。 

ふと に ほんめ め あかめ 

「ああ、 うんと 太い 二 本 芽の ね、 ちん ぼ 芽の ね、 赤 芽の ね、 …… 」 

きんで う と おび はし かほ あせ ふ まとん む ちう つ-つ つ 

金 三 は 解け かかった 帶の 端に 顔の 汗 を 拭きながら、 殆ど 夢中に しゃべり 緩け た。 それに 釣り こ 

りゃうへ い い つ ぜん お まま なが もと かまち 

まれた 良 平 も 何時か 瞎を 置き ざり にした^、 流し元の 框 にしゃがん でゐた 。 

「一 はん た に ほんめ あかめ い 

「御飯 を 食べて しまへ よ。 一 一本 芽で も 赤 芽で も 好 いぢ やない か。」 

はは びろ つぎ ま かひ こ く は 々ざ きざ に さんど りゃうへ い こ. へお こと どん 

母 はだ だ廣ぃ 次の間に 蠶の桑 を 刻み 刻み、 二三 度 良 平へ 聲を かけた。 しかし 彼 はそんな 事 も 全 

然 耳へ は ひらない やうに、 芽 は どの位 太い かと か、 二 本と も 同じ 長さ かと か、 矢つ ぎ.!^ i を i 

きん ざう もちろん; う べん め に ほん おやゆび ,\ 上 たづ おな そ. リ 

して ゐた。 金 三 は 勿論 雄 辯だった。 芽 は 二 本と も 親指より 太い。 丈 も 同じ やうに 揃って ゐる。 あ 

あ 云 ふ 百合 は 世界中に も あるまい。 

りゃう いますぐ み 、 ヽヽヽ 

「ね, おい、 良ち やん。 今 直 見に あゆび よう。」 

き Z さリ す はは はう み りゃうへ い すそ ひ こ ,e 、んめ あ S め め ゆ 

百 金 三 は 狡る さう に 母の 方 を 見てから、 そっと 良 平の 裾 を 引いた。 二 本 芽の 赤 芽の ちん ぼ 芽の 百 

口 り J み く f ゐぉほ いう わく りゃうへ い へんじ うち ±± リらざ 3 り あし 

合 を 見る 11 この 位 大きい 誘惑はなかった。 良 平 は 返事 もしない 内に、 ぼの 藁 草 1 おへ 足 を かけ 



わ.: ざう り しめ うへ はな を い か げんゆる 

た。 藁 草履 はじつ とり 遇った 上、 鼻緒 も 好い加減 綏 んでゐ た。 

「良 平! これ! 御^ を 食べ かけて、 —— 」 . 

i± おどろ こ <vj だ りゃうへ い とき さき た う iJ: によ か ぬ うらに t 

母 は 驚いた 聲を 出した。 が、 もう 良 平 は その 時には、 先に 立って 奥庭 を^け 拔 けて ゐた。 一- 

そと こ-つ ぢ むか き め けぶ ざ ふきば やし りゃうへ い ^ ゆ 

の 外に は 小路の 向う. に、 木の芽の 煙った 雜木 林が あった。 良 平 は そちらへ 驅 けて 行かう とした。 

きん ざう いっしゃう けんめい ゎム- はたけ みぎて はし い りゃうへ い ひと 

すると 金 三 は 「こっち だよう」 と 一 生 懸命に 喚きながら、 畑の ある 右手へ 走って 行った。 良: 午 は 一 

あし ふ だ お ほ、 さやう あたま ま は まへ か もど キ. - .i^ れ 

足踏み 出した なり、 大仰に ぐるりと 頭 を 廻す と、 前 こごみ にばた ばた 駅け 炭って 來た。 なぜか 彼 

に はさう しないと、 勇ましい I 取 もちが しないの だった。 

「な あんだね、 畑の 土手に あるの かね?」 

はた けな か むか むきば た は 

「う うん、 畑の 中に あるんだ よ。 この 向う の 麥灿の …… 」 

きん ざう 一 く はばたけ あぜ く は f たは なかて じふ もんじ に: てよ 二 

金 三 はかう 云 ひかけ たなり、 桑畑の 畔へ もぐりこんだ。 桑畑の 中生 十文字 はもう 縦横に 仲ば し 

えだ に .1 一ぐ どラ くわ ほと は りゃうへ い えだ -^んざぅ あと お い 

た 枝に、 ニ錢 銅貨 程の 葉 をつ けて ゐた。 良 平 も その 枝 を くぐりく ぐり、 金 三の 跡 を 追って 行った U 

かれ すぐ はな さき つぎ あた きん ざう しり おび と まに 

彼の 直 鼻の 先に は 繼の當 つた 金 三の 尻に、 ほどけ かかった C 巾が 飛び 廻って ゐた。 

6 

く はばたけ むか ぬ ところ ふ —だ .ca- 二いた に キ-ん ざう さ t ソ た まま むぎ く は はさ 

2 桑畑 を 向う へ拔 けた 所 はやつ と 節 立った 麥 畑だった。 金 三 は 先に 立った 儘、 麥と 桑と に 挾まれ 



七:;.:;」 いちど みぎ まが す ば や りゃうへ い と たん き/ざう な:) け I ゾ- V, 乂げ /、 はし 

/ た畔 をもう 一度 右へ 曲り かけた。 素早い 良 平 は その 途端に 金 三の 脇 を 走り 拔 けた。 が、 三 11 と 走 



ら ない .2: に、 腹 を 立てたら しい 金 三の 聲は、 忽ち 彼 を 立 止ら せて しまった。 

「何 だい、 何處 にある か 知っても しない ゃ& に!」 

しょげ かへ りゃうへ い また きん ざう ざき た ふたり か たが ひ ん i. 

情氣 返った 良 平 はしぶ しぶ 又 金 三 を 先に 立てた。 二人 はもう 駄 けなかった。 S にむ つつり 默 つ 

まま わぎ ある い わぎば た;:: すみ ど て キ-っ そ,. は ,,、 ん 

た 俊、 麥 とすれ すれに 步 いて 行った。 しかし その 麥 畑の 隅の、 土 乎の 築いて ある 侧へ來 ると 金 

ざう キ-ふ りゃうへ い はう わら が ほ ふ む あし "..'.^ み 

三 は 急に 良 平の 方へ 笑 ひ 顔 を 振り向けながら、 足 もと の^を 指して 兒 せた。 

「かう、 此處 だよ。」 

良 平 もさう 「K はれた 時にはす つかり 不機嫌 を 忘れて ゐた。 

「どうね? どうね?」 

銜はそ の^を 观 きこんだ。 其 處には 金 三の ョ つた 通り、 赤い 紫を卷 いた 合の-弁が T ーボ、 光 15: 

の い 頭 を 尖らせて ゐた。 彼 は 話に は^いて ゐて も、 現在. この 立派 さ を 見る と、 やお も 出ない 程び 

つくりして しまった。 

合 「ね、 太から う。」 



203 



き ノ (ざう とくい りゃうへ かま う 

金 三 はさ も 得意 さう に 良 平 t の氧へ 目をやった。 が、 おやへ i& づ いたぎ り、 ゆ 百 5 口の? 牙ば かりみ 兑? -っ 

てゐ た。 

ふと 

「ね、 太から う。」 

きん ざう いちど くり かへ みぎ 丈う め 

金 三 はもう 一 度 繰返してから、 右の 方の 芽に さはら うとした。 すると^^^!かがのさめたゃぅこ、 

あわ て はら 

慌てて その 手を拂 ひのけた。 

「あつ、 さはん なさん なよう、 折れる から。」 

一 釘 いぢ や あ、 さはった つて。 お前さんの 百合 ぢ やない に!」 

.^)んざぅ またお こ だ りゃうへ こんと > - 

金 三 は 又 怒り 出した。 良 平 も 今度 は 引き こまなかった。 

まへ 

1 お^さんの でもな いぢ や あ。」 

「わしので ない つて、 さはっても 好 いぢ や あ。」 

1 - を 

「よしなさい つてば。 折れち まふよう。」 \ 

r 扩れる もんち やよう- 



【よう。」 

J ノ, , り やっつ-一 へい ま ほか きん ざう そ こ まま 

となれば 良 平 も るより 外はなかった。 金 三 は其處 へし やが.; -だ 俊、 




まへ てあら ゆり め- さん すん た め うご ナ しき み 

9 前よりも 荒に 百合の 芽 を いぢった。 しかし 三寸に 足りない 芽 は 動き さうな 氣色も 見せなかった。 

2 

「ぢ やわし もさ はらう か?」 

あんしん りゃうへ い きん ざう かほい ろ うかが ひだり め みあ か. G り IL う / 1 

やっと 安心した 良 平 は 金 三の 顏色を 窺 ひながら、 そっと 左の 芽に さはって 見た。 赤い 芽 は 良; 4- 

び めう しょく かく あた かれ しょく かく なか なん い うれ 

の 指の さきに、 妙に しっかりした 觸 覺を與 へた。 彼 は その 觸覺の 中に 何とも 云 はれない 嬸 しさ を 

かん 

感じた。 

「おおな あ!」 

りゃうへ い ひと び せう きん ざう しばらく つち とっ^^んまた こと い 

良 平 は獨り 微笑して ゐた。 すると 金 三 は 少時の 後、 突然 又 こんな 事 を 云 ひ めた。 

い めた ま お ほ りゃう ま > 

「こんなに 好い ちん ぼ 芽ぢゃ 球根 は うんと 大きから うねえ。 —— え、 良ち やん 掘って 兑 よう 

力?」 

かれ い とき うね つち ゆび つつ りゃうへ い こと 

彼 はもう さう 云った 時には、 睡の 土に 指 を 突 こんで ゐた。 良平のびっくりした^?^-はさっきょり 

はげ くらぬ かれ ゆり め わ i て お V. 

烈しい 位だった。 彼 は 百合の 芽 も 忘れた やうに、 いきなり その 乎 を 抑へ つけた。 

ぼ 「よしな さいよう。 よしなさい つてば。 」 • 

」n りゃうへ い こ 一 ご ゑ 

ん それから 良 平 は小聲 になった。 



210 



みまへ しか I 

「見つかる と、 お前さん、 叱られる よ。」 

は fc ナ t か. H ゆり G はら やま ちが はたけ も ぬしい ぐ わい たれ と こと ゆる 

畑^ 屮に えて ゐる 百合 は 野原 や 山に ある やっと 違 ふ。 こ の 畑の 持ち主 以外に 誰も 取る 事 は 許 

きん ざう かれ みれ/〕 » つ"、,? 

されて ゐ ない。 —— それ は 金 三に も わかって ゐた。 彼 はちよ いと 未練 さう に ま はりの 土へ^ を 

か のちす なほ りゃうへ い いこと き 

描いた 後、 素直に 良 平の 云 ふ 事 を 聞いた。 

± そら ど 二 ひ. り こ ゑ つづ ふたり こ ども こ ゑ した に ほんめ ゆり あい 

S= れた签 の何處 かに は 雲崔の 聲が續 いて ゐた。 一 一人の 子供. は その 聲の 下に 二本^の 百合 を 愛し 

お ほ ま じめ い や,、 そく むす だいいち ゆり こと とも な 

ながら、 大眞 面目に かう 云 ふ 約束 を 結んだ。 —— 第一、 この 百合の 事 は どんな 友 だち にも 話さな 

こと だいに まいあさ がく かう で まへ ふたり いつ みく こと 

い 事。 第一 一、 毎朝 學 校へ 出る前、 一 一人 一 しょに 見に 來る 事。 ::: 



よくあさ ふたり やく-そく、 ど ほ いつ ゆり むぎ.; 5 たけ & ゆり あかめ さき つゆ たま た. も; 

翌朝 二人 は 約束 通り、 一し よに 百合の ある 麥 畑へ 來た。 百合 は 赤い 芽の 先に 露の 玉 を 保って ゐ 

きん ざう みぎ め りゃうへ い だり め つめ はじ つゆ たま お; - , 

た。 金 三 は 右の ちん ぼ 芽 を、 良 平 は 左の ちん ぼ 芽 を、 それぞれ 爪で 彈 きながら 露の 玉 を 落して 

やった。 , 

「太いね え! 11 」 . 



1 良 平 は その 朝 も ケ更の やうに、 百合の, の 立派 さに 見惚れて ゐた。 

「これ ぢゃ 五年經 つた だね。」 

「五 年ね え? — 」 

きん ざう りゃうへ い かほ やデ み め おく 

金 三 はちよ いと 良 平の 顏へ、 蔑す みに 滿 ちた 目 を 送った。 

ご ねん じふ ねんく らゐ 

「五 年ね え? 十 年 位すら ぢ や。」 

じ? 5 ねん じふ ねん としう へ 

「十 年! 十 年って わしょり 年上 かね?」 

まへ としう へ 

1 さう さ。 お前さんより 年上す らぢ や。」 

はな と を さ 

r ぢゃ 花が 十 く かね?」 

一 ん、 f J - いつ > は々. でき じふ ねん ゆ り と を はな で き かれら ,,. つ . としう へ 

五 年の 百合に は 五つ 花が 出來、 十 年の 百合に は 十 花が 出來 る、 11 彼等 は 何時か 年上の ものに 

い こと をし 

さう 云 ふ 事を敎 へられて ゐた。 

さ と をぐ らゐ 

「i- くさ あ、 十 位!」 

きん ざう お-ご そ い き りゃうへ い ないしん \ わけ ひと ごと 

W 金 三 は 厳かに 云 ひ 切った。 良 平 は內心 たじろぎながら、 云 ひ訣の やうに 獨りー W をパ ぶった。 

.d 口 はや さ い 

力 「早く くと 好い な。」 



212 



「暌 くもん ぢゃ あ、 夏で なけり や。」 

きん ざう また あざわら , 

金 三 は 又 嘲笑った。 

なつ なつ 4 めめ ふ じ ぶん 

「夏ね え? 夏な もんか。 雨の 降る 時分 だよう。」 

「雨の 降る 時分 は 夏 だよう。」 

なつ しろ きも Q き とき 

_ 夏 は 白い 着物 を 着る 時 だよう。 —— 」 

りゃうへ い ようい ま 

良 平 も 容易に 負けなかった。 , 

あめ ふ じぶん なつ 

「雨の 降る 時分 は 夏な もんか。」 

ば か しろ きも Q き ど よう 

「莫迦! 白い 着物 を 着る の は 土用 だい。」 

うそ か あ き み しろき も き なつ 

「嘘 だい。 うちのお 母さんに 訊いて 見ろ。 白い 着物 を 着る の は 夏 だい!」 

りゃうへ い い い うち ひだり よこ びん う う おも とき 

良 平 はさう 云 ふか 云 はない 內に、 ぴしゃり 左の 橫髮を 打 たれた。 が、 打 たれた と 思った 時には 

また あ ひて う ケ A 

もう 又 相手 を 打ち返して ゐた。 

なまい き 

「生 意 氣!」 

かほい ろ か きん ざう ちからい つ かれ つ と りゃうへ い あ ふむ むぎ うね た ふ うね つゆ 

顏 色を變 へた 金 三 は 力 一 ぱい 彼 を 突き飛ばした。 良 平 は 仰向けに 麥の睡 へ 倒れた。 睡には • おが 



合 百 



213 



お かほ き もの ひや, T し どろ ュ L と JE 

下りて ゐ たから、 顏ゃ 着物 は その 拍子に すっかり 泥に なって しまった。 それでも 仏 は 飛びず きる 

はや や-にく, ざう きん う ふ, -く つ >- ^こ 

が 早い か、 いきなり 金 三へ むしゃぶりついた。 金 三 も 不意 を 食った せゐ か、 ^時 も は S ダに 51^1 ノ 

た 事の ない のが、 この 時 はべたり と 尻餅 をつ いた。 しかも その 尻 まの ま は, 百が 口の I- の: g に だ 

つた。 

ri は嘩 ならこつ ちへ 來ぃ。 .巧 合の 芽 を 傷める からこつ ち へ 家い。」 

.f:^- んざぅ あご く はばたけ ,. ろ と だ りゃうへ - - - 

金 三 は 願 をし やく ひながら、 桑畑の 畔へ 飛び出した。 良 平 ベ そ を かいたな り、 やむ を", す" き 

ノに 、で. い I ふたり たち ま とつく あ はじ かほ ま .* んざぅ り. p、,r ヽ > む-< J .. 

虎へ 5! て 行った。 二人 は 忽ち 取組み 合 ひ を 始めた。 顏を眞赤にした金三は^1^14.^の^ぐらを滅まへ 

まま む ちゃ ノ、 ちゃ ザん-ご まよ りゃう,、、 -. - - C . --. 

た 儘、 無茶苦茶に 前後へ こづき 廻した。 良 平 はふ だんかう やられる と、 尤-& ^き してし まふの 

だった。 しかし その 朝 は 泣き出さなかった。 のみなら す 頭が ふらつ いて % て も、 il うに 1" 乎へ し 

がみつ いて ゐた。 

く は いひだ とつぜん たれ かほ だ 

すると 桑の 問から、 突然 誰かが 顏を屮 I した。 

「はえ、 まあ、 お前さん たち は 喧嘩 かよう。」 

? "ベり、 J ) ^ . ん, れら まへ . ^ナぃ も ひゃくし やう にょうば う .t 

二人 はやつ と 摑み合 ひ を やめた。 彼等の 前に は 薄 痘痕の ある 百姓の 女房が 立って ゐた。 そに よ 



? そに,.^. > い がく かう とも ははおや .^"のぢょ く は つ, Of ま >- C ぬぐ ひ 

やはり 吉と 云- -學 校友 だち の 母親だった。 彼女 は 桑 を 摘みに 來た のか、 寢間^|5に^^拭をかぶっ 

お ほ ざる かか なに う V 一 V や ,グ こり メ , 、リ 

たなり, 大きい 笊 を 抱へ てゐ た。 さう して 何 か迂散 さう に、 じろ じろ 二人 を,. 見比べて ゐた。 . 

すま ふ を ば 

「相撲 だよう。 叔母さん。」 

きん ざう げんき い りゃうへ い ふる あ ひて こと,. H う 今- . 

金 三 はわ ざと 元氣 さう に 云った。 が、 良 平 は 震へ ながら、 相手の 言葉 を 打ち切る やうに ム つた。 

うそ けんく わ くヒ 

「嘘つき! 喧嘩 だ 癖に!」 

て めえ -っそ 

「手前 こそ 嘘つき ぢゃ あ。」 

きん ざう りゃうへ い みみたぶ つか し あは ひつば うち こま .A ほ そうきち はよ *?、 

金 三 は 良 平の、 耳朶 を摑ん だ。 が、 まだ 仕 合せと 引 張らない 内に、 怖い顔 をした 您か C の 母は樂 

らく て も はな 

樂 とその 手 を據ぎ 離した。 

めえ い つ らん„1^っ あ ひだ そうきち ひた ひ 含す め. ん 

「お^さん は 何時も 劍暴 だよう。 こ の 間う ち の 愁吉の 額に 疵を つけたの もお 前さん すら。」 

りゃうへ い きん ざう しか みみい - 

良 平 は 金 三の 叱られる のを昆 る と T ざまを見ろ」 と 云 ひたかった。 しかし さう 云って やる より 

まへ なみだ あき と もん また きん ざう そうきち まま て つ J SJU あし 

前に、 なぜか 淚が こみ上げて 來た。 その 途端に 又 金 三 は 您吉の の 手 を 振り 離しながら、 片足 づ 

を ど く は なか むか に い 

つ 躍る やうに 桑の 中 を 向う へ 逃げ て 行った。 

ひ V. ね やま /、も りゃうへ い め あめ ふ 

「日 金山が 曇った! 良 平の 目から 雨が 降る!」 



合 百 



215 



よ ノヒっ よ-あ まへ はる めづ おほらめ リ JL ろ/, うち JJ- ひこ /、 くよ 、-、 t 

その 翌日 は 夜明け^から、 春に は 珍ら しい 大雨だった。 良 Kl-^ 家で は!! に 食 はせ る^の が 7 が 

た- ちち はは ひる-ごろ みの まこり よ.:: . ;-る むぎ わち f う £ ±h V 

足りなかった から、 父 や 母 は 午 頃になる と、 裁の§^ど,ったり、 4n ぃ麥 薬^ を 探し iz したり、" 叽 

へ 出る 仕度 を 急ぎ 始めた。 が、 良 平 はさう rK ふ屮 にも 肉: S 皮を嚼 みながら、 t:^ りの ^ばか. 

へて ゐた。 この 降りで は 事によると、 百合の 芽 も 折られて しまった かも 知れない。 それとも 赠" の 

つちい つ たま なが 

土と 一し よに、 球根 ごと そっくり 流され はしない か? 

「金 三の やつ も 心配,. すら。」 

り や t ゾ 〈ぶ, ま i お. f,' 1 ナこ を か き きん ざう いへ と.! 5 つ キー. つ t ャ 

良 平 は 又 さう も 田:^ つた。 すると 少し 可笑しい 氣 がした。 金 三の 家 は 隣 だから、 軒 「傅 ひに きさ 

へ すれば、 傘 を さす 必要 もない のだった。 しかし 昨日の 喧 峰のお 脉、 こちらから は 举ぴに t:;: きた 

k 力 あそ き は.、 しめく ち ひと き 

くな 力った。 たと ひ 向う から 遊びに 來て も、 始はロ 一 つ 利かす にゐて やる。 さう すれば あいつ も 

しょげ ちが / 

!£氣 るのに 遠 ひない。 (未完) • 

(人 正 十一 年 九 H0 



216 



一 

もり なか さんにん ぬすびと たから あらそ たから ひとと せんり と ながぐつ き すがた かく 

森の 中。 三人の 盜 人が 資を爭 つて ゐる。 資とは 一 飛びに 千里 飛ぶ 長靴、 着れば 姿の 隠れる マ ン 

てつ ぶた き けん ただ みところ ふるだう ぐ も:,: 

トル、 鐵で もまつ 二つに 切れる 劍 11 但し いづれ も 見た 處は、 古道具ら しい 物ば かりで ある. し 

だいいち ぬすびと 

第 一 の盜人 その マントル を こっちへ よこせ。 

だいに ぬすびと よ ;: i い こと い けん ながぐつ 》,r 

第二の 盜人 餘 計な 事 を 云 ふな。 その 劍こ そこつちへ よこせ。 11 おや、 おれの 長靴 を 盗んだ な。 

だいざん ぬすびと ながぐつ もの き さま も ぬす 

第三の 盜人 この 長靴 はおれの 物ぢ やない か? 貴様 こそ おれの 物 を盜ん だの だ。 

だいいち ぬすびと もら お 

第一の 盜人 よしよ し、 では この マントル はおれが 貰って 置かう。 

だいに ぬすびと ちくしゃう き さま わた . 

第一 一の 盜人 こん 畜生! 貴樣 なぞに 渡して たまる もの か! 

だいいち ぬすびと なぐ また けん ぬす 

第一 の盜人 よくもお れを撲 つたな。 J I おや、 又 おれの 劍も 盗んだ な? 

だいさん ぬナ びと なん どろ.. f フ 

第三の 盜人 何 だ、 この マントル 泥坊め! 

さんにん も Q お ほげんく わ そ こ .i:* また, た.' わう じ ひとり もり なか みち とほ 

三人の 者が 大, 喧噪になる。 其處へ 馬に 跨った 王子が 一 人、 森の 中の 路を 通りかかる。 



寶 のつ 三 



219 



わう t まへ なに うま お 

王子 おいおい、 お前た ち は 何 をして ゐ るの だ? (馬から 下りる) 

だいいち ぬすびと なに わる けん ぬ」, うへ 、 

第一の 盜人 何、 こいつが 惡 いのです。 わたしの 劍を 盜んだ 上、 マントル さへ よこせと 云 ふ もの 

ですから、 —— . 

だい 》-ん ぬナ びと わる ぬす 

第三の 盗人 いえ、 そいつが 惡 いのです。 マントル は. わたしの を盜ん だのです。 

だいに ぬすびと ら ふたり お ほどろ ばう み, M 

第二の 盜人 いえ、 こいつ 等 は 二人とも 大 泥坊です。 これ は 皆 わたしの ものな のです から、 -! 

だいいち ぬ ナ-ぴ と ,「そ 

第 一 の 盗人 嘘 をつ け! 

だいに ぬナ びと お ほほ ら ふ 

第二の 盜人 この 大法 蝶 吹きめ! . 



わう ヒ ま ま ふる あな ながぐつ くら ゐ たれ ノ 

王子 待て 待て。 たかが 古い マントル や、 穴の あいた 長靴 位、 誰が とっても 好 いぢ やない か? 

に, ぬ, h び d . い き おも すがた かく 

第一 一の 盗人 いえ さう は 行きません。 この マン トル は 着た と 思 ふと、 姿の 11 れる マ ン トルな の 

です。 

だいいち ぬすびと またて つ かぶと けん き き 

第一の 盜人 どんな 又鐵の 兜で も、 この 劍で 切れば 切れる のです。 

だいさん ぬすびと ながぐつ ひとと 、-ん り と 

第三の 盜人 この 長靴 も はき さへ すれば、 一飛び に 千里 飛べる のです。 



わう じ なるほど い たから けんく わ もっと はなし "a, ひと 

王子 成程、 さう 云ふ寶 なら、 喧嘩 をす るの も 尤もな 話 だ。 が、 それならば 愁 張らす に、 一 つづ 

つ 分ければ & いぢ やない か? 

だいに ぬすびと こと くび な V;- どき すん き 

第二の 盗人 そんな 事 をして ごらんなさい。 わたしの 首 はいつ 何時、 あの 劍に 切られる かわかり 

はしません。 

だいいち ぬすびと Hi ま き な こ ぬ. U し 

第一の 盜人 いえ、 それよりも 困る の は、 あの マントル を 着られれば、 何を盜 まれる か 知れます 

A. 一 t, ヽ 

ま V 

だいに ぬすびと なに ぬす ところ ながぐつ おも に ゎーノ 

第二の 盜人 いえ、 何 を 盗んだ 所が、 あの 長靴 を はかなければ、 田 心 ふやう に は 逃げられない 訣で 

す。 

わう じ なるほど ひとり くつ も さう だん う 

王子 それ も 成程 一 理窟 だな。 では 物 は 相談 だが、 わたしに みんな 資 つて くれない か? さう す 

しんにい い はす 

れば 心配 も 人らない 害 だから。 • 

だいいち ぬすび. こ と Q ざま う 

第一の 盗人 どうだい、 この 殿 樣に寶 つてし まふの は? . 

だいさん ぬすびと なるほど い し 

第三の 盜人 成程、 それ も 好い かも 知れない。 



^ だいに ぬすびと ただ;? だんし だい 

2 第二の 盗人 唯 値段 次第 だな。 



寳 のつ 三 



221 



わう じ ね だん かよ f. ^ 

王子 値段 は 11 さう だ。 その マントルの 代りに は、 この 赤い マントル を やらう、 これに は, #1 

) — ながぐつ か は ようせ さ くリ ^ ^ 

の 終 もつ いて ゐる。 それから その 長靴の 代りに は、 この 變 石の は ひった きを やらう。 この IB:f. 

ざいく ^ けん そん f :" 

叙 ェの劍 を やれば、 その 劍を くれても 損 は あるまい。 どう だ、 この 値 スで よ? 

だいに ぬすびと か .ェ - 

第一 一の 盗人 わたし はこの マ ン トルの 代りに、 その マ ン トル を 前き ませう。 

だ.^ い, ち , ぬ;: び a ま.^ さん ぬすびと ま を 

第一 の 盗人と 第三の 盗人 わたしたち も 申し分はありません。 

f 巧 じ. - > とか もら 

王子 さう か。 では 取り 換 へて 貰 はう。 

^^y '-. . ' » な-^ ぺ つとう と か C ち また, T ま うへ またが もり な^ ち b- 

王子 は マントル 劍、 長靴 等 を 取り 換 へた 後、 又 馬の 上に 跨りながら、 森の^の 路 を!: きかけ 

る。 . 

わう じ さき やどや 

王子 この 先に 宿屋 はな V 力? 

ばかい ち ぬすびと もり そと で きん つのぶえ やどや お * こクノ 

第一 の盜人 森の 外へ 出さへ すれば T 黄金の 角镇」 とい ふ 宿屋が あります。 では 御ガ 察に いらつ 

しゃい。 

わう じ さ 

王子 さう か。 では さやうなら.〕 (去る) , 

だ さ i 1 ぬ, -T ぴひー しゃう ばい ながぐつ くつ おも な 

第三の 盜人 うまい 商寶 をした な。 おれ は あの 長靴が、 こんな 靴に ならう と は a はな かつ ヒ。 £^ 



ろ。 止め金に は 金剛石が ついて ゐる。 

だいに ぬすびと りつば もの き ところ との V. ま み 

第二の 盜人 おれの マントル も 立派な 物ぢ やない か? これ を かう 着た 所 は、 殿様の やうに 見え 

る だら う。 

. だいいち ぬすびと けん たい も なに つか ざ や き ん やす £> すだ i 

第一 の盜人 この 劍も 大した 物 だぜ。 何しろ 柄 も 鞘 も 黄金 だからな" ! しかし ああ 安 { 女 欺され 

わう じ お ほば か 

ると は、 あの 王子 も大 莫迴ぢ やない か? 

だいに ぬすびと かべ みみ とくり くち ど こ ひ 。っぽい 

第二の 盜人 しつ! . 壁に 耳 あり、 德利 にも 口 だ。 まあ、 何處 かへ 行って 一杯 やらう。 

さんにん ぬすびと あ Vj わら わう じ はんたい みち い 

三人の 盜人は 嘲笑 ひながら、 王子と は 反 對の路 へ 行って しま ふ。 

き ん つ C ぶえ い やどや さかば V- か 了 すみ わう じ か わう じ 5^ キ く 

「黄金の 角访」 と 云 ふ 宿屋の 酒場。 酒場の 隅に は 王子が。 ハン を嚼ぢ つて ゐる。 王子の, ル にも 客が 

しち はち にん みな わら っラふ 

七 八 人、 ! これ は 皆 杓の 農夫ら しい。 , 

やどや しゅ ヒん いよいよ わう じょ -,1 二ん れい 

宿屋の 主人 愈 王女の 御 婚禮が ある さう だね。 . 

2 

2 だいいち つう ふ い はなし お むこ ひと てろ マう わう viu い 

2 第一 の 農夫 さう 云 ふ 話 だ。 なんでも 御壻 になる 人 は、 黑ん坊 の王樣 だと 云 ふぢ やない か? 



寳 のつ 三 223 



だいに C う ふ わ うぢよ わう "1 ま だい V ら ,, 

第二の 農夫 しかし 王女 は あの 王様が 大嫌 ひだと 云 ふ #• だぜ。 

だいいち G ラふ キ-ら よ 、 

第一の 農夫 嫌 ひなれば お止しな されば 好い のに。 

しゅじん ところ くろ う わう ャま みつ たから も だい、. ち せ.; り と なに-ぐつ S 、こ c J 

主人 所が その 黑ん坊 の 王様 は、 三つの もの を 持って ゐる 。第一が 千里 飛べる 長靴、^ ごが, 

き けん だいさん すがた かく みなに,; ヒゎぅ " よく, t- - 

さへ.: 1?^- れ る劍、 第三が 姿の 隠れる マントル、 11 それ を皆獻 上す ると 云 ふ もの だから、 愁の魁 

くに わう さま わ うぢよ ぃク つし J1. 

いこの 國 の王樣 は、 王女 を やる と 仰 有った の ださう だ。 

だいに のうふ お かはい わ うぢよ お ひとり 

第二の 農夫 御可哀 さうな の は 王女 御 一 人 だな。 

だいいち のうふ たれ わ うぢよ たす ま を 

第一 の 農夫 誰か 王女 をお 助け 申す もの はないだら うか? 

主人 いや、 いろいろの 國の 王子の 中には、 さう IK ふ 人 も ある さう だが、 何分 あの ぎん, 坊の tfiii 

g び く は 

に はかな はない から、 みんな 指 を 御 へて ゐ るの だと さ。 

だいに- やつ ふ よく ふか わう さま わ うぢよ ひと ぬす りゅう どし: ん お 

第二の 農夫 おまけに 慾の 深い 王様 は、 王女 を 人に 盜 まれない やうに、 龍の, ま 人 を 置いて ある さ 

うだ。 

しゅじん なに りゅう へ い. 1. 一 い 

主人 何、 龍ぢ やない、 兵隊 ださう だ。 

だいいち のうふ ま ほふ し さき お たす ま を 

第一 の 農夫 わたしが 魔法で も 知って ゐれ ば、 まつ 先に 御叻け 申す の だが、 11 



しゅ ヒん あた まへ ま ほふ し ま、 まか お 、ち どうわら 

主人 當り^ さ。 わたし も 魔法 を 知って ゐれ ば、 お前さん などに 任せて 置き はしない。 ( 一 同 笑 ひ 

だ 

出す) 

わう じ とつぜん いちどう なかと だ しん い Au.- み 

王子 (突然 一 同の 中へ 飛び出しながら) よし 心配す るな! きっと わたしが 助けて 見せる。 

ち どう おどろ 

一同 (驚いた やうに) あなたが;;: 

わう じ くろ ばう わう なんにん こ うでぐみ まま ひち どう み ^fe 

王子 さう だ、 黒ん坊の 王な ど は 何人で も來 い。 (腕 組 をした 傣、 一同 を 見 ま はす) わたし は片っ 

ばし た いぢ み 

端から 退治して 見せる。 . 

しゅじん わうて-ま みつ たから だいいち せんり と ながぐつ 5^ 、こ 

主人 です が あの 王様に は、 三つの 寶が ある さう です。 第一 に は 千里 飛ぶ 長靴、 一に は、 11 

わう じ てつ き けん も も ながぐつ み. ナん み 

王子 鐵 でも 切れる 劍か? そんな 物 はわた しも 持って ゐる。 この 長靴 を 見ろ。 この }^ を见 ろ。 

ふる み くろ まう わう も すんぶん ち v- た J" ら 

この 古い マントル を 見ろ。 黑ん坊 の 王が 持って ゐ るのと、 寸分 も 違 はない 喪ば かりだ。 

いちどう ふたた おどろ くつ サ り 

一同 (再び 驚いた やうに) その 靴が その 劍 が;:: その マントルが リ 

しゅじん うたが な. かぐ ク あな 

主人 (疑 はし さう に) しかし その 長靴に は、 穴が あいて ゐるぢ やありません か? 

わ, じ, ノ あな: あな ひとと せんり と 

Hi 子 それ は 穴が あいて ゐる。 が、 穴 は あいて ゐて も、 一飛び に 千里 飛ばれる の だ。 

しゅじん 

主人 ほんた うです か? 



蠻 のつ r:: 

,し— 225 



王子 (憐む やうに ¥ 前に は 嘘 だと 思 はれる かも 知れない C よし、 それなら ばまん でみ 兑 せる。 な 

ぐち と お , - 

口の 戶を あけて 藍いて くれ。 ^いか。 ?,ぴ;1^"ったと^ふと^ぇなくなるぞ。 

7 ノ, 4 ヒ:^ ま おかん ぢ やう いただ 

主メ その^に 御 勘定 を顶 きませ うか? 

王子 何、 すぐに 歸 つて 來る。 土 產には f を^つ て^て やらう。 イタリア のき-ぎ か、 イス パ- ーァ 

ま く はう り ま 

の 眞桑瓜 か、 それともす つと 遠い アラビア のま!^ がか? 

しゅじん お みやげ なん けっこう し ス 

主人 御土產 ならば 何でも 結構です。 まあ 飛んで 1^ せて P さハ。 

わう じ と 1 ち こ f ん 

王子 では 飛ぶ ぞ。 一 、 「一、 三! 

わう じ 、. まひよ ,: あ: 

王子 は 勢 好く 飛び 上る。 が、 戶 口へ も i かない おに、 どたりと 91 をつ いてし まふ。 

いちどう わら ち 

一 同 どっと 笑 ひ 立てる。 

1^ ヒス こと おも 

主人 こんな 事 だら うと 思った よ。 

^^い-ち のうふ せんり どころ に さん f ん と 

第一の 農夫 千里 所 か、 二三^も 飛ばなかった ぜ。 * 

第二の 農夫 i、 お I んだ のさ。 Tl-r% まんで & いて、 ¥ 墨び ,たから、 もとの, 

來て しまったの だら う。 



の だ 冗談 ぢ やない。 そんな 莫迴な 事が ある もの か。 

い fmlM ひになる。 は すごすご Si き 上りながら、 酒場の 外 へれ かう とする。 

しゅ-、 一ん おかん ぢ やう お い I くだ i 1 

主人 もしもし、 御 勘定 を いて 行って 下さい < . 

わう じ む ごん まま かね, „J< 、 

王子 無言の 儘 金を投 ける。 

だいに のうふ お みやげ 

第二の 農夫 御 土産 は? 

わう じ けん つか て /なん 

王子 (劍の 柄へ 手 を かける) 何 だと? 

ミ. -- つ 1 一り な,? . ひと つ) と - けん く5^くらゐ.^..- 

igT 一の i 辰 キ (尻 ごみしながら) いえ、 何とも 云 ひ はしません。 (獨り 語の やうに だ H は n.^ 位忉 

れる かも 知れない。 

^0. としわか ひとま づぉ とうさ i お くに 、 かへ 

(なだめる やうに) まあ、 あなたな ど は 御 年若な のです から、 一先 御 父 樣の御 鼠へ お^りな 

さい。 いくら あなたが i いでが, た 所が、 とても 黑ん坊 の 王様に はかな ひ はしません。 ^^人^ 

, も な,? み まど わす つつし ぶか 、、じ カラ、 ふ つ- - 

と ぜふ者 は、 何でも 身の, 程 を 忘れない やうに 慎み深く する のか 上 分 „ がです 

、ち どう わる ことい 

t 一同 さうな さい。 さうな さい。 惡ぃ事 は 云 ひ はしません 

^ わたし は ^も、 i W でも^お ると ^1 つたのに、 (突然 淚を 落す) お前た ちに も恥づ かし 



寳 のつ 三 



227 



かに ^ / . まま さ 

ゲ。 (額 を隱 しながら) ああ、 この 儘 消えても しま ひたい やう だ。 

だいいち C う ふ き ご らん きし 

第 一 の 農夫 その. マン トル を 着て 御覽 さない。 さう すれば r 汨 える かも 知れません。 

わう じ ちくしゃう ふ ばか くろ ばう わう 

王子 畜生! (ぢ だんだ を 踏む) よし、 いくらでも 莫 :! にしろ。 わたし はきつ と 黑ん坊 の 王から 

かはい わ うぢよ たす み ながぐつ せんり と けん 

可哀 さうな 王女 を 助けて 見せる。 長靴 は 千里 飛ばれなかった が、 まだ 劍も ある。 マントル も、 

いっしゃう けんめい からて たす み とき こうく わい き ^が 

11 ( 一 生 懸命に) いや、 络乎 でも 助けて 見せ る。 その 時に 後悔し な い やうに しろ。 (氣遠 ひ の や 

うに 酒場 を 飛び出し てし まふ。) 

し § じん 二 ま くろ ^う わう さま ころ い 

主人 困った もの だ。 黑ん坊 の 王様に 殺されなければ 好い が、 —— 

わう じ やう に は ばら はな なか ふんす ゐ あが は,^ め たれ しばらく C ち き わう 

王城の 庭。 薪 藻の 花の 中に 噴水が 上って ゐる。 始は 誰も ゐ ない。 少時の 後、 マントル をお た 王 

^^が出て來る。 

わ-つじ & おも だち ま すがた かく み しろ もん 

王子 やはり この マントル は 着た と E 心 ふと、 忽ち 姿が 隱れ ると 見える。 わたし は 城の 門 を は ひつ 

へ いそつ あ 二し もと あ たれ とが ゥ 

てから、 兵卒に も 遇へば 腰元に も 遇った。 が、 誰も 咎めた もの はない。 この マントル さへ: lij^ て 



f ら ふ かぜ わ うぢよ へや , 、 A 、、二 

ゐれ ば、 あの 蒈薇を 吹いて ゐる 風の やうに、 王女の 部屋へ も は ひれる だら う — あや あそ 

おる ャ J う, H さ き わ うぢよ ど こ いちじ る 力-/、、 

こへ 步 いて 來 たの は、^ に 聞いた 王女 ぢ やない か? 何處 かへ 一時 身 を 隠してから —— 仆 

-S つえう こ こ た わ うぢよ め み: t^. す, -D 

そんな 必要 はない、 わたし は 此處に 立って ゐて も、 王女の 服に は 見えない:^ だ 

わ うぢよ ふんす ゐ ふちく かな いで 

王女 は 噴水の 緣へ來 ると、 悲し さう にため, J をす る 

ず!^ わたし は^と f ムふ J^li おせな の だら う。 もう 一 週間 もた たない 內に、 あの 憎らしい 5. 〔ん坊 

の?^は、 わたし を アフリカへ つれて 行って しま ふ。 獅子 や のゐる アフリカへ、 II (共 處の芝 

う 、す- ,つ しろ まら はなな か * ふんす 5 I と P 

の. 1:} に 坐りながら) わたし は 何時まで もこの 城に ゐ たい。 この 薔薇の 花の 中に ゆ 水の 一!^ N を 間 

い てゐ たい。 …… 

わう じ なん い うつく わ うぢよ いのち け 、 > 力.. I ぢ 一よ た . - - み, -ト. .^0 

王子 何と 云 ふ 美しい 王女 だら う。 わたし はたと ひ 命 を 捨てても この 王女 を^け て 見せる 

わ うぢよ おどろ わう じ み たホ 

王女 (驚いた やうに 王子 を 見ながら) 誰です、 あなた は? 

つう 二 -si ごと こ ゑ だ わる 

王子 (獨り 語の やうに) しまった! 聲を 出した のは惡 かった の だ! 

つ うぢよ 二る" V.J わる き が 力 はい かほ ノ 、 

王女 聲を屮 I したの が惡 い? I 湫遠 ひか しら? あんな 可愛い 顏 をして ゐる けれども i 

^ わ, つじ かほ かほ み ,. 

2 王子 額? あなたに はわた しの 額が 見える のです か? 



賽 のつ 三 229 



わう ちょみ なに ふし ぎ 力 い 

王女 見えます わ。 まあ、 何 を 不思議 さう に考 へて いらっしゃ るの? 

わう じ み 

王子 この マントル も 見えます か? . 

わ うぢよ ふる 

王女 ええ、 すゐ ぶん 古い マントル ぢ やありません か? 

わう じ らく/,! ん すがた み は • 

王子 (落膽 したやう に) わたしの 姿 は 見えない 箸な のです がね。 

わ うぢよ おどろ 

王女 (驚いた やうに) どうして? 

わ, つじ い 4 つど き すがた かく 

王子 これ は 一度 着さへ すれば、 姿が 隠れる マントルな のです。 

わ うぢよ ノ、 ろ ゼぅ わう 

王女 それ は あの 黑ん坊 の 王の マントルで せう。 

わう じ 

王子 いえ、 これ もさうな のです。 

わ うぢよ すがた かく 

王女 だって 姿が 隱れな いぢゃありません か? 

わう じ へいそつ こしもと あ とき たしか すがた かく しょうこ たれ あ _ -V が 

王子 兵卒 や 腰元に 過った 時 は、 確に 姿が 隠れた ひです がね。 その 證據に は 謙に 遇っても 咎め 

られた 事がなかった のです から。 

わ, っぢょ わら だ け す ふ 6 さ げ なん なに 

王女 (笑 ひ 出す > てれ は その です わ。 そんな古ぃ マ ン 卜 ルを^15て,ぃ らっしゃれば、 下 扔か何 か 

と m わ はれます もの。 



230 



わう じ げ なん らくたん すわ な. ハ ぐつ おな こと 

王子 下男! (落 腊 したやう に 坐 つ てし まふ) やはり こ の 長靴と In; じ 事 だ。 

わ うぢよ ながぐつ 

王女 その 長靴 もどう かしました の? 

王子 これ も 干 里 飛ぶ 長靴な のです e 

わ うぢよ くろ まう わう ながぐつ 

王女 黑ん坊 の 王の 長靴の やうに? 

わう じ ところ あ ひだと み に さんげん と 一 •) らん 

王子 ええ、 —— 所が この 問 飛んで 見たら、 たった 二三 間 も 飛べない のです。 御覽 なさい。 まだ 

劍 もあります。 これ は鐵 でも 切れる 箸な のです が、 —— 

わ うぢよ なに き ご らん 

王女 何 か 切って 御覽 になって? 

わう じ くろ ばう わう くび き なに き 

王子 いえ、 黑ん坊 の 王の 首 を 斬る まで は、 何も 斬らない つもりな のです。 

わ うぢよ くろ ぞう わう 5 で くら 

王女 あら、 あなた は 黑ん坊 の-王と、 腕 競べ をな さりに いらし つたの? 

王子 いえ、 腕 競べ などに 來 たの ぢ やありません。 あなた を 助けに 來 たのです。 

わ うぢよ 

王女 ほんた うに? 

王子 ほんた うにです。 

わ うぢよ うれ 

王女 まあ、 嬉しい! . 



寳 のつ 三 



231 



とつ ぜ C くろ ぼう わ, ^ あら は わう じ わう ちょ 

突然 黑ん坊 の 王が 現れる。 王子と 王女と はび つくりす る。 

くろ う わう こんにち いま ひとと と キ- 

黑ん坊 の 王 今日は。 わたし は 今 アフリカから、 一 飛びに 飛んで 來 たのです。 どうです、 わたし 

ながぐつ ちから 

の 長靴の 力 は? 

わ うぢよ れ、, たん いちど い 

王女 (冷淡に) ではもう 一度 アフリカへ 行って いらっしゃい。 

わう け ふ いつ おはなし わう じ み たれ 

王 いや、 今日は あなたと 一し よに、 ゆっくり 御 話が したいの です t (王子 を兑 る) 謙です か、 そ 

げ なん 

の 下男 は? 

わう じ け なん はら だ た あが わう じ わ うぢよ たす き わう じ 

王子 下男? (腹立たし さう に 立ち上る) わたし は 王子です。 王女 を 助けに 來た 王子です。 わた 

こ こ かぎ ゆびい つばん わ うぢよ 

しが 此處 にゐる 限り は、 指 一本 も 王女に はさ させません。 

わう て、. ね 1. みつ たから も し 

王 (わざと 叮嚀に) わたし は 三つの 寶を 持って ゐ ます。 あなた は それ を 知って ゐま すか? 

わう じ ナし .M がぐ つ なるほど ながぐつ いっち やう と こと でき わう 

王子 劍と 長靴と マントルで すか? 成程 わたしの 長靴 は 一町 も 飛ぶ は 屮ぃ來 ません。 しかし 王 

ぢ よ,' ゥ iM にぐ つ, せ/り に. 乂りよ どろ また 

女と 一し よなら ば、 この 長靴 を はいて ゐて も、 千 m, や 二 千里 は 驚きません。 又 この マントル を 

一 t/) げ なん おも ため わ うぢよ まへ こ 

御覽 なさい。 わたしが 下 Ei- と 思 はれた 爲、 王女の 前へ も 來られ たの は、 やはり マントルの おか 

わう じ すがた かく こと で き 

げ です。 これで も 王子の 姿 だけ は、 隠す 事が 出 來たぢ やありません か? 



232 



わ I つ .^:ダーゎら なまい き ち、 らメ、 

王 (嘲笑 ふ) 生意氣 な! わたしの マ ン トルの 力 を 見る が 好い。 (マ ン トル を 着る。 同時に 消え 失 

せる) 

わ うぢよ て う き ひと キ- 

王女 (乎 を 打ちながら) ああ、 もう 消えて しま ひました。 わたし は あの人が 消えて しま よ と 014 

ん たうに 嬉しく つてた まりません わ。 

わう じ い べんり ちゃう ど た. C で 

王子 ああ 云 ふ マントル も 便利です ね。 丁度 わたしたちの 爲に出 來てゐ る やうです。 

わう とつぜん また あら いま,, ま が.,, こ A1 め でき 

王 (突然 又 現 はれる。 忌忌し さう に) さう です。 あなた 方の 爲に出 來てゐ る やうな ものです。 b 

たしに は 役に も 何にもた たない。 (マ ン トル を 投げ 拾て る) しかし わたし は 11 を 1: つて ゐる。 (が M 

.7 うじ にら かう ふく うば 二ん じ やう しょうぶ 

に 王子 を 睨みながら) あなた はわた しの 幸福 を 奪 ふ もの だ。 さあ 尋常に 勝負 をしょう。 わたし 

けん て ソ き くびく らゐ なん けし ぬ 

の 劍は鐡 でも 切れる。 あなたの 首位 は 何でもない。 (劍 を拔 く) 

わ うぢよ お さが はや わう じ てつ き ナん む I つ * 

王女 (立ち上る が 早い か, 王子 を かば ふ) 鐵 でも 切れる 劍 ならば、 わたしの 胸 も 突け るで せう。 

ひとつ つ つ らん 

さあ、 一 突きに 突いて 御覽 なさい。 

わう しり き 

王 (尻 ごみ をしながら) いや、 あなた は 斬れません。 

わ-つ ぢょ あざけ む ね つ てつ . :r 

王女 (嘲る やうに) まあ、 この 胸 も 突け ない のです か? 鐵 でも 斬れる とおつ しゃった 靡に! 



赘 のつ 三 



233 



わう じ ま わ うぢよ とど わう - 二と も J と わ 5 て J 

王子 お待ちなさい。 (王女 を 押し止めながら) 王の r^f ふ 事 は 尤もです。 王の 敵 はわた しです から、 

じんじゃう しょうぶ わう に, う- 

尊 常に 勝負 をし なければ なりません。 (王に) さあ、 すぐに 勝 I をしょう。 (〔■ "をが く) 

わう とし わか かんしん をと こ い ナん 、つち 

王 年の 若い のに 感心な 男 だ。 好い か? わたしの にさ はれば ぺ叩 はない ぞ〕 

わ" わ 一 じ 1 ^ う あは たち ま わう けん っ么 な- - f ? つ: ^ 

王と 王子と ハ!, "を 打ち <| 口せ る。 すると 忽ち 王の 劍は、 杖 か 何 か 切る やうに、 王子の g を かつ C し 

まふ。 

わう 

王 どう だ? 

ォぅじ けん き ちが : ま 

王子 は 切られた のに 違 ひない。 が、 わたし はこの 通り、 あなたの i でもあって ゐる。 

わう しょろ ぶ つづ t 

王 では まだ 勝負 を t 楔け る氣 か? 

王子 あたり 前 だ。 さあ、 がい。 

王 もう 勝负 など はしないでも チぃ。 (急に 劍を 投げ てる ¥ つたの は あなた だ。 わたしの g な 

ど は 何にもなら ない。, 

わう じ 一 、ふ し ぎ わう み 

王子 (不 ES1 さう に 王 を 見る) なぜ? 

十. ノ 1- 一ろ .*」|1,1 ろ ぢょ 、よ-よ- t/z 

王 なぜ! わたし は あなた を 殺した 所が、 王女に は 愈 憎まれる だけ だ。 あなたに は そ, 1 が, つ 



234 



力らない の 力? . 

王子 いや、 わたしに はわ かって ゐる。 唯 あなたに はそんな 事 も、 わかって ゐ なさ-つな 湫 がした 

力ら 

わう かんが しづ みつ だから わ うぢよ もら おも 

王 (考 へに 沈みながら) わたしに は 三つの 寶が あれば、 王女 も 貰へ ると 思って ゐた。 が、 それ は 

問 遠 ひだった らしい。 

わう じ わう かたて みつ たから わ うぢよ たす おも 

王子 (王の 肩に 手 を かけながら) わたし も 三つの 寶が あれば、 王女 を 助けられ ると 思って ゐた。 

が、 それ も 問 違 ひだった らしい。 

わう われわれ ふたり ま ちが わう じ て と き れい なかな な 

王 さう だ。 我我 は 二人とも 問 違って ゐ たの だ。 (王子の 手 を 取る) さめ、 綺麗に 仲^り をし ませ 

しつれい ゆる くだ 

う.^ わたしの 失 禮は赦 して 下さい。 

わう じ しつれい ゆる /、だ いま みか か 

王子 わたしの 失 禮も赦 して 下さい。 今にな つて 見れば わたしが 勝った か、 あなたが 勝った かわ 

からな い やうです。 

わう か じしんか ゎラ V- よ 

王 いや、 あなた はわた しに 勝った。 わたし はわた し, 目 身に 勝った のです。 (王女に) わたし はァ 

かへ ご あんしん くだ わ-つじ けん てつ き . か は てつ 

フ リカへ 歸 ります。 どうか 御 安心な すって 下さい。 王子の 劍は鐵 を 切る 代りに、 錢 よりも もつ 



かた • ニニろ さ がた ご こんれ ひ ため ナん なが *、 つ 

5 と 堅い、 わたしの 心 を 刺した のです。 わたし は あなた 方の 御婚 禮の爲 に、 この 劍と 長靴と、 そ 

れ から あの マントルと、 三つの 資を さし 上げ ませう。 もうこの 三つの 齊が あれば、 あなた 方 一一" f 

9> る , ) , ^ か, い おも また なに わる く: 

人 を 苦しめる 敵 は I 界 にないと 田 ひます が、 もし 乂何 か惡 いやつ が あったら、 わたしの 匦へ 

»^ - ゾだ ) ひゃくまん くろ 5 う きへい 、つ がヒ 

知らせて 下さい。 わたし はいつ でも アフリカから、 k:: 萬の 黑ん坊 の 騎兵と 一し よに、 あなたな 

の 敵 を 征伐に 行 きます。 (悲し さう に) わたし は あなた を迎 へる 爲に、 アフリカの, 都 Q. まん 巾に、 

大理石の 御殿 を 建てて きました。 その 御殿の ま はりに は、 一節に の 花が 咲いて ゐ るので す。 

\4^^b な 力ぐ つ ときどき あそ キ」 くだ 

(王子に) どうか あなた はこ の 長靴 を はいたら、 時時 遊びに 來て 下さい。 

王子 きっと 御馳走に なりに 行きます。 

わ うぢ H くろ ばう わう むね J ら まな こヒ 

王女 (黑 ん坊の 王の 胸に、 齊激の 花 を さして やりながら) わたし は あなたに すまない 事 をし まし 

た。 あなたが こんな 優しい 方 だと は、 夢にも 知らす にゐ たのです。 どうかかん にんして, |S さい。 

ほんた うに わたし はすまない 事 をし ました。 (王の 胸に すがりながら、 子供の やうに ひすき め 

三 

つ る) 

の 

ft わう わ, T ぢょ かみ な ありがた 、 ,ク 、ま 

王 (王女の 髮を 撫でながら) 難 有う。 よく さう 云って くれました。 わたし も惡 魔ではありません。 



あ,、 ま ど, T やう くる だう わう おとぎばなし わう じ 

惡魔も 同様な 黑ん坊 の 王 は 御伽 噺 にある だけです。 (王子に) さ うぢゃありません か? 

じ, 、 5 、け パ~ ぶつ むか みな われわれ さんにん め あくま くろ 

王子 さう です。 (見物に 向 ひながら) 皆さん! 我我 三人 は 目が さめました" 惡 魔の やうな!^ i ん 

ばう わう みつ たから も わう じ .n とぎ f なし わ.! わ 比 6 

坊の王 や、 三つの 寳を 持って ゐる 王子 は、 御伽 噺 にある だけな のです。 我我 はもう::: がさめ た 

い 化 や-つ. - ,^...^-^ru なか くに す わけ ゆ われわれ まへ きり おく 

上,. 御伽^の 中の 國に は、 住んで ゐる訣 に は 行きません。 我我の 前に は 霧の 奥から、. もっと 

ひろ き かい ,つか き われわれ ?ン ら ふんす ゐ せ.;, い メっ 亡 かい 一, - ゆ 

廣ぃ 世界が 浮んで 來 ます。 我我 はこの 薔薇と 喷 水との 世界から、 一し よに その ゆ へ 出 てれき 

_ ひろ せ かい みにく うつ ノ、 お ほ r し, 一ぎ どなし せ かい 

ませう。 もっと 廣 いせ 界! もっと 醜い、 もっと 美しい、 —— もっと 大きい 御伽 噺の 15^! 

せ かい われわれ ま 二る また た Q われわれ なに し ただ われわれ 

その 世界に 我我 を 待って ゐる もの は、 苦しみ か 又は 樂し みか、 我我 は 何も 知りません。 唯 我我 

^かい いさ いったい へいそつ すす ゆ こと し 

は その 世界へ、 勇ましい 一隊の 兵卒の やうに、 進んで 行く 事 を 知って ゐる だけです。 



238 



あるら うぢよ はなし 

これ は 或 老女の 話で ある" 

よこ はま ある ァ メリ 力 じん ひな ラ やくそく で き じふい ちぐ わつ ごろ き くに 

橫濱の 或 亞米利 加 人へ 雛を資 る 約束の 出來 たの は 十 一 月頃の ことで ございます。 紀の^ 

や, ま を うち おや だいだいし よだい みやう か よう つと を こと し ちく ま を そ 

屋と 申した わたしの 家 は 親 代代 諸 大名のお 金 御用 を 勤めて 居り ましたし、 殊に 紫 竹と か 巾した 鼠 

ふ, ^いつ, 7 ひ, とり, , を ひな なかなかみ f 一と で き 

父は大 通の 一人に もな つて 居りました から、 雛 も わたしの では ございま すが、 中中 兑 事に 出來て 

を ま を だいり びな め びな かんわり やうら く ざん ご を を びな 

居りました。 まあ、 申さば、 r ^蒸 離 は 女 雛の 冠の 瓔珞 にも 珊瑚が は ひって 居ります とか、 Ef^ 鄒の 

しほ ぜ . 一. - きたい ちゃう もん か もん たが ひち が ぬ を い ひな 

鹽瀨 の石帶 にも 定紋と 替 へ 紋 とが 互 違 ひに 繡ひ になって 居ります とか、 —— さう 云 ふ 離だった の 

で ござい ます。 

ノ う ま を ちち じふに だいめ き くに や いへ ゑ 

それさへ 費ら うと 中す ので ございま すから、 わたしの 父、 —— 十二 代 目 の紀 の國屋 伊兵衛 は ど 

くら ゐて くる たいてい ごす ゐ りゃう なに とくせんけ ご ぐ わか * ら • 

の 位 手 もとが 苦しかった か、 大抵 御 推量に も なれる で ございませう。 何しろ- :0 川 家の 御 H 解 以來、 



f) ようきん さ くだ か しう V. ま さんぜんり やう ご ようきん うち ひゃくり やう 

9 御用 金 を 下げて 下す つたの は 加州 様ば かりで ございます。 それ も 三 干 11 の 御用 金の 中、 百 兩 しか 

3 

2 さ くだ いんしう さま しひ やくり やう ご ようきん あか ま 、.r き すすり 

下げて は 下さいません。 因 州 様な どになります と、 四百 兩 ばかりの 御^ 金の かたに 赤 間が 石の 矶 

ひと くだ うへ くわ じ に さんど あ かう もりが さや 

を 一 つ 下す つた だけで ございました。 その上 火事に は 二三 度 も 遇 ひます し、 編 幅 傘屋な ど をゃリ 

みなて ちが たう じ め だう ぐ いっかくち う はら 

ましたの も 皆 乎 遠 ひになります し、 當時 はもう 目 ぼしい 道具 も あらかた 一 家の ロすごしに^12;り别 

つ てゐ たので ございます。 

そ 1- ;. な う ち ち すす まる さ い こっとう や こ じん 

共處 へ辦 でも 費ったら と 父へ 勸 めて くれ ましたの は 丸 佐と 云 ふ 骨 背 屋の、 …… もう 故人に なり 

は あたま しゅじん まる さ は あたまく らゐ を か 

ましたが、 禿げ頭の 主人で ございます。 この 丸 佐の 秀げ頭 位、 可笑しかった も, の は ございません „ 

ま を あたま なか ちゃう ど あんま . ^う くら ゐ い すみ なん 

と 巾す の は 頭の まん 中に 丁度 按麼膏 を 貼った 位、 入れ 撰が して あるので ございます。 これ は 何で 

わか. U ぶん は かく ため ほ あいに,、 ご あたま はう -Hi ん 

も 若い 時分、 ちょいと 秀げを す爲に 彫らせた の ださう でございますが、 生憎 その後 頭の 方 は 遠 

りよ は なう てん いすみと のこ 

慮な しに \| ^儿げ てし まひました から、 こ の腦 天の 人れ 墨 だけ 取り 殘 される ことにな つたの だと か 

たうに んヒ しん ま を を い と かく ちち じふ ご かはい 

當人 自身 申して 居りました。 …… さう 云 ふこと は 兎も^も、 父 はま だ 十五の わたし を可哀 さう に 

おち たびた」 び まる さ ナす ひな てばな 

思った ので ございませう、 度度 丸 佐に 勸 めら れて も、 雛 を 手放す こと だけ はためら つて ゐ たやう 

纖 でございます。 



240 



う えいきち ま を あこ こ つん こし 

それ をとうと ぅ寶ら せた の は 英吉と 申す わたしの 兄、 …… やはり 故人に なり ましたが、 その-; g; 

まだ I" 八だった、 癎の强 い 门儿> ございます。 兄 は 開化 人と でも 申し ませう か、 被 の き^を 1 し 

- せ いぢ す * いねん /な まなし ---M まつ,.' f うへ - 

たことの ない 政治 好きの 青年で ございました。 これが 雛の ー55 になる と、 雛祭な どは曹 だと か、 

, ^つよう ものと お しかた 

あんな 實 用に ならない 物 は 取って 置いても 仕方がない とか、 いろいろけ なすので ございます。 そ 

だめ あに He かし ふう はは なんど こうろん ひ-" て f な it 

の 爲に兄 は 昔風の 母と も 何度 口論 をした かわかり ません。 しかし i を 乎 放し さへ すれば、 この 

歳. の 凌ぎ だけ はつ けられる のに 違 ひご ざいません から、 母 も 苦しい 父の て 手 li、 さう はつ i いことば 

ゝ ま を 、 ひな まへ ま を とま じふ ノ つぐ わつ ちうじ.^,:" 

力り も 申されな 力った ので ございませう。 雛 は 前に も 申しました 通り、 4" 一 月の 中句に はとうと 

よこ はま ァズ リカ じん う わた -.4-- 

ぅ横濱の亞米^^-加人へ賣り渡すことになってしまひました。 何,、 わたしで ございます か? それ 

だ だ てんよ わり . , 

は駄駄 もこね ましたが. ぉ轉 婆だった せゐで ございませう。 その 割に は あまり 悲しい とも m 心 はな 

かった もので ございます。 父 は 雛を寶 りさへ すれば、 紫 轜 子の 帶を 一本 買って やる と 巾して ほり , 

ましたから。 

やくそく で き ょく^^ん まる さ よこ はま か、 うち ま〕 

その 約束の 出來た 翌晩、 丸 佐 は 横濱へ 行った りに、 わたしの 家へ 參 りました。 

r : \ ま を さんど め くわ じ あ ち ふ しん ま. -, J や 

わたしの 家と 巾し ましても, 三度 目の 火事に 遇った 後 は 普請 もほんた うに は參 りません。 燒け 



のこ ど ざう いっか すま ひ - J- : -ん み ^ 

^ 殘 つ た 土藏を 一家の 住居に、 それへ さしかけて 假き請 を 見 世に して ゐ たので ございます。 :^:pg 

^は gi;^ みのき f やって りました から、 か aii とか 1 が; ^歴き とか、 I さ 

い くすり きん. A ん *H し ノヽ 十り こん ふ 9 うへ ぶ リ ど 

う 云 ふ 薬の 金 着 板 だけ は藥 m 笥の上 に^んで^ りました。 おぎに;? がと もって ゐる、 …… 

ま を た ぶ/> - . 

と 中した ばかりで は 多分お わかりになります まい。 無 IP とお」 します の はお, のおり に 齢 f いお 

キ J うし.^. - を か .H ニー 

ふ舊 式の ランプで ございます。 可笑しい i でございますが、 わたし は: ijf に tl^f の f.w II gs- や 

う もで,, かな" す む じんとう おもだ ゐ ^ . V,; * 二 n 

大黄の 勻 かする と、 必 この 無 盡燈を 思 ひ 出さす に は 居られません-) ,i に その, I も. klfw まま 類 f の 

に ほひ ただよ なか うすぐら ひかり ± な を 

句の 漂った 中に、 薄暗い 光 を 放って 居りました。 

頭の秀げた;-佐の^?だんはゃっときズ!^りになったへ乂ちと、 I ま^をお に^りました。 

「では 確かに 半金 だけ、 …… どうかち よいと ぉ檢め 'さい。」 

じ C1 一,」 う あいさつ G ち まる さ しゅじん だ - うつ. - " a 

時; の 挨拶 をす ませて 後、 丸 佐の 主人が とり 出した の は i 包みのお i でございます。 その ひ n に 

手つ け を 賞 ふこと も 約^だ つたので ございませう。 父 は 火鉢へ お を やった なり、 な I も ル|^ ますこ 

ち や う ど と キ J 

… 儀 をし ました。 丁度 この 時で ございます。 わたし は铜 の^ひつけ i り、 お II のお 総^に^ り まし 

is : - > だ まる さ しゅじん お ま ービ么 

/ ところ 力 あ 茶 を 出さう とすると、 丸 佐の 主人 は 大聲で 、「そり や あいけ ま ん。 そ, 飞だサ い 



242 



とつぜん ま を ちゃ 

けません。」 と、 突然 かう 申す では ございま せんか? わたし はお 茶が いけない のかと、 ちょいと 

あっけ まる さ しゅじん まへ み ひと かみ つつ かね で 

呆氣 にも とられ ましたが、 丸 佐の 主人の 前 を 見る と、 もう 一 つ 紙に 包んだ お金が ちゃんと 屮:: てゐ 

る の で ござい ます。 

けいせ う こ ころ ざし こころざし 

「これ や あほん の輕少 だが、 志 はま あ 志 だから、 …… 」 

こころざし たし いただ て 

「いえ、 もうお 志 は 確かに 頂きました。 が、 こり や あどう かお 手 もとへ、 」 

または ぢ 

「まあ さ、 …… そんなに 又 恥 を かかせる もん ぢゃ あない。」 

ド ようだんお つし や だんな はち なに あか た にん お ほ だん 

「冗談 仰 有つ ちゃ あいけ ません。 檀那 こそ 恥 をお かかせな さる。 何も 赤の他人 ぢゃ • あなし、 大粗 

ない らいせ わ まる さ み-つ /さ おつ t や 

那以來 お世話になった 丸 佐の した こと ぢゃ あご わせん か? まあ、 そんな 水つ 臭い こと を 仰 有ら 

すに、 これ だけ は そちらへ おしま ひなす つて 下さい。 …… おや、 ぉ壤 さん。 今晩は、 おうおう、 

け ふ て ふて ふまげ だい き れい で き 

今日は 蝶蝶 體が大 へ ん綺 匿に お出 來 なす つ た!」 

ベ つ だんなん き い お もズだ ふき ど ざう な か か へ き 

わたし は刖段 何の:; 姒 なしに、 かう 云 ふ 押し問答 を 聞きながら、 土藏の 中へ 歸 つて 來 ました。 

ど ざう じふに で ふし かなり: S ろ たん "-' なべ:; ひ ばち なが 

土藏は 十二 墨 も 敷かり ませう か? 可也 廣ぅ ございま したが、 第笥も あれば 長火鉢 も ある、 長 

もち おきと だな い ていさい て ザ ま 今- 

持 も あれば 置 戶棚も ある、 —— と 云ふ體 裁で ございまし たから、 すっと 手 狹な氣 がしました。 さ 



い か ざいだ うぐ なか い^ f ん ひとめ やす つ がふさん じふい く そろ まこ 

お う 云.^; 豕財迅 具の 中に も、 一^人 口につ き 易 いのは 都合 三十 幾つかの 總 桐の 箱で ございます。 も 

2 ひな はこ * を ま を あ 、つ ひ 卜 、こ 

とより 雒の 箱と 巾す こと は,^ し トーげ るまで も ございますまい。 これが 何時でも 引き 度せ る やうに、 

まど 力べ つ いど ざう なか む レん- 二う みせ 

窓した の 壁に 積んで ございました。 かう 云 ふ土藏 のまん 巾に、 無 燈は见 世へ とられました から、 

、 . ^んど ズ むか レ あんどん ひかり .H よ ふ だ ふくろ ぬ あに ち ひ 

ぼんやり 行燈 がと もって ゐる, —— その 昔 じみた 行燈の 光に、 母 は 板り 出しの 袋 を 縫 ひ、 M 儿は小 

ふる-つく ゑ れい えいご レーく ほん なに しら かよ 

さい 古 机に 例の の 讀本か 何 か 調べて ゐ るので ございます。 それに は變 つたこと も ございませ 

はは かほ み はは はり つ ご ふ め まつ デ ,t 'ら な,.;,, ,ノ 

ん が、 ふと 母の 額 を 見る と、 母 は 針 を 動かしながら、 伏し^に なった 隨 の 裹に淚 を 一 ばいた 

めて 居ります。 

f, や ふ j ふじ はは ほ もら だの ,, お. H ダ さ 

お茶 の お 給 化 をす ませた わたし は 母に 褒め て 賣只 ふ こ と を樂し みに … … と 云 ふの は.^ 1 次裟 にし ろ、 

ま まう き そこ な r た - M -' > 

れち 乂" ける 氣 もち は ございました。 共處へ この 淚で ございませう? わたし は 悲しい と:.: しふより 

も、 取りつ き 端に 困って しま ひました から、 出來る だけ 母を见 ないやう に、 兄の ゐる则 へがり ま 

した。 すると^に 眼 を擧 げたの は 兄の 英吉 でございます。 兄 はちよ いと: t げん さう に とわたし 

み ,-ノ"<^: , たち ま めう わら かた またよ- -も じょ はじ 

と を 見比べました が、 忽ち 妙な 笑 ひ 方 をす ると、 又橫 文字 を讀み 始めました。 わたし はま だ この 

H 力 時 位、 11 化 を Ean にかけ る 兄 を 憎んだ こと は ございません。 お, さん を莫ぜ こして ゐる、 —— ,f?f 



244 



にさう 思った ので ございます。 わたし はいきな り 力. 「ばい、 の Izs^ をぶ つて やり まし ヒ。 

なに 

「何 をす る?」 . 

兄 はわた し を 睨みつ けました。 

「ぶ つ て やる! ぶ つて やる!」 

な こも i だ ち ど あこ 

わたし は 泣き 聲を 出しながら、 もう 一度 兄 をぶ たうと しました。 その^ はもう ^つ^こ か、 

あに か ズ べきつ よ わす ち C ゥ 

兄の 癎 癖の 强 いこと も 忘れて しまったので ござい. キ: す。 が、 まだ % げた 手 を さない:^ に、 S ^よ 

よこ びん ひらて と 

わたしの 橫髮へ ぴしゃりと 平手 を 飛ばせました。 

「わからす 屋!」 

もちろんな だ どう ヒ あに うへ もつ さ ふ 

わたし は 勿論 泣き出しました。 と 同時に 兄の 上に も 物差しが 降った ので ございませう。 がま 

とぼ 丈 高に I? へ 食って かかりました。 母 も かう なれば 承知し ません。 ^ ぃ聲を II はせ ながら、 さ 

んざん兄と!!^ひ合ひました。 

い こう,^ ん あ ひだ ぢぅ - ただく な t つづ ゴ,, 'b , 

さう 云 ふ 口論の 問 中、 わたし は 唯 悔やしへ 犯き に 泣き 緩け てゐ たので ございます。 お^のお" を 

5 つ ( だ ちち む じんとう も まま み くまで 

達り 出した 父が 無 盡燈を 持った^、 見 からこ ちらへ は ひって 來る迄 は。 …… いえ、 わたしば,; 



m き 
ま 

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、 た 

五 2 m 
J ぐえ を 

鴨 T--^ 
し 放, 
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2 



, あに * つち かほ み きふ .ヒ ま , 

りで は、 こさいません。 兄 も 父の 節 を 兄る と、 に 默 つてし まひました。 ,ri» を!: かないお gr.- つ 

たし はもと より 當 時の 兄に も、 恐し かった もの は ございま せんから。 



ば /- ひな こんげつ すゑ つ こ はんきん う と どう、 ン , • 

その 晚敏は 今月の 末、 殘 りの 半金 を 受け取る と 同時に、 あの の &ぉリ 利 力 加 じ 人ん へ!! してし ま 



ことにき まりました。 何、 齊り愤 でございます か? ケ になって 一ます, こ、 1- ぎ, ぎしい やう 

、 、 、 たし レ * 一ん 匕 ふみ 5 ん ま を を -J う, し - . 

でございますが、 確か 三十 圓 とか 中して 居りました。 それでも ~n 田 時の, i,4g にす ると、 すゐ ぶん g 

惜には 遠 ひご ざいません。 

その に 雛 を 手放す 日 はだん だん 近づいて i りました。 わたし は I にも!^ しました f り、 が 

それ を 悲しい と は E 心はなかった もので ございます。 ところがい い と i がの ひ 日が t きって^る と- 



I づ ひな わか 



Si ひ W しました。 しかし 虻^に;^ 似と はおせ、 TS?;^M すと 

お f 、 - ただ ひとで わた まへ ノウ ど み -, 

田え ひません。 唯 人手に 渡す 前に、 もう 一度よ く见 てず きた、 ,0 



た な にんせ-り び やう ふ ま? ゑ だう ぐ 

の 橘、 雪洞、 祥風、 薛 維の 道具- 



いちど ど てう なか 

> ——もう 一 度 この 土 藏の屮 

にさぅ!!^ふ物を飾って見たぃ、 (1 と S. すの が:;^ ございました。 が、 ^お べま な 1^ は 

たしに せがまれても、 これ だけの こと を 許しません。 「一度 チ附け をと つたと なり P あ、 ど W ぎこ 



245 



ひと V. ま ひと》 -ま 

あらう が 人様の もの だ。 人様の もの は いぢる もん ぢゃ あない。」 II かう^す ので ございます。 

げつまつ ハ お ほ かぜ?,, - > 土 ± 、う, や、. . 

するともう 月末に 近 ~ い、 大風の 吹いた 日で ございます。 IF は 風邪に i 怖った せゐ か、 それともお 

化た く 4f びる で き ^;; つぶ ほど はれもの き もち わる ま を あさ -ご 土ん > こ. こ 

下 傅 に 出 來た衆 粒 程の 腿 物の せゐ か、 氣 持が 惡 いと 巾した ぎり、 朝の 御 g も gi, 一ません。 わた 

Z ま 一い: V ころ ふた C ち かたて ひた ひ おさ ただ なが ひ セ. ち ま、 うつ..., 

し と臺 tH- を 片 づけた 後 は 片手に 額 を 抑へ ながら、 唯ぢ つと 長 火 のまに 俯向いて ゐ るので ござい 

ます。 ところが 彼是お 午 時分、 ふと 紘を 崎け たの を 見る と、 驢物 のあった 下お:: だけ、 丁 射い.^ 

薩の やうに 脹れ 上って ゐる では ございま せんか? しかも I- の? If い こと は S に た i の g だけ 

「、 • 、 叶パ > ^ - 、 、 、 み おどろ ま を まで 

て も 直と わ 力る ので ございます。 これ を 見た わたしの 驚き は 申す 迄 も ございません。 わたしよ 

ほ とん む が む ちう ちち み せ 上 

殆ど 無我夢中に、 父の ゐる見 世へ 飛んで 行きました。 

「お父さん! お父さん! お母さんが 大變 です よ。」 

父 は、 …… それからぉハぎにゐた^^も!^-パしょに埘へぉました。 が、 ^じい^の 鋤に は?^, に 

とられた ので ございませう。 ふだん は 物に 騒がぬ 父 さへ、 この-時 だけ は) £1" としたな り、 ,ロち も:! 

く き を 之に 、 5 ち 、 つし? -ジナ ^ J » : - I 

時は^!^-かすに居りました。 しかし 母 はさう 云 ふ 中に も、 「生 懸命に 微笑しながら、 こんな こと を 

ま を 

申す ので ございます。 



^ 「何、 大した こと はありますまい。 唯ち よいと このお^ 來に爪 を かけた だけな のです から、 …… 

2 いま-ご はん し たく 

今 御飯の 支度 をし ます。」 

「無理 をし ちゃ あいけ ない。 御飯の 支度なん ぞ はお 鶴に も 出 來るピ 

ちち なか しか i.x, ことば さへ.; S 

父 は 半ば 叱る やうに、 母の 一一 目 葉 を 遮りました。 . 

えいきち ほ/ま よ こ 

r 英吉! 本 さん を 呼んで 來 い!」 

ォん: ん、 y -ん.; き » い 3 さん お, に かぜ みせ そとと だ を 

兄 はもう さう 云 はれた 時には、 一 散に 大風の =^:^ の 外へ 飛び出して 居った ので ございます。 

ほんよ ま を かんば ふい あに し 卜 £ぅ やぶい しゃ ば か ク と 、 t や 

本 出さん と 申す 漢法 醫、 —— -兄は 始終" 數醫 者な どと 莫遍 にした 人で ございま すが、 その 翳^も 

よ • み とき たう わく うでぐ & はよ ± れも Q めんち やう ま を 

母 を 見た 時には 《お 惑 さう に、 腕組み をし ました。 ,ぼけば 母の 風物 は面疗 だと 申す ので ございま 

- めん. I, ハゃぅ し ゆしゅつ. で き おそろ び やうき たう じ t 

す 力ら …… もとより. 曲 疔もザ 術 さへ 出來れ ば、 恐し い 病 祭で は ございますまい。 が、 常時の 悲 

しさに は 乎 術 どころ の 騒ぎで は ございません。 唯 煎藥を 飲ませたり、 蛭に 血 を 吸 はせ たり、 —— 

ちち まいにち まくら ほん ま くすり せん あこ ま ち 

そんな こと をす る だけで ございます。 父 は 毎日 枕 もとに、 木 問さん の藥を 煎じました。 兄 も ハ# 日 

ト ふご ゆ, ん ひる か で あ: し きん.、 ご」 

.H.^- 錢づ つ、 蛭 を Sa: ひに 出かけました。 わたし も、 …… わたし は 兄に 知れない やうに、 つい 近所 

^ いなり ひゃくど ふ かよ - しまつ >M まづ 

のお 稻荷 きへ お "rC 度 を 蹄み に 通 ひました。 - 1 さう 云 ふ 始末で ございま すから、 雛の こと も 申し 



243 



を > ち ,、ノ よ -ク • - ^ 、 V 

て は 居られません。 いえ、 J 時 わたし を 始め、 II も あの に 1^ んだ Tf 一おば かりの^ 減 の^に は 

吸 もやら なか つたので ござい ます。 

」: - つ- i 丄 ふい、:::; 卄;, -1 "^ナノに ち、 い; * やよ ぽ トかノ ま を いちに! へ 

ところ 力 f 一月の 一 一. f 九日 愈 雛と 別れる と 申す 一 日 前の ことで ございます。 わたし は 

li と,! しょに ゐ るの も、 今日が 最後 だと! ^ へる と、 《1^4、 も きても たまらない ぉ-" もう T¥ きが 

けたくな りました。 が、 どんなに せがんだ にしろ、 I 力 は.^ に II ひありません。 すると^に^ 

して 贳ふ、 ,1 わたし は ii にさう^ ひました が、 ^しろ そのが 威の II おはまよりも Y 網 魔って, 

ります。 食べ物 もお も n お を 吸る 外 は 一 切い 喉 をき ほりません。 ま) にこの- i は-; 1 つお へ も、 ^えす;^ の g 

まじ うみ , 

を 交へ た ii がた まる やうに なった ので ございます。 かう Tk ふ i の^ ピ ると、 ;^!: に:;!;;:; の:^^ 

にもせ よ、 わざわざ 雛 を 飾りたい なぞと は 口へ 出す も 1| りません。 わたし はきから * 銜 r こに、 

は 一.^ き げん うかが 5 かが や ころまで . /. 

母の 機嫌 を 伺 ひ 伺 ひ とうとうお 八つになる 頃 迄 は 何も 「ェひ 出さす にし まひました。 

しかし わたしの I のまに は を 1 つた i の fiV f のま g の i のきが % み:^ げて あるので ご 

ざいます。 さう して その 離の 箱 は 今夜 ー晚 過ごした がまお、 ?| い i ^^のき ハ:: ^llfe へ、 …… ことに 

よれば 亞米利 加へ も 行って しま ふので ございます。 そんな こと. 4f へる と、 い; ぎ I- は!. U 矿 ます 



2 



まい。 わたし は の 眠った の を ま、 そつ あ 世へ I- かけました。 か r が!^ りこ そ i いものの- 

土 藏の屮 に比べれば、 往來の 人通りが 兑 える だけで も、 まだし も P でございます。 おぎに y よ 

f ひ を ir ^はせっせっと^1?歐の§^|^に$??きかを?て§5り ました。 

「ねえ、 お父さん。 後生 一 生のお 願 ひだから、 …… 」 

わたし は 父の 額 を かきこみながら、 ハ母時 もの i み を^ち かけました。 が、 14は^^パ肌するどころ 

あ ひて け し キ- 

力 ^?,になる氣色もござぃ ません。 

「そんな こと はこの 間 も 云った ぢゃ あない か,, …:: おい、 お « は! 4 は^るい おに、 ち 

よいと 丸 佐へ 〔仃 つて 來て くれ。」 

まる さ き 、 

1 . ^がへ ? 來て くれと 云 ふんです か?」. 

「何、 ランプ を 一 っ持って來て^?ふんだが、 …… お 鞭、 ^りに 1;^ つて^ても I- い。」 

「だって 丸 佐に ランプ はないで せう? I 




こ、 珍しい 笑 ひ 顏 を 見せました。 

、だ- 



「燭臺 が 何 か I ああるまい し、 ::: ランプ は つてく れつて i ん であるんだ。 わたしが r よ 



り や あ 確 だから。」 

「ぢゃ あもう 無盡燈 はお 廢 4= です か?」 

ひま だ とキ- 

「あれ ももう お^の 出し 時 だら う。」 

「古い もの は どしどし,^ める ことです。 ^一 お母さん も ランプに なり や あ、 ちっとは^^も^れる 

でせ うから。」 

.1 つち もと また そろばん はじ だ ねんぐわん あ ひて 

父 は それぎ り 元の やうに、 又 算盤 を 剥き出しました。 が、 わたしの 念願 は 相 乎に されなければ 

つよ いちど うし ちち かた ゆ 

されない だけ, 强 くなる ばかりで ございます。 わたし はもう 一度 後ろから 父の 一:^ を搖 すぶり まし 

た。 

「よう。 お父さん つてば。 よう。」 

「う る さ い!」 

父 は 後ろ を 振り向き もせす に、 いきなり わたし を 叱りつ けました。 のみなら す:: 儿 もま 地惡 さう 

かほ にら を しょ f か: まま ま たおく や" キ- 

に、 わたしの 顏を 脱め て 居ります。 わたし はすつ かり 情 祭 返った 俊、 そっと 又 奥へ 歸 つて 來 まし 

2 た。 すると 母 は I: 時 Cil にか、 熱の ある 1 を擧げ ながら、 額の 上に かざした 乎の 平 を 眺めて ゐる 



^ ので ございます。 それが わたしの 姿 を 見る と、 思 ひの 外 はっきり かう" か" しました。 

2 まへ な: i つ :ハ 

「お^、 何 をお 父さんに 叱られた の だえ?」 . 

わたし は 返事に 困りました から、 枕 もとの 羽根 楊枝 を いぢって りました。 

1 又 何 か 無理 を^った の だら う? …… 」 

母はぢ つと わたし を 3- たなり、 今度 は tw しさう に 一一 一一 C 葉を繼 ぎました。 

とほ かに だ なに か とう 

ーズん し はこ:,; 通りの 體た しね. 何も彼もお 父さんが なさる の だから、 おとなし くしな けり や あ 

ヽ, - ' 3 > とな リ むすめ し ゐ しじゅう い 

,:>け ません よ。 そり や あお 隣の 娘さん は 芝居へ も 始終 お出でな さる さ。 …… 」 

「芝居なん ぞ見 たく はな いんだ けれど …… 」 

「いえ、 芝居に 限らす さ。 簪だ とか 半襟 だと か、 お前 にゃあ 欲しい もの だらけで もね、 …… 」 

わたし は それ を 開いて ゐる屮 に、 悔やしい の だか 悲しい の だか、 とうとう こぼして しま ひ 

ました。 

「あのねえ、 お さん。 …… わたし はねえ、 …… 何も 欲しい もの はな いんだ けれどね え、 IS あの 

離 お 鞭 樣を寶 る にね え、 …… 」 



252 



ひな さま ひな V- ま う ま、 

「お 雛 様 かえ? お 雛樣を 寶る 前に?」 

は よ い つ そ う お ほ め J 尸 ま み 

!^!は 一 曆 大きい 股に わたしの 顏を 見つめました。 

ひな V- ま う ま、 

「お 雛樣を S る 前にね え、 …… 」 

ヽニ, い I J とたん き み いつま うし た 

わんし はちよ いと 云ひ游 りました。 その 途端に ふと 氣が ついて 兑 ると、 時の にか 後ろに 立 

あに えい. I^TJ ち あに み おろ あ ひか^ら す」 ノソ とん ま を 

つて ゐ るの は:: 儿 の英吉 でございます。 兄 はわた し を 見下しながら、 不相變 Si 贪 にかう 巾し ました。 

1 や また ひな さま とう し.^ わす 

I わ 力ら す屋! 又お 雛樣 のこと だら う? お父さんに 叱られた の を 忘れた のか?」 

「まあ、 好 いぢ や あない か? そんなにがみがみぺ}^はなぃでも。」 

は,".^ - め ± あに ふ.: 一 しャ つづ 

Ej2 はうる ささう に^ を, めぢ ました。 が、 兄 は それ も 聞えぬ やうに 叱り 綾け るので ございます C 

1 T 五に もな つて ゐる 癖に、 ちっと は理 |g も わかり さうな もんだ? 一::! が あんなお 雛樣 位! 惜 

しがり なん ぞ する やつが ある もんか?」 

せわ や にい ひなて-ま 

一 お^話 燒きぢ や! 兄さんのお 雛 樣ぢゃ あな いぢ や あない か?」 

) - - , まし I かへ さき い つ おな ふたことみ - 一とい あ うち 

わたし も 負けす に 云 ひ 返しました。 その 先 は 何時も 同じで ございます。 二言 三 言 云 ひ 介ふ屮 に、 

兄 はわた しの 襟 上を摑 むと、 いきなり 共處へ 引き倒しました。 



てんば 

r お. ふべ! 一 

う 

兄 は 母 さへ 止めなければ、 この f もき つお つぎは 把 g してぎ たで ございませう。 ^ 

. ^レ、 f "う" 力 か ほ ま もた ちへ あ、 あ:: y f 

は 枕の 上に 半 は 頭 を 接げながら、 喘ぎ!^ ぎ を ました。 

「お 鶴が,^ をし や あしまい し、 そんな 目に 遇 はせ る にゃあ!! らな いぢ やあ^、 く 

「だって こいつ はいくら 云っても、 あんまり キ 呼き Is がな. いんです もの。」 

「いいえ、 お 鶴ば かり 憎い のぢゃ あないだ らう? . お I は …… お ま は …… 」 

母は淚 をた めた g、 i やし さう に fi- も SVi もりました。 

まへ : く 

> 「お前 はわた しが 憎い の だら う? さもな けり や あわたし: fel だと f のに、 お 1 を …… お 

離樣甚 りたが つたり、 f ない お i を いぢめ たり、 :•:• そんな こと をす る I はない ぢゃ あない 

力? さ うだらう? それなら なぜ JJIn! いの だか、 」 

「お母さん!」 

兄 は 1 かう 叫ぶ と、 f の に まった なり、 f に i を 醸しました。 そのぎ 幻 f の f だ 

- 時に も、 淚 一 つ 落さなかった, (1 雜 P に 霞して から、 聽, f れる 1、 T£ 



254 



み あに い あに とき すす な はじ 

み を 見せなかった 兄, —— さう 云 ふ 兄が この 時 だけ は 唆り 泣き を 始めた ので ございます。 これ は 

こうふん き はは いぐ わい - はは なが ため 、ャ ま を 二と =1 

興奮し せった 母に も、 意外だった ので ございませう。 母 は 長い 溜,::、 ケ どした ぎり、 申し かけた 言!^ 

ま を いちど まくら 

も 巾 さすに, もう 一度 枕 をして しま ひました。 

I ノ, ォ いちじ かん ほどの ち ひさ み せ かほ だ さかな 

かう 云ふ騷 ぎがあって から、 一 時間 程 後で ございませう。 久しぶりに 兑 せへ 額を屮 Z したの は卷 

や とソ. 、ざ vf^s さかなや い^ん さ. f なや 、ま じんり- リ』 

屋 の德藏 でございます。 いえ、 看屋 では ございません。 以前 は 看 厘で ございま したが、 八,' は 人力 

L や fJ,*\?J で い わか とく ざう を か ± なし 、く 

車の 車夫に なった、 出入りの 若い もので ございます。 この 德藏に は 可笑しい が 幾つあった かわ 

i - なか いまだ おも だ めう じ はなし とく IT,- う ご 、つし ぐ" 二 めう 

力り ません。 その 中で も 未に 思 ひ 出す の は 字の 話で ございます。 藏も やはり 御 一 新 以後、 や S 

-^, I くら ゐ お ほた ば とくが よ 

字 をつ ける ことにな りました が、 どうせつ ける 位なら ばと 大束 をき めた ので ございませう、 へ 似 川 

ま を やくしょ とど で しか しか 

と 申す の をつ ける ことにしました。 ところがお 役所へ 屈け に 出る と、 叱られた の 叱られな いので 

なん とく ざう ま を いま ザる ざ、. か けんまく 

は ございません。 何でも 德藏の 申します に は、 今にも 斬 i 非に され 〈流ね ない 權 It だった さう で ござ 

とべ ざ, つ き らく ぼ たん から じ し ゑ か たう じ t ん りキ- にや ひつば 

います …… その 德藏 が氣樂 さう に、 牡丹に^ 獅 十の 畫を 描いた 當 時の 人力車 を 引 張りながら. 

, みせ さき き またな に ケ おも け ふ キ- やく ざい は 

ぶら りと 見 I 先へ やって 來 ました。 それが 义何 しに 來た のかと 思 ふと、 今日は 客の ない の を 幸 ひ、 

ぢ化、 う ヒん りきし や G ま を あ ひづ ばら れんぐ わ ど? * 七 も 、ただ 

お嬢さん を 人力車に ぉ乘せ 申して、 會 律つ 原から 嫁 瓦 通, りへ でもお 伴 を させて 頂きたい、 11 か 



雛 



255 



ま を . 

う 巾す の で ござい ます。 

「どうす る? お 鹤。」 

, まじめ じんりきしゃ み みせ で かほ ちか こ, J--- ち .. " 

父 はわ ざと 腐 面目 さう に, 人力車 を 見に 見 ぼへ 出て ゐた わたし の^を 眺めました。 八,, 日で は:^ 

t^.Y-f - 力,、 ほ" V 二, ど;.^ よろこ たう じ ちゃう どじ どうし;? r- 

ブ 車に,:^ る ことな ど はさ 程 子供 もま 1: びますまい。 しかし 當 時の わたしたちに は 丁度 自働 車に せ 

もら く..,.,:; ぅホ ±± び や c き ま を -I ヒ , -., ま • J 

て 世;; ふ 位、 嬉しい ことだった ので ございます。 が、 母の 病氣と 巾し、 殊に ああ Tk ふ?? 騒ぎの あつ 

た 直 あとの ことで ございま すから、 J 概に 行きたい とも 巾され ません。 わたし はま だ^ t 湫, つた 

なり、 「行きたい」 と 小聲に 答へ ました。 

「ぢゃ あお 母さん に^いて 來ぃ。 折角 德藏 もさう f ムふ もの だし。」 • 

は カスカ ど ほ め あ ゑ 卜.. ぅヒぅ ま を - 一ら > る 

はわた しの 考へ 通り、 眼 も 明かす に ほほ 笑みながら、 「上等 だね」 と 申しました〕 12^ 池の ぎい 

あに い. あんばい まる さ で る す な >f や- -き ? 

兄 は: い 梅に、 丸^へ 出かけた 留守で ございます。 わたし は^いたの も 忘れた やうに、 1}^^::^ 

力 車に 飛び 乘 りました。 赤毛布 を膝铜 けにした、 ^のがら がらと 鳴る 人力車に。 

I ム{ ;^」 み 1 ある け —き ま を あ ひつえう ただいま 十-なし で とく V.J- つ 

そ の 時 見 て 步 」, た 景色な ど は 中し 上げる 必要 も ご ざ い ます ま い 。 唯な マ でも „lj ^に 3=- るり よお 一 の 

- -I とく ざう の まま れんぐ わ ,;:; まど ま >- - ^ 3 V 二 3 

不平で ございます。 德藏 はわた しを乘 せた 儘、 炼瓦の 大通ゲ にさし かかる が 4^ いか、 "Isi のき M 



256 



を乘 せた 馬車と まともに 衝突し かかりました。 それ はやつ と 助, かりまし たが、 i^JSI しさう に ギ£;: 

ま を 

ち をす ると、 こんな こと をホ すので ございます。 

「どうもい けね え。 お嬢さん は あんまり 輕 過ぎる から、 肝肾の 足が ぎん 止ら X- え。 …… ぉ^^0ん。 

^ご 1 "ヽ f*;* や: 、はい, はたち まへ くるま つ 

乘 せる 車屋- 可哀 さう だから、 一 一十 前 にゃあ 車へ ぉ乘ん なさん なよ。」 

じんりきしゃ れズぐ わ お ほど ほ いへ ま う よこち. 、う まが とち,: つ- ち 5: .--r ち 

人ナ車 は- 瓦の 大通りから、 家の 方へ 橫町 を:^ りました。 すると 忽ち 屮 II つたの は の i が士 :! で 

ございます。 兄 は 煤 竹の 柄の ついた § ざ ランプ を ー臺 さげた 儘、 oii ぎ? 止に! _ハ^| を" I いて, り まし 

Jo し、/ r \ す 力た み ま ま を あ? V つ あ 

ん それ 力, Q たしの 姿 を 見る と 、「待て」 と 中す 相 岡で ございませう、 ラ ンプを さし 舉げ るので ご 

V I , まへ とくさう かぢ ぼう あこ ,1-^ う く \リま よ & 

さレ ます か もう その 前に 德藏 はぐる りと 梶棒 を ま はしながら、 n 力の, 方へ 車 を 寄せて 居り まし 

た、) 

「御 苦勞 たね。 德 さん。 何處へ 行つ たんだい?」 . 

1 ゝ * やに、 け ふ ぢ やう え ど けんぶつ 

一へ え 何 今日はお 孃 さんの 江戶 見物です。」 , 

あに く せう も じんり さ-しゃ ぞズ あ fg' よ 

兄 は 苦笑 を:^ らしながら、 人力車の 側へ 歩み寄りました。 

つ/^ まへ ざき も い あぶら.? •: b 

「お 鶴。 お前、 先へ この ランプ を 持って行って くれ。 わたし は 汕屋へ 力.? つて 行く から O I 



^ わたし はさつ きの 喧嘩の 手前、 わざと 何とも g 駢 をせ すに、 i ランプ だけ けがり ました。 は」 

は それなり 歩き かけ ましたが、 S に ま 又た こちらへ!: き ると、 1^ りかし 4 のど けにて 手 を かけながら、 

つる ま を 

I お 鶴」 と 申す ので ございます。 • . 

つる まへ また とう ひな さま 

「お 御 お前、 又お 父さんに ぉ雛樣 のこと なん ぞ云 ふん ぢゃ あない ぞ c」 

だま を . 

わたし は それでも 默 つて 居りました。 あんなに わたし を いぢめ た m に、 ま ^ かと II つたので ござ 

ヽ D +" に とん ぢ やく こ こ ゑ こと f つづ , 

レ ます しかし 兄 は 頓着せ すに、 小 聲の言 紫を績 けました。 

とうみ 1 てつ 

「お父さんが 見ち や あいけ ない と 云 ふの は 手附け をと つたから ばかり ぢゃ あない ぞ。 2^ り や あ 7.- 

, み, れん で そこ かんが 

ん なに 未 i 力 出る、 —— 其 處も考 へて ゐ るんだ ぞ。 かいか? わかった か? わかったら、 もう 

みなん い 

さっきの やうに 見たい の 何のと 云 ふん ぢゃ あない ぞ。 I 

あに こる S なか 、つ ,、-p う , / 

わたし は 兄の 聲の 中に 何時にない 情 あ ひ をき ちました。 が、 おの^ ir 仏め ^な Mi んは ございま 

せん。 優しい f 出した かと, と、 ,はま 又た ふだんの f り、 iiiQ たし を i 力す やうに かう まもす 

の でございます。 

W 「そり や あ 云 ひたけ り や あ 云って も^い。 そのお り g い に li はされ ると II へ。」 



258 



兄 は 體に云 ひ 放った なり、 德藏 にも 挨拶 も 何もせ すに、 さっさと 何處 かへ (び つてし まひ まし 

た。 

, > げ:^ 、 、 、 よ にん ど ざう なか ゆ ふ はん ぜん か 二 もつ-と ヱよ 

その 晚の ことで ございます。 わたしたち 人 は 土藏の 中に、 夕飯の 膳を圍 みました。 尤も^ は 

枕の 上に 顏を擧 げた だけで ございま すから、 圍ん だものの ずに はは ひりません。 しかし その 晚の 

ゆ ふ P ん い つ, X き まも まで うすぐら む ;-ん と. つ かよ 

夕敏は 何時もより 花やかな 氣 がしました。 それ は 申す 迄 も ございません。 あの 薄暗い 無 g4 燈の 代, 

、 こんや 一 、あたら ■ ひかり かがや あに しょくじ ま 

りに 今夜 はぎし ぃラ ンプ の 光が 輝いて ゐ るからで ございます。 兄 やわた し は 食事の あ ひ も、 

ときどき なが せきゆ す ガ ラ ス つ £ うご ま まも ま や * 

時時 ランプ を 眺めました。 石油 を 透かした 础 子の 壺、 動かない 焰を 守った 火屋、 11 さう 云 ふ も 

うつく み めづら なが 

の の 美し さに 滿 ちた 珍しい ランプ を 眺めました。 

あか ひる 

「明るい な。 晝の やう だな。」 

.1 りち はは み まん ぞ: ま を 

父 も 母 を かへ り 見ながら、 滿 足さう に 申しました。 

「眩し 過ぎる 位です ね^ 、 

ま を はは ほ とん ふ あん ちか いろ 5^ 

かう 申した 母の 額に は、 殆ど 不安に 近い 色が 浮んで ゐ たもので ございます。 

む じん,, 一う な いちど む じんこう 

「そり や ぁ無盡 燈に惯 れてゐ たから …… だが 一度 ランプ をつ けち や あ、 もう 無盡 S はつ けられな 



259 

兄き i^l こ 



はじめ まぶす 、、一, ,, う : 、 > • 

も始は 眩し 過ぎ るんで すよ。 ランプで も、 西洋の 問で も、 :•:• I 

よりも はしゃい で 居りました。 • 

な i ?ー. 

「それでも!^ れりゃ あ 同じ ことです よ。 今にき つと この ラ ンプも 暗い と.? :4 ふ!' が % るんで す。 - 

「大きに そんな もの かも 知れない。 …… お 鶴。 お 仏刖、 お母さんの おも I はどうし たんだ?」 

か あ こんや たくさん 

「お母さん は 今夜 は澤 山なん です つ て。」 

はは い とほ なん き へん-、 - 

わたし は 母の 云った 通り、 何の 氣も なしに 返事 をし ました。 

こま しょく ナ 

「困った な。 ちっとも 食氣 がない のかい?」 

m は ちち たづ し かた ヒふ" き 

母 は 父に 尋ねられ ると, 仕方がな ささう に 溜 息をしました。 . 

1 、 . ^ん、 、 せきゆ に ほひ きうへ ノじ. :} しよ-つ こ 

1 ええ 何だか この 石油の 勻が、 …… 舊弊 人の 證據 です ね。」 

- ン、 こ 上ば f はし うご つづ よよ ihs 

それ きりわた したち は 言葉 少なに、 箸ば かり 動かし 績 けました。 しかし 5" はぎ ひ 1^ したやう こ、 

ときどき あか ま , : 

時時 ラ ンプの 明るい こと を 褒めて ゐ たやう でございます。 あの 4: れ 上つ,^、 齢が 上に も £ 夭 つらし い 

もの さへ 浮べながら。 



ばん みな やす じふい ちじ . す ム, ュ 

その 晚も皆 休んだ の は 十 一 時 過ぎで ございます。. しかし わたし は 眼 をつ ぶっても、 銜^_.^に?.-っ 

で き あに • ひな -. ど 1 まや」 J 

くこと が出來 ません。 兄 はわた しに 雛の こと は 二度と 云 ふなと 申しました。 わたし も暫 を, して 

見る の は出來 ない 相談と あきらめて 居ります。 が、 屮:: して 見たい こと はさつ きと 1^ 入し も IU ませ 

ひな あした V- い n とほ . ,- > ^ 

ん 銻は 明日に なった が::: 取 後、 遠い ところへ 行って しま ふ、 —— さう ぎへば つぶった, ばの I- にも、 

し ぜ; ~ なみだ ■ き いつ ね ,. つち ..C み 

自然と 淚が たまって 來 ます。 一 そ みんなの 寐てゐ る 巾に、 そっと 一人 出して; 3- ようか? n さう 

も わたし は考 へて 見ました。 それとも あの 中. の 一 つ だけ、 何處か^;カへ1して&かぅか? さう 

また かんが み み 5 

も 亦 わたし は考へ て 見ました。 しかし どちらも 見つかったら、 —— と 思 ふと さすがに ひるんで し 

しゃ うぢ々」 f んメヽ ら-っ .^f^JJr リ 、ソ: ;に 

まひます < わたし は 正直に その 晚位、 いろいろ 恐し いことば かり 考 へた 1^ え は ございません。 :^;! 

や いちど くわ じ い ひとで ゎヒ まへ 、-、 j: 

夜もう 一度 火事が あれば 好い。 さう すれば 人 乎に 渡らぬ 前に、 すっかり i も燒 けて しま ふ。 さも 

アメリカじん あたま は まる さ しゅじん .• 

なければ 亞米利 加 人 も 頭の 秀 げた 丸 佐の 主人 もコ レラ になって しまへば い。 さぅすれば^は^^ , 

處へ もやら すに、 この^ 大事に する ことが 出來 る。 II そんな 空想 も 浮んで 织 ります。 が、 まだ 

なん ま を そ 二 こ ども 、ちじかん うち 1 つ X. 

何と 中しても、 其處は 子供で ございま すから、 一時間た つかた たない 中に、 :!: 時 かう とうと g つ 

2 てし まひました。 



^ それから どの位た ちました か、 ふと i りが さめて sf- ますと、 i す 一 I らい tms をと もし ヒゼ S に II か 

人の 起きて ゐる らしい 物音が 聞」 える ので ございます。 ifi, しら、 うかしら、 はもう けに 

なった のか しら? —— わたし は どちら かと 迷 ひながら、. ST つ. II、 つ 減 1 を I- いて- ました。 すると 

) , まくら ねまき まま ちち ひとり よ,〕 パま .1. r ? 

わたしの 枕 もとに は、 寢 間 着の 儘の 父. がー 人、 こちらへ 橫颜, を 向けながら、 超って ゐ るので ござ 

います。 父が T しかし わたし を 驚かせた の は 父ば かりで は ございません。 の i に はわた し 

の 雛が、 お 節句 以來 貝な かつ た 雛が 竝 ベ 立てて あるので ござい ます。 

め fto ^ お f „ ま を い とき えと,? . I . し . 

^^;夕,カと田.---と申すのはぁぁ云ふ時でござぃませぅ。 わたし は殆 £0iT つかす に、 この 思, を 

見 IT り まし. た。 覺 束ない 行燈の 光の 中に、 象% の, 凝 を かまへ た Ife を、" f% の. g 船 を I れた f ま を、 

5^;^ の 橘ピ、 _ の glr 1 ^の^いが 餌を嫩 いだ IIP を、 |?^^に|^を網げた|^:^^、 さい 

ii の を、 ^lii しの «im を、 l^f を、 き p、 ぉ縱の fE^、 さう してお の 

よこが ほ 

横顔 を、 

ゆ ど おも ま を せ-へ まし- - つ- 

夢 力と ュと 申す の は、 …… ああ、 それ はもう 前に 中し 上げました。 が、 ほんた うに あの の 

. 翻 は 夢だった ので ございませ うか? 一岡に 維 を 見たがった 餘り、 知らす 識ら すつ i り ぼし.^, ST で 



262 



はなかった ので ございませ うか? わたし は 未に どうかす ると、 わたし 自身に もほんた うか どう 

か、 返答に 困る ので ござ. います。 

ノ- よ 51 ひと ひな なが とし ちち つ,^ 

し 力し わたし は あの 夜更けに、 獨り雛 を 眺めて ゐる、 年と つた 父 を 見かけました。 これ だけ は 

たし ,^っ ,.、 J , えん 、 ; 

破 かで ございます。 さう すれば たと ひ 夢に しても、 別段 悔やしい と は i あ ひま 4,J ん。 こ: ST わ t し 

ま 十二 I ハ. H 4^ ち. < フ ■ 

は 服の あたりに、 わたしと 少しも 變ら ない 父 を 見た ので ございま すから、 ダダ しい、 …… そのお 

おごそかな 父 を 見た ので ございま すから。 

ひ. な はなし か なんねん まへ -ま. 5- ち i 含た , わ. 

I の 話 を 書き かけた の は 何年 か 前の ことで ある。 それ をケ 書き上げ たの は,: n 氏の: i め こよ 

どうじ またし ご にち まへ よこ はま ある ィ ギリス じん き JC, くま 、.i る, >」< /、,. ノ ... i つつ - メ 

るの みで はない。 同時に 又 S 五日 前、 橫濱の 或 英吉利 人の 客間に、 .k* の;^ を ign^ にして ゐる S 

ザの 童女に 遇った からで ある。 今 はこの 話に!: てお る M も、 |,ゅ^1|隊ゃゴムの5;^艇""一とっ^ぉ^ 

に 投げ こまれながら、 同じ 憂き め を 見て ゐ るの かも 知れない。 

, . OKlii 十二 年 二月.) 



猿 蟹合戰 - .., 



264 



蟹の 握り飯 を 奪った はとよ とう il に^^ &られ た。 は i、 赠ピ I- に、 li 齢の ii を g し 

はなし I" まさら よ たださる し と ち .A 二 I. ZJ う レ 

たので ある。 . I その 話 は 今更し ないでも 好い。 唯 猿 を 仕 止めた 後、 蟹 を 始め 同志の もの はどう 

云 ふ 蓮 命に 逢着した か、 それ を 話す こと は 必要で ある。 なぜと 云へば おぎ 噺は, がお 1 この こと は 1 

\r メ, ゝヽ 、 r -、. H は-, あたか かに あな なか うす だいどころ ど ま すみ よ ち つ き 

して ゐ ない。 いや、 話して ゐ ないど ころ か、 恰も 蟹 は 穴の 中に、 臼は臺 所の 土 の 隅に、 ^は g 

は .,1.- > す-, 、 .^5 ,J みがら はこ なか たいへいぶ じ しゃう がい おく ぶ-そま 

先の 蜂の 巢に、 卵 は 籾殼の 箱の 巾に、 太平 無事な 生涯で も 送った かの やうに 裝 クてゐ る。 

^ J ^ . ノ t にり かれら- かたき と のち けいくわん ほ f こと-ご AJ くかん?、 とう 

し 力し それ は 偽で ある〕 彼等 は 仇 を 取った 後、 警官の 捕縛す ると ころと なり、 悉 監 i に投ぜ 

られ た。 しかもき を K ねたき、 si は &ま になり、 ¥ 1、 囊の 鍵が!ーぎぎ娜 の S 

- 9' : ) : .^ぎ ばな し し ど,、 しゃ い かれら うんり、. くわ: か ねし b 

を 受けた ので ある。 あ 伽^の みし か 知らない 讀者 はかう 云 ふ 彼等の 運命に、 怪.. 針の 念 を 持つ かも 

知れない。 が、 これ は事實 である。 寸 毫も 疑 ひの ない 事實 である。 

. ^に: ht 广、 じ ん せん にぎ めし ..^ き かう くわん V. る じゅくし あた あ をに クさ あた 

蟹 は 蟹 自身の 言に よれば、 握り飯と 称と 交換した。 が、 猿 は 熟 柹を與 へす、 靑姊 ばかり 與 へた . 



戰合 蟹お さ 



265 



かに しゃう がい く は かさ な L かに い? る 

のみ か、 蟹に 傷害 を 加へ る やうに、 さんざん その 柹を 投げつ けたと 云 ふ。 しかし 蟹 は 猿との に、 

いっつう しようしょ とか また ふもん ふ にぎ めし かき .i- うく わ,; > . 

一通の 證書も 取り 換 はして ゐな い。 よし 又 それ は 不問に 附 しても、 握り飯と柹と交換したと11^ひ、 

熟 柹とは 特に 斷 つて ゐ ない。 取 後に 靑柹を 投げつ けられた と 云 ふの も、 猿に 惡意 があった かどう 

へん しょうこ ふ じふ ぶん かに べんご た ゆうべん な た. A y う べんご し さ、 „H し 

か、 その 邊の 證據は 不十分で ある。 だから 蟹の 辯 護に 立った、 雄 辯の 名の 高い 某 辯護士 も、 ^1: 

くわん どうじ やう こ ほか さく い し べん- *) し ず Ji- ヽ 

官の 同情 を 乞 ふより 外に、 策の 出づ ると ころ を 知らなかった らしい。 その 辯 護 士は氣 の 毒 さう に、 

力に あわ ぬぐ たま い もっと たま 

蟹の 泡 を 拭って やりながら T あ き ら め 給へ」 と 云った さう である。 尤も こ の 「あきらめ 給 へ 」 は、 

し けい せんこく くだ たま い ベく-ご し た 

死刑の 宣告 を 下された こと を あきらめ 給 へと 云った の だか、 辯 護士に 大金 を とられた こと を あき 

たま い たれ けっていで き 

らめ 給へ と 云った の だか、 それ は 誰に も 決定 出來 ない。 

うへ しんぶん ざっし よ ろん . ^に どうじ やう よ -ょ とん ひと .A-- 

その上 新閱雜 誌の 輿論 も、 蟹に 同情 を 寄せた もの は 殆ど 一 つもなかった やうで ある。 解^ の を 

パヌ〕 . . し、 ふん, ^:;っく;^- ほ, か し ふん お C れ む ち けいそつ さる り えき 

殺した の は 私 S の t.im^ に 外なら ない。 しかも その 私憤た る や、 己の 無知と 輕率 とから 猿に 利益 を 

し , いまいま いうし よ-つれ つばい よなか いし ふん も 

占められ たの を 忌忌しが つた だけで はない か? 優勝劣敗の f の 中に かう 云 ふ私愤 を;^ らす とす 

ノ、 . ぐ、 丄ゃ き や, しゃ い ひ なん お ほ げん しゃ うげ ふく わ、;.,. 一し よく わ > とう 

れば 愚者に あら すん ば 狂者で ある〕 —— と 云 ふ 非難が 多かった らしい。 現に 商業 會議 所會頭 

ぼろ だんし りく ごと だいたい かみ い けん とも かに V」 る ころ た ^-3 りう 加う 今- ナ しし さ う 

廿术 w^t: の 如き は大體 上の やうな 意見と 共に、 蟹の 猿 を 殺した の も 多少 は 流行の 危^思想に かぶれ 



二 } -、 ) "s,^ だ にん , -「 - かに かたきう い らい ^うだん しゃく さう し ま.^ f? 

たので あらう と 論!! した。 そのせ ゐか 蟹の 仇 打ち 以來、 某 男爵 は壯士 の^に も、 ブルドッグ を:^ 

とうか 

頭 飼った さう である。 . 

かつまた.. いに かたきう いは ゆるしき しゃ あ ひだ いっかう かう ひやう はく だ-がくす う じ a まうよ^ 古 9 y : ■ : n う 

0^ 叉 蟹の 仇 打ち は 所謂 識者の 問に も、 丁: E 好評 を 博さなかった。 4^學敎校^:水1:士は4|,玑飒门上の 

けズち . ^に ざる ころ ふくしう い し で ふくしう どん し-、 う が こ 、 

見地から、 蟹の 猿 を 殺した のは復 響の 意志に 出た ものである、 復響は善と稱し^ぃと!!^った。 そ 

し.;: 1-,、 わ L しゅ ジ -i ぼうし W: りゃう かに かき にぎ めし い し いう ざ * さん ち リ^た よ- ク 

れ 力ら 社會 主義の 某 首領 は 蟹は柹 とか 握り飯と か 云 ふ 私有財産 を 難 有が つて ゐ たから、 ^^ゃ峰ゃ 

たまつ) はんどうてきし さう も 二と しり" P こく- リ \ ノ > , 

卵な ども 反動的 思想 を 持つ てゐ たので あらう、 事によると 尻押し をした の は 國粹ノ ゆが も 知, ない 

い 【一な つし ゆう くわん ちゃう ぼうし かに ぶつじ ひ し .Ir \i バ t 二 

と 云った。 それから 某宗の 管長 某師は 蟹は怫 慈悲 を 知らなかった らしい、 たと ひき 袱を ぼげ つ 

、;ク じ ひ し さる しょげ ふ にく .f よ へ 

けられた としても、 佛 慈悲 を 知って ゐ さへ すれば、 猿の 所業 を 憎む 化り に、 反って それ をぎ: e だ 

おも いちど い 卟- つ +^ う. や- . 

であらう。 ああ、 思へば 一度で も 好い から、 わたしの 說 敎を聽 かせたかった と r ェ つた C それから 

-;, "く はう めん ひひ やう めいし かに か/一き う ヽ, ?, ?.. . -. 

11 まだ 各方 面に いろいろ 批評す る 名士 はあった が、 いづれ も 蟹の 仇 打ちに は不赞 i| の 藤ば かり 

Ml 13 ^ . なか ひとり かに ため き は しゅがう けんし じん つ だ > ぎ し ビ •? 

たった。 さう 云 ふ 中に たった 一人、 蟹の 爲に氣 を 吐いた の は 酒豪 兼 詩人の 某 代議 十で ある。 化議 

し 力に 力た きう ぶ し だう 丄- いしん いっち 、 二 50、". ノ、 ぎろん だ L 

士は 蟹の 仇 打ち は 武士道の 精神と 一 致す ると 云った。 しかし こんな 時 isll れの 議論 は あ. の J:^ にも 

と *J* y しズ 、やん だいぎ し すうね ぐ、, どぐ どうぶつ, a!/;> ぶつち う 

止る 害 はない。 のみなら す 新聞の ゴシップに よると、 その 代議士 は數年 以前、 動物 陶を 物 巾、 



戰合蟹 猿 



267 



猿に 尿 を かけられ たこと を 遺恨に 思って ゐ たさう である。 

.^-1 なし 化く,^ や かな かに うんめい どうじ やう なみ だ おと し い, J し 

あ 伽^し か 知らない 讀者 は、 悲しい 蟹の 運命に 同情の 淚を 落す かも 知れない。 しかし 蟹の 死 は 

たう ザん き ど,、 おも ふ ぢ よど-つえう ^ 

當然 である C それ を 祭の 毒に 思 ひな どす るの は、 婦女 童 幼の セン ティ メンタ リズムに i ぎない。 

天下 は 蟹の 死を是 なりと した。 現に 死刑の 行 はれた^、 f^、 g ま、 p^. 化 死 «im が 

け. 5^ くわいし とう し じふ はち じ かん;^ ゆて すゐ うへ みな ゆ 6 てん-, ブ、 も,, > ; r ^ 

敎誨^ 等 は 四十 八 時間 熟睡した さう である。 その上 皆 夢の 中に、 天 國の門 を 見た さう である。 ん 

國は 彼等の 話に よると、 封建時代 のまに 似た デパァ トメ ント. ストアら しい。 

次 乎に 蟹の 死んだ 後、 蟹の 家庭 はどうし たか、 それ も 少し 書いて & きたい。 h の は I ル笑, に 

' ) :3 ) -ど」 つせ, ひんこん ため か Q ぢ よじ しん せいじゃう ため ?二だ はん ぜ,. ? .^-こ ち .t>.r な,; 

なった。 なった 動機 は 貧困の 爲か、 彼女 自身の 性情の 爲か、 どちら か 未に^ 然しない。 ^の iKE^ 

, /、rr > ぼつ/に、 ん: ざつ.: に よつ 二 つか ほんぜん こころ ちらた いま なん あるか や f ん とう 

は 父の 沒後 ぎ 聞雜詰 の 用語 を 使 ふと 、「飜 然 と 心 を 改めた。」 今 は 何でも 或^ 屋 のず 頭 か かし て 

L おに おる とき じ ぶん あな どうる ゐ にノ、 く ため け に, な ひ. i ^, 

ゐ ると 云- -。 この 蟹 は 或 時 自分の 穴へ、 同類の 肉 を 食ふ爲 に、 怪我 をした 仲 問 を 引きす りこんだ U 

V リ 「ご ?; ; II よろん なか かに どうる-ぬ いた は 、じつり"' ひ 、: J XV 

クロ ホト キンが 相互扶^ 論の 中に, 蟹 も 同類 を劬 ると 云 ふ 實例を 引いた の はこの 解か 、である。 次 

の 蟹 は小說 家に なった。 勿論 小說 家の こと だから、 女に 惚れる ポは 何もし ない。^ 1^: ^鍵の Y お i 

に、 善 は惡の 異名で あるな どと、 ^い 加減, な 皮^ を 並べて ゐる。 一一 1 男の 蟹 は^, # だった から、 



蟹より 外の ものに なれなかった。 それが 橫這 ひに 歩いて ゐ ると、 滅 り が T つぎち てゐ た。 I り 

飯 は 彼の 好物だった。 « は?! きい^が にこの を!! ひ た。 すると _|ぃ^ のがの 術^^ ピ 

と、 さる いっぴ ま さき はな ひつえう 

取って ゐた 猿が 一 匹、 - 1 - その 先 は 話す 必要 は あるまい。 

と かくさる たたか さい-ご かに かなら すてん か ため ころ じ- C ^ . 

鬼に 角 猿と 戰 つたが 最後, 蟹 は 必 天下の 爲に 殺される こと だけ は 事 である。 一 を 1^ での 

しゃ よ きみ たいてい. A に 

者に 寄す。 君た ち も 大抵 蟹なん です よ。 

(大: 止 十二 年 二月) 



を G こ まち きち やう かず ざう し よ 

V 野の 小町、 儿 帳の 陰に 草紙 を讀 んでゐ る。 S ハ まへ i 難ぎ ivif 。 

、 か i" の 3 みみ うさき みみ 

い 若者。 しかも 耳 は の 耳で ある。 

こ まち ,:,. どろ た I 

小町 (箭 きながら) 誰です、 あなた は? 

つか ひ よ み つ. かひ 

使 黄泉の 使です。 

こ まち よ み つか ひ ) 

町 黄泉の 使! ではもう わたし は 死ぬ のです か? もうこの $1 に は ゐられ ない のです, ハ? 

ナニ ま ノ、 だ : ぐ、, -.' 

まあ. 少し 待って 下さい。 わたし はま だつ 一七 T です。 まだ ir しい^り なのです。 どうか 聯け 

て 下さい。 

使 いけません。 ゎたしは 一 天萬乘の|{;5"でもー|^^,3なぃ^5:-のです。 

こ まち なさけ し » 

小町 あなた は 情.^ 知らないので すか? わたしが ケ 死んで なさい。 のお- l^f, どうす 

やうし やう やく J,\J く てし-わ V 

るで せう? わたし は 少將と 約 来しました。 天に 在って は- f まの m、 ^に^って は g きの ¥ I 



町 小人 二 



271 



—ああ、 あの 約束 を 田ん ふだけ でも、 わたしの 胸 は 張り裂ける やうです。 少^ はわた しのがんだ こ 

き なず じこ し 

と を 聞けば、 きっと 歎き 死に 死んで しま ふでせ う。 

ひ ヽ rN /なせ じに でき し あは と か-、 -ちど こ ひ 

仗 (つまらな さう に)? き 死が 出 來れば 仕 合せです、」 鬼に 角 一度 は戀 された のです から、 …… 

し 力し そんな こと はどうで もよ ろしい。 さあ 地獄へ お 半し ませう。 

こ まち 一 

小町 いけません。 いけません。 あなた はま だ 知らないので すか? わたし は 1 の i ザ はあり 

ません。 もう 少將の 胤 を 宿して ゐ るので す。 わたしが 今 死ぬ とすれば、 ^!,^も、 1 . う 11- いわた 

こ ども いっし r" 

しの 子供 も 一 しょに 死ななければ なりません。 (泣きながら)ぁなたはそれでも好ぃと||^ふのです 

やみ やみ こ ども . 

力? 閬 から 闇へ 子供 を やっても、 かま はない と 云 ふので すか? 

使 (ひるみながら) それ は お子さんに はお 氣の 毒です。 しかし 閥 魔王の? i がです から、 どうか 

一し よに 來て 下さい。 何、 地獄 も考 へる 程、 悪い ところではありません。 Is.;^ ら^^い,、;;^ や:;,^ 

子 は 大抵 地獄へ つて ゐ ます。 

小町 あなた は 鬼です。 羅 刹です。 わたしが 死ねば 少將も 死にます。 が々 が^の;^, g も. 死に ま 

さんにん し 〉 

i 三ス ともみん な 死んで しま ひます。 いえ、 それば かりではありません。 年とったゎ.^クレの父 



272 



±1 いつ し いっそうな ご- <>5 た H み つか ひ 

や 母 もき つと 一 しょに 死んで しま ひます。 ( 一 &! 泣き 聲を 立てながら) わたし は 黄泉の 使で も、 も 

す こ やさ おも 

う 少し 優しい と 思って ゐ ました。 

つか ひ めいわく たす ま を 

使 (迷惑 さう に) わたし はお 助け 申したい のです が …… 

こ まち いかへ かほ あ たす くだ ?ー ねん じふ ねん 

小町 (生き返った やうに 顏を 上げながら) では どうか 助けて 下さい。 五 年で も 十 年で も かま ひ 

ヒ ゆみやう の くだ t ご ねん じふ ねん こ ども せいじん 

ません。 どうか わたしの 壽命を 延ばして 下さい。 たった 五 年、 たった 十 年、 11 子供 さへ 成人す 

れぱ 好い のです。 それでも いけない と 云 ふので すか? 

つか ひ ねんげん い か は ひとり い 

使 さあ、 年限 はかま はない のです が、 11 しかし あなた を つれて 行かなければ 代りが 一人 入 

おな と LI ごろ 

るので す。 あなたと 同じ年 頃の、 …… 

こ まち こ-つ ふん たれ い くだ めしつか をん な なか おな とし 

小町 (興奮しながら) では 誰でも つれて 行って 下さい。 わたしの 召使 ひの 女の 中に も、 同じ年 

をん な に さんにん あこぎ こまつ き い い くだ 

の 女 は 二三 人ゐ ます。 阿漕で も 小 松で も かま ひません。 あなたの 氣に 人った の を つれて 行って 下 

さい。 

つか ひ なまへ こまちい 

使 いや、 名前 も あなたの やうに 小町と 云 はなければ いけない のです。 

こ まち こ まち たれ 二 まち い ひと ほっさ て 今 わら 

小町 小町! 誰か 小町と 云 ふ 人はゐ なかった かしら。 ああ、 ゐ ます。 ゐ ます。 (發作 的に 笑 ひ 



町 小人 二 



273 



だ たまつ,、 り こ まち い ひと ひと か は くだ 

出しながら) 玉 造の 小町と 云 ふ 人が ゐ ます。 あの人 を 代りに つれて 行って 下さい。 

つか ひとし おな くら ゐ 

使 年 も あなたと 同じ 位です か? . 

こ まち ちゃ うどおな くら ゐ ただき れい 今り やう 

小町 ええ, 丁度 同じ 位です。 唯 綺麗ではありません が、 . —— 器量な ど はどうで も かま はない 

のでせ う? 

つか ひ あいそ わる はう よ どうじ やう 

使 (愛想よ く) 惡ぃ 方が 好い のです。 同情し すに すみます から。 

こ、 まち ,, い, い, ひとい もら くだ ひと よ ち ,-7、 

小町 . (生き生きと) では あの人に 行って 赏 つて 下さい。 あの人 はこの f にゐ るよりも、 地獄に 

ナ い たれ あ ひと 

住みたい と 云って ゐ ます。 誰も 逢 ふ 人が ゐな いもので すから。 

つか ひ ひと ゆ こだい じ くだ 上く と,、 よ み 

使 よろしい。 その 人 を つれて 行き ませう。 ではお 子さん を 大事に して 下さい。 (^^と) 黄 C 水 

つか ひ なさけ こころえ 

の 使 も 情 だけ は 心得て ゐる つもりな のです。 

つか ひ とつぜん またき う 

使、 突然 又 消え失せる。 

こ まち たす ひ ごろし んヒん かみ ほと は よか C あ. H 

小町 ああ、 やっと 助かった! これ も 日頃 信心す る 神ゃ佛 のお 計ら ひで あらう" (乎 を 介せ 

や ほよ ろづ かみがみ. じ っぽう しょ ぼ さつ うそ i 

る) 八 百 萬の 神神、 十 方の 諸 菩薩、 どうか この 嘘の 剝げ ませぬ やうに。 



274 



二 

よ み つか ひ たまつ くり 二 まち t お . あん け つおう ある く 

黄泉の 使、 玉 造の 小町 を 背負 ひながら、 闇 穴 道を步 いて 來る。 

こ まち ヘピ ニキり ごん. -I だ どこ ゆ どこ ゆ 

小町 (金 切, 聲を 出しながら) 何處 へ 行く のです? 何處 へ 行く のです? 

つか ひ ぢ っフ、 ゆ 

使 地獄へ 行く のです。 

こ まち ぢ っフ、 はす げん き C ふ あ ベ せいめい じゅみ やう はち じふろ: い 

小町 地獄へ! そんな 暂 はありません。 現に 昨日 安倍の 晴明も 壽命は 八 I- 六と 云って ゐ まし 

た。 

つか ひ おんみ やう.、 し -っそ 

吏 そ は 陰陽師の 嘘で せう。 

こ まち うそ あべ せいめい い なん あた , . S . 

小町 いいえ、 嘘ではありません。 安倍の 晴 明の 一 ム ふこと は 何でも ちゃんと 當 るので す あな 

うそ へんじ 二 ま 

たこ そ 嘘 をつ いて ゐ るので せう。 そら、 返事に 困って ゐ るではありません か? 

つか ひ ど,、 は 二 しゃ うぢき 

使 (獨 白) どうも おれ は 正直す ぎる やう だ。 

こ まち ベ- * つ ヒゃぅ .H しゃ うぢき はく ヒ やう 

小町 まだ 强情を 張る つ. もりな のです か? さあ, 正直に 白狀 してお しま ひなさい." 

つ. A ひ じつ どく 

使 實は あなたに はお 氣の 毒です が、 ::: 



こ まち お も .? どく 

巧 wm. そんな こと だら うと 思って ゐ ました。 「お ケ凇の 毒です が、」 どうした のです? 

2 つか ひ を C こ まち か は ぢ -ザ、 お 

使 あなた は 小 野の 小町の 代りに 地獄へ 墮ち る こ と になつ た のです。 

一一 まち を 二 まち か は ま.; 一 "つ-た." 

小町 小 野の 小町の 代りに! それ は 又 一 體 どうしたん です? 

つか ひ ひと いまみ も ふかく さ i- うし やう ち a 

使 あの人 は 今 身持ち ださう です。 深 草の 少將の 1 とか を、 …… 

こ まち ふ/きん おも うそ 4- - - 

小町 (W 然と: > それ を ほんた うだと 思った のです か? 嘘です よ。 あなた! §illlHl!J も あ 

ひと ももよ がよ く. r? ゐ さう. (や-つ ね やど お , 

の 人のと ころへ 百 夜 通 ひ をして ゐる 位です もの。 少將の 胤 を 宿す の はおろ か、 逢った こと さへ f 

^ - うそ うそ まつ.. ク . うそ 

度 も あり はしません。 嘘 も、 噓も、 腐 赤な 嘘です よ! 

つか ひ まっか うそ 

使 眞 赤な^? そんな こと はま さかないで せう" 

こ まち たれ ふ- こ らん ふか,、 さ >ぃ つ—,:^ う S もよ パょ > * - > 

" 小町 では 誰に でも 聞いて 御覺 なさい 。深 草の 少將の 百夜 通 ひと ヨ へば、, 下司の 一: ,でも 知つ. 

てゐ る: S じす。 それ を あなた は 嘘と も 思 はすに、 …… あの人の 代りに わたしの が Kr」、 ::: ひどい。 

な はじ 

ひどい。 ひどい。 (泣き 始める) 

^ 使 泣いて はいけ ません。 泣く こと は^もな いのです よ。 dng から が^^ を^す) あなた 

は 始終 この 世よりも、 地獄に 住みたがって ゐ たでせ う。 して 見れば わたしの 欺され たの は、 ぎ 



て 什 合せ で はありません か? 

こ まち か たれ I 

小町 (嚼 みつき さう に) 誰が そんな こと を 云った のです? 

つか ひお お をの こ まち 

使 (怯 づ怯づ ) やっぱり さっき 小 野の 小町が …… . 

こ まら よん - づぅづ う ひと うそ きうび さ. - つね & とこ か ^^J^^^c 

小町 まあ、 何と 云 ふ 11 圖 しい 人 だ! 噓 つき,. 九 尾の 狐! 男たら し! り T. 尼大 5^! 

こんど かほ あは さいご のどぶえ ^ C / 

おひきす り! もうもうもう、 今度 額 を 合せた が 最後、 きっと 喉^に 嚼 みついて やる 力ら ロ^. 

しい。 口惜しい。 口惜しい。 (黄泉の 使 を こづき ま はす) - 

つ 1 -1' ま,、 や J なにし て 

使 まあ、 待って 下さい。 わたし は 何も 知らなかった のです から、 —— まあ、 この^^をゅるめ 

て 下さい。 

二 i > > ばか -っ そまう 

小町 ,vlii あなたが 莫迦ではありません か? そんな 噓を 腐に 受ける と は …… 

つや ゾ 、一れ ま う なに をつ 二 まち うら 、 、 , 

使 しかし 誰でも 眞に 受けます よ。 …… あなた は 何 か 小 野の 小町に 恨まれる ことで も あるの て 

す 力? 

が 町 (妙に 做 笑す る) ある やうな、 ないやうな、 …… まあ、 あるの かも 知れません。 

つか ひ うら い 

使 すると その £^ まれる ことと 云 ふの は? 



町 小人- 



277 



* ; ま ち けいべつ たが ひ を ん な 

小町 (1: 蔑す る やうに) お 互に 女ではありません か? 

つか ひ なるほど つつく どうし 

使 成程、 美しい 同士で したつけ C 

小町 あら、 ぉ设辭 など はおよ しなさい。 - 

つか ひ ^ じ うつく ,,パ も くち い 

使 ぉ世辭 ではありません よ。 ほんた うに 美しい と 思って ゐ るので す。 いや、 口に は 云 はれな 

い 位 美しい と 思って ゐ るので す。 

小町 まあ、 あんな 嬉しがらせば つかり! あなた こそ 黄泉に は 似合 はない、 美しい かたで は 

ありません か? 

つか ひ いろ てろ をと こ . 

使 こんな 色の 黑ぃ af^ がです か? , 

こ まち くろ はう りつば をと こ き 

小町 黑ぃ 方が 立: まです よ。 SR らしい I 湫 がします もの。 

使 しかしこの.^^^は1湫味が惡ぃでせぅ。 

二 まち かはい さは くだ うさぎ だい 

小町 あら、 可愛いで はありません か? ちょいと わたしに 觸 らして 下さい。 わたし は^が 大 

す つか ひ うさぎ みみ おもちゃ なん 

好きな のです から。 (使の 兎の. 斗 を 玩弄に する〕 もっと こっちへ いらっしゃい。 何だか わたし は あ 

なた の爲 なら、 死んでも 好い やうな 氣 がします よ。 



278 



使 (小町 を 抱きながら) ほんた うです か? 

こまち なか め レー ま r,s 

小町 (半ば 服 を 閉ぢた il) ほんた うならば? 

つ. !,•. ひ せっぷん 

使 かう する のです。 (接吻しょう とする) 

こ まち つ 

小町 (突きの ける) いけません。 . , 

使 では、 ::: では 噓 なのです か? 

こ まち うそ ただ ま き よ 

小町 いいえ、 噓 ではありません。 唯 あなたが 本氣 かどう か、 それさへ わかれば 好. いのです。 

つ ふ ひ 、 なん い くだ ほ なん ひねす み か は ごろ も ほつ 

使 では 何でも 云 ひつけて 下さい。 あなたの 欲しい もの は 何です か? 火 の 裘 です か、 

らい たま えだ っダめ こ やすが ひ 

萊の 玉の 枝です か、 それとも 燕の 子安貝で すか? 

-に はち 、 、 * 广 5 ねが ひ い くだ 

. ^町 まあ、 お待ちなさい。 わたしのお 願 はこれ だけです。 —— どうか わたし を 生かして 下さ 

,A は を こ まち に,、 を Q こ まち か- H >. くだ 

い。 その代りに 小 野の 小町 を、 11 あの 憎らしい 小 野の 小町 を、 ゎたしの^^りにっれて行って下 

さ、 い。 

つへ" ひ H とほ 

使 そんな こと だけで 好い のです か? よろしい。 あなたの 云 ふ 通りに します C 

こ まち ,つれ ゥ. A.S .ノ よ 

小町 きっとで すね? まあ、 嬉しい。 きっとな らば、 …… (使 を 引き寄せる) 



町 小人 二 



279 



使 ああ、 わたし こそ 死んで しま ひさう です C . 

三 

お ほぜい しんしゃう あるひ ほこ と あるひ けん ひつ さ を こ まち や ね .2 も で こ よ み p.^-.s 

大勢の 神將、 或は 戟を 執り、 或は 劍を 提げ、 小 野の 小町の 屋根 を 護って ゐる。 :^ハ處 へ 黄泉の is、 

さう らう そら あらよ 

殿 踉と签 へ 現れる。 

しんしゃう たれ き V.:-H 

神將 誰 だ、 ^様 は? 

つか ひ よみ. つか ひ そこと ほ くだ 

使 わたし は 黄泉の 使です。 どうか 其處を 通して 下さい。 

しんしゃう と 一?^ 

神將 通す こと はならぬ。 

つか ひ 二- W ち -? 

使 わたし は 小町 を つれに 來 たのです。 

n スしゃ う 二 .tH ち ITl た さら 

神將 小町 を 渡す こと はな ほ更 ならぬ。 

使 なほ 更 ならぬ? あなたが たは ー體 何もので す? 

しんしゃう われわれ あめ した おんみ やう じ あ ベ でい めい か ぢ こ まち しゅ-ご さんじ ふズん じし 

神將 我我 は 天が下の 陰陽師、 安倍の 晴 明の 加持に より、 小町 を 守護す る 三十 番神ぢ や。 

つか ひ さん. に ふまん じ/ うそ をと こ しゅ-ご 

使 三 4- 番神! あなたが たは あの 噓っ きを、 —— あの 男たら し を 守護す るので すか? 



280 



しんしゃう だま よわ をん な .I?/-.- やう さ t 

神將 is- れ! か弱い 女 を いぢめ るば かり か、 惡名を 着せる と は 怪しから ぬ やつ ぢゃ。 

つか ひ なに あにみ やう 二 二 H ち うそ をと こ 

使 何が 惡 名です?, 小町 はほんた うに、 噓 つきの 男たら しではありません か? 

Ily し. やう い い いみ な V ふ/」 そ 

爵 まだ 云- -な" よしよ し、 云ぶならば 云って 見ろ。 その 耳 を 二つと も 削いで しま ふぞ。 

つか ひ こまち げん 

使 しかし 小町 は 現に わたし を …… 

しんし. やう ふんぜん ほこ く わう じ やう つか- S と 

神將 (愤 然と) この 戟を 食らって 往生し ろ! (使に 飛び かかる) 

使 助けて くれえ! (消え失せる) 

. ^ぶふね んービ お をん な こじき ふたり かれす す. はら はな ひとり を の こ まら た ひとり た i つくり 

^t- 年後 老いた る 女 乞食 二人、 枯 芒の 原に 話して ゐる。 一 人 は 小 野の 小町、 他の 「人 は 玉 造 

二 まち 

の 小町。 

を こ まち くる ひ つづ 

小 野の 小町 苦しい 日ば かり 緩き ますね。 

たまつ,、 り jlI まち くる おも し よう し 

玉 造の 小町 こんな 苦しい 思 ひ をす るより、 死んだ 方が まし かも 知れません。 

やい 0^ こ、 . ^ち ひと -, 一と とき し H よみつ. f メぁ と々, 

,り 野の バ (獨り 語の やうに) あの 時に 死ねば 好かった のです。 黄泉の 使に 會 つた 時に、 …… 



町 小人 二 . 281 



玉 造の 小町 おや、 あなた もお 會ひ になった のです か? 

を の * 一 まュっ うたが ひぶ か おっしゃ あ 、 

小 野の 小町 (疑 深さう に) あなた もと 仰 有る の は? あなた こそお 會ひ になった のです か? 

玉 造の 小町 (冷やかに) いいえ、 わたし は會 ひません。 

を C こまち あ からつ かひ 

小 野の 小町 わたしの 會 つたの も 唐の 使です、) 

しぼらく あ ひだ ちんもく よ み つか ひ いそが とほ 

少時の 問 沈默。 黄泉の 使、 忙し さう に 通りかかる。 、 

たまつ くり 二 まち 

yfe 告 Q ト ば 

コ 一、、 v< / p よみ つか ひ よ み つか ひ 

を 一一 まち 「 黄泉の 使! 黄泉の 使! 

小 野の 小町 j . 

黃€ 水の 使 誰です、 わたし を 呼びと めた の は? 

たま 7、 り 二 まち を G 二 まち よ み つか ひ . ぞんじ 

玉 造の 小町 (小 野の 小町に) あなた は 黄泉の 使 を 御存知ではありません か? 

を C こ まち たまつ くり -ー まち し おっしゃ よみつ. f ひ 

小 野の 小町 (玉 造の 小町に〕 あなた も 知らないと は 仰 有れますまい。 (黄 水の 使に) このかた は 

たまつ くり こ まち ご そんじ 

玉 造の 小町です" あなた はとうに 御存知で せう。 - 

たまつ くり こ まち を の こ まち な .,/ ス 

玉 造の 小町 このかた は 小 野の 小町です。 やっぱり あなたのお 馴染で せう。 

つか ひ なに たまつ くり こ まち を の こ まち まね か H じき 

使 何、 玉 造の 小町に 小 野の 小町! あなたがたが、 11 骨と 皮,. ばかりの, ; NK. 炎が! 



282 



を 二 ま ち ほ ね か は をん な 二 じ き 

小 野の 小町 どうせ 骨と 皮ば かりの 女 乞食です よ。 

たまつ くり こ ち だ わす 

玉 造の 小町 わたしに 抱きつい たの を 忘れた のです か? 

つか ひ はらた くだ か は くち すべ 



つか ひ はら た くだ か は くち 寸 ぺ 

使 まあ、 さう 腹 を 立てす に 下さい。 あんまり 變 ってゐ たもので すから、 つい 口 を、、 U らせ たの 

とき よ なに よう 

です。 …… 時に わたし を 呼びと めた の は、 何 か 用で も あるので すか? 

を こまち よ み いく だ 

小 野の 小町 あります とも。 あります とも。 どうか 黄泉へ つれて 行って 下さい。 

たまって り こ まち いつ い くだ 

玉 造の 小町 わたし も 一 しょに つれて 行って 下さい。 

つ. f, ひ H み ゆ じょうだん い また だま 

使 黄泉へ つれて 行け? 冗談 を 云って はいけ ません。 叉 わたし を 欺す のでせ う。 

たまつ くり こ .ti つ. だま 

玉 造の 小町 あら、 欺し などす る ものです か! 



を こ まち い くだ 

小 野の 小町 ほんた うに どうか つれて 行って 下さい。 

つか ひ くび ふ 



つか ひ くび ふ う あ -?^ め あ 

使 あなたがた を! (首 を 振りながら) どうも わたしに は 受け合 はれません。 又 ひどい 目に 會 



いや たれ ほか たつ 

ふの は 嫌です から、 誰か 外の ものに お頼みなさい。 



を Q こまち あ ほ くだ なさけ し す 

小 野の 小町 どうか わたし を 憐れんで 下さい。 あなた も 情 は 知って ゐる 答です。 

たまつ くり こ まち い い くだ つま 

玉 造の 小町 そんな こと を 云 はすに、 つれて 行って 下さい。 きっと あなたの 妻になります から ( 



3 使 駄目です。 駄目です。 あなたがたに かかり 合 ふと !J 1 いや、 あなたがた ばかりで はない、 

-V んな ふ あ め あ とらつ よ ない 

女と 云,, - やつに かかり 合 ふと、 どんな 目に 會ふ かわかり ません。 あなたが たは 虎よりも 强ぃ。 内 

しんにょ や しゃ たと へど ほ だいいち なみだ まへ たれ い く ち を 

心 如 夜叉の 譬 通りです。 第一 あなたがたの 淚の 前に は、 誰でも 意氣 地が なくなつ てし まふ。 (小 野 

こ まち な だ すご 

の 小町に) あなたの 淚 など は 凄い ものです よ C 

^ 1 一 まち うそ うそ な t 二 こ うこ 

小 野の 小町 嘘です。 嘘です。 あなた はわた しの 淚 などに 動かされ たこと は あ. りません。 

sv"^ ひ ヽ: み 一み „ Z だいに はだみ まか * で 々- 

仗 (耳に も かけすに) 第一 一に あなたが たは 肌身 さ へ 任せば、 どんな ことで も出來 ない こと はな 

たまつ くり 二 まち て つか 

" (玉 造の 小町に) あなた は その 手 を 使った のです。 

たまって り こ まち いや , 一一 ひ し 

H.1 造の 小町 卑しい こと を 云 ふの はおよ しなさい。 あなた こそ 戀を 知らない のです。 

「力 ひ ヽ ナ と/ちゃ,、 だいさん いち ズん おそ だいさん よ なか か. ゾょ 1 ら> 

# (やはり 無頓着に) 第三に、 ,—— これが 一番 恐ろしい のです が、 第三に 世の中 は 神代 5- 來、 

をスな だォ * をん な い よわ やさ おも め 

すっかり 女に 欺され てゐ る。 女と 云へば か弱い もの、 優しい ものと 思 ひこんで ゐる。 ひどい n に 

あ いつ をと こ あ い つ をん な ほか かんが く ii 

き はすの は 何時も 男, 會 はされ るの は 何 i£r も 女、 . —— さうよ り 外に 考 へな ハ。 そ Dlg^ ま/ レた うは 

-ぃ をズな ため —ヒ! i う をと 二 なや を 〇 こ まち さんじ ふ f んじん ご ら」 ,>6 

^ 女の 爲に、 始終 Ef^ が惱 まされて ゐる。 (小 野の 小町に) 三十 番神を 御 1=^ なさい。 ゎたしばかり-^;^も 

町 のにして ゐ たでせ う •。 



284 



を の こ まち かみ ほとけ わるぐち 

小 野の 小 神 佛の惡 口 はおよ しなさい C 

つか ひ かみ ほとけ おそ を .V- 二 こころ 

使 いや、 わたしに は神佛 よりも、 もっと あなたがたが 恐ろしい のです。 あなたが たは si- の 心 

からだ じ いう じ ざい もて あそ で キ」 うへ まんいちて あま よ なか かせい か で 

も體 も、 自由自在に 弄ぶ ことが 出來 る。 その上 萬 一手に 餘れ ば、 世の中の 加勢 も 借りる ことが 出 

& くら ゐ つよ また に ほんこく ぢ ういた 

來る。 この 位强 いもの はありますまい。 又 ほんた うに あなたが たは 日本 國中 至る ところに、 あな 

ゑ じき をと こしが い ち なに V, ふ- 

たがた の 餌食に なった 男の 屍骸 を まき 散らして ゐ ます。 わたし はま づ 何よりも 先へ、 あなたがた 

つめ ようじん 

の 爪に かからない やうに、 用心し なければ なりません。 

を 二 まち たまつ くり こ まち なん い ひと. ケ- わる て まへ がって り くつ 

小 野の 小町 (玉 造の 小町に) まあ、 何と 云 ふ 人聞きの 惡ぃ、 手前勝手な 理窟で せう。 

たまつ くり 二 まち を 二 まち をと こ わがまま あき かへ よ み つか ひ をん な 

玉 造の 小町 (小 野の 小町に) ほんた うに 男の 我儘に は 呆れ返って しま ひます。 (黄泉の 侦に」 女 

をと こ 么 じき なん い をと 二 ゑ じき 卞が むかし をと こ ゑ にき 

こそ 男の 餌食です。 いいえ、 あなたが 何と 云っても、 男の 餌食に 違 ひありません。 昔 も 男の §: 食 

いま をと こ る 、一 じき しゃう らい をと こ 

でした。 今 も 男の 餌食です C 將來も 男の、 …… 

つか ひ きふ は ば しゃう らい をと 二 いう" はう をん な だいじゃう だいじん をん な けび ゐし をん な えんま わう をん な 

使 (急に 晴れ晴れと) 將來は 男に 有望です。 女の 太 政 大臣、 女の 撿 非違 使、 女の 間^ 王、 女の 

さん ふ. ヒん で き をと こ ナ 二 たす だいいち んな を,? -が ほか 

三十 番神、 —! さう いふ ものが 出來 ると すれば、 男 は 少し 助かる でせ う.】 第一 に 女 は 5?^ 狩りの 外 

し „ 'ひ し -ごと で き だいに をん な よ なか いま を, V-. 一 よ ^かほ ど をノな あま 

にも、 仕榮 えの ある 仕事が 出來. ますから。 第二に 女の 世の中 は 今の の 世の中 程、 女に せい (せ は 



町 小人' 



285 



ありま せんから Q 

を こ つ にく お、 

小 野の 小町 あなた はそんな にわたし たち を 憎い と m 心って ゐ るので すか? 

たよつ V 、り 二 .t:i ち にく に/、 い,, も 々リ に/、 

玉 造の 小町 お憎みなさい。 お IE みなさい。 思 ひ 切って お憎みなさい。 

使 (暴 に) ところが 憎み 切れない のです。 もし 憎み 切れる とすれば、 もっと 仕な;: せに なって 

レ, 一つ ぜん. U たがい か あ いま だい... ちゃうぶ し 

ゐ るで せう。 (突然 又 凱歌 を 擧げる やうに) しかし 今 は 大丈夫です。 あなたが たは 昔の あなたがた 

ではない。 骨と 皮ば かりの 女 乞 貧です。 あなたがたの 爪に はか かりません。 

たまつ くリ こ まち どこ い 

玉 造の 小町 ええ、 もう、 何處 へで も 行って しまへ! 

を こ まち い とほ をが 

小 野の 小町 まあ、 そんな こと を 云 はすに、 …… これ、 この 通り 拜 みます から。 

つか. b かれ ナすキ なか き 

使 いけません。 では さやうなら。 (枯 芒の 中に 消える) 

を つ こ まち 

小 野の,^^ ど うし ま せう? 

たま つ くり こ まち 

玉 造の 小町 どうし ませう? 

一 一人と も 其處へ 泣き伏し てし まふ e 

-. GC 正 十二 年 二月, :- 



286 



こ こ なん £ん じ だうな い ガ ラ ス -ュ まど ひ ひかり あた じ ぶん 

此處は 南蠻寺 の 堂 である。 ふだんな らば まだ 破 子畫の 窓に 日の 光の 當 つて ゐる 時分で あらう。 

け ふ つゆ ぐ も ひ くれ くら か は なか ただ ふう はしら 

が、 今日は 梅雨 曇り だけに、 日の 幕の 暗 さと 變り はない。 その 中に 唯ゴ ティ ック 風の 柱が ぼん や 

き はだ ひか たか まも だう おく いやう とうみ やう 

り 木の 肌 を 光らせながら、 高 だかと レクト リウ ムを 守って ゐる。 それから すっと 堂の 奥に 常燈 明 

あぶらび ひと パん なか たたす せいじゃ ざう て マん けい にん ひとり 

の 油 火が 一 つ、 龕の 中に 佇んだ 聖者の 像 を 照らして ゐる。 參詣人 はもう 一. 人もゐ ない。 

い うすぐら だうな い こうまう ヒん しんぷ ひとり & たう あたま た とし し じふ ご ろく 

さう 云 ふ 薄暗い 堂內に 紅毛人の 神父が 一 人、 祈 禱の頭 を 垂れて ゐる。 年 は s: 十五 六で あらう。 

ひた ひ せま くわん こつ つ で ほほ ひげ ふか をと こ ゆか うへ ひ き も リ とな 

額の 狹ぃ、 颧 骨の 突き出た、 頻 鬚の 深い 男で ある。 床の 上に 引きす つた^ 物 は 「あびと」 と稱 へる 

そうい い とな ねんじゅ て くび ひとま ま C ち あ をた ま た 

^衣ら しい。 さう 云へば 「こんた つ」 と稱 へる 念珠 も 乎 頸 を 一 卷き卷 いた 後、 かすかに 靑珠を 垂ら 

して ゐる。 • 

だうな い もちろん しんぷ いつ み うご 

堂內は 勿論 ひっそりして ゐる。 神父 は 何時までも 身動き をし ない。 * 

そ こ に ほんじん をん な ひとり しづ だうな い 々- もん そ ふる かたびら なに くろ おび 

其處へ 日本人の 女が 一人、 離 かに 堂 內へは ひって 來た。 紋を 染めた 古愤 子に 何か黑 ぃ帶 をし め 

, 矛 



のしお 



289 



二 け にょうば う をん な タ んレ ふだい み と L 

た. 武家の 女房ら しい 女で ある。 これ はま だ 三十 代で あらう。 が、 ちょいと IB- たと ころ は 年より 

み だいい i つめう かほい ろ わる め くろ かさ ゼノ たノ 

はすつ とふけ て兑 える。 第一 妙に 額 色が 惡ぃ。 口 のま はり も 黑ぃ景 をと つて ゐる。 しかし 大體の 

to は 1 うつく い ざしつ か たんせい す けっく わ むし けん くら,:: 

目鼻 だち は 美しい と 言っても 差 支へ ない。 いや、 端正に 過ぎる 結果、 寧ろ 險の ある 位で ある。 

をん な めづ せいす ゐ ぶん きた うづく ゑ み お お だう おく あゆ よ う 十ぐ,.:: 

女 はさ も 珍ら しさう に^ 水盤 や 祈 禱机を 見ながら、 怯 づ怯づ 堂の 奥へ 歩み寄った。 すると^. お 

せいだん ま、、 しんぷ ひとり ひざ まづ をん な おどろ そ こ あし と 

い の 前に 神父が 一 人 跪 いて s9 る。 女 はや や 驚いた やうに、 ぴたりと 其 處へ足 を.^: めた。 が、 

. ^て. ) . ただち ざつ をん な し/ぶ なが *i も; れん そ こ たたす 

相手の^ 禱 して ゐる こと は 直に それと 察せられた らしい。 女 は 神父 を 眺めた 儘、 默 然と 其處 に-む 

んでゐ る, - 

だ, 1;- ない あ ひか はらす しんぷ み うご ,5-,/ な まゆ ひど ろ- -I 

堂內は 不相變 ひっそりして ゐる。 神父 も 身動き をし なければ、 女 も 眉 一 つ 動かさない。 それが 

か なりな が あ ひだ 

可也 長い 問であった。 - 

うち しんぷ き たう ゆか み おこ み まへ をん な ひ モリ な- - > 

その,^ に 神父 は 祈禱を やめる と、 やっと^から 身 を 起した。 见れば 前に は 女が 一人、 :!: か: ぶ ひ 

たたす なん ズんじ だうな い ただみ な よ りき ぼと け ん ぶつ く まれ 

たげ に 佇んで ゐる。 南蠻寺 の 堂 へ は 唯 見 惯れぬ 磔佛を 見物に 來る もの も 稀で はない。 しかし こ 

をん な こ こ き も C す しん,、., だ 仆ぅ か t こと ちか 

の 女の 此處 へ來 たの は 物好き だけで はなさ さう である。 神父 はわ ざと 微^しながら、 片 f:i に 近い 

^0本語を使った。 



なに っー よう 

rj^ 力 f 幷 です 力?」 

やうせ う ねが すぢ 

「はい、 少少お 願 ひの 筋が ございまして。」 

をん な いんぎん ゑし や V、 まづ み かか は ゆ あ かう がい まげ あたま 

女は慇 勤に 會釋 をした〕 貧しい 身なりに も關ら す、 これ だけ はちゃん と 結 ひ 上げた 笄 髭の 頭 を 

き しスぷ ほほ ム め もくれい て あ をた ま ゆび にな 

下げた ので ある。 神父 は頰 笑んだ 眼に 目禮 した。 手 は 靑珠の 「こんた つ」 に 指 をから めたり 離した 

りして ゐる。 

いち. ん せ はんべ ろ; 3 け ま を じつ 1:- がれ しん の卜ょ う 

「わたくし は 一番ケ瀬 半 兵衞の 後家、 しのと 申す もので ございます。 實 はわた くしの 作、 新 之.^ - 

ま を たいび やう 

と 申す も の が 大病な の で ご ざ い ますが …… 」 

をん な い よど のち こんど らう ど: ようむ ± な だ しんの ヒ よう 

女 はちよ いと 云 ひ 澱んだ 後、 今度 は朗讀 でもす る やうに すらすら 用向き を 話し 出した。 新之丞 

こ とし じふ 一 ご さい こ とし はる- *1 ろ なん わ-つら だ せき で しよくよ: すす 

は 今年 十五 歳になる。 それが 今年の 春 頃から、 何ともつ かすに 烦ひ 出した。 • 咳が 出る、 食慾が 進 

ねつ たか い しまつ ちから およ かぎ ノ- (や み か ぐす り 

まない、 熱が 高まる と 言 ふ 始末で ある。 しの は 力の 及ぶ 限り、 醫者 にも 見せたり、 §只 ひ藥 もした 

やう じ やう て つく す こ かう けん み しだい す, S ヒゥ, - 

り、 いろいろ 養生に 手を盡 した。 しかし 少しも 效驗は 見えない。 のみなら す 次第に 衰弱す る。 そ 

うへ コ ろ ふ にょい ため おも れ うぢ で き & なんばん じ しんぶ い はう 

の 上 この頃 は 不如意の 爲、 思 ふやう に 療治 をさせる こと も出來 ない。 問けば 南蠻 寺の 神父の 醫方 

び や てらい なほ い しズ C じょう い G ち たす いただ 

は白癩 さへ 直す と 云 ふこと である。 どうか 新 之丞の 命も叻 けて 頂きたい C 



の しお 



291 



み まひ, だ いか V- 

「お見舞 下さいます か? 如何で ございませう?」 

をん な い ことば ま しんぷ み まも め あよ こ 、ろ 

女 はかう 云 ふ 言葉の 問 も、 ぢ つと 神父 を 見守って ゐる。 その 眼に は 憐みを 乞 ふ 色 もなければ、 

き た ただ ほ とん かたく 4 つか しづ しめ 

氣づか はし さに 堪 へ ぬけ は ひもない。 唯 殆ど 頑な に 近い 靜 かさ を 示して ゐる ばかりで ある。 

「よろしい。 見て 上げ ませう c」 

しんぷ あごひげ ひつば かんがへ ぶか うな づ み をん な れいこん たす もと き 

神父 は 顋鬚を 引 張りながら、 考 深さう に 額いて 見せた。 女は靈 魂の 助かり を 求めに 來 たので は 

にくたい たす もと き とが よ にくたい に.., こん 、へ 

ない 肉體の 助かり を 求めに 來 たので ある。 しかし それ は 咎めす とも 好い。 肉 體は靈 魂の {豕 であ 

いへ しう ふく まった しゅじん やま ひ また,' り ぞ やす げん JJ 亡 

る。 家の 修 覆さへ 全ければ、 主人の 病 も 亦 退き 易い。 現に 力 テキス タの フワ ビアンた ど は その 爲 

じふ じ か よ 一 をん な こ こ つか あるひ い しんい し 

に 十字架 を拜 する やうに なった。 こ の 女 を 此處へ 遣 はされ たの も 或は さう 云 ふ祌意 かも 知れない。 

「お子さん は 此處へ 來られ ます か。」 

6 り tV ん 

「それ はちと 無理 かと 存じます が …… 」 

そ こ あんない くだ 

「では 其處 へ案內 して 下さい。」 . 

をん な め いっしゅんかん よろこ かがや レー, V 

女の 眼に 一 瞬 の 喜びの 輝いた の はこの 時で ある。 

いただ なに し あは 

「さやう でございます か? さう して 頂ければ 何よりの 仕 合せで ござ います。 I 



しんぷ やさ かんどう かん いっしゅんかんの, つめ ん か を ん な かほ ち、 - ュ > は . 1 み 

神父 は 優しい 感動 を 感じた) やはり その 一瞬間、 能面に 近い 女の 録に举 はれぬ 母 を 3^ たからで 

ある。 もうお に 立って ゐ るの は 物堅い 武家の 女房で はない。 いや 本人の 女で もない。 むかしん I 

を は なか キリスト う つく ち ぶ さ ふく ご あいれん ご にう なん つ. t,! し 

槽の屮 の 基督に 美しい 乳房 を 含ませた 「すぐれて 御 愛憐、 すぐれて 御 柔顿、 すぐれて くまし ま 

てんじゃう ク V- き おな はは I んぷ むむ そ くわいく わ, 。んな はな 

十 天上の 妃」 と 同じ 母に なった ので ある。 神父 は 胸 を 反らせながら、 快活に 女へ 話しかけた。 

あんしん やま ひ たいてい こ いのち ぶづか と かくで き 

「御 安心なさい。 病 も 大抵 わかって ゐ ます.) お子さんの 命は預 りました。 见に €: 屮 I 來る だけの こ 

み また ヒ X りよて およ 

と はして 見 ませう。 もし 又 人力に 及ばなければ、 …… 」 

をん な お だ や ことば はさ 

女は穩 かに 言葉 を 挾んだ。 

一 ま いちどみ まく だ 二 ころの こ 

「いえ, あなた 樣 さへ 一度お 見舞 ひ 下されば、 あと はもう どうな りましても、 さらさら 心 殘りは 

うへ ただき よみ づ でら くわん ぜぉん -于、 : つ ご みやう ご すが * を 

ござい せん。 その上 は 唯 清水寺の 觀 f 音 菩薩の 御 冥 護に ぉ鎚り 申す ばかりで ございます。」 

くわん ぜ おん ぼ ia- つ ことば だち ま しん S か かほ はら だ いろ みな. jjM しんぷ なに し をん な かほ 

觀せ昔 菩薩! この 言葉 は 忽ち 神父の 顔に 腹立たしい 色 を 漲らせた。 神父 は 何も 知らぬ 女の^ 

するど め みす くび ふ ふ だ 

へ 鋭い 眼 を見据 ゑる と、 首 を 振り 振りた しなめ 出した。 

き くわん G ん しゃか はちまん てんじん あが みな ふ: いし i 、う V- う 

「お 叙 をつ けなさい。 觀昔、 釋: 1、 八幡、 天神、 11 あなたがたの 崇める の は 皆 木 や 石の 偶像で 

2 

9 か み てんしゅ ただ ひとり を こ 一-, つ たす 

2 す。 まことの 祌、 まことの: 大主は 唯一 人し か 居られません。 お子さん を 殺す の も 助ける の もデゥ 



のしお 



293 



おんお ぼしめ ひと ぐ orj う し こ だいじ ぐ-; う いつ 

スの御 思 召し 一 つ 一 じす。 ^像の 知る ことではありません。 もしお 子さん が 大事なら ば、 偶像に 祈 

るの はお やめなさい。」 

をん な ふる かたびら ぇリ ろ あ-ご おさ おどろ しんぶ み しんせい ぃケ, り み 

しかし 女 は 古 帷子の 襟 を 心 もち 顋に 抑へ たなり、 驚いた やうに 神父 を 見て ゐる。 神 架な 怒に 滿 

-- とぶ * しんぷ ほレ. -ん ひげ かほ つ 

ちた 首 葉 も わかった のか どうか はっきり しない。 神父 は 殆ど のしかかる やうに 鬚 だらけの 額 を 突 

だ ハっ しゃう けんめい いまし つづ 

き 出しながら、 一生懸命 にかう 戒め 績 けた。 

かみ しん かみ くに さと う 

「まことの 神 をお 信じなさい。 まことの 祌はジ ュデァ の國、 ベレンの 里に お生まれ になった ジェ 

ズス , キリス トスば かりです。 その外に 神はありません。 あると E 心 ふの は惡 魔です。 墮 落した 天 

し へんげ われわれ ナイ、 ため はりき み らん 

使の 變 化です。 ジ H ズスは 我我 を 救ふ爲 に、 磔木 にさへ おん 身 をお かけに なりました。 御 M:;^ なさ 

い、 あの おん 姿 を?」 

し, >ぷ お- J そ て う, t まど ガ ーフ ス ゑ さ ちゃう どうす, ひ て -1: こ だったい 

神父 は嚴 かに 乎 を 仲べ ると、 後ろに ある 窓の 硝子 畫を 指した。 丁度 薄日に 照らされた 窓 は 堂. z: 

こ ま C くら なか じゅなん キリス 卜 う あが ド、 \ じか もと な まど で 

を罩 めた 仄暗が りの 中に、 受難の 基督 を 浮き 上らせて ゐる。 ト字架の下に泣き惑ったマリャゃ^^ 

し う もが をん な に ほん ふう がっし やう しづ まど あ ふ 

子た ち も 浮き 上らせて ゐる。 女 は 日本風に 合掌しながら、 靜か にこの 窓 を ふり 仰いだ-し 

-っ」 亡, うけた ま-. i なん ザん に #r い 屮- がれい のち たす 

「あれが に 承 つた 南蠻 の如來 でございます か? 俘の 命 さへ 助かり ますれば、 わたくし は あ 



の 磔怫に 一 生 仕へ るの も かま ひません。 どうか 冥 護 を 賜る やうに 御祈禱 をお 1! げ 1^ さい まし。」 

をん な 一-ゑ おちつ なか ふか かんどう ざう ノ. ん% ご、 1 よ-ま I U -, 

女の 聲は 落着いた 中に、 深い 感動 を藏 して ゐる。 神父 は 愈 膨 ちま マち たやう にうな じ をが し 反 

ま i まへ ゆうべん よな だ 

ら せた 儘、 前よりも 雄 辯に 話し 出した。 

「; 、 - '^/^^'^ , リ, f き, よ . われわれ たまし ひ す,、 ため ちじ やう ご かう たん t 

r 、シ H ススは 我我の 罪を淨 め、 我我の 魂 を 救 ふ爲に 地上へ 御 降誕な すった のです。 お^きなさい、 

I* ) いっしゃう n かんなんし ぐく 

御 一生の 御 艱難辛苦 を!」 

神聖な 感動に 充ち滿 ちた 神父 は そちら こちらと 歩きながら、 口早に 基督の 生涯 を 話した 。し!^!! 

備^ 給 ふ處女 マリヤに 御 受胎 L を 告げに 來た 天使の こと を、 廐の 中の 御 のこと を、 1:^ 敲を^ 

げる星 を 便りに^ 香 や 沒藥を 捧げに 來た、 賢い 東方の 博士た ちの こと を、 メシアの ^fiiljl れる 

爲に、 へ ロデ 王の 殺した 童子た ちの こと を、 ヨハネの 洗禮を 受けられ たこと を、 IB の, へ を, 

„ ノ- -みづ ぶ だう しゅ くわ ま-つじん め ひら 

力れ たこと を 水 を 葡萄酒に 化せられ たこと を、 盲人の 眼 を 開かれた こと を、 マグ ダラの マリヤ 

つ なな あくき お し , みづ う、 あ?. > 

に 憑き まとった 七つの 惡 鬼を逐 はれた こと を、 死んだ ラザル を かされた こと を、 水の 上 を 歩か 

れ たこと を、 驢馬の 背に ジ エルサレム へ 入られた こと を、 悲しい 最後の 夕餉の こと を、 IgQi 

2 のおん 祈りの こと を、 



の しお 



295 



へ 

す 

は 
ゐ 
ら 
れ 
ま 



Lx^ -1*5 かみ こと 15 うすぐら だうな い ひ. ひ わた を/な め かお, -ゃ キま もくねん こ お 

神父の 聲は祌 の 言葉の やうに、 薄暗い 堂 ^ に 響き渡った。 女 は 服 を 輝かせた 俊、 默然 とその 聲 

に 聞き; < ってゐ る。 

かんが 一, 一 らん ふた リ. ぬすびと いつ は りき 

「考 へても 御覽 なさい。 ジ H ズスは 一 一人の 盜 人と 一 しょに、 礎 木に おかかりな すった のです。 そ 

とき かな とき くる われわれ いまお も にく ふ 

の 時の おん 悲しみ、 その 時の おん 苦しみ、 . I . 我我 は 今 想 ひやる さへ、 肉が. ぬ 

>- と もった * き .11 りき うへ ざ け y ことば 

せん。 殊に 勿體 ない 氣 のす るの は磔 木の 上から お叫びに なった ジ ェズス の: i 取 後の おん 一 W 紫です。 

レ) 力み カー へ なス ォれ す たま 

エリ、 H リ、 ラマ サバ クタ 二、 . I これ を 解けば わが 神、 わが 神、 何 ぞ我を 捨て 給 ふや? …… 」 

しんぷ おも くち み さ を をん な したく +f びる か しんぷ かほ み 

神父 は 思 はす 口 をと ざした。 見れば まつ 蒼に なった 女 は下替 を嚙ん だな り、 祌 父の 額 を つめ 

め ひ? め しんせい かんどう なん ただ:. レゃ けいべ ク ほ U とほ 

てゐ る。 しかも その 腺に いて ゐ るの は 神聖な 感動で も 何でもない。 唯 冷やかな 輕蔑 とせに も 徹 

りさうな 憎惡 とで ある。 神父 は 悄氣に とられた なり、 あ 時 は 唯啞の やうに 瞬き をす るば かりだつ 

たじ 

てんしゅ なん ザん にょらい い 

「まことの 天 主、 南蠻の 如來と はさう 云 ふ もの で ご ざいます か?」 

をん な いままで に とど さ い に な 

女 は 今迄の つつまし さに も 似す、 止め を 刺す やうに 云 ひ 放った。 

をつ と 。ちばん せ はんべ ゑ さ さ き け らう にん い.^ 〔ど てき まへ ぅレ 

「わたくしの 夫、 一番 ケ瀨半 兵 衞は佐 佐 木 家の 浪人で ございます。 しかし まだ 一度 も 敵の 前に 後 



I 

I 



み さ つ、 うく わう じ し-つど をり をつ と ゼ- くち ま たん 

ろ を 見せた こと は ございません。 去ん ぬる 長 光寺の 城 攻めの 折 も、 夫 は 博奕に 食け ました 爲に、 

うま よ, つ ひ ヘリ ぶ と つ な S つ せん、 ひ なむ あ t;S 

馬 はもと より 鍵れ:; I さへ 奪 はれて 居った さう でございます。 それでも 合 戰と云 ふ 日に は、 南無!: S 

だ ぶつ だいもんじ か かみ は おり ナ はだ まと えだ たナ さ もつ J" ふて じゃく,, 二:、 . -,. 

陀佛と 大文字に 書いた 紙の 羽織 を 素肌に 纏 ひ、 枝つ きの 竹 I を 差し 物に 代へ、 右 \^ に; 二 尺 五 17^ の 太 

ち ぬ ^&んで チ 3- がみ あ ふぎ ひら ひと わかしゅ ぬぐ くび と いく ご お *^ 

刀を拔 き、 左手に 赤紙の 扇 を 開き、 『人の 若衆 を盜 むより して は 首 を 取らり よと 覺 した』 と、 力つ 

-:15< -ぅ』 、 だ ど ,t うち おに きこ し.; た ぐん.,. 一い き なび なん 

勢に 歌 をうた ひながら 織 田 殿の 身內に 鬼と 聞え た柴 S の 軍勢 を 斬り 靡け ました。 それ を 何ぞゃ 

てんしゅ はりき こ ゑ だ み ± 

天主と も あらう に、 たと ひ碟 木に かけられた にせよ、 かごと がましい 聲を 出す と は 見ドげ 果てた 

、 い おくび やう あが しゅうし なん とりえ また - P: 

やつで ござい ます。 さ う 云 ふ 臆病 も の を 崇める 宗旨に 何の 取枘 がご ざい ませう? 又 さう 云 ふ 脇 

び やう なが く よ をつ と ゐ はい て まへ .t- がれ やま ひ み _ 

病 ものの 流れ を 汲んだ あなたと なれば、 世に ない 夫の 位牌の 乎 前 も 悴の病 は 見せられません。 新 

のじよう くびと はんべ ゑ い をつ と -i.- がれ 4 パリ、 び やう くすり t ら >- 

之 丞も首 取りの 半 兵 衞と云 はれた 夫の 悴 でございます。 臆病 もの の 藥を飮 まされる より は 腹 を 切 

ュ、, し ここ まで こ 

ると 云.. -で ございませう。 この やうな こと を 知って ゐれ ば、 わざわざ 此處 迄は來 まい もの を、 I 

くち を 

—それだけ は 口惜しう ござ います c」 

をん な なみだ C しスぶ せ む .r. も どくふう V.- ひ i 

女 は淚を 呑みながら、 くるりと 神父に 背 を 向けた と 思 ふと、 毒 風 を 避ける 人の やうに さっさと 

6 

9 だう ぐつ い さ だう もく しんぷ C 二 まま 

2 堂 外へ 去って しまった。 瞠目した 神父 を殘 した ilc (大正 十二 年 一一 一月) 



298 



わん . - 

ある ふゆ ひ くれ やすきち うす: きたな に かい あ ふらく さ やき かじ かれ 

或 冬の 日の 暮、 保吉は 薄汚い レストラン の 二階に 脂 臭い 燒パ ンを 齧つ てゐ た。 彼の テ エブルの 

まへ ひびい しらかべ そ こ またはす 

前に あるの は龜 裂の 人った 白壁だった。 其處に は又斜 かひに、 「ホッ ト (あたたかい) サ ン ドウ ヰッ 

か ほそなが か み は かれ どうれ う ひとり あ. t た, ハ 

チ もあります」 と 書いた、 細長い 紙が 貼りつ けて あった。 (これ を 彼の 同僚の 一 人 は 「ほっと 暖ぃサ 

よ まじめ ふしぎ ひだり 、した お ん. いだん みぎ 

ン ドウ ヰ ツチ」 と讀 み、 3 具 面目に 不思議が つた ものである。) それから 左 は 下へ 降りる 階段、 右 は 

ナぐ ,力 ーフ ス まど かれ ゃキ" がヒ ときどき まど そと なが まど そと ら. うち、 

直に 础子 窓だった。 彼 は燒。 ハン を 齧りながら、 時時 ぼんやり 窓の 外 を 眺めた。 窓の 外に は^ 來の 

わか 卜 タン や お ふるぎ や いっけん しょく こうよう あ を ふく いろ VI 

向う に亞铅 屋根の 古着 屋が 一 軒、 職工 用の 靑服 だの 力 アキ 色の マ ン ト だの を ぶら下げて ゐた。 

その 夜學 校に は 六 時半から、 英語 會が 開かれる 害に なって ゐた。 それへ 出席す る 義務の あった 

かれ まち す くわん!:: いじ やう いや はう くわ ご ろく じ はんまで し 

彼 はこの 町に 住んで ゐ ない 關係 上、 厭で も 放課後 六 時半 迄 はこん なと ころに ゐ るより 仕 かたはな 

たし と き あいく わし うた ま 4 つが ご めん とほ き > そ 

かった。 確か 土岐 哀果 氏の 歌に、 11— 違ったならば 御免なさい。 11 「遠く 來 てこの^ のよ な 



か 帳ず のま f 保 



299 



つまつ まこ ひ い かれ ここ く たび かな..; - -った 

ビフテキ を かじらねば ならす 妻よ 妻よ 戀し」 と 云 ふの が ある。 彼 は此處 へ來る 度に、 必す この 歌 

おも だ もっと こ- S はす つま もら ふるぎ や みせ なが あぶらく さ 

を 思 ひ 出した。 尤も 戀 しがる 害の 妻 はま だ 賞って はゐ なかった。 しかし 古着 屋の店 を 眺め、 脂 臭 

や:.^」 、 みつまつ ま こ ひ い ことば 

ぃ燒パ ンを かじり、 「ホッ ト (あたたかい) サ ン ドウ ヰ ッ チ」 を 見る と 、「妻よ 妻よ 戀し」 と 云 ふ 言葉 は 

くちびる のぼ く 

おの づ から 唇に 上って 來る のだった。 

やすきち あ ひだ , ^れ うし わか ん. いぐん ぶ: わん ふたり ビィル G > 

保吉 はこの 問 も 彼の 後ろに、 若い 海軍の 武官が 二人、 麥酒を 飲んで ゐ るのに 氣が ついて ゐた。 

なか ひとり み お ぼ おな がく かう しゅけいく わん ぶく わん なじ うす かれ ひと な まへ 

その 中の 一 人 は見覺 えの ある 同じ 學 校の 主計 官 だった。 武官に 馴染みの 薄い 彼 はこの 人の 名前 を 

, . > な せう ゐ ふ-ふ ちう ゐ きふ し ただ かお ! 

知らなかった」 いや、 名^ば かりで はない。 少尉 級 か 中尉 級 かも 知らなかった。 唯 彼の 知って ゐ 

つきづき きふきん もら とき ひとてへ い ひし-り 俨-ん ぜんし 

るの は 月月の 給金 を 貰 ふ 時に、 この 人の 手を經 ると 云 ふこと だけだった。 もう 一人 は 全然 知らな 

ふたり ビ バル か は たび い ことば つか ぢ よもう 

かった。 二人 は麥 酒の 代り をす る 度に 、「こら」 とか 「おい」 とか 云 ふ 言葉 を 使った。 女中 は それで 

いや かほ りゃうて も かいだん C ぼ お てケ やすきち 

も 厭な 額 をせ すに、 兩 乎に コップ を 持ちながら、 まめに 階段 を 上り ド りした。 その 癖 保 士:: のテェ 

こうちゃ いつば いた よ-つい も き こ 二 かぎ 

ブ ル へ は 紅茶 を 一 杯 頼んでも 容易に 持って 來て はくれ なかった。 これ は 此處に 限った ことで はな 

まち どこ い おな 

い。 この 町の カフ H や レス トラ ンは 何處へ 行っても 同じ ことだった。 

ふたり ビ バル の なに お ほご ゑ はな ゃナ キ-ち も *• ろ.,^ t— なし みみ か わ, -ノ 

二人 は 麥酒を 飲みながら、 何 か 大聲に 話して ゐた。 保吉は 勿論 その 話に 耳を贷 して ゐた; では 



なかった。 が、 ふと 彼 を 驚かした の は 「わんと 云へ」 と 云 ふ 言葉だった。 彼 は 犬 を 好まなかった G 

-ぬ - - .y ぶ乂 がくしゃ カぞ S く, t.-L >.J4 f し I ノ ヽ 

犬 を 好まない 文學 者に ゲ ェテと スト リン 卜 ベ ルグ とを數 へ る こと を 偸 快に つ てゐる 一 人 だぐ た 

ことば みみ- と、 V- か. S かがお ほ せいや f いぬ >.4、 一-つ -3 

だから この 言葉 を 耳に した 時、 彼 はこん なと ころに 飼って ゐ 勝ちな、 大きい 西洋 犬 を 想像した 

ぼ 時 に それが 彼の 後ろに うろついて ゐさ うな 無 氣味さ を 感じた" 

かれ うし み そこ しあ は いぬ み 人-だ しゅ いく ゎ乂. - 

彼 は そっと 後ろ を 見た。 が、 其 處には 仕 合せと 犬ら しい もの は 兄えなかった。 唯 あの 主計 t が 

ま.,. - そと み b ら やすきち ぶんいぬ まど した 

窓の 外 を 見ながら、 にゃにゃ 笑って ゐる ばかりだった。 保吉は 多分 犬の ゐ るの は 窓の 下 だら うと 

すゐ さつ なん へん き しゅけい くわん いちど ,"- , * > / us 

推察した。 しかし 何だか 變な氣 がした。 すると 主計 官 はもう 一度 、「わんと 云へ。 あい ゎんと:^ 

い やすきち す こ か <: だ ねま むか まど した • のぞ み か i:- め , _ ニノ 

へ」 と 云った。 保吉は 少し 體を 报ぢ 曲げ、 向う の 窓の 下を观 いて 見た" まづ 彼の:::: に は ひつたん 

^^•^ まさむね つ こく か ひ けんとう ま こよ 

は 何とか 正宗の 廣吿を 兼ねた、 まだ. 人のと もらない 軒燈 だった。 それから 卷 いて ある ロ除リ だつ 

ビ ぐ . ^だる てんす*^3をナ うへ わす まま つま i いよ わ うら L みつ 

た。 それから 麥酒栂 の 天水桶 I の 上に 乾し 忘れた 儘の 爪革だった。 それから、 往來の 水たまり たつ 

た。 それから、 : il あと は 何だった にせよ、 何處 にも 犬の ぎ は 見なかった。 その代りに 十二 三の 

こじき ひとり に い まど み あ ャ-む た すがたみ 

乞 貧が 一人、 二階の 窓 を 見上げながら、 寒さう に 立って ゐる 姿が 兑 えた。 

3 「わんと 云へ。 わんと はんか!」 



らか帳 手の— 



301 



しゅ. にいく わん また よ ことば なに こ き こころ し ベい から こ r. き 

主計 官は又 かう 呼びかけた。 その 言葉に は 何 か 乞食の 心 を 支配す る 力が あるら しかった。 乞 A 良 

ほ とん むい-つび やうし や め うへ みま ま いちに ほ まど した あゆ よ やれ.^ ち ひレ: 

は 殆ど 夢遊病者の やうに、 目 はや はり 上 を 見た 傲、 一 ニ步 窓の 下へ 歩み寄った。 保 士" はやつ と 人 

わる しゅけい くわん あくぎ はっけん あくぎ あるひ あくぎ し 

の惡ぃ 主計 官の惡 戲を發 見した。 惡戲? 或は 惡戲 ではなかった かも 知れない。 なかった とす 

じっけん にんげん ど こ までこう ふく ため じ こ そんげん ぎ せい , c^c 

れ ば實驗 である。 人 問 は 何處迄 口腹の 爲に、 自己の 尊嚴 を犧牲 にす るか と:: ム ふこと に關す 

じっけん やすきち じ しん かんが なに いまさら じっけん も Z だ、 

る實驗 である" 保吉 自身の 考へ によると、 これ は 何も 今更の やうに 實驗 などすべき 問 ではない。 

やきにく ため ちゃうし けん なげう やすきち ため け, T し 、 じ X. つみ -こ 

H サ ゥは燒 肉の 爲に 長子 權を拋 ち、 保吉は パンの 爲 に敎師 になった。 かう 云 ふ 事實を れば 足り 

じっけん しんり がくしゃ なかな ン ぐら ゐ けんきう しん まんぞく /-ん 

る ことで ある。 が、 あの 寳驗 心理 學者 は屮巾 こんな こと 位で は 研究心の 滿足を 感ぜぬ ので あらう U 

け ふ せいと をし たでく .CI r す 

それならば 今日 生徒に 敎 へた- .De g.ustibus ncu est disputandum である。 蓼 食 ふ 虫 | も 好き:^ き 

ヒ っけス み い やすきち おも まど した 1 一 ヒき なべ. 

である" 實驗 したければ して 見る が 好い。 11 保.:.;:: はさう E 心 ひながら、 窓の 下の 乞食 を 眺めて ゐ 

た。 

しゅけい,、 わん しばらく だま こ じき おちつ わう らい ぜん 二 み .H じ -\ 

主計 官は 少時 默 つて ゐた。 すると 乞 貧 は 落着かな さう に、 往來の 前後 を 見 ま はし 始めた。 ぶの 

ま P かくべつい ぞん ひとめ t ひ t か ちが 

戴 似 をす る ことに は 格^ 異存 はない にしても、 さすがに あたりの 人目 だけ は g: つて ゐる のに 違 ひ 

め V,- だ うち しゅけい くわん まと そと おか かほ だ ど な こ ふ 

なかった。 が、 その 目の 定まらない 內に、 主計 官は 窓の 外へ 赤い 顏を 出しながら、 今度 は^か;^ 



302 



つて 見せた。 

「わんと 一 なへ。 わんと ーズ へば これ を やる ぞ。」 

二 じき かほ いっしゅん かス ム C ほ も た やす キ-ち ときどき 二 じ. Ay » 

乞食の 顏は 一 瞬間、 物欲し さに 燃え立った やうだった。 保吉は 時時 乞食と 云 ふ ものに 口 マ ンテ 

きょうみ かん れんびん どう ヒ やう いちど かん かん 

イツ クな與 味 を 感じて ゐた。 が、 憐澗 とか 同情と か は 一度 も 感じた ことはなかった。 もし 感じた 

と ふ ものが あれば、 莫 遍か譃 つき か だと も 信じて ゐた。 しかし 今 その子 供の 乞食が 頸 を 少し 反 

まま め .^っ かや み 二 ころ ただ 

ら せた 儘、 目 を 輝かせて ゐ るの を 見る と、 ちょいと いぢら しい 心 もちが した。 但し こ の 「ちょい 

い かね やすきち おも むし > - 

と」 と 云 ふの は 懸け 値の ないちよ いとで ある。 保吉は いぢら しいと 思 ふよりも、 寧ろ さう 云 ふハ乙 

ヒき すがた ふう かう くわ あい 

食の 姿に レ ム ブラ ン ト 風の 效果を 愛して ゐた。 

rfK はんか? おい、 わんと 云 ふんだ。」 

こ じ >J かほ 

乞食 は顏 をし かめる やうに した _」 

「わん。」 

聲 は;!^ 何にも かすかだった。 

「もっと 大きく。」 



らか帳 手の 吉保 



303 



「つ ン G 5 ン I 

I ホん わん」 

こ 化き ふた こ ゑな おも まど そと ひ 上 K. i- >a 

乞食 はとうとう ニ聲 鳴いたり と 思 ふと 窓の 外へ ネェ ベル. オレン ヂ がー つ 落ちた。. —— その 先 

力 い こ じき もちろん と しゅ ナノ、 わし もちろん.: ら 

はもう 書かす とも 好い。 乞食 は 勿論 オレン ヂに 飛びつ き、 主^^官は勿論笑ったのでぁる。 

いつ,」 うかん つち や. U きち またげつ きふび しゅけ、, ぶ げっ きふ もら > ,しゅ; ,1 くわし 

それ 力ら 一週 問ば かりたった 後、 保 吉は又 月給日に 主計 部へ 月給 を赏 ひに がった。 あの 主計-お 

, 、や が \ ちゃう ぼ ひら しょる ゐ ひろ んふ かそ み 

は 忙し さう にあ ちらの 帳簿 を いたり、 こちらの 書類 を擴 げたり して ゐた。 それが 彼の 額 を る 

、「0 ズ〕 は.、 , ,、 - び, と V とぶ ) かれ ひとこと-一た f ゆけ いくわん よ-つ お ほ よ-つい 

と r 傣:^ です ね」 と 一 言 云った。 彼 も 「さう です」 と 一 言 答へ た。 が、 主; Jl;^ 官は 用が 多い のか、 (井 易 

げっ ジた ..ハ れ ま、 ぐんぷく 1 り まま > つ そろ f,? 

に 月^ を 渡さなかった。 のみなら すし まひに は 彼の 前へ 軍服の 尻 を 向けた 儘、 き 時まで も 算般孤 を 

1 よじ 

彈 いて ゐた。 

しゅけい,.. わん 

「主計 窗」」 

保吉は 少時 待た された 後、 懇願するゃ-っにかぅ^1 つた。 主計 {R は 肩 越しに こちら を 向いた。 そ 

くちびる あき すぐ い -1と^^ で ,,5, れ V- き 

の臂に は 明らかに 「直です」 と 云 ふず 葉が 出か かって ゐた。 しかし 彼 は それよりも 先に、 ちゃんと 

仕上げ をした 言葉 を繼 いだ。 

「主; 目。 ゎんとー!^ひませぅか? え、 主計 官。」 



3C4 



やす さち しん い と t/J かれ こ么 てスし やて- ミ.. レゐ 

保吉の 信す ると ころに よれば、 さう 云った 時の 彼の 聲は 大使よりも 優しい 位だった。 

两浮人 

がく かつ をい やう じん ふたり くわい わ えい さくぶん をし き ひとり い ィギ 

この 學 校へ は 西洋人が 二人、 會話ゃ 英作文 を敎 へに 來てゐ た。 一人 は タウンゼンドと 云 ふ英卜 

利 人、 もう 一人 は スタァ レットと 云 ふ 亞米利 加 人だった。 

し あたま ま に ほん-ご うま かう かう や ゆらい- いやう;" ん けうし い い 

タウンゼンド 氏 は 頭の 禿げた、 日本語の 3111 い 好好爺だった。 由來 西洋人の 敎師と 云 ふ もの は 如 

か ぞ , -. ぶ リ J" ん, は て ふて ふ さ い は 

佝 なる 俗物に も關 らすシ H クス ピィァ とか ゲェ テ とか を 喋 喋して やまない ものである。 しかし 幸 

し ぶ/ げぃ ぶん ヒ い いつ はなし で 

ひに タウ ンゼ ンド氏 は 文藝の 文の 字 も わかった と は 云 はない。 何時か ゥ ヮァズ ヮァス の 話が 出た 

し い ぜんぜん どこよ い 

ら、 「詩と 云 ふ もの は 全然 わからぬ。 ゥヮァ ズヮァ スな ども 何處が 好い の だら う」 と 云った。 

やすきち し おな ひ しょち す がく かう わう ふて おな き しゃ C 

保吉 はこの タウ ンゼ ンド 氏と 同じ 避暑地に 住んで ゐ たから、 學 校の 往復に も 同じ 汽車に 乘 つた- 

き しゃ かれこれさん じっぷん ふたり き しゃ なか く -i . た „J ^こ, 

汽車 は 彼是 三十 分ば かり かかる。 二人 は その 汽車の 中に グラス ゴォの パイプ を啣 へながら $ 

はなし がく かう はなし いうれ い はなし かう く. つん し 

の 話 だの 學 校の 話 だの 幽靈の 話 だの を 交換した。 セォ ソフィ ストた る タウ ンゼ ンド氏 は ハム レツ 

きょうみ も おや ぢ いうれ い きょうみ む 

トに 興味 を 持たない にしても、 ハム レットの 親父の 幽靈に は 與味を 持って ゐ たからで ある" しか 



もか帳,の:ぉ{:»^: 



305 



まヒ § つ れんきんじゅつ はなし し かたら かな あたま 

し 魔術と か鍊金 術と か、 occult sciences の 話になる と、 氏 は必す もの 悲し さう に 頭と パイプと を 

いつ ふ しんぴ とびら ぞく ヒん おも ほど ひら がた むし おそろ 5 ゑ/、 

一 しょに 振りながら 、「神秘の 扉 は 俗 尺の 思 ふ 程、 開き 難い もので はない。 寧ろ その 恐し い 所以 は 

容易に 閉ぢ難 いところ にある。 ああ まふ ものに は 乎 を觸れ ぬが 好い」 と Tk つ た。 

ひとり し わか しゃれ もの ふゆ あんりょく しょ,、 あか 

もう 一 人の スタァ レツ ト氏 はすつ と 若い 洒落者だった。 冬 は暗綠 色の ォ ォヴァ • コ オトに 赤い 

えりまき ま き ひと し くら ときどき し/かんしょ のぞ み 

襟卷 など を卷 きつけて 來た。 この 人 は タウンゼンド 氏に 比べる と、 時時 は 新刊書 も^いて 兑るら 

げん がく かう えいごく わい ざいきん ァ乂 リカ せう せっか い だいか-つえん もっと 

しい。 現に 學 校の 英語 會に r" 取 近の. 亞. 米 利 加の 小說 象」 と 云ふ大 講演 を やった こと も ある。 尤も そ 

の 講演に よれば、 取 近の 亞米利 加の 大小 說家は P バ アト, ルイズ. ス ティ ヴン ソン か才ォ • へ ン 

リイ だ とづ K ふこと だった! 

し おな ひ しょち えんせん ある まち き しゃ とも 

スタァ レット 氏 も 同じ 避暑地で はない が、 やはり 沿線の 或 町に ゐ たから、 汽車 を 共に する こ 

たび や, "'きち し. はなし ほ とん キ. I おく つ-一 ただ ひと お ぼ 

と は 度た びあった。 保士 n は 氏と どんな 話 をした か、 殆ど 記憶に 残って ゐ ない。 唯一 っ覺 えて ゐ る 

まち あ ひしつ だんろ まへ き しゃ ま とき やすきち とき あ V 、び ヶ うし 

の は、 待合室の^ 爐の 前に 汽車 を 待って ゐた 時の ことで ある。 保吉は その 時 欠 仲 まじりに、 ^師 

い しょくげ ふ たいくつ はな ふちな めがね をと こ よ し 

と 云 ふ 職業の 退屈 さ を 話した。 すると 緣 無しの 服 鏡 を かけた、 男ぶ りの^い スクァ レット 氏 はち 

めう かほ けうし しょくげ ふ むし てんしょく よ おも 

よいと; な顏 をしながら、 r 敎師 になる の は 職業で はない。 寧ろ 大 職と 呼ぶべき だと 思 ふ。 YCU 



Know, Socrates and Sato are two great teacllel-s Etc. 」 と 云った o 

、 なん さしつ か 

ロパ アト • ルイズ • ス ティ ヴン ソン は ヤン キイで も佝 でも 差 支 へない。 が、 ソクラテスと プレ 

i?-: に い やすなち じらい し いん ギ 一ん い. つじ やう つく 

トォを も敎^ だった などと 云 ふの は、 I 保吉は 爾來ス タァ ン ッ ト 氏に 殷心戀 なる 友情 を 誰す こと 

にした レ 

午 休み 

—— 或 空想 11 

やすきち に かい しょく だう で ぶんくわん けうく わん ひるめし のち たいていと なり きつえんしつ かれ ナふ そ-一 

保吉は 二階の 食堂 を 出た。 文官 敎官は 午 飯の 後 は 大抵 隣の 樊煙窒 へ は ひる。 t 似 は ゲ日は 其處へ 

行かす に、 庭へ 出る 階段 を 降る ことにした。 すると 下から 下士が 一 人、 一 飛びに 階段 を 一 「i 段づっ 

い *f コ , つ; (ぷ き . かれ かほ み とつぜん げんかく きょしゅ れい ひと をど 

蝗の やうに 登って 來た。 それが 彼の 顏を 見る と、 突然 厳格に 舉 手の 禮 をした。 する が 早い か 一躍 

や. け.^; ち あたま を ど ,,, . ^れ たれ く-つかん ゑし やく か へ いう-.. ソ V : たん ノだ 

りに 保 吉の頭 を 躍り 越えた。 彼 は 誰も ゐ ない 空 問へ ちょいと 會釋を 返しながら、 悠攸 T」 階段 を 降 

つづ 

り繽 けた。 . 

に-二 まき かや あ;: だ もくれん ュ:: な ひ <1 -?、 れん ひ ちた みなみ つかく よな む 

庭に は攒ゃ 榧の 問 に、 木 蘭が 花 を 開いて ゐる。 水 蘭 は なぜか 日の 當る 南へ 折^の や-を {!: けない 



b か の TV 保 



307 



らしい。 が、 辛夷 は 似て ゐる 癖に、 きっと^へ 花 を 向けて ゐる。 保 吉は卷 穀!: :? に^ をつ けながら、 

木 蘭の 個性 を 祝福いた。 ,^|へ石を^|したゃぅに、 g§ が til- ひお つて^た。 鶴!! も « には^ 

遠で はない 。 あの 小さ い 尻尾 を 振る の は 彼 を 案 內,. する: W 號で あ る。 

「こっち! こっち! そつ ちぢゃありません よ。 こっち! こっち! I 

彼 は 鶴 偶の 云 ふなり 次第に、 を いた^ f を!. いて!^ つた。 が、 露 II はどう^つ たか、 ^ 

氺 J ん また そら を ど あが かぶ t た, A きくわん へ > と, こ i *0 -l J* 1 

然又 i4i へ 躍り 上った。 その代り 资の高 V; 機關丘 (がー 人、 小徑を こちらへ がいて 奢た。 §3;? はこの 

きくわん へい かほ どこ み お ぼ こころ きく ゎン; -へ、 ナ、 れ、 「ち - , 

機^ 兵の 額に 何處 か見覺 えの ある 心 もちが した。 機關丘 (はや はり 敬,.:!,. した IT さっさと 1 んの观 を 

通り 拔 けた。.^ は 煙草の 煙 を 吹きながら、 If だった かしらと た。 r 一が、 ll-lr 1 

—I" ル jn に 保 吉は發 見した。 あれ は ポオ ル • ゴォ ギヤ ン である。 或は ゴ ォ ギヤ ン の giff:- ある。 

今に き つ と シ ャヴル の に 畫筆を 握る のに 相 遠な い。 その 叉舉句 にハ ひ の.^ だち に 後ろから 

ピストル を 射 かけられ るので ある。 可哀 さう だが、 どうも 仕方がない。 

わ.^ t.*- - 、 -.; ^み.. f づ げんくわん まへ ひろば で そ こ .--c り ひん t 、よう -- もん 化ょ,, M, 

丄 :! はとうとう 小徑傳 ひに 玄關の 前の 廣 場へ 出た; > 其 慮に は戰 利!: i の.!^^ が T;i^、 松 や 彼の^ 

に な^ んでゐ る。 ちょいと 砲身に h? 當 てて 見たら、 仞 だか 患の 通る 昔が した。 ん W も 5:1: をす る 



し . ^れ たいはう した 二し おろ に ほんめ まきたば: ひ くるま まに 

かも 知れない。 彼 は 大砲の 下に 腰 を 下した。 それから 二 本 目の 卷煙 ic.- へ 火 をつ けた。 もう 車 廻し 

じゃり うへ とかげ いっぴき ひか にんげん あし き ついご ふたた あ; せい?,..' で き . 

の 砂利の 上に は 蜥蜴が 一 匹 光って ゐる。 人間 は 足 を 切られた が 最後、 .冉 び 足 は 製造 出来ない。 し 

とかげ し ぼき ナぐ またし ぼ せいざう やすきち たばこ , 、は まま とかげ 

かし 蟖蛻は 尻つ 尾 を 切られる と、 直に 又 尻つ 尾 を 製造す る。 保吉は 煙草 を啣 へた 俊、 蜥蜴 はきつ 

ちが おも f ば. r くな が レ」 かげ い つ ヒ り 

と ラマルクよりも ラマ ルキ アンに 違 ひない と 思った。 が、 少時 眺めて ゐ ると, 蜥蜴 は 何時か 砂利 

た ひと ぢ ゆうゆ か は 

に 垂れた 一 すぢの 重油に 變 つてし まった。 

やすきち た あが ぬ かう しゃ そ いちど に は ュ.. 'か -". - , . ^-^ 

保吉 はやつ と 立ち上った。 ペンキ 塗りの 校 舍に沿 ひながら、 もう 一度 庭 を 向う へ 抜ける と 

めん うんどう J で つち あか ぶく わん はう くわん なんにん ねっしん しぶう ぶ あらそ 

に 面する 運動場へ 出た。 土の 赤い テ 二 ス • コ オトに は 武官 敎官が 何人 か、 熟 心に 勝負 を爭 つて ゐ 

うへ くうかん た な こ れつ どうじ みぎ ひだ リ うすじろ ちょくせん ほ ばし 

る。 コ オトの 上の空 間は絕 えす 何 か を 破裂させる。 同時に ネットの 右 や 左へ 薄白い 直線 を 迸らせ 

たまと めみ シャンパンぬ また シャンパン 

る。 あれ は 球の 飛ぶ ので はない。 目に 見えぬ 三鞭酒 を拔 いて ゐ るので ある。 その 又 三鞭酒 を ワイ 

かみがみ うま の やすきち ュノ み V: み V, ん -6 こんど かう しゃ うらに. *i 

シャツの 神神が 3 ほさう に 飲んで ゐ るので ある、) 保吉は 神神 を 讚美しながら、 今度 は 校 含の 裘 庭へ 

ま はった。 

うら: ± ぶ ら たく ざん もっと -ニな い-" りん かれ そ こ ある みち で ば- 

裏庭に は 薔薇が 澤山 ある。 尤も 花 はま だ 一輪 もない。 彼 は 共 處を步 きながら、 徑 へさし 出た^ 

<J り え ビ こ ナ . ;; 1 し いっぴき, H つけん おも またい つび き ,ごな り は うへ は け 

3 薇の 枝に 蟲を 一 匹發 見した。 と 思 ふと 又 一 匹、 隣の 葉の 上に も 這って ゐる のがあった。 毛^ は 



らか IHUI^ の 古 保 



? 09 



V 一:,: ひ 。なつ つな づ かれ なに にな やすきち た ぎ 

k:.; に 額き 額き、 彼の ことか 何 か 話して ゐる らしい。 保吉は そっと 立ち聞き する ことにした 

だ"、 ち ナ むし けうく わん メ つ て ふ われわれ そそ そそ ふ だい ち めん う;、 

第,. 一の 蟲 この 欽官は 何時 蝶になる の だら う? 我我の 曾 曾 曾祖父の 代から、 地面の 上ば か 

り 這 ひま はって ゐる。 

\こ - - - ケ むし --ん けん て.^ し 

第二の 蟲 人間 は 蝶に ならない のか も 知れない。 

だ • > -0 け わし げ/ ていと 

第一 の毛蟲 いや、 なること はなる らしい。 あすこに も 現在 飛んで ゐる 力ら 

だいに け むし なるほど と なん い みにく び- -- か、!?. S 、に - : 

第二の 毛蟲 成程、 飛んで ゐる のが ある。 しかし 佝と云 ふ 醜 さ だら う! 美. M 識 さへ 人 に" 

ない と 見える。 

やすきち ひた ひ て あたま うへ き ひ かう き . ^ふ 3 

保吉は 額に を か ざしな がら、 頭の 上へ 來た 飛行機 を 仰い だ。 

そ ど つれ-つ ば あくま ひと リ なに ゆ; わい ある キ) わかし れん. ソ、 ク :2 リ ,^.r^ , あ" *i - い, ま 

其處に 同僚に 化けた 惡 魔が 一 人、 何 か 偸 快 さう に步 いて 來た 昔 は 練 金 術 を敎へ た 悪魔 も 今 は 

>- » t おうようく ゎパく をし わら やす. V- ち はな 

.^^^徒に應用化^チを敎へ てゐる。 それが にゃにゃ 笑 ひながら、 かう 保 古に 話しかけた- 

「おい、 今夜つ き< "はんか?」 

r、.t?_r つ あ,、 ま び 、う /ハ にぎ やう かん _ いっさい り ろん に ひいろ 

保 吉は惡 魔の 微笑の 中に ありあり と ファゥ ストの 二 行 を 感じた。 ——- 「 一 切の 理論 は 灰色 だが、 

みどり こ がね せいく わつ き 

綠な の は 黄金な す 生活 の 樹だ! 」 



310 



んれ ,ノ,、 二に., わ 力 つち かっしゃ ,か ノ、 つ ,> つ けうし つ みな しょ つ ぞ 

彼 は t ぜ 魔に 別れた 後、 校舍の 中へ 靴 を 移した。 敎窒は 皆が らんと して ゐる。 i りすが りに^い 

み ただ あるけ うしつ こくばん うへ き か づ ひと .A ^ f キ, , づ * t o.e 

て 見たら、 唯或敎 窒の黑 板の 上に 幾何の 11 がー つ 描き 忘れて あった。 幾!: の圖 は^が S いたの を. 

知る と、 ? e される と 思った のに 違 ひない。 忽ち 伸びたり 縮んだり しながら 、「次の 時 li に t 入ぎ なの 

です。」 と HI つた。 

や.々 二-ち ^ 力 t-^A つば -ご .,ケ、 すうがく ナ うくわん しつ ナ うくわん しつ あと ま よ 

保吉 はもと 降りた 階段 を 登り、 語學 と數學 との 敎官窒 へ は ひった) 敎官 室に は 頭の g ル げた クウ 

•• ,L ほ 力 らうに うし たいくつ くちぶえ ふ ふ ひと リ 

ン センド 氏の 外に 誰も ゐ ない。 しかも この 老敎: 師は 退屈 まぎれに 口 ^を 吹き 吹き、 一人 ダンス を 

1^ ろ k - ) D や!; i,i ス せう , まま せんめんだい まへ て あら い とき かがみ み 

, 一 みて ゐる 保士 " はちよ いと ir:- 笑した 儘、 洗面 臺の 前へ 手 を 洗 ひに I びった) その 時 ふと 鏡 を见る 

ゝ 、- - , し "いつま び せう ねん か. li やすや. ちじ しん - 一し 2 が は: とう らう 

と 驚レん ことに タウンゼンド 氏 は 何時の 問に か 美少年に 變り、 保吉 自身 は 腰の 曲った 白 頭の 老 

人に i つて ゐた。 

恥 

やみ,^ --ち け-つし つ 、で まへ ム. なら 1;-?、 わしよ したしら ナっ ク-ふ もに- -- 

保 吉は敎 室へ 出る前に、 必す 教科書の 下調べ をした。 それ は 月給 を 貫って ゐ るから、 出たら め 

で ft ノ I, 、ぎ も しん ナぅ くわしよ が,.,?' う * しつじ やう,, 5- * じ やうよう ご たく 

な こと は出來 ない と 云 ふ 義務 心に よった ばかりで はない。 敎科 書に は學 校の 性質 上海 上 川; 語が it 



1 山 出て 來る。 それ を ちゃんと 檢 ベて & 組かない と、 とんでもない 誤譯を やり かねない。 たと /- ま 

3 , い ねこ あし おも か^ 

Cats pjvvv と 云 ふから、 ^の 足 かと m.- つて ゐれ ば、 そよ風た つたり する たぐ ひで ある C 

あるとき かれ に ねんき ふ せいと か-つかい ャ なん ゆう-.'" どし 

或 時 彼 は 二 年 級の 生徒に、 やはり 航海の こと を 書いた、 きと か 「K ふ^ 口 i を, へて ゐた。 それ は 

お,, V : ぁ;,、、〕;^.^ 1 . かビ うな なみ う -f 

恐るべき. „i ^あ 文だった。 マス 卜に 風が t 心ったり、 ハッチへ 浪が 打ち こんだり しても、 その; 仏な り^ 

なり は 少しも 文字の 上へ 浮ばなかった。 彼 は 生徒に 譯讀を させながら、 ^が 射 に辦: i し I: した ^ 

い とき ほどせ いと あ ひて し さう もんだい じ じ もんだ * y ん きょうみ - 

かう 一 ム ふ 時 程 生徒 を相チ に、 思想 問題と か 時事問題 とか を 辯 じたい 興味 に^られる こと はない。 

元 來敎師 と 云 ふ もの は學科 以外の 何もの かを敎 へたがる ものである。 道衡、 き-お、 11 

れん 、 さしつ か と かくけ うくれ しょ こくばん けうし じ しん しく r う ちか な こ 

佧とノ V づけても 差 支へ ない。 鬼に 角 敎科書 ゃ黑板 よりも 敎師 自身 の 心臓に 近い^も のか を? 仏 へ た 

、、 よ L- にくせいと い がくく わ ぐ わ. - な- - *^ , ご 

かる ものである。 しかし 生憎 生徒と 云 ふ もの は學科 以外の 何もの をも敎 はりた がらない もので あ 

保 る。 いや、 敎 はりた がらない ので はない。 絶 亂に敎 はる こと を 嫌メ忠 する ものである。 5^1ー?はさぅ 

セ n 丄ん ^ あ ひ たいくつ き まま やくどく ナす し 

の じて ゐ たから、 この場合 も 退屈し 切った 儘、 譯讀を 進める より 仕 かたなかった。 

-' -, せ +ノ- や,; f?,^ く いちおう みみ かたむ うへ めんみつ あやまり なほ た" くつ とき > 

噸 しかし 生徒の 譯讀に 一 應耳を 傾けた 上、 綿密に 誤 を 直したり する の は 返. 屈しない おでさ/、 ^ 

ら- な" や, マ/ 3 .^-れ いちじ かん ヒ ゆげ ふじ かん さんじつ ぶん 十 ご つち やくどく ちう」 

也 保 吉には 面 便だった。 彼 は 一 時間の 授業時間 を 三十 分ば かり 過した^、 とぅとぅ譯犢を::^.,^さ 



う 一」 こんど かホレ し Z いっせつ よ ゃノ、 だ ナぅ くわし. かう か • あ ひ.;^ にらす-こ ゾ、 

せた。 その代りに 今度 は 彼 自身 一節 づっ 讀ん では 譯し 出した。 敎科 書の 中の 航^ は 不棍變 ?^; を: 

ど, つじ また かれ をし ま たいくつ き.! i かれ む -.ジ つたい よ-一 よん ili" 

極めて ゐた。 同時に 又 彼の 敎へ ぶり も 負けす に 退屈 を 極めて ゐた。 彼 は 無風 帶を橫 ぎる W 船の や 

\ どう f、 み おと くわん けいだいめ いし ま ちが ゆ なや なや . 

うに 動詞の テン スを 見落したり 關係 代名詞 を 間違へ たり、 行き 惱み 行き悩み 進んで;;;: つた。 

うち き み かれ した 一ら き し {rirf 

その 中に ふと 氣が つ い て 見る と、 彼の 下檢べ をして 來た ところ はもうた つた §: 五行し かな かつ 

D そ, 二 ひと とほ こ かい ヒ や-つよう ご あん.. -ぅ み ゆ だん .1 ャ,? うな >^ f - め 

た。 其處を 一 つ 通り越せば、 海上 用語の 暗 碟に滿 ちた、 油, g のなら ない 荒海だった。 彼 は橫: E で 

ノー, ふ 山い み: ; 上かん やす ち-つば まで にじつ ぶん G こ れ で き て- U- し し f- 

時計 を 見た。 時時 は 休みの 喇叭 迄に たっぷり 二十 分は殘 つて ゐた。 彼 は 出來る だけ 叮嚀に、 下檢 

、 で き し _ごビ?、- リ T やく み とす * i り あ ひだ い. ん: で." 

ベの 出 來てゐ る 四 五行 を譯 した。 が、 譯 してし まって 見る と、 時 の, 針 は その^に まだ マ; 分し か 

動いて ゐ なかった。 

わ- せ; ち ぜったいぜつめい ぼ あ ひゆ ゐ いつ 1: つろ せいと しつもん おう 

保吉 は絶體 絶命に なった。 この場合 唯一 の 血路になる もの は 生徒の 質問に 應 する ことだった〕 

じ かん あま はや せん シれ けうく わしょ お しつ 

それでも まだ 時間が 餘れ ば, 早 じ まひ を宣 してし まふ ことだった。 彼 は 敎科書 を IJ^ きながら、 「質. 

もん くち き とつぜん v.- 

^は 」 と 口 を; らうと した。 と、 突然 まつ 赤に なった。 なぜ そんなに まつ 赤に なった か? — 

カオし しん せつ 2 いで き と かくせいと ご ま くら ゐ なん おも は す かれ とき 

—それ は 彼 自身に も說 明出來 ない。 兎に角 生徒 を 護摩 かす 位 は 何とも 思 はぬ^の 彼が その 時 だけ 

う- 八-いと もちろ/なに し か にハ ^ I- • ち 

はまつ 赤に なった ので ある。 生徒 は 勿論 何も 知らす に まじま じ 彼の 額 を 眺めて ゐた。 彼 ほもう 1 



ど と け み け-..' くわしよ と あ はや む ちゃく. * つや V ぶ.』 よ はじ 

3 度 時計 を 見た。 それから、 . I- 敎科書 を 取り上げ るが 早 いか、 無茶苦茶に 先 を讀み 始めた。 

敎科 書の 中の 航海 は その後 も 退屈な ものだった かも 知れない。 しかし 彼の 敎へ ぶり は、 11 保 

さち いまだ かくしん たたか はん^.-ん さう れつ き. -" 

吉は 未に 確信して ゐる。 タイフ ゥン と鬪ふ 帆船よりも、 もっと 壯烈を 極めた ものだった。 

M ましい リま 釘 

あき す么 ふゆ はじめ へん き お,、 と かくが く かう かよ 

秋の 末 か 冬の 初 か、 その 邊の 記憶 ははつ きりし ない.) 鬼に 角學 校へ 通 ふのに ォォヴ ァ • コォ卜 

じ ぶん ひるめし つ とき ちる わか ぶく わんけ うくわん しなり すわ わすき ち 

を ひっかける 時分だった。 午 飯の テニ ブルに 就いた 時、 或 若い 武官 敎官が 隣に 坐って ゐる 保吉に 

い-いき/ ハ にんじ はな に さんに へ しんかう てつ ぬすびと に さんにん がく かう うらて ふ U つ 

かう 云 ふ 最近の 棬蔡を 話した。 i つい 二三 日 前の 深更、 鐵盜 人が > 一三 人學 校の 裘 乎へ 舟 を 着け 

よつ けん や けいち う t:2 る 5 い たんしん かれら たいほ はげ かくとう す, 05 

た。 それ を發 見した 夜 臂 中の 守 衞は單 身 彼等 を 逮捕しょう とした。 ところが 烈しい 格闘の 末、 あ 

み よふ しゅ ゑい ぬ ねす み きし ほ あが もちろん ぬすび A サ 

.、 ベ こべに 海へ 拋り こまれた。 」 ?.. 衞は れ 〔取に なりながら、 やっと 岸へ 這 ひ 上った。 が、 勿論 盗人 

^0. の 舟 は その 問に もう 沖の 闇へ 姿を隱 して ゐた ので ある。 

f 「大沛と云ふ_^.衞ですがね。 莫^ 莫遍 しい 目 に 遇ったです よ。」 

、り 武官 は パン を頰 張った なり、 苦し さう に 笑って ゐた。 



ほ-;, .i;. や;";' でち し し S ゑい なんにん かうたい もん: さは つ しょ ひ,, か : ジ, ..." 

大^ は 保吉も 知って ゐた。 守衛 は 何人 か 交替に 門 側の 詰め所に 控 へて ゐる。 さう して _gln! とお 

くわん と けうく わん て は ひり み たび き-よし ゆ れい ?- に-ち す-,: 

1 目と を 問 はす、 敎官の 出入 を 見る度に、 擧手の禮をすることになってゐる。 _ぁ.|1-:1は^^|^1さ^るり 

も 敬; 1 に 答へ るの も 好まなかった から、 敬禮 する 暇を與 へぬ やうに、 詰め 脱の ぎ を^る K おこ 

あし はや おほうら i し *a る J よう、 め 

足 を rr める ことにした。 が、 この 大 浦と 云 ふ守衞 だけ は 容易に 目つ ぶし を 食 はされ ない。 詰 

よ す ,*J- まま もん うちそと ご ろく けん ざより だ め そそ つ 4* チ-ら : U 

め 所に 坐った 儘、 門の 內外 五六 間の 距離へ 絶えす 目 を 注いで ゐる。 だから 船 jiS の。 きがすえ ると、 

まへ こ うち ナ * :r" 1 しュ -1 1 - J » 

まだ その 前へ 來 ない 內に、 ちゃんともう 敬禮の 姿勢 をして ゐる。 かう なれば IliAiruE 心 ふ M はない。 

^吉 はとうとう 觀 念した。 いや、 観念した ばかりで はない。 この頃 は _k 沛を化 つける が sji- いか、 

がらがら へ び ねら 5i う 

響 尾 蛇に^ はれた 鬼の やうに、 こちらから 帽さ へと つて ゐ たので ある。 

ノ、, ' ぃ,*5. に 、 ぬけび. V ため 5 みな い やす;, 二り ど? ノ 

それが 今 5^ けば 盗人の 爲に、 海へ 投げ こまれた と 云 ふので ある。 傻セ n はちよ いと Mli しながら、 

やはり * 笑 はすに は ゐられ なかった。 

- _..) ,i-K にち:,^ やすきち ていしゃば まち あ ひしつ ぐうぜんお ほうら i つ すん ぉミ. リリ 、!- - 2 i 

すると 五六 日た つてから、 保吉は停車場の待合室に偶然尤沛を發15^,3た。 尤狼は^の歸を^:ルる 

と、 さう 云 ふ 場所に も鼸: ^0 す、 ぴたりと^^,を|_|した:^、 l^iis. に i おの 獻 をした〕 は 

かれ うし , しょ いりぐち み き 

はっきり 彼の 後ろに 詰め所の 入口が 見える やうな 氣 がした) 



らか帳 手 o 吉保 



315 



r?s はこの 問 11 」 

しば、.: くちん ちて つづ のち やす-ざち .H な • 

少時 沈 默が績 いた 後、 保吉 はかう しかけた。 

「ええ、 泥坊 を摑 まへ 損じまして、 —— 」 

「ひどい 目に 遇ったです ね。」 

一 幸 S 怪我 はせ すに すみ ましたが、 —— 」 

お IS ノ 1 て やう うか まま みづ: す ざけ i な つづ 

大浦は 苦笑 を 浮べた 儘、 自ら 嘲る やうに 話し 績 けた。 

- 無现 にも 摑ま へようと ば、 一人 位 は摑ま へられた のです。 しかし 摘まへ て见 たと ころ 

はなし 

が、 それつ きりの 話です し、 ,11 」 

「それつ きりと ふの は?」 . 

なや 、うよ なに もら、 いば あ ひ い め "ふス ふ; * さ ?, - 

一 ,與も 何も 賞へ ない のです。 さう 云 ふ 場合、 どうなる と 云 ふ 明文 は 守 衞规则 にありません から、 

一 

「職に 殉 じても?」 . . . 

「職に 殉 じて でもです。」 , 



315 



ゥナ t 二つ おほうら み おほうら じ しん ことば かれ かなら す .?,, し > っレ と 

保吉 はちよ いと 大浦を 見た。 大浦 自身の 言葉に よれば、 彼は必 しも 勇士の やうに、 ,1 死 を 賭し. 

しょうよ だ さん C は うへ とら ぬすびと ノ-- iLt 

て かかった ので はない。 賞與を 打算に 加へ た 上、 捉 ふべき 盜人を 逸した ので ある。 しかし i . 保 

t ち,、! t?;」&„ ^一一- だ, : , で き くわいく わつ 5 なづ み 

吉は卷 煙草 をと り 出しながら、 出來る だけ 快活に 頷いて 見せた。 

なる ほ.. V ばかば か き けん を か そん ゎナ 

一 成程 それ ぢゃ 莫遍 莫邀 しい。 危險を 冒す だけ 損の 訣< です ね。」 

ふほうら なん い くせ へん う 

大浦は 「は あ」 とか 何とか 云った。 その 癖變に 浮かな さう だった。 

しゃうよ で 

一 たが 賞與さ へ 出る となれば、 —— 」 

やすきち いうう つ ノ 

保吉 はや や 憂鬱に 云った。 

「、--、、、 } レバ li^ よ 、 で - たれ き けん を か また ナニ ぎ もん 

I た 力 :m 與さ へ 出る となれば、 誰でも 危險を 冒す かどう かつ — そ い つも 亦 少し 疑問です ね。」 

^^^^.^J^ こ, んマ - ^ま や ナ きち おばこ く は きふ かれ じ し/ す ひ 

大湘は 今度 は默 つて ゐた e が、 保吉が 煙草 を啣 へる と、 急に 彼 自身の マッチ を 擦り、 その 火 を 

や せち,. Z 一 ゝ ■ やす そち あか なび ほ C ほ た. さき うつ おも くち つ ご び 

保吉 の^へ 5! した。 保 吉は赤 あかと 靡いた 焰を 煙草の 先に 移しながら、 忍 はす 口 もとに 動いた 微 

笑 を 悟られない やうに 噴み 殺した。 

ありがた 

「難 有う ピ 

「いや、 どうしまして。」 . 



りか 帳 手の 吉は 



317 



.Ka クっら こと f とも 一. -こ かへ やすきち 二ん にち 

5<;沛 は さりげない 言 紫と 共に、 マッチの 箱 を ポケットへ 返した。 しかし 保吉は 今日 もな ほこの 

、ざ しか. a 1 少 " つ ^/^f しん いってん ひ やすきち ため 、 、 

1^ ましい」^ 11 のぎ!^ を ず^した ことと 信じて ゐる。 あの 一 點の マッチの 火 は 保 吉の爲 にば かり 擦 

じつ おほうら ぶ し だう めいめい うち せう らん たま かみがみ たど ュノ ' D 

られ たので はない。 實に大 浦の 武士道 を 冥冥の 裡に照 M し 給 ふ 神神り 爲に 擦られた ので ある 

C 大正 十二 年 四月) 



313 



I 
I 



320 



芽め ぎ 
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ふ す 

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た 白お 
生!; と 

垣ぎ 云い 
せ 丄、 

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白お の。 
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I 

ある はる ひるす 

或 春の 午 過 

が は 

侧 にはュ ^ つ と 

そ あるよ こちゃう まが まが おも 

生垣に 沿 ひながら、 ふと 或 横町へ 曲り ました。 が、 そちらへ 曲った と 思 ふと、 さもび つくりした 

—こ つ ぜんた どま 

やうに、 突然 立ち 止って しま ひました。 

ノ む り, よこち やう しち はち けん しるしばんてん き いぬ ころ ひ. V り わな うしろ か/、 

それ も 無理はありません。 その 横町の 七 八 間 先に は 印半纏 を 着た 犬 殺しが 一人、 lis- を 後に し 

いっぴ チ、 - くろい ぬ ねら くろい ぬ なに し 、ぬ 二ろ な 

たま ま、 一匹の 黑犬を 狙って ゐ るので す C しかも 黑犬は 何も 知らす に、 この 犬 殺しの 投げて く, し 

なに た しろ おどろ み 

た。 ハ ン か 何 かを复 ベて ゐる のです。 けれども 白が 驚いた の は そのせ ゐ ばかりではありません。 見 

•i^ 、 い.^ 、 i いまい ぬ ころ ねら となり かひい,, :! くろ まい あ 5 かほ あ. I 

知らぬ 犬なら ば ともかくも、 今 犬 殺しに 狙 はれて ゐ るの はお 隣の 飼犬の w:i なのです。 ハ母 朝;^ を 合 

たび たが ひ はな に ほ. ひ か あ だい な, ノ くろ 

せる 度に お 互の 鼻の 与 を ぎ 合 ふ、 大の 仲よ し の 黑な の です C 



しろ おも お ほ: ご ゑ くろ くん ざけ ひやう し 、ぬ ころ 

白 は m.- はす 大 藤に 「黑 君! あぶない!」 と 叫ばう としました。 が、 その 拍子に 犬 殺し はじろ り 

しろ め をし みき さま さき わな 、, ぬ ころ め 

と 白へ 目をやりました。 「敎 へて 見ろ! 貴様から 先へ 层 にかけ る ぞ。」 —— 犬 殺しの に はあり あ 

い おどか うか しろ あま おそ おも ほ わす 

りと さう 云ふ嚇 しが 浮んで ゐ ます。 白は餘 りの 恐ろし さに、 思 はす 吠える の を 忘れました。 いや、 

わす いつ- 7、 ほど おくび やう かぜ た だ しろ 

忘れた ばかりではありません。 一刻 もぢ つと して は ゐられ ぬ 程、 臆病風が 立ち 出した のです。 白 

いぬ ころ め くば あと はじ また-,, ナがき かナ -ぬ ころ すがた 

は 犬 殺しに 目 を 配りながら、 じりじり 後す ざり を 始めました。 さう して 又 生垣の 蔭に 犬 殺しの 姿 

かく はや かはい くろ つ こ いちもくさん に だ 

が隱れ るが 早い か、 可哀 さうな 黑を殘 した まま、 一目散に 逃げ出しました。 

と たん わな と つづ くろ な ご ゑ さ こ しろ 

その 途端に 昆が 飛んだ のでせ う。 綾け さまに けたたましい 黑の 鳴き 聲が 聞え ました。 しかし 白 

は; 5 き 返す どころ か、 足 を 止める けしき もありません。 ぬかるみ を 飛び越え、 15 ころ を縱 散らし、 

力?. や なパ i すくぬ ごみ, はこ ひ かへ ふむ に つづ n 

往來 どめの 繩を 擦り抜け、 五味た めの 箱 を 引っくり返し、 板り 向き もせす に 逃げ 核け ました。 御 

らん さか か じ どうしゃ ひ しろ 、のち た 4*- 

覽 なさい。 坂 を 駅け おりる の を! そら、 自動車に 蝶 かれさう になり ました! 白 はもう 命の 助 

む, ちう し しろ みみ そこ いまだ くろ な ご ゑ あぶ 

かりた さに 夢屮 になって ゐ るの かも 知れません。 いや、 白の -pt の 底に は 未に 黑の. き 藤が 虻 S や 

うな 

うに t.^ つて ゐる のです。 

たす . たす 

「きゃあん。 きゃあん。 助けて くれえ! きゃあん。 きゃあん。 助けてく^ え!」 



二 

しろ あへ おへ しゅじん いへ かへ き くろべ い した いぬ ぬ ものお キ-- ご や まよ 

白 はやつ と 喘ぎ 喘ぎ、 主人の 家へ 歸 つて 來 ました。 黑 S. の 下の 犬く ぐり を拔 け、 物置 小屋 を 凰 

いぬ ご や う, いに は しろ ほ とん かぜ らには しばふ .f 

りさへ すれば, 犬小屋の ある 裏庭です。 白 は 殆ど 風の やうに、 裹. i の 芝生へ 跃 けこみました。 も 

こ こ に く わな しんば い あ を しばふ V-1 よ 

ぅ此處 まで 逃げて 來れ ば、 g 民に かかる 心配はありません。 おまけに 靑ぁ をした 芝生に は、 お 

ぢ やう ぼつ な あそ みしろ うれ なし * , 

姨 さんや 坊ちゃん も ポオ ル 投げ をして 遊んで ゐ ます。 それ を 見た 白の 嬉し さは 何と 云 へ ば奵 いの 

しろ しつ II ふ いっそ 二と そこと ゆ 

でせ う? 白 は 尻尾 を 振りながら、 一足飛びに 其處へ 飛んで 行きました。 

ぢ やう ぼつ け ふ いぬ ころ あ 

「お嬢さん! 坊ちゃん! 今日は 犬 殺しに 遇 ひました よ。」 

しろ ふたり みあ いき い もっと ぢ う 、な こと i 

白 は 一. 一人 を 見上げる と、 息 もっかす にかう 云 ひました。 (尤もお 纏さん や 坊ちゃんに は 犬の, 紫 

ケニ け ふ in わ う 

はわ かりま せんから、 わんわん と 聞え る だけな のです。) しかし 今 曰 はどうした のか、 お 嫂さん も 

ただ あっけ あたま な しろ ふ し ぎ おも 

! ちゃん も 唯 呆氣に とられた やうに、 頭 さへ 撫でて はくれ ません。 由 は 不思議に 思 ひながら も、 

いちど ふたり は な 

もう 一 度 一 一人に 話しかけました。 

1 - まう いぬ ころ ご ぞ ん おそ つ 

i ふ孃 さん! あなた は 犬 殺し を 御存じで すか? それ は 恐ろしい やつです よ。 i5 ちゃん! わ 



たす となり くろ くん つか 

3 たし は 助かり ましたが、 お 隣の 黑君は 摘まり ました ぜ。」 

2 

3 ぢ やう ぼつ かほ み あは ふたり し- H らく 

それでもお 孃 さんや 坊ちゃん は顏を 見合せ てゐ るば かりです。 おまけに 二人 は 少時す ると、 こ 

めう い だ 

んな 妙な こと さ へ 云 ひ 出す のです。 

ど こ いぬ はるを , 

「何處 の 犬で せう? 春 夫さん。」 

ど こ いぬ ねえ 

「何 處の犬 だら う? 姊 さん。」 , 

ど こ いぬ こんど しろ ± う あっけ しろ ぢ う ザ、 つ 二とば 

何處の 犬? 今度 は 白の 方が 呆氣に とられました。 (白に はお 壞 さんや 坊ちゃんの 言葉 もちやん 

き で き われわれ いぬ ことば いぬ われわれ 

と 聞き わける ことが 出來 るので す。 我我 は 犬の 言葉が わからない ものです から、 犬 もや はり 我我 

ことば かんが じつざい いぬ けい われ 

の 言葉 はわから ないやう に考 へて ゐ ますが、 實際 はさう ではありません。 犬が 藝を覺 える の は 我 

われ ことば われわれ いぬ ことば き つ き やみ. なか 

我の 言葉が わかる からです。 しかし 我我 は 犬の 言葉 を 聞き わける ことが 出來 ません から、 問の 屮 

み とほ に ほひ か あ いぬ をし げぃ ひと お ぼ 

を 見通す こと だの, かすかな 勻を g< ぎ當 てること だの、 犬の 敎 へて くれる 藝はー つも 覺 える こと 

が出來 ません。) 

ど 二 いぬ しろ 

「何處 の 犬と はどうし たの です? わたしで すよ! 白です よ!」 

Q ぢ やう あ ひか はらす き み わる しろ なが 

けれども お嬢さん は 不相變 氣味惡 さ う に 白 を 眺め て ゐ ます。 



324 



となり くろ ふ-やう だ 

「お 隣の 黑の 兄弟 かしら?」 

I くろ き や 5 だい L ^つ か々? ぶ. - J こ 

1 黑の 兄弟 かも 知れない ね。」 坊ちゃん もバ ッ トを おもちゃに しながら、 考 へ^さう にあへ ましな。 

からだ ぢぅ くろ 

「こ い つも 體中 まつ 黑 だから。」 

しろ きふ せなか け さかだ かん くろ よす -リ 

白 は 急に 背中の 毛が 逆立つ やうに 感じました C まつ 黑! そんな 5;.;: はありません。 .5 はま だ 子 

いぬ とき 5*11 うに ゆう しろ 1 ままへ あ メ ス ま/ レ 

犬の 時から、 牛^の やうに 白かった のです から。 しかし ケ 前足 を 化る と、 いや、 11 々IH 止ば かり 

、 むね はら あとあし ヒ やう-ひん つ しつお J< くそ こ 

ではありません 胸 も, 腹 も、 後足 も、 すらりと 上品に 延びた 尻尾 も、 みんな 鍋".^ の やうに まつ 

く^ くろ くろ しろ き ち v> と ちが よ まよ 

黑 なのです。 まつ 黑! まつ 黑! 白は氣 でも 違った やうに、 飛び 上ったり、 ,s ね 凰ったり しな 

いっしゃう けんめい ほ た 

がら、 一生懸命に 吠え 立てました。 

はるを いぬ き やう けん 

I あら どうし ませう? 春 夫さん。 この 犬 はきつ と 狂犬 だ わよ。」 

;っ卞 う そ こ た いま な こ ゑ だ m つ ゆ, 

お嬢さん は 其處に 立ちす くんだ なり、 今にも 泣き さうな 聲を 出しました。 しかし 坊ちゃん は 

^ - , しろ た. -ゥま ひだ リ かた う おも --ど あこ まう、 

敢 です 白 は 勿 亡り 左の 肩 を ぼかり と バットに 打 たれました-し と m 心 ふと 二度::: の バット も 頭の. 1^ へ 

と き しろ した はや もとき .H う に バこ こんど 

飛んで 來 ます。 白 は その 下 をく ぐるが 早い か、 元來た 方へ 逃げ 屮: しました。 けれども 今度 はさつ 

いっち やう にちやう に だ . し f>) --pry き 

きの やうに、 一町 も 二 も 逃げ出し はしません。 芝生の は づれに はは 桐の 木の かずに、 ク リイ ム 



いろ » いぬ ご や しろ いぬ-. 1 やまへ く ち ひ しゅ ヒん ふ か 《 

5 €3 に 塗った 犬小屋が あります。 白 は 犬小屋の 前へ 來 ると、 小さい 主人た ち を 掘り返り ました。. 

3 ぢ やう ぼつ しろ くろ 

1 お嬢さん! 坊ちゃん! わたし は あの 白な のです よ。 いくら まつ 黑 になって ゐて も、 やつば 

り あの 白な のです よ。」 

しろ こ ゑ なん い かな いか ふる ぢ やう IK つ 

白の チれル は 何とも 云 はれぬ 悲し さと 怒りと に:! へ てゐ ました" けれどもお 媲 さんや 坊ちゃんに は 

い しろ こころ , ^す げん ぢ やう にく 

さう 云 ふ 白の 心 もち も 一 杏み こめる 箸はありません。 K にお 孃 さん は惜 らし さう に、 「まだ あすこ こ 

ほ づ うづう のらいぬ ぢ ふ ;ょ r- 

吠えて ゐる わ。 ほんた うに 圖闘 しい 野良犬ね。」 などと、 地 だん. だを路 んでゐ るので す。 坊ちゃん 

ぼつ こ みち ド やり ひろ ちからい つ しろ な 

も、 11 坊ちゃん は 小徑の 砂利 を 拾 ふと、 力 一 ばい. S へ 投げつ けました。 

ちくしゃう ぐ づ ぐ づ 

「畜生! まだ 愚 岡 愚 11 して ゐ るな。 これで も か? これで も か?」 

砂 c^: は 緩け さまに 飛んで 來 ました。 中には 白の.;: ir のつ け 根へ、 血の 渗む 位當 つたの もあります。 

しろ しっぽ ま くろべ い そと だ くろべ い そと まる ひ ひかり ん :, よ あ 

白 はとうとう 風 尾 を卷 き、 黑鮮の 外へ ぬけ 出しました。 黑 解の 外に は 春の 日の 光に 銀の 粉 を 浴び 

も 一, * し-ろ VJ>!^ » ^ i wr- ふ 一 

た 紋白蝶が 一 羽、 t 浙樂 さう に ひらひら 飛んで ゐ ます。 

やどな いぬ 

「ああ、 け ふから 無し 犬になる のか?」 

白 しろ いき も しばらく た * おでんち う した そら なが 

白 はため,:: ブゲ J:^ らした まま、 少時 は 唯 電柱の 下に ぼんやり 签を 眺めて ゐ ました。 



三 

ぢ やう つ おお しろ とうき や うぢう ある ど こ 

ぉ孃 さんや 坊ちゃんに 逐ひ 出された 白 は 東京 中 をう ろうろ 步 きました。 しかし 何處 へ どうして 

、 f.!r ン で き くろ すがた しろ きゃく かほうつ り よって, > 

も 忘れる ことの 出來な いのは まつ 黑 になった 姿の ことです。 白 は 客の 顏を 映して ゐ る理髮 店の 

ふみ お., 1^ あま あが そら うつ わう らい みづ おそ わ うら 1 わか ズ う J 

鉸を 恐れました。 雨上りの 空 を 映して ゐる 往來の 水たまり を 恐れました。 往来の 若紫 を 映して ゐ 

うざり まど * 力 ラ ス おそ くろ と., こ 

る 飾 窓の 础子を 恐れました。 いや、 カフ H のテェ ブ ル に黑ビ ィル を湛へ てゐる コップ さへ、 —— 

ン 、>- ^"ん - じ どうしゃ ご らん こう ゑん そと 

けれども それが 何に なり ませう? あの 自動車 を御覽 なさい。 ええ、 あの 公園の 外にと まった、 

.tf は く; "-ぬ じ どうしゃ ,つるし ひか じ どうしゃ しゃたい いま ある く しろ すがた >; 'つ 

大きい 黑 塗りの 自動車です。 漆 を 光らせた 自動車の 車 體は今 こちら へ 步ぃ て來る 白の 姿 を 映し ま 

力え み しろ すがた うつ きゃくまち じ どうしゃ いた 

しん はっきりと 鏡の やうに。 白の 姿 を 映す もの は あの 客 待の 自動車の やうに、 到る とこ 

わ.. 5 > ノみ しろお そ しろ かほご 

ろに ある 訣 なのです。 もし あれ を 見た とすれば、 どんなに 白 は 恐れる でせ う。 それ、 .G の 額 を 御 

丄 ^ しろ ズる _ うな > おも fc ちま こうもん なか か 

覧 なさい。 白 は 苦し さう に t 心った と 思 ふと、 忽ち 公園の 中へ 駅け こみました。 

なか けす かに f-.A ば- .A ぜ わた しろ あたま た き ぎ あ ひだ ある 

公園の 中には 鈴懸の 若葉に かすかな 風が 渡って ゐ ます。 白 は 頭 を 垂れた なり、 木木の 11 を 歩い 

ゆ こ こ さい は いけ ほか すがた うつ み あた もつ おと ただしら ば ら れ ノリ 

て 行きました。 此處に は 幸 ひ 池の 外に は、 姿 を 映す もの も見當 りません。 椒昔は 唯, U 齊蔽に 群が 



白 



327 



はち ニム きこ しろ へいわ こう. J; ん くうき しばらく ,で,.: く くろい ぬ ひ かな 

る 蜂の 聲が 聞え るば かりです。 白 は 平和な 公園の-さ 氣に、 少時 は 醜い 黑犬 になった 日ごろの 悲し 

さも 忘れて ゐ ました。 

い かつ ふく ご ふん つづ 一 しろ ただ はめ なら 

しかし さう 云 ふ 幸; i さへ 五分と いたか どうか わかりません。 白 は 唯 夢の やうに、 ベンチの; 

みち で みち まが かど むか いぬ こも おこ 

んで ゐる路 ばた へ 出ました。 すると その 路の 曲り角の 向う にけ たたまし い 犬の 聲が 起った のです。 

「きゃん。 きゃん。 助けて くれえ! きゃあん。 きゃあん。 助けて くれえ!」 

しろ おも み ぶる こ ゑ しろ こころ なか おそ くろ さ、 ご いちど 

白 は 思 はす 身. 震 ひ をし ました。 この 聲は 白の 心の中へ、 あの 恐ろしい 黑のは 取 後 をもう 一度 はつ 

うか しろ め もとき はう に だ 

きり 浮ばせた のです。 白 は をつ ぶった まま、 元來た へ 逃げ出さう としました。 けれども それ 

ことば ど ほ いっしゅん あ ひだ しろ す さま T な ご ゑ も また ふ かへ 

は 言葉 通り、 ほんの 一瞬の のこと です。 白 は 凄じい t わり 聲を 洩らす と、 きりり と乂; ^り 返り ま 

した。 

参 

「きゃあん。 きゃあん。 助けて くれえ! きゃあん。 きゃあん。 助けて くれえ!」 

こ ゑ またし ろ みみ い ことば きこ 

こ の 聲は乂 白の 耳 に はかう 云 ふ 言葉に も 聞え るので す。 

おくび やう お,、 び やう 

1 きゃあん。 きゃあん。 臆病 ものに なるな! きゃあん。 臆病 ものになる な!」 

しろ あたま ひく はや こ ゑ はう か だ 

白 は 頭 を 低める が 早い か、 聲の する 方へ 駅け 出しました。 



328 



けれども 其 處へ來 て 見る と、 白の 目の前へ 現れた の は 犬 殺しな どではありません。 f|:g の 

— Z ヽ 、 ふ,;:,;" キへ こ ども に さんにん くび な は ちゃ-ろ 二-,. -少 

りら しレ 5^ 服 を 着た 子供が 二三 人、 頸の ま はりへ 繩を つけた 茶^の 子 力 を きすりながら、 K 

力 わいわい 騷 いで ゐ るので す。 ff 犬 は 一 生 懸命に 引き すられまい ともがき もが き、 「聯 けて くれ 

え。」 と 繰り返して ゐ ました。 しかし 子供た ち はそんな 聲に 1:^ を砟 すけし きもありません C flj^ つ 

: ゝ ど、、 な- あるひ また こ いぬ はら くつ ナ 

たり 怒鳴ったり、 或は 又 子犬の 腹 を 靴で 縦ったり する ばかりです。 - 

白 は 少しもた めら はすに、 子供た ち を rz がけて g え かかりました。 たれた 慨 たち は 

驚いた の 驚かない のではありません。 叉 の Sj, はだの やうに きえた 1 の § と^ひ、 の 

やうに むき 出した 牙の 列と 云 ひ、 今にも gi みつく かとぎ ふ 化、 恐ろしい けんまく をが せて ゐ るの 

こ ども し はう : ち な ,^ あ t つう f , 5 

です。 子供た ち は 四方へ 逃げ 散りました。 中には 餘 り狼狎 r した はすみ に、 % ば たの へずび こ 

ん だの もあります。 白 は 二三 間 追 ひかけ た 後、 くるりと 子 力 を^り ^ ると、 ^る やうに かう g を 

かけました。 . 

1 、 I つ こ まへ. T ち おく 

「さあ おれと 一 しょに 來ぃ。 ぉ前の家まで^;^!^ってゃるから。」 

しろ もとき き ぎ あ ひだ まこ. - 5 .> - ろ * , 

白 は 元來た 木木の 間へ、 まっしぐらに 又跃 けこみました。 茶色の 子お もぶ? しさう に、 ベンチ を 



d ら ち しろ ま はし き くび i,*: が ,ベ,' なよ 

9 くぐり, |1 藻 を 鋭 散らし、 白に 負けまい と 走って 來 ます。 まだ 頸に ぶら 下った、 長い 紘を ひきす 

2 

りながら。 

X X X X X X 

に さんじ かん C ち しろ まづ まへ ちゃいろ こ いぬ たたす ひる うすぐら 

二三 時間た つた 後 白 は 貧しい カフ H の 前に 茶色の 子犬と ひんで ゐ ました。 晝も簿 1= い カフ ェ 

なか あか でんとう おと ちくおんき なに は ぶし な: 

の 中にはもう 赤 あかと 電燈 がと もり, 音の かすれた 蓄昔機 は 浪花節 か 何 かやって ゐる やうです。 

こ いぬ とくい を ふ しろ ま i • 

子犬 は 得意 さう に 尾 を 振りながら、 かう 白へ 話しかけました。 

ぜく ここ す, たいしゃう-けん い なか ど,, す 

「僕 は此 虎に 住んで ゐ るので す、 この 大正 軒と 云 ふ カフ ェの 中に。 —— をぢ さん は.:^^ に 仏んで 

ゐ るの です?」 

とほ まち 

「を ぢ さんかい? をぢ さん は —— す つ と 遠 い 町に ゐ る。」 

白 は 寂し さう にため き、 ぞ」 しました。 

「ぢ やもう をぢ さん は 家 へ 51 らう。」 

白 「まあお 待ちなさい。 をぢ さんの 御主人 はや かまし いのです か? 一 



330 



こ r: ゅヒん また た-つ 

「御主人? なぜ 叉 そんな こと を 尋ねる の だい?」 

ご し^2レん こんや こ こ とま い くだ ぼく か あ 

「もし 御主人が やかましくなければ、 今夜 は 此處に 泊って 行って 下さい。 それから 僕のお 母 さん 

い G.^ びろ おれい い C だ ぼく うち ぎう にゅう 

にも 命 拾 ひの 御 禮を云 はせ て 下さい。 僕の 家に は 牛 5^ だの、 カレ H- ライス だの、 ビフテキ だの 

いろいろな 御馳走が あるので す。」 

よう ご ち そ, つ つ: V 

「ありがたう。 ありがたう。 だが をぢ さん は 用が あるから、 御馳走になる の はこの 次に しょう。 

まへ か あ 

—— ぢ やお 前のお 母さんに よろし くピ 

しろ そら み しづ しきいし うへ ある だ そら や ね 

白 はちよ いと 穴 1 を 見てから、 靜 かに 敷石の 上 を步き 出しました。 i や; に は カフ H の 屋根の はづれ 

み か づき ひか だ 

に, 三日月 も そろそろ 光り 出して ゐ ます。 

「を ぢ さん。 をぢ さん。 をぢ さんと へば!」 

こ いぬ かな はな な 

子犬 は 悲し さう に 鼻 を.^ T らしました。 

な まへ さ くだ K く まへ い こ 5 

「ぢゃ 名前 だけ 聞かして 下さい。 僕の 名前 はナボ レ オンと 云 ふので す。 ナボ ちゃんだ の ナボ公 だ 

い なまへ なんい 

のと も 云 はれます けれども。 —— をぢ さんの 名前 は 何と 云 ふの です?」 

な まへ しろ い 

一 をぢ さんの 名前 は 白と 云 ふの だよ。」 



,し, ノ しろ い ふしぎ どこ くろ 

「白 —— です か? 白と 云 ふの は 不思議で すね。 をぢ さん は 何 處も黑 いぢゃありません か?」 

3 

白 は 胸が 一ば いに なりました。 . 

しろ い 

. 「それでも 白と 云 ふの だよ。」 

しろ い しろ %J ひ またち か ,つち いちど 々- くだ 

r ぢゃ 白の をぢ さんと 云 ひませ う" 白の をぢ さん。 是非 叉 近い 內に 一度 來て 下さい。」 

「ぢ ゃナボ 公、 さよなら!」 

「御機嫌 好う、 白の をぢ さん! さやうなら、 さやうなら!」 

四 

のち しろ いちいち はな しんぶん つた 

その後の 白 はどうな つた か.. —— それ は 一 一 話さす とも、 いろいろの 新 間に 悔 へられて ゐ ます。 

およ ご そん たびたび あや ふ じんめい すく いさ いっぴき くろい ぬ またい ちじ 

大か たどな たも 御存じで せう。 度度 危ぃ 人命 を 救った、 勇ましい 一 匹の 黑 犬の あるの を。 乂 一 時 

ぎ ナぐ い くわつ どうしゃ しん りう かう くろい ぬ しろ ふ かう I ご 

『義^』 と 云 ふ 活動 寫 腐の 流行した こと を。 あの 黑犬 こそ 白だった のです。 しかし まだ 不幸に も 御 

ぞん かた しも いんよう しんぶん き じ よ くだ 

存じの ない 方が あれば、 どうか 下に 引用した 新聞の 記事 を 讀んで 下さい。 

J とらき やうに ちにち しんぶん クノ、 じふ はちに ち ごぐ わつ r】 ぜん はち じ し じっぷん あう う せ Z のぼ キ ぶかう れっしゃ たばた えきふ きん ふみきり つう 

ビ 東京 日日 新聞。 昨 十 > 八日 (五月) 午前 八 時 四十 分、 奧羽線 上り 打 列車が 田端驛 附近の 路切を 通 




S する i、 msBt ニーき 驚 II お ま 鍵 襲 (I: ぎが t ま I る 

せ; j ろ、 な- - た い あや ふ れきし と 上き たぐ ま く ろ > 1 っメ や- ,ス や? 

線路 e に 立ち 人り、 危く蝶 死 を 遂げよう とした。 その 時 逞しい が J ぎ、 £1! の やうに き饥へ 

^^^^ . 、、 もく ザん ま, J れっしゃ しゃりん み 3 と さね ひ-一 すく だ ^.^^c くろ" ぬ 

ぴ こみ rs 御に 迫った 列車の 車輪から、 見事に 實彥を 救 ひ 出した。 この「^-敢なる黑ぉはだ^の 

立騷 いで ゐる 問に 何處 かへ 姿 を i した i、 いたいに もす る ことが Iz^ す、 15!!^ おいに K つ 

てゐ る。 

とう. や ひ,^ £ ぶん かる ゐ ざ は ひ しょちう ふが う し,^ * こ - . 

東京 朝日 新聞。 輕 井澤に 避 暴 中の アメリカ 富豪 H ドヮ アド • バ アクレ H 氏の V ^はべ ルシア ォ I 

) . に. つ?、 い: 3 - V へ,^^,^ どうし べつ さう しちし やく あま だいじゃ あら は .3 こ C 

の^を tc 霞して ゐ る。 すると;: 取 近 同氏の 別莊へ 七尺餘 りの 大蛇が 現れ、 ヴェ ランダに ゐ るぎ をが 

まう とした。 議 i あ ひに & けつけ、 ゴ S にず 薩の, ,-」 

うとう その 大蛇 を 嚼 み 殺した。 しかし このけ なげな おは!: まか ヘ^ビ li した!!、 だ M は li-^i の 

しゃう きん か いぬ ゆく へ もと 

賞金 を 懸け、 犬の 行方 を 求めて ゐる。 

no アル ブス gi、 Tsl-^ になった iT 霸靈 のき きは%(?^ 

51 露の 靈へ, た。 Tm は |蘭と g ケ i あ Is をお 下 i ま爵 ずに 豪 Is 

だつ ;。 づ , . ため、 ほ とん し かくご しか ど -; くろ" な 1 っゾき 、つぎ 

等 を 奪 はれた 爲 ? 2^ ど 死を覺 悟して ゐた。 然るに 何 鹿から か黑 4< が,. 一 匹、 -, 一 竹の さまよって ゐ. J 、- 



I 



けいこく あら は あたか あ X ない さき た ある だ 一つ かう 、ぬ あと し JJ が - ち- -.^ あま 

3 溪 谷に 現れ、 も チズ. £ をす る やうに、 先へ 立って 歩き 出した C 一行 はこの 犬の 後に 從ひ、 I 一日 餘 

3 ある のち かみ かう ち ちゃく でき いぬめ しヒ をし せん ひど r 、ュ み 

り 歩いた 後、 ゃっと上高地 へ、^|5することが出來た。 しかし犬は11:1の下に?;|^:水.;^の:1£^根が见ぇると、 

ひとに; れ , ほ, ► いちど き くまざさ なか すがた かく い いつかう なな 

1 聲嬉 しさう に^えた きり もう 一度 もと 來た熊 被の 中へ 姿 を 隱 して しまったと 云 ふ。 一行 は 皆 

この 犬が 來 たの は 祌 の 加護 だと 信じて ゐ る。 

じ, じト丄 んばレ つ,, - じふさん にち、 くぐ わつ な つ 一 や し たいく わ ^-ぅし しゃじ ふよめ い およ よ- i ぜキ- な ご や しちい う 

時事 新報。 7- 三日 (九月) 名 古 星. の 大火 は燒 死者 十餘 名に 及んだ が、 横關 名古屋 市. おな ども 

あいじ う— な ひとり れいそくた け C り V.- ん さい いか か ぞく て おち ま-つく b な.;, に ^ . 

愛 兒を失 はう とした 一人で ある。 令. 总武矩 (三 歳) は 如何なる 家族の 手 落から か、 猛火の 巾の 二 g 

9- こ ノ> すで べゎ^;じん いっぴき くろい: a ため く は だ しちやう こぐ, ご な ご 

に殘 され 旣に灰 儘と ならう としたと ころ を、 一 匹の 黑 犬の 爲に 啣へ屮 U された。 市-: K は 八/後名 古 

や し かぎ や けんぼく さつ きん .V 

屋^に 限り、 野犬 撲殺 を禁 すると 云って ゐる。 

ひみ 一つり- を、 だ はら.; "ちじ やうない こう ゑん れんじつ にんき あつ みやぎ じゅんく わいどう ぶつ ゑん さん 2 な.: f- ほかみ 

讀賣 新聞。 小 田 原 城內 公園に 連日の 人 氣を藥 めて ゐた 宮城 巡お 動物園の シ ベリ ャ 鹿大; ^は 

に-じ-ふご にち, ひふぐ わつ 二 ご に じ とつ ビ くがん じょ-つ をり やぶ き どばん に めい ふ I や-つ のち i こ ft +S うめ,; - , 3 

二十 五日 (十月 Xt 後 二 時 ごろ、 突然 厳乘 な^を 破り、 木戶 f 一名 を 負傷 させた 後、 根: ^1 へ f〕 

そう を だ はらしよ ため ひひ やう どろ ゐん おこな ぜんち やう .7 た け", か, V- ん し -ご n I , ± ; 

走した。 小 ^ 原署は その 爲に 非常 動員 を 行 ひ、 全 町に 1^ る 戮戎 線 を 布いた。 すると 亇後 時ャご 

. f ぎ お ほかみ じふ じ まち あら は いっぴき くろい ぬ か あ はじ くろい ぬ あく i.- んす こぶ つと つ-!' VJ き ^ 

ろ 右の 狼 は 十字 町に 現れ、 一 匹の 黑 犬と 嚼み合 ひ を 初めた。 i ぷ犬 は惡戰 頗る 努め、 遂に 敝 を^み 

白 ふ - いた そこ けいかいち う じゅんさ か ただ お ほかみ ド ゆう V, ン お ほか スメ 

伏せる に 至った。 共處へ 警戒 中の 巡 亮も跃 けつけ、 直ちに 狼 を 銑 殺した。 この 狼はル ブス • ヂガ 



しょう もっと きょう まう しゅぞく い みやき どうぶつ.^ ー乂 しゅ お ほ >ハ み .i- ゆつ V つ ふ たう を 

ンテ イクスと 稱し、 最も 兇猛な 種屬 であると 云 ふ。 なほ 宮城 動物園 主 は 狼の 銑 殺 を不當 とし、 小 

だはら しょち やう あ ひて こくそ おこ とう とう とう 

田 原 署長 を 相手 どった 告訴 を 起す といき まいて ゐる。 等、 等、 等。 

ある あき ま よ なか からだ こころ つか き しろ しゅじん いへ かへ き もちろん ir- やう ぼつ 

或 秋の 眞夜屮 です。 體も心 も 疲れ切らた 白 は 主人の 家へ 歸 つて 來 ました。 勿論お 嬸 さんや 坊ち 

とこ いま たれ ひとり お 

やん はとうに 床へ は ひって ゐ ます。 いや、 今 は 誰 一人 起きて ゐる もの もあります まい。 ひっそり 

うらに は しばふ うへ ただたか しゅろ き 二す ゑ しろ つき いちりん うか しろ むかし いぬ 

した 裘 庭の 芝生の 上に も、 唯 高い 粽櫚の 木の 稍に 白い 月が 一輪 浮んで ゐる だけです。 白 は 昔の 犬 

n やまへ つゆぬ からだ わす V, び つき あ ひて ひとり-ごと はじ 

小屋の 前に、 露に濡れた 體を 休めました。 それから 寂しい 月 を 相手に、 かう いふ 獨; 諧を 始め まし 

た。 

つきさ ま つき ざま くろ くん み ごろ からだ くろ 

「お 月樣! お 月樣! わたし は 黑君を 見殺しに しました。 わたしの 體 のまつ 黑 になった の も、 

お ま おも ぢ^,-っ ぼつ わか ま を 

大 かた そのせ ゐ かと 思って ゐ ます。 しかし わたし はお 嬢さん や 坊ちゃんに お別れ 申してから、 あ 

き けん たたか き ひと なに ひやう し すす くろ かんだ み おくび やう は 

ら ゆる 危 險と戰 つて 來 ました。 それ は 一 つに は 何 かの 拍子に 煤よりも 黑ぃ 體を见 ると、 臆病 を 恥 

3 ぢる氣 が 起った からです。 けれどもし まひに は黑 いのが いやさに、 -—— この 黑 いわた し を 殺した 



白 



335 



. あるひ ひ ■ な. A と あるひ またお ほかみ たたか ふ し ぎ いっち 

さに、 或は 火の 中へ 飛び こんだり、 或は 又 狼 と戰 つたり しました。 が、 不 E 心議 にも わたしの ベ 叩 

き やうて き うば し ほみ どこ -- V- 

は どんな 强敵 にも 奪 はれません。 死 も わたしの 顏を 見る と、 何處 かへ 逃げ去って しま ふので す。 

くる あま じ さつ けっしん ただ じ さつ ただ ひと 

わたし はとうとう 苦し さの 餘り、 自殺 をしょう と 決心し ました。 唯 自殺 をす るに つけても、 唯一 

め あ かはい くだ r) しゅじん もちろん ぢ f ぼつ 

目會 ひたいの は 可愛がって 下す つた 御主人です。 勿論お 孃 さんや 坊ちゃん は あしたに も わたしの 

すがた み また c> ら いぬ おも - まつ う ころ 

姿 を 見る と、 きっと 又 野良犬と 思 ふでせ う。 ことに よれば 坊ちゃんの バ ッ トに 打ち殺さ、 d てし ま 

I ほん まう つき V ま つ さ V- ま つ) し < ^ヒし .f ま み 

ふか も 知れません。 しかし それでも 本望です。 お 月 様! お 月 様! わたし は 御主人の 顔 を 見る 

ほ • か i に , ためこん や いちど ここ かへ キ- 

外に 何も 服 ふこと はありません。 その 爲 今夜 ははる ばる ともう 一度 此處へ 歸 つて 來 ました。 ど 

よ あ しだい ぢ やう ぼつ 4C メゝ J こ 

うか 夜の 明け 次第、 お嬢さん や 坊ちゃんに 會 はして 下さい。」 

しろ ひとり-ごと い や は しばふ あご "つ * 

白 は 獨語を 云 ひ 終る と、 芝生に 腭 を さしのべ たなり、 何時か ぐっすり, 艇 入って しま ひました。 

X X X X X X 

おど ろ はるを 

「驚いた わね え、 春 夫さん。」 

「どうしたんだ らう? 姊 さん。」 



336 



しろ ち、 ひ しゅじん -ー ゑ め ひら み ぢ やう ぼつ いぬ ご や まへ たたす 

白はパ さい 主人の 聲に はっと 目 を 開きました。 見れば お嬢さん や 坊ちゃん は 犬小屋の 前に, む 

しぎ かほ み あは T ろ ぃ.^"ど あ め また しばふ ,r へ 

んだ まま、 不田. -議 さう に顏を 見合せ てゐ ます。 白 は 一度 舉 げた 目 を 又 芝生の 上へ 伏せて しま ひま 

ぢ やう ぼつ しろ くろ か は とき いま おどろ 

した。 お嬢さん や 坊ちゃん は 白が まつ 黑に變 つた 時に も、 やはり 今の やうに 驚いた ものです。 あ 

とき かな かんが しろ いま かへ き こうく わ. - おこ 

の 時の 悲し さを考 へる と、 —— 白 は 今では 歸 つて 來 たこと を 後悔す る氣 さへ 起り ました。 すると 

とだん 一 つ とつ > !んと あが お ほご る! V: ナ 

その 途端です。 坊ちゃん は 突然 飛び 上る と、 大聲 にかう 叫, びました。 

とう か あ しろ また かへ き 

「お父さん! お母さん! 白が 又歸 つて 來 ましたよ!」 

しろ しろ おも と お に おも ぢ やう りゃうて 

白が! 白 は 思 はす 飛び起きました。 すると 逃げる とで も 思った のでせ う。 お渡さん は 刚乎を 

0:: しろ くび おさ どうじ しろ ぢゃぅ め かれめ うつ 

延ばしながら、 しっかり 白の 頸 を 押へ ました。 同時に 白 はお 壞 さんの 目へ、 ぢ つと 彼の 目 を 移し 

ぢ やう め くろ ひレ」 み いぬ-ご や うつ たか しゅろ キ f 

ました。 ぉ孃 さんの 目に は黑ぃ 瞳に ありあり と 4< 小屋が 移って ゐ ます。 高い 踪橺の 木の かげに な 

いろ いぬ 一 ご や たう ぜん ちが いぬ ご や まへ 

つた ク リイ ム 色の 犬小屋が、 —— そんな こと は 當然に 違 ひありません。 しかし その 犬小屋の 前に 

こめつぶ ほど ち ひ しろ いぬ いっぴき すわ きょ しろ ただく わう 二つ 

は 米粒 程の 小さ さに、 白い 犬が 一 匹 坐って ゐ るので す。 淸ら かに、 ほつ そりと。 11 CI は 唯 恍惚 

とこの 犬の 姿に 見 だり ました。 

「あら、 白 は 泣いて ゐる わよ。」 . 



白 



337 



, sit. う しろ だ まま *x つ か,, よみ あ X つ , r > f - 

あ 嬢さん は 白 を 抱きしめた 儘、 坊ちゃんの g を 見上げました。 坊ちゃん は I! ぎ S ルな さい、 1^ 

ちゃんの 威張つ てゐ るの を! 

1 , > * ねえ な く. . 

1 へつ 姊 さんだつて 泣いて ゐる 癖に!」 

(大正 十二 年 七月) 



338 



34D 



夏 目先 生 は 書の 幅 を 見る と、 ^り の やうに r 艇 ili£」 と^った。 ig^nli^n^l^^ つた。 

じ 1 ん,、 せ, ベ 々一 -,, ハ- ) キ」 よく ざう たんさう まこ たんさう こ .5/^ - . ;- . 

ハ刃は 先生に かう 云った。 「旭 窓 は 淡 窓の 孫で せう。 谈 窓の 子 は 何 と ひました かしら?」 おお 

そくざ む さう こた 

は卽 座に 「夢 窓 だら う」 と 答へ た。 

- 会; ふ め かや なか つき 2 でんとう ひ.^ り 

11 すると 急に 目が さめた。 蚊帳の 中には 次の i§ にと もした. m 燈の 光が さしこんで ゐた。 おは 

二つになる 男の子のお むつを 取り 換へ てゐ るら しかった。 子^ は; きつ づけて ゐた。 が": g は 

• せ も いちど ねむ つま , 

そちらに 背 を 向けながら、 もう 一度 眠りに は ひらう とした。 すると 妻が かう つた。 「いやよ」 ^ 

か またび やうき b ぶん つま こ ゑ : 

加ち やん。 又病氣 になつ, ちゃ あ」 自分 は 妻に 聲を かけた。 「どうかした のか?」 「ええ、 お £ が 

V わ;? シ こ ども ちゃうなん くら な こ び .p うき パ - } . 

し? リ i レゃ うなんで す」 この 子供 は 長男に 比べる と、 何 かに 病氣 をし 勝ちだった。 それだけに 

かん はんたい またな とうかん き ,^ 

も 感じれば、 反對に 又^ れっこの やうに 等閑に する- もないで はなかった。 「あした、 S さん 1, 

み. 一 f ただ こんや み いただ おも >- ぶん こ ども t y^, 

見て よ」 「ええ、 今夜 見て 預かう と E<i つたんで すけれ ども」 自分 は 子供の 泣き やんだ ぎ、 もと 



滅病の1)<^子 



341 



の やうに ぐつ すり ,0^ つてし まった" 

よくあさめ レ, ゆめ お ぼ たんさう ひろせ たん V; う き 

翌朝 HI を さました 時に も, 夢の こと ははつ きり 覺 えて ゐた。 淡 窓 は 廣湘谈 窓の 氣 だった。 しか 

やよ くさ-つ む さう い ぜんぜん か くう じんぶつ 、, たし かう し J!U くし なし さう , 

し 旭 窓 だの 夢 窓 だ のと 云 ふの は 全然 架 {41- の 人物ら しか つ た。 さう 云 へ ば 確か 講 釋 師に南 窓と |_ム ふ 

おも 二 ども ぴ やうき あま こころ /J ふ- 

のがあった などと 思った。 しかし 子供の 病氣 のこと は餘り 心に も かからなかった。 それが 多少 湫 

だ かへ き つま ことば 1 とき うく.: ^ふり XL, う 

になり 屮:: したの は S さんから 歸 つて 來た 妻の 言葉 を 聞いた 時 だつ た。 「やつば り 消化不良で すつ 

せんせい C ち つま こ ども よ: だ おこ 、 

て。 先生 も 後 ほどい らっしゃい ますって」 妻 は 子供 を 横抱きに した まま、 怒った やうに もの を ま 

つた。 「熱 は?」 「七 度 六 分ば かり、 —— ゆうべ はちつ ともな かったんです けれども」 自がは 一 一^ 

しょ》 *- い まいにち し ごと し ごと あ ひか はらす はか かなら す 

の書齋 へこ もり、 毎日の 仕事に とりかかった。 仕事 は 不和 變涉 どらなかった。 が、 それ は必 しも 

こ ども び やう ービ うち に はき な むしあつ ちめ ふ ^ 

子供の 病氣 のせ ゐば かりではなかった。 その 中に、 庭木 を 鳴らしながら、 蒸:: おい 離が 降り出した。 

じ ぶん か せう せつ まへ なんばん しきし ま ひ うつ 

自分 は 書き かけの 小說を 前に、 何 本 も 敷, 島へ 火 を 移した。 

ご ぜん いらと ひ くれ い.^ ど しんさつ み ひくれ たかし せんちゃう た か し 

S さん は 午前に 一 度、 日の 暮に 一 度 診察に 見えた。 日の 3! に は 多 加 志の 洗隐 をした。 多 加い 心 は 

せんちゃう でんとう ひ なが ゆ- ん ちゃう えき しばらく う. U ぐろ ねんえき 

洗 腸され ながら、 まじま じ 電燈の 火 を 眺めて ゐた。 洗 腸の 液 は 少時す ると、 淡黑ぃ 粘液 を さら ひ 

だ じ ぶん やま ひ み かん せんせい なに たい 

出した。 £n 分 は 病 を 見た やうに 感じた。 「どうで せう? 先. i^」 「何、 大した ことはありません。 



ただこ ほり た じふ ぶん あたま ひ くだ あま 

唯 氷 を 絶やさす に 十分 頭を冷やして 下さい。 —— ああ、 それから 餘り おあやし にならん やうに」 

先生 はさう 『14 つて 歸 つて 行った。 

じ ぶん よる し ごと いちじ とこ まへ こうか で /、 --L 

自分 は 夜 も 仕事 をつ づけ、 一時 ごろ やっと」 体へ は ひった。 その 前に 後架から 出て 來 ると、 i か 

くら だいどころ おと たれ へ/? じ 

まつ 暗な 臺 所に、 こっこつ 音 を させて ゐる ものが あった。 「誰?」 「わたし だよ」 返 をした の は 

はは 二み 5 なに こほり こ は じ ぶん うく わつ よ でん 

母の 聲 だった。 「何 をして ゐ るんで す?」 「氷 を壞 して ゐ るんだ よ」 自分 は迂澗 を^ ぢ ながら、 「電 

とう / い い だ いぢ やうぶ て V- ぐ じ ぶん でんと-つ 

^をつ ければ 好い のに」 と 云った。 「大丈夫 だよ。 手探りで も」 自分 はかま はすに. ま^をつ けた。 

ほそおび ひと はは ぶ き よう かなづち つか ナ がた なん かていみ あえ., 

細帶ー つに なった 母 は 無 器 川に 金槌 を 使って ゐた。 その 姿 は 何だか 家庭に 見る に は、 餘 りに みす 

こほり みづ あら かど でんとう ひかり .H んし, P 

ぼらし ぃ氣 のす る ものだった。 氷 も 水に 洗 はれた 角に は、 きらり と 電燈の 光 を 反射して ゐた。 

よくあさ たかし ねつ く ど ナこ たか くら ゐ また n ビん ちう 

けれども 翌朝の 多 加 志の 熱 は 九 度よりも 少し 高い 位だった。 S さん は 又 午前中に 見え、 ゆうべ 

せんち, やう ,、: クハ じぶん て つ だ ねんえき ナく おも 

の 洗 腸 を緣り 返した。 自分 は その 手傳ひ をしながら、 け ふ は 粘液の 少ない やうに と 思った。 しか 

, べんき み ねんえき おは み つま たれ 

し 便器 をぬ いて 見る と、 粘液 は ゆうべよりも すっと 多かった。 それ を兑 た^は? i に ともなし に、 

1 こ ゑ あ こ么 とし なな わ か ぢ よがく せい おも :ov 

f あんなに あります」 と 聲を擧 げた。 その 聲は 年の 七つ も 若い 女學 生に なった かと W 心 ふ 位、 はした 

, ホ. じ ぶん おも かほ み ぇキ 0- 

ない 調子 を帶ぴ たもの だった) 自分 は 思 はす S さんの 顔 を 見た。 「疫痢で はないで せう か?」 「い 



. や、 ? ^§%ぢ やありません。 i% はずきれ をし ない 内に は、 11 」 S さん は 案外 落ち:; 滑いて ゐた。 

" ^がみ は S さんの ぼった, 1&ちの仕1^にとりかかった。 それ は 「サン ディ 毎日」 の 特別 號に 載せ 

る,:^ まだった。 しかも g|| の, il, り は あしたの 朝に 迫って ゐた。 自分 は架乘 のしない の を、 無理 

うご たかしな -. 二 ゑ と かくし ス けい -i" 

に ペン y -」 け 動かしつ づけた。 けれども 多 加 志の 泣き 聲は 兎角 祌經 にさ はり 勝ちだった のみなら 

,f4y 心が^き やんだ と., I ふと、 今度 は 二つ 年上の 比呂 や: 心 も 思 ひ 切リ、 大勢に 泣き出し たりした〕 

fsl にさ はる こと は それば かりではなかった。 午後に は 兌 知らない 靑 年が 一 ス、 金の 工面 を顿 

みに %^ た。 「厨 は igsis^ です が、 から 先生に 紹介 狀を贳 ひました から」 靑年は 無 竹 さ 

、 じ: ん 5 "ざ,': まぐち : 》1 一 么ノ? ふ よう しょもつ に さつ わた かね 

うに かう つた。 自がは 現 あ 慕 口に 「一三 圓 しかなかった から、 不用の 書物 をニ册 渡し、 これ を 金 

> , せ-ねん しょもつ . う と だんねん おくづけ しら だ ?;^、ん :ク, rl ふ ひ ::、 

に^へ 給へ と つた。 靑パヰ は 書物 を 受け取る と、 丹念に 奧附 を檢べ 出した。 「この木は„^?^;=出と 

> > „ 、 -' 2 じ ぶん なさけ こころ と 力く う 

1 曰いて あります ね。 ぽ gng でも.^ になります か?」 自分 は 情ない 心 もちに なった。 が、 . ^に灼 資 

子 れる i だと i へた。 「さう です か? ぢゃ 失敬し ます。」 靑年 はた だ 疑 はし さう に、 難 有う とも 何 

の とも 云 はすに i つて 一 打った。 

し. ち 

ひ tS ,a せんちゃう こんど ねんえき へ, 3 1 * こ, ん^ バ,、 ナ、: 、 , V 

r S さんま 日の 暮 にも 洗揚 をした。 今度 は 粘液 もす つと 減って ゐた 「ああ, 今晩は 少なう こさ 



344 



いますね」 手 洗 ひの 湯 をす すめに 來 たき-は" お ij,§t にかう 一かった。 ^おも!^: b ん をし なかつ たに 

しろ、 安心 あい mrM じた。 それに は it の 41: のお も、 4 きの i や 讀 などの ふだ 

ん に變ら ない せゐ もあった のだった。 「あした は^お まが P るで せう。 !^^ぎき!^^^なぃゃぅ 

J よは こた ,s > 、 一、 :). 

です 力ら」 S さん は 母に 答へ ながら、 滿 足さう に 手 を 洗って な/」。 

翌戟 自分の 服 を さました 時、 伯母 はもう 次-の g に^ 分ん の!^ きを ■ んでゐ た。 それが ぷ g んを 

鳴らしながら 、「多 加 ちゃんが」 何とか 云ったら しかった。 まだ n まの ぼんやりして ゐた, i 、おは 「^鲈 

志が?」 と^い 加減に 問 ひ 返した。 「多 加 ちゃんが i いんだよ。 Mi ん させなければ ならな いんだと 

じ ぶん 上こう へお なほ . -ハづ 

さ」 自分 は 床の 上に 起き直った。 きの ふの け ふだけ に I- 化な きがした。 「s さん は?」 「5^!.- もも 

ぅ來 てい らっしゃ るんだ よ、 さあさあ、 早くお!! きなさい」 ^^は 獻 す やうに、 g にかた 

くな な顏 をして ゐた。 ぎす ぐに i& ひに 1^ つた。 I? 難 観の かぶ さった、 g^si い, 

、 ) ふ ろ て を は やま ゆ り こ ほん Nl こ 

だった。 風呂場の 手桶に は 山 I が 「一" ききぎ, こんであった。 f だか その fvs が 

.;、 わ; 5 ん ひ ふ な 

花;; i が べたべた 皮膚に くつ つきさうな 氣 がした。 

たか r- ひと f ん フ *^ 

多 加 志 はたった 一晩のう ちに、 すっかり^ がきんで ゐた。 ,き J! がぎ き li さう とすると、 雜; ;」 



氣满の 供-子 



345 



あ ふむ た しろ も は あく 

仰向けに 垂らした まま、 白い物 を 吐いた とか 云 ふこと だった。 欠 仲ば かりして ゐ るの もい けない 

^ > 1 じ 、.! ん 々一. ゆ キ」 どうじ またぶ きみこ ころ こどち 

らし 力った。 自ハカ は 与 A に いぢら しい 氣 がした。 同時に 又無氣 味な 心 もち もした。 S さん は 子: 、の 

4 ノ、 ら .f- "れ; i しきし ま く は じ ぶん かほ み ± 々し 

もとに ii 然と 敷 島 を^へ てゐ た。 それが 自分の 顔 を 見る と、 「ちとお JjJS したい ことがあります か 

-; メ 、二ん にかいせ う ひ ひ f ち よ さ 4,丄> >- > ^ * ャ】. C 

ら」 とーム つた。 自分 は S さん を 二階に 招 じ、 火の ない 火 を さし 狭んで 坐った。 「:i^ きに 危^ はな 

ヽ ク,. f くち き た か し こと ま ちゃ > つ こよ 

, ^と ります 力」 S さん はさう 口 を:;^ つた。 多 加 志 は S さんの 言葉に よれば、 すっかり::; ぶ £ を.;!! 

,乂 ただに V.- ん にち あ ひだ だんじき まか し -- ふ-し 

して ゐた。 この 上 は 唯 二三 日の 問、 斷食 をさせる 外に 仕 かたはなかった。 「それに は 人 ぼ おさせ 

はう ベ/ リ おも じ ぶん た ^/ し よう だ." > 

になった 方 力 便利で はない かと E や ふんです」 自分 は 多 加 志の 容體は S さんの 云って ゐ るよりも、 

あや...! おも あるひ に ふゐん て ぉニ -r 

すっと^い ので はない かと m 心った。 或はもう 入院 させても、 手 遮れな ので はない かと も 思った。 

\ 、 \ - ぼ あ ひ じ ぶん さっそく に ふゐし 

し 力し もとより そんな ことに こだ はって ゐ るべき 場合ではなかった。 自分 は n 十 速 S さんに., 入お の 

さ、 お ふ , び やう ゐん ちか べんり 

運び を .:^-- ことにした。 「ぢゃ U 病院に しませう。 近いだ けで も 便利です から」 S さん はすす め 

られた 茶 も 飲ます に、 U 病院へ 電話 を かけに 行った。 自分 は その §1 に 妻 を 呼び、 -ぎ, 母に も .iii んへ 

い もら 

行って 贳 ふこと にした。 . 

ひ き、 く あ ひ きゃく あさ よにん じ ぶん $ミ よな -- ふ., J し し 

その R: は 客に 會,, - 日だった。 客 は 朝から 四 人ば かりあった。 自分 は 客と 話しながら、 入院の 支 



たく いそ つま をば いしき なにした ささ 十な つぶ に かん だ 

度 を 急いで ゐる妻 や 伯母 を 意識して ゐた。 すると 何 か 舌の 先に、 砂粒に 似た もの を 感じ 出した。 

じ ぶん むしば おも ゆびさき だ み 

自分 はこ の ごろ 齲齒 につめた セ メ ントが とれた ので はない かと 思った。 けれども 指先に 出して 見 

± か じぶん ナこ めいしん てき きゃく たにこ 

ると、 ほんた うの 齒の缺 けたの だった。 自分 は 少し 迷信 的に なった。 しかし 客と は 煙 t チ をのみ の 

う もの で うは さ はう いつ しゃみ せん はなし 

み、 寶り 物に 出た とか の ある 抱 一 の 三味線の 話な ど をして ゐた。 

そ こ また きんにくら うどうし や しょう きの ふ せいねん めんく わい き 亡い ねん げんくわん た きの ふ もら 

其 處へ又 筋肉 勞働 者と 稱 する 昨日の 青年 も 面 會に來 た。 靑年は 玄關に 立った まま、 昨日 12; つた 

に さつ ほん いち ゑんに じつ 亡ん し ご も) ん いか あ 

一 一冊の 本 は 一 圓ー 一十 錢に しかなら なかった から、 もう 四五圓 くれない かと 云 ふ 掛け合 ひ を はじめ 

い か ことわ ようい か、 み じ ぶん おちつ うしな 

た。 のみなら す 如何に 斷 つても、 容易に 歸る けしき を 見せなかった。 自分 はとうとう 落着き を 失 

...... じかん かへ もら ど な せいねん ふ ふ,、 

ひ、 「そんな こと を 聞いて ゐる 時間 はない。 歸 つて 世 只 はう」 と 怒鳴りつ けた。 靑年 はま だ 不服 さう 

でんしゃちん くだ つ J じつ i/: もら い なら 

に、 「ぢゃ 電車賃 だけ 下さい〕 五十 錢實 へば 好 いんです」 などと、 さもしい こと を竝. ベて ゐた。 が, 

て き み て あら げんくわん かう し ど もんぐ わい たいさん じ ふん 

その 手 も 利かない の を 見る と、 手荒に 玄關の 格子 戶を しめ、 やっと 門外に 退散した。 自分 はこの 

上-. V」 い き ふ こん-ご だ/ザ 乂ぉぅ おも 

時 かう 云 ふ 寄附 に は 今後 斷然應 す まいと 思った。 

よ にん き ゃミ ご にん -ご にんめ きゃく とし わか フ ラ ン ス ぶんがく けんきう しゃ じ ぶん きゃく 

W 人の 客 は 五 人に なった、" 五 人目の 客 は 年の 若い 佛蘭西 文學の 研究者だった。 自分 はこの 客と 

6 

、 ^.^ ちゃ ま ようす うかが い し たく で & を き ぶと こ ども だ 

3 入れ違 ひに、 茶の間の 容子を 窺 ひに 行った。 するともう 支度の 出來た 伯母 は 着 肥った 子供 を 抱き 



氣ぉ j の tit^ 子 347 



えく がよ ある じぶんい ろ わるた かし ひた ひ くちびる お み 

ながら、 緣狐を あちこち 歩いて ゐた。 自分 は 色の 惡ぃ多 加 志の 額へ、 そっと # を 押しつけて 兑た。 

ひた ひ か なり ま て うご くるま じ ぶん こ つ) ゑ ほか い 

m は 可也 火照って ゐた。 しほむ きも ぴくぴく動いて ゐた。 「車 は?」 自分 は 小? i に 外の こと を 云つ 

ノ る- -に くるま <: を ば た にん ていねい ことば つか そ こ _ 、 

た。 「車? 車 はもう 來てゐ ます」 伯母 は なぜか 他人の やうに、 叮嚀な 言葉 を 使って ゐた。 虎へ 

>^ も 「 あらた つままれ ぶと ス は-一 き い ま ゥ,^ つま ド」 ふ; < まへ 、 

着 椒を更 めた 妻 も 羽根 布 團ゃバ スケ ットを 運んで 來た。 「では I:;: つて 參 ります」 ^は 自<! ^の" 1 へ 

りゃう こ めう まじめ ころ; だ じ ぶん ただた か し ばう ゝ あたら か い 

をつ き、 妙に 眞 面目な 聲を屮 :; した。 自分 は 唯 多 加 志の 帽子 を 新しい やつに 換 へて やれと 一, ムっ 

し 一,) にち まへ じ ぶん か & なつばう し あたら か-, お- , : - 

たリ それ はつい 四 五日 前、 自分の 買って 來た: 复 帽子だった。 「もう 新しい のに 換 へて S きま しん」 

つま こた のち たんす うへ かがみ のぞ えり か あは じぶん か. ら ,^ ノ、 ,, 

妻 はさう 答へ た 後、 iHf 馆の 上の 鏡を观 き、 ちょいと 襟 もと を 後き 合せた。 自分 は 彼等 を见 这らす 

いちど にかい ひ かへ 

に、 もう 一 度 1 一階へ 引き返した。 

じ f あら き きゃく はなし ときにはき わかば あ ひだ ふた 

自分 は 新たに 來た 客と ジョ ルジュ • サンドの 話な ど をして ゐた。 その 時 庭木の 若葉の 問に 二つ 

くるま まろ み ほろ かき うへ たち ま め まへ とほ す ぃったぃじ^1く せいき 

の 車の 幌が 見えた。 幌は 垣の 上に ゆらめきながら、 忽ち!::: の 前 を 通り過ぎた。 「ー體 十九 叱紀の 

ビ ぐ さく か こうはん さく か えら きゃく じ 

化 1 半の 作家 はバ ルザ ック にしろ サンドに しろ、 後半の 作家より は 偉いです ね」 客 は 11 @ 分 はは 

お ぼ きゃく ねっしん い 

つきり 覺 えて ゐる。 客 は 熱心に かう 云って ゐた。 

ご ご きゃく た じ ぶん ひ くれ び やうわん で じかん え- , どんてん つ: > 

午後に も 客 は 絶えなかった。 自分 はやつ と 日の 暮に 病院へ 出かける 時 問 を 得た 曇天 は 何時 力 



348 



^ - > じぶん き もの きか ぢ よちう あしだ £ » r - Jt , 

liit になって ゐた。 自分 は 着物 を着換 へながら、 女中に 足駄 を 出す やうに と 一!; 5 た。 がぎ へ:^ の 

N 君が 原稿 を 貰 ひに 顏を 出した。 N 君 は 泥 まみれの 長" ま を はき、 の^を 1^ ら せて ゐヒ。 

ヒ 二ん げん,、 わん で むか じじ やう 」 こめ 、こ .1 , 

自ハ刀 は 玄關に 屮:: 迎 へた まま、 これこれの 事情の あった 爲に、 何ノも ii けなかった と ふ _i "をぎ ベ 

くん じ ぶん どうじ やう こんど : ' 

た。 N 君 は 自分に 同情した。 「ぢゃ 今度 は あきらめます」 とも 一- j5 た。 纩^;ぞは化だかN^のi^;v」 

强ひ たやうな 心 もちが した。 同時に 體の 好い 口 實に顔 死の 子供 を 使" つた やうな, がした。 

N 君の 歸 つた か歸ら ない のに、 ,ぎ も ig;^ ら^って 4 た。 心 はがぎ の f?i よれば、 , の 

: -」 ど ちち. H vf; よ-,/ フ 2 レリ、 

後 も 二度ば かり-, を 吐いた。 しかし 幸ひ腦 にだけ は 狀も來 すに ゐる らしかった。 母 はま だ こ 

の 外に 看護婦 は氣 立ての 善 ささうな こと、 今夜 は 病院へ 妻の^が^ りに がて くれる ことな ど を!! 

した 「多 加 ちゃんが あすこ へ は ひると 直に、 日曜 學 校の 生徒から だって、 花 を 一 is-l!:::; つたで せう リ 

t な き 一、 ,. 

さあ、 お 花 だけにい やな 氣 がして ね」 そんな こと も 話して ゐた。 自," 分 はけさ i をして ゐる がに、 

か おも だ .-t . 

齒の缺 けた こと を E 心 ひ 出した。 が、 何とも 「ではなかった。 

象 を 出た 時 はまつ 一 if つた。 その 4" に i かいき やが I: つて ゐた。 Si おは ぼ を k る と^^に、 ひ 日.^ 

下駄 を はいて ゐ るのに 心づ いた。 しかも そのが よ & はお" ゲ きがゆるんで ゐた。 ^^は IV、 



, はやん V き , » こ ども い のち を は き .A かへ たうて"., ら 

9 かこの 身 緒が 切れる と 子供の 命 も 終り さうな 氣 がした。 しかし はき 換 へに 1- るの は 到底 i 可 立た 

た, じぶん あしだ だ ぢ よちう ぐ 1 か ダた ふかへ 

しさに 堪 へなかった。 自分 は 足駄 を 出さなかった 女中の 愚を愁 りながら、 うっかり? -駄を 蹄み 返 

さない やうに、 il- をつ け 4 湫を つけ 歩いて 行った。 

- ゆや t,? ん, つ- くじ ナ なるほどた か し び やうし つ そと ひめ ゆ り なでしこ ご ろつ y ん ん めん々 - 

病院へ 着いた の は 九 時 過ぎだった。 成程 多 加 志の 病室の 外に は姬 百 合 や 撫子が 五六 本、 洗面器 

みづ ^>た , び やうし つ なか でんとう たま ふろ しき なに かか かま み まどう ナ 

の 水に 浸されて ゐた。 病室の 中の 電燈の 玉に 風呂敷 か 何か懸 つて ゐ たから、 鋭 も 見えない Si 鄉 1" 

そこ つまつ ま ははた かしな か はさ おびと よこ ヒ. A し 

かった。 其 處に妻 や 妻の 母 は 多 加 志 を 中に 挾んだ まま、 帶を 解かす に橫 になって ゐた。 多 加 志 は 

"1 はし i うで ま, へら ねい. つま じ ぶん き し ひとり ふ i 

妻の 母の 腕 を 枕に、 すやすやまん 入って ゐる らしかった。 姿 は i 分の 來 たの を 知る と 一. 人 だけ 布剛 

うへ ナゎ こ -ご么 ごく う つま .H よ "-f- な > よ 

の 上に.^: り、 小聲に 「どうも 御 苦 ガ さま」 と 云った。 妻の 母 もや はり 一!1 じこと を 云った。 それ は豫 

& きがる てうし お じぶん, _ ひく ぶん き ん, 1 に 

期して ゐ たよりも、 氣輕ぃ 調子 を帶 びた ものだった。 自分 は 幾分 かほつ とした になり、 彼等の 

ま ベら こし おろ つま ちち ためたか しな ^ちょ ---XT ゆう くる 

枕 もとに 腰 を 下した。 妻 は^を 飲ませられぬ 爲に、 多 加 志 は 泣く し、 ^は" 胺 るし、 二重に 苦しい 

子 ひ をす ると 云った。 「と て も ゴ ム のおつ 有 位ぢゃ 駄目なん です もの。 しま ひに は 舌 を 吸 はせ ま 

ト-、 

I したわ」 「今 はわた し の^を 飲んで ゐ るんで すよ」 の 母 は 笑 ひながら、 萎びた^^ を 出して: 3- せ 

M いつしゃう けんめい ナ ^ じぶ つ わら 

た。 r 一 生 懸命に 吸 ふんで ね、 こんなに まつ 赤に なって しまった」 自分 も 何時か 笑って ゐた。 「し 



p 



. モぺぐ わい よ ぼく いま ^つばう おも たか たか 

力し 存外 好 ささう です ね。 僕 はもう 今ごろ は絕望 かと 思った」 「多 加ち やん? 多 加ち やん はもう 

^いぢ t う, ぶ, , 3 ただ なかく だ ねつ マが り :• そ し" i 

大丈夫です とも な あに 只のお 腹下し なんです よ。 あした はきつ と 熱が 下ります よ」 「街 祖: 帥樣 

つ J り _ やく つま はは ほ けき やう しんじゃ よよ ; > ま こと i き 二 

の祸 益で でせ う?」 妻 は 母 を ひやかした。 しかし 法華經 信者の 母 は 妻の 言葉 も 聞えない やうに、 

わ ほ ね, つ いつしゃう けんめい くちと が たかし 卞, たま .:- 

1^ あい 察 を さます つもり か, 一生懸命に 口 を 尖らせ、 ふうふう 多 加 志の 一 g を 吹いた。 

X X X X X X 

た, .^7*、 I じ ぶん かれ せう かう え i.- に ふるん ザん せう そく チ,: 'ひん 

多 加 志 はやつ と 死なす に すんだ。 自分 は 彼の 小康 を 得た 時、 入院 前後の 消息 を 小" i にしたい と 

お. f いっく またび.?、 う >- J ズ 力い にに 

田ぬ つたこと が ある。 けれども うっかり さう 云 ふ もの を 作る と、 又 病:; ポが ぶり 返し さうた、 迷:; じ 

こころ ため か いまた かし によき つ 

みた、 七 もちが した。 その 爲に とうとう 書かす にし まった。 八/は 多 加 志 も 庭木に 吊った ハム モッタ 

な.. ノ ねむ じ ぶん げんかう た Q >\-ヌ 、わい ト" なし ,ハ み 

の 中に 眠って ゐる。 自分 は 原稿 を賴 まれた の を機會 に、 とりあへ す この 話 を 書いて 见る ことにし 

た。 讀 者に は 寧ろ 迷惑 かも 知れない。 

(人: ル- 十二た や 七月) 



やすきち さんじ ふ うへ i 、ぶノ (げ ふしゃ ,,. ^;-.-く,っ -.v な 

保 吉は三 叶に なった ばかりで ある。 その上 あらゆる 寶文 業者の やうに、 口 まぐ るし い 生活 を^ 

みやう にち 力 ズ 力 さくじつ もった かんが わ 5." つ、 ある ず/?.^--ーリ 

んでゐ る。 だから 「明日」 は考 へても 「昨日」 は 滅多に 考 へない。 しかし 往 來を步 いて ゐ たり、 原稿 

^^紙に向ってゐたり、 電車に 乘 つて ゐ たりす る 間に ふと 過去の 一 情景 を鮮 かに 思 ひ 浮べる ことが 

ノ :: へ ゆうら い けいけん たいて::. きう かく し げき れんさう しゃう すつ くわ また *7 ノハく 

ある それ は從來 の經驗 によると、 大抵 g<覺 の 刺戟から 聯想 を 生す る 結果ら しい。 その 又 g<^ の 

i^-^r^ す かな あくし う よ に ほひ J., しゃ :t . 

なる もの も 萄會に 住んで ゐる 悲し さに は惡 臭と 呼ばれる 句ば かりで ある。 たと へ ば汽 率の 5$ 

に ほひ な/びと か おも はす ちる ぢ やう きお: ご んま、 -J に: 

煙の 勻は 何人も g< ぎたいと 思 ふ 箸 はない。 けれども 或お 鎮 さんの 記憶、 11 五六 〔や:: i に 鶴 を 化せ 

タ It う ノ - t」J^?,/ に ほひ か えんとつ ほどば し ひ 2- たち ま 

た 或^ 孃 さんの 記憶な ど は あの 句 を g< ぎ さ へ すれば、 煙突から 进る 火花の やうに.^ ちよみが へ つ 

て來 るので ある。 

) , つ あ. ある ク しょち ていしゃ" J あるひ げんみつ - て. - し!, i 

この あ 嫂さん に 遇った の は 或 避 地の 停車場で ある。 或は もっと 嚴. 树に 云へば、 あのせ ハ車# り 

, たう じ > しょち す かれ あ も ふ かど ふ .._ 

フラット フ ォォム である。 當時 その 避 暴 地に 住んで ゐた彼 は、 雨が 降っても、 風が 吹いても、 午 

tmmmw Amu 



I 



1S 時お 



353 



ぜん は..: じ はつ くだ れっしゃ の i '一 I ご よじに じっぷんち やく の w .e つし to- お つ It 

前 は 八 時發の 下り列車に 乘り、 午後 は K 時 二十 分 着の 上り列車 を 降りる の を 常と して ゐた。 なぜ 

また ま 一 やにち き, しゃ い なん さしつ か i :-^} し iL フ 

叉 毎日 汽車に 乘っ たかと 云へば, —— そんな こと は 何でも 差 支へ ない。 しかし 毎日 汽車に など 乘 

いち ぐら ゐ かほな じ たち ま うち で き ぢ やう うち ひ ヒり 

れば、 一 ダズン 位の 額别 染み は 忽ちの 內 に出來 てし まふ。 お嬢さん も その 中の 一人で ある。 けれ 

一, i r 一 なな: さ さんぐ わつ に じふなん にち まで いちど あ き お,、 つ) v ん つ, う 

ども 午後に は 七草から 三月の 一 一十 何日 か 迄、 一 度 も 遇った と 云 ふ 記憶 はない。 <H1 もお 嬢さん の 

き しゃ やす キエつ えん のぼ れっしゃ 

乘る 汽車 は保告 には緣 のない 上り列車 で あ る 。 

r-r 、う . ^ふろく ヒ ふしち ぎんね すみ やう ふ; ぎんね すみ ばう し む ひく 

ぉ嬉 さん は 十六 か 十七で あらう。 いつも 銀 1!^ の 洋服に 銀鼠の 帽子 を かぶって ゐる。 赞は 寧ろ 低 

い 方 かも 知れない。 けれども 見たところ はすら りと して ゐる。 殊に 脚 は、 —— やはり 銀 みの, i,^ ト 

かかと たか くつ あし しか あし かま び じ ノ> 、 

に 踵の 高い 靴 を はいた 脚 は 鹿の 脚の やうに すらりと して ゐる。 額 は 美人と 云 ふ ほどで はない。 し 

やすきち とうざい ろん キ. -ん だい せう せつ ぢ よし じんこう ト?, でう ナし び じん 、 

かし、 > 1 . 保吉 はま だ 東西 を 論ぜす、 近代の 小 說の女 主人公に 無條^ の 美人 を 見た こと はない。 

さく 丄ゃ ぢ よせい ベう しゃ たいてい か G ぢ., 4 ぴ じん なん こヒゎ ^'c 

作者 は 女性の 描寫 になる と、 大抵 「彼女 は 美人で はない。 しかし …… 」 とか 何とか 斷 つて ゐる。 按 

む で, „ 'けん び じん みと きんだい じん めんもく かか は や. r- キ-ち ir つ,. り 

す るに 無條們 の 美人 を 認める の は 近代 人の 面 IE に關 るら しい。 だから 保士 "も こ の お嬢さん に 「し 

い でう けん く は ねん ため いちど く かへ かほ び じん , 

かし」 と 云 ふ 條刊を 加へ るので ある。 1 ■ 念の爲 にもう 一 度 繰り返す と、 額 は 美人と Ti4 ふ ほどで は 

D , はな さき あが あいき やう お ほ まるが は 

ない。 しかしち よいと 鼻の 先の 上った、 愛敬の 多い 圓 Ig である。 



ちゃう s わ ひと なか た ひと はな 5 へ 

ぉ鳆 さん は騷 がしい 人 ごみの 中に ぼんやり 立って ゐる ことがある。 人 ごみ を 離れた ベ ンチの 上 

. ざっし よ あるひ またな が ふち ある 

に雜 誌な ど を讀ん でゐる ことがある。 或は 叉 長い プ ラッ トフ ォォム の緣を ぶらぶら 步ぃ て ゐるこ 

とも ある。 

やすきち ぢ やう すがた み れんあい- い-う チ-っ か ど, T き たか おば 

保吉 はお 孃 さんの 姿 を 見ても、 戀愛 小說に 書いて ある やうな 動 棒 などの 高ぶった 覺ぇ はない。 

ただ かほな じ ちんじゅふ しれいち やうく わん ^:!ぃてん ねこ み とき とほ かんが 

唯 やはり 顏 馴染みの 鎮守府 司令長官 ゃ寶 店の 猫 を 見た 時の 通り、 r ゐ るな」 と考へ るば かりで ある。 

と かく かまな じ たい した いだ とき V 'やう 

しかし 兎に角 額 馴染みに 對 する 親しみ だけ は 抱いて sQ た。 だから 時た ま ブラ ッ トフ ォォム にお 1 ぼ 

すがた み なに しつば う に かん なに しつば う に 

さんの 姿 を 見ない ことがあ ると、 何 か 失望に 似た もの を 感じた。 何 か 失望に 似た もの を、 —— そ 

つうせつ かん わけ やすきち げん ばいてん ねこ に さんに ちゆ くら とき ぜんぜん 

れ さへ 痛切に は 感じた 訣 ではない。 保吉は 現に 賣 店の 猫が 二三 日 行く へを晦 ました 時に も、 全然 

か は ?ぴ かん ちんじゅふ しれいち やうく わん とんし なに i f あ ひ 

變り のない 寂し さ を 感じた。 もし 鎭守府 司令長官 も 頓死 か 何 か 遂げた とすれば、 11 この 5| 合 は 

ハ ささ ぎ もん し ねこ かって ちが キ- おこ はす 

聊か 疑問 かも 知れない。 が、 まづ猫 ほどで はない にもし ろ、 勝 乎の 違ふ氣 だけ は 起った である。 

さんぐ わつ に じふなん にち なまちた たか どんてん つ) -ご やすきち ひ つと ミき よ じ 

ところが 三月の 二十 何日 か、 生暖ぃ 曇天の 午後の ことで ある。 保吉は その 日 も 勤め先から s: 時 

に じっぷん ちゃく G ぼ れっしゃ なん き おく しら し ごと つか き 

二十 分 着の 上り列車に 乘 つた。 何でも かすかな 記憶に よれば、 調べ 仕事に 疲れて ゐ たせ ゐか、 汽 

4 

5 しゃ なか まん よ た *- ベ まど はる 

3 車の 中で も ふだんの やうに 本を讀 みな ど はしなかった らしい。 唯 窓べ りに よりかかりながら、 春 



儀 時お 



355 



め 
い 

た 
山 t 
だ 
の 

だけ 

の 

を 

眺ま 

め 

て 

ゐ 

た 

ラ 



え 
て 

ゐ 
る 

い 
つ 
か 



ん 
だ 

横き 
文 も 

字 じ 
の 

小 f 

說ミ 
に 

平:: 
地ち 
を 

走き 
る 

汽さ 



しゃ おと うつ てつけう わた き しゃ おと う J 

車 の 音 を rTratata tratata tl.atataj と寫 し、 鐵橋を 渡 る 汽車 の 音 を 「Tl.al.al.acll tral.aracll,^M{ おし 

なるほど みみ • か い ふう きこ 

たのが ある。 成程 ぼんやり 耳 をお して ゐ ると、 ああ 云 ふ 風に も 聞えない こと はない。 —— そしな 

こと を考 へ たの も覺 えて ゐる。 

やすきち も つう さん じっぷん のち ひ しょち ていしゃ f お ..,1 さ、 

保吉は 物憂い 三十 分の 後、 やっと あの 避暑地の 停車場へ 降りた。 プラット フォォ ムには 少し g 

つ, くだ れっしゃ と かれ ひと まじ 々- しゃ お なバ 

に^15ぃた下り?^.車も止まってゐる。 彼 は 人 ごみに 交りながら、 ふと その 汽車 を i: りる 人 を 眺めた。 

- や わ, い "やう , やすきち まへ か C -ご 

すると —— iln^ 外に もお 婊 さんだつた。 保吉は 前に も 書いた やうに、 午後に はま だ このお 媲 さんと 

一度 も!! を 合せた こと はない。 それが 今 不意に 目の前へ、 日の 光り を 透かした ぎの やうな、 § が 

^^-^ s ぎんね すみ すがた あら は かれ もちろん おも i つりう k. —か し. A ん 

1^ 柳の 花の やうな 銀 泉の 姿 を 現した ので ある。 彼 は 勿論 「おや」 と 思った C ぉ姨 さん も 確に その y 

力ん すきち かほ み どうじ やす々, ち おも ぢ やう じ ぎ 

に 保 吉の額 を 見たら しかった。 と 同時に 保 吉は思 はすお 壞 さんへ ぉ時债 をして しまった。 

じ ぎ ぢゃぅ > ,ぅゐ - 、ま , - , , 

お 時 儀 をされ たお 嬢さん はび つくりし たのに 相違 あるまい。 が、 どう rK ふ敏. ^した か、 も 

い、 ま, ft, - たう じ み V. だよ ゆう も 

う 今では 忘れて ゐる。 いや, 當時も そんな こと は 見定める 餘裕を 持たなかった ので あらう。 は 

1 ノ : - お. f > はや : fcf ま みみ ほて だ かん お S 

一し まった」 と ふが of いか, 忽ち 耳の 火照り 出す の を 感じた。 けれども これ だけ は^えて ゐる。 



355 



ゲ つやう かれ ゑし やく 

—— お嬢さん も 彼に 會釋 をした! 

ていしゃば そと で .< ^れ. かれ じ しん ぐ いき ど ほ ^4 また じ ぎ 

や つ と 停車場 の 外へ 出た 彼 は 彼 自身 の 愚 に 憤り を 感じた。 なぜ 又お 時 儀な ど をして しまったの 

じ ぎ ぜんぜん はんしゃてき いなつま ひか 上 たん またた おな 

であらう? あのお 時 儀 は 全然 反射的で ある。 ぴ かりと 稻 妻の 光る 途端に 瞬き をす るの も: 1: じこ 

いし じ いう ひし じ いう か ぅゐ せきにん お よ 

とで ある。 すると 意志の 自由に はならない。 意志の 自. S にならない 行 爲は資 任 を 負 はすと も:^ い 

はす ぢ やう なん おも なるほど ぢゃぅ ゑし やく 

香で ある。 けれども お嬢さん は 何と 思った であらう? 成程お 孃 さん も會釋 をした。 しかし あれ 

おどろ ひやう し はんしゃてき ,レ いま やすきち ふりやう せう ねん おも 

は 驚いた 拍子に やはり 反射的に したの かも 知れない。 今ごろ はす ゐ ぶん 保 吉を 不良少年と m 心って 

いつ おも とき ぶしつけ わ よ い 

ゐ さう である。 一 そ 「しまった」 と 思った 時に 無媒を 詫びて しまへば 好かった。 さう 云 ふこと にも 

氣づ かなかった と 云 ふの は 

やすきち げしゅく かへ ひとかげ み すなはま い めづ かれ ひと 

保吉は 下宿へ 歸ら すに、 人影の 見えない 砂濱へ 1:;: つた。 これ は 珍ら しい ことで はない。 彼 は 一 

つきつ】 ゑん かしま いっしょく 一 *】 じつ- i- ん べんた う よ なか いや かなら すな え 

月 五圓の 貸間と 一 食 五十 錢の 辨當 とに しみじみ 撒の 中が 厭になる と、 必すこ の 砂の 上 へ グラ ス ゴ 

/、 ひ どんてん うみ み ひう つ 

ォの パイプ を ふかしに 來る。 この 日 も 曇天の 海 を 見ながら、 まづ パイプへ マッチの 火 を 移した。 

け ふ し かた また あ す かなら ぢ やう かほ あ M ぢ やう 

今日の こと はもう 仕方がない。 けれども 叉 明日に なれば、 必 すお 婊 さんと 額 を 八:: せる C ぉ孃 さん 

とき かれ ふりやう せう ねん おも いちべつ あた たう ぜん 

は その 時 どうす るで あらう? 彼 を 不良少年と 思って ゐれ ば、 一 を與 へない の は當然 である。 



ふりやう せう わん おも あ す またに ふ かれ じぎ 二た し 

7 しかし 不良少年と つて ゐ なければ、 明日 も 亦 今日の やうに 彼のお 時^に 答へ るか も 知れない。 

3 かれ じ ぎ かれ ほり かは やすきち いちど r- やう てんぜん じ ぎ キ- 

彼のお 時 依に? 彼 は I . 堀川 保吉 はもう 一 度 あ の お嬢さんに 括 然とお 時 俄 を す る 叙 であらう 

じ ぎ き いちど じ ぎ いじ やう なに ャソヽ わ > vta.- う 

か? いや、 お 時 儀 をす るぐ ボ はない。 けれども 一度お 時 依 をした 以上、 佝 かの 機^に お嬢さん も 

. ^れ ゑし やく あ ゑし やく あ やすきち ; i- や-つ 

彼 も \ ま釋 をし 合 ふこと はあり さう である。 もし會 釋 をし 合 ふと すれば、 …… 保 士!: はふと ぉ孃 さし 

まゆ う つ く おも だ 

の 眉の 美しかった こと を 思ひ屮 I した。 

b らいし ち はち ねん けいく わ こズ にち 上き うみ しづ めう あざ や お ぼ やす ケ ち 1 

爾來七 八 年を經 過した 今日、 その 時の 海の 靜 かさ だけ は 妙に 鮮 かに 覺 えて ゐる。 保 士:: はかう^ 

- つみ まへ ただば う ぜん ひ き く は もっと かれ かんが ち. C う うへ 

ふ 海 を 前に、 いつまでも 唯 茫然と 火の 消えた パイプ を啣 へて ゐた。 尤も 彼の 考へ はお 姨 さんの 上 

わけ ■ きんきん はす せう せつ, おも う ij う; t- つ 

にば かりあった 訣 ではない。 たと へば 近近 とりかかる iiic の小說 のこと も 忍 ひ 浮かべた。 その 小説 

I ゆ じん- -ぅ くめいて き やい しん も た ある ィ ギリス ご けうし かう こつ な たか かわ くび > か 

の 主人公 は 革命的 精神に 燃え立った、 或英士:I利;^^iの敎師でぁる。 颇 3 吖の 名の 高い 彼の 頸 は 如何な 

くつ し ただ ぜんご いちど あるか ほな ヒ V やつ 

る權 威に も 屈する こと を 知らない。 但し 前後に たった 一度、 或顏 馴染みのお 孃 さんへ うっかりお 

b ぎ ぢ り-つ せ ひく よう し ^ 

時 儀 をして しまった ことがある。 お嬢さん は脊は 低い 方 かも 知れない。 けれども たと ころ はす 

こと ぎんね すみ くつ-した かかと たか くつ あし と かくし ザ こ ち" う 

ゆ らり として ゐる。 殊に 銀嚴の 靴下の 蹄の 高い 靴 を はいた 脚 は —— 兎に角 自然と お嬢さんの こと を 

時 

儀 考へ 勝ちだった の は事實 かも 知れない。 



358 



よく あ 5 はち じ ふ n: まへ やす ャち ひと あ あるか r- ここ i 

翌朝の 八 時 五分ぶ 5i である。 保吉は 人の こみ 合った プラット フォォ ムを步 いて ゐた。 彼の 心 はお 

ぢ やう であ とき たいは でち き 

孃 さんと 出會 つた 時の 期待に 張りつ めて ゐる。 出會 はすに すましたい 氣 もしない ではない。 が、 

であ ふ ほんい たし い かれ こころ -". -- やう c や- し ち. S もく どん 

出會 はすに すませる の は 不本意の こと も 確かで ある。 云 はば 彼の 心 もち は强 敵との 試合 を:::: 前に 

ゆ、 ふ 1^、 ん とうか き ぐ か は わす fr う .5- な ftt 

^へ た挙鬪 家の 氣 組みと 變り はない。 しかし それよりも 忘れられな いのは お嫁さんと 顏を 化せた 

とたん に じ やうし き て-つ 么っ ダ かダか . めう ゾゃ 5 ごき h ち? 

途端に、 何 か 常識 を 超越した、 莫迦 莫 翻しい こと をし はしない かと rK ふ、 妙に病:^时なf^{ダでぁるo 

、, と,. ^ : > ば-つじ やくぶ じん せっぷん に i/r" 

昔 ジ アン. リシ ュ ハ ンは 通りが かりの サラァ • ベ ルナ アル へ 傍若無人の 接吻 をした。 口 ^人に 

うま やすきち せっぷん し した だ ゝゝ ゝ、、 

生れた 保吉 はま さか 接吻 はしない かも 知れない けれども いきなり 舌 を 出す とか、 あかんべい をす 

かれない しん ひや さが が ,とびと み 

ると 力 はし さう である。 彼 は 內心冷 ひやしながら、 搜す やうに 搜 さない やうに あたりの 人人 を见 

ま はして ゐた。 , 

たち ま かれ め いうい う ある く ぢ やう すがた はっけん かれ しゃくめ、 れ,.^' 

すると 忽ち 彼の 目 は、 悠悠と こちらへ 歩いて 來 るお 孃 さんの 姿を發 見した。 彼 は 宿命;^ 迎 へる 

すぐ あゆ い ふたり み み せつ. ^ん じつぼ ご ほ さん! K 

やうに まつ 直に 步み をつ づけて 行った。 二人 は 見る見る 接近した。 十步、 五 歩、 三^、 — お 

ちゃう いまめ まへ た やすきち あたま もた ちゃう .A ほ i.^ ゲ /ゾリ 

壞 さん は 今 目の前に 立った。 保 吉は頭 を 擡げた まま、 まともに お嬢さんの 顏を 眺めた。 ぉ嬸 さん 

かれ かほ おちつ め そそ ふたり かほ み あは なに < すく.; 

もぢ つと 彼の 顔へ 落着いた 目 を 注いで ゐる。 二人 は 額 を 見合せ たなり、 ご ともなし に 行き t は 



儀 時お 



359 



うとした。 . 

^や";.^ はつ P ) -,, かれ とつぜん "ちゃう め なに どうえ う に かん どうじ また ほ とん からだ 

丁度 その 刹那だった。 彼 は 突然お 雄さん の 目に 何 か 動 稀に 似た もの を 感じた。 !^時に又^^ど體 

^つ- -ぷ」 ォー ィ:、 ; う,^ う かん- : かね いっしゅん あ ひだ で き _.J と 

中に あ 時 をしたい 衝動 を 感じた。 けれども それ は 懸け 値な しに、 一 瞬の問の出來_3^-だった。 お 

ぢ やう かれ うし とほ f ひ > か す くも あるひ 

娘さん ははつ とした 彼 を 後ろに しづ しづと もう 通り過ぎた。 日の 光り を 透かした 雲の やうに、 或 

はな ねこやなぎ 

は 花 をつ けた 猫柳の やうに。 

に じっぷん e ち やすきち き しゃ ゆ く ± ちゃう 

二十 分ば かりたった 後、 保吉は 汽車に 搖られ ながら、 グラス ゴォの パイプ を啣 へて ゐた。 お 娘 

ほに まゆげ:、 うつく わけ め またす. マ くろめ が - こころ ろ { わ 

さん は 何も 毛ぱ かり 美しかった 訣 ではない。 ni も 亦 涼しい 黑隨 勝ちだった。 心 もち 上 を 向いた 

鼻 も、 …… しかし こんな こと を考 へ る の はや はり 戀 愛と 「お ふの であらう か? 彼 は その 問に ど 

こた またき おく のこ ただ わ-すきち お ぼ れ .IC,VJ V 

う 答へ たか、 これ も 亦 記憶に は殘 つて ゐ ない。 唯^ 吉の覺 えて ゐ るの は、 いっか 彼 を膨ひ 出した、 

\ つ- ォま ,ぃ」"^" つ、 „ , - かれ た 0ぼ ひと けむり み まも しばらく ノラ 

? t 明るい 憂 ぱ かりで ある。 彼 は パイプから 立ち n 升る 一す ぢの煙 を 守った まま、 少時 はこの 憂 

; 2. つ > なか : ^!^;ぅ 、 „ .A んが, 今" しゃ もちろん い あ ひだ はんめん あさひ ひか あ 

I 松の 屮 にあ 嬢さん のことば かり 考へ つづけた。 汽車 は 勿論 さう 云 ふ も 半面に 朝 口の 光り を 浴び 

やまやま かひ . ^し 

た 山山の 峽を 走つ てゐ る。 

lITJ-ata-ta tl.tuata tl.ata-ta tl.al.al.achl- (人;. ^;; 十二 年 九月 ン 



360 



ち VYVZ、W i 



362 



やす .Iw ち い ぜん みせ しゅじん み し 

保吉 はすつ と 以前から こ の 店の 主人 を 見知 つて ゐる。 

い ぜん あるひ かいぐん がく かう ふ にん たう じつ し ^ X 

すっと 以前から、 11 或は あの 海軍の 學 校へ 赴任した 當 口だった かも 知れない。 彼 はふと この 

•J- せ 、 じと 力 みせ ち ひ かざ まど まど なか たいしゃう キ- ^> ぐん,?',? 

店へ マッチ を 一つ 買 ひに は ひった。 店に は 小さい 飾り窓が あり、 窓の 中には 大將 旗を抵 げた 軍艦 

^ かさ も. けい びん くわん ほ ぶ だう はこ たら 

三 笠の 校 型の ま はりに キュ ラソォ の S だの コ コアの 罐 だの 干し葡萄の 筘 だのが 竝 ベて ある。 が、 

きさ, き ぬ あかぬ かん. t ダ? で もちろん う ± す かれ み i- 

軒先に 「たばこ」 と拔 いた 赤 塗りの 看板が 屮:: てゐ るから、 勿論 マッチ も 一 5:- ら ない はない。 彼 は^ 

^ - 、 、,、> 、「 - ひと ノた i ま, い みせさき たか かん ぢゃ うだい うし わか ナ がめ を とこ 

を^き こみな 力ら 一 マッチ を 一 つくれ 給へ」 と 云 つ た. レ 店先に は 高い 勘定 臺の 後ろに S い^の Ei- 

,i ひ, とり、、 > たす かれ かほ み そろばん た て かま 

カー 人 つまらな さう に, むんで ゐる。 それが 彼の 額 を 見る と、 算盤 を竪に 構へ たま ま、 にこりと 

もせす に 返事 をした。 

「これ をお 持ちなさい。 生憎 マ ツチ を 切らしました から。」 

6: い だ ..vl そ いちばん こ がた 

あ 持ちな さいと 云 ふの は 煙草に 添へ る 一 潘 小型の マ ツチで ある。 



ぱ ばばば あ 



363 



もら き どく あ ひ ひとた ま、 3 

「貰 ふの は 氣の毒 だ。 ぢゃ 朝日 を 一 つくれ 給へ。」 

「何、 かま ひません。 お持ちなさい。」 

あさひ たま 

「いや、 まあ 朝日 を くれ 給へ。」 

"もっか. およ 

「お持ちなさい。 これでよ ろしけ り や、 —— 人らぬ 物 をお 買 ひになる に は 及ばないです。」 

•ri リ ,:.- 二 . し.,? 4J つ ちが こ& かほい ろ いか ぶ あいさ.^ 

I の!^ の ふこと は 親切 づく なのに は 違 ひない。 が、 その 聲ゃ顏 色 は 如何にも 無愛想 を 極めて 

.r- ま も J - よ - み. とだ た せ, T あ ひて き ど,、 やす 

ゐる。 素 g に赏 ふの は, 忌い ましい。 と 云って 店 を 飛び出す の は 多少 相手に 氣の 毒で ある。 保 古 は 

t かん ぢ うだい うへ いっ^ん どうく わ いちまいだ 

やむ を 得す 勘定 臺の上 へ 一 錢の 銅貨 を 一 枚 出した。 

ふた たま 

「ぢ やその マッチ を 一 一つ くれ 給へ。」 

「一 一つで も 三つで もお 持ちなさい。 です が 代 は 人り ません。」 

^;^ へ Ijp ひ ^ぐ 口に 下げた 金 線 サイ ダァの ポスタ ァの 蔭から、 小僧が 一人; Tinl を 出した。 これ は 

じ やう も-つろう に ,*> こ ぞう 

情の 朦鹏 とした、 而皰 だらけの 小愤 である。 

「檀那、 マッチ は此處 にあります ぜ。」 

ウ」 や 二 P » ノし. ふ. あ お ほが ヒ ひとは こか だい もちろ 乂 いつ ナん 力れ 

^士 c は內 S 、レ n 歌 を擧げ ながら、 大型の マッチ を 一 箱 買った。 代 は 勿論 一 錢 である。 しかし 彼 は 



この 時 ほど、 マッチの 美し さを^ じた こと はない。 銜に? の ^ のおに l^g を it くた: 縦 

緣へ 人れ ても^い 位で ある。 彼 は ズボンの ポケットの 艇へ ちゃんと その マッチ を, g した ギ 

U ^ うし 

とこの 店 を 後ろに した。 

ゃ》^^)ち じ らいはん とし がく かう かよ b う ふく たび ,,2 . J J ,, 

保吉 は爾來 半年ば かり、 學 校へ 通 ふ 往復に 度た び この へ ひきに が. - つた。 もう ハへ, -で は^をつ 

ぶっても、 はっきり この 店 を 思 ひ 出す ことが 出お る。 ^^んかゃ£|^^らぶら^ったのは|||の ハ ムに 

違 ひない。 攔 間の 色 砲 子 は 漆 りの I ねへ いが Si の して ゐる。 りの? i にぎらかった 

の はコン デ ン スド. ミルク のき 告^ あ ら う。 1^ や g んの きし^ は いの, お に 5| き い 康が かかって ゐる" 

. } ほ、 か f- ざ ど なか *、 ん かんみ かさ きんせん -- e -- r - : 

その外 飾りぎ の 中の 軍艦 三 笠 も、 金 線 サイ ダァの ポスタ ァも、 檢? も、 ま 租ノ, も、 rafc, もも、 スコ 

ット ランドの ゥ イス キイ も、 アメリカの 乾し I 萄も、 マニラの 紫!^ も、 H デブ 卜の 組 おも、 組 節 

にし ス ギ J うに ノ、 まと 二 :ん .* ぉぽ 

の 鰊 も、 牛肉の 大和煮 も、 in ど見覺 えの ない もの はない。 まビ」 I ぃ敏 ちあき V おろ に^ちき し 

た 主人 は 飽き飽き する ほど 見慣れて ゐる。 いや、 見慣れて ゐる ばかりで はない。 船 はい 如. W に g を 

する か、 如何に 小僧に 命令,. をす るか、 ココア を ー罐買 ふに しても、 「Fly より はこ ちらに なさい。 

これ は オランダの Due です」 などと、 き^に If^ll ませる か、 I .ぉ^^の.一っ^ぺき:-、^|ぐと 



ばば ばばあ 



365 



- 一-一ろ. 二 こ-一ろ え わる たい; つ じじつ ゎ丄 ,キーち とき 

うに 心得て ゐる。 心得て ゐ るの は. 惡 いこと ではない。 しかし退屈なことは_5^^實でぁる。 保士 11 は 時 

どき みチ J く めう ナ うし ひさ かスカ , せまへ L 

時 この 店へ 來 ると、 妙 に敎師 をし てゐ るの も 久しい も の だな と考 へ たりし た。 (そ の 癖 前に も 云 つ 

とほ かれ け-つし せいく わつ いちねん _ ノ 

た 通り、 彼の 敎師の 生活 はま だ 一 年に もなら なかった ので ある!) 

f んぼふ し まい へんく わ みせ おこ ゃナき ち あるし よか § 

けれども 萬 法 を 支配す る變化 はや はりこの 店に も 起ら すに はすまない。 保士::は或初_^:^の朝, こ 

みせ たばこ か み なか とほ みづ う ゆか うへ 

の 店 へ 堙草を買 ひ に は ひ つ た。 店 の 屮は ふ だ ん の 通り で ぁ る。 水 を撒 つ た」^^; の 上 に コ ン デ ン ス ド • 

くわう こく .^r か-に すがめ しゅじん か は んんぢ やう だい ろし すわ 

ミルクの 廣吿の 散らかって ゐる こと も變り はない。 が、 あの 眇の 主人の 代りに 勘定 臺の 後ろに 坐 

せいやう がみ ゆ をん な とし じふく くら ゐ み かほ ねこ に 

つて ゐ るの は 西洋 髮に 結った 女で ある。 年 はやつ と 十九 位で あらう。 En face に た 額 は 猫に 似 

ひ ひかり め ほそ ひとす ぢ け しろね 二 に や ナふ」 ち おも 

てゐ る。 日の 光に すっと LE を 細めた、 一筋 もま じり 毛の ない 白 猫に 似て ゐる。 保吉 はお やと 忍 ひ 

かん ぢゃ うだい まへ あゆ よ 

ながら、 勘定 臺の 前へ 步み 寄った。 

あさひ ふた たま 

「朝日 を 二つ くれ 給へ。」 , 

「はい。」. 

をズ な へんじ はづ だ あぶ. ひ ふた はこ つらが は -t. よくじつ 

女の 返事 は羞 かし さう である。 のみなら す 出した の も 朝日で はない。 二つと も 箱の ー災 糊に 旭日 

今 ゑが み かさ やすきち おも た.?】 をん な かほ め うつ どうじ また をん な はな f た た < が 

旗 を 描いた 三 笠で ある。 保 吉は思 はす 煙草から 女の 額へ EI を 移した。 问 時に 乂 女の 鼻の 下に 長い 



士 



6 

3、 



ねこ ひげ さう ざう 

猫の 髭 を 想像した。 

I 戟日を — こり や 朝日 ぢゃ ない。」 

「あら、 ほんた うに。 —— どうもす みません。」 . 

i— いや、 お ^ぃ§ をした。 この が i 辦 i きん お F てゐ る。 それ も li 

) ,- ^ う ノ , >-> ろく ねんらい あと た けんいう しゃし ふ, ス む. I* め pr., >- ^ V: 

I のぁ孃 さんで はない。 五六 年來 迹を絕 つた 现友社 趣^の 1 である。 保吉 はばら J きを!^ りながら、 

つばく ろぐ ち ふ ろ し きづつ .,ハ キー p-f た りゃう 3 く 、"二ら. さき J 、、こ VM - 

「たけくらべ」、 乙 鳥 口の 風呂敷 包み、 燕 子, せ 兩國、 § 木淸^ ! その^ いろいろの もの を ほ 

だ をん な もちろん あ ひだ かんち や. T だ 1 した 〔; て , 'つし わう ナノ ク, - あメ * 、 : 

。り-した 女 は 勿論 この間 も 勘定 臺の 下を观 きこんだ なり、 一 生 i 『命に 朝日 を ^ して ゐる。 

ると 奥から 出て 來 たの は 例の 眇-の 主人で ある。 主人んはョ||を1と&^3-ると、 ^露.^ 1^ を: おした 

- > 1 め、 ひか^. £+H が き かんち やう だい した て い ち X- 少 ^ r 

け ふも不 & 苦り切った まま、 勘定 臺の 下へ 手 を 入れる が f いか、 :^"in を?) っ^ 

した しかし その 目に はかす かに もしろ、 顿 笑みら しい ものが 動いて ゐる。 

「 マッチ は?」 

をん な め またね こ のど な こ K. お S. でづ广 ノン 

女の 目 も 亦 猫と すれば、. 喉 を 鳴らし さう に 媚を帶 びて ゐる。 主人 は 返事 をす る 化 りにちよ いと 

ん, と-つ をん な とっさ かん ぢ やうお- う、 こ ゲた > と £ 

唯點 頭した。 女 は t= 搭に (!) 勘定 臺の 上へ 小型の マッチ を J つ 出した。 それから I. もう お 



らし 、ノ 



7 しさう に 笑った。 

6 

3 

「どうもす みません。」 

たこ あさひ だ み かさ だ やすきち ふたり みくら 、_ 

すまな いのは 何も 朝日 を屮 Z さすに 一一 一 笠 を 出した ばかりで はない。 保 吉はー 一人 を 見 比 ベながら 

かれ じ しん び せう かん 

彼 自身 も いっか 微笑した の を 感じた。 

をん ケ つ) き み かん ぢ うだい うし すわ もっと いま ヌ いし H , いいやう えみ 

. 女 は その後い つ 來て兑 て も、 勘定 臺の 後ろに 坐って ゐる。 尤も今では;^取初のゃぅに西洋^龙など 

か あか て バ. ら お ほ まるまげ か は $ く たい たい 

に は 結って ゐ ない。 ちゃんと 赤い 手 絡 を かけた、 大きぃ圆^^に變ってゐる。 し 力し 客に 對 する 態 

ど .^i らャ、 う おうた、 T な もつ ま ^i- が ときどき あか 力 ほ 

度は不 机變妒 にう ひう ひしい。 膨對 はっかへ る。 品物 は 間違へ る。 おまけに 時^は 赤い 額 をす るハ 

f んぜ み おもかげ み やすきち をん な あるかう い かんだ い 

. I 全然お ヒ, さんら しい 面影 は 見えない。 保吉 はだん だんこの 女に 或 好意 を 感じ 出した〕 と 一- ムっ 

お、.: つ ゎナ た だ、, か ひ 上な ところき がるな つか カスた 

て も ii? にきち た; 1;^ ではない。 唯 如何にも 人惯れ ない 所に 氣輕 ぃ懷 しみ を 感じ 出した ので ある 

§"き^^の嚴しぃ午後、 保 吉は學 校の 歸り がけに この 店へ ココア を 5^ ひに は ひった。 な はけ ふ も 

.^/>if\ やうお. - うし かう ギ-ん く ら ぶ なに よ やすきち にきび お ほ こ ,v。 ゝ、 

ち 徽定臺 か 後ろに 講談 供樂部 か 佝かを 讀ん で ゐる。 保吉は 面皰 の 多い 小^に Van wouten はない 力 

ば たづ 

ば と 尋ねた。 

ま - 

ただいま 

( 「唯今 あるの はこれば かりです が。」 



小! Is の 渡した の は :Pry である。 保 吉は店 を 見渡した。 すると 鬼き の 鳴;^ めの l^,^ts のお さ 

しゃう へう ひと,、 わん 

んの 商標 をつ けた Dl.oste も 一 纖 まじつ てゐ る." 

「あすこに Droste も ある ぢ やない か? 一 

こヽ モぅ み ばくぜん かま 

パ, 僧 はちよ いと そちら を 見た きり、 やはり 漠然とした 顏 をして ゐる。 

「ええ、 あれ もコ コアです。」 

「ぢゃ こ れ ばかり ぢ やない ぢ やな い か?」 

「ええ、 でも まあ これ だけなん です。 —— お上さん、 ココア はこれ だけです ね?」 

や, 叶 1- ち,、 ゾんな , 'か マ I "一 ころ め ほき をん な うつく みどりい ろ かま もっと しぎ 

保 吉は女 を- 1 り 返った。 心 もち 目 を 細めた 女 は 美しい 綠 色の 露 をして ゐる。 尤も これ は-か 思議 

、 ぜんぜん らんま いろ ガ ラ ス す ご ご ひ ひかり ざ よう てん 二 r J \ >ぢ し. t 

ではない。 全然 欄間の 色 硝子 を 透かした 午後の 日の 光の 作 川で ある。 女, はき ま を ぼの 下? にした ま 

* 5^ いと ほ が へんじ 

ま 例の 通りた めら ひ 勝ちな 返事 をした。 

「は あ、 それだけだった と E 心 ふけれ ども。」 

- I ) j なか ときどきむ し わ 

r 實は この Fry の コ コアの 中には 時時 蟲が 湧いて ゐ るんだ が、 —— 」 

やす? ち まじめ は な じつ さ-卜 じ ,p で ち -ァ 

保吉は 3 具 面目に 話しかけた。 しかし 實際蟲 の 湧いた コ コアに 出合った i ル えの ある;^ ではない。 



ばば ばばあ 3'59 



ただな ス い うむ たし うへ か 5 つう しし 

咿化 でも かう 云 ひさへ すれば, .v-an wouten の 有無 は 確かめさせる 上に 效 能の ある こ, こ を li;^ じた 

からで ある。 

1 ノ お ほ ちゃう ど こ £ びくら ゐ 

「それ もす ゐ ぶん 大きい やつが ある もんだ からね。 丁度 この 小指 位 ある、 …… 」 

をん な い V- さ おどろ かん ぢゃ うだい うへ よん しん 

女 は 聊か 驚いた やうに 勘定 臺 の 上へ 半身 をのば した。 

-リ /- と ゼな た.^ 

1 そっちに もま だ あり やしない かい? ああ、 その後ろ の戶 棚の 屮 にも。」 

ちか こ -こ 

「赤い のば かりです。 此處 にある の も。」 

「ぢゃ こっちに は?」 . 

をん な あづま げた つつ しんば い みせ ざが き こ ぞう え くつ-; -づ 

女 は 吾妻 下駄 を 突かけ ると、 心配 さう に 店へ 搜 しに 來た」 ぼんゃりした小$:もゃむを5^^權詰 

あ ひだ のぞ み やすきち たばこ ひ C ち .A れら ± くしゃ くよ かん;,、, かぐ 1 ハ 

めの など を舰 いて 見て ゐる。 保吉は 煙草へ 火 をつ けた 後、 彼等へ 拍車 を. g へる やうに 考, へ 者へ 

しゃべり つづけた。 

1 わ;: ル わ,'. . -こ ども はら いた かれ あるひ t よち か ま ひと 

「蟲の 湧いた やつ を飮 ませる と 子供な ど は 腹 を 痛める しね C (彼 は 或 避;^ 地の^し 問に たった 一 

りつ、: こ ども か ない ぃ+^-ど め あ もちろ ズ つま 

人 暮らして ゐ る)。 いや、 子供ば かり ぢ やない。 象內も 一 度 ひどい に 遇った ことがある。 (勿論^ 

も なに ようじん こ 

など を 持った こと はない: T 何しろ 用心に 越した こと はな いんだから。 …… 」 



370 



やすきち くち をん な まへ か て ふ , た, わく かれ な 力 

保吉 はふと 口 をと ざした。 女 は 前掛けに 手 を 拭きながら、 當惑 さう に 彼 を 眺めて ゐる。 

「どうも 見えな い やうで ございま すが。」 

をん な め くち む り び せう 二と こっけい み はな また 

女の 目 は おどおどして ゐる。 口 もと も 無理に 微笑して ゐる。 殊に ^精に 見えた の は 鼻 も.^ つぶ 

$ やすきち をん な め あは せつな とつぜん あくま Q うつ かん をん *^ IC 

つぶ 汗をかいて ゐる。 保吉は 女と 目 を 合せた 刹那に 突然 惡 魔の 乘り移 るの を 感じた この 女 はーム 

おじぎ さう いってい し げき あた かなら かれ おも とほ はんのう てい 

はば 含羞 草で ある。 一定の 刺戟 を與 へさへ すれば、 必す 彼の 思 ふ 通りの 反 應を呈 する のに 遠 ひな 

し げき かス たん かほみ い あるひ また ゆびさき い *^/^ 

い。 しかし 刺戟 は簡單 である。 ぢ つと 顔 を 見つめても 好い。 或は 叉 指先に さはっても 好い 女 は 

し げき やすきち あんじ う う あんじ ち,^ んみ: ^Ju- - ^ 

きっと その 刺戟に 保吉の 暗示 を 受けと るで あらう。 受けとった暗示をどぅするかは^^!未知の問 

i, こ * さい. H はん £ つ ねこ か い ね-一 に をスな たダ 

題で ある。 しかし 幸 g> に反徵 しなければ、 11 いや、 猫 は 飼っても 好い。 が、 猫に 似た 女の 爲に 

たまし ひ あくま う わた ナこ かんが やす ち す -f^„ ^に- いつ , -、 ^,、 

魂 を惡 魔に 寶り 渡す の はどう も 少し 考へ ものである.〕 保 吉は吸 ひかけ た 煙 やと 一 しょに 集り 

うつ あくま よ ふ 二 ふ い くら あ: ま がへ ひやう し こ ぞう は な あな と 

移った 惡魔を 拋り屮 I した。 不意 を 食った 惡魔 はとん ぼ 返る 拍子に 小份の 鼻の 穴 へ 飛び こんだ ので 

こ ぞう くび ちぢ はや お ほ V 、さめ 

あらう。 小僧 は 首を縮め るが 早い か、 つづけさ まに 大きい i 疋 をした e 

し ひと たま 

r ぢゃ仕 かたがない。 Droste を 一つ くれ 給へ。」 

やすきち くせう う せん さぐ だ 

保吉は 苦笑 を 浮かべた まま、 ポケット のばら 錢を 探り出した.^ 



こ かれ をん な たび おな か-つせ ふ かさ あ,. i つ ifo おくし ちょ 

1 その後 も 彼 はこの 女と 度た び 同じ やうな 交涉を 重ねた" が、 惡 魔に 乘り 移られた 記憶 は 仕ム E せ 

. - ほか i いちど てんし き かん 

と 外に は 持って ゐ ない。 いや、 一 度な ど はふと した はすみ に 天使の 來 たの を 感じた こと さ へ ある。 

ある あき ふか ご ご やすきち たばこ か ついで み でんわ し. 、よう ! ゅひス -^fe 

或 秋 も 深まった 午後、 保吉は 煙草 を 買った 次 乎に この 店の 電話 を 借用した。 主人 は 日の 営った 

みナ まへ くうき うつ 一 じ てんしゃ し-つ ぜん と こ ¥ぅ つ.,.." で 

店の 前に 〈<H 氣 ポンプ を 動かしながら、 自轉 車の 修 緒に 取り かかって ゐる。 小份 もけ ふ は 使 ひに 出 

をん な あ ひか はらす かん ぢゃ, T だい まへ うけと なに せいり * み i 一 く つす、 < 

たらしい。 女 は 不相變 勘定 薹の 前に 受取り か 何 か 整理して ゐる。 かう 云 ふ 店の 光 ばいつ て も 

わる どこ オランダ ふうぞくぐ わ ,L づ かう ふく も ふ い I き 4f *3^:くな 

悪い もので はない。 何處か 阿蘭陀の 風俗 畫 じみた、 もの 靜 かな 幸福に 溢れて ゐる。 保 小::: は 女の す 

ぅ丄 じゅ. 9 き, み 一み , あ かれ あい f つ しゃしん ぽん いちまい おも だ 

ぐ 後ろに 受話器 を 耳へ 當 てた まま、 彼の 愛藏 する寫 眞 版の ; De Kocghe の 一 枚 を 思 ひ 出した。 

でんわ よ-つい せん ぱぅ つう かう くわしし ゆ 

しかし 電話 はいつ になっても、 容易に 先方へ 通じない らしい。 のみなら す 交換 もどう したの 

いちに ど なん. t ん く かへ C ち ぜん 卞 一ん ちんら く まも や ナキも ど な 

か、 一二 度 「何^へ?」 を 繰り返した 後 は 全然 沈默を 守って ゐる。 保吉は 何度も ベル を 鳴らした。 

じゅ わ き かれ みみ い おと つた 

が、 受話器 は 彼の 耳へ ぶつぶつ 云 ふ 昔 を 傅へ る だけで ある。 かう なれば もう; De wooghe など を 

おも だ "^あ ひ やすきち しゃく わ、 し £1,1- よ や * ヒ 

あ E:^ ひ 出して ゐる 場合で はない。 保吉 はま づ ポケットから Spargo の 「社 八 r 主義^ わかり」 を 出した リ 

ば *" いは でん, 9 けんだい ふた はこ れ tz まし つ め 

、は 幸 ひ" 亀 話に は 見臺の やうに 蓋の なぞへ になった 箱 もつ いて ゐる。 彼 は その^に ¥ を 載せる と、 

^ くわつ じ ひろ て で キ- がう ヒ やう な だ > 6 % y < かろく, ゾ 

W は 活字 を 拾 ひながら、 手 は 出來る だけ ゆっくりと 强 情に ベル を らし 出した。 これ は 橫ム: : な,」 父衡 



372 



しか たい かれ せんば ふ ひと ぎんざ を はりち やう じ どうでん わ とき 

手に 對 する 彼の 戰 法の 一 つで ある。 いっか 銀座 尾 張 町の 自働. 電話へ は ひった 時には やはりべ ルを 

なな さ ばし じん n らう くわん ぜん いっぺんよ かう くわん しゅ で うち 

鳴らし 鳴らし、 とうとう 「佐 橋 甚 五郞」 を 完全に 一 篇讀ん でし まった。 け ふ も 交換 乎の 出ない 屮は 

斷じ てべ ル の 手 を やめない つもりで ある。 

かう くわん しゅ けんく わ あげぐ でんわ を は に じっぷん 力 , や; 1^ 巧. ち 

さんざん 交換手と 喧嘩した 擧句、 やっと 電話 を かけ 終った の は 二十 分ば かりの 後で ある 保^^ 

れ. - . ためう し かん ぢゃ うだ, かへ そこ たれ をん な みせ と ぐち 

は 禮を云 ふ爲に 後ろの 勘定 臺を ふり 返った。 すると 其 處には 誰も ゐ ない。 女 はいつ か」 i5 の に 

.H に しゅじん よな しゅじん あき ひなた じ てんしゃ しう ぜん _ やす. * へ, -ち 

何 か 主人と 話して ゐる。 主人 はま だ 秋の 日向に 自轉 車の 修繕 をつ づけて ゐる らしい 保 は そち 

ある だ おも あし と をん なかれせ む し^じん 

らへ 歩き 出さう とした。 が、 思 はす 足 を 止めた。 女 は 彼に 背 を 向けた まま, こんな こと を 主. <に 

たづ 

尋ねて ゐる。 

コ ォヒィ きゃく 「ォ ヒィ 

「さっきね、 あなた、 ゼン マイ 珈琲と かってお 客が あつたんで すがね、 ゼン マイ 珈琲って あるん 

です 力?」 

n ォヒィ 

「ゼ ン マ ィ 珈琲?」 

しゅじん こ ゑ さいくん きゃく たい ぶ あいさう 

主人の 聲は 細君 に も 客 に 對す る やうな 無愛想 である 

げズ まい n ォヒィ き ちが 

「玄米 珈辨の 聞き違へ だら う。」 



ばば ばばあ 



373 



コ ォヒィ けんまい こしら コ ォヒィ なん を か おも 

「ゲン マイ 珈琲? ああ、 玄米から 捲へ た珈辨 = 11 何だか 可笑しい と 思って ゐた。 ゼ ン マイつ 

て 八 t 屋 にある もので せう?」 

やすきち ふたり 5 し すがた なが どうじ また てんし き かん てんし ざ が 

保吉は 二人の 後ろ姿 を 眺めた。 同時に 又 天使の 來てゐ るの を 感じた。 天使 は ハムの ぶら 下った 

てんじゃう ひ やう なん し ふたり うへ しゅくふく つ ちが もっと くん 

天井の あたり を 飛揚した まま、 何にも 知らぬ 二人の 上へ 祝; i を 授けて ゐ るのに 違 ひない。 t も爐 

せい にしん に ほひ かほ やすきち とつぜん くんせい にしん か わす おも 

製の 錄の 勻に顏 だけ はちよ いとし かめて ゐ. る。 —— 保吉は 突然 爐 製の 鯡を賈 ひ 忘れた こと を ひ 

だ にしん かれ はな さキ- あさ けいがい かさ 

出した。 解 は 彼の 鼻の 先に 淺 ましい 形骸 を 重ねて ゐる。 

きみ にしん たま . 

「おい、 君、 この 解 を くれ 給へ。」 

をん な たち ま ふ かへ ふ かへ ちゃう ど や ほ や さつ とき をん な 

女 は 忽ち 振り返った。 振り返つ たの は厂 度ゼン マイの 八百屋に ある こと を 察した 時で ある。 女 

もちろん はなし き おも ちが ねこ に かほ め あ おも み み はづ 

は 勿論 その 話 を 聞かれた と 思った のに 違 ひない。 猫に 似た 顏は 目を擧 げたと 思 ふと 見る見る 楚か 

そ だ やすきち まへ い とほ をん な かほ あか いま たび で あ 

しさう に 染まり 屮 I した。 保吉は 前に も 云 ふ 通り、 女が 顏を 赤め るのに は 今までに. e 度た び 出合つ 

とき か み 

てゐ る。 けれども まだ この 時 ほど、 まつ 赤に なった の を 見た こと はない。 

「は、 錄 を?」 

をん な こ ご ゑ と かへ- 

女 は 小 聲に問 ひ 返した。 



374 



「ええ、 解 を。」 

やす キ-ち ぜんご とき はな は しゅしょら へんじ . 

保吉も 前後 にこの 時 だ け は 甚だ 殊勝に 返事 を し た .レ 

い て き - ごと のち ふたつき ころ たし よくと し しゃう ぐ わつ をん な 

かう 云 ふ出來 事の あった 後、 二月ば かりたった 頃で あらう、 確か g 年の 正月の ことで ある。 女 

ど こ ナ がた かノ、 みっか いっか か もつ 

は何處 へどう したの か、 ばったり 姿を隱 してし まった。 それ も 三日 や 五日で はない。 いつ ST: ひ 物 

み ふる す みせ れい すがめ しゅじん ひとり たい/、 つ すわ 

に は ひって 見. て も、 古い スト ォヴ を据 ゑた 店に は 例の 眇の 主人が 一人、 退屈 さう に 坐って ゐ るば 

やすきち た かん また をん な み り いう i でう ざう く は 

かりで ある。 保吉 はちよ いと もの 足らな さ を 感じた。 叉 女の 見えない 理由に いろいろ 想像 を 加へ 

ぶ あいさう しゅじん かみ たづ こころ また じつ V.- い 

など もした。 が、 わざわざ 無愛想な 主人に 「お上さん は?」 と 尋ねる 心 もちに もなら ない。 义赏際 

し jg じん もちろん や をん な なになに たま い < ^か あいさつ か は 

主人 は 勿論 あの はにかみ屋の 女に も 、「何何 を くれ 給へ」 と 云 ふ 外に は挨拨 さへ 交した こと はな か 

つたので ある。 - 

うち ふゆ みち うへ いちにち ふっか あたたか ひ 

その 內に冬 ざれた 路の 上に も、 たまに 一日 か 一 一日 づっ暖 い 曰かげ がさす やうに なった" けれど 

をスな かほ み みせ しゅじん くわう りゃう くうき ただよ やすきち 

も 女 は 顔 を 見せない。 店はゃはり主.人のまはりに荒涼とした,;^^;氣を漂はせてゐる。 保吉 はいつ か 

少しづつ 女の ゐな いこと を 忘れ 出した。 

,にぐ わつ ナゑ 4 める よ がく かう イギリス rrA うえん,、 わい き あ やすきち なまあたたか な/ぶう ふ 

すると 1 一月の 末の 或 夜、 學 校の 英吉利 語 講演 會を やっと 切り上げた 保士 :! は 生暖ぃ 南風に 吹かれ 



ばば ばばあ 



375 



ケ、 べっか も G 々- みせ まへ とま み でんとう t ^ 

ながら、 格別 買 ひ 物 をす る氣 もな しに ふと この 店の 前 を 通りかかった。 店に は. ま^のと もった 巾 

せいやう しゅ. びん くわん. なら もちろん ふ し :3 

に 西洋 一 I? の や 嫌 詰めな どが きらびやかに:^ んでゐ る。 これ は 勿論 不 E 心議 ではない。 しかし ふと 

ほべ, み, - , み.". - まへ をん な ひとり りゃうて あかご かか た わい 

ぎが V- レて 3- ると 店の" まに は 女が 一人、 兩 手に 赤子 を 抱へ たま ま、 多 愛 もない こと を しゃべつ 

- ゃン, .t- ち -;? せ , f,-„; らい , は J ひろ でんとう ひか たち ま わか はは たれ はつ はん 

てゐ る。 保 1^11 は 店から 往來 へさした、 幅の 廣 い!^ 祖燈の 光りに 忽ち その 若い 母の 誰で あるか を發兑 

した。 

「あばば VT よ,. hT ま、 、まあ! 一 

をズ な . ?」 し まへ ある ある おもしろ あか |*) あかつ J g あ ひ j> 、うし ぐう ザ, > 

女 は 店 の^を 步き步 き、 面. GI さう に 赤子 を あやして ゐる。 それが 赤子 を 描り 上げる 拍子に^ 然 

やすきち め あ ゃナ きち とっ^ をん な め し ん じゅん ようす V,: つ ざう よ め をん な か- 5.* 

保亩 と! HI を 八:: はした。 保 士:: は 咄^に 女の 目の 逵巡 する 容子を 想像した。 それから 夜:::: にも 女の 節 

あか よ- リす V」 うざつ をん な す め しづ ミまゑ JJ-T* ナ うしう 

の 赤くなる { 芥子 を 想像した。 しかし 女 は 澄まして ゐる。 nw も靜 かに 顿 笑んで ゐれ ば、 額 も 51、 宠な 

5 いぐ わ-い いっしゅんかん ち ゆ あ あかご め 4; と ひとまへ は 

ど は! f!:: ベて ゐ ない。 のみなら す 意外な 一瞬 11 の 後、 搖り 上げた 赤子へ 目 を 落す と、 人前も^ ぢす 

に 繰り返した。 

「あば VT ばばば ば、 ば あ! 一 

ゃナ キ-ち を/な うし われし わら だ をスな を/な どきょう 

保 吉は女 を 後ろに しながら、 我 知らす にゃにゃ 笑 ひ 出した。 女 はもう 「あの 女」 ではない。 度胸 



い はは ひと リ ひと こ ため さいご 一一 らいい > おく じ や-か おそ 

の 好, い 母の 一人で ある。 一た. び 子の 爲 になった が 最後、 古來 如何なる :„si^^ を も 犯した、 恐ろしい 

はは ひとり へんく わ もちろん をん な ため しゅくふく あた い む厂め ケ: 

「母」 の 一人で ある。 この 變化は 勿論 女-む 爲には あらゆる 祝福 を與 へても 好い。 しかし 娘 じみた 紙 

くん か は づぅづ う はは み いだ やすきち あゆ う ぜん ,っハ そら み あ 

B^;:の代りに圖圖しぃ母を見出したのは、 …… 保 吉は步 みつ づけた まま、 茫然と 家家の.^ を见 上げ 

そら みなみかぜ わた なか まる はる つき ひと しろ 

た。 空に は 南風の 渡る 中に 圓ぃ 春の 月が 一 つ、 ね じろ とかす かに かかって ゐる。 

(大正 十二 年 十 一 月) 



378 



すみ せがれ しに わか ちゃつ じ こう せがれ に た らう ちし -H ちね/ V こし どう- T 、う 

お 住の 悴に 死別れ たの は 茶摘みの はじまる 時候だった。 俘の仁太郞は足かけ^^年、 腰ぬ け M 様 

とこ つ い せがれ し n し, £u つ い すみ かな 

に 床に 就いて ゐた。 かう 云 ふ悴の 死んだ こと は 「後生よ し」 と 云 はれる お 住に も、 悲しい とば かり 

かき すみ に た らう くわん まへ いっぽんせ/かう た む 上き と かく あ V.- ひ な キりど ほ 

は 限らなかった。 お 住 は 仁 太 郞の棺 の 前へ 一本 線香 を 手 向けた 時には、 兎に角 朝 比奈の 切通し か 

なに とほ ぬ き 

何 か を やっと 通り 拔け たやうな 氣 がして ゐた。 

に *た らう さ _,. つ-, Y き C ち もんだい よめ たみみ うへ たみ を. M- 一 

仁 太 の 葬式 をす ました 後、 まづ 問題に なった もの は 嫁のお 民の 身の上だった。 お 民に は sf- の 

こ ひ > り うへ ね にた らう か は らし ごと たいてい ひきう いまだ 

子が 一 人あった。 その上 寢てゐ る 仁 太郞の 代りに 野良仕事 も 大抵 は 引受けて ゐた。 それ を 今 出す 

こ ども せ わ こま もちろん くら たうて た , すみ. t 

とすれば、 子供の 世話に 困る の は 勿論、 暮 しさへ 到底 立ち さう にはなかった。 かたがたお 住 は 叫 

じ: つ、 にち たみ むこ あて うへ せがれ とき おな はたら もら おも 

十 丸 日で も すんだら、 お 民に 壻を當 がった 上、 俘の ゐた 時と 同じ やうに 働いて 賛は うと 思って ゐ 

JV- こ に た らう いと 二 あた よ きち もら おも 

た。^ に は 仁 太 郞の從 弟に 當 る 與吉を 貧 へばと も 思って ゐた。 

ノ ちゃう どし よな つか よくあさ たみ かた だ とき すみ おどろ かくべつ 

それだけに 丁度 初七日の 翌朝、 お 民の 片づ けもの をし 出した 時には、 お 住の 驚いた の も 格別 だ 



土の 塊 一 



379 



すみ とき ま 一,) ひろ じ おくべ や ぇズが は あそ あそ おもちゃ がく かう ぬす. . はな 

つた。 お 住 は その 時 孫の 廣次を 奥 部屋の 緣 側に 遊ばせて ゐた。 遊ばせる 玩具 は學 校の を 盗んだ 花 

ざ か さくら ひとえ だ 

盛りの 樱の 一枝だった。 

たみ だま わる まへ こ. お 

「のう、 お 民、 おら あけ ふまで 默 つて ゐ たの は 惡 いけん ど、 お前 はよう、 この 子と おらと を篮ぃ 

たまん ま、 はえ、 出て 〔仃 つてし まふの かよう?」 

すみ なじ い うった こ- *s たみ みむ なに い 

お 住 は 詰る と 云 ふより は訴 へる やうに 聲を かけた。 が、 お:^ は 見向き もせす に 、「何 を 云 ふぢ や 

わら -, プニ だ すみ くらん し 

あ、 おばあさん」 と 笑 ひ聲を 出した ばかりだった。 それでもお 住 は どの位 ほっとし たこと だか 知 

れ なかった。 

「さう すらのう。 まさか そんな こと をし や あしめ えのう。 …… 」 

すみ ぐ .^f た/ぐわん く かへ どうじ また か G ぢ よじ しん ことば かん 

お 住 はな ほ くどくどと 愚痴 まじりの 歎願 を 繰り返した。 同時に 又 彼女 自身の 言葉に だんだん 感 

しゃう もよ ほ だ なみだ いて しわ ほほ つた 

傷 を 催し 屮 I した。 しま ひに は淚も 幾す ぢか皺 だらけの 頻を傅 はり はじめた。 

まへ よ うち き い こ 

「はい さね。 わし もお 前さん さへ 好け り や、 いつまで もこの 家に わる だ わね。 —— かう 云 ふ 子 

ども -10 ほかい 

供 も ある だものう, すき 好んで 外へ 1;;: くもん ぢ やよう。」 

たみ なみだ ひろ じ ひざう へだ あ ひろ じ めう はづか おくべ 

お 民 もい つか 淚 ぐみながら、 廣次を 膝の 上へ 抱き上げ たりした。 廣次は 妙に 羞 しさう に、 奥 部 



3S0 



や ふるだ だみ な だ さく..,: えだ キ- 

屋 の 古疊 へ 投げ出された 樱の 枝ば かり 氣 にして ゐた C 



たみ にた 、いう ざいせいち-つ ナこ か は はたに. むこ +£ し おも 

お は 仁 太郞の 在世中と 少しも 變ら すに 働きつ づけた。 しかし 壻 J 



ズズ ぶ レス ゼパ Jh.^L -3 ようろ もちろんき くわ- 

に片づ かなかった。 お 民 は 全然 この 話に 何の 興味 もない らしかった。 お 住 は 勿論 機 仏 さへ あれば * 

たみ ま ひ み V- うだん も たみ ヒ ド 

そっとお 民の 第 を 引いて 見たり、 あら はに 相談 を 持ち かけたり した。 けれどもお: i: は その 度 ごと 

に 、「はい さね、 いづれ 來 年に でもな つたら」 と 好い加減な 返事 をす るば かりだった。 これ はお :ll 

に は 心 ¥ じ も あれば、 嬉しく も あるのに 違 ひなかった ■) お 住 は 世 問に 氣を 翁ね ながら、 に u-l 

い しだい とし かよ ま 

の 云 ふなり 次第に 年の 變 るので も 待つ ことにした。 

たみ- よくと し ら で ほか な,? かんが 

けれどもお 民 は 翌年に なっても、 やはり 野良へ 出かける 外に は 何の 考へ もない らしかった。 お 

ザみ: い. ち〃 - き-よね. ん いっそう ぐわん むこ はなし すす だ ひと しん i ぶ" 

住 はもう 一度 去年より はー署 願に かけた やうに!, ほ をと る 話 を 勸め屮 :; した" それ は 一 つに は 親戚に 

しか せ けん ぐち く や 

は 叱られ、 世間に はかげ 口 をき かれる の を 苦に 病んで ゐ たせ ゐも あるの だった。 

1 •> * たみ まへ いま わか をと こ 

「たかのう お::^、 お前 今の 若さで さ、 なしに や ゐら, si る もん ぢ やなえ より I 



土の 塊 一 381 



, し なか た にん い み ひろ かはい 

r ゐられ なえた つて 仕 かたがな ぇぢ や。 この 中へ 他人で も 人れ て 見なせえ。 廣 も可哀 さう だし、 

まへ きがね だいいち き ぼね を 

お前さん も氣楚 だし、 第一 わしの 氣骨の 折れる ことせ つたら、 ちっと やそつ とぢ やなから うわ 

ね。」 

H .^ヒ ち もら まへ ごろ 《H くち う 、 

「だからよ、 與吉を 貰 ふこと にしな よ。 あいつ もお 前 この頃 ぢゃ、 ばったり 博奕 を 打た なえと 云 

ふぢ や あ。」 

み 5 ち たにん なに が まん 

「そり やおば あさんに は身內 でもよ、 わしに はやつ ばし 他人 だ わね。 何、 わし さへ 我 3il すり や… 

…… 」 

が まん いちねん に ねん 

「でもよ、 その 我慢が さあ、 一年 や ニ年ぢ やなえ からよう。」 

い ひろ ため いまく る こ n ち でんち ふた 

「好い わね。 廣の爲 だものう。 わしが 今 苦しん どき や、 此處の 家の 田地 は 二つに ならす に、 そつ 

ひろ て わた 

くり 廣の手 へ 渡る だものう。」 

たみ すみ こ こ く まじめ ひく なに くち 

「だが のう、 お 民、 (お 住 はいつ も此 處へ來 ると、 眞 面目に 聲を 低める のだった。) 何しろ はたの 口 

まへ いま まへ い たにんき 

がうる せえ からのう。 お前 今 おらの 前で 云った こと は そっくり 他人に も 聞かせて くんな よ。 …… 」 

い もんだ ふ ふたり あ ひだ なんど で たみ けっしん ため つ. 4 

かう 云 ふ 問答 は 一 一人の 間に 何度 出た こと だか わからなかった。 しかしお :!^ の 決心 は その 爲に强 



) k f じつ VJ いまた たみ をと こで か - もう 

まること はあって も、 弱まる こと はない らしかった C 實際 又お 民 は 男手 も 借りす に、 芋を植 ゑた 

もぎ 力 いぜん し-ごと 4ii い だ なつ ん - つし.^ ぶつ/ 

り麥を 力ったり、 z^"m よりも 仕事に 精 を 出して ゐた。 のみなら す 夏に は 牝小を 飼 ひ、 ^の 口で も 

く づ-カ で よ, 寸- たら 1 ま V らた :ん 、 All ; ちか :- よ 

草为 りに 出か!: たりした。 この 烈しい 働きぶ り は 今更 他人 を 人れ る ことに 對 する、 それ 自身 カ强 

ヽ: f,.-X^L、, , ,)- 、;, t-l- X むこ と はなし だんねん もっと だん れん かな f す 

レ抗 5^ たった あ 住 もとうと うし まひに は壻を 取る 話を斷 念した。 尤も 斷念 する こと だけ は必し 

かの ぢょ ふ 、わい 

も 彼女に は 不愉快ではなかった 、り 



たみ をん な て ひと いっか くら V. さ もちろ/? ひろ ため , 、ち.; -ん 

お 民 は 女の手 一 つに 一 家の 暮しを 支へ つづけた。 それに は 勿論 「廣 の爲」 と^ふ J 念 も あるのに 

.II- ぶ - > -, また ひと かのちよ こころ ふか ねお ゐ でん *-か ら 

違 ひなかった。 しかし 又 一 つに は 彼女の 心に 深い 根ざし を 下ろして ゐ た.?!^ 傅の 力 も あるら しかつ 

たみ ふ まう やまぐに か, いつい いぢに グっ キ- いは.^ る わた -^.1?め まへ 

た。 お 民 は 不毛の 山國 からこの 界隈へ 移住して 來た 所謂 「渡り もの」 の 娘 だつ た。 「お前さん とこ 

, た/ かほ に、 あ ちから あ ひだ を か ぼ お またば し丄 しょ とま 

の あ 民 さ, んは 顔に 似合 はなえ 力が あるね え。 この間 も 陸 稻の大 束 を 把づ つも 背负っ て 通った ぢ 

. すみ となり ば あ き たび 

やなえ 力ね。」 —— お 住 は 隣の 婆さんな どから そんな こと を^ かされる の も 度た びだった。 

2 

^ すみ また たみ たい かんしゃ .Ac ちょ し 一 ごと あら ほ まご あそ うし そ わ 

お 住 は 又お 民に 對 する 感謝 を 彼女の 仕事に 表さう とした。 孫 を if はせ たり、 牛の 世話 をしたり、 



土 グノ塊 一 



583 



めし た せんたく となり みづ くい いへ なか し ごと すくな 

飯 を 炊いたり、 洗濯 をしたり、 隣へ 水 を 汲みに 行ったり、 11 家の 中の 仕 も 少く はたかった。 

すみ こし ま なに たの はたら 

しかしお 住 は 腰 を:^ げた まま、 何かと 樂 しさう に 働いて ゐた。 

ある あき く よる たみ まつば たば かか いへ か、 き み ひろ じ 

或 秋 も 暮れ かかった 夜、 お 民 は 松葉 束 を 抱へ ながら、 やっと 家へ 歸っ て來 た。 お 住 は廣次 をお 

や- T どせ まくる ど ま すみ する 一 ふ ろ した た 

ぶった なり、 丁度 狭苦しい 土 問の 隅に 据風 の 下 を 焚きつ けて ゐた。 

r 宗 かつ つらのう。 晩かった ぢ や?」 

よけい し ごと 

「け ふ はちつ といつ もより や、 餘 計な 仕事 をして ゐたぢ や あ。」 

たみ まつばた ば なが な だ どろ わら ぢ ぬ おは ろ f た あが 

お 民 は 松葉 束 を 流し もとへ 投げ出し、 それから 泥 だらけの 草!^ も脫 がすに、 大きい 據 側へ ヒり 

ろ なか くぬぎ ね ひと あか ほのほ うご み ぐ た ち が 

こんだ。 爐の屮 に は樑の 根っこが 一 つ、 赤 あかと 炎 を 動かして ゐた。 お 住 は ig! に 立ち上らう とし 

ひろ じ 二し ふ ろ をけ ふち かぎ ようい あ で き 

た。 が、 廣次 をお ぶった 腰 は 風呂桶の 緣 にっか まらない 限り、 容易に 上げる こと も 出來 ない の だ 

つた。 , 

「直と 風 S へ はえん なよ。」 

i 風呂よりも わし は 腹が減つ てるよ。 どら、 さきに 藷 でも 食 ふべ え。 —— . ずて あるら あねえ? 

おばあさん。」 



, ュ っ;^ なが もと ゆ そうざい に さつ ま いも なべ ろ SHfc さ 

あ 住 はよ ちょち 流し元へ 行き、 菜に 煮た 薩摩藷 を 鍋 ごと 爐 W へ ぶら下げて 來た。 

に ま つめ 

「とうに 煮て 待って たせえ にの、 はえ、 冷たくな つてる よう。」 

? "たり いも たけぐし つ さ いつ ろ ひ さ 

二人 は藷を 竹串へ 突き刺し、 一し よに 爐の 火へ かざし 出した。 . 

1^-^ ねむ とこ なか ころ お 

r 廣は よく 眠って るぢ や。 床の 中へ 轉 がして 置き やゆい に。」 . 

1 * ばか さむ した ね 

1 な あん け ふ は 莫迦 寒い から、 下ぢ やとても 寢 つかな えよう。」 

お 尺 はかう IK ふ 問に も 煙の m る 藷を顿 張り はじめた。 それ はい f おの 1^ 艇に «れ た 1|?1< だけの # 

> - > Y - 』 >, いも たけぐし ぬ そば ひとくち fe.^ ま 54, 、 .r え 

つて ゐる食 ひかた だった。 藷は 竹串 を拔 かれる 側から、 一 口にお に鄉 張られて 行った】 お^は 

ひ いびき た ひろ じ おも かん 、も ふ,... 

パさ、 > 鼾 を 立て る廣 次の 重み を 感じながら、 せっせと 藷を おりつ づけた。 

「なに ほク、 はたら ひといちば-はら へ 

一.^ しろ あ" 則の やうに 働く んぢ や、 人一倍 腹 も 減 るら な あ。」 

お 住 は 時時 嫁の 顔へ 感歎に 滿 ちた Si を! g いだ。 しかしお I は のま ま、 艇 けた 1 だの M りの 

な 力 さつ ま いも 1^ まズ 

中に がつがつ 薩摩 藷を頗 張って ゐた。 



たみ いよいよ ほねみ を をと-一 し ごと うば とき よる ひか な 

5 お 民 は 愈 ど 惜します、 ER の 仕事 を 奪 ひつ づけた。 時には 夜 も カンテラの 光りに 紫な ど を 

3 う、、 tl^ すみい をと こ よめ ナ いい かん 

うろ 拔 いて 廻る こと もあった。 お 住 はかう 云 ふ 男 まさりの 嫁に いつも 敬意 を 感じて ゐた。 いや、 

^や、 い , む, し ゐ: ぷ- かん たみ G やまし ごと ほか なん す,, * お .,.., 

敬意と 云-; よりも 寧ろ 畏怖 を 感じて ゐた。 お:!^ は 野 や 山の 仕事の 外 は 何でもお 住に 押しつけ ぼり 

、-- : か G ぢ よじ しん こしまき めった あら すみ /、tte,.J 

たった。 この頃で はもう 彼女 自身の 腰卷 さへ 滅多に 洗った ことはなかった。 お 住 は それでも J 和 |e 

い まが こし の , つし やう けんめ - よたら 4 に. ? -) 

を 云 はすに, 曲った 腰 を 仲ば し 仲ば し、 一生懸命に 働いて ゐた。 のみなら す^の m さんに でも 

へ ば、「.|^しろぉ:1^がぁぁー,|^ふ風だからね、 はえ、 わたし はいつ 死んでも、 家に +i{r 鋭 は; <ら なえよ 

う」 と、 眞 額に 嫁の こと を 褒めちぎって ゐた。 * 

たみ かせ び やう ようい まんぞく また:.^ と と レ 1 IV. 3 t *1 

しかしお 民の 「稼ぎ 病」 は 容易に 滿 足しない らしかった。 ぉ::^;-は乂 一 つ 年 をき すと、 ,,^^1- は 

ぅの桑畑 へも手を擴げると^:?^ひはじめた。 何でもお 民の 言葉に よれば、 あの- がに? 5 、 しき ビ^ 

もス 二 さく だ 1 んバ 《H * St" 、 

圓 ばかりの 小作に 出して ゐ るの はどう 考 へても 莫逾 莫迴 しい。 それよりも あすこに 桑を假 り、 lg 

蠶を 片手間に やる とすれば、 繭 相場に 變 動の 起らない i り、 きっと I- に" £ぉ ゼ^ は りに 

I ると か 云 ふこと だった。 けれども 金 は 欲しい にもし ろ、 この. 4^ じい まひ をす る こと は ト k 

fll こと て ま やうさん で き ,:- つ ゾ-ん ど 1- - W 

には堪 へられなかった。 殊に 手 問の かかる 養蠶 など は出來 ない 相談 も 度を越して ゐ た。 お g まと 



386 



ぐ ち たみ はん 加う 

うとう 愚痴 まじりに かう お 民に 反抗した。 

い たみ に わけ に わけ をと こで 

「好い かの、 お 民。 おら だって 逃げる 訣ぢ やなえ。 逃げる 訣ぢ やなえ けど もの、 男手 はたえし、 

な こ いま にす まへ と なん やつ 1 ん 

泣きつ 兒は あるし、 今の まんまで せえ 荷が 過ぎ てら あの。 それ をお 前 飛んでも なえ、 何で 養 S が 

で & まへ かんが み 

出來る もん ぢゃ? ちっと はお 前 おらの こと も考 へて 見て くんな よう。」 

たみ- しう 上め なみ いぎり やうさん だんねん 

お 民 も 姑に 泣かれて 見る と、 それで もとは 云 はれた 義理ではなかった" しかし 養!! は斷 念した 

く, たけ つく がう じ やう が > i とほ い はたけ ひとり て 

ものの、 桑畑 を 作る こと だけ は强 情に 我意 を 張り 通した。 「好い わね。 どうせ 畑べ はわし 一 人出り 

たみ ふ ふく すみ. み あて つぶや 

やす むんだ から。」 —— お 民 は 不服 さう にお 住 を 見ながら、 こんな 當っ こすり も 眩いたり した。 

すみ また ときい らい むこ と はなし かんが だ いぜん くら しんば い せけん か 

お 住 は 又 この 時 以來、 壻を 取る 話 を考へ 出した。 以前に も 暮しを 心配したり、 世間 を:^ へね たり 

ため むこ おも たび こんど かたとき る す ゐ や、 くる C が 

した 爲に、 I^n をと 思った こと は 度た びあった。 しかし 今度 は 片時で も 留守居 役の 苦しみ を 逃れた 

むこ おも い ぜん くら こんど わ こ と くらん 

さに、 l^B をと 思 ひ はじめた のだった。 それだけに 以前に 比べれば、 今度の! S= を 取りた さは どの位 

つうせつ し 

f« 切 だか 知 なかつ た。. 

ちわう どうら ,!- かん ズ たけ いつ -H な ころ まへ ぢんど すみ お ほ よ めが^1 

丁度 裏の 蜜柑 島の 一 ばいに 花 をつ ける 頃、 ラ ンプの 前に 陣取った お 住 は 大きい 夜なべの^^ 越 

i なし も だみ ろ ゼた あぐら たみ しほ 么ん どう か 

しに、 そろそろ この 話 を 持ち出して 見た。 しかし 爐 側に 胡 坐 を かいたお 民は鹽 豌豆 を嚼 みながら、 



土の 塊 一 



337 



またむ こばなし し あ ひて け しき み いぜんす, * 

「又 詰 かね、 わし は 知らな えよう」 と 相手になる 氣色も 見せなかった。 以前のお 住なら ば これ だ 

たいてい ところ こんど こんど す,? く ど だ 

けで も、 大抵 あきらめ てし まふ 所だった。 が、 今度 は 今度 だけに、 お 住 も ねちねち ロ說き 出した。 

、ュ みやした さう しキ- ちゃう どこん ど ら 

「でもの、 さう ばかり 云つ ちゃ ゐられ なえ ぢゃ。 あしたの 宫 下の 葬式に やの、 丁度 今度 はおら^ 

うち はか あな ほ T あた い とき をと こで 

の 家 もお 墓の 穴 掘り 役に 當 つてる がの。 かう 云 ふ 時に 男手の なえの は、 …… 」 

い ほ T で 

「好い わね。 掘り 役に はわし が 出る わね。」 , 

まへ をん な くせ 

「まさか、 お前、 女の 癖に、 —— 」 

すみ わら たみ かほ み わら かんが 

お 住 はわ ざと 笑 はう とした" が- お 民の 顔 を 見る と、 うっかり 笑 ふの も考へ ものだった。 

まへ いん キ-ょ 

1 おばあさん、 お, まさん, 居で もした くな つたん ぢゃ ある まえね?」 

たみ あぐら ひさ だ ひや や くぎ や とつ. ぜんき ふしよ つ ナみ おも お ま 

お:^ は 胡 坐の 膝 を 抱いた なり 冷 かに かう 釘 を 刺した。 突然 所を銜 かれた お 住 は 思 はす き 

めがね はづ なん ため はづ か C ちょ じ ,ぶ 

い 服 鏡 を 外した。 しかし 何の 爲に 外し たかは 彼女 自身に も わからなかった。 

1 まへ 

「な あん、 お前、 そんな こと を!」 

まへ ひろ とつ し とき じ ぶん い わす こ こ う も てん 

「お前さん 廣の お父さんの 死んだ 時に、 自分で も 云った こと を 忘れ やしまえ ね? 此處の {豕 の W * 

ぢ ふた ー,1 せんぞ さ ま 

地 を 二つに しちや、 御先 祖樣 にもす まなえ つて、 …… 」 



388 



い かんがみ と キ-ょ じせ J い 

「ああ さ。 そり やさう 云った ぢゃ。 でもの, まあ 考 へて 見ば。 時 f 時節と 云 ふこと も あるら。 こ 

り やどう にも 仕 かたのな えこんだ の。 …… 」 . 

すみ. いつ! やう けんめい をと r- で い べん と かく すみ い けん かの ぢ よじ しん みみ 

お 住 は 一生懸命に 男手の 人る こと を 辯 じつ づけた。 が、 兎に角お 住の 意見 は 彼女 自身の-; T にさ 

もっと ひびき つた だいいち か? 3 ぢょ ほんね か ぢょ らく も 

へ 尤もらしい 響を傳 へなかった。 それ は 第一 に 彼女の 本音、 i つまり 彼女の 樂 になり たさ を 持 

だ でき だめ たみ また そ こ み どころ あ ひか はらす しほ ゑん どう ^ 

ち 出す ことの 出來 ない 爲 だった。 お 民 は 又 其處を 見つけ 所に、 不 相變盥 からい 碗 豆 を 喵み嚷 み、 

しう とめ I すみ し てんせい くちだっしゃ て つ だ 

ぴ しびし 姑 を きめつけに かかった。 のみなら す これに はお 住の 知らない 天性の 口達者 も N^i^ つ て 

ゐ た。 

まへ よ ささ し 

「お前さん は それでも 好から うさ。 先に 死んで つてし まふ だから。 —— だが ね、 おばあさん、 わ 

み いくさ なに, H じ まん -* 一 

しの 身に なり や、 さう 云って ふて 腐つ ちゃ ゐられ なえ ぢゃ あ。 わし だって. 1: も 晴れ や 自^で、 後 

け とほ わけ ほね ふし,, た ね ぶん ->5 か いぢ. H し 

象 を 通して る訣ぢ やなえ よ。 骨 節の 痛んで 寢られ なえ 晚 なんか、 莫迦 意地 を 張った つて かたが 

なえと、 しみじみ 田 ふこ ともなえ ぢ やなえ。 そり やなえ ぢ やなえ けん どね。 これ もみん な 家の爲 

ひろ ため かんが なほ な な 

だ 廣の爲 だと 考へ 直して、 やつば し 泣き 泣き やって る だ あよ" …… 」 

すみ ただ ご-う ぜん よめ が ほ なが か C ぢょ ■ こころ あるじ じつ とら 

お 住 は 唯 茫然と 嫁の 顏 ばかり 眺めて ゐた。 そのうちに いっか 彼女の 心 は はっきりと 或 is^H を捉 



土の ザよ 一 



389 



へ 出した。 それ は 如何に あがいて て も、 到底 目をつぶ るまで は樂 は出來 ない と 云 ふ; i^lj; だった リ 

すみ よめ 0ち> いちど お ほ めが! 3 なか ひとりごと .Ht レ 

お 住 は 嫁の しゃべり やんだ 後、 もう 一度 大きい 眼鏡 を かけた。 それから 半ば 獨 語の やうに か- 話 

のせね 末 をつ けた。 . 

たみ なかなか まへ よ なか り くつ , ま,, んゲ 

「だが の、 お 民、 屮中 お前 I の 中の こと は 理窟ば つかし ぢゃ 行かな えせえ に、 とっくりお" -i も 者- 

へ て 見て くんな よ。 おら はもう 何とも 「K はなえからの。」 

に じっぷん のち たれ むら わかしゅ ひとり ちう おん うた しづか -へ ま、 と 5< 

二十 分の 後, 誰か 村の 若衆が 一人、 屮 昔に 哏. をうた ひながら、 靜 にこの の # を、 >i りすぎ た。 

わか を ば くさ か くさ なび かまき うお こ ゑ とほ とき iJA- -ち 

「若い 叔母さんけ ふ は 草刈り か。 草よ 靡け よ。 鎌 切れろ。」 11 gv の の 遠の いた 時お; ^ はもう I; 

ど めがね ご たみ かほ なが たみ わか なが あし Q 

度 眼鏡 越しに, ちらりと お 民の 額 を 眺めた" が、 お 民 は ランプの 向う に 長な がと 足 を 仲ば した ま 

なま あく. ひ 

ま、 生 欠 仲 をして ゐる ばかりだった.〕 

ね あさ はや 

「どら、 寢 ベえ。 朝が 早え に。」 

た; t > „ い おも しほ ゑん どう ひとつ か C ち たいぎ ろ ぶた た あ V., 

あ 民 はやつ とかう 云った と 思 ふと、 鹽碗豆 を ー摑 みさら つた 後、 大债 さう に爐: 則 を 立ち上った。 



390 



やみ -ご さんよ ねん あ ひだ tt くる た - f 6 J に 

お 住 は その後 三 叫 年の 間、 默默と 苦しみに 堪へ つづけた。 それ は 「K はば はやり 切った lit と M じ 

く. めき しょは らう^ けいけん i たみ あ ひか はら.? つち そと り ら し ごと 

軛を 背負され た老 馬の 經驗 する 苦しみだった。 お 民 は 不相變 家 を 外に せっせと 野良 仕審 にか かつ 

t め あ ひか はらす 二 るす ゐ やく つと み むち .A/ ヒ 

てゐ た。 お 住 も はた 目に は 不相變 小 まめに 留守居 役 を 勤めて ゐた。 しかし 見えない 鞭 の^は 絶え 

かのちよ おび あるとき ふろ た だめ あるとき JO A ほ h^J たり お? と 

す 彼女 を 脅やかして ゐた。 或 時 は 風呂 を 焚かなかった 爲に、 或 時 は 粉 を 千し 忘れた 爲に、 或 時 は 

うし はな ため すみ き つよ たみ あ こ ごと 、■ が 4-0 ぢ t 

牛の 放れた 爲に、 お 住 はいつ も 氣の强 いお 民に 當 てこす り や 小言 を 云 はれ 勝らだった。 が、 彼女 

ことし かへ くる た ひと にん. :、,、.^ う な せ. "しん も 

は 言葉 も 返さす、 ぢ つと 苦しみに 堪へ つづけた。 それ は 一 つに は 忍從に m れた 精神 を 持って ゐた 

また ふた ま 二 ひろ じ 丄_. 二 むし そ 一. H か ぢょ よ け、 

からだった。 又 一 一つに は 孫の 廣 次が 母よりも 寧ろ 祖母の 彼女に 餘計 なついて ゐ たからだった。 

すみ じつ V: い め ほ とん い ぜん か. 一 J す 二 か. H , 二-: ダて 

お 住 は實際 はた 目に は 殆ど 以前に 變ら なかった。 もし 少しで も 逢った とすれば、 それ はま ば 

レ ^ め ざ さい へんく わ ゎノ/、バ つ ひ と め ひ 

の やうに 嫁の こと を 褒めない ばかりだった。 けれども かう 云 ふ 些細の 變化は 格別 人目 を 引かな か 

つた。 少く とも 隣のば あさんな どに はいつ も 「後生よ し」 のお 住だった。 . 

あるな つ ひて ま、 る 」、 み な や ま、 お だう だな よ か/ レ-, M リ とな 

或 夏の 日の 照りつ けた 眞晝、 お 住 はま 屋の前 を 鬚った 葡萄棚の 葉の 陰に 隣のば あさんと, 就して 



土の 塊 -- 



3)1 



今 t ま' 
の 

は 
? 

1_ 



うしべ や はへ こる; ほか なん も G おと きこ となり になし 

ゐた。 あたり は 牛 部屋の 蠅の聲 の 外に 何の 物 昔 も 聞えなかった。 隣のば あさん は 話 をしながら、 

みじか まきたばこ す せがれ す ; i ら たんねん あつ き 

短い 卷 煙草 を 吸ったり した。 それ は 谇の吸 ひ殼を 丹念に 集めて 來 たもの だった。 

たみ ほ くさ か わか なん 

「お::^ さん はえ? ふうん、 干し草 刈りに の? 若え のに まあ、 何でもす るのう。」 

をん な そと で ,つち し ごと いち f んぃ 

「な あん、 女に や 外へ 出る よか、 內の 仕事が 一番 好いだ よう。」 

はたけし I ごと す なに よめ しう げん しち ねん 

「いいや、 畠 仕事の 好きな の は 何より だよう。 わしの 嫁なん か 祝言から、 はえ、 これもう 七 年が 

あ ひだ はたけ くさ ただ いちにち で こ ども もの せんたく じ ぶん 

問、 へ はおろ か 草むしり せえ、 唯の 一 日 も 出た こと はなえ わね。 子供の 物の 洗濯 だ あの、 自分 

もの し なほ まいにち なが ひ ,、 

の 物の 仕直し だ あのって、 毎日 永の 日 を 暮らし てら あね。」 

はう い こ ども みよ じ ぶん こぎれい 

「そり やその 方が 好いだ よう。 子供の なり も 見好く したり、 自分 も 小綺醒 になった りする はやつ 

ぅキ- よ かざ 

ばし 浮世の 飾り だよう。」 

いま わか も Q いったい らし ごと ら なん 

「でも さあ、 今の 若え 者 は 一 體に 野良仕事が 嫌 ひだよう。 I 'おや、 何 すら、 

いまおと ま < うし へ 

「今の 昔 はえ? あり やお 前さん, 牛の IK だ わね。」 

し へ もっと えんてん かふら ほ ほ あは くさと 

「牛の 鹿 かえ? ふんとうに まあ。 11 尤も 炎天に 甲羅 を 干し 干し、 粟の 草取り をす るの なんか 

若え 時に や 辛い からね。」 _ 



ふたり らう-ば い ふう たいてい へいわ はな あ 

一 一 人の 老婆 はかう 云 ふ 風に 大抵 平和に 話し合 ふの だった。 



に た らう し ご はち ねん あま たみ をん な て ひと いっか く V,- さ どうじ また 

仁 太郞の 死後 八年餘 り、 お 民 は 女の手 一 つに 一 家の 暮らし を 支へ つづけた。 同時に 乂 いっかお 

たみ な いっそん そと ひろ だ たみ か- 1- び やう よ ひ あ わか ご け 

民の 名 は 一 村の 外へ も弘 がり 出した。 お 民 はもう 「稼ぎ 病」 に 夜 も 日 も 明けない お 後家で はな かつ 

いはん むら わかしゅ わか を ば さら か は よめ て ほん いま 

た。 況ゃ 村の 若衆な どの 「若い 小母さん」 ではな ほ更 なかった。 その代りに 嫁の 手本だった。 今の 

よ て いぢよ かがみ ざ はむか たみみ い ことば Z -ごと いつ たれ くち 

世の 貞女の 鑑 だった。 r 澤向 うのお 民さん を 見ろ。」 ! さう 云 ふ 言 紫 は 小首と 一 しょに 誰の:: か. 

で くら ゐ すみ かの ぢょ くる となり ば あ うった うった またお も 

らも 出る 位だった。 お 住 は 彼女の 苦しみ を 隣の 婆さんに さへ 訴 へなかった。 ^へたい とも 亦 思 は 

か ぢょ こころ そこ い しき ど こ てんだ う あて 

なかった。 しかし 彼女の 心の底に、 はっきり 意識し なかった にしろ、 何處か 大道 を當 にして ゐ た。 

た Q みづ あわ いま まご ひろ じ ほか たつ ひと 

その 賴 みもとう とう 水の 泡に なった。 今 はもう 孫の 廣 次より 外に 赖み になる もの は 一 つもな かつ 

ナみ じふに V.- ん 一 まご ひっし あい かたむ さい-ご たの と だ 

た。 お 住 は 十二 三に なった 孫へ 必死の 愛 を 傾け かけた。 けれども この 最後の 賴みも 途絶えさ うに 

たび 

なること は 度た びだった。 

9 ぁるぁき,,.^れ ご 一 ご ほん づっ . ^か まご ひろ じ 厂-く かう かへ き ナみ ちゃう 

3 或 秋晴の つづいた 午後、 本 包み を 抱へ た 孫の 廣次 は、 あた ふた 學 校から 歸 つて 來た。 お 住 は r 



土のお 'よ-一 



393 



どな や まへ き よう は-つち やう う 1, 一 はちゃ ; V;! き つる ! :!•.: き 二 しら ひろ じ あは ,-. -, - ほ 

度 納屋の 前に 器 州 に庖: J を 動かしながら、 蜂 屋柹を し姊に 捲へ てゐ た。 廣次は 粟の 籾 を 干した 

むしろ み がる い. 一;- まいと こ おも りゃう あし そろ そ IS きょしゅ れい 

筵 を 身 輕 に 一枚 飛び越え たと m 心 ふと、 ちゃんと 兩足を 揃へ たま ま、 ちょっと 祖母に 擧 手の 蹭 をし 

なん つぎほ まじめ たづ 

た。 それから 何の 次德 もな しに、 かう 眞面 に 尋ね かけた。 

か あ えら ひと 

「ねえ、 おばあさん。 おらのお 母さん は うんと 偉い人 かい?」 

「なぜ や?」 

すみ は うち やう て やす まご かほ み 

お 住は应 丁の 手 を 休めるな り、 孫の を 見つめす に は ゐられ なかった。 

せんせい しう しん じかん い ひろ じ か あ きんざい ふたり えら ひと 

「だって 先生が の、 修身の 時 問に さう 云った ぜ。 廣 次のお 母さん はこの 近在に 二人と ない i:^ い 人 

だって。」 

「先生が の?」 

「うん、 先生が。 譃 だのう?」 . 

すみ にう, ± い まご がく かう せんせい お ほうそ をし じっさい ナみ 

お 住 はま づ狼职 した。 孫 さへ 學 校の 先生な どに そんな 大; S を敎 へられて ゐる、 , I 赏 際お ei に 

,、ら ゐ いぐ わい で キ- I ごと いっし- 3 ん らう ぞい G. 一。 ほつ てな いかり おそ すみ べつじん 

はこの 位 意外な 出來事 はない のだった。 が、 一瞬の 狼识の 後、 發作 的の 怒に はれた お 住 は^ 人 

の やうに お 民 を 篤り 出した。 



394 



「おお、 譃だ とも、 譃の皮 だ わ。 お前のお 母さんと 云 ふ 人 はな、 "おでば つか g ひせえ に、 ^<!;1|は 

えに. I こころ 1 つる ひと - つ. 

偉く 好い けん どな、 心 は うんと 惡な人 だ わ。 おばあさんば つか 追 ひ 廻して な、 ぎば つかぎ liii 

くって な、 …… 」 

廣次は 唯 驚いた やうに、 色 を i- へた 駆, を i めて ゐた。 そのうち におす あは 艇の "砂た のか、 た 〔刃 ^ 

またな みだ 

ち 又淚を こぼし はじめた。 

「だからな、 このおば あさん はな、 われ 一人 を 頼みに 生きて ゐる だぞ。 わり やそれ を ^ れるぢ や 

な えぞ。 われ もやが て 十七に なったら、 すぐに 嫁を赏 つてな、 おばあさんに 5! をさせる やうに す 

、 か あ ちょう へい き な. 、 

るんだ ぞ お Ep- さん は 徴 兵が すむ まぢゃ あなん か、 氣の 長え こと を 「おってる がな、 どうして どう 

ま ひ つ,..: * ン 

して 待てる もんか! 好い か? わり やおば あさんに お父さんと 二人分 孝行す るだぞ C さう すり 

、 、 わる 产么ん 

や あば あさん も惡 いやう にやしな え。 何でも われに くれてやる からな。 …… 」 

「この 称 も 熟んだら、 おらに くれる?」 

ゆ "化、: ^、 かご なか かき 

廣次 はもう もの 欲し さう に 籠の 中の 姊を いぢって ゐ た" 

「おおさえ。 くれな えで。 わり や 年 は かなえで も、 佝 でもよ くわ かってる。 いつまでも その;^ 



土の 塊 一 395 



をな くす ぢ やなえ そ .」 

すみ なみだ なが なが しゃくり わ; -i.- だ , ; 

お 住 は淚を 流し 流し、 吃逆 をす る やうに 笑 ひ 出した 

い せう じ けん よ ん すみ , , , た. み, , 、ヽ 、 

かう 云 ふ 小事 件の あった 翌晚、 お 住 はとうとう ちょっとした ことから あ I:::: とも しい いさ 力 

ひ をした。 ちょっとした ことと はお 民の 食ふ藷 をお 住の 食った とか 云 ふこと だけだった。 しかし 

, つの たみ れいせ う うか ま 〈 はたら L や I 

だんだん まひ 慕る うちに、 お 民 は 冷笑 を 浮べながら、 「お前さん 働く のが 藤に なったら 死ぬ より 

な- - すみ ひ 1.1 ろ に あ き ちが たけ だ ちゃ- 「と とき 

はなえよ」 と つた。 するとお 住 は 日頃に 似 台 はす、 ぐ まも j ひの やうに 吼り 出した。 丁度 この 時 

i の HIS 變像 のま を 枕に した まま、 とうにす やすや 寐 入って ゐた。 が、 お 住 は その 孫 さへ、 「廣、 

r ^ お 一-う、 つ のし 

かう、 起きろ」 と搖 すり 起した 上、 いつまでも かう 罵りつ づけた。 

> ろ 4? ひろ お か あ い ぐ さ き 力 あ 

「tes、 かう、 起きろ 。廣、 かう、 起きて、 お母さんの 云 ひ 草 を 間いて くよう。 お母さん は あらに 

おねって 「14 つて ゐる ぞ" な、 よく 聞け。 そり やお 母さんの 代に なって、 錢は 少し は 破え つら けん 

» つち、 -ぅ Jjt ノ ( "こ -- - t- .R 1> こん 

ど、 J 町 三 段 の^はな、 あり やみん なお ぢ いさんと おばあさんとの 開墾した もんだ ぞ そりよう 

どう だ? おぎさん は樂 がした けり や 死ねって 云って るぞ。 11 ^K. おら は 死ぬ ベえ よう。 ^ 

ノ 一二- 4 ごま、 V しづ う し 

の 死ぬ ことが^い もん ぢゃ。 いいや、 手前の 指 闘なん か 受けな え。 おら は 死ぬ だ" どう あっても 



395 



し し VJ まへ つ 

死ぬ だ。 死んで VJ 前にと つ 着いて やる だ。 …… 」 

すみ お ほご & し Co し な だ ま-ご だ あ たみ あ ひか はらす ろ vi- n 

お 住 は 大聲に 篤り 篤り、 泣き出した 孫と 抱き合って ゐた" が、 お 民 は 不相變 ごろり と爐, へ. S 

みみ はし 

ころんだ なり そら 耳 を 走らせて ゐる ばかりだった。 



すろ し か は よくと し ど よう あ- まへ ぢ やうぶ じ まん たみ ちゃう ケ \ 

けれどもお 住 は 死ななかった。 その代りに 翌年の 土用 明け 前、 丈夫 自投 のお 1- は 腸 チブスに^ 

i ^つ!^ やう ごや, 「か め し もっと たう じ ちゃう くわん じ や ち ひ つ そん なか なス にらで 

り 發 病後 八日 目に 死んで しまった。 尤も 當時腸 チブス 患者 はこの 小さい 一 村の 中に も 何人 屮ソに 

) > 、 > ; たみ .i^ つび やう まへ ため だ ふ かち や V- うしき あな ほ 

かわから なかった。 しかもお 民は發 病す る 前に、 やはり チブスの 爲に 倒れた 鍛冶屋の 葬式の 穴 掘 

ゃノ、 L かぢゃ V.- うしき ひ ひび や, i.- ゐん おく でし I 一 ぞう のこ 

り 役に 行った。 鍛冶屋に はま だ 葬式の 日に やっと 避病院へ 途られ る^子の 小 1^ も殘 つて ゐた 。「あ 

— ふ 一 f ヒ I う, つ すみ いしゃ か へ G ち かほ か くわん じ や たみ ひ なん 

の 時に きっと 移った すら」 11 お 住は醫 者の 歸 つた 後、 顔 を まつ 赤に した 忠 者のお 民に かう 非難 

を 仄かせ たりした。 

たる さう しき ひ あめ ふ むら そ. V? ちゃう +< じ ひとり つ こ くわ *\J ソ くわ • V- う 

お n::- の 葬式の 日 は 雨降りだった。 しかし 村 Q もの は 村長 を 始め、 一 人 も 殘らす x% 葬した。 葬 

- ,- , また ひとり- Cm わかじに たみ を だいじ か にん うしな ひろ じ すみ あはれ 

した もの は 又 一 人 も 殘らす 若 死した お 民 を 惜しんだり、 大事の 稼ぎ人 を 失った 廣次 やお 住 を憐ん 




土の 塊 - 



597 



こと .C ら そうだい やく ぐん ちか たみ キ -ん らう へう しゃう はす い t な 

だり した。 殊に 村の 總 代役 は 郡で も 近近に お:^ の勤勞 を表彭 する 害だった と 云 ふこと を 話した。 

すみ ただ い 二と. *5 あたま さ ほ.;" ,i 'ん ら 

お 住 は 唯 さう 云 ふ 曾 葉に 頭 を 下げる より 外はなかった。 「まあ 運 だと あきらめる だよ。 わし 等 も 

たみ へう しゃう つ 今よ ねん ぐんやくしょ ねが じ やう だ そんち やう & し^ちん つか 

お 民さん の 表彰に 就い ちゃ、 去年から 郡役所, へ 願 ひ 狀を屮 7. すし さ、 村長さん やわし は 汽^ $3: を 使 

-ご たび ぐんち やう あ ゆ ほね を ら 

つて 五 度 も 郡長さん に會 ひに 行く しさ、 やさしい sip を 折った こと ぢ やなえ。 だが の、 わし 等 も あ 

まへ ひと ひと い は あたま そうだい やく じ やう だん 

きらめる だから、 お前さん も 一 つ あきらめる だピ 11 人の 好い^げ 頭の 總 代役 はかう 常談 など も 

く は また わか せう が V 、けう ゐん ふく r い なが 

つけ 加へ た。 それ を 又 若い 小 學敎員 は 不快 さう にじろ じろ 眺めたり した。 

たみ さう しき よ すみ ぶっだん おくべ や すみ ひろ じ ひと かや 

お 民の 葬式 をす ました 夜、 お 住は佛 壇の ある 奥 部屋の 隅に 廣 次と 一 つ 蚊帳へ は ひって ゐた。 ふ 

もちろん ふたり くら なか ねむ ニス や ぶっだん とうみ やう 

だん は 勿論 二人とも まつ 暗にした 巾に 眠る のだった。 が、 今夜 は佛 擅に はま だ燈明 もと もって ゐ 

た。 その上 妙な 消毒薬の 勻 も古疊 にしみ こんで ゐる らしかった。 お 住 はそんな こんなの せゐ か、 

ようい ね たみし た L かの ぢ ようへ .1ハ ほ かう ふく もたら かつ 

いつまでも 容易に 寢 つかれなかった。 お, の 死 は 確かに 彼女の 上へ 大きい 幸福 を II して ゐた。 彼 

ぢょ はたら よ n - ごとい しんば い そ こ ちょきん さんどん. 0! ん はたけ 

女 はもう 働かす とも 好かった。 小言 を 云 はれる 心配 もなかった。 其處へ 貯金 は 三千 同 も あり、 

いつ.: C やう ざん だん まいにち まご いつ 二め めし /、 かって ひ ごろ かう ぶつ 

は 一 町 三 段ば かりあった" これから は每日 孫と 一 しょに 米の 飯 を 貪 ふの も臉 乎だった。 日顷^ 物 

しほます お ょ-ら と また かって すみ いっしゃう くら ゐ おば 

の 魔 慰 を^で 取る の も 亦 勝手だった" お 住 はま だ 一 生のう ちに この 位 ほっとした 覺 えはなかった U 



く <1 み ネ- /X ュ ま へ ち る よ よ ミ J .16 N - » ^ 

この 位 ほっとした? しかし 記憶 ははつ きりと 九 年 前の 或 夜 を 呼び 起した。 あの 夜 も 一 ^つ い 

二 レ、 ほ とん こんや か は げ /ぶ いち せが., L ざ うしき よ 

たこと を E 化へ ぱ ^^^ど今夜に變らなかった。 あれ は 現在 血 を わけた 谇の 葬式の すんだ 夜だった。 

* ーズゃ こんや ひとり まご う よめ さう しき 

今夜 は —— 今夜 も 一 人の 孫 を 産んだ 嫁の 葬式の すんだ ばかりだった。 

ナ,^ おも め ひら ま-ご かの ぢょ となり た わ. - はが ま あ ふむ J A ね 

お 住 は 田.^ はす 目 を 開いた。 孫 は 彼女の すぐ 隣に 多 愛の ない 寢額を 仰向けて ゐた。 お 住 は その 寢 

み 、 い か G ぢょじ しん なさけ にんげん かん だ どうじ また かの ぢょ あく えぐ 

額 を 見て ゐる うちに だんだん かう 云 ふ 彼女 自身 を 情ない 人間に 感じ 出した。 同時に 又 彼女と. め =1. ね綵 

. ^す チ ザれ に た らう よめ たみ なさけ にんげん かん だ へんく わ 7 メ く ュ,; ハ,? -ノ、 

を 結んだ 悴の仁 太郞ゃ 嫁のお 民 も 情ない 人間に 感じ 出した。 その 變化は 見る見る 九 年 1^ の Je しみ 

つ ひけ な 力 ■ かの ぢょ なぐさ しゃう らい かう ふく お なが , ^れら おやこ V- ん こん 

や 怒り を 押し流した。 いや、 彼女 を 慰めて ゐた 將來の 幸福 さへ 押し流した。 彼等 親子 は 三人と も 

こ, V/ 、一と frti^- け、 、 に:^^、 ) : 5 • ' » うち ひとり いき はぢ V. も かつぢよ じ し.? もっと なさげ にんげ.? 

悉 く 情ない 人 問だった。 が、 その 中に たった 一人 生 恥 を 爆した 彼女 自身 は 最も 情ない 人 問 だつ 

JJ. ぶ -' TL tji- -ス 4^ L し / .* ふり 一.、 I ニナ i X 

た。 「お 民. お前 なぜ 死んで しまった だ?」 11 お 住 は 我 知らす 口のう ちに かう 新 做 7 Jig しかけた。 

- 今; ふ なみだ 

すると 与.^ にと めど もな しに ぼたぼた 淚が こぼれ はじめた。 

お 住 は g! 時 を 聞いた 後、 やっと 疲勞 した 眠りに は ひった。 しかしもう その 時には この の?^ 

お r -n: そ;^ ひや あ. A つき むか だ 

屋根の も 冷やかに 曉を迎 へ 出して ゐた。 : …… 

(大正 十二 年 十二月) 



^00 



ぜべ とう ながい, J す よこ め まへ らんかん 

僕 は 籐の長 校 子に ぼんやり 横にな つて ゐる。 目の前に 攔 干の あると ころ をみ ると、 どうもき の 

かん W ム V 3 .!f ん.^ ん わか は ひいろ な- グ と う を なに ひらめ まん ヒめ ふ& D 

甲板ら しい 。欄干の 向う に は 灰色の 浪に 飛び魚 か 何 か 閃いて ゐる) が、 何の I に ^ へ, つた か.. 

不思議に も それ は覺 えて ゐ ない。 つれが あるの か、 一 人な のか、 その 邊も ik じ やうに ii^ である 

い ム、、 な, f むか もや はな は あいまい き は - えく t にて 」, a 

暖昧と 云へ ぱ浪の 向う も 靄のお りて ゐ るせ ゐか、 甚だ 暖昧を 極めて ゐる。 僕 は 長椅子に.. はころ 

んだ まま、 その 朦朧と 煙った 奥に 何が あるの か 見たい と 思った。 すると ゲ】 5」 の範 じた やうに、 化 

み, - し,!? > か w、> '! r< か、 > だ -ン ちう あう いちざ やま そび ゑんす ゐ ち か しま かげ 

る 見る 島の 影が 泞ぴ 出した。 中央に 一 座の 山の 錄 えた、 圓 錐に 近い 島の 影で ある。 しかし 尤^の 

りんく わく ほか あいにく なに み ぼく まへ ぁぢ 、ち ど > ュ , 

輪郭の 外 は 生憎 佝も はっきりと は 見えない。 僕 は 前に 味 をし めて ゐ たから、 もう.. 一度, 見たい と 5.1 

Z み., -っ , うす しま かげ い ザん うす はんりき こし ど > 

じて 見た。 けれども 薄い 島の 影 は 依然として 薄い ばかりで ある。 念力 も 今度 は無效 だったら しい" 

と- $: みぎ どなり たち ま たれ わらき だめ こんど ね, > りき 

この 時 僕 は 右 隣に 忽ち 誰かの 笑 ふの を 聞いた。 「はは はは はは、 駄:: : です ね。 今度 は 念力 もき か 

ないやう です ね。 はは、 H よ, H は。 I 



, ら》 な 議思不 



401 



右 隣の 籐椅子に 坐って ゐ るの は 英吉利 人らしい 老ん である。 ぎノは g こそ ハか" いものの、 まづ t:!^ 

子と 評しても 好い。 しかし 服装 はホォ ガスの 畫 にみ たは だつ t ャ, I の g0 である。 Cocked hat と f ム 

、-, > 3 ぎ, A ばう し ぬひと り チヨ ソキ き ■< V.J 

ので あらう。 銀の 緣の ある 帽子 を かぶり、 刺 纏の ある 则:; ^を 着、 膝ぎ りしかない ズボン を はい 

てゐ る。 おまけに 后へ 垂れて ゐ るの は 天然 の i の I- ではない。 ^か S な^を ふりかけ た^お 

.1, りち ノけ かづら ぼく あっけ へんじ , -. - 

の; ^れ 毛の 鬉 である。 僕 は 呆氣に とられながら、 返 _ ^をす る こと も 111 れてゐ た。 

「や/き やう つか C;A」 A 

1 わたしの 望 鏡 をお 使 ひなさい。 これ を观 けば はっきり 兄え ます。」 

At - 1/ 乙と ォ: な ,7<1 ノ 力 ほ ^/s て J- る ビ -IT.^ メ:" キ ーコ うつ C , 

老人 は 人の 惡ぃ 笑ひ顏 をした まま、 僕の 手に 古い S ま氣鏡 をぎ した。 いっかと 可ぎ かの, g ぼべ』 ひ 

ばう ゑんき やう 

んでゐ たやうな 望遠鏡で ある。 

「ォォ 、サン タス。」 

僕 は 思 はす 英士ぎ を 使った。 しかし は iili に の^を i さしながら、 ^みに? を 

しゃべり つづけた。 その 指さした 袖の 先に も 泡の やうに レ ェ スが はみ!,: して ゐる。 

,しま い つづ ) づ 

「あの 島 は サッサ ン ラップと 云 ふので すがね。 綴りです か? 線り は S U S S AN K A ,? です。 

1 InsM 値の ある 島です よ〕 この 船 も 五六 日は疏 泊し ますから、 £}4k 取 1 にお ^ かナ なさい。 ば 



がく が らん - 一と いち fc ひ ざう くわん なに きんかい しまじま. - む」、 す ^ ひ 

撃 も あれば 伽藍 もあります。 殊に 市の 立つ 日 は壯觀 です よ。 何しろ 近海の 島島 力ら 龃數の 人人 力 

あつ 

集まります からね。 」 

.ま く t うじ あ ひだ ばう ゑんき やう ©ぞ み ちゃ-つど キ」 やう めん ,f ^つ > : • .1' し; ^ク Ths, 乂 

は 老人の しゃべって ゐる 間に 望遠鏡 を覼 いて 見た。 丁度 鏡面に 映って ゐ るの はこの 島の.^ お 

まち こぎれ ひいへ いへ なら み なみき こす, *5 かぜ ;み, - ^c^^ ; 

の 市街で あらう。 小 綺麗な 家家の; a ん だのが 見える。 並木の 梢に 風の あるの が 見える の- 4. 

そび み もや す こ なに *4 ことごと み, - «^乂 -If.*^^ ヽ 

の 聳えた のが 見える。 靄な ど は 少しも かかって ゐ ない。 何も彼も 悉く はっきり 見える び W 大, > 

. ^^しん ま ち うへ ばう,^ 一ん き やう うつ どうじ ぼく くち 4 * ベ o^.^ , . I : 

に感、 レ しながら、 市街の 上へ 望遠鏡 を 移した。 と 同時に 僕の 口 は あっと 云- 1 聲を らし さう にな 

つた。 

ills^ は ii づ っ^えない に 一に^た が I? えて ゐる。 それ は 不思議で も 何でもない。 けれ 

- . , „ ビ- 1 ち 6? つ * ざ、 .r ま たまな あかなす ねぎ たまねぎ だい- -ん , ズ 

ども その 5 は ゼげる S り、 fl に 1? 菜 t に 奢, はれて ゐる。 玉菜、 赤茄子、 葱、 玉葱、 大根、 蕪、 

零 $ £m i &、 ^tーっl^——ぁらゅるl^i^に獻はれ 

S よ さ. -っあ おどろ 

てゐ る。 ,はれて ゐる? 銜は 11 さう ではない。 これ は 野菜 を 積み上げ たので ある。 驚くべき 

野菜の ピラミッド である。 . ■ 

2 

4. 「あれ は —— あれ はどうした のです?」 



鳥な 議思不 



403 



ぼく ばう 幺んき やう て みぎ どなり ら, つじん かへ らう じん そ 二 たゾ-.^>っ 

僕 は 望遠鏡 を 手に した まま、 右 隣の 老人 を ふり 返った。 が、 老人 はもう 其 處にゐ ない。 唯 藤の 

ながい す うた しんぶん いちまい はふ だ く おも ひやう し なう ひん はつ なに おこ 

長椅子の 上に 新聞が 一 枚 抛り 出して ある。 僕 は あっと 思った 拍子に 腦 貧血 か 何 か 起した ので あら 

まため う いきぐ る む い しき なか 1.0 . 

う。 いっか 叉 妙に 自 おせし い 無意識の 中に 沈んで しまった 

X X X X X X 

「どうです、 見物 はすみ ました か?」 

らう" ん き み. わる び i.- う ぼく そば 二し 

老人 は氣 味の 惡ぃ 微笑 をしながら、 僕の 側へ 腰をおろした。 

こ こ !き か ぐ なら めう ぴろ せいや, T しつ 

此處は ホテルの サ 口 ン であらう。 セセ ッショ ン 式の 家具 を: a ベた、 妙に だ だつ 廣ぃ 西洋 窒 であ 

ひとかげ ど 二 み. おく み の ほ くだ '-^ 

る。 が、 人影 は何處 にも 見えない。 すっと 奥に 見える リフト も # つたり 降ったり して ゐる. 1 に、 

ひとり .^ゃく で こ 

1 人 も 客 は 出て 來 ない やうで ある。 よくよく はやらな ぃホテ ル らし い。 

ぼく すみ ながいす じ やうとう /、は あたま うへ つる た 

僕 はこの サロン の 隅の 長椅子に 上等の ハヴ アナ を啣 へて ゐる。 頭の 上に 蔓を 誰 らして ゐ るの は 

はちう かぼちゃ ちが ひろ は はち かく き はな ひら み 

鉢植 ゑの 南瓜に 違 ひない。 廣ぃ 葉の 鉢を隱 した かげに 黄い ろい 花の 開いた の も 見える。 

けんぶつ は まき 

「ええ、 ざっと 見物し ました。 —— どうです、 葉卷 は?」 



404 



しかし 老人 は 子供の やうに ちょいと 首 を 板った なり、 古風な 象牙の i< 煙草; <れ を i£ した。 これ 

も何處 かの 博物館に: g んでゐ たの を 見た 通りで ある。 かう 云 ふ 老人 は if 私 は 11、 jilJ に, 4" は 

J とり > 3 さ とうはる を せう かい ち,? ちょう :v- く らう 二ん t'^ 

1 人 も あるまい。 佐 藤 春 夫に でも 紹介して やったら、 さぞ 珍重す る ことで あらう。 ^は 老人に g 

しかけた。 、 

まち そと ひとあしで み わた と 1-4 やさ ナ 

「町の 外へ 一 足 出る と、 見渡す 通り 野菜畑で すね。」 

1 たう ぢ ゆうみん だいぶ ぶんや さい つく をと こ をん な r、 さ- 1 つく 

「サッ サン ラップ 島の 住民 は 大部分 野菜 を 作 るので す。 男で も 女で も 野 _ ^を 作る のです。」 

じゅえ う 

「そんなに 需要が ある もので せう か?」 

カ」^ 力ん しまじま う もちろんう つ こ う Q こ ? W つ 

「近滿 の 島島へ 賫れ るので す。 が、 勿論 寶れ 殘ら すに はゐ ません。 賣れ殘 つたの はやむ を 得す 枝 

あ: お- ふね うへ み にまん フィ イト つ あが 

み 上け て 置く のです。 船の 上から 見えた でせ う、 ざっと 二 萬呎も 積み 上って ゐる のが?」 

「あれが みんな 寶れ殘 つたので すか? あ の 野菜 の ピ ラ ミ ッド が?」 

ぼく らう じん かほ み め ほか らう 二ん あ ひ,, 1 ちす- しろ 

僕 は 老人の 顔 を 見たり、 目ば かりばち ばち やる 外はなかった。 が、 老人 は 不机變 面白さう に ひ 

とり 徵 笑して ゐる。 

1 9 うつ 二 \ うん CS ん ち ひだ かさ 

1 ええ、 みんな 賫れ殘 つたので す。 しかもた つた 三年の 問に あれ だけの 嵩になる のです からね。 



島な!^ 思不 



405 



- 一ら い う C 二 あつ たいへい や-つ- や さい うづ くら ゐ たう 

古來の 資れ殘 りを槊 めた としたら、 太平洋 も 野菜に 埋 まる 位です よ" しかし サッ サン ラップ,; i ゆの 

ぢゅ. T みん いま や さい つぐ ひ- よる つく ハれ われ 

住民 は 未だに 野菜 を 作って ゐ るので す" 晝も夜 も 作って ゐ るので す。 はは はは はは、 我我の かう 

はな あ ひだ いっしゃ-つけん めい つく 

して 話して ゐる問 も 一生懸命に 作って ゐ るので す。 はは はは はは、 はは はは はは。」 

。う ヒん くる わら わら まつり くわ に ほひ だ ただ わら 

老人 は 苦し さう に 笑 ひ 笑 ひ、 茉莉花の 句の する ハンカチ ィフを 出した。 これ は 唯の 笑 ひで はな 

にんげん ぐ Vj うろう あくま わら に ^く かほ ちたら わ だノ も 

い。 人 問の Eg を 嘲弄す る惡 魔の 笑 ひに 似た ものである。 僕は顏 をし かめながら、 新しい 話 题を持 

ち 出す ことにした。 

僕 r.i^ はいつ 立つ のです か?」 

らう じん まいげつ かなら つき た ふ つう いち りんじ お ほ,., ち いちね-? さんど 

老人 「録月 必す月 はじめに 立ちます。 しかし それ は 普通の 市です ね C 臨時の 大市は 一 年に 三度、 

い.^ ぐ わつ しぐ わつ ノ、 ぐ わつ た 二と いちぐ わつ かきい いち 

—— 一 月と g: 月と 九月と に 立ちます。 殊に 一 月 は 書 入れの 市です よ。」 

ぼく .: な-いち まへ おほさ わ 

僕 r ぢゃ大 市の 前 は大騷 ぎです ね?」 

らう じん おほさ わ たれ お ほいち ま あ おも おも や さい そだ 

老人 「大騒ぎです とも。 誰でも 大巿に 問に 合 ふやう に 思 ひ 思 ひの 野菜 を 育てる のです からね" 

り /.•- スひ -^^-っ- お-、. 1 ら かす をん しつ い でス りう つう 寸- なし 

憐酸 肥料 を やる、 油 滓 を やる、 、湄窒 へ 入れる、 戴 流 を 通じる、 —— とてもお 話に はなり ません。 

なか また いっこく はや そだ あげく せっかく だいじ や 六い か 

中には 又 一 一お. も 早く 育てようと あせった 舉句、 折角 大事に して ゐる 野茱を 枯らして しま ふ もの も 



I 



ある 位です。」 



ぼく い や V」 いはたけ や をと こ ひとり キ- ちが かま ま あ 

僕 「ああ、 さう 云へば 野菜畑に け ふも瘦 せた 男が 一人、 氣違 ひの やうな 顏 をした まま 、『問 に 合 

はない、 間に合 はない』 と 駅け ま はって ゐ ました ピ 

、いう じん しんねん お ほいち ぢき まち しゃう にん ひとり のこ 

老人 「それ はさ も ありさう です ね。 新年の 大巿も 直です から。 —— 町に ゐる 商人 も 一 人 殘らす 



ちまな I 



血眼に なって ゐる でせ う。」 

ぼく まち し j:- うにん - 

僕 「町に ゐる 商人と 云 ふと?」 

らう じん や さい ばいばい しゃう にん しゃう にん ん なか だん ぢょ そだ やさいばたけ や さい か きんかい しま 

老人 「野菜の 賣買 をす る 商人です。 商人 は 田舍の 男女の 育てた 野菜畑の 野 茱を買 ふ、 近海の 島 

じ ま き だん ぢょ またし やう にん や さい か ノ ヒ ゆん じよ 

島から 來た 男女 は その 叉 商人の 野菜 を 買 ふ、 . I と 云 ふ 順序に なって ゐ るので す。」 

ぼく なる まど しゃう にん ふと をと 二 ひとり くろ かばん 二 ま -; ま い 

僕 「成程、 その 商人で せう、 これ は 肥った 男が 一人、 黑ぃ飽 を かかへ ながら、 『困る、 困る』 と 云 

み いちばんう い しゅ るん や さい 

つて ゐ るの を 見ました。 11 ぢゃ 一 番寶れ るの はどう 云 ふ 種類の 野菜です か?」 

らう じん かみい し い い ねんねん ナこ ちが 

老人 「それ は 神の 意志です ね。 どう 云 ふ ものと も 云 はれません、 年年 少しづつ 逸 ふやう です し、 

また ちが わに 

又 その 違 ふ訣も わからない やうです。」 

僕 「しかし 善い ものなら ば寶れ るで せう?」 



鳥な 議思不 



407 



らう.. ズ ~ いったい や さい ぜんあく かたわ 

老人 「さあ、 それ もどう です かね。 一 體 野菜の 善惡は 片輪の きめる ことにな つて ゐ るので すが、 

…… 」 

ぼく また かたわ 、-, • 

僕 「どうして 又 片輪な どが きめる のです?」 

ク 5 じし »-fcb やさ "ffe ナ で したが また や さい つく , や さい ぜんあく 

ぎん 「^輪 は 野菊 畑 「へ 出られないで せう。 從 つて 又 野菜 も 作れない、 それだけに 野菜の 善惡を 

^ > . ふ と べつ てう, つ こうへい たいど で き に はん ことり ざ つか を か 

見る目 は 自他の 別 を 超越す る、 公平の 態度 をと る ことが 出來 る、 —— つまり 日本の 諺 を 使へば 岡 

め はち もく わけし 

nw 八 目になる 訣で すね」 

まく .A た わ ひとり ひげ は めくら ひとり どろ や がしら な 

僕 「ああ、 その: t 輪の 一 人です ね。 さっき IS の 生えた 盲が 一 人、 泥 だらけの 八つ 頭 を 撫で ま は 

や >M > 1 ろ なん ば ら はな いろ おほそら いろ ひと 

しながら、 『この 野菜の 色 は 何とも 云 はれない。 薔薇の 花の 色と 大空の 色と を 一 つに したやう だ』 

と つて ゐ ましたよ。」 

らう. 二ん めくら もちろんり つぼ もっと りさうて き つへ かたわ 

老人 「さう でせ う。 盲な ど は 勿論 立派な ものです。 が、 最も 理想的な の はこの 上 もない 片輪で 

め み みみ きこ はな き て あし は した かた" 

すね。 目の 見えない、 耳の 聞えない、 鼻の 利かない、 手足の ない、 齒ゃ 舌の ない 片輪です ね。 さ 

、 かたわ し ^つ: w/v い. 1 二- -i い げんざい にんき も かたわ 

う 云 ふ 片輪 さへ 出現 すれば、 一 代の Arbiter elegantiamm になります。 現在 人 架 物の 片輪な ど 

h^c. し かく そな ただ はな なん ぶ ひだ はチ * あな 、 

は 大抵の 資格 を 具へ てゐ ますが ね、 唯 鼻 だけき いて ゐ るので す。 何でも この は その 鼻の 穴へ ゴ 



I 




ム を 溶かした の をつ ぎこんだ さう です が、 やはり 少し はぎが する さう です よ。」 

ぼソ、 1 かたわ や さい ぜんあく 

僕 一 ところで その 片輪の きめた 野菜の 善惡 はどうなる のです?」 

らう じん 、ヒ- > , -,^ P 

老人 一 それが どうに もなら ない のです。 いくら 片輪に 惡 いと Ik はれても、 一 おれる 野 s< はすん す 

ん寶れ てし まふので す。」 

ぽく しゃう にん - 一つ 

僕 r ぢゃ 商人の 好みに よるので せう?」 

らう じん しゃう にん うみ やさ-か よ や さ, - う 

老人 1 商人 は 賣れる 見 こみの ある 野菜ば かり 買 ふので せう。 すると 善い 野茱 が^れる かどう か 

…… 」 

• ぎ 1 . ^-^ 3 かお i ぜんあく 5 たが ひつえう 

僕 「あ 待ちな さいよ。 それなら ぱまづ 片輪の きめた 善 惡を疑 ふ 必要が あります ね。」 

ら, ク じん や ざい つく れん ぢぅ た 、て 1 うたが - . ^バっ ゾ to* » 一 

老人 「それ は 野茱を 作る 連屮は 大抵 疑って ゐ るので すがね。 ぢ やさう ふ 逢 中に 野 _ ^の!^ Ili を 

問いて 見る と、 やはり はっきり しないので すよ。 たと へば 或連屮 によれば 『I ん 心 は,!^ の. な 

L また れん ぢう ザん あく あ ぢ ± ひ モハ -. 

り』 と 云 ふので す。 が 又 ほかの 連中に よれば 『善 惡は咏 に 外なら す』 と 云 ふので す。 それだけな 

らば まだし も簡單 です が …… 」 

ぼく ふくざつ 

獎 一 へええ, もっと 複雜 なのです か?」 



岛 な議, El 不 



409 



うじん ぁぢ じ やう またせつ わか じ 

老人 「その 味なり 滋養な りに それぞれ 叉說が 分れる のです。 たと へ ばヴィ タ ミ ン のな いのは 滋 

タぅ: ^ » ^ ばう セ やう にんじん あ S だ め だいこん ぁぢ かぎ 

養がない とか、 ^肋の あるの は 滋養が あると か、 人參の 味は駄 □! だと か、 大根の 味に 限る とか… 

…… 」 

ぼく へう じ fs- ん じ やう ぁぢ ふた ふた へう,!: ゆん しゅじゅさまざま 

僕 「すると ま. づ 標準 は 滋養と 味と 一 一つ ある、 その 一 一つの 標準に 種 稱樣樣 の ヴァリ H H シ ヨンが 

だいたい い 

ある、 . —— 大體 かう 云 ふこと になる のです か?」 

らう じん なかなか い ある れん ぢ う い 

老人 「中中 そんな もん ぢ やありません。 たと へば まだ かう 云 ふの もあります。 或 速 巾に 云 はせ 

いろ うへ へう じゅん び が,、 に ふもん い いろ うへ かん をん れ, i ちう 

ると、 色の 上に 標準 も あるので す。 あの 美學の 入門な どに 云 ふ 色の 上の 塞溫 です ね。 この 述屮は 

あか き あたたか いろ ^ さい なん きふ だい あ を みとり V- む いろ や v-_ い 

赤と か 黄と か溫ぃ 色の 野菜なら ば、 何でも 及第させる のです。 が、 靑 とか 綠 とか-淡い 色の 野菜 は 

^ 1 - なに れんち う や ざい こと-ごと あかな す L> 

見む きもし ません。 何しろ この 連中の モット ォは 『野菜 をして 悉く 赤茄子たら しめよ。 然ら すん 

われら し あた い 

ば 我等に 死を與 へよ』 と 云 ふので すから ね。」 

ぼく なるほど いちまい がう けつ ひとり じ さく や さ \ つ あ まへ えん ザつ 

僕 「成程 シャツ 一 枚の 豪傑が 一 人、 自作の 野菜 を 積み上げた 前に そんな 演說 をして ゐ ました 

よ。」. 

らう じん あたたか いろ や V.- い や さい い 

老人 「ああ、 それが さう です よ" その 溫ぃ色 をした 野茱は プロレタリアの 野菜と 云 ふので す。 一 



ぼく つ あ や ざい き うり ま く はう り 

僕 「しかし 積み上げ てあつた 野菜 は 胡瓜 ゃ眞桑 瓜ば かりで したが、 …… 」 

らう じん しきまう じ ぶん も か 

老人 「それ はきつ と 色盲です よ。 自分 だけ は 赤い つもりな のです よ。」 

ぼく さむ いろ や V- い 

僕 「寒い 色の 野菜 はどうな のです?」 

老人 「これ も 寒い 色の 野菜で なければ 野菜で はない と 云 ふ 連中が ゐ ます。 尤も この |j 屮 は!! 笑 

、 ん んばパ はら なか ま .?ぃ と あたたか > ろ •? V.- 々ら 

は し て も 浪說 など はしない やうです がね、 肚の 中で は 負けす 劣らす 溫ぃ 色の 野菜 を 嫌って ゐる 

やうです。」 

ぼく ひ け ふ 

僕 「するとつ まり 卑 ill なのです か?」 - 

らう じん なに ん. せつ えんぜつ て 々, て-し. どく =1>ど く 

老人 「何 演說 をした がらない よりも 演說 をす る 二と が出來 ない のです。 大抵 酒 靡か, S 毒 かの 

ため した くさ 

爲に 舌が 腐って ゐる やうです からね。」 

^-w^ - 、ノ: - いちまい がう はつ むか ほそ 1,1 いし ひとり 

僕 一 ああ あれが さうな のでせ う。 シャツ 一 枚の 豪傑の 向う に 細い ズボン を はいた 才子が 一 人、 

かぼちゃ えんぜつ い 

せ つ せ 南风を もぎりながら 、『 へ ん、 演說 か』 と 云 つ てゐ ましたつ け。」 

らう じん あ を かぼちゃ い いろ さむ や h 

老人 「まだ 靑ぃ 南瓜 をで せう。 ああ 云 ふ 色の 塞い の を ブル ジ ョ ァの 野菜と 云 ふので す。」 

ぼく けつき よ,、 や V い つく れん ぢう 

僕 「すると 結局 どうなる のです? 野菜 を 作る 連中に よれば、 ::: 」 



島な 議思不 



411 



らう じ,; - tex 1 つく れん ぢぅ じ さく や さい に 一 ごと よ や V.- い じ さく や ク1 

老人 「野菜 を 作る 連中に よれば、 自作の 野茱に 似た もの は 悉く 善い 野菜です が、 自作の 野菜に 

: ことごと わる や さい と かくた し 

似ない もの は 悉く 惡 い 野菜な の で す。 これ だけ は 鬼に 角 確か です よ。」 

く だ ゾプヽ だいがくげ うじ ゆ や さい パブ、 かう ぎ や, さい 

俊 「しかし 大學も あるので せう? 大學の 敎授は 野 茱學の 講義 をして ゐる さう ですから si^* 

ぜんあく み わ くら ゐ なん おも 、> 、 . 

の善惡を見分ける位は何でもなぃと田.^ひますか ::: 」 

しう. 二ん だ: か/、 けう ド ゆ たう や V ,い ゑん どう そらまめ ^ 

老人 「ところが 大學 の敎授 など はサッ サ ン ラップ 島の 野菜に なると、 碗 豆と 鮮 a も兑 わけられ 

もっとい つせ い 今 まへ や さ い かう ぎ つ 、 , 

ない のです。 尤も 一 せ紀 より 前の 野菜 だけ は 講義の 中に も は ひります がね」 

ぼく どこ やさい し 

僕 「ぢゃ 何處の 野菜の こと を 知って ゐ るので す?」 

ちう ヒノ> イギリス や さ ひ フランス や さい ドゃッ や さい イク リイ や V; い ロシア や V い いち グん えく せ:^ 

老人 「英吉利の 野茱、 佛蘭 西の 野菜、 獨 逸の 野菜、 伊太利の 野菜、 露 西 :5| の 野菜、 一番 舉 生に 

にし キ- ロシア や ャ- いがく かう ぎ ぜ ひ いちど だいがく み い 

人氣の あるの は 露 西亞. の 野菜 學の 講義 ださう です。 是非 一度 大學を 見に お出でなさい わたしの 

まへ さんく わん とき はなめがね けう じゅ ひ ヒリ びん なか 0. -ロ, ツマ- . ^るき ,つり 

こ の 前參觀 した 時には 鼻眼鏡 を かけた 敎投が 一 人、 瓶の 中の アル コ ォ ル に濱 けた 露 ss:- の 古胡贝 

み たう き うりみ たま こ 上つ) と あ をい ろ ゐ だい 口 シ 

を 見せながら、 『サッ サン ラップ 島の 胡瓜 を 見 給へ。 悉く 靑ぃ色 をして ゐる。 しかし 偉大なる 露 西 

_r き うり , 4.- ん ばく *■ ろ とほ じんせい に ほ そく いろ 

.亞 の 胡瓜 はさう 云ふ淺 薄な 色で はない。 この 通り 人生 そのものに 似た、 捕捉すべからざる 色 をし 

ゐだ * ロシア き うり けんが ベ ん ふる たう じ かんどう 

てゐ る。 ああ、 偉大なる 露 西亞の 胡瓜 は …… 』 と懸 河の 辯 を 板って ゐ ました。 わたし は 常時 感動 



412 



の あまり、 二 返 問ば かり 床に 就いた ものです。」 

だく , 

^ 「すると 11 するとで すね、 やはり あなたの ふやう に 野菜の 費れ るか 寶れ ないか はまの 

,1 レ、 -,, 、"fl が,, 、 か. -が, ほか 

に從. ^とで も考 へる 外 はない のです か?」 

、ぉハ ー)、 _| > 、 ほ > 力 また じつざい しま ,ぢ ゆうみん たノ て.' - 、-つ 

老人 一 まあ その外 はありますまい。 又實際 この 島の 住民 は 大抵 「バ ッ ブラ ッブべ H ダを 5;;^ ぎし 

てゐ ますよ。」 

H'c なん なん" 

僕 「佝 です. その バッ ブラ ッブ 何とか 云 ふの は?」 

ぷ うじん つう 

老人 1 ハツ ブラ ッ ブ ベ H ダ です。 と 緩り ますが ね。 まだ あなた は, H 几な 

えらん なか 

V のです か? あの 伽藍の 中に ある …… 」 

一 セン、 1 , ぶた あたま お ほ とかげ ぐう ざう 

僕 「ああ, あの 豚の 頭 をした、 大きい 術^の 偶像です か?」 

うじん とかげ てんち し ^9- さ- . 

老人 「あれ は雖 幅ではありません。 天地 を 主宰す る カメレオンで すよ。 け ふ も あの の? i: に 

大勢お 時 儀 をして ゐ たでせ う。 ああ rK ふ 連中 は 野菜の 寶れる 祈 禱のー i 目 葉 を 船へ てゐ るので す。 f 

. レーノーい ユー; 丄 ノん ぶべ 一一 ユウ ョォク 二と, - 一二 - ' - 

しろ 最近の ぎ 聞に よると、 紐 育 あたりの デバ アト メント • ストア ァは 悉く あの カメレオン の;^!^ 

くだ ま C ち したく せ .- l -.^ . メ 

の 下る の を 待った 後、 シィ ズンの 支度に かかる さう ですからね。 もう ils^ の 信^ は H ホべ でもな 



£5 な;!, は不 



413 



, 、 » さ い くら ゐ 

ければ、 ァラァ でもない。 カメレオンに 歸 したと も 云 はれる 位です。」 

ぼく が らん さいだん まへ や V.. い たくさんつ 

僕 「あの 伽藍の 祭壇の 前に も 野菜が 澤山 積んで ありまし たが、 …… 」 

老人 「あれ は みんな 牲で すよ〕 サッ サン ラップ 島の カメ レオ ンには 去年資 れた野 茱を牲 にす る 

の です よ。」 

ぼく に ま/や 

僕 「しかし まだ 日本に は …… 」 . . 

老人 「おや、 誰か 呼んで ゐ ますよ。」 

ほく みみ す なる ほど^く よ ごろち くつうし £^ う ヒ^ 

僕 は 耳を澄まして 見た。 成程 僕 を 呼んで ゐる らしい。 しかも この 顷 蓄膿症の 爲に 象の つまった 

々ひ 二- ぼく た あが らう-じん まへ ご の 

甥の 聲 である。 僕 はしぶ しぶ 立ち上りながら、 老人の 前へ を 仲ば した。 

「ぢ やけ ふ は失禮 します。」 

またはな き ,、だ い 

「さう です か。 ぢゃ叉 話しに 來て 下さい。 わたし はかう 云 ふ ものです から。」 

らう じん ぼく あくしゅ ち いう ぜん いちまい めいし だ めいし なか あざ や 

老人 は 僕と 握 乎した 後、 悠然と 一 枚の 名刺 を 屮:: した。 名刺の まん 中には 鮮 かに luemuel Giilli- 

い/さつ ぼく おも くち f う-せん らう じん かま み ぶ ろ .x," 

ver と 印刷 をして ある! 僕 は 思 はす 口 を あいた まま、 茫然と 老人の 戴 を 見つめた。 麻 色の 髮の 

け かこ め はな ただ ら ろじん かほ えい 幺ん ; :! ノレ 1- う う おも 

毛に 圍 まれた、 目鼻 だち の 正しい 老人の 額 は 永遠の 冷笑 を かべて ゐる、 こ m 心った の はほん 



いっしゅんかん す かほ い たづら じふ ご ざ、 を ひ かま かよ 

の 一 瞬間に 過ぎない。 その 顏 はいつ か惡戲 らしい 十五 歳の 甥の 氧に變 I つて ゐる。 

げズ かう お けんかう. き 

「原稿です つて さ。 お起きな さいよ。 原稿 をと りに 來 たのです つて さ。」 

ぼく ゆ ; ii く おき-ご たつ あた さん じっぷん ひるね お々 r) たつ うへ 

甥 は 僕を搖 すぶ つた。 僕 は 置 火 缝に當 つた まま、 三十 分ば かり 晝寢 をしたら しい。 S 火 の 上 

に 載って ゐ るの は 讀 みかけた Gulliver ビ ^Travels である。 - 

げんかう き どこ げんかう 

「原稿 をと りに 來た? 何處の 原稿 を?」 

「隨 筆の をです つて さ。」 . . 

す- ひ つ 

r 隨 筆の?」 

^く われし ひとりごと い 

僕 は 我 知らす 獨言を 云った。 

「サッ サン ラップ 島の 野菜 市に は 『はこ ベら』 の 類 も 喪れ ると 兑 える。」 

, (大正 十二 年 十二月) 



416 



.f/ つ T ゝん *^,iT1/ ヽ?^ か はぷ" ちう 力 かみ だお き ふ じん しう りん ゐん でんく わ をく しゅう. きょくだいし よふ、 し ± 

秀林院樣(,.^川越中17忠興の夫人、 秀林院 殿 華 屋宗玉 大姊は その a! 諡 なり) のお てな され .ij 

次第の こと。 

1、 ^^^^ ^1 ^ ^.,,5 ^ H> .1U は If, い/ f; つつ; ね乂丄 ちぐ わつ と を か * ちちな やせい ざ る 5 もん おほさ かたまつ くり や 

一 石 田 治 部少の ® の 年 卽ち慶 長 五 年 七月 十日、 わたくし 父 魚屋 淸左衞 門、 大阪玉 造のお! Jj 

,^5 、化ン f *1 , > ぷっ -ル うりん ゐん さま けんじゃう つかまつ さ ふら ふ しう りん ゐん さま な cf ん わた 二つ ち, I- 

敷へ 參り T かなり や」 十 羽、 秀林院 様へ 獻 上 仕 り 候。 秀 林院樣 はよ ろ づき り をお ぎ。 み i ば 

1;^- ^ひふ 、 k; に ちほ めんもく ほどこ さ ふら ふ もっと ご しょ ぢ ご じふき : せい。 

され 間 あん 悅ぴ 斜めなら す、 わたくし も 面目 を 施し 候。 尤も 御所 持の 御 什器のう ちに は,, J 

i 一,, ) n ' . > , たし,, しな ひと _ ご しょ ぢ n r V,- ふら ふ i- つちち ま,, VJ さん f/i 

も數 かす 有 之 この 「かなり や」 ほど 確かなる 品 は 一 つも 御所 持 御座な く 候。 その I き 父の もし fe:i^、 

す.^ か 5„5; た- し-だいし うりん ゐん ざま いとま ねが よめ,, いた ?ふ らふ v,j さ ジぉ 

涼風の 立ち 次第 秀林 院樣 へお 暇 を 願 ひ、 嫁入り 致させ 候べ しとの ことに 御座 像れ わたくし もも は 

さズ ねん _ ご ほうこういた を さ ふら しう りんん ん V- ま す こ -ゥ、 さ Z I Z . t V, 

や 三年 あまり、 御 奉公 致し 居り 候へ ども、 秀林 院樣は 少しもお 優しき ところき ブヱ、 i ル,^ ぶら るる 

だいいち . さ ふら そば を ざ ふら ふ う はなし ぁトな と クふ, 

こと を 第一と なされ 候へば、 お 側に 居り 候ても、 浮きた る 話な ど は 相 成らす、 见角氣 のつ まるば 

V- ふら ふ あ ひだ ちち ことば & とき てん Q ぼ ここち 、た さ ふら ふ しつり ぐし Gvi 3 t 

かりに 候 問、 父の 言葉 を g きし 時 は 天へ も # る 心地^し^ ふ C この 日 も秀: 観の « せら 4,i">,s1、 



書え 覺女糸 



417 



に ほん-: く をん な ち ゑ あさ よこ も じ ほん よ らいせ かなら なんばん こく だいみ やう -- しい 

日本 國の 女の 智慧 淺きは 横文字の 本を讀 まぬ ゆ ゑの よし、 來世は 必す南 蠻國の 大名へ ぉ與 入れな 

そん あ さ ふら ふ 

さるべし と 存じ 上げ 候。 

じふい ちにち ちょうこん ま を びくに し.;' りん ゐん さま め ど ほ いた ざ ふら ふ びくに ただいま; I や-つない し」 

一一、 卜 一日、 澄 見と 申す 比丘尼、 秀林院 様へ お 目 通り 致し 候" この 比丘:^ は 唯今 城. £ へ も 1^ り 

ノ なかなか もジ さ ふら い ぜん き やう いと や ご け をつ と ろくにん と か 

人り、 中中き け 者の よしに 候へ ども、 以前 は 京の 糸屋の 後家に て、 夫 を 六 人 も 取り 換 へたる いた 

をん な つ】 ざ さ ふら ふ ちょうこん かほ み む しづ はし いや ふに 

づら 女との ことに 御座 候 C わたくし は 澄 見の 顏 さへ 見れば、 蟲 唾の 走る ほど 脈に なり 候へ ども、 

しう りん ゐん V- ま 今ら あそ とき かれこれ こ はんにち はなしあ ひて これ あり たび 

秀 林院樣 はさの みお 嫌 ひも 遊ばされす、 時には 彼是 小半日 もお 話 相手に なさる こと 有 之、 その 度 

おく ぢ よちう なんじ ふっか まつ さ ふら ふ し-つ りんん NiV. ま せ じ こ G ため 

にわた くし ども 奥 女中 は いづれ も 難^ 仕 り 候。 これ はまった く秀 林院樣 のお 世辭を 好まる る爲 

ご ざ さ ふら ふ ちょうこん しう りんん ん さま うつく いちぢ やう とのご め 

に 御座 候。 たと へば 澄 見 は秀林 院樣に 、「いつもお 美しい ことで おり やる。 一定 どこの 殿御の:::: に 

はたち み ご キ りゃう ほ あ さ ふら ふ しう りん よ 

も 二十 あまりに 見えよう す」 などと、 まことしやかに 御 器量 を 褒め上げ 候 C なれ ども 秀林院 様の 

ご きり やう 一 ご び れい ま を これな く こと はな たか そばかす せう せう あ 

御 器量 はさの み 御 美麗と 申す ほど にても 無 之、 殊に おん 鼻 はちと 高す ぎ、 银斑も 少少お 有りな さ 

さ ふら ふ とし さんじ ふ はち いか よめ とほめ ま を はたち み 

れ候。 のみなら すお 年 は 三十 A ゆ ゑ、 如何に 夜 nw 遠目と は 申せ、 二十 あまりに はお 見えな さらす 

さ ふら ふ 

rK。 - 

4f ようこん ひ まゐ V- ふ ふ ないないち ふ せう たの さ ふ^ふ しう りん ゐん さま 十 まひ .i" やう 

三、 澄 見の この 日參 り!^ は、 內內 治部少 かたより 賴 まれ 候よ しにて、 秀 林院樣 のおん 住 1:! を 城 



ない うつ あそ さ ふら ふ すす ま を ため -,】 ざ さ ふら ふ しう りん ゐん V- ま ごかん かう うへ ご へんじ 

內へ おん 移し 遊ばされ 候 やう、 ぉ勸め 中す 爲に 御座 候。 秀林院 様 は 御 勘考の 上、 御 返 車な され 

さ ふら ふ ちょうこん ぎょい さ ふら なかなか 1 ご けっしん さ ふら ふ み あ さ ふら ふ 

候べ しと、 澄 見に は 御意な され 候へ ども, 中中し かとせる 御 決心 もつ きかね 候 やうに 见 上げ 候 C 

しか ちょうこん ざ ざ ふら ふの ち さま ぐ わざう まへ およ いっこく いちど ま を 

然れば 澄 見の 下がり 候 後 は 「まりや」 樣の畫 像の 前に、 凡そ 一刻に 一 度づ つ は 「おらつ しょ」 と 中 

い いっしん ささ あそ さ ふら ふ なに ついで ま を あ さ ふら し vT りん ゐん ざま 

す おん 祈り を 一心にお 捧げ 遊ばされ 候。 何も 序 ゆ ゑ 申し上げ 候へ ども、 秀林 院樣の 「おらつ しょ」 

に ほんこく ことば これな 二 ら てん ま を なんばん こく ことば みみ ただ 

は 日本 國の 言葉 に て は 無 之 、羅甸 とや ら 申す 南蠻國 の 言葉 のよ し、 わたくしどもの. に は 啦「 のす、 

きこ さ ふら ふ あ ひだ を か ひと くる つ】 ざ さ ふら ふ 

のす」 と 閱ぇ候 間、 その 可笑し さ を こら ふること、 一 かたならぬ 苦しみに 御座 候。 

じふに にち ベ つ か は 二れ なく ただ あさ しう りん ゐん さま 一 ご & ずん み 

m、 十二 日 は 別に 變 りたる こと も 無 之、 唯 朝より 秀林院 樣の御 嫌、 よろし からざる やうに 兑 

あげさ ふら ふ そう n き げん とき よ いちら-つ? ま ただお ャ 一- 

上 候。 總 じて 御氣嫌 のよ ろしから ざる 時には わたくしどもへ はもと より、 與 ー郞樣 (忠 M ハの 子、 

ただたか おくさま こ ごと いやみ お ほ ざ ふら ふ あ ひだ たれ めった そば .tr か 

忠隆) の 奥様へ もお 小言 やらお 厭味 やら 仰せられ 候 問、 誰もみ な 滅多にお 側へ は 近づかぬ ことと 

いた を さ ふら ふ またよ いちらう さま おくさま ナ しゃう こ も Q がたり 

致し 居り 候。 け ふ も亦與 一 郞樣の 奥様へ はお 化粧の あまり 濃す ぎぬ やう、 「えそ ぼ 物語」 とやら の 

なか 4. ひぞく はなし ひ あ だ なが ウー だんぎ これ ぁリさ ふら ふ 孑- どく ぞん あ 

中の 孔雀の 話 をお 引き合 ひに 出され、 長な がと 御 談義 有 之 候 よし、 みなみなぉ氣の^!母に存じ上 

さ ふら ふ おくさま となり やしきう きた ちうな ん V; ま おくさま いもうと ご あた つ 一 り よつ せう せう i を ^ さ ふら 

げ候。 この 奥様 はお 隣 屋敷 浮 田 中 納言樣 の 奥様の 妹 御に 當ら せられ、 御 利 發とは 少少 申し兼ね 候 

8 

I ご キ りゃう い か めいさく ひな み おと ご ざ さ ふら ふ 

4 へど も、 御 器量 は 如何なる 名作の 雛に も 見 劣らぬ ほどに 御座 候。 



書え 覺女糸 



419 



じふさん にち を がさ はらせう V- い ひできよ か はきたい はみ かすな り りゃう にん だいどころ まん さ ふら ふ ほそ か は ひ をと こ 

五、 十三 日、 小 笠 原少齋 (秀淸 ) 河北 石 見 (一成) の兩 人、 ぉ臺 所まで 參られ 候。 細 川 家に て は s?^ 

こ ども おく ま ゐ n か はふ さ ふら ふ あ ひだ おもて やくにん だいどころ まゐ 

はもと より、 子供 にても 奥へ 參る こと はかな はざる 御 家法に 候 間、 表の 役人 はお 臺 所へ 參 られ、 

なに おく とりつぎ た ひさ あひな を ざ ふら ふ 

何 ごとに よらす わたくしどもに 奥への 取次 を賴 まるる こと、 久しき なら はしと 相 成り 居り 候。 こ 

さんさ 一 さま ただおき しう りん ゐん さま ふた やきもち おこ くろ だ け もりた L る; 

れは みな 三齋樣 (忠 興) 秀林 院樣、 お 二 かたのお ん燒 餅より 起り しこと にて、 黑 田家の 森 太 兵衞な 

ふ じ ノぅ r 一 か はふ さ ふら ふ わら _ご ざ さ ふに ふ また-: 'に -? I 

どに も、 さて こそ 不自由なる 御 家法 も 候 もの かなと 笑 はれし よしに 御座 候。 なれ ども 亦 襄には 裏 

ま を これ あり ふ じ い-つ いた を さ ふら ふ 

と 申す こと も 有 之、 さほど 不自由 は 致し 居らす 候。 

せう さ、 1,± み りゃう にん しも ま を にょうば う め いだ ま を MJ ふら ふ たびき, *J ぢ ふ せう 

六、 少齋石 見の 兩人、 霜と 申す 女房 を 召し出され、 こまごまと 申され 候 は、 この度 急に:! 巾部少 

ひがし た さ ふら ふだいみ やうし ゆう ひとじち さ ふら ふ もつ ぱ ふうぶん つかまつ さ ふら いかが つかまつ 

より、 束へ お立ちな され 候 大名 衆の 人質 を とられ 候よ し、 專ら 風聞 仕り 候へ ども, 如何 仕る 

V- ふら ふ しう りん ゐん さま おぼしめ うけた ま は 二れ ありさ ふら ふ 小-つ しも 

ベく 候 や、 秀 林院樣 のお 思 召しの ほど も 承りた しとの ことに 有 之 候。 その 節、 霜の わたくしに 

ま を さ ふら ふ るす ゐ やく しゅう て ちょうこん うち 

申し 候 は T お 留守居 役の 衆 も 手ぬ るい ことで おり やる。 その やうな こと は 澄 見から をと つ ひの tM: 

ごん じ やう とりつぎ-, 1 C らう ご ざ さ ふら ふ もっと めづら 

に 言上され たもの を。 やれやれお 取次 御苦勞 な」 とのこと に 御座 候。 尤も これ は 珍しき ことにて 

これな く せじ やう うは さ るす ゐ やく みみ みみ さき い さ ふら ふ : うさい 

も 無 之、 いつもせ 上の 噂な ど はお 留守居 役の 耳よりも、 わたくしどもの 'へ 先に 人り 候 少齋は 

ただり ちき らう じつ いはみ ぶ だう いっぺん ゝ、 ゝ にん ざ ふら ふ あ ひだ ぎ ぞん ざ ふら と かく 

唯 律義なる 老人、 石 見 は 武道 一 偏の わやく 人に 候 間、 さも あるべき 儀と は 存じ 候へ ども、 见 角た 



_ び 重なり 候へば、 わたくしども を 始め 奥の もの は 「も 上に れ ない」 とおす 1^ りに 「お iwt ケ さ 

- ,^ ) ま を あひな を さ ふら ふ 

へ 知って おり やる」 と 申す ことに 相 成り 居り fe^c 

r ゝ ルも !:^-は むね し-つりん ゐん さま ま を あ さ ふら ふ しう りん ゐん さま ぎょい ざ ふら ふ ち 二 "う 

七 霜は卽 ちその 旨 を 秀林院 様へ 申し上げ 候と ころ、 秀林院 様の 御意な され 候 は、 ユウ #少 と 一, 

齋樣と は 兼ねが ねお ん仲惡 しく 候 まま、 定めし 人質のと り はじめに はこの 方へ 央 I るな らん、 2^ぃーち 

1 つ た: け なみ またい ち; H ん ま を きた さ ふら 一 へん, かが あそ ? ふら ,ぃ 

さもな き 節 は 他家の 並 も あるべき か、 もし 又 一番に 申し 來り候 はば、 御 返答: g 可 遊ばさ ふお ヾき 

3 D せ/つ》 い, いはみ, ひやう".. ん ュん べつ 4 た さ ふら ふ ご ざ さ ふら ふ せう さい,, はみ りゃう にん ふんべつ, た -., "り 

や 少療石 見の llg: 人 分別 致し 候 やうに とのこと に 御座 候 C 少齋石 見の 兩人も 分別ず しかね 能へ 

、 * . う. 力 し だい さ ふら L うりん ゐん さま ことば ナん たうちが ご ざ きふら ,も ご 

ば こそ 御意 を も 伺 ひし 次第に 候へば、 秀 林院樣 のおん 言 紫 は 當違 ひに は 御座 候へ ども 雜も御 

.f,"^ し > ' : ノ -、、 と^ りゃう にん ま を わた さ ふら ふ しも だいどころと, V. ふら ふの ち し, T りつ、,.' ぐ さま 

主人の 御 威光に は 勝たれす、 その 通り雨 人へ 申し渡し 候。 霸 のお 臺 所へ 下がり 候 後、 秀林 様 

, 、 ま f ,-,1 > し (; *. よ ズ.^ざぅ 1 へ とな あそ うめ ま & し V- ざに によつ-にう おし 

は 又 また 「まりや」 樣の畫 像の" _1 に 「のす、 のす」 をお 唱へ 遊ばされ、 梅と 申す 新參の 女房、 ず はす 

わつ り だ さ ふら もつ ほか ご せつ., r_> か うし- さ ふら ふ 

笑 ひ 出し 候 へ ば、 以ての外の ことなりと さんざん 御 折 濫を蒙 り 候。 

I 1 ダ し r いいはみ りゃう にん しう りん ゐん さま ぎょい うかが たう わくつ かまつ V.- ふら しも ま を 

八 少齋石 見の 兩人は 秀林院 様の 御意 を 伺 ひ、 いづれ も當惑 仕 り 候へ ども、 やがて! ^"に 中 さ 

-^^ -X ^ li, づっ , みぎ し, だい ま を i さ ふら ふ よ いちらう さまよ ご らう vi ただおき こ おき あき た 

れ候は 治部少 かたより 右の 次第 を 申し 來り 候と も、 與 一 郞樣與 五郞樣 (忠 興の 子、 興 秋) のお 一一 



^ 、: . - マ" し,, , , ' : ない キノ v,; ほ、 どうじ やう ただとし また ただいま え どひと じち _ ご VJW ふら ふ あ; 'だ ひとじち い 

かたは 東へ お立ちな されたり、 內記樣 (同上、 忠利) も 亦 唯今 は 江戶人 に 御座-:^、 ぼ、 人 Iff: こい- 



さ ふ. O ひと たう や しき いちにん これな くさ ふら しょ だ まや; へ/、 た ふ.? かまつ 

I で 候 はん 人、 當ぉ 屋敷に は 一人 も 無 之 候へば、 所 スれは 出し 申す ことなる まじく と 返答 仕るべし、 

2 

4 ひ ま を さ ふら た なべ しろ まひ-つる ま を つか いう さい V- ま ただおき ふぢた か 」"- さし 

なほ 又 是非ともと 申し 候 はば、 田 邊の城 (舞 鶴) へ 申し 遣 はし、 幽齋樣 (忠與 の 父、 藤^) より 指 

, づ あ ふ さ ふら ふ まで ま さ ふら あいさつ つかまつ :さ いかが さ ふら ふ ま を V., ふら ふ し- rH- 「ん >- ま 

圖を 仰ぎ 候 まま、 それ迄 待ち 候へ と 挨拶 るべ し、 この 俄 は 如何 候べき と 申され 候 C 秀 林院樣 

おは ふ 乂 べついた さ ふら ふ ま を わた さ ふら せっさい いはみ りゃう にん ことば け ふんべつ 

の 仰せに は分训 致し 候 やうに と 申し渡され 候 へ ども、 少齋 石見兩 人の 言葉に 毛す ぢ ほどの 分別 も 

これ ありさ ふ. t- ふ らうこう さむら ひ ま を ひとな ふんべ つ さむら ひ た なべ しろ しう 

有 之 候 や。 まづ 老功の 侍と は 申さす、 人並みの 分別 ある 侍なら ば、 たと ひ m 邊の 城へ なりと も秀 

りん ゐ /"ま おと ま を つぎ また いも おも ナ がた かく さい-.') り や-つに 公 る 

林院樣 をお 落し 申し、 その 次に は 又 わたくしども にも 思 ひ 思 ひに 姿 を 隠させ、 ::^取後に兩人のぉ§2 

す ゐ やく か/、 カー つかまつ ば あ ひ ご ざ さ ふ, 1. ふ しか ひとじち い V,- ふら ひと いちにん これな くさ ふら : だ ま を 

守 居 役 だけ 覺悟 仕るべき 場合に 御座 候。 然るに 人質に 出で 候 はん 人、 一 人 も 無 之 候へば、 出し 申 

いち に けんく わごし そば づゑ う めいわ/、 せんばん 

す ことなる まじくな どと は 一 も 一 一 もな き 喧嘩腰に て、 側杖 を 打た るる わたくしども こそ 迷惑 干 is? 

SV ん - ふ.,;," 

に 存じ 候。 

!も またみ ぎ し だい しう り/.,." ズさま ま を あ V. ふら ふ し. T りん ゐんさ 1H ご へんじ あそ 人: ヒ くち 

九、 霜は义 右の 次第 を 秀林院 様へ 中し 上げ 候と ころ、 秀林院 樣は御 返事 も 遊ばされす、 唯お 口 

糸 のうちに 「のす、 のす」 とのみ ぉ唱 へな され 居り 候へ ども、 漸く さりげな きおん!^ 色に 直られ、 一 

め t 段 然るべ しと 御意な され 候。 1^ 何 さま まだお 留守居 役より お落し 奉らん とも 巾され ぬう ちに、 1 

ね ほ さ ふら ふわけ まゐ か さ ふら ふぎ 1,1 しんちう せう V.. いいはみ む ふんべつ ま を て-つ 

a せと 仰せられ 候 訣 には參 り:^、 ね 候 儀 ゆ ゑ、 さだめし 御 心中に は 少齋石 見の 無分训 なる. e. し條を 



-っら あそ そん あ さ ふら ふ かつ ご 々一 げん とき ひ はた, H 

お恨み 遊ばされし ことと 存じ 上げ 候。 且 は御氣 嫌 もこの 時より 引きつ づき 甚だよ ろしから す、 こ 

しか また しか たび も Q がたり よ 々J 

と ごとに わたくしども をお 叱りな され、 又お 叱りな さるる 度に 「えそ ぼ 物語」 とやら をお み 間 か 

くだ _ たれ か はづ かれ お ほかみ お ほ ざ ふら ふ あ ひだ ひとじち まゐ なん ヒふ r. ち 

せ 下され、 誰 はこの 蛙、 彼 はこの 狼な どと 仰せられ 候 間、 みなみな 人質に 參 るよりも 難 なる m わ 

いた さ ふら ふ こと .1^ たつ.,:; り からす ぶた かめ こ しゅろ ぬ まむし 

ひ を 致し 候。 殊に わたくし は蝸. 牛に も、 穗 にも、 豚に も、 龜の 子に も、 棕梠 にも、 犬に も、 腹に 

» の, うし び やう にん に さ ふら ふ こ n と かう む さ ふら ふ まつだいまで わす がた ir,- ふら ふ 

も 野牛に も 病人に も 似 かよ ひ 候よ し、 くやしき お 小言 を 蒙り 候 こと、 末代 迄 も 忘れ 難く 候 C 

じ、" よっか またち ようこん まる ひ 七 じち ぎ ま を いだ さ ふら ふ しう りん ゐん V- まぎよ い さ ふら ふ V- ん v->v ま ゆる 

十、 十四日に は 又 澄見參 り、 人質の 條を 申し出し 候。 秀 林院樣 御意な され 候 は、 一二 齋 様のお 許 

二れ なき い か さ ふら ふ ひとじち い さ ふら ふぎ どうしんつ かまつ お ま V.- ふら ふ しか 

し 無 之う ち は、 如何 やうの こと 候と も, 人質に 出で! K 儀に は 同心 dd る まじく と卬 せら 候 C 火" 

ちょうこん ま を さ ふら ふ なるほどさん V- い V- ま _ご い けん おも VJ ふら ふ もっと ナしぢ よ さ,、. らふ 

れば澄 見 申し 候 は、 成程 三 齋樣の 御意 見 を 重んぜられ 候 こと、 尤もi:^Mには候べし。 なれ ども こ 

ほそ か はけ だいじ じ や-つない いて となり や: ぶ. 一う 今た ちうな ごん V ままで 1 

れは細 川 家の おん 大事に つき、 たと ひ 城內へ はお 出な されす とも、 お 隣 屋敷 浮 W 屮納; 様 迄 入ら 

うきた ちうな 1,) ん V- ま お >、v ま よ いちら-つ-さま -, ぶ: やう だ い あ ひだ ぶぐ さんさ . さま 

せらるべき か。 浮 田 中納言 様の 奥 樣は與 ー郞樣 と御姊 妹の 問 がら ゆ ゑ、 その 分の こと は三齋 様に 

と. 力 さ やう あそ さ ふら 一, 一 H ニミふ らふ ちょう-一ん だ ノヤら 

もよ もや おん 咎めな され まじく、 左樣 遊ばされ 候へ とのこと に 御座 候 C 澄 見 はわた くし 大嫌 ひの 

た is きば まあ さ、、; ら ちょうこん ま を さ ふら ふ いち リ ぞズ V. ふら ふ ヒ なり やしん. た ちうな 一 •』 んさま うつ あ,, U 

m 婆に は 候へ ども、 澄 見の 申し 候 こと は 一 理 ありと 存じ 候。 お 隣 屋敷 浮 S 屮納言 康へ お移り^ 

2 , 

4 ばされ 候 はば、 第一 にせ 間の 名聞 もよ ろしく、 第 「一に わたくしどもの 命 も 無事にて、 この 上の 妙 



書え 覺女糸 



423 



あん これ ある ?, i らふ 

案 は 有 之 まじく 候。 

しか し. T りん ゐん さまぎ よい さ ふら ふ い か う. た ち, な ごスど C ご いちもん さ ふら 

十一、 然るに 秀 林院樣 御意な され 候 は、 如何にも 浮 田 中 納言殿 は 御 一門のう ちに は 候へ ども、 

ちぶ 斗う いちみ か うけた ま は およ さ ふら ふ あ ひだ まで まゐ さ ふ. d ふ ひと ヒち ひとじち V" ふら ふ 

これ も 治 部少と 一味の よし、 兼ねが ね 承り 及び 候 問、 それ迄 參り 候ても 人質 は 人質に 候 まま、 

どうしんいた がた お ほ さ ふら ふ ちょう 二ん お かへ くど た さ ふら いっかう ご t ょリ 

同心 致し 難く と 仰せられ 候。 澄 見 はな ほ も 押し返し、 いろいろ ロ說き 立て 候へ ども、 一向に 御 承 

いん あそ つ ひ 卞 ようこん めう あん みづ あわ き は ま を さ ふら ふ せつ またし うりん ゐん さま こうし 

引 遊ばされす、 遂に 澄 見の 妙案 も 水の 泡と 消え果て 申し 候 C その 節 も 亦秀林 院樣は 孔子と やら、 

たち な ひめ わ かん なんばん こく ものがたり お ほ キ 

「えそ ぼ」 とやら、 橘姬 とやら、 「きりすと」 とやら、 和漢 はもと より 南 蠻國の 物語 さへ も 仰せ^か 

され、 さすがの 澄 見 も 御 能辯に はしみ じみ 恐れ;^ りし やうに 見う け 候。 

ひ お ほ まがと き しも ご ていぜん まつ こす ゑ こんじき じふ じ か あまくだ ゆめ なが V,: ふら ふ 

十一 一、 この 日の 大凶 時、 霜 は 御 庭前の 松の梢へ 金色の 十字架の 天下る さま を 夢の やうに 眺め 候 

い か きょ.:' ヒ ぜんて う かな はな ま を さ ふら ふ もっと しも きんがん うへ ひ -ビっ 

よし、 如何なる 凶事の 前兆に やと 悲しげに わたくしへ 話し 申し 候 C 尤も!! は 近^の 上、 日顷 みな 

おくび やう もの ご ざ さ ふら ふ あ ひだ みやう じ やう じふ じ か み ちが さ ふら ふ お ぼっか かぎ さん さ ふら ふ 

みなに なぶらる る 臆病者に 御座 候 問、 明 星 を 十字架と も 見 違へ 候 や, 覺朿 なき 限りと 存じ 候。 

じふ- *j にち またち ようこん まゐ おな ま を あ さ ふら ふ しう りん ゐん さまぎ よい ざ ふら ふ 

十三、 十五 日に も 亦 澄見參 り、 きの ふと 同じ こと を 申し上げ 候。 秀 林院樣 御意な され 候 は、 た 

なんど ま を さ ふら ふ かく n か は お ほ さ ふら ふ しか ちょうこん りっぷくいた さ ふら ふ n ザス ! り-て 

とひ 何度 申され 候と も、 覺悟 は變る まじ、 と 仰せられ 候。 然れば 澄 見 も 立腹 致し 候 や、 御前 を 退 

さ ふ らふ ご しんつう かほ し ;: :. ふ み ま を 

き 候み ぎり 、「 鄭、. ^南の ほど も さぞ かしで ぉぢ やらう。 どうやらお 顔 も 叫 十 あまりに ゆる 丁 こ 中 



ひ-. i ら.^ , ^う;:^ スん /さま ひと ご りっぷく あそ い -ご ちょうこん め ど ほ む よう JU つ V ふら お i 

し 候。 秀 林院樣 にも 一 かたなら す 御 立腹 遊ばされ、 以後 は 澄 見に 目通り 無用と 達し 候へ と倾 せら 

If;^ また ひ いっこくお i i さ ふら な しょう か" ンぁ 

れ候 なほ 又 この 日 も 一 IK.^ 置きに 一 おらつ しょ」 をお 唱 へ 遊ばされ 候へ ども、 內證 にての お 掛合ひ 

いよいよて ぎれ あひな さ ふら ふ あ ひだ やす こころ うめ わら ひ,;:' を V -、. ^らふ . 

も 愈 手 切と お成り 候 間- みなみな 安き 心 もな く、 梅 さへ 笑 はすに 控へ 居り 候。 

- , ひ ま たかはき たいはみ いなとみい が すけな ほ こうろんいた ざ ふら ふ * が ま うじ ゆつ じ や C 'す 

I" 四 この 日 は 又 河北 石 見、 稻富 伊賀 (祐 直) と 口論 致され 候よ し、 伊賀 は^ 術の 上手に つき、 

たけ でし し £ぅ すくな なに ひやう ばん さ ふら ふ せう さ ごふみ. ね」」 と 

他家に も 弟子の 衆少 からす、 何かと 評判よ ろしく 候 まま、 少齋石 見な どは嫉 きこと に 思 はれ、 见 

かくこう ろん いた が ご ざ さ ふら ふ 

角 口論 も 致され 勝ちとの ことに 御座 候 e 

, , ; > ひ や-は, ん、 . ;; -も ゆ, めう つて み 专も ひ さ ふら ふ お ほごる! なに よ 

f 五 この 日の 夜 牛 霜 は 夢に 打 手の かかる を 見、 阡 を 冷やし 候よ し、 大聲に 何 か 呼ば はりな 

らう か し ご けんよ し さ ふら ふ 

がら、 お 廊下 を 叫 五 間 走り ま はり 候。 

- c» じふ, J- くに み にく-ごろ- せう V.- いいはみ りゃう にん ふたた —: も ま を さ ふら ふ だ だい まぢ ぶ せう おもてむ 

,f 六 f 六日 巳の 刻 頃、 少齋石 見の 兩人、 再び 霜に 申され 候 は、 唯 八/治 部少 かたより 表向きの 

つか ひ ゐ ぜ ひ しう りん ゐん さま わた さ ふら わた さ ふら おか と ャ ふら ま を 

使參り 是非とも 秀林 院樣を おん 渡し 候へ、 もしおん 渡し 候 はすば、 押し掛けて 取り 候 はんと 巾 

々:^ マ〕 ふ. 5^》 ふが 1ド< ま ま を , で う さ ふら ふ うへ われら はら き V.- ふら ふ わた つかま リ 

し 候 間 さりと は 我儘なる 申し 條も候 もの かな、 この 上 は 我等 腹 を 切り 候と も、 おん 渡し 仕る ま 

ま を つか さ ふら ふ しか しう りんん ん V- ま ご かくご あそ これ ありさ ふら ふ せつ 4 り, 

じくと 申し 遣 はし 候。 然 れば秀 林院樣 にも 御覺悟 遊ばされ たくとの ことに 有 之 候。 その 節、 お 

4 

^ 化く 廿^う ぬ ば ゎづら を さ ふら ふ いはみ こうじ やう たつ さ ふら ふ またい よみ りつ.. 1 く よ 5 しも 

憎少齋 は 拔け齒 を 煩 はれ 居り 候 まま、 石 見に 口上 を賴 まれ 候よ し、 又 石 見 は 立腹の 餘り、 l^s を も 



書え 覺女糸 



425 



う はた み さ ふら ふ しも もつ」 がたり ご ざ さ、 ュら? t 

打ち 菜す かと 見えられ 候よ し、 いづれ も 露の 物語に 御座 候。 

しう りん ゐん さま しも し さい き め ただ よ いちらう V- ま おくさま ないだん あひな V-- ふら ふ のち 

十七、 秀林 院樣は 霜より 仔細 を 聞こし召され、 直ちに 與 一郎 様の 奥様と お 內談に 相 成り 候.^ 後 

うけた ま は さ ふら よ いちらう V- ま おくさま ごしゃう がい 十す あひな さ ふら ふ なん いた は そん あ 

に 承 り 候へば、 與ー郞 様の 奥樣 にも 御 生害 をお 勸 めに 相 成り 候よ し、 何ともお 傷し く 存じ 上げ 

さ ふら ふ そう たび たいへん え しぎ ま を だいいち るす ゐ や.、 む ふスべ つ 

候。 總 じて この度の 大變 はやむ を ぬ 仕 俄と は 申しながら、 第一に はお 留守居 役の 無分^より 

やぶ だいに またし うりん ゐん V,- まご じ しん しゃう ご さいご はや V」 ふら ふ どうぜん き ご ざ-.. ふら ふ 

こと を 破り、 第二に は又秀 林院樣 御自身のお 氣 性より 御 i 取 期 を 早められ 候 も 同然の 儀に 御座 候。 

しか よ いちら,. っャ, ま おく さま n しゃう がい ナナ, あそ さ ふら ふうへ とも つかまつ 

然るに 與 ー郞樣 の奥樣 にも 御 生害 をお 勸め 遊ばされ 候 上 は、 わたくしども にさへ お 伴 を 仕る や 

ぎょい さ ふら ふ はか がた いよいよめ いわく そん を さ ふら ふ ご ぜん め さ ふら ふ あ ひだ い 

う、 御意な され 候 や も 計り 難く、 愈 迷惑に 存じ 居り 候と ころ、 みなみな 御前へ され 候 問、 如 

か お ほ かう む ひと あん ま を さ ふら ふ 

何なる 仰せ を 蒙る ことかと 一 かたなら す 案じ 申し 候。 

つ) ぜん まゐ さ ふら し-つりん. ぬん V,- まぎよ い さ ふら ふ いぶい H ま を _*) 二ら.'、 まゐ さ ふら 

十八、 やがて 御前へ 參り 候へば、 秀 林院樣 御意な され 候 は、 愈 「はらい そ」 と 申す 極 樂へ參 り 候 

じ せつ いちだん よろこ さ ふら ふ お ほ さ ふら ふ かほ いろ あ を -ーゑ ふる 

はん 時節 も 近づき、 一 段悅 ばし く 候と 仰せられ 候" なれ ども おん 額の 色 は 青ざめお 聲も やや 震へ 

を さ ふら ふ あ ひだ いつはり ぞん あ さ ふら ふ し-つりん cQ ん さま また; ォ- よい V,! ふら ふ ただよ み ;. 「 さは 

居られ 候 間、 もとより これ はおん 偽と 存じ 上げ 候。 秀林 院樣叉 御意な され 候 は、 唯 黃泉路 の 障り 

はう み らい はう こころえ あ きりし たん n し うもん や え たてまつ さ ふら ふ 

となる は その 方 どもの 未來 なり、 その 方 ども は 心得 惡 しく、 切支丹の 御 宗門に も歸 依し 奉らす 候 

みらい ま を ぢ-, ブ、 お あくま ゑ じき ぶ は さ ふら ふ つ こんにち 

まま、 未來は 「いんへ るの」 と 申す 地獄に 墮ち、 惡 魔の 餌食と も 成り て 候べ し。 就いては 八, 日よ 



こ、 ころ 、 てゾ しゅ を A まも さ ふら また さ ふら しゃう が-.. とも つかまつ 

り、 も を 改め 天主の あん 敎へを 守らせ 候へ。 もし 又 さもな く 候 はば、 みなみな 生害の 伴 を;^ り、 

とも ,0s ど さ さ ふら せつ *ヒ> てんし >1Q 

われらと 共に 猿 土 を 去り 候へ。 その 節 はわれら より 「あるかん じょ, K>}^. 大使) へ 観み、 「あるかん じ 

また あるじ た Q たてまつ いちどう しゃ-つ-ごん よ. - さ ふら ふ .ri 

よ」 より 又 おん 主 「えす • きりすと」 へ 頼み 奉り、 一 同に 「はらい そ」 の莊嚴 を拜し 候べ しと 仰せら 

少に. -ぶ^ 、れ" r.y ノ f > : ノ f;^s:s むせ、 . そくざ きりし たん I ごしゅう もん き え たてまつ む U どうおん . 

れ候 :^ぃ^ れ はわた くし ども は 感淚に 咽び、 みなみな 卽 座に 切支丹の 御 宗門に 歸 依し 奉る 旨、 同一"? |:1 

ま を あ さ ふら ふ あ ひだ しう りん ゐん ざま ご き げん よ み ぢ さよ こ, く お/? ど w^-.,»-J^ 

に 申し上げ 候 間、 秀林院 様に は 御機嫌よ ろしく、 これにて 黄泉 路の 隙り も慨 1 之、 安堵いた しぎ 

とも む よう ぎょい さ ふら ふ 

まま, 伴 は 無用と 御意な され 候。 

また..^ うり 乂ゐん さま さんさい さまよ いちらう V」 ま かきお に つう しも ゎヒ あそ v-,r ノ-" 

十九 なほ 叉 秀林院 樣は三 齋樣與 一 郞樣へ お 書 置き をな され、 一 一通と も 霜へ お渡し 遊ばされ 赞。 

• >_,i、tt う ,1 ノ、 や, ま をば て れん なに よこ も じ かきお 

その後 京の 一 ぐれ ごり 屋」 と 申す 伴天連へ も 何やら 橫 文字のお 書: 蓝 きをな され、 これ はわた くし へ 

, 丄 ^-. ふ:^ ふ よこ も-じ- かきお _ご ろくぎ やう さ ふら し. つりん ゐん さま か あ, C V,- ふら ふ 

あ 渡し 遊ばされ 候。 この 橫 文字のお 書 置き は 五六 行に は 候へ ども、 秀林院 様のお 書き 遊ばされ 候 

- -、 い, つ. ll; , S ふら ふ ついで ま を あ さ ふら かきお 

に は 一一 あまり も あかかり なされ 候 C これ も 序 ゆ ゑ 申し上げ 候へ ども、 このお 書 Ijil きを 「ぐれ ご 

は , 、 ま ふ t 一つ * に じん 、やくそう いちにん お,.) そ ま を さ ふら ふ . そ う じ ジ:. きりしたんし f. 'もん 

り屋」 へ 渡し 候 節 日本人の 「いるまん」 (役: JS) 一 人、 嚴 かに 申し 候 は、 總じ てま 害 は 切支丹 宗門 

きん ご ざ さ ふら ふ あ ひだ しう りん ゐん さま のぼ あそ >• ふら ふ 

の禁 すると ころに 御座 候 間、 秀林 院樣も 「はらい そ」 へ はお 昇り 遊ばさる る ことかな ふま じく 

6 

^ たぶ, ー ま を & たう たてまつ V: ふら く どくく わう だい あくしゅ まぬ か さ ふら ふ 

4 但し 「みさ」 と 申す 祈禱を 奉られ 候 はば、 その 功 德廣大 にして、 惡趣を 免れさせ 候べ し。 もし 「み 



書え 覺女糸 



427 



しう さ ふら ぎんいち まいた ま は さ ふら -,ー ざ さ ふら ふ 

さ」 を修 せられ 候 はんに は、 銀 一枚 賜り 候へ とのこと に 御座 候。 

うつし さ ふら ふ ゐ こくごろ ぞん さ ふ b ふ や しき おもて か はきたい はみ ぁづか うら ご もん いなとみい が 

二十、 打 手の かかり 候 は 亥の刻 頃と 存じ 候。 お 屋敷の 表 は 河北 石見预 り、 裘の 御門 は稻富 5:^ 贺 

ぁづか おく を がさ +f もせう さい あ-つか ざ だ を さ ふら ふ てきよ うけた ま は さ ふら, 、 » ふ, う MT^ ゐん T, ほ Tls つ,. § . 、 ノ、 

预り、 奥 は 小 笠 原 少齋預 りと 定まり 居り 候 C 敵 寄す ると 承 り 候へば 秀林院 樣は梅 を 遣 はされ 

よ :., ちらう さま おくぶ ま め そ さ ふら お, バ」 ュらぶ La 々- ^ C I . I 

與ー郞 様の 奥様 を お召し 遊ばされ 候へ ども、 はや いづこへ お落ちな され 候 や あ 部 星 は 龍ぬ けの 

> を さ ふら ふ よろこ ま を あ さ ふら ふ しう りん, ん さま 

からと 相 成り 居り 候よ し、 わたくしども みなみな おん 悅び 申し上げ 候。 なれ ども 秀林 院樣に はお 

きど ま すくな ぎょい さ ふら ふ う やま ざ々 - かっせん たいか ふで X か てスか あらそ 

ん- まゲ少 からす、 わたくしどもに 御意な され 候 は、 生まれて は 山 崎の 合 戰に太 殿下と 天下 を ゆ 

これた ふし to^ うぐん みつひで ちち し さま 

はれし 惟任 將軍 光秀 を 父と たのみ、 死して は 「はらい そ」 にお はします 「まりや」 樣を 母と たのまん 

まつ r) ちじょく ちた さ ふ. -i: ふ きつく わい ひ.^ だいみ やう わすめ お ほ V,-J ら、. -: やつ 

われらに、 末期の 恥辱 を 與へ候 こと、 かへ すがへ す も 奇怪なる 平 大名の 娘と 仰せられ 候。 その 節 

いま め み ここち いた V- ふら ふ 

のおん ありさまの はしたな さ、 今 も 目に 見 ゆる 心地 致し 候。 

ほど を が よらせう さ.,' こんいと ぐ そく 二 なぎなた ひつ さ つぎまで ご かいしゃく まゐ さ ふら?; いま ,y 

二い 一、 程なく 小 笠 i- 少齋、 紺絲の 具足に 小 薙刀 を 提げ、 お 次 迄 御 介錯に 參られ 候。 朱 だ拔け 

ど ^ な. H だ さ ふら ふ ひだり ほほ さき は あが む しゃ いささか み さ ふら ふ せう さい ま を さ ふ 

齒の媒^^甚しく候ょし、 左の頰先腿れ上られ、 武者ぶ りも聊 はかなげ に 見う け 候。 少齋屮 され 候 

乙 ま し キ-ゐ こ さ ふら おそ お ほ ぶ-ふら ふ あ ひだ しゃ- ゐ 一 ご - ごかいし やくつ かまつ お ば,? き 

は、 お E§5 問の 敷居 を 越え 候 はんも 恐れ多く 候 間、 敷居 越しに 御 介錯 仕り、 追 ひ 腹切らん とのこ 

とに 御座 候 C 御 先途 見と どけの 役 は, とわたく しとに 定ま リ 居り 候へば" この頃に はみ なみない 



づ こへ かぎち 失せ、 わたくしども ばかり I り mmskkm^lvM0^ 

f ら&" ip へお き だれ i ば さき i、 MMg や Q かたがた は搬 M に, ど \ 化 

カー.!: ご .WN:- あフご V, 一 ふら ふ こん: ち 小-. T さ. - 、こ >.--、:■ n. ノ 

の顏 を御覽 遊ばされ 候 は 今日 この 少 jff を はじめと め I され 條 t:- し、 あに. g よりう. % ま はり" お、 仏. 電 がハ ま 

はお 次に 兩手 をつ かれ、 御最期の時參り¥ iJS^し2^も慨" おい 鍵 ぎれ られ % り 憶 一ば、 Ki^ 

も 111^ さだか ならす、 ^^li 觀 にも, lili^ ばされ、 iflilrsfe? と なさ^^" 

, * -." ときた. ォカ LW ういち にん もえぎ いと ぐ そく おまさ ち 少 ->- ご. つぎ , 、- 3 、 、 J" 

二十 二、 その 時 誰 やら 若き 衆 一人、 萌葱絲 の 具足に;?; < ^を^ 4-、 お あへ ぅ瓯 けつ:!^ 1 や や、 

觀 il&T,g は爾 よりな だれ だお ふ i》 す なされた くと ¥さ4|" 

さま みぎ て かみ ま 七り -ごノ ごて-' ス- > - J „ J . 

樣は 右の おん 手に ぉ髮を きりきりと 卷き 上げられ、 御覺 悟の §1 に 見上げ 候へ ども、 I おき M のお ビ 

n ら ズ あそ はづか おましめ さ ふら ふ たち ま か i みみ ね まで- C* そ ち- > • - • 

御覽 遊ばされ、 羞 しと 思 召され 候 や、 忽ち おん 顔 を 耳の 根 迄 赤 あかと お染め 驅 ばされ」 ゎヒく 

し, 1 生に この 時 ほど、 秀林院 || の^ IK をお iiD く^じ ゼ^ ひと、 も^え ¥ さ.^ 憶.^ 

二十 三、 わたくしどもの 御門 をお で" きふ 節 はも はやお IJfc に:^ の 1^ あがり、 の" ん にも t^" バ- 

. ^ほ, ネ t ひかり なか あつ を さ ふら ふ もっと てき 二れ. N く くつ じ ^ .?ン -」-.、」- 

大勢 火の 光の 中に 集まり 居り 候。 尤も これ は 敵に. て は 挺 『之、 火事 を 見に ままり たる:^ ぶの よし、 

4 _ ^崎 は y?, きつれ、 架 に!; き あ し、 いづれ も lift りお,! ■ まづょ 9^ 



書え 覺女糸 



429 



ゐス ま よ さ ふら ふし だい 2 さ ち とま ご VMVVJ^ らふ 

院様 お果てな され 候 次第の こと、 あらあら 申し上げ たる 通りに 御座- i。 

(大ー化 十二^ 十二 H) 



430 



秦 



432 



^^^^^^^^ > ;, にぶ 才、 か 力 さいし やう はるな が け らい ちぎ やう-りつ びやく こ くう ままよ やく つと ま, r リ V- ぐ rOS 13/〉 

文政 四 年の, ぼ 走で ある。 加賀の 宰相 治修 の 家來に 知行 六 百 石の 馬 過り 役 を 勤め る: ijj- 一 V? おぎ if 

^ f カネ-ひ ひゃく きぬがさた へ ゥ5 じ なんかす ま い わかもの う なた ±fc も 

と 云 ふ 侍 は 相役 衣笠 太 兵衞の 次男 數 馬と 云 ふ 若者 を 打ち した。 それ も し 合 ひ をした ので はな 

ヽ futl、 I や i - じ ゃ^】;::^);? ti- ま 7 ! * なみ ば ば した うた ひ くわい かへ く さん る! もん やみう う 

い。 或 夜の 戌の 上刻 頃、 數馬は 南の 馬場の 下に、 謠の會 から 歸 つて 來る三 右衛門 を i 打ちに 打ち 

果さ うとし、 反って 三 右衛門に 斬り 伏せられ たので ある。 

し まつ き はるな が さん ゑ もん め ど ほ め め,' め- か^らす ぐ ん 

こ の 始末 を 聞いた 治 修は三 右衛門 を 目通りへ 召す やうに 命じた。 <i じたの は必 しも^^で はな 

だいいち はるな が そうめい しゅ そうめい しゅ ^こ ナ n * *J * ^ 

い。 第一 に 治修は 聰明の 主で ある。 聰明の 主 だけに 何 ごとに よらす、 來 あせと ふこと をし な 

-v>s る は Z たん くだ じっかう めい こ 一一ろ す 、 う 

い みづ から 或^ 斷を 下し、 みづ から その 貧 行 を 命じない うち は 心 を 安んじな いと 云 ふ 風で ある リ 

はるな 力 あるとき ふたり た かじゃう しゃう i^s つ あた if? 二 に^ It £ ゥ >L ?、 - リ : 

治 修は或 時 二人の 鷹^に それぞれみ づ から 賞 细を與 へた。 これは^ 修の を處 する yl?^ の, を 

か」 た 、 たいりゃく しも ぬ がき み 

語って ゐ るから、 大略 を 下に 拔き 書して 見よう、" 

.|^:^,^.^,き.ぃしかは_*)ほりぃちか.はむら あ を だ たんち やう つるむ くだ お とりみ やく お た S ベ や つ- もうしん 

「或 時 石 川 市 川 村の 青田へ 丹 頂の 鶴 群れ 下れる よし、 御 c::? 見 役より 御 B 部屋へ 御 注淮ー こ. なり、 



IP のに 1 衞右主 



«3 



わかどしより ちょくせつ I.) んじ やう およ うへ さま _* 一 まんえつ おましめ よくて うう こくお A- も; V ろ 」c ひャ -ち 

若年 寄より 直接 言上に 及びければ、 上様に は 御 滿悅に 田 4 召され、 亜 朝 卯の 刻 御供 揃 ひ 相 it み、 が 

か は むら 、 な たか こ i 1*1 はいり やう ふ じづ かさ だいいち もつ はじ お ほたかに き よ やぶ さ C き ヒづさ 

川 村へ 御成り あり。 廳には 公儀より 御拜領 の富士 司の 大 逸物 を 始め、 大鷹ニ 基、,. 鹩 二: S を搫 へさ 

■ 11^ ま , "ふ じづ かさ おた,:" じ やう あ ひもとき ざ ゑ もん い その ひ うへ さま じ! ん ふ じづ. f さ あよ 

せ 給 ふ。 富士 司の 御廳 は 相 本 喜左衞 門と 云 ふ ものな りしが、 其 日 は 上様 御自身に 富士 IJE- を Am さ 

たま あま あが あぜみち おも おん あ、 くる お たか く-つちう 

ん とし 給 ふに、 雨上りの 畦 道の ことなれば、 思 はす 御 足 もとの 狂 ひしと たん、 御應は それて {<H 巾 

と あが たんち やう にば と さ V.- ま み きざ 5 もん 、ちじ 、 . ^り わ わす 、 

に 飛び 揚り、 丹預も 俄かに 飛び去りぬ。 この 樣を 見た る 喜 左 衛門は 一時の に 我 を 忘れ、 この 野 

ix、 ^ S つのし » たち ま IX ぜん こころ れいかんせ うる ほ とも そん々 -ょ 

郞 佝を しゃがつ たと 篤り ける が, 忽ち 御前な りしに 心 づき、 冷汗 背 を沾 すと 共に、 ^跟 してお 

て, .f ほ-を > うへ さま お ほ わら よ あやまり や-よい ,-., ほき ざ 

手打ち を 待ち 居りし に、 上様に は 大きに 笑 はせられ、 予 の誤ぢ や、 ゆるせと 御意 あり。 猶 害左衞 

もん ちう ちょく かん たま ご きじ やう の, ち しんち ひやつ こく おめ だ うへ く, ぺ,ょ づ お >v しく. H ^>^^ 

門の 忠 直なる に 感じ 給 ひ、 御歸 城の 後 は 新地 百 石に 御召し 出しの 上、 紅^れ に 存#1 加へ に 相 成り、 

お たかべ や ごようが かり なされ たま 

御 磨 部屋 御用 掛に被 成 給 ひしと ぞ。 

そのご ふ じづ. f さ お たか やな t- せいはち かか いちじ や と r- & る ひ 5 ゝ, t. ま .Tr 

「せハ 後富士 司の 御 麼? は 柳瀨淸 八の 掛り となりし に、 一 時 病み iiT となりし こと あり。 .itf 日ヒ様 ル 

め ふ じづ かさ やま ひ お ほせられ とき すで くわい ゆ つち ザん ぢ ただ-ま ひと レ, 

を 召され 富士 司の 病 はと 被 仰し 時、 旣に 快癒の 後な りし かば、 すきと 全^、 唯ゲ では 人 を も 巴 

ク ま を あ ところ せいはち 9 こう にく たま それ -^.^-^vi? ひと と 

り 敷ね ませぬ と 申し上げし 所, 淸 八の 利口 を や 憎ませ 給 ひけん、 夫 は 一段、 さらば 人 を 把ら せて 

み, - ^n^,^ . せいはち r らい え おの むすこ せいた -, ^ う てんがく 么 こ の 

見よ と祸 ip〕 あり。 淸八 は爾來 やむ を 得す、 己が,: no 子 淸太郞 の 天 都に たたき 餅 小 ごめ t; など を せ 



お あさゆ ふ ふ じづ.^?-さ あは たか し だい ひと てんがく ま さが - 一と お/、 せいはち と あへ 

置き、 朝夕 富 士司を 合せければ、 麿 も 次第に 人の 天 額へ 舞 ひ 下る 事を覺 えこみ ぬ。 淸八は 取り 敢 

おた かじゃう こがしら ひと と ごん じ やう おもしろ みやう にち みなみ ば ば おもむ ちゃ,? つ 

す 御 fi 匠 小頭より、 人 を 把る よしを 言上し ける に、 そ は 面白 からん、 明日 南の 馬場へ 赴き、 茶坊 

す お ほビぢ ゆうげん と み お さ た たつ こく-ごろ ,^ しゅつ ビよ お ほ .t. ちゅうげん なか た 

主大場 重玄を 把ら せて 見よ と 御沙汰 あり。 辰の刻 頃より 馬場へ 出御、 大 場重玄 をまん 巾に 立た せ、 

せいはち たか :. ざよ い せいはち こ こ ふ じづ かさ t ,な だか たち ま ま いちもんじ ぢ ゆうげん てぐ がく 

淸八、 鷹 をと 御意 ありし かば、 淸八は 此處ぞ と 富 士司を 放つ に 、磨 は 忽ち y; 一文字に 掌: 玄の 1K 額 

つか せいはち え いさ まるち まる とり 今 も いふ さすが せきしゅ ひ, ぬ 

を かい 摘みぬ。 淸八は 得たり と み をな しつつ、 圜 揚げ (圜 トハ鳥 ノ肝ヲ 云) の 小刀 を^ 乎に 引拔 

ぢ ゆうげん さ と うへ さま やな ひ- なに ぎょい せいよち ぎよ.,, 

き、 重玄を 刺さん と 飛び かかりし に、 上様に は 柳 瀬、 何をすると御^;;:^めり。 淸八 はこの 御意 を も 

おそ お だか え も Q し だい まる ち なほ ぢめ うげん さ と- -ろ 

恐れす、 御鷹の 瘦物 はか かり 次第、 圜を 揚げねば なり ませぬ と、 猶も 重玄を 刺さん とせし 所へ、 

うへ さま たち ま しんど たま つつ も ぎょい いな ひ ごろ 一,】 たんれん おて づっ そくざ i- , よち 

上様に は 忽ち 震 怒し 給 ひ、, 筒 を 持てと 御意 ある や 否や、 日頃 御 鍛鍊の 御手 銃に て、 ^座に 淸八を 

い ころ たま 

射殺し 給 ふ。」 

だいに はるな が さん ゑ もん とく め かって らんしん もの と おさ ざい さん 

第一 一に 治 修は三 右衛門へ、 ふだんから 特に 目 を かけて ゐる。 嘗 亂心者 を 取り 抑 へた 際に、. 三 

_Qi もん ほか ひとり ざ むら ひ ふたり ひた ひ きす う ひとり み けん さん ゑ も ひだり よ-一 

右衞 門外 一人の 侍 は 二人とも 額に 傷 を 受けた。 しかも 一人 は 眉間の あたり を、 三 右衛門 は 左の 横 

びん むらさきいろ は あが はるな が ふたり め しぐ,:; う た ようび あ., 5- 

髮を 紫色に 腫れ 上らせた ので ある。 治修 はこの 二人 を 召し、 神妙の 至りと 云ふ褒 を へた。 そ 

4 

っノ いた たづ ひとり ありがた し あは V, ふ. H fp た こヒ 

4 れ から 「ど うぢ や、 痛む か?」 と 尋ねた。 すると 一 人 は 「難 有い 让 合せ、 幸 i ひ 傷 は^み ませぬ」 と 答 



罪の 門衞 右: 



435 



v.- ん る; もん にが ケす いた い まん J 

へた。 が、 三 右衛門 は 苦に がし さう に、 「かほ どの 傷 も 痛まなければ、 きて ゐ ると は 巾され ませ 

こた じ らいはる なが さん ゑ もん しゃ うぢき も G おも をと こ と かく. A うすん い たつ 

ぬ」 と 答へ た。 爾來 治修は ニー 右衛門 を 正直者 だと 思って ゐる。 あの sf- は に 角 巧言 は 云 はぬ 、紐 も 

しい やつ だと 思って ゐる。 

い はるな が こんど じ しん い さん ゑ もん し さい ぉづ み ほか ^かみち 

かう 云 ふ 治修は 今度の こと も、 自身 かう 云 ふ 三 右衛門に 仔細 を 尋ねて 見る より 外に 近途 はない 

と 信じて ゐ た。 

お ほ かう む さん ゑ もん おそ おそ ご ぜん し こう わる け しき み いろ 

仰せ を 蒙った 三 右衛門 は 恐る恐る 御前へ 伺候した。 しかし 惡 びれ た (浙色 など は 見えない。 色の 

4 めさぐ ろ きんにく ひ しま た せう んぺき かほ けっしん かげ -^0 はるな が 

淺黑 い、 筋肉の 引き 緊 つた、 多少 痳 癖のある らしい 額に は 決心の 影 さへ 仄めいて ゐる。 治修 はま 

づ かう 尋ねた。 

さん P もん かすま やみう なに たい いし; S ふく 

n 二 右衛門、 數馬は そちに 闇打ち をし かけた さ うぢ やな。 すると 何 かそち に對 し、 意趣 を 含んで 

を み に * しゅふく 

居った ものと 見える C 何に 意趣 を 含んだ のぢ や?」 

「何に 意趣 を 含みました か、 しかと した こと はわ かりませ ぬ。」 

はるな ベ; かんが のち ねん お たづ なほ 

治修 はちよ いと 考 へた 後、 念 を 押す やうに 尋ね 直した。 

なに お ぼ 

「问も そちに は覺ぇ はない か?」 



まな あるひ い うら おも 

「覺 えと 申す ほどの こと は ございませぬ。 しかし 或は ああ 云 ふこと を怨 まれた かと 思 ふこと は ご 

ざ い まする。」 

「何ぢ や、 それ は?」 

. ^つ 力 ま 一 ご し なん. T ん やまもと こ ざ ゑ もん どの だ うぢ やう な ふく わい し あ ひ 

「四日 ほど, おの ことで ございま する。 御 指南 山 本 小 左衞門 殿の 道場に 納會の 試合が ございまし 

せつ こ ざ ゑ もん ど Q か は ぎ やう じ やく つと もっと もくろ,、、 " しょうふ 

た。 その 節 わたくし は 小 左衞門 殿の 代りに 行司の 役 を 勤めました。 尤も 目錄 以下の ものの 勝负だ 

みとと かすま し あ ひ いた とき き やう じ 

け を E, 屈け たので ございま する。 數 馬の 試合 を 致した 時に も、 行司 はや はり わたくしで ございま 

した。」 

かすま あ ひて たれ 

r 數 馬の 相手に は 誰が なった な?」 

お そばやく ひらた き だいふ ど Q そうり やう だ もし ま を 

「御 側役 平 田 喜 太夫 殿 の 總領、 多 門と 申す も ので ござい ました。」 

し あ ひ かすま ま 

「その 試合に 數馬は 負けた のぢ やな?」 

「 フ 、 、 , . ^たもん こて いつぼん めんに ほん かすま いつぼん 

1 さやう で、 こざい まする。 多 門 は 小手 を 一 本に 面 を 一 一本と りました。 數 Hit は 1 本 もとらす にし ま 

. さんぼんしょう ぶ うへ み ぐる ま いた 4. ン V パ 

ひました。 つまり 三本 勝負の 上に は 見苦しい 負け かた を 致した ので ございま する。 それ ゆ ゑ 或は 

ぎ やう じ 、 しゅ ふく 

行司の わたくしに 意趣 を 含んだ かも わかり ませぬ。」 



罪の 門衞— 右三 



437 



,すま ざ やつ じ え こ おも 

「す る と數馬 は そちの 行司に 依估が あると 思うた のぢ やな?」 

「さやう でございまする。 わたくし は 依估 は 致し ませぬ。 依估 を 致す 訣も ございませぬ。 しかし 

かすま えこ うた ゲ おも 

數馬は 依; の ある やうに 疑つ たかとも 忍 ひ まする。」 

ひ ごろ なに かすま あ ひて こうろん いた お ぼ 

「日頃 はどう ぢゃ? そち は i!: か數 lit を 相 vr- に 口論で も 致した 覺ぇ はない か?」 

こうろん いた ただ 

「口論な ど を 致した こと は ございませぬ。 唯、 」 

さん ゑ もん い よど もっとい い け しき み 

三 右衞門 はちよ つと 云 ひ 殿んだ。 尤も 云 はう か 云 ふまい かと ためらって ゐ る;. 湫 色と は兑 えない。 

いちおうい じゅんじょ なに かんが おも も はるな が がんしょく や はら しづ さん 

1 塵 云 ふことの 順序 か 何か考 へて ゐる らしい 面持ちで ある。 治 修は額 色 を 和げ たま ま、 IS かに 三 

,么 t t な だ ま さん み? もん ま はな だ 

右衞 門の is し 出す の を 待った。 三 右衛門 は 問 もな く 話し 出した。 

ただ >, し あ ひ ビん じつ かすま とつぜん せんこく ぶ 

「唯 かう 云 ふこと がご ざいました。 試合の 前日で ございま する。 數馬は 突然 わたくしに 先刻の 無 

れい わ せんこく ぶ れい ま を いったいなん 

禮を 詫びました。 しかし 先刻の 無禮と 申す の はー體 何の ことなの か とんと わからぬ ので ござい 

またな に たづ み かすま にが わら いた ほか へんじ • い た 

まする。 又 何かと 尋ねて 见て も、 數馬は 苦笑 ひ を 致す より 外に 返事 を 致さぬ ので ございま する. レ 

え ぶ れい お ぼ わ ノ お ぼ さら 

わたくし はやむ を 得 ませぬ ゆ ゑ、 無禮 をされ た覺ぇ もなければ 詫びられる 覺ぇ もな ほ w< ない と、 

. ^お ま こた かすま とくしん おも ひち が し こころ 

かう 數 E ソに 答へ ました。 すると 數馬も 得心した やうに、 では 思 違 ひだった かも:^ れぬ、 どうか 心 



^33 



> / s^. , こんど ナ なほ ま を そのと き にが わら .H くそ ゑ 

にか けられぬ 樣 にと 今度 は 素直に 申しました。 其 時 はもう 苦笑 ひより は, 北 SK 笑んで ゐ たこと も 

お ぼ を 

覺 えて 居ります る。」 

なに また かすま おも ちが 

「何 を 又 數馬は 思 ひ 違へ たの ぢ や?」 

「それ はわた くしに も わかり 兼ねます る。 が、 いづれ 取る にも 足らぬ 些紘 のこと だった で ござい 

ほか なに 

ませう。 —— その外 は 何も ございませぬ。」 

そ こ またみ じか ちん も,.、 

其 處に又 短い 沈默 があった。 

かすま きしつ うたが ぶか おも 

「では ど うぢ やな、 數 馬の 氣質 は? 疑 ひ 深いと でも 思った こと はない か?」 . 

,つた 力 ぶかき しつ おも ま を わかもの たんに * ろ あら i 

「疑 ひ 深い 氣質と は ひませ ぬ。 どちら かと 申せば 若者ら しい、 何 ごと も 色に 露 はすの を W ぢぬ、 

かけ た せう げき やす き しつ おも 

—— その代りに 多少 激し 易い 氣 質だった かと 思 ひます る。」 

さ A ゑ もん ことば き V- ら こと, 二 い と いき くよ 

三 右衛門 はちよ つと 言葉 を 切り、 更に 言葉 をと 云 ふより は、 吐总 をす る やうに つけ 她 へた。 

うへ たもん しあ ひだい じ し あ ひ 

「その上 あの 多 門との 試合 は 大事の 試合で ございました。」 

だいじ し あ ひ い わけ 

「大事の 試合と はどう 云 ふ訣ぢ や?」 

かすま き がみ し あ ひ か を もくろ,、 ざづか ±.r 

r 數馬は 切り紙で ござり まする。 しかし あの 試合に 勝って 居りましたら、 目錄 を^った iT;a で ござ 



もっと た もん おな は め を かすま た もん どうもん 

9 ハ まする。 尤も これ は 多 門に もせよ、 同じ 羽 目 になって 居りました。 數 馬と 多 門と は 同門のう ち 

3 

4 ち 5^ うどうで まへ はくちう あ ひで し 

で も、 丁度 腕前 の 伯仲し た 相弟子だった ので ございま する c」 

.1 んる なぐ しばらく だま なに かんが きふ き か , こ ,ズ2 - さん- , 

i5 修は 少時 默 つたなり、 何か考 へて ゐる らしかった。 が、 急に 氣を變 へ た やうに 今度 は 三 右ル你 

もん かすま ころ たう や とひ うつ 

門の 數馬を 殺した 當夜 のこと へ 問 を 移した。 

かすま たし ば ば した ま 

「數 Hit は 確かに 馬場の 下に そち を 待つ てゐ たの ぢ やな?」 

「多 八 刀" はさ やう かと 思 ひます る。 その 夜 は 急に 雪に なりました ゆ ゑ、 わたくし は伞を かざしな が 

.p f *H した と 一よ ちゃ. どまた とも ぶま 11- まみ 

ら、 御 の 下 を 通りかかりました。 丁度 又 伴 もつれす、 雨着 もっけす に參 つたので ございます 

A ざお と たか はや ひだり はャ; ゝ、、 、まゐ とっさ はん びら 

る。 すると 風 音の 高まる が 早い か、 左から 雪が しまいて 參 りました。 わたくし は 叩 "吸に キ きの 

かさ なな ひだり ま は かすま と たん ず て キト お 

傘 を 斜めに 左へ 廻し ました。 數馬は その 途端に 斬り こみました ゆ ゑ、 わたくしへ は 傷 も: P: はせ 

す に 傘ば かり 斬つ た の で ご ざいます る 。」 

一二 こ ゑ まゐ 

^ 「聲も かけすに 斬って 參っ たか?」 

門 「かけなかった やうに 思 ひまする。」 

V とき あ ひて なん おも 

r 「その 時には 相手 を 何と 思った?」 



440 



なん も よ ゆう かさ キ- どうじ おも みぎ と 

「佝と 田 ふ 餘裕も ござり ませぬ。 わたくし は 傘 を 斬られる と 同時に、 思 はす 右へ 飛びす さり まし 

あしだ とき ぬ を にたち まゐ C 

た。 足駄 ももう その 時には 脫 いで 居った やうで ございま する。 と、 二の 太刀が 參 りました。 二の 

た 、ち は おり そで ご すん き V,- またと ぬ 

太刀 はわた くしの 羽織の 袖 を五寸 ばかり 斬り 裂きました。 わたくし は 又. 飛びす さりながら、 拔き 

つ あ ひて- はら かすま ひ ばら き せつな おも あ;.,, ご なに 

打ちに 相 ザを拂 ひました。 數 馬の 脾腹を 斬られた の はこの 刹那だった と 忍 ひます る。 相^ は 何 か 

ま を 

申しました。 」 

「, & かと は?」 

なん ま を ただな に ュげ なか ころ 5 だ 

「何と 申し たかは わかり ませぬ。 唯 何 か 烈しい 中に 聲を 出した ので ございま する。 わたくし は そ 

とき かすま おも 

の 時にはつ きりと 數馬 だな と 思 ひました。」 

なに ま を こる、 i き お ぼ ま を 

1 それ は 何 か 申した 聲に 間き 覺ぇ があった と 申す のぢ やな?」 

「いえ、 左樣 では ございませぬ。」 

,^ す ま さ と 

「ではな ぜ數 馬と 悟った のぢ や?」 

はるな が さん ゑ もん なが さん ,05 もん なん 二た はるな が いちど うなが 

治 修はぢ つと 三 右衛門 を 眺めた。 三 右衛門 は 何とも 答へ すに ゐ る.〕 治修 はもう 一度 促す やうに、 

おな ことば ,、 かへ こんど さん ゑ もん は.;.' ま め おと よう、 くち >ら 

同じ 言葉 を 繰り返した。 が、 今度 も 三 右衛門 は 挎 へ 目 を 落した きり、 容易に 口 を 11 かう ともしな 



「三 右衛門、 なぜ ぢ や?」 

はるな が べつじん ゐ げん たいど か は たいど きふ へん はるな が くわん 

治修 はいつ か 別人の やうに、 威厳の ある 態度に 變 つて ゐた。 この 態度 を急變 する の は 治 修の惯 

ょラ しゅだん ひと さん ゑ もん め ふ つ"、 くち r ら 

用 手段の 一 つで ある。 三右衞 門 はや はり 目を伏せた まま、 やっと!; A んでゐ た 口 を 11 いた。 しかし 

くち も ことば たい こたへ いぐ わい はな は せう ぜん つみ しゃ ことば 

その 口 を: S れた 言葉 は 「なぜ」 に對 する 答で はない。 意外に も 甚だ: g 然とした、 1^ を 謝する 言葉で 

ある。 

お やく た さむら ひ ひとり かたな さび いお さん ゑ もん つみ 

「あたら 御 役に立つ 侍 を 一 人、 刀の 錡に 致した の は 三右衞 IZ の でございまする。」 

はるな が まゆ め あ ひか はらす おご そ さん -0 一 もん かほ そそ ズ に- < もん 

治修 はちよ つと 周 を ひそめた。 が、 目は不 相變嚴 かに 三右銜 門 の顏に 注がれて ゐる。 三右衞 門 

は }s{ に 言葉 を 緒け た。 

かすま ノ しゅ ふく もっと しだい さやう じ つ 上 とき え 1 一 ふる 

r 數 馬の 意趣 を 含んだ の は 尤もの 次第で ございま する。 わたくし は 行司 を 勤めた 時に、 依估の 振 

ま いた 

舞 ひ を 致しました。」 

はるな が いよいよ まゆ 

治修は 愈 を ひそめた。 

さいぜん え こ いた いた わけ ま を 

「そち は 最前 は 依估 は 致さぬ、 致す 訣 もない と 申した や うぢ やが、 …… 」 



442 



「その こと は 今 も變り ませぬ。」 

ソ,, f :• ゑ ..Ji^", 、ひ, と-,」 と、 か Z が、 じゅつく わい t な つづ 

三 右 禱門は 一 言 づっ考 へながら、 述懐す る やうに, し 綾け た C 

- にこま を > 

「わ た くしの 依 5:: と 申す の はさう 云 ふ こ と では ございませぬ。 こと さ らに $A 馬 をが かし た いと か、 

多 門 を 勝た せたいと かと 田,^ はなかった こと は 申し上げた 通-りで ございま する。 しかし" おも そ ,0 ば 

かりで は、 依估がなかった とは旷 され ませぬ。 わたくし は Ti^l: ん よりも »15 に み を li:- て §5 

りました。 多 門の 藝は こせついて 居ります る。 :^!: に, な こと をしても、 +i ぎち さへ 歡 せば ド 

、 しょうぶ こころ じ や だう げ > .-ュ^まデ.' , - 

と 1^ 負ば かり を 心がける 邪道の 藝 でございまする。 數 馬の 麵は その やうに 私しい もので は ご 

やヽ J i 、, ま てき むか せ "だう デ 1 : S i - » 

さレ ませぬ。 どこまでも 眞 ともに 敵を迎 へる 正道の 载 でございまする。 わたくし はもう 一-一一 TJ お^ 

1 、 » た, もん うてい かすま じ やうた つ およ おも を 

せば 多 門 は 底數 馬の 上達に 及ぶまい とさへ E 心って 居りました。 」 

かす f.i ま 

一 その 數馬を なぜ 負かした のぢ や?」 

「さあ 其處 でございまする。 わたくし は 確かに 多 門よりも 歡 E? きたした いと I ざて ^5 り まし 

た。 しかし わたくし は 行司で ございま する。 行司 はたと ひ なる 時に も、 私曲 を辦 だね、 またり 

J i o ひ-と > 1 - - ふ.^ 一り. しな ひ あ ひだ あ ふぎ も た うへ てん ir- う したに, - 

ませぬ 1 んぴ 二人の 竹刀の 間へ、 扇 を 持って 立った 上 は、 天道に 從 はねば なり ませぬ。 わたく 



罪の 門衞 右三 



443 



おも た もん かすま fc あ とき こうへい こころ 

し はかう 思 ひました ゆ ゑ、 多 門と 數馬 との 立ち合 ふ 時に も 公平ば かり を 心がけました。 けれども 

^^wc "'まま を あ と ま かすま か .*\も フぃ 

唯ゲ 申し上げた: a り、 わたくし は數 馬に 勝た せたいと 思って 居る ので ございま する。 云 はば わた 

くしの い 仏ん. 秤 はず 馬に 便いて るので ございま する。 わたくし はこの 心の を 平らに 致したい 一 

しん し ぜん た もん さら うへ おもり く は C ち』 . ^ん が、 ノ. * ベ は 、す J-, : 

心から、 自然と 多 門の 皿の 上へ 錘 を 加へ る ことにな りました。 しかも 後に-) 力 へれば 加へ 過ぎた 

た もん くわん しつ か は かすま げん す 

ので ございま する。 多 門に は寬に 失した 代りに、 數 馬に は嚴に 過ぎた ので ごさい まする。」 

さん ゑ もん また ことば き はるな 力 もく, :x ん みみ カた^- . 

三 右衛門 は 又 言葉 を 切った。 が、 治 修は默 然と 耳 を 傾けて ゐる ばかりだった 

ふたり に, ん かま さいしょ を 5 ち た もん ナき み 

「二人 は 服に 構へ たま ま、 どちらから も 最初に しかけす に 居りました。 その tM: に 多 門 は 隙を兑 

• つん ヒ 、た かすま き あ ぶ ざ や 々一 

たの か、 軌! の 面 を 取らう と 致しました。 しかし 數馬は 氣合ひ を かけながら、 鮮 かに それ を 5; り 

y ( どうじ またた も/) こ て う え こ いた ^ r 、 

返しました。 同時に 又 多 門の 小手 を 打ちました。 わたくしの 依估の 致し はじめは この 刹那で ござ 

たし ひつ チ? かすま かち おも かち おも いな 

いまする。 わたくし は 確かに その 一本 は數馬 の 勝 だと 思 ひました。 が、 勝 だと 5- ふや 否や、 いや 

な ひ ぁヒ よわ し おも にどめ かんが けつだん に ふ 

竹刀の 當 りかた は 弱かった かも 知れぬ と 思 ひました。 この 一 一度 目の 考へ はわた くしの 決 を 鈍ら 

かすま うへ たう ゾ-ス あ .M す あ ふぎ あ --. 

せました。 わたくし はとうとう 數 馬の 上へ、 當然 擧げる ilia の!: i を舉 げすに しまったので、 こさい ま 

ふたり またし ばらく あ ひだ せいがん にに よ つづ を , ;- こ, んゾ 1 - 、 ふ. ^ま,'、 fc' ^ ) -^N 

する。 二人 は 又 少時の 問、 正服の 睨み合 ひを續 けて 居りました すると 今度 は數 Hil 力ら 多 r の.^ 



444 



手へ しかけました。 多鬥は その 竹刀 を拂 ひざ まに、 數 馬の.^ 手へ は ひりました。 この %| ^の.: k つ 

こゝ て, かすま と くら よわ ,■ : 

た, =:> 手は數 ml の 取った のに 比べます と、 弱かった やうで ございま する。 巧く とも 射 の;^ つたよ 

り も 見事だった と は 中され ませぬ。 しかし わたくし は その 端に^ if へまべ む おげ てし まひました。 

ざいしょ いつばん かち た もん ; 

つまり 最初の 一 本の 勝 は 多 門の ものに なった ので ございま する。 わたくし はし まった とま ひまし 

た。 が、 さう ぞの 蒸に は、 いや、 行司 は 誤って は 居らぬ、 1 ゲて 115 ると. § ふの はま ぼに- 

た め ささや 

の ある 爲だ ぞと攝 くもの が あるので ございま する。 一 

「それから 如何 した?」 

^る^,づん , 、 > > ; ,、 あ ひか はらす くち つぐ さん 45 もん よ なし V; き; 

修は やや 苦に がしげ に、 不相變 ちょっと 口 を 際んだ 三右衞 門の を 腿^した。 

「二人 はまた もとの やうに、 竹刀の 先 をす り 合せました。 一 乎 い ¥1 のかけ 1:: ひ はこの f だつ 

. _ ゝ ::14 , 一 - ' , かすま あ ひて しな ひ しな ひ ふ おも まや J き 

た 力と 覺 えて 居ります る。 しかし 數馬は 相手の 竹刀へ 竹刀 を觸れ たと 思 ふが 5i- いか、 いきなり.^ 力 

を 人れ ました。 突 はした たかに は ひりました。. が、 il に t 夕!?" の m ず も 鍵!: t の^を I; つたので ご 

ざいます る。 わたくし は 相打ち を傳 へる 爲に、 まつ 直に 扇 を 擧げて 居りました。 しかし そのお も 

相打ちではなかった のか も わかり ませぬ。 或は 先 後 を 定める のに 迷って 居った のか も わかり ませ 



罪の 門衞 右二 445 



つき めんしな ひ う V- き と 

ぬ。 いや、 突の は ひった の は 面に 竹刀 を 受ける よりも 先だった かも わかり ませぬ。 けれども 见に 

かく あ ひう ふたり よどめ にら あ こんど .f? 尸 ま 

角 相打ち をした 一 一人 は M 度 目の 睨み合 ひ へ は ひりました。 すると 今度 もし かけた の は 数 馬からで 

力す ま いちど つき い とき かタま し- M ひ こころ さき もが を 

ございました。 數馬 はもう 一度 突 を 人れ ました。 が、 この 時の 鼽 Bil の 竹刀 は 心 もち 先が 上って 居 

た もん しな ひ した どう う いた かれこれ じふ!. i ふ た: A ひ 

りました。 多 門 は その 竹刀の 下 を 胴へ 打ち こまう と 致しました。 それから 彼是 卜 合ば かり は;々; に 

しのぎ けづ V- いご いみ た もん かすま めぐ う 

鍵 を- 1 りました。 しかし:: 取 後に 入り 身に なった 多 門は數 馬の 面へ 打ち こみました。 」 

めん 

「その 面 は?」 

1 ん みに ご 一と ノ , たれ め うたが た もん かち "バ 

「その 面は兑 事に とられました。 これ だけ は 誰の □! にも 疑 ひの ない 多 門の 勝で ございま する。 数 

ま めん と のち み 

馬 はこの 面 を 取られた 後、 だんだん あせり はじめました。 わたくし は あせる のを见 るに つけても、 

ぶんど - ザ ひ かすま あ ふぎ あ おも おもお もじつ も ふ: ざ ち 

今度 こそ は 是非とも 數 馬へ 扇 を擧 げたいと 思 ひました。 しかし さう 思へば m 心 ふ ほど、 W は- i を^ 

, こ . ふたり こんど しばらく 〇 ち しち はちが ふ う に 

ける こと をた めら ふやう になる ので ございま する。 二人 は 今度 も少 寺の 後、 七 八 合ば かり 打ち > 

, 5 ち かすま おも たもん たい あた こころ お も チ V 

ひました その tM: に數馬 はどう 思った か、 多 門へ 體當り を 試みました。 どう m わった かと 屮 します 

ひ ごろ かすま たい あた けつ いた おも 

の は 日頃 數 £1 は體當 りな ど は 決して 致さぬ ゆ ゑで ございま する。 わたくし ははつ-と 出 心 ひまし K J 。 

また おも たう ぜん た t た. - ひら おも メ -, J し- > ち: ) . 

又はつ と 田. - つたの も當然 のこと で ございました。 多 門 は體を 開いた と 出み ふと、 兑;! ^にもう J .i え..^ 



と _ ざい ご しょうぶ あっけ ん 

を 取りました。 この 最後の 勝負 ほど、 呆氣 なかった もの は ございませぬ。 わたくし はとうとう 三 

ど た もん あ ふぎ あ え 二 ま を , 

度と も 多 門へ 扇 を舉げ てし まひました。 , I - わたくしの 依估と 申す の はかう 云 ふこと で ございま 

こころ はかり み い いちがう く は つりあ 二る 

する。 これ は 心の 秤から 見れば、 云 はば 一毫 を 加へ た ほどの ne 合 ひの 狂 ひか も わかり ませぬ。 け 

ン t5 ま え ベ ため だいじ し あ ひ し そん かすま うら -ま 

れ ども 數馬 はこの 依估の 爲に 大事の 試合 を 仕損じました。 わたくし は數 馬の 怨ん だの も、 ゲはど 

. ふしぎ なり き おも を 

うやら 不思議の ない 成 行だった やうに E 心って 居ります る。」 

き はら とき かすま ま を ざと 

「ぢ やが そちの 斬り 拂 つ た 時に 數 馬と 中す こと を 悟った の は?」 

「それ ははつ きりと はわ かりませ ぬ。 しかしが マ考 へます ると、 わたくし は 何處か 心の底に ぎ 馬に 

^ ま を 今-、 を おも , たち ま らう ぜ. も 'すま ざと 

濟ま ぬと 申す ilpTt もち を 持って 居つ たかとも 思 ひます る。 それ ゆ ゑ 忽ち 狼藉き を數馬 と 吾った かと 

も ひます る。」 

かナま さいご き ど 二 おも ゐ 

「すると そち は數 馬の 最後 を氣の 毒に 思うて 居る のぢ やな?」 

1 --- - 2 か" またせん 二く ま を とほ ひと ご よう つと さむ.,: ひ い つち お. こ 

一 さやう でございまする。 且は又 先刻 も 申した 通り、 一 かどの 御用 も 勤まる 侍に む ざと 命 を:.^ さ 

- なに かみ たい たてまつ ま を わけ おも を 

せた の は、 何よりも 上へ 對し 奉り、 申し 訣 のない ことと 思って 居ります る。」 

^ か. た を;^ さん も! f もん いま ら かしら た ひた ひ し .H す さつ い あ 亡 

4 語り 終った 三 右衛門 は 今更の やうに 頭 を 垂れた。 額に は 師走の 塞 さと 云 ふのに 汗 さ へ かすかに 



罪の 門衞 右: H 



447 



ひか き げん なほ はるな が お ほやう なんど うな-つ み 

光って ゐる。 い つか 機嫌 を 直した 治修は 大様に 何度も 領ぃ て 見せた。 

よ よ しんてい わる し 

「好い。 好い。 そちの 心底 はわ かって ゐる。 そちの した こと は惡 いこと かも 知れぬ。 しかし それ 

も 誇ない こと ぢゃ。 唯 この 後 は —— 」 

はるな が ことば を は さん ゑ もん か.?" なが 

治 修は言 紫 を 終らす に、 ちらりと 三右衞 門の 顏を 眺めた。 

ひとた ち う とき かすま ま を し う はた ひか 

「そち は 一太 刀 打った 時に、 數 馬と 中す こと を 知った のぢ やな。 では なぜ 打ち 菜す のを控 へな か 

つたの ぢ や?」 

さん ゑ もん はる が と かう ぜん あさぐろ かほお 二 め また まへ ふ てき 

三 右衛門 は治修 にかう 問 はれる と、 昂然と 淺黑ぃ 額 を 起した。 その mi には乂 前にあった、 不敵 

な赫 きも i 仞 つて ゐる。 

うはた お さん ゑ もん- * 一け らい い また つ ひ 

「それ は 打ち 果 さすに は 置かれ ませぬ。 三 右衛門 は 御家來 では ございま する。 と は 云へ 又 侍 で 

か 尹 ま き- どく おも らう ビキ- も き ど,、 おも 

も ございま する。 數馬 を氣の 毒に 思 ひましても、 狼藉者 は氣の 毒に は 思 ひませ ぬ。」 

(大正 十二 ハ牛 十二月) 




448 



. か-つし でんきち 4f 丄っ あだ う はなし 

これ は 孝子 傳吉の 父の 仇 を 打った 話で ある。 

でんきち しんしう みのち ご ほり ささや ま むら ひゃくし やう ひとり むすこ てんきち AC ち で ncVj う い *-- は 、ち 

俾吉は 信 州 水內郡 i 世 山村の w 姓の 一 人 I 子で ある。 傳吉の 父は傳 三と 云 ひ 、「酒 を奵み 傅 办人を 

この- ナん V 、わこう ろん この い いっそん ひとびと あっか 

好み、 i は嘩 口論 を 好」 ん だと 云 ふから、 まづ 一村の 人人に はなら す もの 极ひ をされ てゐ たらしい C 

A つう. -ち -H よ でんきち う よくねん び やうし い あるひ またじゃぅ^! で キ- ため し! 5 つ 

(註 一)^ は 傳吉を 産んだ 翌年、 病死して しまったと 云 ふ もの も ある。 或は 又 情夫の 出 來た爲 に 出 

ぼし い ちう に じ じつ はなし はじ ころ 

奔 してし まった と 云 ふ もの も ある。 (註 二) しかし 事實は どちらに しろ、 この 話の 始まる 頃に はゐ 

なくなって ゐ たのに 違 ひない。 

まなし ま じ でんきち じふに てい いっせつ じふ ご さい てんばう しち ねん : る でん 

この の 始まり は 傳吉の やっと 十一 ー歲 になった ( 一 說 によれば 十五 歳) 天 保 七 年の 卷 である。 傅 

きち あるひ るで >ご らう にん はつ 七り へいし らう い いかり か f 」, 

吉は或 日 ふとした ことから、 「越後 浪人 服 部 平 四 郞と云 へ る ものの 怒 を 買 ひ, あは や 斬り も 松 てら 

/に 一 にう たう じ ぶ/ ざ う い かしょ ばら ギブ、 と よ, つじん 一.^ う けんか,、 んリと 

れん」 とした。 平 四 郞は當 時文 藏と云 ふ、 柏 原の 博徒の もとに 用心棒 をして ゐた劍 客で ある C 尤 

4 もこの 「ふとした こと」 に は 一 一つ 三つ 異說 のない 訣で ない。 



ち 打 敵の 吉傳 



451 



た 1 ズ 5:n: ほ 力 たびすす り なか ぶん マ/ r ち へ 、し つ- ま ノ た-一 , 

ま づ田代 玄甫の 書いた 「旅 視」 の 中の 文に よれば、 傳吉は 平 g: 郞の gi ぶしへ 服 を ひっかけ たと.. ム 

ふこと である。 

まよ-; 1 で ゾ.^ -ち は..^ ^v- やま むら じ せう じ じ やう どし ゆう t し でんき も C がたり い もく, Hv? せう さっし hj パ 

なほ 乂傳吉 の 墓の ある^ 山村の 慈 照 寺 (俘 土宗) は 「孝子 傳吉 物語」 と 云 ふ 木^の 小冊子 を頒 つて 

J 1 で乂 つもの が-たり : で乂 きち なに わけ ただ つり ところ ぐう ザん;? 

ゐる。 この 「傳吉 物 詰」 によれば 傳吉は 何もした 訣 ではない。 唯 その 釣 をして ゐる 所へ 偶然 來 かか 

へいし う つりだう ぐ ぅポ 

つた 平 g: 郞に 釣道具 を 奪 はれよう とした だけで ある。 

A」 い-ご : いづみこしょう か 05^ ぎ ヒん でん なか いっぺん へ, し らう でつ きち ひ うま ど 

は 取 後に.. T 泉 孤松の 書いた 「農家 義人 傳」 の 中の ー篇 によれば、 平 S: 郞は 吉の 索いて ゐた 馬に 泥 

田へ 蹴落され たと 『ム ふこと である。 (註 三) . 

レー かくへ いし らう はら だ でんきち き ちが で-ハク-ち 《,し らう ぃ3 

に 角 平 w 郞は 腹立ち まぎれに 傳吉へ 斬り かけた のに 遠 ひない。 傳吉は 平 四 郞に追 はれながら、 

.V つち やま it た に ちち で Z ざう ひ レ-り やま f た く. H で , Z く- - 

父の ゐる山 畠へ 逃げの ぼった。 父の 傳三 はたった 一 人山 畠の 桑の 手入れ をして ゐた。 が、 子供の 

き-. ^ , , い ife あな なか , でんきち か: いも あな い いも かこ いちで ふじ 1 つち」/,' 

危<1^ を 知る と 芋の 穴の 中へ 傳吉 を隱 した。 芋の 穴と 一 ふの は 芋 を圍ふ 一 凝 敷ば かりの 土 { 至 であ 

でん キ. -ち あな なか たはら わら き 

る。 傳吉は その 穴の 中に 依の 藁 を かぶった まま、 ぢ つと 息 を ひそめて ゐた。 

へいし 。うたち ま お い た お ゃぢ おやち こぞう い ヒ づ で C ざ う 

「平 g! 郞 忽ち 追 ひ 至り、 『老爺、 老爺、 小^ は どち へ 行った ぞ』 と 尋ねけ るに、 傳三 もとより したた 

みち はしゅ さ ふら ふ あざむ へいし、 いう かた お ,9 

力 ものな りければ、 『あの 道 を 走り 行き 候』 とぞ欺 きけ る。 平四郞 その 方へ 追 ひ かんとせ しが、 



452 



でズ ざつ した は み とが どぴ やくしゃ-つ だいたん むしく ため 

ふと 傳 三の 舌 を 吐きた る を 見咎め 、「土百姓め が、 大膽に も □□□□□□□□□□ 口 (蟲食 ひの 爲に 

H がた でズ ざう さしび ふ てキ- で/ざう はら す か .X く は はや 

讀み 難し) とて 傳三を 足蹴に かけければ、 不敵の 傳三腹 を据ゑ 兼ね、 あり 合ふ銶 をと るより 早く、 

どび やくしゃう うで み いき 

い ざ さ ら ば 土 百姓 の 腕 を 貝せ んとぞ 息 ま きけ る。 

おと くせもの ケ" やまり ひっし う あ 

「いづれ 劣らぬ 曲者 ゆ ゑ、 しばく (シの 誤 か) は 必死に 打ち合 ひける が、 …… 

へいし .,:'- リ て ,!?, も でス ざう っ> う く は ひ 

「平 g: 郞 さすがに VJ だれな りければ、 ふま まに 傳三を 疲らせつつ、 打ち かくる 鍬 を HF: き はづす 

み ま でノハ ざつ かた ひとた ち しめ 

よと 見る 問に, 傳 三の 肩 さきへ 丁 K 刀 浴びせ;' …… 

「逃げん とする を 逃がし もやら す、 拜み 打ちに 打ち 放し、 …: . 

でん キ-ち キ- いついつ : つ. ぬぐ た さ . 

r 傳吉の ありかに は氣づ かす あり けん、 悠悠と 刀な ど 押し 拭 ひ、 いづこ ともなく 立ち去り けり。」 

にび.; ,ぉリ 

i) 

なつ ひんけつ おこ でんきち あな そと は だ とき ただめ く は ね でん ざう 

腦 貧血 を 起した 傳吉の やっと 穴の 外へ 這 ひ 出した 時には、 もう 唯 芽 を ふいた 桑の 根が たに 傅 三 

し がい でん キ-ち し パ-ノ ひとり 

の 死骸の あるば かりだった。 傳吉は 死骸に とりすが つたなり、 いつまでも 一 人ぢ つと して ゐ たが、 

たみ だ ふしぎ ザん ぜん まつけ うる ほ か. *i あるかん 1- や ひ こ-一ろ こ かん 

淚は 不思議に も 全然 隨毛 を沾 さなかった。 その代りに 或 感情の 火の やうに 心 を 焦がす の を 感じた。 

ちち み ごろ かれ じ しん >•:- 、ハ り り ひ .A へ き し 

それ は 父 を 見殺しに した 彼 自身に 對 する 怒た つた。 理が非でも 仇 を 返さなければ 消える こと を 知 



も 打 敵の 古 傳 



453 



ら ない 怒た つた。 

一, J でん キ-ち いっしゃう ほ とん いかり ため しゅうし い でん 今-ち ちち -? つ, む つち たがく! 

その後の 傳吉の 一 生 は 殆ど この 怒の 爲に 終始した. と 云っても よい。 俾吉は 父 を 葬った 後、 長^ 

を ぢ げ なんどう やう す を ぢ ます や ぜん さ V/ いっせつ ビんべ -ュ 

にゐる 叔父の もとに 下男 同様に 住み こむ ことにな つた。 叔父 は 析屋善 作 ( 一 說 によれば 善 兵衞) と 

い いかく き はた-ご や ちう し でんきち げ なんべ や き ぐ わ あだう くふう 二 

云 ふ、 才覺の 利いた 旅籠 屋 である。 (註 四) 傳吉は 下男 部屋に 起臥しながら 仇 打ちの 工夫 を 凝らし 

あだうち く ふう つ しょせつ ただ しばらく: .vj V- ん ふ 1^ 

つづけた。 この 仇 打の 工夫に 就いても、 諸說の いづれ が 正しい か は 少時 疑問に 附 する i: はない。 

たびす 卞り のうか ぎ じん でん 上う で ズ きち あだ たれ し 

( 一 ) 「旅 说」 T 農家 義人 傳」 等に よれば、 傳吉は 仇の 誰で あるか を 知って ゐ たこと になって ゐる。 

でんきち ものがたり はっとり へいし らう な し まで さんせい さう けみ また3ひ-<^^-ょてぅ 

しかし 「傅 古物 語」 によれば、 服 部 平 叫 郞の名 を 知る 迄に 「三 星: 新 を 11 し」 たらしい。 なほ 义皆^ 蜩 

あん か こ は なか でんきち すうねん へ ことわ 

庵の 書いた 「木の葉」 の 中の r 傳吉が こと」 も 「数年 を經 たり」 と斷 つて ゐる。 

のラか ぎ じん でん ほんてう こまう ちゃう ちょしゃ ふ めい とう でんきち け Z はふ まな ししゃう ひら ゐ V- も/、 

(二) 「農家 義人 傳」 T 本朝 姑 妄聽」 (著者 不明) 等に よれば、 傳士: : の 劍法を 學んだ 師匠 は 平 井 左 門 

い らう にん さ もん ながく ぼ こ ども ど: しょ しふ じ をし こ t 二し しむ さう りう 

と 云 ふ 浪人で ある。 左 門 は 長 i 洗の 子供た ちに 讀書ゃ 習字 を敎 へながら、 請 ふ ものに は 北辰 夢想 流 

けんば ふ をし でんきち も Q がたり たびすす り こ は とう でぐ 今ち ナん よふ じ 

の劍 法も敎 へて ゐ たらしい。 けれども r 傳吉 物語」 「旅 視」 「木の葉」 等に よれば、 傅 士;: は劍法 を自 

とく あるひ た き かた キ」 よ あるひ いは へいし らう な 、- つ! ん れ くま つ 

得した ので ある。 「或は 立ち木 を 響と 呼び、 或は 岩 を 平 四 郞と名 づけ」、 一 心に 練磨 を 枝んだ ので 

ある。 



てんばう じふね, < ごろい ぐ わい はっとり へ い し 、い う レ ._ つ ぜんゆ くら もつ と で ;^. fr 

すると 天 保 十 年頃 意外に も 服 部 平 g; 郞は 突然 往 くへ を晦 ましてし まった。 尤も これ は 傅い :!: につ 

け 狙 はれて ゐる こと を, ガ つたから ではない。 唯 あらゆる ぼ 浪人の やうに 何ぎ かへ 姿を隱 してし ま 

でんきち もちろんら くだん いちじ かみ き うへ まも たま たんそく 

つたので ある。 傳吉は 勿論 落膽 した。 一時 は 「神 ほとけ も 饕の上 を 守らせ 給 ふか」 とさへ 歎,: 2 心した Q 

うへ あだかへ たびで あ たび で げん ざ,. 

この 上 仇 を 返さう とすれば まづ 旅に 出なければ ならない。 しかし 當て もない 旅に 出る の は 現在の 

でん 今-ち ふ か のう でんきち はげ ぜ つばう あま いうた う き だ う 卜 ぎ じんで ス 

傅 吉には 不可能で ある。 傳吉は 烈しい 絶望の 餘り、 だんだん 遊蕩に 染まり 出した。 「農家 義人 傅」 

へんく わ まじ はり ばくと もと けだ か だき しょざい し ほつ なり せつめ 一 また. る ひ 

はこの 變化を 「交 を 博徒に 求む、 蓋し 響の 所在 を 知らん と 欲する 也」 と說 明して ゐる」 これ も 亦 或 

いちかい しゃく し 

は ー解釋 かも 知れない。 

でんきち たち ま ます や お たう まる まつ しょう ばくと まつ ご らう こぶん じ らひほ とん -* じふね ズ 

傳吉は 忽ち 析屋 を逐 はれ、 唐 丸の 松と 稱 された 博徒 松 五郎の 乾兒 になった。 雨來, 殆ど 二十 年ば 

ぶ らい せいく わつ おく ちう ご こ は あ: V た でんきち ます や む, r め い リハノ 

かり は 無賴の 生活 を 送 つ てゐ たらし い 。 (註 五) 「木 の 葉」 は この間に 傳吉の 析屋の 娘 を 誘 5^ したり、 

ながく ぼ. ほん ぢん なにがし ゆすり い つた た しょしょ C み 

長 窪の 本陣 何某へ 强 請に 行ったり した こと を 傅へ てゐ る。 これ も 他の 諸 書に 載せて ない の を 見れ 

けいけい しんぎ けつ で き げん の-つか ぎ じん でん でんきち いっき やう あ,、 サぅ とも し-^^しば.,:ろ-.-キ- 

ぱ、 輕輕に 眞僞を 決する こと は出來 ない。 現に 「農家 義人 傳」 は 「傳 吉、 一 鄕 の惡少 と共に 厘 横 逆 

おこな い まう たんべん た なリ でんきち >\ しう ふく .,4- うし あに しゃ .H つ ふレ やう 

を 行へ りと 云 ふ。 妄誕辨 する に 足らざる 也。 傳吉は 父 響を復 せんとす るの 孝子、 豈、 這^の 無狀 

二 は き じ ひ てい でんきち あ ひだ あだう いち 4 ん わ r 

あらん や」 と 「木の葉」 の 記事 を 否定して ゐる。 けれども 傳吉 はこの 問 も 仇 打ちの 一念 は 忘れた か 



ち 打 敵の 傳 



455 



ひ かくてき て/きち どうじ や-つ も みたか はてう-あん か でス. <ぅ.1- い 

つたので あらう。 比較的 傳吉に 同情 を 持たない 皆 川 蜩庵さ へ かう 書いて ゐる。 r 傳士 n は朋! どもに 

い あだ し みづか あだ な し よ. V- ほ 

も 仇 ある こと を 云 はす、 仇 ある こと を 知りし ものに は 自ら も 仇の 名な ど 知らざる やうに 装 ひしと 

しんし しょさ さいげつ いたつ さ へいし らう ゆ あ ひか はらす たれ みみ 

なり。 深 志 ある ものの 所作なる べし。」 が、 歳月 は 徒らに 去り、 平叫 郞の往 くへ は 不相變 謙の. PT に 

も は ひらなかった。 

あんせいろ くねん あき でんきち へいし らう くら ゐ わら はっけん もっと ごん ど むかし 

すると 安政 六 年の 秋、 傳士 II はふと 平 四 郞の倉 井村に ゐる こと を發 見した。 尤も 今度 は 昔の やう 

りゃうた う た ば さ かみ おと のち くら ゐ むら ぢ ざう だう だう もリ 

に 兩刀を 手 挾んで ゐ たので はない。 いっか 髮を 落した 後、 倉 井村の 地藏 堂の 堂守に なって ゐ たの 

でんきち みやう じょ かん くら ゐ むら い ながく ぼ ご リ た さんそん 

である。 傳吉は 「冥 助の かたじけな さ」 を 感じた。 倉 井村と 云へば 長瘦 から 五 里に 足りない 山村で 

うへ ささや ま むら とな あ こ みち し ひと ち づ さん. i." う で きち 

ある。 その上 整 山村に 鄰り 合って ゐ るから、 小徑も 知らな いのは 一 つもない。 (地 11 參照) 俾吉は 

ずん ざい 〈いし らう じ やうく わん い たしか うへ あんせいろ くねんく ぐ わつな のか すげがさ たびが つば き 

, 現在 平 郞の 淨觀と 云って ゐ るの も 確め た 上、 安政 六 年 九月 七日、 菅笠 を かぶり、 旅 合羽 を 着、 

さう しう む めい なが わきざし ひとり あだう と のぼ もち で/ざう う とし に 

相 州 無銘の 長 脇差 を さし、 たった 一人 仇 打ちの 途に 上った。 父の 傳 三の 打 たれた 年から やっと 二 

じふさん ねんめ ほんく わい と 

十三 年 目に 本懷を 遂げよう とする ので ある。 

でんきち く, T ゐ むら いぬ 二/、 す こ す ころ じゃま ため 

傳吉の 倉 井村へ は ひった の は 戌の 刻 を 少し 過ぎた 頃だった。 これ は 邪魔の は ひらない 爲に わざ 

よる えら でんきち よ さむ ゐ产 A か みち やま ぢ ざう だう い まどし やう じ や ふ 

と 夜 を 選んだ からで ある。 傳吉は 夜寒の 田 舍道を 山の かげに ある 地藏 堂へ 行った。 窓 障子の 破れ 



から 舰 いて 見る と、 措 明りに 照され たまのおに おきい i が 一 とつ i つて ゐた。 しかし ioiifi は ■ 

いて ゐる 角度の 關係 上、 どうしても る こ,. に は,^ なかった。 ^その II きい^^の^ は嫩! -^i 

ばう す あたま V に- J くキ- ナ . 

のない 坊主頭だった。 のみなら す少 1^ 聞き澄まして ゐて も、 この £J しい 151? のポ こガ】 の, コる けよ 

ひ は あえなかった。 傳士"はまづ1&ちのー付へそっと|^|ル-ビまふ|:けに^せた。 それから I まかに^^ 

羽を脫 ぎ、 二つに 疊ん だの を 笠の 中に,: <れ た。 笠 も 合羽 もい つの i にか しっとりと にしめつ 

てゐ た。 すると、 ilg に « 職 を^ じた。 はやむ を 1: す g かげへ は ひり、 がの へ 旭 を 

足した。 この 一條 を S 代 玄甫は 「職のお きこ そ i ろし けれ」 と賺 へ、^ Ifc^ はつ g|S の 、^ま 

れ り矣」 と 嘆 じて ゐる。 

身仕度を整へた傳亩は長脇差を引き拔ぃた!^ がらり とぎ 膨 1 の l^f お を あけた. レ , ^ぎの? i 

ビ へ-つす ひと リ らくらく あし な だ ようす -- 1 

に は 坊主が 一 人、 樂樂と 足 を 投げ出して ゐた) 坊主はこちらへ背を^5-せたまま、「1ぢゃ い?」 と 

唯聲を かけた。 傳吉 はちよ いと 拍子 拔けを 感じた。 第一 にかう ーズ ふ^ ゼ の^ぎ はきぎ- つ と.,; > 

はいれなかった。 第一 I に その後ろ 姿 はき 吉 の^?; いて ゐ たよりも すっと 艇^ を、 i めて ゐたレ 鎖 

^;リち ほ」.; ん いっし! 5 ん かん ひとち ベ, . うた:. -£ > 

丄ロは 殆ど 一 瞬 問 人 遠 ひで はない かと 云. ふ 疑 ひさへ :|| いた。 しかしもう ャ となって はヒ 力ら つて ゐ 



ち打敞 G 古傳 



ゃノ 7 



もちろん 

られな いのは 勿論だった。 

でしき ち ラし で しゃう じ はっとり へいし らう こ ゑ ばう す -;. ;. とろ ふ しに 

俾吉は 後ろずに 障子 をし め T 服 部 平 四郞」 と聲を かけた。 坊主 は それでも 驚き もせす に、 不 -1^ 

き や,、 ふ かへ しらは ひか み とっさ ころも ひざ おこ ほた び て 

さう に 客 を 振り返った。 が、 白刃の 光り を见 ると、 咄嗟に 法衣の 膝 を 起した。 扮 火に 照らされた 

す ,では ほね か は らう じん でんきち かほ ど こ はつ、 りへ い 

坊主の 額 は 骨と 皮ば かりにな つた 老人だった。 しかし 俾士 I: は その 顏の 何處 かに はっきりと 服 部 平 

g: 郞を 感じた。 

「誰 ぢ やい、 おぬし は?」 

でん ざ う せがれ でん 今ち うら み お: . 

「條 三の 悴. Q 傳吉 だ。 怨み はおぬ しの 身に 覺 えが ある だら う-し」 

じ やつ,、.: ん お ほ め もくねん ただ でんきち み あ かほ あら は じ やう なん ノ 

淨觀 は 大きい 目 をした まま、 默 然と 唯 傅 士:: を 見上げた。. その 額に 現れた 感情 は 何とも 云 はれ 

-^ょぅふ でんきち かたな . ^ま ひや きょうふ き やうら く • 

ない 恐怖だった。 傳吉は 刀 を 構へ ながら、 冷やかに この 恐怖 を享樂 した。 

てん ざう あだ かへ き た んが しょうぶ 

「さあ、 その 傳 三の 仇 を 返しに 來 たの だ。 さっさと 立ち上って 勝負 をし ろ。」 

「何、 立ち上れ ぢ や?」 

じ やうく わ V? みみび ,ヒ う ,つか でんきち び 丄 う なか なに めう すご かん 

淨 觀 は 見る 兑る 微笑 を 浮べた。 傳吉 はこの 微笑の 中に 何 か 妙に 凄い もの を 感じた。 

おれ むかし た あが おも お れゐ こしぬ 

「お ぬし は 己が 昔の やうに 立ち上れ ると 思うて ゐる のか? 己 は ざり ぢゃ。 腰 拔けぢ や。」 



43S 



傳吉は 田. s す 一 足す さった。 いっか 彼の 構へ た 刀 はぶる ぶる 切 5^ を 1» はして ゐた。 じ! Tg^ その 

容子を 見やった なり、 齒の拔 けた 口 を あからさま にもう 一 度 かう つけ, I へた。 

-I チ , ろ; 、じ いう からだ 

「立ち居 さ へ 自由に はならぬ 體ぢ や。」 

「嘘 をつ け。 噓を …… 」 , 

で乂 や-ち ひっし CG し ヒ やうく わ,;" よんた > す こ „-.-■.,,.- -, : 

傳吉は 必死に 篤り かけた。 が、 淨觀は 1^ 對,. に 少しづつめ II- に、 11 り ^ した。 

「何が t5 ちゃ? この 村の ものに も 聞い て 見る が 好い。 己 は 去年の 大患 ひからぎ ぬけに なって し 

まうた のぢ や。 ぢ やが、 」 

じ-やう,;;!^ ん ことば き でん 今丄 つ め な 1^ み 

淨 觀 はちよ いと 言葉 を:^, ると、 まともに 俾吉の 目の 中 を 見つめた。 

r ぢ やが 己 は 卑怯な こと は 云 はぬ。 如何にも おぬしの ョふ滅 り、 おぬしの 一: ま は 12 の厂 にかけ た. > 

この 腰抜けで も 打つ と rK ふなら、 立派に 己 は 打 たれて やる。」 

で乂ふ 二ち みじか ちんもく あ ひだ かんじゃう リーら .A " ナ V 一 し): レ :くン . "にメ - 

傅吉は 短い 沈默の 問に いろいろの 感情の 群がる の を f じた。 難、 mm. きギ mm. I さ 

う ふ 感情の 高低 は 徒に 彼の 太刀先 を まに せる!^ におつ ばかりだった。 sss:^l あ 紙 ひ んだ ぎり、 

打た うか 打 つまい か と逵 巡し てゐ た。 



ち 打 敵の— き傳 



459 



「さあ、 打て。」 

じ やうく わん まとん がう ぜん ななめ でん キ. ち かた しめ ひや-つ t でん キ; ち ざけ くさ じ やうく わん いき かん 

淨 觀 は, 殆ど 傲然と 斜に傳 吉へ肩 を 示した。 その 拍子に ふと 傳吉は 酒臭い 淨觀の 息 を 感じた 

どうじ むかし いかり ニニろ も あが かん ちち み 一 ごろ .f れじ -{ん た L 

と 同時に 昔の 怒の むらむらと 心に 燃え 上る の を 感じた。 それ は 父 を 見殺しに した 彼 自身に 對 する 

、かり り ひ あだ う き • し い" リ でん 今ち む しゃ、 ふる 

怒だった C 理が非でも 仇 を 打たなければ 消える こと を 知らない 怒だった。 傳吉 は^ 者 露 ひ をす る 

はや じ やうく わん け さ き 

が 早い か、 いきなり 淨觀を 袈裟が けに 斬った。 …… 

でん 今ち み ごと あだ う はなし たち ま いちがう ひや うばん こうぎ ち ん かう し. か 2fiJ^ .V- 力 > 

傳吉の 見事に 仇 を 打った 話 は 忽ち 一 鄉の 評判に なった。 公 俄 も 勿論 この 孝子に は 格 の 咎め を 

/、は もっと あら かじ あだう ぐわん しょ たてまつ わす は, う, び:, „s」, 丄、. -, 

加へ なかった らしい。 尤も 豫め仇 打ちの 願書 を 奉る こと を 忘れて ゐ たから、 1 數 美の 沙汰た け はな 

ご でんきち かた あいにく はなし しゅだい おいたい あ *■ ら 

かった やうで ある。 その後の 傳吉を 語る こと は 生憎 この 話の 主題で はない。 が、 大體を 明かに す 

でんきち ゐ しんご ざ いも,、; やう いとな しっぽい しつば い かさ ふげ-.、 キーい し 1;^ い.? , :2 パ. - 

れば、 傳吉は 維新 後 材木商 を營 み、 失政に 失收を 重ねた 揚句、 とうとう 精神に を來 しん。 凡 

め 1 ぢ じふ ci ん あき ぎ^-ぅねん ちゃう どご じふさん ちう ろく い さい r) ぜん 

ん だの は 明治 十 年の 秋、 行年 は 丁度 五十 三で ある。 (註 六) しかし かう 云 ふ 最期の ことな ど は 全然 

しょしょ つた げん かう しでんき ち ものがたり しも はなし むす 

諸 書に 傳 はって ゐ ない。 現に 「孝子 傳吉 物語」 は 下の やうに 話 を 結んで ゐる。 11 

でんきち のちい へと V,- か fee ばんねん おく ! きぜん いへ よけい にと にけ- 、 

「傳吉 は その後 家 富み 榮ぇ、 樂 しい 晩年 を 送りました。 積善の 家に 餘慶 ありと は 誠に この 祟で あ 

な む あみだぶ つなむ あみだ 二つ 、-: 二, ノ 

り ませう。 南無 阿彌 陀佛。 南無 阿彌陀 佛。」 (大-ル 十二 年. M. 月) 



<60 



f ,?f, く-..' ひ » , そう ふたり てう せんへ いあんな ス だ-つり; 5- つかう ぐんとうぐ-つり ゐ なかみち ふた 

或 夏の 日 笠 を かぶった 僧が 二人、 朝鮮 平安 南 道 龍 岡 郡 桐 隅 里の 田 舍道を 歩いて ゐた。 この 二 

り、.、 ! T 乂す ゐ、 - ネっ に ほん てう せん くに さぐ さ ,ハ とうひ ご かみ キ; よま V.. -1 にしせ つつの 

人 は 唯の 雲水で はない。 實 ははる ばる 日本から 朝鮮の 國を 探りに 來た加 藤 肥 後 守淸: 止と 小 w 攝 

かみ ゆきな が . 

守 行 長と である。 , 

、-" ^り なが あ をた あ ひだ ある い たち ま みち のうふ 1 一 どう 

二人 は あたり を 眺めながら、 靑 田の 間を步 いて 行った。 すると 忽ち 道ば たに 農夫の 子ら しい 童 

じ. "、ュ ひ/」 り まる、 < いし ほ ベら , : ね はっけん か とうきよ まさ かざ した 

兒が 一 人 圓ぃ石 を 枕に した まま、 すやすや 寢てゐ るの を發 見した。 加 藤 淸正は 笠の 下から、 ぢ 

どうじ め おと 

つと その 童 兒へ目 を 落した。 

「 こ の 小谇は 異相 をして ゐ る。」 

おに じ やうく わん に ごん い ま,、 ら いしけ ふし ギ- どうじ あたま つち おと ど ろ 

鬼 上官 は 二言と 云 はすに 枕の 石 を 蹴はづ した" が、 不思議に も その 童 兒は頭 を 土へ サ t す 所 か、 

いし くうかん まてら あ ひか tf らす! づ ね ノ 

石の あった 空間 を 枕に. したな り、 不相 變靜か に寢 入って ゐる! 

2 

6 いよいよ こせ がれ ただ も y . 

4 「愈 こ の 小 俘 は 唯 者で はない c」 



3 i^s は|3|-め の 衣に 隱 したき 刀の 観へ 手 を かけた。 倭 國の禍 になる もの は 芽生えのう ちに 除 

5 

4 も ゅキ- なが ち ざ わら きよま さ ) へお 

かう と^ったの である。 しかし 行 長 は 嘲笑 ひながら、 淸 正の ザ を 押しと どめた。 

「このが! i| に 何が 出來る もの か? 無益の 殺生 をす る もので はない。」 

,! i 、り そう ひち ど ち をた あ ひだ ある だ ヒ らひサ は, おぶ じ や-で、.^ ん ^ , つぐ ゾノ、 

二人の 僧 はもう 一度 靑 田の 間 を 歩き 出した。 が、 虎鬆の 生えた 鬼 上官 だけ はま だ 何か个 さう 

とき ど. 一 ゾ どうじ ^/ へ 

に 時時 その 童兒を ふり 返って ゐた。 

*.-^--^.^< つち とき ふたり そう ケ 上う 今よ まさ こ にし: S きなが はって うはち おべ へャ 4 せ- は"^ -カ 、 

三十 年, の 後、 その 時の 二人の 僭、 11 加藤淸 正と 小 西 行 長と は 八 兆 八愤の 兵と 共に 朝^ 八迅へ 

ノ^ク, 、へ や ム"^ だリ たみ お. つ、 二 う: な をつ と つま うば う わ ざ わう に まど け L- 

^^した。 f 豕を燒 かれた ル 道の: is 親 は 子 を 失 ひ、 夫 は 妻 を 奪 はれ、 右往左往に 逃げ惑った。 京 

■-〕 わう おち. - へ じ やう 1 ま し-つど 、へ 一/.. づ わう ぎ し-つ はし だ L みん る ぐ ん ま 

:i はぎに 陷ク た。 if 壤もャ は 王土で はない。 n5H: 祖王 はやつ と義 州へ 走り、 大 明の 援軍 を 待ちわび 

て わ ぐん ヒ うりん まか つく はち だ, T 、ん せん み 

てゐ る。 もし このまま 手 をつ かねて 倭 軍の 蹂躪に 任せて ゐた とすれば、 美しい 八 t 川 一の 山 パを见 る 

見る J 望の 燒 野の 原と 變 化する 外はなかった であらう。 けれども 天 は 幸に もま だ 朝 M を てな 

> むかし あ をた くろ き ^き あら は ひとり どうじ きんおう-^ ゐ くに すべ - i 、 

かった。 と r み ふの は 昔 青田の 畔に奇 を 現した 一人の 童兒、 ——ー金應^^|に國を救はせ<-カらでぁ 

金 る。 

t 丁つ きんおう すん ジこ しう 上う ぐズ てい か せう すゐ せんそ わう り ゆ; ん ?^ぃ , 

軍 <4li は義 州の 統軍 亭へ駄 けつけ、 憔悴した, ぜ: 祖 王の 龍 顏を拜 した。 



I わたくし のかう して 居ります, から は、 どうかお 心 をお 化め なさりた うご ざいます る 一 

せんそ わう かな び せう 

宜祖王 は 悲し さう に 微笑した。 • 

I 怪將は 鬼神よりも 強いと 云. ふこと ぢゃ。 もし そちに 打てる ものなら、 まづ敏 ■ の .m を, つてく 

れい ピ 

霧の Tvlsmf すつ お im!^ を 響て ゐた。 l^^^o 

ギ J せ い たんら J1 y .,ノ. ゾ - X 

妓 生のう ちに も竝ぶ ものの ない 麗人で ある。 が、 甌を I ふる-;;; に獻 にぎした. ^ま:^!^ と I- に、 

日 も 忘れた と 云 ふこと はない。 その 明畔は 笑って ゐる時 さへ、 い っも^^ぃ劃ぜのかげにもの!^し 

い 光り を やどして ゐる。 

ある ふゆ よ f:. モ; なが け,., ナ つかう し- 0« く つ V" 』-ニ VI..- 

或 冬の 夜、 行 長 は 桂 香に 酌 を させながら、 |女の^^.0酒1娘りをしてゐた。 ^^の5^も^^の 

白い、 風采の 立派な 男で ある。 桂月 香 はふ だんよりも v«i ひ を^みながら. ぎえ す t 仏 1 こ範を S 

また V ニノ IM.^ ま ^ . 

めた。 その 又 酒の 中にはい つの 間に か、 ちゃんと 眠り j^, が 仕 こんであった。 

少時の 後、 桂月 香と 彼女の 兄と は醉ひ 伏した 行 長を辦 にした まま、 そっとぎ ぎ かへ^ 1-i した。 

!^キ,- な-:^ ナゐ ちゃう そと ;. S ザ」 う はう ナん „.r ノ. _ レ ュク 

行 長は翠 金の 帳の 外にき 藏の寶 餅 を かけた なり、 ig, 後 も 知らす に^って ゐた。 prj,-,^ なんじ も 



S きな iA だ c . ュ<- や ラ またれ いぢん たれ やう う い- - 

S 行 長の 浙斷 したせ ゐ ばかりで はない。 この 帳 は 又鈴陣 である。 誰でも 帳 中に 人ら うと すれば、 

4 t つれ,' たち ま ひびき とも 5^ キ なべ.; れハり やぶ ただ n やなが けいげつ かう 

をめ ぐった 鈴 は 忽ちけ たたまし い 響と 共に、 お 長の 眠 を 破って しま ふ。 唯:. だ.^ は杜月 みのこの 

±5^. . ま ナナ あな た 

齊^ も 鳴らない やうに、 いつ の 間に か 鈴の 穴へ 綿 をつ めた の を 知らなかった ので ある 

ナぃデ つかう か cw- よ あに いちど そ こ かへ き か C ちょ こんや, .fv!r 广 せひ つつ ノ- 

^月 香と 彼女の 兄と はもう 一 度 其處へ X バ つて 來た。 彼女 は 今夜 は繡 の-ある 裳に 寵の灰 を 包んで 

■.Ac: ちょ t; に か 0>ょ あに わう めい ほう キん おう ナゐ たかだか i て- 

ゐた。 彼女の n 儿も、 11 いや 彼女の 兄で ない。 王 命 を 奉じた 金 應瑞は 高高と 袖 をから げた ザに、 

ト-- り ゃラヒ う ひと ざ かれら しづ ? 5) きなが ナ. C きん ちゃう ュ つか ゅキ; なか 

龍 刀 を 一 ふり 提げて ゐ た。 ^等 は靜 かに I:!;: 長の ゐる翠 金の 帳へ 近づかう とした。 すると 行. 長の 

よう ナ, ;" K や よ な はや ちゃう ど つばさ は きんしゃ うぐん は-. つ & 

s:^ 鉚 は お の 、、つ か ら 稍 を 離れ る が n 十い か、 丁度 翼の 生えた やうに 金將 軍の 方へ 飛 び , ー屮 か つ て 來 た 

V...J ん ー やうぐ ノ? ナこ ビハ とつ,. -. ± うけん め ひとくち つ =J は にうけん つ; *^ 

しかし 金將軍 少しも 騒がす、 咄.^ -にそ G ま 只劍を 目が けて 一 口の 唾 を 吐き かけた _ し S 劍は喊 に ま 

みれ ると R 時に、 忽ち 神通力 を 失った のか、 ばたり と 床の 上へ 落ちて しまった e 

f^^^6t お 一よ たナ --ノ り: S うたう ひとはら S きなが くび う おと お, ろ- わ t しゃ. う 

金 應瑞は 大いに^り ながら、 靑龍 刀の 一 拂 ひに: Ln 長の 首 を 打ち落した。 が この 恐し い 5^ 將の 

くび く や >-f か --ハ からだ ま もど ふしぎ み けいげつ かう も rv 

は ロ^し さう に-;^ を 嗨み嚼 み、 もとの 體へ 舞ひ戾 らうと した。 この 不 m 心議 を: た 娃月香 は 裳の 

全 !■ へ F を やる や 否や、 せ 良の きの 斬り 口へ 幾摑 み. も 灰 を 投げつ けた。 首 は 何度 飛び 上っても、 灰 

だらけに なった 斬り:! へ はとうとう 11 度 も 据わらなかった。 



ン Y び ! 5 今な が からだ て はう げん ひろ も ん しゃう * ん に -> 

けれども 首の ない 行 長の 體は字 さぐりに 寶劍を 拾った と 思 ふと、 金將 軍へ それ を 投げ 打ちに し 

た。 を 1- たれた 赠に^ へた まま、 n い^のおへ 離り B つた。 が、 1^!^ の 

**L-L1I 卜 二 ちう .V, きんしゃ うぐん あし こ ゆび き おと 

投 けつけ た劍は 1 由に 飛んだ 金將 軍の 足の 小指 を 斬り 落した。 

■ ■ ) . , 、 、 ) わう めい はた きんしゃう ぐん けいげつ かう き お ひと... D ^ら 

その 夜 も ゆけ ない うちで ある。 王 命を果 した 金 將軍は 桂月 香 を 背負 ひながら、 人〔平のなぃ|^^ 

を 走って ゐた。 野原の 涯には 残月が. j 痕、 一 i い!^ ゆの かげに; S まう として ゐる靖 つた olii 

箪 はふと 桂月 香の 姙娠 して ゐる こと を 思 ひ 出した。 倭 將の子 は 毒蛇 も!: じこと である。 おのう ち 

に 殺さなければ、 どう^ ふ 1^1^ を瞰 すか も きれない。 か た IJ^^ii お rR^lil の i^sj の やう 

けいげつ かう おやこ ころ ま .,《- し かく,, 一 

に、 桂月 香 親子 を 殺す より 外に 仕 かたはな いと 覺 悟した。 

英雄 は 古來セ ン ティ メンタ リズム を 脚下に 躁躪 する 化物で ある。 金 m5r は!^^ 裕を i じ. 

1 ひ" か > ニー ど f ひ ほ だ , ざ/ げっ ひか て -- ども も -. ク?、 : 

腹の 4 の 子;^ を 弓す り 出した。 殘 月の 光りに 照らされた 子供 はま だ桟 糊と した 血;^ だった ■」 が、 

け^}く.^ぃ み ぶる とつぜんに んデん ミー ご ゑ ち 

その,^ 塊 は 身 震 ひ をす ると、 突然 人^の やうに 大 聲を擧 げた。 

み つき ま .一 つち ふ- 

i あのれ、 もう 三月 待てば、 父の 饕を とって やる もの を!」 

I. ほ-、. つ > ほ" > ? つす ズら はら ラっ ひび わた どうじ またい つ 二ん ザ.. んブっ み み 

聲は 水牛の える やうに 薄暗い 野原 中に 響き渡った。 同時に 又 一 痕 の殘, 月 も 兑る: :5- る V.- のかげ 



5fl: 將金 



467 



に 沈んで しまった。 

てう せん つた -- にしゅき なが ".ぃ--】 Js.^,,^ もちろん^い. A ん えき ;: NM フリ い C ち ぉ丄 

これ は 朝鮮に 傅 へ ら れる小 西 行 長の 最後 である。 行 長 は 勿論 征韓 の 役の 陣中に は 命 を 落さ な か 

れキし ふんしょ V、 な ナ てう i ん に ほん また- i.- うに をし れきし 

つた。 しかし 歷史を 粉飾す るの は必 しも 朝^ば かりで はない。 口 本 も 亦 小お に敎 へる 感史 は、 — 

あるひ またせう に たいざ に ほ/だんじ をし れきし い でん つ みム 、 、 に 

—或は 又 小兒と 大差の ない 日本 仍兒 に敎 へる 歷史 はかう 云 ふ 傳說に 充ち滿 ちて ゐる。 たと へ は 曰 

s/^ れきし けうく わしょ 」.i つど い はいせん き じ かか 

本の 歷史敎 科 書 は 1 度 も かう 云 ふ 畋戰の 記事 を揭 げた こと はないで はない か? 

もろ-一し ぐんしゃう いくさぶね つび やくしち じつ さう ひき はく そんかう て. T せズ ち, T せいだ-つじよ せんけん つらな り え X る てんち ごん 

「大 唐の 軍將、 戰艦 一 百 七十 艘を率 ゐて白 村 江 (朝鮮 忠淸 透舒川 縣) に 陣 列れ り。 戊 申 (大 人 

わう に ねぐ あきはち ぐ わつ にじ ふしち にち やまと ふない くさ はじ いふ I もろこし ふない,、 さ たたか やまと り I り-て 

皇のニ 年 秋 八月 二十 七日) 日本の 船師、 始めて 至り、 大 唐の 船師と 合戰 ふ。 日 木 利 あらす して 退 

つちのと. V り に じふ はちに ち さら やまと らん ご .1 フ つぐん そつ ひキ- すす もろ こ [- ぐん ろ もろ-一し すな は 

く。 已 酉 (二十 八日) …… 更に 日本の 亂伍、 中 軍の 卒を 率ゐて 進みて 大 唐の 軍 を 伐つ。 大 .w ?、 ^ 

いう ;ね -H. さ めぐ たたか と き ま みい/、 ビ-ゃ ぶ みづ おもむ し ぬ も £ お ほ へ 七 も めぐ f 

ち 左右より 齡 をが みて 繞り戰 ふ。 須贝の 際に 官軍 敗績れ ぬ。 水に 赴きて 溺死る 者 衆し •。 艫舳、 廻 

ら えに ほんしょみ: 

旋 する こと を 得す。」 (日本書紀) 

い か くに れキ- し 一 7、 みん かなら て わう えい れきし なに きんしゃ うぐん でんせつ いつ V,- ん あた: S 

如何なる 國の 歷史も その 國 に は必す 光榮 ある 歷史 である。 何も 金將 軍の 傅^ば かり 一 奴 灰に 似 

する 次第で はない。 

(大正 十三 年 ; 月〕 



468 



この 手紙 は 印度の ダァヂ リン のラァ マ • チヤ ブヅ ン 氏へ 出す 手紙の 中に 封入し、 ,氏から 日本へ 

おく もら はす ぶ じ きみ て わた た せう しんば い わけ まん-ち 

送って 貰 ふ 箸で ある。 無事に 君の 手へ 渡る かどう か、 多少の 心配 もない 訣 ではない。 しかし 萬, ,一 

わた キーみ か,、 べつ ぼく て がみ よ V.- う おも てん ±な よ あん 

渡らなかった にしろ、 君は格別僕の手紙を豫想してゐるとも思はれなぃからその點だけは甚だ{.^:- 

しん て がみ う と キーみ かなら ぼく う 人め い いっき やう きつ 

心して ゐる。 が、 もし この 乎 紙 を 受け取った とすれば、 君 は必す 僕の 運命に 一驚 を樊 せす にはゐ 

だいいち ぼ,、 す だいに !!? く し な じん iJ ノ .t 

られ ないで あらう。 第 一 に 僕 はチべ ットに 住んで ゐる。 第一 一に 僕 は 支那 人に たって みる。 |g 三に 

ぼく ざんにん をつ と ひとり つま きょういう 

僕 は 三人め 夫と 一 人の 妻 を 共有して ゐる。 

まへ キ-- み て がみ だ す ころ ?^.,、 ころ し な * ズリ 

この 前 君へ 手紙 を 出した のはダ ァヂリ ン に 住んで ゐた 頃で ある。 僕 はもう あの 顷 から 支那 人に 

ぐわん らいてん か 一一く やきぐ らゐ めんだ う %/ さ に もつ ただし た い -; くやき 

だけ はなり すまして ゐた。 元來 天下に 國籍 位、 面倒臭い お 荷物 はない。 唯 支那と 云 ふ國籍 だけ は 

ほ とん う む と ナこ. ふ .i^ うつ が ふ で き あが きみ かう とうが く かう とき ^Kz 

殆ど 有無 を 問 はれない だけに、 頗る 好都合に 出來 上って ゐる。 君 はま だ 高等 學 校に ゐた 時、 樊に 

7 二 ダ ャ じん い あ だ な . ;っヒ じっさい チく とほ 

4 「さまよ へ る 猶太 人」 と 云 ふ 渾名 をつ けたの を覺 えて ゐる であらう。 實際僕 は 君の い つた 通り、 「さ 



n ダ ャ卜 ん うま .H なよ ; にく J - 

1 まよへ る 猶太 人」 に 生れつ いたらし い。 が、 この チベットの ラッサ だけ は 甚だ 僕の (湫に 入って ゐ 

, なに ふうはい き 二う あ いぢ やく、 わ は じつ たいだ あくとく び f 

る。 とい.^ の は 何も 風景 だの, 氣候 だのに 愛着の ある 訣 ではない。 實は 怠惰 を惡德 としない 美風 

を德 として ゐ るので ある。 

はく i> いく きみ 4" た な し 

博學 なる 「おは。 ハ ンデン • ァァヂ シャの ラッサに 與 へた 名 を 知って ゐる であらう。 しかし ラッサ 

かなら す きふん が き みやこ まち わし と, つき やう す r) 二ろ い く-.:: ゐ ただ しみん 

は必 しも 食 糞 餓鬼の 都で はない。 町 は 寧ろ 東京よりも 住み 心の 好い 位で ある。 唯 ラッサの 市民の 

たいで てんごく ぶ-うくわん つま あ ひか はらす むぎわら ち かどぐち ひ ざ 

怠惰 は天國 の壯觀 とい はなければ ならぬ。 け ふ も 妻は不 相變麥 藁の 散らばった 門口に ぢ つと 膝 を 

しづ ご 十ゐ むさぼ ^くいへ いへ % ど ぐち に V. ん にん 

かかへ たま ま靜 かに 午睡 を 貪って ゐる。 これ は 僕の 家ば かりで はない。 どの 家の 門口に も 二三 人 

かなら またたれ ゐ ねむ へいわみ けしきせ かいど こ み 

づ つ は 必す又 誰か 居陲り をし てゐ る。 かう い ふ 平和に 滿 ちた 景色 は 世界の 何處 にも 見られな い で 

かれら あたま うへ けう じ ゐん た ふ うへ .;c を た. * やう ひ-: 

あらう。 しかも 彼等の 頭の 上に は、 11 ラマ 敎の 寺院の 塔の 上に はかす かに 蒼 ざめ た 太陽が 一 つ、 

と ま みね/、、 れき 

ラッサ を 取り 卷 いた I 条々 の 雪 を ぼんやり かがやかせて ゐ るので ある。 

ぼく すくな す, つねん ナ おも たいだ び ふう ほ, -"" た サ. T. 「ま 

四 僕は少 くと も 數年は ラッサに 住まう と 思って ゐる。 それに は 怠惰の 美風の 外に も、 多少 はおの 

9 ようしょく こころ ひ し つま な きんりん び じん ひやう 

^ 容色に 心を惹 かれて ゐ るの かも 知れない。 妻 は 名 は ダァヮ とい ひ、 近隣で も 美人と 評されて ゐる〕 

ひ \ ^とな たか くら ゐ か ほ な まへ とほ つきい み .;れ か 

脊は 人並, みより は 高い 位で あらう。 額 は ダァヮ とい ふ 名前の 通り、 (グ ァヮは 月の 意味で ある。)^ 



した いろ しろ しじ^2っぃと め ほ, て めう やさ をん な をつ と ぼく よ にん 

の 下に も 色の 白い、 始終 糸の やうに n を 細めた、 妙に もの 優しい 女で ある。 夫の 僕と も g: 人 ある 

まへ か お だいいち をつ と や 一 やうし ゃラ にん だいに をつ と ほ へい ごち やう だいさん をつ と 

こと は 前に もちよつ と 書いて いた。 第一 の 夫 は:;;: 商人、 第二の 夫は步 兵の 伍長、 第三の 夫はラ 

マ 敎の佛 畫師、 第 叫 の 夫 は 僕で ある。 僕 も 亦 この頃 は 無職 業で はない。 兎に 灼 器用 をき 板と した 

一 かどの 理髮師 になり 了せ てゐ る、」 

きんげん み ぼく いっさいた ふ あま けいべつ 

謹厳なる 君 は 僕の やうに、 一妻多夫に サん, ずる もの を輕 蔑せ すに は ゐられ ないで あらう。 が、 

Mi く i; つ 二ん けいしき ただ べんぎ よ いっぷ いっさい キリス 卜け うと かなら 

僕に いは せれば、 あらゆる 結婚の 形式 は 唯 便 {H; に據 つた ものである。 一夫 一 姿の 共 丄督敎 徒 は必す 

い けうと ぼくら だう と,、 たか にんげん じじつ.: L やう いっさいた ふ じじつ ヒゃう いつ 

しも 異敎 徒た る 僕 等よりも 道徳の 商い 人 問で はない。 のみなら す事實 上の 一 姿 多 夫 は事實 上の 一 

ぶ た さい とも い か くに は ザ じつざい また いっぷ いっさい 一ん ぜん わ は 

夫 多妻と 共に、 如何なる 國 にも ある である。 實際乂 一夫 一 妻 は チベット にも 全然ない 訣 ではな. 

い。 唯ルク ソォ. ミン ヅの 名の もとに (ル クソォ • ミン ヅは^ 格の 意味で ある。) 輕 蔑され てゐる 

. ^つやう どぼくら いつ V- いた ふ ぶんめい- フ、 けいべつ か 

だけで ある。 丁度 僕 等の 一妻多夫 も 文明 國の輕 蔑 を 買って ゐる やうに レ 

IV- く さんにん をつ と とも ひとり つま キ- よういう ナこ ふべんかん た さんにん また どう 

僕 は 三人の 夫と 共に、 一人の 妻 を 共有す る ことに 少しも 不便 を 感じて ゐ ない。 他の 三人 も 亦 

やう つま よ にん をつ と くわ ふ そく あい ぼく に ほん とき 

樣 であらう。 妻 はこの 四 人の 夫 を いづれ も 過不足な しに 愛して ゐる。 僕 はま だ 日本に ゐた 時、 や 

2 

マ/ さんにん だんな とも ひとり げいしゃ キ ようい-つ げいしゃ くら なん 

4 はり 三人の 檀那と 共に、 一人の 藝者を 共有した ことがあった。 その 藝ぉ に比べれば、 ダァヮ は 何 



らか 火の 四笫 473 



と、 ふお |a 鎖で あらう。 蘭に 账艇 i は ダァヮ のこと を I 華 夫人と 渾名して ゐる。 實 際.^ はたの 枝 

ぎれ i まの 「おに ^ のみ いて ゐる おの tl^s^. う を^って ゐる とい はなければ ならぬ。 子 傅 はも 

うお^ を かしらに、 f のみ とも 一一 f^^, てゐ る。 isi は どの 夫 を 父に するな どと いふ こと は 

たい。 あ i お ずん と i ばれ、 霧, は i じ やうに ん あばれて ゐる。 . 

しかし ダァヮ あ r る。 まだ T がも攀 あさなかった とい ふ It ではない。 もう 今では 一一 年 

ばかり ま、 範 など ある g お とき ざゐ きと も ある。 それ 1.^ し I 一の 

ぉぃ^-ダァヮのぉ\はひらなぃゃぅに|^-にき#^^を相談した。 すると ー桥 & つたの は 第二の 夫 

• 、 . ^>.^^3 だ をん 二う きみ 二とば 

C お _s である。 ^は戲 ちに 一 T< の Si を 蒙ぎ m してし まへ とお 張し W した。 なる 君 はこの 言葉 

のぼず I める のに i ひない。 が、 I をき ぎ の は チベットの 私刑の 一 つで ある。 (たと へば 交 

: - , > > たう ゥ、 た" おな 力 

ぼ斷 の^^お 纏の やうに。 ^ョ のおが まま &は、 i^^ にも 當 惑した やうに 淚を 流して ゐる ばか 

,ち ぃレ, i ち くん » 二ん じ やう t カス ま. 3 

りだつた。 ^は その^ づ のお lifl^ の辦を 節ぎ した^、 、ダ ァヮ の^ m は 悔恨の 情の 如何に 任 

せる とい ふ Hi をした。 も も ダァヮ の If 窗ぎ まに てし まひたい と 思 ふ もの はない。 第一の 

おが IS つ^^は!^; 1^ 概の に ました。 靈|& は なる 乎 代の 鼻に も 多少の 憐憫 を 感じて ゐた 



らしい。 しかし 伍長 を 怒らせない 爲に やはり 僕に ぼ 意 を 表した。 伍長 も —— - 伍長 は 少ぎ考 "へた 揚 

げ句、 太い, を 一 つす ると、 「子供の 爲も ある もの だから」 と、 しぶしぶ 僕 等に 從 1^ ことにした。 

"ほ ン、 よ, I に",、 よ X じつ、 よ; つい て- だい しば あ 一,.: つやう ぼくら だ,, リ f パ、 かみ そリ う 

铁等^ 人 は その 翌日、 容易に 手代 を 縛り上げた。 それから 伍長 は 僕 等の 代理に、 の 剃刀 を受 

> ひ 9 力. ,"、っ, かれ はで そ おと て だい もちろん あくたい ごち 5^ う て か 

け 取るな り 無造作に 彼の 鼻 を刖ぎ 落した。 手代 は 勿論 惡態 をつ いたり、 伍長の^^^へ嚼みっぃた 

「し w« I .1 め チ f Y i な ! 0, 一, つち ち ど ' -t-J ギー 3 つ 

り、 悲鳴 を擧 げたり したのに 違 ひない。 しかし 鼻 を 削ぎ 落した 後、 血止めの 藥を つけて やった:,:: 

づ やう I- ん ぼく な かん! や じじつ 

商人 や 僕な どに は 泣い て 感謝した こと も事實 である。 

^^^^ , t も. -,) , すゐ さ つで き じ ち.., て-しゅく 1K くら よ -t 

. 賢明なる 君 は その後の こ ともおの づ から 推察 出來 るで あらう。 ダァヮ は爾來 貞淑に 俊 等 叫 人 を 

愛して ゐる。 僕 等 も、 —— それ はず はないでも 4 い。 現にき の ふ は-伍長 さへ しみじみと 僕に かつ 

A 1 D nil. ま 力/え み はな そ おと じつ V.:- ふ かう ちう ん. う 

言って ゐた。 —— 「今にな つて 考へ て 見る と、 グァ ヮ の 鼻 を 削ぎ 落さなかった の は 實際不 拿 中の 

福だった ね。」 ■ 

〔わう どい まご 十ゐ VJ V- く li だ ?-产し り -、 ト 今, メ 

丁度 今 午睡から 覺 めた ダァヮ は 僕 を散步 につれ 出さう として ゐる。 では 萬 里の 海 彼に ゐる 君の 

う う? p、 い 1に とも と て べズ^' をょ V,* * 、 , *- - - 二 > わ i な V * 

幸福 を 祈る と共に、 一 まづ この 手紙 も 終る ことにしよう。 ラッサ は 八/家々 の 底に 桃の, のまつ 1^ 

Z ) さい. に ほこり かぜ ふ くら かんごく まへ ? と 二 どうし ナウ こん ヽ i り, - 

りで ある。 け ふ は 幸 ひ 埃 風 も 吹かない C 僕 等 はこれ から 監獄の 前へ、 從 兄妹 M 志 婚 した 不倫の 



ら か:; に-の 四 第 



男女の 爆し もの を 見物に 出かける つもりで ある 



4 0K 正 十 111 年 三月) 



く 76 



タ るふ ト ズざ つ L I や めんく.;:;. いしつ 

或 婦人 雜誌 社の 面 會室。 

ふと し じふ ぜんご しんし 

主筆 でつ ぶり 肥った 四十 前後の 舯士。 

しゅひつ ふと ■ S !、. ゝ や み タん. i: ふ卞 一ん ウー J- レ,. くち 

堀川 保吉 主筆の 肥って ゐる だけに 瘦 せた 上に も瘦 せて 見える 三十 前後の、 11 ちょっと j 口 

けいようで き-. - と か. くしんし よ ちう ちょ じじつ 

に は 形容 出來 ない。 が、 鬼に 角 紳士と 呼ぶ のに 躊躇す る こと だけ は事實 である。 

こんど ひと ざっし せう せつ か いただ ごろ どくしゃ かう 

主筆 今度 は 一 つうちの 雜 誌に 小說を 書いて は 頂けない でせ うか? どうも この 顷 は 讀者も 高 

今-ふ ざいらい 4^ ん あいせう せつ まんぞく ふか 

級に なって ゐ ますし、 在 來の變 愛小說 には滿 足しない やうに なって ゐ ますから、 …… もっと 深い 

にんげんせい ね まじめ れんあい 4.- う i- つ か -.. ただ 

人間性に 根ざした、 眞面 HI な戀愛 小說を 書い て 頂きたい の です。 

か じつ ごろ ふ じん ざっし か おも せう せつ 

保吉 それ は 書きます よ。 實 はこ の 頃 婦人 雜 誌に 書きたい と 思って ゐる 小說が あるので す。 

けっこう 4i いた. た .i;- ほ しんぶん くわう- -ノ、 

主筆 さう です か? それ は 結構です。 もし 書いて 頂ければ、 大いに 新聞に 廣吿 します よ。 

8 

7 ほり. rV にし ふて な 二い,? 5 んき はま れんあいせ うせつ なん くわう こく 

4 「堀川 氏の 筆に 成れる、 哀婉 極り なき 戀愛 小說」 とか 何とか 廣 $1 します よ。 



說 小愛戀 



479 



あい ゑん.. マに 2 -■:;,、 サ- 一:.? つ K . !じ やう - 

保丄 " r 哀婉 極り なき」? しかし 僕の 小說は 「戀愛 は 至上な り」 と 一. ム ふので すよ。 

5 、んぁ t さスび いよいよけ つこう C り やが. -,4± か. M さんだ S ,れ しあ- パノ、 、 ヽ、 、つ/ 

主筆 すると 戀 愛の 讚美です ね。 それ は 愈 結構です。 厨 川 士の 「近代 戀^ 論」^ 來、 Is- に 

せ-いね;. i だん ぢょ -- ころ れんあい しじ やうし: g.s かたむ ろ ズだ 1 てき. d ん あ- 

靑年 男女の 心 は戀愛 K.^ 上 主義に 傾いて ゐ ますから。 …… 勿^11近代的戀^でせぅね? 

保吉 さあ、 それ は 疑問です ね 。近代的 懷疑 とか、 近代 L 好 盗賊と か、 、&ぽ -li^l^lj- めと か 11 

さう 云 ふ もの は 確かに 存在す るで せう。 しかし どうも 戀愛 だけ はィザ ナギィ ザ 十 ミ 白 り 

變ら ないやう に 思 ひます が。 

主筆 それ は 理論の 上 だけです よ。 たと へば 三角 鼠 係な ど は 近 ii^ 一 的き の ですからね 。ナ, 

くと も 本の^ 狀 では。 

保吉 ああ、 三角 關 係です か? それ は 僕の 小說 にも 三 8: 關 係,. & 出て 來 るので す。 ::: ざっと 

ナぢ はな み 

筋 を 話して 見 ませ ラ 力 ? . 

主筆 さう して 頂ければ 好都合です。 - 

*^ よ しゅじんこう わか おく ぐ わい か-つくわん ふ じん もュ 〔ろん とうきい う ^ザ t て 广- - く - 

保吉 女 主人公 は 若い 奥さんな のです。 外交官の 夫人な のです。 勿論 東京の 山の やの 服 1 モに, 化 

んでゐ るので すね。 ^の すらりと した、 ものごしの 優しい、 いつも 髮は —— ,vsi 廣都 のぎ § する 



め はどう 云 ふ髮に 結った 女 主人公で すか? 

みみ かく 

主筆 . 耳隠しで せう。 

みみ, J -,、 かみ みみ かく ゆ いろ ー ろ め K ザ- 

保士 H ぢゃ .pt 隱 しにし ませう。 いつも 髮 を耳隱 しに 結った、 色の 白い、 ni の^え 冴えした ちょ 

くちびる くせ くわつ どうしゃ しん くり! ますみ 二 やく どこ をつ と ぐ わい かう くわん しんじ だい 

つと 替に 癖のある、 11 まあ 活動 寫眞に すれば 架 島 澄 子の 役所な のです C 夫の 外交官 も 新時代の 

まふが くし しんば ひ ", き がくせい じ だい せんしゅ 

Si 學士 ですから、 新派 悲劇 じみた わからす ゃぢ やありません。 學生 時代に はべ H スボ ー ルの 選で 

うへ だう らく せう せつ t 、らゐ み いろ あさぐろ , ^いう だスし しんこん ,- i たリ うう く やま て 

だった、 その上 道 樂に小 說位は 見る、 色の 淺黑ぃ 好男子な のです。 新婚の 二人 は 幸; i に 山の^の 

ていた,、 くら いつ おんがく,、 わい て ?パざ ど ほ ふ丄ぼ 5 

邸宅に 暮 して ゐる。 一 しょに 音 樂會へ 出かける こと も ある。 銀座 通り を 散歩す る こと も ある ,: 

もちろん しんさい まへ - 

主筆 勿論 震災 前で せう ね? 

しんざい まへ いつ おんがく くわい て ん ざ-ど?" ム 

保吉 ええ、 震災の すっと 前です。 …… 一 しょに 音 樂會へ 出かける こと も ある 銀座 通り を 散 

f ちる ひ また いやう ま でんとう 、した む ごん びせ う か X: よ しゅじん 1 う 

步す る こと も ある。 或は 又 西洋 間 の 電燈の 下に 無言 の 微笑ば か り 交 は す こ と も ある。 女 主人公 は 

せいや-つま す な へ ふ,; せ > - I 

この 西洋 間 を 「わたしたちの E」 と 名 づけて ゐる。 壁に はル ノア ルゃセ ザ ン ヌ の 俊 など も 力 力つ 

^ くろ どう ひか とちう や: はた い たせつ 

4 てゐ る。 ピアノ も 黑ぃ洞 を 光らせて ゐる。 鉢梳 ゑの 椰子 も 葉 を 垂らして ゐ る。 . —— と 云 ふと 多少 



說 小愛戀 iiie 



481 



& や ちん あんぐ わい や T.- 

^^が利ぃてゐますが、 家賃 は 案外 安いので すよ。 

い せつめい い すくな せう せつ ほんもん 

主筆 さう 云 ふ 說明は 人らないで せう。 少く とも 小說の 本文に は。 

ひつえう わか ぐ わい かう くわん げっ きふ たか し 

保 古 いや、 必要です よ。 若い 外交官の 月給な ど は 高の 知れた ものです からね。 

くわ ぞく むす 二 もつ 上 くわ ぞく はくしゃく しし j:u ヽ * つ;、 

主筆 ぢゃ 華族の 息子に おしなさい。 尤も 華族なら ば 伯爵 か 子爵です ね。 どう^ ふ もの か 八.^ k 

こうし. C 、く あま せう せつ で こ 

や 侯爵 は 餘り小 說には 出て 來な い やうです。 

は くしゃ, - むすこ と かくせい や うま > K - n ま 

保?::: それ は怕 健の 息子で も かま ひません。 鬼に 角 西洋 問 さへ あれば & いのです。 その 風 iii^ 

ぎんざ ど ほ おんがくく わい だいいつ,、 わい たへ-一 5 つよ i.^,-- ん こう 

か、 銀座 通り か、 昔 樂會か を 第一 囘に する のです から。 …… しかし 妙 子 は 11 これ は 女. Hl^ 公の 

な t -、 おんがくか たつを こんい い 1.」 し だい ある ふ あん か. ハ だ たつ A】 , !-ヽ 

名" です よ。 !— 昔樂 家の 達 雄と 懇意に なった 以後、 次第に 或 不安 を 感じ 出す のです。 :g 雄 は 妙 

二 ぶい ぢょ しゅじんこう ちょく かく ふ あん 、ち- -ち 

子 を 愛して ゐ る- . —— さう 女 主人公 は直覺 する のです ね。 のみなら す この 不安 は 一日 ましに だん 

たか 

だん 高まる ばかりな の で す。 

たつを い をと こ 

主筆 達 雄 はどう 云 ふ 男な のです か? 

たつを おんがく てんさい か 

保士" 達 雄 は 昔樂の 天才です。 口 オランの 書いた ジ ヤン. クリストフと ワッセルマンの In いた 

いちぐわん てんさい びん ぱふ た, -' r-UL 

クニ H ル. ノオト ハフ トとを 一 丸に したやうな 天才です。 が、 まだ 貧乏だった り问か f る爲こ 



ペレ) ぼく いう じん おんがくか もっと fri ノ、 

にも 認められて ゐな いのです がね。 これ は 僕の 友人の 音 樂家を モデルに する つもりで, b。 尤も 僕 

?ク : ? に ,i ~ ヒっを < なん かま いっけん に と-つ ほ,、 うま や ^-んじん 

のお 人 は 美男です が、 達 雄 は 美男 ぢ やありません。 額 は 一 貝 ゴリラに 似た、 東北 生れの 野蠻 人な 

め てんさ ノ ひらめ も かれめ いっく わい すみび け. J ヽ 

のです。 しかし 目 だけ は 天才ら しい 閃き を 持って ゐ るので すよ。 彼の 口 は 一 塊の 炭火の やうに ィ 

斷の熱 を 孕んで ゐる。 —— さう 「K ふ をして ゐ るので すよ。 

て,? v_ う 

主筆 天才 はきつ と 受け ませう" 

たへ こ ぐ わい かう くわん をつ と ふ そく わけ - ) > » ^-^ *^u. ..Ix:!, つ、., t ふ," 

保吉 しかし 妙 子 は 外交官の 夫に 不足の ある 訣 ではない のです。 いや 寧ろ", £ よりも 寧. ダ-に 人 

あ,' をつ と またたへ こ しん い まで た/ たいた-., 

を 愛して ゐ るので す。 夫 も 亦 妙 子 を 信じて ゐる。 これ は 云 ふ 迄 もない ことで せう。 その 爲に妙 子 

の 苦しみ は 一 層つ のる ばかりな のです。 

きんだいてき い い れんあい _ 

主筆 つまり わたしの 近代的と 云 ふの はさう 云 ふ戀愛 の ことです よ。 

」」 つ を まヒ ま- -に ちで しとう かなら せいやう ま かほ だ をつ と .^^J ^ 

保士 1: 達 雄 は 又 毎日 電燈 さへ つけば、 必す 西洋 問へ 顏を屮 いすので す。 それ も 夫の ゐる 時なら は 

,, に. う た、 こ る す とき か-^ だ 

まだし も苦勞 はない のです が、 妙 子の ひとり 留守 をして ゐる 時に もや はり 額 を 出す のでせ う お 

J え ^ とき ひ もっと をつ と とキ- たつを た. 

子 はやむ を 得す さう 云 ふ 時には ピアノば かり 彈 かせる のです。 尤も 夫の ゐる 時で も、 雄 は 大抵 

2 

4 ピアノの 前へ 坐 ら ない こと はない のです が。 



說小 愛戀或 



483 



れんあい おちい 

主筆 そのうちに 戀 愛に 陷 るので すか? 

ようい おちい あるに ぐ わつ ばん たつを . 

保吉 いや、 容易に 陷ら ない のです。 しかし 或 一 一月の 晚、 達 雄 は わに シ ュ ウベ ルトの 「シ ルヴィ 

よ うた ひ なが ほのほ ヒ やう U つ こも うた たへ こ お ほ 

ァに 寄す る 歌」 を彈き はじめる のです。 あの 流れる 炎の やうに 情 熟の 籠った 歌です ね。 妙 子は大 

やし はした みみ かたむ たつを たい か ぢょ あい かん 

きい 椰子の 葉の 下に ぢ つと 耳 を 傾けて ゐる。 そのうちに だんだん 達 雄に 對 する 彼女の 愛 を 感じ は 

どうじ まため まへ う あが 二ん ヒき いう わ C かん ご ふん 

じめ る。 同時に 又 目の前へ 浮かび 上った 金色の 誘惑 を 感じ はじめる。 もう 五分、 . ! いや、 もう 

いっぷん たへ こ たつを かひな なか からだ な し そこ ちゃ-つど 

一分 たちさへ すれば、 妙 子 は 達 雄の 腕の 中へ 體を 投げて ゐた かも 知れません。 其處へ ——— 丁度 そ 

きょく を は ところ さ ひ は しゅじん かへ く 

の 曲の 終り かか つ た處 へ 幸 ひ 主人が 歸 つて 來る の です。 

主筆 それから? 

いっしう かん のちた へこ てる たか じさつ けつ 

保 士;: それから 一週 ばかりた つた 後、 妙 子 はとうとう 苦し さに 堪へ 兼ね、 ^:!殺をしょぅと決 

しん ちゃう ど にんしん ため だんか, T ゆう キ. - たつを .1:- い 

心する のです。 が、 丁度 妊娠して ゐる爲 に、 それ を斷 1:;: する: sf^ 氣 がありません。 そこで 達 雄に 愛 

をつ と う あ t と をつ と くる かのちよ たつを あい 

されて ゐる こと をす つかり 夫に 打ち明ける のです。 尤も 夫 を 苦しめない やうに、 彼女 も 達 雄 を 愛 

こくはく 

して ゐる こと だけ は吿 白せ すに しま ふので すが。 

. ナ つとう 

主筆 それから 決闘に でもなる のです か? 



ただをつ と たつを き とき ひや や はう もん しゃぜつ .4 つ を, く.,^; ひる ノ :- 

保吉 いや、 唯 夫 は 達 雄の 來た 時に 冷 かに 訪問 を 謝絶す るので す。 達 雄は默 然と. お r を喷ん だま 

ま、 ピアノば かり 見つめて ゐる。 妙 子 は戶の 外に 佇んだ なり ぢ つと 忍び泣き を こらへ てゐ る。 — 

っち,,^-たっき とつぜん くわん めい う をつ と し な ハン カオ りゃぅ卞くゎん にん 

—その ^二月と たたない うちに、 突然 官命 を 受けた 夫 は 支那の 漢ロ の 領事館へ 赴任す る ことにな 

る の です。 

たへ こいつ S . 

主筆 妙 子 も 一し よに 行く のです か? 

もちろ,;"" つ -9 fc へこ た まへ たつを てがみ 1 - - - Kr-^ 

保吉 勿論 一 しょに 行く のです。 しかし 妙 子 は 立つ 前に 達 雄へ 手紙 を やる のです 「あなたの、 も 

どうじ. e う で き たが ひ うんめい - 

に は 同靑. する。 が、 わたしに はどうす る こと も出來 ない。 お 互に 運命 だと あきらめ ませう — 

SJ- た、 い-, み い らいた へこ こんにち たつを . *^ 、-リ 

允 髖 さう 云 ふ 意味です がね。 それ 以來妙 子 は 今日まで すっと 達 雄に 會 はない のです 

主筆 ぢゃ 小說は それぎ りです ね. - 

ii, つ 二 たへ こ ハン カオい のち ときどき たつを おも だ 、 

保吉 いや、 もう ダし殘 つて ゐ るので す。 妙 子は漢 口へ 行った 後 も、 時時 達 雄 を m:- ひ屮 いすので 

をつ と じつ たつを あい かんが . - ,、 d メ、 

すね C のみなら, ずし まひに は 夫よりも 實は達 雄 を 愛して ゐ たと 考 へ る やうになる のです ね 訂レ 

とへ-一 かこ さび 〈ン カオ ふうけい f さい.!^ う し. せいせ/ れ; i.- れ、 モカ マノう 

です か? 妙 子を圍 んでゐ るの は 寂しい 漢 口の 風景です よ。 あの 廢の の 詩に 「^川 歴^ 淡^ 

^ 樹 芳草 萋藝. n 鹉洲」 と 歌 はれた ことの ある 風景です よ。 妙 子 はとうと うもう 一; 度、 11 一 年ば 



說小 愛戀或 



4S5 



かりたった 後です が、 —— 達 雄へ 乎 紙 を やる のです 。「わたし は あなた を 愛して ゐた。 ゲ でも あな 

た を 愛して ゐる。 どうか 自ら 欺いて ゐた わたし を 可 5?」 うに 思つ て 下さい。」 ——— さう^ ふ? 总 味の 

乎 紙 を やる のです。 その 乎 紙 を 受けと つた 達 雄 は …… 

さっそくし な で 

主筆 早速 支那へ 出かける のでせ う。 

たうて い で 今- なに たつを めし く ため あさく さ あるく わつ どうしゃ しんくわん 

保 士:: 到底 そんな こと は屮 I 來 ません。. n: しろ 達 雄 は 飯 を 食ふ爲 に、 淺 草の 或 活動 寫腐 節の ピ 

ァノ を彈ぃ てゐ るので すから。 

主筆 それ は 少し 殺 風 £ ちです ね。 

さっぷうけい し たつを ば すゑ たへ こ て がみ ふう き 

$ 殺 風 $ 小 でも 化かた はありません。 達 雄 は 場末の カフ H のテ H ブ ル に妙子の^^紙の封を切 

まど そと そら あめ たつを は, T しん て がみ み なん 

るので す。 窓の 外の 空 は 雨に なって ゐる。 逹雄は 放心した やうに ぢ つと 乎 紙 を 113- つめて ゐる" 何 

ぎ やう あ ひだ たへ-! せいやう ま み. 々- ふた でんとう うつ 

だか その 行の に 妙 子の 西洋 間が 見える やうな I 姒が 十る。 ピアノの 蓋に 電燈の 映 つ た 「わたした 

ちの W 災」 が 見える やうな 氣 がする レ …… * 

た キ: 上 かく 今ん らい けつ V ン、 ぜ ひ か くだ 

主筆 ちょっともの足りなぃ^!-もしますが、 に 角 近來の 傑作です よ。 是非 それ を 書いて 下さ 

ヽ 



じつ す こ 

保吉 寳 はもう 少し ある の です が。 

主筆 おや、 まだお しま ひぢ やない のです か? 

たつを わら だ おも またい ま ,Jf 、く丄 やつ,, - 、 び 、な-,' 

保吉 ええ、 そのうちに 達 雄 は 笑 ひ 出す のです。 と 思 ふと 又 忌い まし さう に 一 fl£ 生」 などと 怒 

り 出す のです。 

はっさ やう 

主筆 はは あ、 發 狂した のです ね。 

た: / . ぶ か ごふ こ ごふ に は ^- ぐわん らい たつを たへ こ 

保吉 何、 莫迦 莫迦し さに 業 を 煮やした のです。 それ は 業 を 煮やす 箸で せう。 元 來逹雄 は 妙 子 

など を 少しも 愛した こと はない のです から。 …… 



6 

S 



主筆 しかし それ ぢゃ。 …… 

L こつ を た -」 たへ 二 うち ひい I. チ" L- 

保吉 達 雄 は 唯 妙 子の 家 へ ピ ァ ノを彈 きたさに 1;^ つたので すよ。 云 はば ピ ァノを 愛した だ りな 

なに まづ たつを かかね ; 一 I す, - i 13 

のです よ。 何しろ 貧しい 達 雄に はピ ァ ノを買 ふ < ^など はない 笤 ですからお.' 

まりか .1 

主筆 です がね、 堀川さん。 

くっつ どう ぶ、 ノん \ 、つん ひ 二ろ 4^ つ を かう "く 

保吉 しかし 活動 寫眞 館の ピアノで も彈 いて ゐられ た 頃 はま だし も 達 雄に は 幸福だった のです n 

ヒっ& ち ひだ しんさ-" ち- じゅんさ ご けんうん どう とき ぜ乂 りゃう と, や,^ 

si 雄 はこ の^の 震災 來、 巡査に なって ゐ るので すよ。 護憲運動 のあった 時な ど は 善良なる 朿 Id.- 



;!; さ 小 愛戀或 



^187 



しみん 、- 一め くろ だた ただ やま て じゅんく わいちう まれ ね 

巿 民の 爲に 袋叩きに されて ゐ るので すよ。 唯 山の 乎の 巡 囘 中、 稀に ピアノの 音で もす ると、 その 

1. へ そと たたす かう ふく ゆ, め 5 

家の外に-むんだ まま、 はかない 幸福 を 夢み てゐ るので すよ 

チ- つかく せう せつ . 

主筆 それ ぢゃ 折角の 小說は …… 

き たへ こ あ ひだ ハン カオ ナま あ ひか はらす たつを おも 

保吉 まあ、 お聞きなさい。 妙 子 は その 問も漢 口の 住 ひに 不相變 達 雄 を E 心って ゐ るので す。 い 

(ン カオ ぐ わい かう くわん をつ と てんにん た び シャン ハイ ぺ キ ン テンシン いちじ 

ゃ漢 口ば かり ぢゃ ありません。 外交官の 夫の 轉任 する 度に、 上海 だの 北京 だの 天津 だのへ 一時の 

すま うつ あ ひか はらす たつを おも もちろん しんざい ころ おはぜ, い こ • ) 

住 ひ を 移しながら、 不相變 達 雄 を 思って ゐ るので す。 勿論もう 震災の 頃に は 大勢の 一寸 もちに なつ 

としご ふたご う よにん 二 

てゐ るので すよ。 ええと、 —— 年兒に 雙兒を 生んだ ものです から、 人の子 もちに なって ゐ るの 

また をつ と ま お ほざけ の ぶた ふと 

です よ。 おまけに 又 夫 はいつ の 問に か 大酒飲み になって ゐ るので すよ。 それでも 豚の やうに 肥つ 

だへ こ か ぢょ あい あ たつを おも れス ぶい じつ ャ., い 

た 妙 子 はほんた うに 彼女と 愛し 合った もの は 達 雄 だけだった と 思って ゐ るので すね。 慰 愛 は. M 際 

しヒ やう たうて いたへ こ かう ふく はす すくな じんせい 

至上な りです ね。 さもなければ 到底 妙 子の やうに 幸福に なれる 害はありません 少く とも 人生び 

にく で き いせう せつ 

ぬかるみ を 憎ます にゐる こと は出來 ないで せう。 —— どうです、 かう 云 ふ小說 は? 

ほり か は いったい ま じ め 

主筆 堀川さん。 あなた は ー體眞 面目なので すか? 

もちろん ま じめ き けん れんあいせ うせつ ご < ^ん ぢょ しゅじんこう 

呆士 II ええ、 勿論 眞面 31 です。 fii の戀 愛小說 を御覽 なさい。 女 主人公 は マリアで なければ ク 



じ/? 比-い ぢょ しゅじん-; う かなら や て いぢよ どうじ かなら す 

レオ パト ラぢ やありません か? しかし 人生の 女 主人公 は必 しも 貞女 ぢ やない と M 時に, 、ゼ しも. 

また- ん % ひと い どくしゃ 5 ち ひとり い せ.^ ク せつ ま う だん t ソ. 

又 ノ^ 婦 でもない のです。 もし 人の 好い 讀 者の 中に、 一人で も ああ 云 ふ 小說を 3讽 に 受ける W 女が あ 

ご .,: ん もっと れんあい -? まん ド やう レ£ ば あ ひ べつ もん. だい , - - 1- ん い, ちし, つ 、校.、 Z : ひ : t かい:. i 

つて 御覽 なさい。 尤も 戀 愛の 圓滿に 成就した 場合 は 別問題で すか 萬 一失 燈で もしん U に は、 ゼす 

SH- か SH か じこぎ せ." ばかば か ふ 二し, r て ふ-りい しん はつ-つ-: 

莫迦 契遍し い 自己犠牲 をす るか、 さもなければ もっと 莫迦 莫迦し ぃ複響 的 i5 神を發 5^ します よ。 

fe うじ しゃじ しん なに えいゆうて キー かう ゐ ぼ、 / <.-J -、 , 、コ, ン 

しかも それ を 當事者 自身 は 何 か 英雄的 行爲の やうに うぬ: P れ 切って する のです 力ら ね H れど も. 

れんあいせ うせつ す こ ■ い あくえ いき やう ふ きふ けいかう - > が^/ーク〕 -、 ぢ V17^ 

わたしの 戀愛小 說には 少しも さう^ ふ惡 影響 を 普及す る 傾向はありません あまけ に! :4 水 は 女主 

ヒん こう かう ふく さんび 

人 公の 幸福 を 讚美し て ゐ る の です。 

じ やう だん と か,、 ざっし- たうて い , の, - ノ-ノ 

主筆 常談 でせ う。 …… \^ に^うち の雜 誌に は 到底 それ は 載せられません 

ど こ まか Q もら ひろよ なか ひと ぐらん • , しゅち や 一..^ 

保吉 さう です か? ぢゃ 何處か 外へ 載せて 世:!; ひます。 廣ぃ 世の中に は 一つ 位 わ. たしの 主張 

, ふ じん ざっし はす 

を 容れて くれ る 婦人 雜誌も ある 箸で すから。 - 

や ナヤ; ち よ さう あやま しょうこ たいわ こ, て; 、: 、 二 

保吉 S 豫想 の 誤らな かつ た 證據は この 對 話の 此處に 載った ことで ある 

. .... (大正 十 ill 年 111RO 



「堀川さん。 弔辭を 一 つ 作って くれません か? 土曜日に 本 多少 佐の 葬式が ある、 —— その 時に 

校長の 讀 まれる のです が、 …… 」 

ふぢた た、 さ しょく だう で やすきち はな ほり か +1 やすきち がく かう, せいと イギリス ご やく 

藤 田 大依は 食堂 を 出しな にかう 保吉 へ 話しかけた。 堀川 保吉は こ の學 校の 生徒に 英吉利; 諧の譯 

どく をし じゅげ ふ あ ま てう じ つく けうく わしょ あ ご ぜんかう えん てんさく 

讀を敎 へて ゐる。 が、 授業の 合 ひ 間に は? e 辭を 作ったり、 敎科書 を 編んだり、 御前 講: § の 添削 を 

ぐ わい 二く しんぶんき じ ほんやく い ときどき い 

したり、 外國の 新聞記事 を飜譯 したり、 . I - さう 云 ふこと も 時時 はやらなければ ならぬ。 さう 云 

またい ふぢた たいさ たいさ し じふ ぐら ゐ いろ あさぐろ 

ふこと を 又 云 ひつける の はいつ もこの 藤 田 大佐で ある。 大佐 はやつ と 叫 十 位で あらう。 色の 淺 Mi 

こく お しんけいしつ かほ やすきち たいさ ひとあし うすぐら らう か あゆ 

い、 肉の 落ちた、 祌經 質ら しい 額 をして ゐる。 保吉 は大: よりも 一足 あとに 薄暗い 廊下 を步 みな 

おも い こ, 0« だ 

がら、 思 はす 「おや」 と 云 ふ聲を 出した。 

「本 多少 佐 は 死なれ たんです か?」 

^ た" さ い やすきち かほ かへ やす. J ゥ やす ため ほんだ i//- 

4. 大佐 も 「おや」 と 云 ふやう に 保 吉の顏 を ふり 返った。 保吉 はきの ふす る 休み をした 爲、 本 多少 佐 



とんし つた つ, T こくしょ み 

1 の 頃 死を傳 へた 通 吿書を 見す にし まった ので ある。 

4- あざな なう いっけつ い きんえ-つび つ,、 今. 

「きの ふの 朝歿く なられた です。 腦 溢血 だと 云 ふこと です が、 …… ぢゃ 金曜日までに 作って 來て 

くだ ちゃ- つど あさ 

下さい。 丁度 あさっての 朝までに です ね。」 

「ええ、 作る こと は 作ります が、 …… 」 

さと はや ふぢた たいさ たち ま やすきち さき 

悟りの 早い 藤 田 大佐 は 忽ち 保 吉の先 ま はり をした。 

てう; 11 つ.'、 ざんかう C ち り れ々; しょ 

rnp 辭を 作られる 參考に は、 後 ほど;^ 歷書 をお とどけし ませう。」 

い ひと ぼ/、 ただ ほんだ ひ-うさ かほ み お ぼ く.,: 

「しかし どう 云 ふ 人だった でせ う? 僕 は 唯 本 多少 佐の 顏 だけ 見覺 えて ゐる 位なん です が、 …… 」 

キ.- やう だいお も ひと ひレ- 

「さあ、 兄弟 思 ひの 人だったです ね。 それからと …… それから いつも クラス • ヘッドだった 人で 

す。 あと はどう か 名 筆を揮って 置いて 下さい。」 

ふたり き いろ ぬ くわち やつし つ ドア まへ た ふぢた たいざ- くわち やう よ ふく かう ちゃう やく 

一 一人 はもう 黄色に 塗った 科長窒 の 扉の 前に 立って ゐた。 藤 田 大佐 は 科 長と 呼ばれる 副 校長の 仪 

やすきち え てう じ くわん げぃじ S つて.^! りゃう しん は-つて 今 

をして ゐ るので ある。 保吉 はやむ を 得す HF 辭に關 する 藝術的 良心 を拋擲 した。 , 

r 資&颖 1^ と 兄?^ に 友に です ね。 ぢ やどう にか こじつけ ませう。」 

文 ね: 

r 「どうか よろしくお 願 ひします。」 



たいさ わか わ r 一.. -ち ウ 「えんしつ かほ だ たれ ひと けうく わんし つ かへ じふい ちぐ わつ ひ ひか 

大佐に れた 保吉は 喫煙室へ 額 を 出さす に、 誰も 人の ゐな ぃ敎宵 室へ 51 つた。 十一月の 口の 光 

ちゃう どま ど みぎ やすきち つく.^ 一 て かれ まへ こし いっぽん ひ 

り は 丁度 窓 を 右に した 保 吉の机 を 照らして ゐる。 彼 は その 前へ 腰をおろし、 一本の バットへ 火 を 

うつ てう じ こんにち ふた つく さいしょ 一」 -リじ まう ちゃうえん しげの せ うん 

移した。 !^^辭はもぅ今日までにニっばかり作ってゐる" 最初の 辭は育 腸炎に なった umli 野 少尉の 

た: パ か たう じ がく かう き かれ しげ せ:.,' ゐ い ひと かほ 

爲に 書いた ものだった。 當時學 校へ 來 たばかり. の 彼 は 重 野 少尉と はどう 云 ふ 人 か、 額 さへ はっき 

き お,、 て-つじ しょ ぢ よさ,、 た せつ きょうみ も いうい う 

りした 記憶はなかった。 しかし 辭の 處女作 に は 多少の 興味 を 持つ て ゐ たか ら 、「悠悠た るかな、 

はくうん たうそう はっか ぶん ぶんしゃう さう つぎ . ふ りよ できし と & れ らたい 7.^ ため か 

白雲」などと」^5宋八家文じみた文章を草した。 その 次の は 不慮の 溺死 を 遂げた 木 村 大尉の 爲に書 

& むらたい ゐ ひと まいにちお な ひ しょち がく かう しょざいち き しゃ わつ ふく 

いた ものだった。 これ も 木 村 大尉 その 人と は 毎日 同じ 避暑地 からこの 學 校の 所在地へ 汽 率の 往役 

とも ため す なほ あいたう じ やう へう で き こんど ほんだ せり さ ただしよ くだう で 

を 共に して ゐた 爲、 素直に 哀悼の 情 を 表する ことが 出來 た。 が、 今度の 本 多少 佐 は 唯 食堂へ 出る 

たび は たかに かほ み VJ うじ つく きょうみ なに も 

度に、 禿げ 鷹に 似た 顏を 見かけた だけで ある。 のみなら す 「;? 辭を 作る ことに は 興味 も 何も 技って 

い げんざい ほり か はや ナきち ちう もん う さう ぎ しゃ なんぐ わつ なんにち なんじ りゅうとう ザ マつ くわ 

ゐ ない。 云 はば 現在の 堀川 保吉は 註文 を 受けた 葬儀社で ある。 何月 何日の 何時までに 龍^ や 造花 

もこい せいしん せいく わつ じ やう さう ぎ しゃ やす キ-ち く は 

を 持って 來 いと 云 はれた 精神 生 活 上の 葬儀社で ある。 —— 保吉は バット を啣 へた まま、 だんだ 

ん憂蠻 になり はじめた。 …… 

2 

9 vi ... りか. H けうく わ V? 

4. r 潘川, 敎 官。」 



す キヤ ゆめ つく ゑ そば た た た,: 二つ-つ ゐ みあ fc なか i フっゐ くちひげ みレか 

3 保 古 は 夢から さめた やうに、 机の 側に 立った 田 中中 尉 を 見上げた。 田 中中 尉 は" 髭の 短い、 ま 

9 

4 あご ふたへ あい キ- やう かほ もちぬし 

ろ まろと 顋の 二重に なった、 愛敬のある 額の 持主で ある。 

ま. -だ : ごう さ り れきしよ くわち やう いま ほり か はけう くわん わた い 

「これ は 本 多少 佐の:^ 歷書 ださう です。 科 長から 今 堀川 敎官 へお 渡しして くれと 云 ふこと でした 

から。」 

た なかち-つん つ: ゑ うへ けいし なんまい と だ やすきち こた う ぜん けいし 

田 巾 屮尉は 机の 上へ it 紙 を 何枚 も綴ぢ たの を 出した。 保吉は 「は あ」 と 答へ たぎり、 茫然と^ 紙 

め おと "いし じょにん ねんげつ こま かいしょ なら ただ リ れ y 一し よ 

へ 目 を 落した。 紙に は 叙任の 年月ば かり 細かい 楷書 を: a ベて ゐる。 これ は 唯の 颜歴 書で はない。 

ぶんくわん い ぶ /、わん い てんか くわん り いっしゃう あんじ しやう ちょう 

文官と 云 はす 武官と 云 はす、 あらゆる 天下の 官吏なる ものの 一 生 を 暗示す る 象徴で ある。 …… 

ひと ,ノ いが こと ズ かい ヒ やうよう ご 4J- 「せつ たか 

「それから 一 つ 伺 ひたい 言葉が あるので すが、 11 いや、 海上 用語 ぢ やありません。 小說 の屮に 

あった 首 葉なん です。」 

ナノ- 'ゐ だ かみ キ- なに よこ も じ ことば ひと あ を えんぴつ あと CM 

中尉の 出した 紙切れに は 何か橫 文字の 言葉が 一 つ、 靑紛 筆の 痕を殘 して ゐる。 Masochism 1 - 

やす. -i-";- おも かみき ほほ あか ^ぅゐ どうがん め うつ 

保 吉は思 はす 紙切れから、 い つも 頗に 赤み のさした 中尉の 童 額へ 目 を 移した。 

「これです か? この マソヒズムと 云 ふ …… 」 . 

r 「ええ、 どうも 普通の 英和 辭 書に は 出て 居らん やうに E わ ひます が。」 



やすきち う .A ほ いみせ つめい 

保吉は 浮かない 額 をした まま、 マソヒズム の 意味 を說 明した。 

「いや あ、 さう 1K ふこと です か!」 . 

た なかち ぅゐ あ ひか はらす は びせ うう いじ そく びせ うぐに ゐ いらだ 

田 中中 尉 は 不相變 晴れ ばれした 微笑を浮かべて ゐる。 かう 云 ふ 自足した 微笑 位、 せ屮 Z たしい;; I- 

二 ふ 二と げズ てい やすきち じつ グぃ かう ふく .1? っゐ かほ 卞 一ん-ご 

もち を 偏る もの はない。 殊に 現在の 保 吉は實 際 こ の 幸福な 中尉の 顔へ クラフト • 二,! ビ ング の 全; も. i 

-っ たた いう わく かん 

* を 叩きつ けて やりたい 誘惑 さへ 感じた。 

ことば き げん い ひと せっせつ うま 

「この 言葉の 起源に なった、 ええと、 マゾ フと云 ひました な。 その 人の 小 說は巧 いんです 

ゝ 一 

力?」 

こと ご と ぐ ざく 

「まあ、 悉く 愚作です ね。」 

い ひと と かくき ようみ ん かく 

「しかし マゾ フ と 云 ふ 人 は 兎に角 興味の ある 人格なん ですな?」 

い ばか なに せいふ こくば うけいく わく ししゃう は ご かね 

「マゾ フ です か? マゾ フ と 云 ふやつ は莫迴 です よ。 何しろ 政府 は國 防計畫 よりも 私^ 保護に 金 

だ ねっしん しゅち やう 

を 出せ と 熱心 に 主張した さう ですからね。」 

ぐし た な, f.. 二? つ r:^ やすきち かいはう もっと 二く ばう けいく わく Tf- 仁う ほ つ J 

マゾ フの愚 を 知った 田 中中 尉 はやつ と 保吉を 解放した。 尤も マゾ フは國 防計畫 よりも 私始 保護 

4 

9 おも へ はな は た ぶん こくば うけ * くわく さうた う ナぃ 1 +* ら 

4. を 重んじた かどう か、 その 邊は 甚だ はっきり しない。 多分 はや はり 國防 計畫 にも 相當の 敬意 を拂 



い らくてん.;' 4C う 7,! 4 めた ま へんたい いよく ,i V ば 

5 つて ゐた であらう。 しかし それ を さう 云 はなければ、 この 樂 天 家の 中尉の 頭に 變態 性慾の^ 迦莫 

9 

迦 しい 所以 を 刻みつ けて しま ふこと は 不可能 だからで ある。 …… 

やすきち ひ とり つち いつ y ん ひ しつない あゆ か れ 

保吉は 一人に なった 後、 もう 一本 バットに 火 をつ けながら、 ぶらぶら 室^ を 歩み はじめた。 彼 

ィ ギ リ ス -ご をし まへ か 上 ほ ほんしょく ナ: な ほん 

の 英吉利 語を敎 へて ゐる こと は 前に も 書いた 通りで ある。 が、 それ は 本職で はない" 少く とも 本 

しょ; しん かれ と かく V- ラ さく いっしゃう じ げふ おも げん けうし たい 

職と は 信じて ゐ ない。 彼 は に^ 創作 を 一生の 事業と m4 つて ゐる。 現に 敎: 帥に なつてから も、 大 

ていふた つき いっぺん みじか せう せつ はつ ぺぅ き ひと てん.^ ら けいち やうばん 

抵ー 一月に 一 篇づっ は 短い 小 說を發 表して 來た。 その 一 つ、 11 サン * クリストフの 傅 說を疫 -ぉ版 

い そ ぽ ものがたり ふう ちゃう ど はんぶん か なほ 二/ げっ ある ざっし の ^いげつ またお な 

の 伊せ 保 物語 風に 丁度 半分ば かり 書き直し たもの は 今月の 或雜 誌に 叔 せられて ゐる。 來 月は义 1:1: 

ざっし つ 二 はんぶん か こんげつ なぬか いげ っ^う し^.? び 

じ雜 誌に 殘 りの 半分 を 書かなければ ならぬ。 今月 ももう 七日と すると、 來月號 の 締切り 日 は —— 

てう じ か ^ あ ひ や けんかう べんき やう ぐわん らいし <M と こ ま れ で 

辭 など を 書いて ゐる 場合で はない。 晝夜八 矛、 行に 勉强 しても、 元來 仕事に. J 問の かかる 彼に は 出 

き あが V 一 もん やすきち いよいよ てう ヒ たい いま かん だ 

來上 るか どうか 疑問で ある。 保吉は 愈 吊 辭に對 する 忌い まし さ を 感じ 屮 いした。 

と キ-ぉ ほ はし AT どけい しづ じ, でに じ まん よう い し りん ご お 

この 時 大きい 柱時計の 靜 かに 十一 一時 半 を 報じた の は 云 はば 二 ュ ゥ トン の 足 もと へ 林擒の 落ちた 

おな やすきち げふ はじ さんじつ ぶん ま .^f ひだ てつ r 

の も 同じ ことで ある。 保吉の 授業の 始まる まで はもう 三十 分 待た なけれ ぱ ならぬ。 その 問に :书^ 

夂 

^3-1 か なに くる し 1*1 と あ ま Ji な かん 力 い も" と V,. んじっ 

f を 書いて しまへば、 何も 苦しい 仕事の 合 ひ 問に 「悲しい かな」 を考 へす とも 好い。 尤もた つた 一二 十 



ぶん 4 め ひだ し せいえい ご けいで い いう ほ, <だ せう さ つい たう た せう ニスなん ともな 3 : - 

分の 間に 资性颖 悟に して 兄弟に 友なる 本 多少 佐 を 追悼す るの は 多少の 困難 を 伴って ゐる が そ 

, こんなん 、きえき かみ かきの もと ひとまろ しも むしゃの こ うぢ さね あつ いた ご ん ほうふ ほこ 

んな 困難に 辟易す る やうで は、 上 は 柿 本人 麻呂 から 下 は 武者 小路 實 篤に 至る 語 の璺 t3 を 誇つ て 

ことごと からん ば やすきち おち ま つ,、 ゑ むか つぼ つつ はや 

ゐ たの も 悉く 空威張り になって しま ふ。 保吉は 忽ち 机に 向 ふと、 インク 壶へ ペン を 突 こむ が nr い 

か、 試驗 用紙の フ ウルス. カップへ ー氣に 吊辭を 書き はじめた C 

X X X X X X 

まんだ せう さ ざう しき ひ す こ か ね あ びより やす 今ち 

本 多少 佐の 葬式の 日 は 少しも 懸け 價 のない 秋日和だった。 保 吉はフ ロック • コ オトに シルク. 

?ふに さんにん ぶんくわん けうく わん さう れつ い 5 ち S カハ 

ハツ トを かぶり、 十二 三人の 文官 敎官と 葬列の あとに ついて 行った.」 その 巾に ふと 报り 返る と、 

かう ちゃう V- さ キーち ぅヒ やう はじ ぶく わん ふぢた たいさ ぶんくわん あはの けうく わん かれ 5 し ある 

校長の 佐 佐 木 中將を 始め、 武官で は 藤 田 大佐 だの、 文官で は 粟野 敎{„::! だの は 彼よりも 後ろに 步ぃ 

かれ お ほ きょうしゅく すぐう し ふぢた たいさ にき , ^しゃく 

てゐ る。 彼 は 大いに 恐縮した から、 直後ろ に ゐた藤 田 大佐へ 「どうかお 先へ」 と會釋 をした。 が 

ベ-、 H」 -- りう わら かう ちゃう +f な く ひげ みじか あは 

大佐 は 「いや」 と 云った ぎり、 妙に にゃにゃ 笑って ゐる。 すると校11^^と話してゐた、 口髭の 短い. 衆 

のナ うくわん び サぅ う じ やう だん まじめ きち ちう い 

野敎官 はや はり 微笑 を 浮かべながら、 常談 とも 眞 面目と もっかな いやう にかう 保士 "へ 注意 をした- 

0^ VW り,;;. H く や. ぐ C .d いしき かう ゐ かう くわん ざが キ-み たうて いふった こう 

4 「堀川^;::。 海軍の 禮式ぢ やね、 高位 高官の もの ほど あとに 下 るんだ から、 おは 到底 藤 出さん の 後 



/ 塵な どは拜 せないで すよ。」 

9 

^ わすき ち いちど きょうしゅく なるほど い み あいき やう た なかち ぅゐ 

保吉 はもう 一度 恐 縮した。 成程 さう 云 はれて 見れば、 あの 愛敬のある W 中中 尉な ど はすつ と 

まへ れつ く は やすきち そうそうお ほ また ちう ゐ そば あゆ よ ちう ゐ さう しき こく リ- 

前の 列に 加 はって ゐる。 保吉 は匆匆 大股に 中尉の 側へ 歩み寄った。 中尉 はけ ふ も 葬式より は 婚^ 

とも た きんきん わすき ち はな 

の 供に でも 立った やうに 欣欣と 保吉へ 話しかけた。 

「^い: 大氣 ですな あ。 …… あなた はャ 葬列に 加 はれたん です か?」 

「いや、 すっと 後ろに ゐ たんです。」 

やすきち てんまつ はな ちう ゐ もちろん V」 うしき ん げん きすつ おも ケぃ だ 

保吉 はさつ きの 顧 末 を 話した。 中尉 は 勿論 葬式の 威嚴を 傷け るかと m 心 ふ ほど 笑ひ屮 I した。 

「始めて です か、 葬式に 來られ たの は?」 

しげの せう ゐ とき き むらたい ゐ とき で き ± -ァ 

「いや、 重 野 少尉の 時に も、 木 村 大尉の 時に も 出て 來た笞 です。」 

い とき 

「さう 云 ふ 時には どうされ たです か?」 

もちろん かう ちゃう くわち やう 

「勿論 校長 や 科 長よりも すっと あとに ついて ゐ たんで せ う。」 

: 「そり やどう も、 —— 大將 格に なった 訣 ですな。」 

IJM さう れつ てら ちか ば ナゑ まち わすき ち ち うん はな Y'^K^. な で ひ. V パと 

2 葬列 はもう 寺に 近い 場末の 町に は ひって ゐる。 保 古 は屮 尉と 話しながら、 葬式 を 1:15- に 出たん ん 



め ;ノす まち ひとびと 二 ども とき むす 5 V.- う —き み ため vol き 

にも 目をやる こと を 忘れなかった。 この 町の 人人 は 子供の 時から 無 救の 葬式 を てゐ る爲、 葬式 

ひ よう み つも いじ やう ご-い C う しゃう げん なつ やす いちにち まへ すうがく をし キ; り V まけう くわん 

の 費用 を 見 積る ことに 異常の 才能 を 生じて ゐる。 現に 夏休みの 一 日 前に 數學 を敎 へる 桐山敎 {B の 

とう V- うれつ とほ とき あるい へ のきした たたす じんべ いひと らう じん しぶう ち は ひた ひ 

お父さんの 葬列の 通った 時に も、 或 家の 軒下に 佇んだ 甚平ー つの 老人な ど は 跪 圑扇を 額へ かざし 

じふ ご ろ? ん とむら い あいにく ^'& たれ 

たま ま、 「はは あ、 十五 圓の葬 ひだな」 と 云った。 け ふ も、 —11 け ふ は 生憎 あの 時の やうに 誰も そ 

ざい C う はつき お ほ もとけ う かんぬし ひとり かれ じ しん こ ども しら こ かたぐ る 化 < 

の 才能 を發 揮し ない。 が、 大本 敎の 神主が 一人、 彼 自身の 子供ら しい 白つ 子 を 肩車に して ゐたの 

こんにち おも だ きくわん やすきち まち ひとびと V うにき たん い ん: スぺん なか 

は 今日 ひ 出しても 奇觀 である。 保吉 はいつ かこの 町の 人人 を 「葬式」 とが 何とか 云 ふ 短篇の 中に 

書いて 見たい と 思ったり した。 

こんげつ なん 、 % しゃう にん い せう せつ か • 

「今月 は佝 とか ほろ 上人と 云 ふ小說 をお 書きです な。」 

あい V: う い た なかち ぅゐ した 

愛想 の 好い 田 中中 尉 はし つきり なしに 舌 を そよ がせて ゐる。 . 

ひひ やう で じじ よみ-つ リ ^ち- ご らん い 

「あの 批評が 出て ゐ ました ぜ。 けさの 時事、 . 1 - いや、 讀寶 でした。 後 ほど 御覽に 人れ ませう。 

外套の ポケットに は ひって ゐ ますから。」 

「いや、 それに はだび ません。」 

ひひ やう また ひひ やう か み おも 

「あなた は 批評 を やられん やうです な。 わたし は 又 批評 だけ は 誓い て 見た、,. と m4 つて ゐ るんで す。 



例へば シェ タス ピィァ の ハム レツ トで すね。 あの ハム レツ トの^ 格な ど は …… 」 

やすきち たち ま たいご てんか ひひ やう か じゅうまん ん.' ならす ぐう ぜケ 

保吉は 忽ち 大悟した。 天 下 に 批評家 の 充滿し てゐ るの は 必 しも 偶然 ではなかった ので あ る 。 

さう れつ てら もん てら うし まつばやし あ ひだ な うみ. み おろ 

葬 f^- はとうとう 寺の 門へ は ひった。 寺 は 後ろの 松林の 間に @- いだ 海 を 見下して ゐる。 ふだん は 

V だ かんせい いま もん なか V- うれつ V,- き た .IV: がく かう せいと ろづ わす 

定めし 閑靜 であらう。 が、 今 は 門の 巾 は 葬列の 先に 立って 來た學 校の 生徒に 槐 めら れてゐ る。 保 

^io く り げんくわん おたら くつ. S ひ あた い ながらう か たたみ あたら くわい うし や せ^._ 

吉 は庫裡 の玄關 にぎし い 二 ナ メルの 靴を脫 ぎ、 日當 りの 好い 長 廊下 を疊 ばかり 新しい 會葬 4 百 席へ 

とま 

? i つた。 

, 、わい ざう I ゃナき むか が は しんぞく ぶゾ そ こ ヒゃ うざ すわ でんだ せう さ とう 

八 13 葬 者 席 の 向う側 は 親族 席 になって ゐる。 其處 の 上座に 坐って ゐ るの は 木 多少 佐のお 父さん で 

は たか に かほ あたま しろ れいそく いっそうへ うかん つき 

あらう.」 やはり \1 ^几げ 鷹に 似た 額 はすつ かり 頭の 白いだ けに、 令息よりも 一層 標怦 である。 その 次 

すわ だい パ くせい もちろんお 七う と ちが さん J んめ いもうと きり やう よ す わす C 

に 坐って ゐる大 學生は 勿論 弟 に 違 ひ あるまい。 一一; 番目の は 妹に して は 器量の 好 過ぎる 娘さんで 

ある。 W 番目の は —— 兎に角 闪 番目 後の 人に はこれ と f^f ふ 特色 もなかった らしい。 こちら 測の 

くわい さう しゃせき かう ちゃ, つ すわ つぎ くわち やう すわ わす キエつ fcr や うど くわ もい う うし 

會葬^ 席に はま づ 校長が 坐って ゐる。 その 次に は 科 長が 坐って ゐる。 保士 I: は r 度科畏 のま 後ろ、 

くわい さう しゃせき に れつめ しり す い くわち やう かう ちゃう 

. 1 -會葬 者 席の 一 一列 目に ズボ ン の 尻 を 据スん る ことにした。 と 云っても 科 長 や 校長の やうに ちゃん 

ひざ そろ ようい しび キ- お ほ あぐら 

と 膝 を 揃 へたので はない。 容易に 痺れの 切れない やうに 大胡坐 を かいてし まった ので ある。 



どき £ ^う すぐ やすきち しんない あい しょし 5 う どき やう ぶい とう. i.. や-つな いし 

讀經は 直に はじまった C 保 吉は新 内 を 愛する やうに 諸 宗の讀 經をも 愛して ゐる" が、 東京 乃至 

とうき やう きん ざ: てら ふ かう どき やう うへ たいてい だ らく しめ む かし やん ぷ せん ざ わつ 

東京 近在の 寺 は 不幸に も 讀經の 上に さ へ 大抵 は 墮落を 示して ゐる らしい。 昔 は金峯 山の 藏王を は 

くまの ごんげん すみよし みやう じん だう みやう. VI ざ り どき やう き ほふりん じ に は ぶつ 

じめ、 熊 野の 權現、 住 吉の明 神な ども 道 命阿闍 梨の 讀經 を聽 きに 法 輪 寺の 庭へ^ まった さう であ 

い び めう おん ぶんめい と ^い とも えいきう ど いま 

る。 しかし さう 云 ふ 微妙 音 は アメリカ 文明の 渡來 と共に、 永久に 竊土を あとに してし まった。 今 

よ に, ~ しょけ もちろん 今; ん がんき やう ぢ ゆうしょく 二くて いけう くわしよ あんしょう だいば ぼん なに よ あ 

も 四 人の 所 化 は 勿論、 近眼鏡 を かけた 住職 は國定 教科書 を 諳誦す る やうに 提婆品 か 何 か を 讀み上 

げてゐ る。 

うち どき Jc- う き め く かう ちゃう さ さ きちう じ やう おもむ せう さ ねぐ わん まへ すす しろ りん 

その 中に 讀經の 切れ目へ 來 ると、 校長の 佐 佐 木 中將は 徐ろに 少佐の 寢 指の 前へ 進んだ。 白い 綸 

す お ほ くわん ちゃう どし ゆみ だん しゃう めん ほんだ う い > 、ち あんち また, わん まへ つくも S 

子に 蔽 はれた 棺は了 度 須彌堉 一 を 正面に して 本堂の 人り 口に 安 藍して ある。 その 乂 の 前の 机に は 

to うく b ほす 5 らふ そ >、 ほの, i なび な, A くんし やう はこ ^て かう ちゃう 乂 

造花の 蓮の 花の 仄めいたり、 蠟燭の 炎の 靡いたり する 巾に 勳 十の 箱な ども 飾って ある。 校-伎 は柁 

ちれ. - G ち だり て たづ さ お ほぼう しょ てう じ /、 て-つ ヒ もちろんに V- んに ちまへ ゃナ, ち 

にー禮 した 後、 左の 手に 携 へて ゐた大 奉書の HF 辭を 繰り ひろげた。 辭は 勿論 二三 日 前に 保い" の 

か ^ めいぶん めいぶん かくべつよ ところ しんけい むかし ふる か はと 

書いた 「名文」 である。 「名文」 は 格別 恥 づる所 はない。 そんな 神經 はとうの 昔、 古い 革 硬の やうに 

す へ ただ さっしき き げき なか か れじ しん てう じ t.. くし > い. -ひ; i わ, ノ、 ふ: ノ 

擦り減らされて ゐる。 唯 この 葬式の 喜劇の 中に 彼 自身 も 吊 辭の 作者と 云 ふ 一 役 を 振られて ゐるこ 

.§ い むし い じ じつ み 上 かく あま ! e くわい 

5 と は、 と云ふょりも寧ろさぅ云ふ事實をぁからさまに見せ っけられることは见に^?^餘り愉:^ 



おすきち つうす、 や o 公-きばら どうじ おも ひざう へめ ふ 

1 ではない。 保士 " は 校畏の .fe- 拂 ひと 同時に、 忍 はす 膝の 上へ 目を伏せて しまった。 



5 かう ちゃう しづ よ こ ゑ さ お そこ ほ とん ひつぜつ て-つ ゑつ あいせつ じ to- う 

校長 は靜 かに 讀み はじめた。 聲 はや ゃ錡び を帶 びた 底に 殆ど 筆舌 を 超越した 哀切の 情 を こもら 

たうて いた にん つく てう じ よ あ おも やすきち かう ちゃう 

せて ゐる。 到底 他人の 作った 辭を讀 み 上げて ゐる などと は 思 はれない。 保士 a は ひそかに 校長の 

俳優 的 才能に 敬服した。 木 堂 はもと より ひっそりして ゐる。 身動きさへ 滅多にす る もの はない。 

スゾ つち やう いよいよ ちんつう キ-み し いえい-ご けいてい いう よ とつ ぜ しん aj くせき た ri 

校長 は 愈 沈痛に 「^、 資性 颖悟 兄弟に 友に」 と讀 みつ づけた。 すると 突然 親族 席に 誰かく すくす 

笑 ひか I した ものが ある。 のみなら すその 笑ひ聲 はだんだ ん聲 高に なって 來る らしい。 保士" は. 2: 心. 

ふぢた たいさ かた ご . むか が は ひとびと ぶっしょく どうじ f しょがら しつ わら 

ぎょっとしながら、 藤 W 大: の 越しに 向う側の 人人 を 物色した。 と 時に 場所柄 を 失した 笑 ひ 

_ ご ゑ おも な _ ご ゑ はっけん 

,f^だと思 つ たも の は 泣き 聲だ つたこ とを發 見した。 

--ゑ ぬし いもうと きうし き そくはつ うつむ キ-ぬ はんけ ち かほ あ きり やうよ むすめ 

聲 の 主 は 妹で ある。 舊 式の 束髮を 俯向けた かげに 親の VJ 巾 を顏 に 當 て た 器量 好し の 娘さん で あ 

おとうと ぶこつ み だい ベン、 せい なみだ あ 

る。 それば かりで はない、 あ も —— 武: c:^ さう に 見えた 大學生 もや はり 淚を すすり 上げて ゐる。 と 

おも 。うじん はながみ だ はな やすきち 、 

m 心 ふと 老人 もし つきり なしに 鼻紙 を 出して はしめ やかに 鼻 を かみつ づけて ゐる。 保吉 はかう 云 ふ 

くわ ラ けい まへ なに おどろ かん かんかく な ひ げき さくしゃ まんぞく かん 

文 光景の 前に まづ. 何よりも 驚き を 感じた。 それから まんまと 看客 を 泣かせた 悲劇の 作者の 滿 足を感 

さい コ ヘリん かんじゃう はる お ほ なん い き どく 

^_ じた。 しかし 最後に 感じた もの は それらの 感情よりも 遙 かに 大きい、 何とも 一 K はれぬ 氣の毒 さで 



502 



たっと にんげん こころお く し し どろあし ト い き どく 

ある。 尊い 人 の 心の奥へ. 知らす 識らす 泥足 を 踏み入れた、 あやまる にも あやまれない 氣の さ 

やすきち き どく まへ いちじ かん わた さう しきちう はじ せ-つ ぜん あな ま さ ほんだ i. う? 

である。 保吉 はこの 1_ 米の 毒 さの 前に、 一 時間に 亙る 葬式 中、 始めて 悄然と .如 を 下げた。 本 多少: 

しんぞく しょくん い イギリス ご けうし そズ ざい し . ^つが やす キ-ち こころ 

の 親族 諸君 はかう 云 ふ 英吉利 語の 敎師 などの 存在 も 知らなかった のに 違 ひない。 しかし 保士 II の 心 

なか だう: b ふく き ひ 七 り しち はち ねん こんにち わう らい ひざ まづ 

の 中には 道化の 服 を 着た ラ ス コル 一一 コフが 一人、 七 八 年 たった今 日 も ぬかるみの 往來へ 跪いた ま 

ひら しょくん かう めん こ お-も 

ま、 平に 諸君の 高 免 を 請 ひたいと 思って ゐ るので ある。 ::: 

VJ うしき ひ く き しゃ お やすきち かいがん げしゅく かへ ため しつが き つに な 

葬式の あった 曰の 暮れが たで ある。 汽車 を 降りた 保吉は 海岸の 下宿へ 歸 る爲、 條垣 ばかり 連つ 

ひ しょち うらど ほ とほ せま わう らい くつ そ-一 ナ も. V 

た 避暑地の 裏通り を 通りかかった。 狹ぃ 往來は 靴の 底に しっとりと 砂 を しめらせて ゐる。 : おも も 

お だ かき なか むらが まつ-ま,.^ そら. やに か にな 

ういつ か 下り 出したら しい。 垣の 中に 簇 つた 松 は 疎らに 空 を 透かせながら、 かすかに 脂の 香 を 放 

やす,, V, ち あたま た ノ しづ とん ぢ やく うみ はう ある い 

つて ゐる。 保 吉は頭 を 垂れた まま、 さう 云 ふ 静か さに も 頓着せ す、 ぶらぶら 海の 方へ 步 いて I:;: つ 

た C 

彼 は 寺から 歸る 途中、 藤 田 大佐と 一 しょに なった。 すると 大佐 は 彼の 作った 辭の出 來榮ぇ を 

し うざん うへ きふえん ぎょくさい ひ こと. い か ほんだ せ-つ V; し い ひひ やう くだ 

賞 讚し た 上 、「急 焉 玉 碎す」 と 云 ふ 言葉 は 如何にも 本 多少 佐の 死に ふさ はしい などと 云 ふ 批評 を 下 



ノ しんぞく なみだ み やすきち よわ じふ ぶん そ -ー また;. -な き f 

3 した それだけ でも 親族の 淚を 見た 保吉を 弱らせる に は 十分で ある。 其 處へ又 li じ汽 1^ に F つり. - 

5 あ や, も た なかち ぅゐ やすきち せう せつ ひひ やう よみうり しんぶん げっぴ Jp う しめ f やう - 

愛敬 者の 田 中中 尉 は 保吉の 小說を 批評して ゐ る讀寶 新聞の I 月 許 を 示した。 , 月評 を 書いた の はま だ 

その 頃 文名 を馳 せて ゐた N 氏で ある。 N 氏 はさん ざん 罵倒した 後、 かう.^!^ に W め を して ゐた q 

. ^いぐん がく かう けうく わん よ ぎ ぜんぜん ぶんだん ふ ひつえう 

11 「海軍 X X 學 校敎官 の 餘技は 全然 文壇 に は 不必要で ある 」! 

半時 間 も かからす に 書いた m 辭は 意外の 感銘 を與 へて ゐる。 が、 ,幾, きも I 慰の!^ りに^ li をき 

、 せ.; つせ つ よ き かんめい じふ ぶん いち あた もちろん か し 二と, H > ^to, , 

ねた d 說は ひそかに 豫 期した 感銘の 十分の 一 も與 へて ゐ ない。 勿論 彼 は N 氏の 言 紫 を, y| 夭に 化す 

*j ゆ、 う も, げ ス ざい かれ じ しん ゐ ち ようい 、つ 1; つ ふ で ケ C7. 

る 餘裕を 持って ゐる。 しかし 現在の 彼 自身の 位 殺 は 容易に 一 笑に 付す る こと は 出家ない。 蛇 は ■ お 

じ. せいこう せう せつ み ごと ; つばい かれ じ しんみ み ニニ, -IK き き 

辭には 成功し、 小 說には 見事に 失敗した。 これ は 彼 自身の 身に なって 見れば、 心. i いまの する こ 

じ. r 二 1, つたり っノ ハダい かれ ため い かな き げき まく .;c ろ 

と は事實 である。 一 體 運命 は 彼の 爲 にいつ かう 云 ふ 悲しい 喜劇の 幕 を 下して くれる であらう?… 

や v^: ち そら み あ そら えだ は まつ なか ぜんどん ひ. f つき 一. P く 二う- o 

保吉 はふと 空 を 見上げた。 空に は 枝 を 張った 松の 中 にん 王 I; 光りの ない が ひ 「つ、 お, に はつ 

文 きりかかって ゐる。 彼 は その 月 を 眺めて ゐる うちに 小 M をしたい 氣 がし 出した。 だ J り は!!^ ひ 一と 

章 ぐない。 纏の は §i ひっそりした it の rf である。 1 は 越の i の? -へ ながと a 



しい 小便 をした。 

や う べん やすきち め まへ しのがき ぅ丄 、ひ, ノ ,-、, 

すると まだ 小便 をして ゐる うちに、 保吉の 目の前の 德ぉ 一はぎ いと 後ろ ヘリき あけられた せた 

とば かり M つて ゐ たもの は I 一 の やうに 出來た 木戶だ つ た の であらう。 そ の 义木尸 から 出て 來た の 

ス * ?、 ち- S ナ をと こ すきち と はう く せう へん で 1,^. し 

を がれば、 口 ^を 蓄,? た 男で ある。 保吉は 途方に 暮れた から、 小便 だけ はしつ づけた まま 屮-來 

る だけ ゆっくり 橫 向きに なった。 

- 一 ま 

「困ります な あ。」 . 

ほんやり かう 「ム つた。 何だか 當惑 そのものの 人間に なった やうな 聲 をして ゐる。 保い 一 "は, J' 

の 一 I を にした 時、 急に 小便 も 見えない ほ ど 日 の 暮れ てゐ るの を發 見した。 

(人:. in 上 一一 年 三月 > 



あ ゆき あが ご ぜん やすきち ぶつり け うくわん しつ い す ひ なが 

或る 雪上り の 午前だった。 保吉は 物理の 敎官 室の 椅子に スト ォヴの 火 を 眺めて ゐた。 スト ォヴ 

ひ いき き いろ も あが ぐろ くわい じん しづ 

の 火 は 息をする やうに、 とろとろと 黄色に 燃え 上ったり、 どす 黑ぃ灰 儘に 沈んだり した。 それ は 

しつない ただよ さむ たたか しょうこ やすきち ち きう そと う ちうて キ: かんれ:' V,- うざう 

窒內に 漂 ふ 寒さと 戰ひ つづけて ゐ る證據 だった。 保吉 はふと 地球の 外の 宇宙 的 塞 冷 を 想像し なが 

あか ねつ せきたん なに どうじ やう ちか かん 

ら、 赤 あかと 熱した 石炭に 何 か 同情に 近い もの を 感じた G 

まりか. H ,くん 

「堀 凡 君。」 

やす, IV 一ち まへ た みや もと い り がくし かほ み あ きんがん キ- やう みや もと 

保吉は スト ォヴの 前に 立った 宮 本と 云 ふ 理學士 の 額 を 見上げた。 近眼鏡 を かけた 宮本 はズボ ン 

て 3 くちひげ うす くちびる ひと ノ び せう うか 

の ポケットへ 手 を 入れた まま、 口髭の 薄い 替に 人の 好い 微笑 を 浮べて ゐた。 

ほり かはくん きみ をん な ぶつ たい い し 

「堀川 君。 君 は 女 も物體 だと 云 ふこと を 知って ゐ るかい?」 

どうぶつ い し 

「動物 だと 云 ふこと は 知って ゐ るが。」 

5 

C どうぶつ ぶったい ぼく く しん けっく わ さいきん はつ けん しんり 

5 「動物 ぢ やない。 物體 だよ。 11 こいつ は 僕 も 苦心の 結果、 最近 發 見した 3 具理 なんだ がね。」 



ほり. -" は みや, つと い $ じめ き 

7 「堀パ さん、 ^本さん の 云 ふこと など を眞 面目に 聞いて はいけ ません よに 

I. , ひとり. - 1^ つり- は 巧く わん は せ が は い リ がくし ことば やすきち かれ かへ 

これ はもう 一人の 物理の 敎官、 ——— 長 谷川と 云 ふ 理學士 の 言葉だった。 保 吉は彼 を ふり 返った。 

は: せ, が は や-」 つせ ち ぅ丄 つく ゑ し けん た ふあん しら ひた ひ よ あが かま ぢぅ s> うわ-、 .っナ わら 

長 谷川 は 保吉の 後ろの 机に 試験の 答案 を 調べ かけた なり、 額の 秀げ 上った 鶴 中に 當惑 さうな 蹄 笑 

ひ を 漲らせて ゐた。 

「こり や 怪しからん。 僕の 發見は 長 谷川 君 を 大いに 幸福に して ゐる 苦ぢ やない か? 11 堀川 t ;、 

きみ で / ね つ さ よう はふ そく し 

君 は傳熱 作用 の 法則 を 知つ てゐ るかい?」 

てん キ- ねつ なに 

「デ ン ネッ? 電氣の 熱 か 何 かかい?」 

「困るな あ、 文學者 は。」 

みや もと い あ ひだ ひけう つ くちい つよい せきたん V- ら 

宮本 はさう 云 ふ 間に も、 火の 氣の 映った スト ォヴの 口へ 1 杯の 石炭 を 俊 ひこんだ。 

を乂ど こと ふた ぶったい たが ひ せっしょく ねつ かう をん ど ぶったい 一」 ノ を.; > ど ぶった. 

r 溫度 の 異なる 二つの 物體を 互に 接觸 せしめる とだね、 熱 は 高溫度 の 物體 か ら使溫 度 の 物體 へ 、 

りゃうし や をん ど ひと まで * どう 

兩 者の 溫 度の 等しくなる 迄、 すっと 移動 をつ づけ るんだ。」 

寒 「當ゲ -前ぢ やない か、 そんな こと は?」 

さ でんねつ さ よう はふ そく い クて をん な ぶったい い を Z な ぶつ ヒ > 

「それ を傳熱 作用の 法則と 云 ふんだ よ。 扱 女 を物體 とする ね。 好い かい? もし 女 を物體 とすれ 



ば、 l^」iTii ま衡 n だら う。 すると は 親に 當る訣 だね。 今 この 男女 を接觸 せしめる と、 戀 愛の 

i はるの も羅の やうに、 いた P ら Li おて ゐな いお V 1, 謹 Qi しくな 

§ , どう ます は ..- が は-、 ん f あ ひ まべ」 、二-、 c - 

る あ、 すっと^ 動 をつ づける だら う。 長 谷川 君の 場合な ど は 正に さう だね …… 」 

「そ おら、 はじまった。」 

.H 1,1 がよ プレ つれ くすぐ とき に わら ご ゑ だ 

.ョズ ハ介凡 は 寧ろ 嬉し さう に、 操られる 時に 似た 笑 ひ聲を 中-した 

"ま めんせき とほ じ かんない うつ ね j> りゃう _ - i , ヽゝヽ I t 

「-尸 s なる 面積 を 通し、 T 時間: S: に 移る 埶ー量 を E とする ね。 すると 15 ん カレ? E は マ 3 成 

の "に まった Hi、 K は^ 質に より 一定され たる 熱 傅 だよ。 すると 長谷ル おの 

場合 はだね。 …; 」 . 

155; はれさい 聚 IV おぬらし いもの をき 曰き はじめた。 が、 i< 然, ふり 返る と、 さもが つかりした 

よく ぼく かす はふ だ 

やうに 白墨の 缺を拋 り 出した。 

「どうも 獻:^ の 滅^お を 械チぢ や、 抵^の li^ の SIfe も^ |j ない。 1^ に t 舻 谷川お の 許嫁な- 

る 人 は 公式 通りに のぼせ 出した やう だ。」 

,リ VI * こう" き よ なか よ ^どらく 

「li;gg さう. k ふ 公式が あり や、 世の中 は餘 っ程樂 にた るんだ が。」 



9 

o 

.5 



き 



ゃナ きち なが あし まど そと ゆきげ ,1 き なが ぶつ り ナ, < 'くわ >~ しつ -- か、 .1, み 

保, 百 は 長な がと 足 をのば し、 ぼんやり 窓の 外の 雪景色 を 眺めた。 この 物理の? 权官窒 は 二 I の, 

^^fc ) f.5、 t ぷ さ, T, ォ: r ふ, い , ハダ なみまつ またむ か も かれん 

に 5,nS つて ゐる爲 體操 器械の ある グラウンド や、 グラウンドの {!: うの 並 松 や、 その 又 向う の 赤 凍 

ぐ わ たても C ひとめ み わた よ- 「い うみ み た ごも C たても:' あ ひだ - り」, ぐ、:: なみ ナ.. ! 3 

瓦の 建物 を 一 目に 見渡す の も 容易だった。 海 も —— 海 は 建物と 建物との 間に 簿 暗い 波 を iji ら せて 

ゐた。 

か は ぶんがく T- や あが あ ひだ だ ほん う くち 

「その代りに 文 學者は 上ったり だぜ。 II どうだい、 この 問 屮:: した 本の資 れロ は?」. 

あ ひか ilf す う ヒソ、 しゃ どく,' や あ ひだ でんね: -V, 一 よう おこ とき よ --. - 

r 不相變 ちっとも 資れ ない ね。 作者と 讀 者との 間に は俾熱 作用 も 起らない やう だ。 . I . 時に 長ハ介 

::^^ はくん けっこん 

川 君の 結婚 はま だなん です か?」 

ひとつき よう くん- *• やう 

「ええ、 もう 一月ば かりにな つて ゐ るんで すが、. —— その 用 も いろいろ ある ものです か. し、 勉强 

の 出来ない のに 弱って ゐ ます。」 

べん 今-やう で き ま ど ほ 

r 勉强 も出來 ない ほど 待ち遠しい かね。」 

みや もと だいいちいへ も しゃくや よわ デ: 

「宮 本さん ぢゃ あるまい し, 第 一 家 を 持つ としても、 惜家 のない のに 弱って ゐ るんで す。 現に こ 

まへ にち えう し ち- リ ある み あ おも 

の 前の 日啦 などに は あらかた 市中 を步 いて 見ました。 けれども たまに 明いて ゐ たと 思 ふと、 ちゃ 

やくち やうす 

ん ともう 約定 濟み になって ゐ るんで すから ね。」 



ぽく はう まいに す、 が,、 かう かよ き しゃ つ 

「僕の 方ぢ やい けないで すか? 每日學 校へ 通 ふのに 汽車へ 乘る のさ へ かま はなければ c」 

よう ナこ とま へん しゃくや , , へん キ- ばつ 

「あなたの 方ぢゃ 少し 遠す ぎ るんで す。 あの 邊は 借家 も ある さう です ね、 (な. 2: は あの 邊を希 やし 

まりか は くつ こ 

てゐ るんで すが —— おや、 堀川さん。 靴が 焦げ やしません か?」 

xu^-lv, ち くつ ま どう ふ み か は こ しう き とも マ 人 

保 吉の靴 はいつ の 間に か スト ォヴの 胴に 觸れ てゐ たと 兌え、 革の 焦げる 臭ぐ 湫 と共に もやもや 水 

じょうき のば 

蒸氣を 再ら せて ゐた。 

きみ でんねつ さ よう 

「それ も 君、 やっぱり 傳熱 作用 だよ、」」 

みや もと めがね ぬぐ お ぼっか き.; -が乂 ひた ひ , や;!^. 4;- ち . :3 

宮本は 服 鏡 を 拭 ひながら、 覺 束ない 近眼の 額 ごしに にやり と 保 吉へ笑 ひかけ た- 

X X X X X X 

し つ) にち ち あ しもぐ も あさ やすきち キ- しゃ とら ため あ ひ f よす 

それから 四 五日た つた 後、 11 或る 霜 曇りの 朝だった。 保吉は 汽車 を捉 へる 爲、 成る 避:: ぶ 地の 

まち いっし to-- つけん め 一 いそ みち みぎ むぎばたけ ひだり き しゃ せんろ に けん > つ, つ-み 

町 は づれを 一 生^ 命に 急いで ゐた。 路の 右は麥 畑、 左 は 汽車の 線路の ある 一 一問ば かりの % だった" 

ひと こ ひとり むぎばたけ も C おとみ み S , で! S あ,^ だ クと , 

人っ子 一 人ゐ ない 麥畑 はかす かな 物 昔に 充ち滿 ちて ゐた それ は 誰か 麥 のに を 歩いて ゐる 音と し 

W おも じじつう かへ つち した しもばしら くづ .« ^と 

5 か 思 はれなかった、 しかし 事實は 打ち返された 土の 下に ある 霜柱のお のづ から 崩れる: t らし かつ 



n た。 

その 內に A 時の 上り^ は « い を is しながら、 g り ii^sf: めすに^ が:^ を;! りきし. こ。 

保 吉の捉 へ る 下り列車 はこれ よりも 半時 間遲ぃ f だった。 f は I ま を I." してが た。 しかし」 き!^ は 

どうした のか、 < ぎ 十五 分に なり かかって ゐた。 « はこの I 雜の械 Is を^^の^ だと た。 

「け ふは乘 り遲れ る^ K はない。」 11 そんな こと も: iig^ つたり した。 ^に^った だんだ 

い に えき か は だ やす 令-ち あさひ 、つ。, W /や まへ や, 7 ク 

ん 生垣に 變り 出した。 保吉は 「朝日」 を 1 つけ、 り も! において つべ」。 

ャき 丄ん :,^.^ し みち つまさき あが ふみ キ, で e : モ , - 

石炭殻な ど を 敷いた 路は 爪先 上りに 踏切りへ 出る、 ^ I l^dl へ: t ぎな しに^た 嚼 だつ ヒ。 お W 

は s:^- りの 兩 側に 人だかり のして ゐ るの を發兑 した。 i か だな とま》. If へ もした。 l^li^ ゆりの 

柵の 做に、 荷 をつ けた 自^車 を 止めて ゐ るの は;^ り! I ひの i ,の:^ ■ だった。 僻! J はま!; が を!: 

て うし こ ぞう かた たヒ 

つた 手に、 後ろから 小^の 肩 を 叩いた。 

「おい、 どうしたん だい?」 

「櫟 かれたん です。 今の 上りに 機 かれたん です。」 

さ ニヽ う はや,、 ち い うさぎ か は みみぶ くろ かま めう > > - .■■ P. 

..T 僧 は!^ 口に かう 云った。 鬼の 皮の. 耳 袋 をした 氧も 妙に 生き生きと^ W てゐ た。 



.「i が 機 かれたん だい?」 . 

「I ず, す。 S の 蒙の きかれ さう になった の を!^ ようと 思って 樣 かれたん です。 ほら、 

.? い 1 ま 5; つて I まが あるで せう? あすこの 女の子が 櫟 かれる 所 だつ たんです。」 

こ ども たす. 、 L , 

「その子 供 は 助かつ たんだね?」 . 

「ええ、 あすこに 泣いて ゐる のがさう です。」 ゆ, 

「あすこ」 とい ふの は i ずり の t う i にゐ る^かり だった。 義、 i に は 女の子が 一人、 巡 

ぎ I かま ねられて ゐた。 その i に は il- らしい, 議讓」 と, たりして ゐ た。. 1 り番は 

—霸は g ず あのき のまに g を かけた を if た。 それ は I を 感じさせる あ 時に 

を縱 じさせる の も KDS! だった。 j» の から は纖 Si にも 雨足の 靴 だけ 見える らしかった。 

rtk^ は あのが たちが 持って行つ たんです。」 1 

こちら罐のシグナルの|^|^^には議^<さ3、 ,い tf 1 んでゐ た。 黄い ろい 炎 を 

あげた 辦ガは 11;.^^ ぃ姆 たなかった e それだけに^!: にも i さう だった。 ヱ 夫の 一人 は その 焚メ 

は よん しり あぶ ,c 

5 に 半ズボンの 尻 を 炙 つ てゐん 



3 保吉は 踏切り を 通り越しに かかった。 は^ iffi- に い i、 も 慰 きりを 衡 ぎって ゐた。 

かれ せんろ 二 たび ふみき まん ひ きぐ, 5 . 

彼 は その 線路 を 越える 度に、 踏切り 番の蝶 かれた の は どの 紘路 だったら うと g ひ g ひした。 が、 

どの 線路 だつ たかは に 彼の 目に も 鳴ら かにな つた。 が はま だ のぎ^のお にづョ がまの!^ ぎ 

か, た、 5 かれ ほとんど はんしゃてき ふみきり わか がま め うつ .. . 

を 語って ゐた。 彼 は殆、 反射的に 踏切の 向う 慨へ目 を I した。 しかし それ はぎ g だった。 おやか 

ひか てつ おもて あか ^ + » 

に 光った 鐵の 面に どろり と 赤い ものの たまって ゐ る光氣 ^ は つ とま" に、 き やか - ) ぎ き つ 

いてし まった。 のみなら すその ュ,^ は 線路の P 一から S ノ つす とが "ii. さへ。 ら せて ゐた。 …… 

つ ""ん やすきち ていしゃ „H .5, もつ 

• T 分 の 後、 保 士ロは 停車場 の プラット フ ォォム に, 漆 着かない 柯み をつ づけて ゐ た。 の 媳!; 4 〔に 

み きみ わる くわう けい いつ 二-二ち こ rv.-,- 

がた 見た、 氣 味の 惡ぃ 光景に 一ば いだった。 殊に 血から ち^って ゐ るす Cii ははつ きり W につ 

いて ゐた。 彼の この間 話し合った 傳埶 P 职の こと をき I ひ!: した。 "血の!^ に ti つて ゐる^ 5 きの f£ 

みや もと をし はふ- 1 くど ほ . 'ちぶ 、ちりん ノ、 る 一, H ^ . 

宮 本の 敎 へた 法則 通り、 J 分 1 厘の 狂 ひもな しに 觀^ に^ ぼへ « はって ゐる。 その;^ 5^?rsQ 

、 I しょく じ けん ふみき ^ん ぢ うざ. -, H ぐ:" ;ぶ ± 

でも 好い、 職に 殉 じた 踏切り 番 でも 重 扉 犯人で も 同じ やうに やはり g 離に ぎ? はって ゐる。 ,i— さ 

うい ふ考へ の 意味の ない こと は 彼に も 勿論 わかって ゐた。 ^^.でも,^には1れなければならぬ、 

さ 節婦で も 火に は燒 かれる IS である。 ——^ はかう;^^!; に も^^^ を 蒙 しょうと した e , 



かし 2II の あたりに 見た 事 實は容 に その 論理 を 許さぬ ほど、 重苦しい 感銘 を殘 して ゐた。 

けれども プラッ トフ ォォム の 人人 は 彼の 氣 もちと は 沒交涉 に いづれ も、 幸福ら しい 額 をして ゐ 

た。 僻 IS は それに も 外 1^ だた しさ を 41 じた。 な ^中き # の將校 たちの 大聲に 何 か 話して ゐる のは^ 船 

一 g に 1^ & いだった。 « は: ¥ ^の ri -^」 に妒 をつ け、 プラット フ ォォム のおへ 歩いて 行った。 北ハ返 

は gi の n ヨ にあの i ずの f る つた。 ^りの if び M だかり も あらかた 八, は 散 

• . ヒだ ± しら した てつだう こうふ たきび いってん き ほ, の、 ほ .i^,- ゝ \ r 3- :U . 

じたら しかった。 ii、 シグナルの 柱の 下に は鐵道 工夫の 焚火が ー點, 黄い ろい 炎 を 動力して ゐズ. 

僻|^はその^|ぃ|?だに^^^^1^たものを靶じた。 が、 ^まり の^える こと はや はり 不安に 

ま "遙 ひ, よかった。 g は そちらに 背中 を 向ける と、 もう 一度 人 ごみの 中へ 歸り 出した し 力し まだ 

^1, と I かないう ちに、 ふと^ « のお^ を j とつ 艇 して ゐる こと を i^^ した。 お 魁 は卷煙 _ ^に 火 を 

つける i い おの^ば かりきい だの を & つて 歩いて ゐ たのだった。 彼 は 後ろ を ふり 返った。 すると 

: > . て うへ 二ろ ちゃう どむ ごん カ才 ,ノ 

は プラット フ ォォム の^に、 手のひら を 上に 轉 がって ゐた。 それ は 丁度 無言の まま、 ハ似を M 

びと めて ゐる やうだった。 

^ 僻 l^ii 概 りの のし 下た に、 たった ひ 一とっ^り^ された まか I」 の啊 i の-お ピカ i じた。 ど 同時に 澳ら爽 一い 



さ 



世界の 中に も、 いっか 溫ぃ 日の 光の ほそぼそ とさして 來る こと を 感じた- 



(大正 十三 年 glRO 



6 



/J: 



一 クリスマス 

さく Ir^ ご -ご i りか. Hto- すきち す だち やう かと しんぱし ゆき のり あ ひじ どうしゃ I .^^-: - 

is^ の クリスマスの ドサ 後、 爾^^ 吉は須 E 町の 角から 新橋 行の 乘合自 働 車に 乘 つた。 彼の 席た 

じ どうしゃ なか あ ひか は. i すみ うご で A: 1 ん ゐん、 「 > 、 、 -. ^.^^..^..^^ 

け はあった ものの、 自働 車の 中 は 不相變 身動きさへ 出 來ぬ滿 員で ある のみなら す おひ 後の: ヌ-が 

の £ー ゆ は 自働車 を 醸ら す こと も 一通りで はない。 保吉 はけ ふ も ふだんの 通り、 ポケットに 人れ て 

i ん S . か ぢナ >ゃ う こ どくしょ だん れん なか ほん 4J. 

ある 本 を 出した。 が、 鍛冶 町へ も來 ない うちにと うとう 讀書 だけ は斷 念した。 この 中で もオ を:,? W 

" ケ , -. -き おこ, K お, よ き せき かれ しょくげ ふ うつく ゑんく わう い A だ ,• 

まう と T ム ふの は %蹟 を 行ぶ のと 同じ ことで ある。 奇赜は 彼の 職業で はない。 美しい 圓光 をず いた 

れ とな グぅ せんす, つし もく どん き せき お 一-な 

^しの Kl^ の る ものの、 i いや、 ずの 隣り にゐる カトリック, 敎の宜 敎師は I 刚 に奇饋 をれ 

つて ゐる。 

ti^ii は i ごと も? もれた やうに 小さい 横文字の 本を讀 みつ づけて ゐる e 年 はもう 五十 を 越して 

8 c つ ち によと り かほ りか みじか ほ i ひ "り フ -ソ ン ス じん 

^ ゐ るので あらう、 の バンス : 不ェを かけた、 鋭の やうに 截の 赤い、 短い 顿 の ある 佛 人 



やすきち よこめ つか ほん の; V な, 

9 である。 保 吉は橫 目 を 使 ひながら、 ちょっと その 本 を^き こんだ、 Hssaisurles …… あと は 何 だ 

5 はんぜん ないよう と かく かみ き くわつ じ こま たうて いしん ぶん よ 

. か 判然し ない。 しかし 內容は 鬼 も 角 も、 紙の 黄ばんだ、 活字の 細かい、 到底 新聞 を讀む やうに は 

よ しろもの 

讀 めさう もない 代物で ある。 

やすきち せんけう し かる てきい かん くうさう ふ/ だ や. ほ 卞』、 仑 てんし 

■ 保吉 はこの 宣教師に 輕ぃ 敵意 を 感じた まま、 ぼんやり 签 想に 耽り 出した。 11 大勢の 小 天使 は 

^ん けうし どくしょ へ いあん まも もちろんい けうと じょうきゃく なか ひとり i- うて v? し み 

宣敎師 のま はりに 讀 書の 平安 を 護って ゐる。 勿論 異敎 徒た る乘 客の 中には 一 人 も 小 天使の 见 える 

ご ろくにん せう てんし つば ひろ 4^ うし うへ さかだ ^うがへ 

もの はゐ ない。 しかし 五六 人の 小 天使 は 鍔の 廣ぃ 帽子の 上に、 逆立ち をしたり {C 返り をしたり、 

きょくげい えん おも かた うへ め じろ お なら こ ろくにん じょ- T きゃく かほ み ま は 

いろいろの 曲藝を 演じて ゐる。 と 思 ふと 肩の 上へ 目白押しに 竝んだ 五六 人も乘 客の 額を见 廻し な 

てんこく じ やう だん い あ ひとり せう てんし みみ あな なか かほ だ い 

がら、 天 園の 常 談を云 ひ 合って ゐる。 おや、 一人の 小 天使 は 耳の 穴の 中から 額 を 出した。 さう 

はなばしら うへ ひとり とくい またが 

へ ば 鼻柱 の 上に も 一人、 得意 さう に。 ハンス • ネ H に 跨って ゐる。 …… 

じ どうしゃ と お ほ でん まち やう どうじ ヒょ うき やく さ/? よ にん 、ち ど じ どうしゃ お 

自働 車の 止まった の は 大傳馬 町で ある。 同時に 乘客は 三 人、 一度に 自働車 を 降り はじめた。 

せんけう し ほん ひて まど そと なが じょうきゃく お を は はや 

宜敎師 はいつ か 本 を 膝に、 きょろきょろ 窓の 外 を 眺めて ゐる。 すると 乘 客の 降り 終る が:: 十い か、 

じふい ちに せう;:' よ ひとり さき じ どうしゃ き たい 二う— よく やう ふ,/ そら:.. ろ ギ y つし ふ み だ 

> 十 一 二の 少女が 一 人、 まつ 先に 自働 車へ は ひって 來た。 褪紅色の 洋服に 本: 色の 精子 を 1: 彌陀 にか 

一二- めう なまい き , せ うぢよ せ うぢよ じ どうしゃ なか しんちう よしら 

ぶった、 妙に 生意氣 らしい 少女で ある。 少女 は自働 車の まん 屮 にある 3 具 鐘の 柱に つかまった まま、 



りゃうが. ぼ せき み あ ひに,、 パニ あ せき ひと 

兩 側の 席 を 見 ま はした。 が、 生憎 どちら 側に も i<-; いて ゐる席 は 一 つもない。 

ぢ やう 二 こ 

「ぉ壞 さん。 此處 へお かけなさい。」 

、 せんけう し ふと 二し おこ 二とば いか てい こころ はな - に ほん ご 

{IH 一 敎師は 太い 腰 を 起した。 言葉 は 如何にも 手に入った、 心 もち 鼻へ かかる 日本語で ある。 

「ありがたう。」 . . . 

せ うぢよ せんけう し い ちが やすきち とな こし また かほ 二 

少女 は 宣敎師 と 入れ違 ひに 保吉の 隣り へ 腰 を かけた。 その 又 「ありがたう」 も顏の やうに 小まレ 

よくやう と ゃナ きち おも かほ ゆ らい 二 ど-り - 一と せ うぢよ に サん わ/ザ- ん 

やくれ た 抑揚に 富んで ゐる。 保 吉は思 はす をし かめた。 由來 子供 は —— 殊に 少女 は 二 干 年 前の 

こんげつ こんにち う あか-ご しゃう じ やうむ く しん かれ けい 

今月 今日、 べッレ ヘムに 生まれた 赤兒の やうに 淸淨無 の ものと 信じられて ゐる。 しかし 彼の 經 

けん こ ども あくた う わに 二と ごと しん. *。- い ^ かい へん ま Z 

驗 によれば、 子供で も惡黨 のない 訣 ではない。 それ を 悉く 神聖が るの は 世界に 遍滿 した セン ティ 

メンタ リズムで ある。 

ぢゃぅ 

「お嬢さん はおい くつです か?」 

せんけう し び せう ふく め -V- うぢよ かほ のぞ せ うぢよ ひざ うへ けいと たま :ん 

宣敎師 は 微笑 を 含んだ 眼に 少女の 顏 を^き こんだ。 少女 はもう 膝の 上に 毛 絲の玉 を轉 がした な 

ひと あ にほんあ^う う n め ゆだん あ ? *-, つ V. ふ 

り、 さも 一 かど 編める やうに 二 本の 編み棒 を 動かして ゐる。 それが 眼 は油斷 なしに 編み 梓の 先 を 

^ お ほ とん こび お へんじ 

5 追 ひながら、 殆ど 媚を帶 びた 返事 をした。 



! 「あたし? あたし は來年 十二。」 

5 

「け ふ は どちら へ いらっしゃる のです か?」 

1 - . うちかへ ところ 

「け ふ? け ふ はもう 家へ 歸る 所な の。」 

じ し f- い もんだ ふ あ ひだ ぎんざ とほ はし ± し 、よ 

自働車 は 力う 一み ふ 問答の 問に 銀座の 通り を 走って ゐる。 走って ゐ ると ri4 ふより は 跳ねて ゐる i 

云 ふの かも 知れない。 丁度 昔 ガリ ラャの 湖に あらし を迎 へた クリストの ■ にもが、 する かと g ふ 

位で ある。 宣敎師 は 後ろへ ま はした 乎に の lASJ つかんだ まま、 1^1 又も^ 観 の IKIT へ の If 

い 頭 をぶ つけさう になった。 しかし I. 一身の 安危な ど は 上帝の 意志に 任せて あるの か、 やはり y. あ 

う せ うぢよ も スだふ 

を 浮かべながら、 少女との 問答 をつ づけて ゐる。 

「け ふ は 何日 だか 御存知で すか?」 

じふに ぐ わつ に じふ ご にち 

「卜 一 一月 一 一十 五日で せう。」 

1 - -、 じ, ふに ぺゎ つに. 丄 ふご 一にち, —ふに ぐ わつ に ドふ n に 力 な/. ひ ぢ やう ご ; て:.. 

ニスえ .I" 二月 二 1- 五日です。 卜 二月 二 卜 五日 は 何の 日です か? お嬢さん、 あなた は 御 :4Z;^ 一 じ 

> す 力?」 

年 や .tt」 ち,、 S せんけう し たく ナぅ でんだ う うつ . ちバ 

保吉 はもう 一度 顔をしかめた。 立 敎師は 巧みに クリスト 敎の傳 道へ 移る のに 1 ひない。 コ オラ 



ナ,, ■_ ナぅ でん, きう すん と ところ にんげんどうし そんに し ぺー 

ン とが ハに i を 執った マ ホメッ ト敎 の傳道 はま だし も劍を 執った 所に 人 問 同士の 尊敬な りおお おなり 

ナぅ でんだ う ぜんぜん あ ひて そんちょう あ、 たか , ^;は -f, は ば I ノ - - ^^^^^^^ ) 

を i し. てゐ る。 が、 クリスト 敎の傳 道 は 全然 相手 を 尊重し ない。 恰も 隣り に 店をリ したれ 服屋の 

1^ ぉを歡 へる やうに, 歸 U 嫩を& へる ので ある。 或は それでも 知らぬ 額 をす ると、 今度 は 外 M ぶ 

の ulim の!? りに ;^辦を, る こと を獬め るので ある。 に 少年 や 少女な どに 畫本ゃ 玩具 を與 へる 

ひそかに i# の"^ ビ 、へ lit しょうと する の は當然 犯罪と 呼ばれなければ ならぬ。 保 W 

の i りに ゐる M おも、 11 しかし 少女 は 不相變 編み ものの 乎 を 動かしながら、 落ち着き 拂 つた 返 

事 をした。 

「ええ、 それ は 知って ゐる わ。」 

「ではけ ふ は の 日です か? 御存知な らば 「ム つ て御覽 なさい。」 

せ うぢよ せんすう し ケま くろめ 力 め そ *^』 

少女 はやつ と 宣敎師 の 額 へ みづ みづし い 黑服 勝ち の 眼 を 注いだ 

「け ふ は あたしのお 誕生日。」 

や は, I はす!;: k よ を めた。 ¥ あはもう l^ik&y 目に^み ぼ ■ の^へ Si を やって ゐた。 しかし そ 

^ の 縦 はどう ふ もの か、 § にき 心った ほど 生意氣 ではない。 いや、 寧ろ 可愛い 屮に も智戀 の 光りの 



へん ャぅ を V- な おと .f ほ やすきち かれ じしん び せう はっけん 

3 遍 照した、 幼い マリアに も 劣らぬ 額で ある。 保吉 はいつ か 彼 自身の 微笑して ゐ るの を 發 見した。 

9- 

5 たんじ やうび 

「け ふ は あなたのお 誕生日!」 

せんけう し とつぜん わら だ フ ラ ン A じん わら やうす ちゃう どひと い とぎばなし なか お ほ をし」 こ なに 

宣敎師 は 突然 笑 ひ 出した。 この 佛蘭西 人の 笑 ふ 様子 は 丁度 人の 好い お 伽噺の 中の 大男 か 何 かの 

わら せ うぢよ こんど せんけう し かほ め あ .:^.- うぢよ 

笑 ふやう である。 少女 は 今度 はけ げん さう に 宣教師の 額へ 目を舉 げた。 これ は 少女ば かりで はな 

はな さき やすきち はじ りゃうが は だん ぢょ ヒ ようき やく たいてい せんけう し め ただ かれら め 

い。 鼻の 先に ゐる 保吉を 始め、 兩 側の 男女の 乘客は 大抵 宣敎師 へ 目 を あつめた。 唯 彼等の RI にあ 

ぎ わく かう き しん せんげう し こうせ う いみ りかい ほほ 

る もの は 疑惑で もなければ 好奇心で もない。 いづれ も 敎!; の 哄笑の 意味 を はっきり 理解した 顿 

笑みで ある。 . 

; T やつ いひう うへ たん. 1, やうび せ 

「お嬢さん。 あなた は 好い 日に お生まれなさい ましたね。 け ふ はこの 上 もない お 誕生日です。 *1 

か いぢう いは たんじ やうび いま おとな とき 

界 中のお 祝 ひする お 誕生日です。 あたた は 今に、 —— あなたの 大人に なった 時にはで すね、 あな 

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たはき. つ-と ::: 」 

ひ 一ら けうし ことば じ どうしゃ なか み ま は どうじ やすきち め あ せんけう し 

宣敎師 は 言葉に つかへ たま ま、 自働 車の 屮を 見廻した。 同時に 保 吉と服 を 合 はせ た。 敎師の 

め おく わら なみだ やすきち かう ふく み ねナ みいろ め なか 

トノ 眼 は バンス :不 ヱの 奥に 笑 ひ淚を かがやかせて ゐる。 保吉は その 幸 一 1 に滿 ちた 一:^ 色 の^の 巾に あ 

うつく かん せ うぢよ せ うぢよ せんけう し わら だ り, う >. 

^ ら ゆる クリス マ スの 美し さ を 感じた。 少女 は 11 少女 もやつ と宜敎 師の笑 ひ 出した 理. E にハゃ のつ 



いたので あらう、 八,' は 多少 拗ねた やうに わざと 足な ど をぶ らっかせ てゐ る。 

t 二 おく やさ か あ ぢ わう 

「あなた はきつ と 賢い 奥さんに —— 優しい